11 情報格差社会
「はぁぁぁ―――」
セザール先生が教える魔法理論についての授業の最中、思わず大きな溜息を吐きながら机に突っ伏した。
白熱電球の開発計画を始動させた日から約一週間、俺は授業が終わり次第すぐに王立図書館へ通う日々を送っていた。
俺は最初の二日間で、雷魔法について記載がある書籍を手当たり次第に調べた。
結果分かったのは『雷魔法には相手を攻撃する魔法しかほぼ存在しない』ということだった。例外は激しい光と轟音で相手の視覚と聴覚を一時的に奪う《閃光》くらいである。
両親に送った手紙の返事も来たが、母さんから『攻撃性の雷魔法しか知らないので力になれない』回答をもらってしまった。
諦めずに俺は『低出力で長時間、安定して電流を流し続ける魔法』を自らの手で創作するために、オリジナルの魔法を作るヒントを求め、魔法関連の書籍をひたすら読み漁った。
魔法を創る方法が分かる書籍に出会えると期待していた訳ではないが、何か手掛かりになるような情報が記載された本ならば見つかると甘く考えていた。
結果は惨敗。魔法を創る手掛かりどころか、魔法の発動原理に関する考察が書かれた本すら置いていなかった。
どの本も、特定属性の魔法に関する歴史や魔法陣、触媒や詠唱を紹介するものばかりで、魔法の真髄に迫るような書籍が無いことから、俺はある種の気持ち悪さを感じていた。
おそらく意図して王立図書館にそうした魔法の重要部分について記述がある本を置いていないのだろう。
「―――グラン、そんなに俺の授業が退屈か?」
授業中であることを忘れて机に突っ伏しながら考えていた俺は、セザール先生の低く、威圧感のある声を聴き我に返った。
恐る恐る声が聞こえた左側に顔を上げると、満面の笑みを浮かべたセザール先生が腕を組んで立っていた。
「放課後、職員室に来い。魔法理論の面白さを存分に教えてやろう」
「―――はい」
セザール先生の威圧感で静まり返った教室の中、俺がうんざりした表情でそう答えた。
◇
職員室に到着した俺は、怒られるのを覚悟してセザール先生に声をかけた。俺に気付いたセザール先生は自分のデスクから立ち上がり、着いてくるよう俺に言った後、職員室を出た。
職員室でのお説教タイムを覚悟していた俺は一拍反応が遅れてしまい、慌ててセザール先生の後を追った。
セザール先生は階段を下りて4F端の空き教室に移動すると、セザール先生は教室の扉を閉めて、二脚の椅子を向かい合わせに置いた。
セザール先生はその椅子に座るよう促してきたので素直に座ると、向かいの椅子にセザール先生が座った。
「で、一体何に悩んでいるんだ?ここ数日、授業に身が入っていなかったようだが」
どうやらセザール先生はここ最近様子が変だった俺のことを心配して呼び出してくれたようだ。
素直に悩みを打ち明けて良いものかと考えていると、俺はセザール先生が魔法理論の先生で、かつ上級魔法学校を卒業していることを思い出した。
上級魔法学校を卒業しないと貴族学校を含め魔法学校の教員には就職できないためである。
「セザール先生は上級魔法学校を卒業したんですよね?卒業研究は何をされたんですか?」
長兄のアンドレ兄さま曰く、中級魔法学校までは座学が中心であるが、上級魔法学校では前世の大学のように実習やゼミ形式の授業が多いらしい。
また、卒業には魔法に関する研究成果の発表が義務付けられているそうだ。
「俺は魔法陣に関する研究をしていたな。それとお前の悩みに関係あるのか?」
セザール先生の返答に俺は一縷の希望を見出した。オリジナルの魔法を創るための手掛かりを持っているかもかもしれない。
俺はセザール先生に白熱電球を開発しようとしていることは伏せて、攻撃魔法以外の雷魔法を創りたいということを伝えた。
「自分でオリジナルの雷魔法を創りたいのです。現状調べた限り、雷魔法には相手を攻撃する魔法以外ほとんど見つからなかったので、社会に役立つ魔法を創って闘う以外にも雷魔法使いの居場所を作りたいと思っています」
「なるほど......オリジナルの雷魔法が創りたい、か......」
そう言ったセザール先生は難しい顔をして考え始めた。
俺に対して残酷な現実を突きつけるのに気が引けて言葉を選ぶのに時間がかかっているのだろうか。
「新たな魔法を自分で創る、というのは不可能なのでしょうか?」
「いや、結論から話すとオリジナルの魔法を創ることはできる。だが、上級魔法学校に進学してからでないとほぼ不可能だろう」
それは困る。上級魔法学校に進学を決める時期までに成果を出せていなければ、上級軍学校へ進学することになってしまう。
「自分のレベルだと上級魔法学校に進学しないと無理だということでしょうか?」
「いや、そうではない。実は新たな魔法を創るために必要な情報や資料というのは上級魔法学校か王立魔法研究所が独占しているのだ。
だから、新たな魔法を創りたければ上級魔法学校に進学して図書館にアクセスできるようにならないといけない」
なんとも絶望的な話してある。この国は魔法に関する情報規制が厳しいとは思っていたが、ここまでとは。
本当にごく一部の人間しか新たな魔法が開発できないような環境にすることで、新魔法によって得られる利益を一部の人間で独占できるようにしているのだろう。
「ま...まあ、あれだ。グランは現状成績が良いから中級魔法学校の推薦枠を使って上級魔法学校に入学するという方法もある」
「わかりました。諦めずに上級魔法学校を目指します。
教えていただきありがとうございました」
明らかに気落ちしてしまった俺に対してセザール先生はフォローを入れてくるが、俺は素直に先生のフォローを聞き入れるほど余裕が無かったので、椅子から立ち上がり教室を後にしようとした。
「待て。お前の悩みは分かったが、俺の授業を聴いていなかった件とは話が別だ。もう一度椅子に座りなさい」
「ハイ......」
授業を聴いていなかった件を有耶無耶にしようとしていたのは完全にお見通しだったようで、俺はこの後一時間にわたる説教を食らったのだった。
◇
セザール先生にこってり絞られた帰り道、俺は貴族学校の男子寮ではなく上級魔法学校の寮に来ていた。
長兄で雷魔法の開発について、上級魔法学校に通っているアンドレ兄さまに相談する為である。
俺は寮の管理人にアンドレ兄さまを呼び出してもらった。
「グラン、久しぶり!王都までの道で魔物に襲われたと聞いたときは冷や汗をかいたよ。
元気そうで安心した。今日はいきなりどうしたのだ?」
「お久しぶりです、アンドレ兄さま。兄さまもお元気そうで何よりです。
いきなりの訪問で申し訳ないのですが、実は魔法について相談したくて来ました。
兄さまの部屋にお邪魔しても大丈夫ですか?」
「ああ、もちろんだ」
俺たちは寮の3F南側に位置していたアンドレ兄さまの部屋まで移動した。
中に入って俺は早速本題に入り、自分で新しい雷魔法を創りたいということを伝えた。
「なるほどね。だから上級魔法学校まで俺にわざわざ相談しに来たのか。
申し訳ないけど、ここの図書館も王立図書館と同じで本の持ち出しはできないから、協力したいけど難しいかもしれない」
「そうですか......。残念ですが諦めるしかなさそうですね...。兄さまに規則を破って本を持ち出していただく訳にもいかないですし......」
「あ、でも複写なら枚数制限はあるけど許可されているよ。確か1日に羊皮紙10枚分くらいだったかな。
俺も魔法の開発について興味があるし、自分が勉強するためのメモの作成を兼ねて魔法の創作に関する書籍を複写してきても良いよ」
「本当ですか!?ありがとうございます、アンドレ兄さま!!」
やはり持つべきものは有能で優しい兄である。
アンドレ兄さまからの資料貰ったとしても、白熱電球用の魔法開発にどの程度時間が必要か分からないが、今は計画が一歩でも前進したことを素直に喜ぼう。
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