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春恋サルベージ  作者: 九条タクト


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7/10

第七話 最後の冬

 返ってきた模試の結果を見て、春樹は小さくため息をついた。

 教室のあちこちでも、「やばい」「終わった」という声が聞こえる。

 三年生の秋は、あちこちから受験という言葉がやってくる。

 だんだんと迫ってくる本番に向けて、余裕はなくなってきていた。

 でも、携帯を開く回数は変わらない。

 新着メールは前より少なくなっていた。

      ◇

 十一月。

 少しずつ寒くなってきたころの塾帰り。

 コンビニの前でレモンティーを飲みながら、春樹は祐介と話していた。

「最近メール減った?」

「何が」

「いや、美咲ちゃんたちと」

「ちょっと忙しいし」

「そうだよなぁ」

 そう言いながら、祐介は携帯をいじりだす。

 多分彼女に返しているんだろう。

「でも完全にやめてるとかじゃないんだろ?」

「まぁ」

 春樹は曖昧に返した。

 祐介が「ふーん」とニヤつく。

「何だよ?」

「別にー」

 いつもの調子だった。

 前みたいに、毎日何通もやり取りすることは減っていた。

 それでも何日か空くと、真尋から『生きてるー?』みたいなメールが来る。


 美咲からは、『寒くなってきたね』とか、『風邪引いてない?』とか、そんなメールが届く。

 毎日じゃなくても、途切れる感じはしなかった。


      ◇

 十二月。

 中学最後の冬。

 この冬講習が終われば、あとは受験本番だけだった。

 駅前に着くと、白い息がすぐ空へ消えていく。

「寒っ……」

 真尋がマフラーに顔を埋めながら言った。

「去年も同じこと言ってた」

「毎年寒いものは寒いの!」

 その横で、美咲が呆れたみたいに笑っている。

 駅前の景色は去年と変わらない。

 コンビニも。待ち合わせ場所も。

 改札前の人の流れも。

 時間だけが勝手に進んでいた。

      ◇

 講習会三日目。

 帰りに四人でコンビニに寄ったあと、駅までの道をゆっくり歩いていた。

「なんかさ」

 珍しく、美咲が先に口を開いた。

「こうやって集まるの、最後かもしれないね」

 一瞬だけ、空気が止まる。

「いやいや、やめてよそういうの!」

 真尋がすぐに言う。

「受験終わったら遊ぶ約束したじゃん!」

「したけど…高校違ったら、やっぱり今までみたいにはいかないでしょ」

 美咲はそう言って、少しだけ困ったように笑った。

 真尋は何か言い返そうとして、でもうまく言葉が出なかったらしい。

「…まぁ、そりゃそうかもだけど」

 珍しく弱い声だった。

 春樹も何も言えなかった。

 多分みんな、なんとなく気づいていた。

 受験が終われば今まで通り、なんて簡単じゃない。

 でも、それを口にしたくなかった。

「だからこそ遊ぶんじゃん」

 少ししてから、真尋が言った。

「ぜーんぶ終わる前提みたいなの嫌だし!」

 その言い方が、なんだか真尋らしかった。

      ◇

 講習最終日の帰り。

 授業が終わったあと、駅前の広場で四人並んで座っていた。

 受験まで、あと少し。

 去年みたいに騒ぐ感じは、少し減っていた。

 でも沈黙が気まずいわけでもない。

 ただ、みんな少し疲れていた。

「改めてだけどさ、受験終わったら」

 真尋がホットココアの缶を両手で持ちながら言う。

「カラオケとか行きたい」

「またその話?」

「だってまだ行ってないし!」

「真尋、歌下手そう」

「は!?うまいし!」

 美咲が肩を揺らして笑う。

 祐介が「いや怪しいね~」とからかい、真尋が文句を言う。

 そんなやり取りを見ながら、春樹は少しだけ安心していた。

 受験は怖かった。

 高校生になるってことを、まだちゃんと想像できない。

 でも終わったあとに、またこうやって笑える気がしていた。

      ◇

 家に帰ると、母親に「勉強しなさいよ」と言われた。

「わかってるよ」

 適当に返して、自室へ戻る。

 机の上には問題集と、塾でもらった過去問のコピーが積まれている。

 春樹はベッドへ座りながら、現実から目を背けたくなって携帯を開いた。

 少し前に撮った写メ。

 真尋が変な顔をしていて、美咲が笑っていて、祐介が半目になっている。

 去年の写真より、みんな自然な顔をしていた。

 その中で、自分だけ少し照れくさそうに笑っている。

 春樹はしばらくその画面を見てから、携帯を閉じた。

 もしかしたら美咲の言う通り、最後だったかもしれない。

 でも最後にはしたくないと思った。

 参考書を開いても、さっきまでの笑い声がしばらく頭から離れなかった。


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