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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
焔鬼 ~ほむらおに~
32/41

譚ノ七

「やはり最初から分かっていたのか」

「お嬢。昔からだが、相談もないのはどういう意向だ」


 騒動の翌日。

 ベッドで気持ちよく眠っている所に大河と煉の文句コラボレーションを食らった紫月は不機嫌に頬を膨らませる。


「だーかーら。最初から分かっていたわけじゃないよ。本当の本当に、二人を現場で見て気付いたんだから。そういう流れだったんだよ」

「どういう流れだ」

「お嬢。雑にもほどがある」


 この神経質達め、と紫月は内心で毒づいた。

 “鬼”に支配されつつあった朱雀一族の暁を救い、“鬼”に憑かれた“人”である烈司を“人”に戻したというのに。


「後はもう“人”の警察の役目だろう。今回、“人”は死んでいないんだからいいじゃないか。被害だって空き家ばかりで最後はレッシーの個人宅。焼け落ちる所か大河のお陰でボヤ程度。家族も無事。大河に十分、報酬は渡したし」

「だが納得いかない。“鬼”が“人ならざるモノ”に憑依するとはどういうことだ」

「そんなの、大河の方がよく知っているんじゃないのかい? 今回の件で暁は今後も暁隊で精進する。まぁ、しばらく出動禁止で給料なし。副隊長のレッシーも自分の家を放火して厳重注意でうやむや。迷惑をかけた“人”達に慰謝料を支払う。あり得ないくらいに甘い処分だし、あんなのが消防署に勤めていたなんてと非難轟々だけど、はい、終わり。それが“人”とレイキ会の下した判断なんだから」


 それよりも、と紫月は頬を膨らませる。


「今回は実働したんだから、お酒ちょうだいよ。お酒!」


 彼女の言い分に、煉と大河は目を合わせる。

 言うことを聞くしかない。

 確かに、彼女の言う通り実害はあったが“人”死には出ていないのだから。


「わぁい! お酒! ―――こら。そこの生真面目馬鹿二人」

「何だ?」

「お嬢。たまには反省をするべきだ」


 出されたのは水。

 出された肴はなし。


「“鬼”を喰べたんだからいいじゃないか! あの義理姉様だってご苦労って言ってたじゃない!」

「俺は帰る」

「あぁ。大河。ご苦労だった。悪いな。お嬢が」

「いや。ひとまず収入を得たからな」


 紫月の文句も何のその。

 大河は儀園神社へと帰っていった。


「ぷぅ……。何だい何だい」

「それよりお嬢。暁に憑いていたのは、本当に“鬼”だったのか?」


 頬を膨らませ、仕方なく水を飲みながら紫月は煉に目を向ける。

 そしてしばし考える。

 確かに、“鬼”だった。


「そうだよ。ボクが喰べられたんだから“鬼”さ。“焔鬼”は今までの大火にも関わっているんだ。“鬼”は“鬼”でも、小さな“鬼”。それが集まると―――どんどん膨らみ大きくなっていく」

「暁は朱雀一族だ。そんな奴らでも“鬼”に負けるというのか?」


 煉にはそれが意外だった。

 “人ならざるモノ”にも、“鬼”になる可能性がある。

 今までそんなことがあっただろうか。


「無きにしも非ずだよ。無いわけじゃない。“人”と“鬼”。“人ならざるモノ”と“鬼”。いずれも表裏一体さ。だって。ボク達にだって、感情があるんだから。喜びもある。怒りもある。哀しみもある。楽しみもある。そして、生きている」


 だからこそ、棲みつかないわけがない。


「煉。生きている限り、“鬼”にならないなんてことはないと思うよ。ボクだってこれだけ“人ならざるモノ”として長く生きているけれど“鬼”になる可能性だってある。“人”が“鬼”となり、何の因果か“人ならざるモノ”となる。キミだって、そうだったじゃないか」

「―――……あぁ。お嬢に救われて、“人ならざるモノ”となったがな」

「それでも生きている。感情も残っている。長く生きているからこそ、割り切らないと。何度も言っている通り、ボクだって未来は見通せない。“鬼”かどうかも、実際にその“鬼”が微かにでもしっぽを見せてくれなければ、断定は出来ないのさ」


 さて、と紫月は水を飲み干して煉に差し向ける。


「大河も帰ったことだし、お銚子の一本くらいは良いだろう?」

「やれやれ。お嬢の酒好きには困ったものだ。お嬢は“酒鬼”だな」


 煉の物言いに、紫月は笑う。

 今回の“鬼”も楽しみがあった。

 まさか“人ならざるモノ”に“鬼”が憑いていて、“人”に憑いた“鬼”と同じだったとは。


「今度はどんな“鬼”が出るのかな……」


 この世界は本当に飽きない。

 そうして煉が持ってきたお銚子を傾け、お猪口から一気に一口飲み干すのであった。

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