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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
焔鬼 ~ほむらおに~
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譚ノ六

「ねぇ。そうだよね? “焔鬼ほむらおに”」


 いや、と表札をなぞる。

 その表札には赤穂、と刻まれている。


「レッシーさん。いや、赤穂 烈司さん」


 それから―――と紫月は続ける。


「暁隊―――朱神 暁」

「なんだ。紫月サン。分かってたのかよ」

「今ここに来た空気でね。さて“鬼”はどちらかな? “鬼”ごっこは終わり。キミは……いや」


 煉と大河の視線も何のその。

 紫月は玄関に並んで立つ烈司と暁の前に堂々と立つ。


「なるほど。今宵の“鬼”は、“人”に憑いた“鬼”。それから、“人ならざるモノ”に憑いた“鬼”か。珍しいことも、あったもんだね」

「馬鹿な……! 暁は“人ならざるモノ”の中でも朱雀一族の一員だ。“鬼”が憑くはずがない……!」


 大河は紫月に言う。

 彼の意見には煉も同感だ。

 四方を守る聖獣の一員はそれなりの霊力持っている。たとえ直系でなくても、だ。


「そこに在るんだから、仕方がないんじゃない? “鬼”は“鬼”なんだから」


 いつでも腰に収めている短刀を抜けるように、紫月は手を添える。


「どちらが先の“鬼”かは知らないけれど。“鬼”を喰らうのが“鬼喰”だしね。キミ達だろう? 今までの火事は。まぁ、“人”である烈司さんが空き家に火を放ち、“人ならざるモノ”である暁の“鬼”が眷属を操って周辺の火を押さえて“人”を救った。そんな所だろう」

「分かってるねー。さっすが紫月サン。けれども一つ残念だな。俺が先の“鬼”。“人”であるレッシーに囁いたのが俺。レッシーに火を放ってもらって美味しい所を掻っ攫う。それが俺。暁っていう訳」


 烈司は表情を変えることなく、自宅に火をつけた。

 少しずつ、少しずつ―――そして大きくなる焔。

 まだこの家には烈司の家族がいるというのに、眉一つ動かさずに火を放った。


「っ、おい!」

「大河。キミの出番だ。何、出来ないとは言わさないよ。水の眷属」

「初めから分かっていたなら、そう言え! 性質が悪い!」


 大河はいつでも腰に挿げている刀を抜き、水を纏う。

 うっすら纏う水は水の龍となりその大きさを変えた。


「お嬢!」

「煉。義理姉様に報告を。後はボクと大河に任せたまえ」


 家を包もうとする焔。

 “鬼”が憑いた暁が操っているらしく通常の火では収まらない。


「お前っ!」

「何百年も考えて来た。火事がねーと、つまらねーんだよ。火事がねーと、役目もねぇ。こういう枯れた日は、火が綺麗に燃えるんだよ。んで、住人救えば一躍ヒーロー。たまんねーんだよ。烈司も、そういう奴だ。だから、“鬼”が考えた。火をつけて、消しゃヒーローってな。自作自演が滑稽だけどよ」


 家を包む火の粉が、手を差し伸べた暁の手に移り、それはやがて刀となる。


「紫月サン。一回くらい、炎に焼かれてみたらどうだ? その澄ました面、苦悶に歪めてみてー」

「おや。怖い怖い。残念ながら、その経験は不要だよ。さて、大河」

「何だ」

「龍神の水を、頭からぶっかけて頭を冷やしてやりなよ。後は正気に戻った後、義理姉様が京ノ都タワーのてっぺんから釘バッドで叩き落してくれるから」


 暁の炎を纏った刀を受け止めたのは、紫月―――ではなく、水の刀を持つ大河だった。


「遠慮なく、やらせてもらう。せっかくのストレス発散だからな」

「存分にやりたまえ」


 さぁ、と紫月は烈司に笑いかける。


「キミの“鬼”はどんな味がするんだろうね」

「―――腹を壊しても良いのなら。存分に」

「あははっ。腹下しが怖くて、“鬼喰”は出来ないよ」


 さぁ、と紫月は即座に烈司と距離を詰めて差し出した掌に息を吹きかける。

 瞬間に黒い蝶が舞い踊った。夜闇を幾千もの蝶が埋め尽くす。


「っ、俺はっ―――」

「遅い」


 大河の纏う水の龍は大きさをさらに変えて家を覆いつくす炎を飲み込んで鎮火する。


「朱雀一門の暁。“鬼”が憑いたお前は、俺には勝てん」

「このくらいの水!」


 炎の龍は諸共、大河が繰り出した水の龍に飲まれて消える。

暁を追い詰めるのなら―――だが、大河は彼女の気配を感じて咄嗟に後ろへと飛び退いた。

 暁と大河の間に入って来た紫月が、腰の短刀を抜いて暁の手にある炎を纏った刀を弾き上げる。


「っ!」


 赤と黒の着物。

 ゆったりとした動作で黒に映える白い肌が、掌が、彼女の優艶たる唇からの一吹きで黒の蝶に染まる。


「ごちそうさま。“焔鬼ほむらおに”達」


 高すぎず、低すぎない紫月の声を最後に、暁と烈司の視界、意識が、黒に塗り潰された。

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