譚ノ七
「やはり最初から分かっていたのか」
「お嬢。昔からだが、相談もないのはどういう意向だ」
騒動の翌日。
ベッドで気持ちよく眠っている所に大河と煉の文句コラボレーションを食らった紫月は不機嫌に頬を膨らませる。
「だーかーら。最初から分かっていたわけじゃないよ。本当の本当に、二人を現場で見て気付いたんだから。そういう流れだったんだよ」
「どういう流れだ」
「お嬢。雑にもほどがある」
この神経質達め、と紫月は内心で毒づいた。
“鬼”に支配されつつあった朱雀一族の暁を救い、“鬼”に憑かれた“人”である烈司を“人”に戻したというのに。
「後はもう“人”の警察の役目だろう。今回、“人”は死んでいないんだからいいじゃないか。被害だって空き家ばかりで最後はレッシーの個人宅。焼け落ちる所か大河のお陰でボヤ程度。家族も無事。大河に十分、報酬は渡したし」
「だが納得いかない。“鬼”が“人ならざるモノ”に憑依するとはどういうことだ」
「そんなの、大河の方がよく知っているんじゃないのかい? 今回の件で暁は今後も暁隊で精進する。まぁ、しばらく出動禁止で給料なし。副隊長のレッシーも自分の家を放火して厳重注意でうやむや。迷惑をかけた“人”達に慰謝料を支払う。あり得ないくらいに甘い処分だし、あんなのが消防署に勤めていたなんてと非難轟々だけど、はい、終わり。それが“人”とレイキ会の下した判断なんだから」
それよりも、と紫月は頬を膨らませる。
「今回は実働したんだから、お酒ちょうだいよ。お酒!」
彼女の言い分に、煉と大河は目を合わせる。
言うことを聞くしかない。
確かに、彼女の言う通り実害はあったが“人”死には出ていないのだから。
「わぁい! お酒! ―――こら。そこの生真面目馬鹿二人」
「何だ?」
「お嬢。たまには反省をするべきだ」
出されたのは水。
出された肴はなし。
「“鬼”を喰べたんだからいいじゃないか! あの義理姉様だってご苦労って言ってたじゃない!」
「俺は帰る」
「あぁ。大河。ご苦労だった。悪いな。お嬢が」
「いや。ひとまず収入を得たからな」
紫月の文句も何のその。
大河は儀園神社へと帰っていった。
「ぷぅ……。何だい何だい」
「それよりお嬢。暁に憑いていたのは、本当に“鬼”だったのか?」
頬を膨らませ、仕方なく水を飲みながら紫月は煉に目を向ける。
そしてしばし考える。
確かに、“鬼”だった。
「そうだよ。ボクが喰べられたんだから“鬼”さ。“焔鬼”は今までの大火にも関わっているんだ。“鬼”は“鬼”でも、小さな“鬼”。それが集まると―――どんどん膨らみ大きくなっていく」
「暁は朱雀一族だ。そんな奴らでも“鬼”に負けるというのか?」
煉にはそれが意外だった。
“人ならざるモノ”にも、“鬼”になる可能性がある。
今までそんなことがあっただろうか。
「無きにしも非ずだよ。無いわけじゃない。“人”と“鬼”。“人ならざるモノ”と“鬼”。いずれも表裏一体さ。だって。ボク達にだって、感情があるんだから。喜びもある。怒りもある。哀しみもある。楽しみもある。そして、生きている」
だからこそ、棲みつかないわけがない。
「煉。生きている限り、“鬼”にならないなんてことはないと思うよ。ボクだってこれだけ“人ならざるモノ”として長く生きているけれど“鬼”になる可能性だってある。“人”が“鬼”となり、何の因果か“人ならざるモノ”となる。キミだって、そうだったじゃないか」
「―――……あぁ。お嬢に救われて、“人ならざるモノ”となったがな」
「それでも生きている。感情も残っている。長く生きているからこそ、割り切らないと。何度も言っている通り、ボクだって未来は見通せない。“鬼”かどうかも、実際にその“鬼”が微かにでもしっぽを見せてくれなければ、断定は出来ないのさ」
さて、と紫月は水を飲み干して煉に差し向ける。
「大河も帰ったことだし、お銚子の一本くらいは良いだろう?」
「やれやれ。お嬢の酒好きには困ったものだ。お嬢は“酒鬼”だな」
煉の物言いに、紫月は笑う。
今回の“鬼”も楽しみがあった。
まさか“人ならざるモノ”に“鬼”が憑いていて、“人”に憑いた“鬼”と同じだったとは。
「今度はどんな“鬼”が出るのかな……」
この世界は本当に飽きない。
そうして煉が持ってきたお銚子を傾け、お猪口から一気に一口飲み干すのであった。




