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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
焔鬼 ~ほむらおに~
30/41

譚ノ五

 さらに美しさを求めて

 さらに激しさを求めて

 燃えよ、焼き尽くせ

 全ては浄化の炎―――




****




 暁が帰ってしばらくしてから大河は口を開いた。


「おい。本当に帰らせて良かったのか?」

「気になるかい? 大河」


 酒を飲みつつ、煉の作った酒の肴である大根やキュウリ、大葉などのキムチをつつきながら紫月は大河に問う。

 別に大河は暁のことを気にしているわけではない。


「別に気にしてはいない」


 このキムチ、美味しい……などと考えながら大河もつつく。


「これはどこで買ったキムチだ?」

「俺の手作りだ」


 煉の手作り……通りで手に入らないわけだ、と大河は再びキムチを味わう。

 甘く、そしてピリッと辛く、深みのある味。

 不意に飲んでいた酒を置いて紫月は立ち上がった。


「お嬢?」

「そろそろ“人”か“鬼”か判断出来る頃合いかもしれない。大河、煉。お散歩でも行こうか」


 珍しいこともあったものだ。

 今回は何だかんだと彼女は出掛けている。


「唐突だな。お嬢。いや、いつもか……それに頃合いとは?」

「一体、何を言っているんだ?」

「さぁ。何だろうね。―――今宵はきっと綺麗だろうな」


 彼女の言葉に、大河、そして煉は顔を見合わせる。

 まるで火事が起こることを予測しているような口ぶり。


「だが今回“鬼”についてはまだ分からないのではなかったのか?」

「うん。分からない。だからこそ、だよ。“鬼”か“人”か“人ならざるモノ”か。はてさて、楽しくなりそうだよ。“鬼”ならボクが“鬼”を喰らえばいいさ。“人”なら“人”に任せればいい」


 分からないって楽しいよね、と紫月は出掛ける準備をして玄関に向かう。

 当然、煉もついていき、今回の件で呼び出された大河も、結果が気になる為ついていく。


「分からないが、楽しいのか?」

「そうだよ。煉」


 分からないのは楽しい。

 何せ、分からないのだから分かろうとしたくなる。

 それは“人”も“鬼”も“人ならざるモノ”も変わらない、と紫月は言葉を続ける。


「理解したい。理解したくない。受け入れたい。受け入れたくない。その二律背反の隙間に“鬼”が棲み、“人”はふとした瞬間に“鬼”となる。理解出来るようで理解出来ない。ほら、もう面白い」


 一体、どこへ向かうのか。

 紫月は気の赴くまま歩を進めているようにしか思えないのに、その足取りに一切の迷いはない。

 始めから向かう先を決めているような感じだ。


「ん……? お嬢」

「おい。この先―――」


 煉と大河の言葉も気に留めず、紫月はさらに先へ進む。

 凍るほどの寒さではないが冷たい月が見降ろしている。

 赤と黒を基調とした着物をひらりと風に踊らせて、濃度を増していく闇の中に溶けてしまいそうだ。


「さぁ、行こう。煉。大河」


 くるりと振り返る様さえ、優雅。

 暗闇に、白い肌と赤い半襟、赤い帯だけが目立つ。

 長い黒髪も、黒の着物もまるで闇に溶けてしまったかのようだ。

 二人に手を差し伸べる様は蝶が二人を誘うかのよう。

 形の良い口元に三日月形の笑みを浮かべて。


「暗夜に灯火を失うのは、“人”も“鬼”も“人ならざるモノ”も一緒。川向こうの火事も。けれども―――」


 向かった先は一軒の家。

 紫月はそっと表札に触れる。


「秋葉山から火事なんて、笑えないよね」


 ねぇ、と紫月は視線を玄関に向ける。


「そうだよね? “焔鬼ほむらおに”」

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