第十四話 たぶん、大丈夫
年が明けても、最初の頃みたいに頻繁には会えなかった。
それでも、連絡は続いていた。
『あけおめ!』
『おめでと』
『今年もよろしくね』
『こちらこそ』
そんな短いメールでも、春樹はちゃんと嬉しかった。
◇
一月の終わり頃。
久しぶりに電話をした。
『もしもしー』
真尋の声を聞いた瞬間、春樹は少し安心する。
「最近どう?」
『最近ってなに』
「いやなんとなく」
『普通だよ』
真尋は笑っていた。
でも、前みたいに次から次へ話題が出てくる感じではなくなっていた。
『春樹は?』
「こっちも普通」
『新聞部忙しい?』
「まぁそれなり」
『そっか』
一度、会話が止まる。
前なら気にならなかった沈黙なのに、最近は妙に長く感じた。
「……あ、そういえばさ」
春樹は思い出したように口を開く。
「この前もらったCD、最近よく聴いてる」
『ほんと!?』
急に真尋の声が明るくなる。
「通学中とか」
『え、どの曲好き?』
「タイトルなんだっけ…前に真尋が歌ってたやつ」
『あー、あれ?私もあれ好き』
真尋が少し嬉しそうに笑う。
その声を聞いていると、春樹も少し安心した。
まだちゃんと、前みたいに笑えている気がした。
◇
二月。
バレンタインの少し前に、久しぶりに会う約束をした。
『今年は本命一個もらえるの確定だから安心しな笑』
真尋からそんなメールが届いて、春樹は思わず笑った。
◇
待ち合わせ場所に現れた真尋は、マフラー越しでもわかるくらい寒そうだった。
「寒っ……」
「お前毎回それ言ってない?」
「寒いの苦手なんだもん」
そう言いながら、真尋は自然に春樹の隣へ寄ってくる。
その距離感に、春樹は少し安心する。
「はい」
真尋が紙袋を差し出す。
「本命」
「…ありがと」
春樹が受け取ると、真尋は照れ隠しみたいに笑った。
「一応ちゃんと作ったから」
「え、手作り?」
「重かった?」
「ううん、嬉しいよ」
「もっと喜んでよね」
真尋は呆れたみたいに笑う。
中には、形の少し不揃いなチョコレートが入っていた。
「初めて作ったの?」
「うるさい」
「でもうまそう」
「“でも”いらなくない?」
◇
そのあと、二人で駅前を少し歩いた。
本屋へ寄って、CDショップを見て、ゲームセンターで真尋が取れもしないぬいぐるみに百円を無駄遣いする。
「絶対無理だって」
「うるさい、今取れそうだった」
「どこが」
「雰囲気」
「雰囲気で取れるなら苦労しないって」
真尋は笑いながら春樹の腕を軽く叩く。
結局、そのあと春樹が数回プレイしてなんとかゲットできた。
真尋は感謝をしつつも、悔しそうな顔をしていた。
こういう時間が、春樹は好きだった。
◇
帰り際。
駅までの道をゆっくり歩く。
「なんか久しぶりだったね」
真尋がぽつりと言う。
「まぁ最近忙しかったし」
「うん」
真尋は頷きながら、春樹の袖を軽く掴んだ。
前みたいに、当たり前には会えなくなっている。
それは春樹もわかっていた。
でもこうして会えば、ちゃんと好きだと思う。
今日だって楽しかった。
今こうやって掴んでくれたのも嬉しい。
それだけで、十分な気がしていた。
駅についても、二人はすぐにはホームに向かわなかった。
特に話すことがあるわけでもない。
ただなんとなくゆっくり、そのまま隣を歩いていた。
「電車そろそろ?」
「あと三分くらい」
「そっか」
真尋はそう言いながら、また少し春樹へ寄りかかる。
「次どうする?」
真尋が聞く。
「んー……またそのうち?」
春樹が何気なくそう言う。
真尋は一瞬だけ黙った。
でもすぐに。
「じゃあ次は、もっとゆっくり会おうね」
そう笑った。
「うん」
ホームへ入ってからも、電車が来るまで真尋は春樹の手を離さなかった。
◇
家へ帰って少しすると、真尋からメールが届いた。
『今日ありがと。久しぶりにいっぱい会えてうれしかった』
春樹は少し考えてから、『俺も楽しかった』と返す。
そのあと送られてきた『ならよかった』の文が、少しだけいつもより柔らかく見えた。




