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03

 そんな事があった翌日から、コーデリアの周囲はにわかに変化した。

 コーデリアの世話をするための侍女がついたのだ。名前は知らない。教えてくれないから。今までコーデリアを世話していた侍女ではない。見た事のない使用人だった。新しく雇用したのかもしれない。

 その侍女はコーデリアの命令に従うわけではない。愛想もなければ、にこりともしないが、人の気配に飢えていたコーデリアは、その侍女によく話しかけた。


 おはよう、とか今日は寒いわね、とか何かしてもらって、ありがとう、と他愛ない事を話した。

 今まで使用人は家具同然だったコーデリアの、小さな変化だった。


 もう一つ変わった事がある。ロイドが数日置きにコーデリアを訪ねるようになった。それはコーデリアと同衾するためであったが、必ずワインや甘い菓子、本、時には花など手土産を携えていた。

 そんなもので懐柔されるつもりはなかったが、時が止まったような搭に長く居ると、そんな細やかなプレゼントが内心嬉しかった。


 最初はおぞましくて仕方なかったロイドとの行為にも、次第に慣れた。痛みとは違う感覚に戸惑いながらも、受け入れていた。


 ロイドは行為の後、コーデリアをしばらく抱きしめて、少し眠る。甘い睦言などはない。

 それでも、人肌に安心してしまうコーデリアがいた。


 それから数ヶ月経つと、コーデリアの体に異変が起きた。毎月あった月のものが無くなり、体がだるくて、眠くて仕方ない。


「……わたくし、ちょっと体調が悪いの、食事は要らないわ。ごめんなさいね、せっかく用意してくれたのに」


 いつものように朝食を持って搭を訪ねた侍女は、そんなコーデリアの異変に素早く対応した。寝台を調え、火を入れた事のない暖炉に薪をくべ、部屋が乾燥しないように、薬缶の蒸気で部屋を暖かくした。


 コーデリアをベッドに寝かせ、温かい白湯を飲ませる。


「……暖炉に火を入れていいのかしら、わたくし、搭を燃やすかもしれなくてよ」

「……あなたはそんな事なさいませんよ。そんな事より、ここは寒すぎます。暖かくしないと、お体に障ります」


 コーデリアが眠るのを見届けてから、侍女は搭を後にした。


 それから一刻くらい経って、ロイドと見知らぬ老人が搭を訪れた。

 老人は医師だった。しばらくコーデリアを診察したり問診して、こう言った。


「……おめでとうございます。ご懐妊です、二ヶ月ですな」


 男女のそういう行為があったのだから、妊娠していてもおかしな事ではない。でも、コーデリアは自分の身にそんな事が起こるとは、想像もしていなかった。


 医師は妊娠初期の症状や、安定期まで気をつける事、摂るべき栄養や摂取してはいけない飲食物、薬物の使用も医師に確認してから、毒のある花や観葉植物などを側に置かない、安定期に入っても性行為は控えるように――。など注意事項を説明した。

 それをコーデリアはどこか他人事のように聞いていた。


 医師が退室した後も、ロイドはベッドの側に椅子を置いて座り、長い間手を組んで俯いていた。

 そんなロイドをコーデリアはぼんやりみつめていたが、ロイドがやっと沈黙を破った。


「……俺と一緒に、逃げますか?二人で、何もかも捨てて――」


 その時、カタンと音がした。


 ドアの前に、コーデリアの着替えやリネンを持った侍女が立ち尽くしていた。


「あの、私、コーデリア様のお着替えを……失礼しました!」


 そう言うと侍女はその場から走り去ってしまった。

 苦虫を噛み潰したような顔をして、逡巡した様子のロイドだったが、椅子を蹴って立ち上がり、侍女の後を追いかけた。


――逃げる?いったいどこへ?罪人で身重で、何も持たない自分が、どこへ行けるというのだろう。


 それからロイドは月一度の頻度で医師を伴って顔を出した。

 妊娠前の頻度では訪れないが、時々お菓子や暖かい膝掛け、本などを侍女を通して差し入れてくれた。


 ロイドのあの言葉は気の迷いだったのだろう、とコーデリアは結論づけた。

ロイドは本気でしたが、コーデリアの気持ちが自分にない事を知っていたので諦めたのでした。

侍女に聞かれたのも拙かったです。タイミングが悪かったですね。

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