表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

12 早朝、剣を振る少女

 アンドレ兄さまに資料を貰い始めて約一カ月が経過して風の冷たさを感じるようになってきた十月のある日、俺は日が昇る前に机の上で目を覚ました。


 昨夜は兄さまに貰った資料を読みながら寝落ちしてしまったらしく、体中が痛い。俺は椅子から立ち上がり伸びをして、窓の外を観た。


 今日は休日であるため、このままベッドに入って寝てしまっても良いが、あと少しで日の出を迎えるこの時間に寝てしまっては、起きるのが昼になってしまうかもしれない。


 休日を寝て過ごすのも悪くないが、白熱電球のための魔法を開発する時間も惜しい。


 俺は自身の目を覚ます意味も込めて外を散歩することに決めた。肌寒くなってきたためハンガーに掛かっていた外套を手に取り、俺は自室を後にした。



 目的地もなく寮と学校の敷地内を歩いていると、魔法実習場が見えてきた。魔法の実習場とはいっても、土の運動場であり所々に魔法の的となる丸太などが設置されている開けた場所である。


 実習場に近づいていくと、人の気配を感じたので中を覗くとライラが一人、剣の素振りをしていた。


 彼女とは入学前に図書館で会話して以来、同じクラスであるにも関わらず一度も話していないため、かなり気まずい。


 俺は一度来た道を引き返して部屋に戻ろうとしたが、一度立ち止まってから思い直して実習場へ向けて歩みを進める。


 このまま何も行動をおこさなければ、ずっとライラとの溝は開いたままである。ここで話しかけて無視されても、特段今より仲が悪くなる訳ではないとポジティブに考えることにしたのである。


「おはよう、ライラ。こんな朝から剣の訓練とは精がでるね」


 俺は挨拶と共に無難な内容で話しかけた。


 ライラは素振りを停め、こちらを一瞥した後、挨拶を返してきた。


「......おはよう」


 どうやら完全に無視するつもりは無いようで、挨拶が返ってきた。


 ライラは握っていた剣を近くの丸太に立掛け、丸太の上に置いてあった革製の水稲とタオルを取り、こちらを向いた。


「何か私に用かあるの?」


 無視をすることはやめたらしいが、彼女のその言い方には若干の棘があった。


 特段の理由なく喋りかけたので用がある訳も無かったが、とりあえず図書館で彼女を怒らせてしまった件について謝罪することにした。


「図書館で怒らせてしまったことについて、謝りたかったんだ。俺の発言でライラを不快にさせてしまって申し訳ない。ごめんなさい」


 俺は頭を下げつつ、自分の発言でライラを不快にさせたことについて謝罪した。


 軍に入りたくないという発言について謝罪をしても良かったが、これについて『やっぱり貴族家の一員として軍に入って国を護るべきだと俺も思う』など表面的に謝ったとしても意味が無いと思ったからである。


 むしろ心にも無い謝罪を行ったとしても、見抜かれた上で余計に怒らせてしまいかねない。


「......私も悪かったわ。あの時はいきなり怒ってしまって、ごめんなさい」


 彼女にも図書館の件でいきなり怒ってしまったことへの負い目があったようである。


「いきなり怒ってしまったことは悪かったと思っているけれど、あの時私が言った発言について訂正するつもりは無いわ」


「俺も自分の発言について今のところ訂正するつもりは無いよ。でも、もっとお互いの考えをしっかり話し合って対話してみてもいいと思うんだ」


 俺とライラ、考え方はお互い相容れないかもしれないが、それでもきちんと対話をしてお互いの考え方を納得はできなくても理解はできるはずだ。


「いいわ。ちょうど朝の鍛錬が終わったところだし、あなたの対話に付き合ってあげる。私の意見は図書館で言った通りよ。

 貴族家の一員として生まれ、魔法に関する教育を受けたのであれば、その力を使って国を護る義務があると思うの。

 これはお父様の教えだけれど、今まで間違っていると思ったことは無いわ」


「確かに、貴族という恵まれた立場に生まれて魔法教育を受けた以上は、国のために何かを還元するべきだと思う。

 けれども、それが武力という形である必要は無いと思っているんだ」


「武力である必要が無い?よりにもよって攻撃しかできない雷魔法を授かった貴方がそれを言うの!?

 百歩譲ってあなたが地属性の魔法使いだったら、軍に入る以外の手段で国に貢献できたでしょうね」


 この世界の常識で言えば、ライラの主張は至極真っ当である。雷魔法使いがその能力を使って国に貢献したいのであれば、軍に入る以外の方法は無い。


「現状は確かにライラの言う通りだと思う。でも、俺は雷魔法にはもっと可能性があると思っているんだ。

 地属性や火属性の魔法のように、わかりやすく社会に貢献できる魔法ではないけれど、工夫次第で社会を変革させる力を持っていると思う。

 軍に入って国を護ることよりも、俺はその雷魔法の可能性を引き出すことに人生を捧げたい」


 かなり熱を込めて自分の意見を主張したのだが、ライラにはあまり響いていないようであった。


「あなたが雷魔法の可能性について語るのは自由だけど、具体性に欠けて説得力が無いわ」


 彼女の意見ももっともだ。電気という概念が浸透していないこの世界では、言葉だけで雷魔法の可能性を説明するのは困難である。


 そこで、俺は言葉でライラを説得するのを諦めて、実際に『雷魔法の持つ可能性』を観てもらう作戦に変更した。


「こればっかりは、実際にライラの目で観てもらわないと納得できないと思う。

 二カ月後、今取り組んでいる雷魔法を有効活用する仕組みが完成する予定だから、ライラにも観てもらいたい」


「......わかったわ。あなたが雷魔法を使って何をしようとしているのか皆目見当がつかないけれど、そこまで言うのであれば付き合ってあげるわ」


 ひとまず白熱電球の試作品を観てもらう約束を取り付けることには成功した。


 長期休み中のお披露目会の件も相まって、試作品の開発を失敗できない理由が増えてしまった。


「―――ところで、気になっていたんだけど、なんでこんな日も昇っていない時間から剣の素振りをしているの?」


「アントネッリ家では日課として毎日朝日が昇る前から剣を振るのが当たり前だったの。

 実戦では触媒が無かったり、詠唱をする暇が無い場合もあるから、最低限自分の実は守れるくらいの剣術を身に着けるのが目的ね」


 朝早く起きるのが苦手な俺は、アントネッリ家に転生しなくて良かったと心から思った。



 翌日、教室に到着すると黒板に何か貼り紙がしてあり、生徒がその前に集まって何やら談笑をしていた。


 その中にアルとディオの姿を見つけた俺は二人に近づいて何が書かれているのかを質問した。


「二人ともおはよう。みんな黒板の前に集まっているけど、何が書かれているんだい?」


「グラン、おはよう。野外研修のグループが発表されたから、皆で見ていたんだけど......」


 野外研修とは、王都近隣の森で二泊三日のキャンプを行う上級学校から貴族学校まで含めた王都の学校全体を巻き込んだイベントである。


 要は林間学校に近いが、上級学校の学生と共に低ランクの魔物が生息している森を散策するイベントなど、様々な催しが実施されるらしい。


 俺の質問に対するアル返答の歯切れの悪さが気になったが、貼り出されたグループ表を観て納得した。


 俺、アル、そしてディオの三人が同グループなのは良かったのだが、残りの一人がライラだったのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

評価やブックマークをしていただけると今後の執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ