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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
虚鬼 ~うろがおに~
35/41

譚ノ三

 あと、どれくらいで匣は一杯になるだろう

 失ったものを取り戻して埋めるためにはまだ足りない

 少しずつ匣を満たすのもいいけれど、早く満杯にもしたくて

 満たすための獲物を、今日も嗤って匣に閉じ込める




****




 その日は珍しく朝から紫月がいなかった。

 出掛けてくるね、と一筆、書き置きだけ。

 やはり志郎は何もする気になれなくて今日も庭を眺める。

 誰が整えているのかは知らないが、随分と几帳面に世話されているという感じがするのだ。どう考えても紫月が管理をしているようには見えない。

 名前まで知らないが庭には様々な草木花々が植えられている。


「この家来てまだ数日しかおらん人間に、家任せるっておかしいんとちゃうんかな」


 危機管理がないというか、他人を信頼しすぎというか。

 庭を散策してみよう。何となくそういう気になって、玄関から靴を持ってくると庭に降り立ってみた。

 庭の池にはそれなりの大きさに育った鯉が数匹、優雅に泳いでいる。

 ふと覚えのある匂いがあって庭を見回せば見たことのある木があった。金木犀だ。施設には毎年咲いている花だ。

 そういえばと思い出す。

 血は繋がっていないが妹分の好きな花も金木犀だったと。

彼女も自分と同じで家族に良い思い出はなかったからか施設の中では兄妹のような関係となっていた。

 花が咲いている一本を少し手折って施設の先生によく怒られていたものだ。

 あの施設で成人するまでいて、どうにか就職して、そんな人生を歩むとばかり思っていたが陰陽師だと言う晴明に出会って変わった。

 志郎には“鬼才”がある、と。“鬼才”とは一体何なのか。何も分からないまま、あれよあれよと晴明に引き取られる形となって、妹分と別れて、すぐに修行的なことをやらせるのかと思えばやれ本の整理やら邸の掃除やら。

 物思いに耽っていると、知らない声が耳に届いて志郎は我に返った。


「なんだ。またお嬢がどこぞで拾ってきたのか」


 振り向くと、男だった。黒髪をオールバックにし、渋い着物を着こなした強面の。

 まるでヤクザのような。


「……誰や」

「この家のもう一人の住人といった所だ。お嬢は知らない間に稀に“人”を拾ってくる。危機管理能力がないのか、まったく……。何かあってからでは遅いというのに」


 実際、志郎は拾われたわけでもなく預けられただけなのだが。


「お嬢って誰なん」

「お嬢はお嬢だ。……あぁ、紫月のことだ。まぁいい。いないということはまた、どこぞにでも飲みに行っているだろう」


 やれやれ、と肩を落とす彼は縁側から家の中へ入っていく。

 一体、誰なのか。

 紫月をお嬢と呼ぶ辺り“鬼喰”なのか。

 家の中に入っていった男はしばらくすると急須と茶飲みを持ってきた。


「飲むか?」


 一応、頷いて志郎は縁側に座る。


「そういえば名乗っていなかったな。俺は葛城 煉だ。何でも自分で出来るくせに不精なお嬢に代わってここの家の管理をしている」

「……空木 志郎や」

「……あぁ、晴明の弟子になったという。話には聞いていたがここにいるとはどういうことだ?」


 それは志郎自身が聞きたい。

 晴明が東ノ府に出張で預けられたと簡単に答えると煉はなるほど、と了解を示した。

何をどこまで誰から聞いているのかは知らないし、志郎は晴明に関して特に聞く気もなかった。


「おっさんも“人”やないのか?」

「あぁ。土蜘蛛だ」

「それ、伝説上の妖怪やん……。ていうか聞くねんけど“鬼才”って何なん?」


 顔は怖いが紫月に聞けばはぐらかされるかもしれないので、思い切って煉に聞いてみる。

茶を出すほどだ。警戒されていないだろうと踏んだ。


「そうだな……色々とあるが簡単に平たく言えば“人”とは違うモノを視たり感じたりする能力がある、とでもいった所だ」


 覚えがあった。

 幼い頃から“人”に視えないモノが視えていたと。

そのせいで両親から疎まれていたのだ。

口に出せば口汚く罵られた。

視えたから、何かいると言っただけなのに。


「とはいえ“人”は“人”だからな。ほんの少し、他と違っていた所で気にするな。少なくともレイキ会では“人”だからと見下げられることはあっても“人”と違う力があるから変だ、気持ちが悪い、等と口汚く罵るモノはいない」


 それは慰めなのだろうか。

 何も言葉を返さない志郎を横目に煉は晩御飯をどうするかと考え始めた。

紫月が今晩帰ってくるかどうかは不明だ。

 今の時代、携帯という便利なものがあるのだが、どうにも持つ気になれない。

 その日の夕食は志郎と煉と二人きりだった。

 紫月以上に口数の少ない彼との夕食はどちらかと言えば志郎にとっては心地が良かった。

彼女のように意味があるのかないのか分からない問答をするわけでもなければテレビを見るわけでもないらしく、煉は物静かな男だった。

 先にお風呂も頂き、志郎は部屋に戻る。

 妹分はどうしているだろう。

 一日何かをしていたわけではないが、何となく疲れていて、志郎はそのまま眠りについたのであった。

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