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05

 二ヶ月後、コーデリアは領地の南にあるという、港町に送られる事になった。

 結局ロイドへの色仕掛けは失敗して、ジョシュアとは会えなかった。


 まだ夜中と言ってもいい時間に、侍女がやって来た。


「コーデリア様、そろそろお支度を」

「ねぇ、あなたはついてきてくれないの?」


 最後まで名前は教えてくれなかったが、この侍女がいたから、搭での生活にも耐えられたし、出産の恐怖にも立ち向かえた。

 感謝しているのだ、このまま別れるのは寂しい、とコーデリアは思っていた。


「……私は、ついては行けません」

「そう、寂しいわ。あなたには感謝しているの、こんなわたくしに色々良くしてくれたもの」


 いつも毅然として無表情な侍女が、珍しくどこか迷うような表情をした。


「――私は、侍女ではありません、ロイド様の妻です、だから――」


 コーデリアは立ち上がって侍女、いやロイドの妻の前に立った。


「……酷い男ね、あなたにこんな役回りをさせるなんて」


 彼女は震える両手をぎゅっと握って、顔を歪めた。


「――私が志願、したのです……っ、ジョシュアの事も、領地行き、の事も、考え直すよう、進言……う、く……」


 最初の頃は、愛想もなくて、挨拶しても返事もしてくれなかったが、最近は読んだ本の感想とか、季節の話とか、そんな他愛ない話を二人でよくしていた。


 それが、ロイドの妻だったとは。ロイドとの閨のシーツを替えていたのも彼女だ。


――いったい、どんな気持ちで……


 彼女の言葉はとぎれとぎれだが、その真意は読み取れた。ジョシュアを取り上げたりしないでほしい、せめてコーデリアをジョシュアから離さないでほしい、と進言したが、聞き入れられなかったのだろう。


 コーデリアは彼女を抱きしめた。


「それとこれとは別よ、理性で無理に納得させても、感情は追い付かないわ」

「はい……」

「……私の事は忘れて。ロイドには夫の義務と責任がある事を、妻であるあなたが叩き込むの。アレを愛しているあなたならできるわ。それが、あの子の、ジョシュアのためにもなる」


 彼女はコーデリアを真っ直ぐ見つめた。


「……私はあなたが嫌いでした。高飛車で横柄で、わがままだと噂に聞いていたから。そんな人を気にするロイド様は、あなたに騙されているんだと、そう思っていたんです」

「……その通りだわ」

「いいえ違います。私はずっとあなたの側であなたを見てきたのです。あなたは純粋で、さみしがり屋で、甘えたがりの、可愛い人です。そして誰より気高い人です」

「ふふ、買いかぶりすぎよ。でもありがとう。ジョシュアをお願いね、あの男みたいにならないように育ててね」

「……ふふ、はい……」


――牢に囚われていても、いつも背筋を伸ばして凛として美しい、コーデリアはまさに貴婦人だった。


――ロイド様がこの方に惹かれる気持ちが分かるわ……。


 出発は夜明け前、馬車には家紋も付いていない。まるで夜逃げのようだ。

 見送りには父も、ロイドも来ていない。ロイドの妻、最後に名前を明かした、エレノア以外は。

 貴人を護送する馬車は静かに領都を立った。



***



 その一報がもたらされたのは、コーデリアが出発して一月以上経ってからだった。

 港町まであとわずかの距離にある町の宿で、コーデリアが忽然と姿を消した。


 ロイドは馬を乗り潰しながら、わずか一週間でその町まで辿り着いた。

 しかし捜索の陣頭指揮をとりながら、コーデリアの行方の手がかりすら掴めないでいた。

 護衛も侍女も身元の確かな、公爵家に忠誠を誓っている、信用できる者だけ付けていた。

 実際彼らはよく働いていた。コーデリアの失踪を発見してすぐに宿と町の封鎖を行い、領都の公爵邸に早馬で知らせている。

 同時にならず者のアジトや娼館も捜索していた。


 疑いのある者、後ろ暗い者、宿の亭主、護衛や侍女にも自白剤を使った尋問を試みたが、全員シロだった。


 コーデリアの容姿は目立つ。その美しさだけでなく、王家の特徴の金髪や翠色の瞳は、一度見たら忘れられないだろう。しかし目撃証言すらなかった。


 朝露が日の光に消えてしまうように、何の痕跡も残さずコーデリアは消えてしまった。

 

 結論としてコーデリアは何者かに連れ去られたのではなく、自分の意思で失踪したと思われる。

 しかし、どうやって?宿は貸し切りで、宿の周囲、コーデリアの部屋の外にも護衛が配置されていた。町の門扉は閉ざされ、兵士が常駐していたのである。馬車や人だけでなく、荷車にいたるまで、徹底して調べたが、見つからなかった。

 どこにも逃げ場はない。しかし、コーデリアは消えてしまった。


 捜索を周辺の村や町まで広げたが、やはり手がかりひとつなく、焦るロイドを余所に、時間だけが虚しく過ぎて行き、コーデリアの捜索を一部残して引き揚げなければならなくなった。


 そしてロイドは、コーデリアを永遠に失ったのである。

 

 ロイドはエレノアとの初夜に『君を愛することはない』をやらかしています。

 この話はゲーム内ロイドルートのその後なので、続きはありません。

 ただコーデリアがどうやって脱出したのかは後に本編に書くかもしれません。


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