02
あれから何ヵ月すぎたのか、ロイドはおろか、誰もここにはやって来ない。血を分けた父でさえ。
時が止まったような感覚になりながら、コーデリアは時々差し入れされる本を読んだり、刺繍をしながら過ごしていた。
こんな日がずっと続くのかとうんざりしていたコーデリアの前に、突然ロイドがやって来た。
相変わらず黒装束に身を包んでいるが、その日はどこか様子がおかしかった。
「……俺、結婚したんですよ」
「……今さら何の用?祝えとでも?」
すると、どこか焦点の合わない目をしたロイドが、コーデリアに近付いて来た。ロイドからアルコールの匂いが漂っている。コーデリアは眉をひそめた。
「……あなたお酒を飲んでるのね」
「えぇ、飲まないとやってられないですからね、こんな事は」
ロイドは両手を伸ばしてコーデリアの顔を包み込むと、親指でコーデリアの唇をなぞった。
一瞬何をされているのか、理解するのに固まってしまったが、咄嗟に両腕でロイドを引き剥がそうとする。
これほどロイドが近付いてくるのは、初めてだった。今まで触れる事すら殆どなかった。
「何のつもりなの?!止めなさい!」
成人した男の力に抗えるはずもなく、両腕ごとロイドに絡めとられる。ロイドはコーデリアの肩口に顔を押し宛て、絞り出すような声を出した。
「……あなたは王家の血を引いている。保険として、あなたの産んだ子を俺達の子として育てる――」
「――お父様の考えそうな事だわ。で?あなたまさかその通りにするつもりなの?最低ね!」
「俺は最低な男ですよ、最初から……すぐに済みます。目を閉じて、大人しくしていて」
***
シーツに破瓜の血が散っていた。それを確認すると、大人しくしてはくれなかった、コーデリアの両手を縛っていたスカーフをほどいた。
暴れ疲れて眠ってしまったのか、頰に幾筋もの涙の跡が痛々しい。それをハンカチで丁寧に拭い、部屋に置いていた桶で、タオルを濡らしてコーデリアの体を拭っていく。服を着替えさせ、シーツを替えながら、ロイドは嗚咽を堪えていた。
(何をやっているんだ、俺は……公爵に言われてやって来たのは確かだが、コーデリアが嫌がるなら、止めるつもりだった)
――公爵を言い訳にして、本当は欲望のまま、この人に触れたかったんじゃないのか、俺は――
ずっと痛い痛いと泣いていた、もう止めて、ごめんなさい、許して、と幼子のように泣いて。
あの矜持の高いコーデリアが泣いて懇願したのだ。
その姿に征服欲が満たされ、いい気味だと嘲る気持ちと、その姿を憐れに愛しいと思う。二律背反する気持ちがロイドを苦しめる。
破瓜の痛みを和らげる薬をロイドは持っていた。最初はその薬を使うつもりでいた。
でも、使わなかった。使った方がコーデリアの負担が軽くなるのは分かっていたのに。
ロイドはコーデリアに痛みと共に自分の記憶を刻みたかった。忘れないで、と身勝手に願ってしまう。




