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おに、ひとひら  作者: 詠月 紫彩
焔鬼 ~ほむらおに~
29/41

譚ノ四

 燃えろ、燃えろ―――

 燃え盛る炎の美しさよ

 もっと、もっと―――

 全てを焼き尽くす炎よ




****




「ようやく、掴まえた……! 本当に、紫月サンふらっふらすんなよ!」

「あーあ。掴まっちゃった」


 まったくと言って、残念そうな表情ではない。

 がっくりと疲れ果てた表情で暁は紫月を引っ張り、彼女の家の一室に上がり込むなり倒れた。


「何だ。“鬼”ごっこはもう終わりなのか」

「大河ぁ……聞いてくれよ―――「嫌だ」―――即答!? 聞いてくれねーのかよ!」

「聞く価値はない」


 あっさりばっさりと言葉を切り捨てられた。

 どいつもこいつも、と暁は溜息をつく。


「んで。話は戻るけどよ。紫月サン。何か掴んでるんなら、情報共有してくれや」

「ねーねー。今日レッシーって“人”は?」

「聞いてくれよ! つか、あいつは非番だよ! 偶然、紫月サンが俺の前に現れるからどうしたのかと思ったじゃねーか!」


 実は、ただの酔っ払いだった。

 ふらふらと良い気分らしい紫月を、仕事中の暁が仲間に一言声をかけて家まで送り届けたのだ。

 煉からの願いである。

 ふらふらしている所を見つけたら、家に連行しろ、と。


「俺は消防士なんだけどよー。警察じゃないだけどよー」

「一応、同情はしておいてやる」


 同情しているようには、微塵も見えない。


「頼むからよ。情報共有してくれや。今はまだ、空き家の被害だけだ。でもよ……このまま放火犯が捕まらないと……“人”が死ぬのも時間の問題だ。“人”の犠牲者は出したくねーんだよ」


 暁は手を握り締める。

 繰り返し若返っては警察関係の仕事をしている“人ならざるモノ”が存在しているかのように、暁もまた幾度となく若返っては火消し関係の仕事をしている。


「おかしな話だよねぇ」


 不意に、紫月は床に寝転んだまま口を開く。


「君は四方を守る龍神一族である大河と同じく、四方を守る朱雀一族の息子」

「それが何だよ。紫月サン。そりゃ、親父からいい加減、引き継げと言われてるけどよ。俺はまだ……“人”の世で働きたいんだ。火消しの仕事は楽しいぜ。何てったって、眷属である炎の中にいられるんだからよ」


 大河は静かに茶を飲む。

 一体何がおかしなものか、と暁は紫月の物言いにイライラを押し殺す。

 それを言えば、大河の方がよっぽど異質である。

 水は眷属でありながら水にまつわる仕事をしていないのだから。


「何が、言いたいんだよ。紫月サン?」

「さて何だったかな。あはっ。忘れちゃった」


 すでに何千年と生きている、“鬼喰”一族の中でも彼女は古株の方だ。

 耄碌していてもおかしくはないが……と失礼なことを考えつつ、暁、そして大河も溜息をついた。


「いつになったら、情報を提供してくれんだ?」

「大した情報なんて持ち合わせていないよ。こう……引っかかることはあるんだけどね。まるで煙に巻かれているようで判然としないんだよ」


 だから、渡せる情報はない、と紫月は暁に答える。

 ただの時間の無駄遣い。

 そして骨折り損のくたびれ儲け。


「しゃーねー。帰るわ。また火事が起きたら出動になるしな」

「何故、また起きると?」


 大河に質問された暁は肩を落とす。


「まだ捕まってねーから、また起こる可能性を考えるのは当然だろ。それに模倣犯だっているかもしれないからな」

「うんうん。暁の言う通りだよ。大河。ボクだってまだ“人”か“鬼”どうかも判然としていないんだから」

「そーいう訳で、紫月サン。情報あれば、寄こしてくれよな? あ、もちろん綺羅々サン抜きで。あの人、本っ当怖ろしいからよ。京ノ都タワーのてっぺんから釘バッドで撃ち落とされるのは、マジ勘弁」


 だが紫月に、約束しかねる、と言われるともはや絶望的だ。


「義理姉様、言ってたよ。とっととどうにかしろ。朱雀一族がいながら何やっているんだと。そろそろどうにかしないと、一族郎党焼き鳥にされちゃうかもね」

「恐ろしいこと言わねーでくれよ! あの人なら、ガチでやりそうだぜ」


 仕方がない、と暁は紫月の家を辞去した。

 冬の空。

 今宵も乾燥している。


「あーあ。一体、何が口火を切っちまったんだろうな……」


 すっかり暗くなった夜空に、暁はポツリと言葉を零したのであった。

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