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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
虚鬼 ~うろがおに~
34/41

譚ノ二

 入れても、入れても足りない

 それでもモノが入っていく匣に歪んだ笑みを浮かべた

 最後に大切なモノを入れて匣を満たすにはまだ足りない

 もっと、もっと集めて満たしていかなければ




****




「うん、美味しいっ」


 飲んでいる。昼間から。

 七輪で焼いたシシャモを肴に、酒を。

 一方の志郎は口元を引きつらせながら目の前で一日飲んだくれている紫月を信じられないものを見たという表情で見ていた。

 なんて……なんて残念な美人なんだと。


「シロもいるかい?」

「だから誰がシロやねん。しかも未成年に酒勧めんなや」

「十五も二十もそんなに変わらないじゃないか。昔は十五なら成人だよ。”人”が作った法律は面倒だね」


 常識というものがないのだろうか。

 最近、成人は十八に変更されようとしているらしいが、それでも酒を飲む年齢ではない。

 シシャモなら喜んで食べるが、と志郎は箸を伸ばす。ちょうどよく焼けたシシャモを口に入れれば、焼けた魚の匂いと混じり皮はほどよくパリパリ、身とお腹に詰まった卵部分はほっこりとしている。

 預けられて一日しか経っていないが、紫月はどう考えても働いていない。

 掃除や洗濯をするわけでもなければ料理らしい料理もしていない。本人曰く、当然できるということらしいが本当かどうかは疑わしい。

 昨日は志郎の歓迎会と言って特上寿司を出前。朝は起きないから朝ご飯は適当に、と言われて翌日起きてみれば言った通りご飯すら炊いていない。冷蔵庫にあった作り置きのおかずや冷ご飯をレンジに入れて勝手に食べた。

 どう考えても生活ができないダメ女にしか見えない。

 晴明は何を考えて彼女の元に自分を預けたのかさっぱり分からない。

 どうやらこのシシャモがお昼ご飯になるらしい。仕方なく、残っていた冷ご飯をやはりレンジに入れて一緒に食べる。晩御飯は一体どうなるのか予想が出来なくて志郎は溜息をついた。

 紫月はシシャモを食べながらテレビのリモコンに手を伸ばした。そろそろニュースの時間らしい。


「そういや学校はどないしたらええの?」

「学校? あぁ、晴明から聞いてないからなぁ。晴明が帰って来てから聞いてみればいいよ。それまで休みでももらったと思えばいいじゃないか。何、学校の勉強なんてよほどの馬鹿でもなければすぐ追い付けるさ。それより社会勉強の方が大事だよ」


 簡単に言う。

 これも晴明から聞いていることだが、紫月は“人”でも“鬼”でもなく“鬼喰”と呼ばれる存在だとか。名の通り、鬼を喰らう者のことである。

そして長く生きているらしい。実際、どのくらい生きているのかは晴明も知らないらしいが、千年以上は生きているのではないかと。


「別に今すぐ行きたいわけじゃないだろう?」

「そらそうやけど……」

「無理に埋めようとしなくてもいいさ。長くも短い人生なんだから、時にはゆっくりしたまえ」


 何も言わない代わりに、志郎は最後の一匹であるシシャモを口に放り込み、テレビに目を向けた。

 速報がやっていた。

 殺人事件が起きたとアナウンサーが告げている。

 殺されたのは四ノ條で仕事をしている商ノ府在住の三十代の男性。一週間ほど前から失踪していると家族から警察に捜索願が出されていたのだが、先程、遺体で発見されたと。

 全身を滅多刺し。後に失血死したらしいとのことだ。奇妙なのは彼が死んだであろう時に周辺住民からの話では誰もうめき声や叫び声を聞いていないこと。詳しいことは現在、警察がこれから本格的な調査をして明らかにしていく方針であるらしい。

 志郎はちらりと紫月の様子を伺う。だが彼女は盃に口をつけながら


「おやおや。何とも物騒な事件じゃないか。まるで“鬼”の所業にも見えるよね」


 と口調は他人事であるのだが、その表情はまるで面白いと言わんばかり。

 そんな表情をする感覚が分からなくて、志郎は自分の食べたものを下げて洗う。

 今日も特にやることはない。

 一人で住んでいるには結構広い邸を今は一部屋一部屋見て回る気力もなくて、借りた部屋から窓の外を眺める。

 ちょうど、庭に面した部屋だ。

 目に映すだけで心には何も思い浮かばない。文字通り何も考えずに眺めているだけである。

 どれくらいそうしていたのかは覚えていないが、夕暮れになって志郎は居間を覗き込んでみたが、紫月の姿はなかった。

 七輪も机の上も片付けられていることから洗い物は自分でしたらしい。

 不意に、台所から美味しそうな匂いが漂ってきて台所を覗き込めば、紫月がいた。


「おや。もうお腹でも空いたのかい?」

「別に。そうやあらへんけど、何や料理できたんかいな」

「言っただろう。一通りのことはできるって」

「朝はいつまでも寝て昼間から飲んだくれてんの見たら、生活能力皆無のダメ女にしか思えへんわ」


 そう言えば彼女は、シロのくせに口が悪い、と口を尖らせて言い返す。

 母親も父親にも良い思い出のない志郎は不思議な感覚を覚えたまま、紫月の作った料理を居間に運ぶ。

 大人というものは汚いと思っていた。子供から理不尽に奪うものだと。

 宝箱に大切に仕舞いこんでいたものを勝手に暴いて捨てるものだと。

 会話はほとんどない。ただ昼間から同じニュースが繰り返し報道されている。くだらないバラエティを見るよりかはマシだが内容が内容だ。気持ちよくはない。

 見た目通り、美味しいご飯に舌鼓を打ちつつニュースの内容を極力、耳に入れないように志郎は食事をする。

 そんなアナウンサーの言葉を掻き消すように、ただ一言、紫月は呟いたのだ。


「ふふっ。さて、どんな“鬼”が関わっているのかな。それともただの“人”の所業か」


 どうなるか楽しみだね、という独り言に志郎は箸を止めて彼女を見た。

 本当に心の底から楽しそうな、子供が新しい玩具をこれから買ってもらえると期待しているかのような表情。

 言葉を返した方がいいのかどうかも分からずに食事を終わらせると、先にお風呂どうぞ、と声をかけられ有難く風呂を頂いたのであった。

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