譚ノ五
さらに美しさを求めて
さらに激しさを求めて
燃えよ、焼き尽くせ
全ては浄化の炎―――
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暁が帰ってしばらくしてから大河は口を開いた。
「おい。本当に帰らせて良かったのか?」
「気になるかい? 大河」
酒を飲みつつ、煉の作った酒の肴である大根やキュウリ、大葉などのキムチをつつきながら紫月は大河に問う。
別に大河は暁のことを気にしているわけではない。
「別に気にしてはいない」
このキムチ、美味しい……などと考えながら大河もつつく。
「これはどこで買ったキムチだ?」
「俺の手作りだ」
煉の手作り……通りで手に入らないわけだ、と大河は再びキムチを味わう。
甘く、そしてピリッと辛く、深みのある味。
不意に飲んでいた酒を置いて紫月は立ち上がった。
「お嬢?」
「そろそろ“人”か“鬼”か判断出来る頃合いかもしれない。大河、煉。お散歩でも行こうか」
珍しいこともあったものだ。
今回は何だかんだと彼女は出掛けている。
「唐突だな。お嬢。いや、いつもか……それに頃合いとは?」
「一体、何を言っているんだ?」
「さぁ。何だろうね。―――今宵はきっと綺麗だろうな」
彼女の言葉に、大河、そして煉は顔を見合わせる。
まるで火事が起こることを予測しているような口ぶり。
「だが今回“鬼”についてはまだ分からないのではなかったのか?」
「うん。分からない。だからこそ、だよ。“鬼”か“人”か“人ならざるモノ”か。はてさて、楽しくなりそうだよ。“鬼”ならボクが“鬼”を喰らえばいいさ。“人”なら“人”に任せればいい」
分からないって楽しいよね、と紫月は出掛ける準備をして玄関に向かう。
当然、煉もついていき、今回の件で呼び出された大河も、結果が気になる為ついていく。
「分からないが、楽しいのか?」
「そうだよ。煉」
分からないのは楽しい。
何せ、分からないのだから分かろうとしたくなる。
それは“人”も“鬼”も“人ならざるモノ”も変わらない、と紫月は言葉を続ける。
「理解したい。理解したくない。受け入れたい。受け入れたくない。その二律背反の隙間に“鬼”が棲み、“人”はふとした瞬間に“鬼”となる。理解出来るようで理解出来ない。ほら、もう面白い」
一体、どこへ向かうのか。
紫月は気の赴くまま歩を進めているようにしか思えないのに、その足取りに一切の迷いはない。
始めから向かう先を決めているような感じだ。
「ん……? お嬢」
「おい。この先―――」
煉と大河の言葉も気に留めず、紫月はさらに先へ進む。
凍るほどの寒さではないが冷たい月が見降ろしている。
赤と黒を基調とした着物をひらりと風に踊らせて、濃度を増していく闇の中に溶けてしまいそうだ。
「さぁ、行こう。煉。大河」
くるりと振り返る様さえ、優雅。
暗闇に、白い肌と赤い半襟、赤い帯だけが目立つ。
長い黒髪も、黒の着物もまるで闇に溶けてしまったかのようだ。
二人に手を差し伸べる様は蝶が二人を誘うかのよう。
形の良い口元に三日月形の笑みを浮かべて。
「暗夜に灯火を失うのは、“人”も“鬼”も“人ならざるモノ”も一緒。川向こうの火事も。けれども―――」
向かった先は一軒の家。
紫月はそっと表札に触れる。
「秋葉山から火事なんて、笑えないよね」
ねぇ、と紫月は視線を玄関に向ける。
「そうだよね? “焔鬼”」




