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春恋サルベージ  作者: 九条タクト


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12/17

第十二話 花火の下で

  高校へ入って最初の夏は、あっという間に訪れた。

 テストが終わったと思えば、もう蝉が鳴いている。

 春樹は昼休みの教室で窓の外を眺めていた。

「お前まーた携帯見てる」

 横から祐介が呆れた声を出す。

「真尋ちゃん?」

「違ぇよ」

「その反応でバレバレなんだって」

 祐介は笑いながらジュースを開ける。

「最近ちゃんと会ってんの?」

「まぁそんなに多くはないけど」

「多くないってお前」

 そう言いながらも、祐介はそれ以上何も言わなかった。

      ◇

 夏休みに入ってからも、春樹と真尋は何度も会った。

 駅前で待ち合わせをして、ショッピングモールを歩いたり、ファミレスで何時間も話したり。

 どこへ行ったかより、何を話したかより。

 一緒にいた時間ばかり覚えている。

 会うたびに、真尋の話は少しずつ増えていった。

 部活帰りにコンビニで買ったアイスがまずかった話。

 友達に彼氏のことを聞かれすぎて面倒だった話。

 夜更かしして、授業中に眠くて怒られた話。

 春樹も、新聞部で写真を撮りに行った話をした。

 携帯を取り出し、この前行った場所の写真を見せる。

 真尋が春樹の携帯を覗き込む。

「駅とか空とかばっかじゃん」

「なんか好きなんだよ」

「へー」

 真尋はそのまま携帯を操作しながら写真を見ていく。

「じゃあ今度、私も撮ってよ」

「え?」

「練習」

「いや新聞部のは普通デジカメだぞ」

「いいじゃん別に」

 真尋が笑う。

「彼氏カメラマンで彼女の写真とか、ちょっとよくない?」

「なんだそれ」

「え、なんか青春っぽい」

 春樹が苦笑している間にも、真尋は勝手に写真をスクロールしていく。

「あー」

 真尋の指が止まる。

 講習会の時の写真だった。

 春樹と真尋、美咲。

 三人並んで映っている。

 中学二年生の夏の写真。

「なんかもうこれ懐かしい」

 真尋が少しだけ目を細める。

「祐介、写真撮るの下手だったよね」

「ブレてるしな」

「でもこれ好き」

 真尋はそう言って笑った。

「そういえば美咲とは最近会ってるの?」

「んー、たまに?連絡は普通にしてるし、帰りの電車一緒になる時もあるよ」

「そっか」

「なんで?」

「いや別に」

「ってかデート中に他の女の子のこと考えてるとかさいてー」

 真尋がむっとした顔をしてみせる。

「いやごめん、そういうんじゃなくて!」

「わかってるって~」

 すぐにいつもの笑顔に戻る。

 その顔を見ていると、なんだか落ち着かなくなる。

      ◇

 八月の終わりごろ。

 二人で夏祭りへ行くことになった。

『今友達も一緒なんだけどいい?なんか彼氏みたいってうるさい』

 合流前にそんなメールが届く。

 すぐに『大丈夫だよ』と返すが、冷静に考えたらちょっと恥ずかしくなった。


「あの人が真尋の彼氏?」

「あー、それっぽい!」

 待ち合わせ場所につくと、真尋とその友達と思われる女子が数人いた。

「ちょっ、うるさい!」

 浴衣姿の真尋が真っ赤になりながら友達を叩く。

 聞こえてくる会話を耳に、春樹は少し離れた場所で苦笑していた。

 こちらに向かってくる真尋を、友達たちは面白がるようにこっちを見てくる。

「写真撮ってあげよっか?」

「いやいいって!」

「えー絶対あとで後悔するやつじゃん」

「ほんといいから!また後で!」

 真尋は半ば無理やり春樹の腕を引っ張って、人混みの方へ逃げていく。

 春樹が少し振り返ると、友達たちは手を振って笑顔で見送っていた。

「もー……疲れる」

「楽しそうだったじゃん」

「あー…絶対あとでまたからかわれるよ」

 真尋は文句を言いながらも、友達の方へ一度だけ手を振った。

      ◇

 花火が始まる頃には、人の流れもかなり増えていた。

 夜空へ大きな音が響く。

 色とりどりの光が川沿いを照らしていく。

「うわ……」

 真尋が空を見上げる。

 浴衣姿の横顔が、花火の光で一瞬だけ明るくなる。

 その時だった。

 人混みに押されて、真尋の身体が春樹へぶつかる。

「ごめ——」

 言いかけた真尋が、そのまま春樹へ抱きついた。

 帯越しに伝わる体温。

「……真尋?」

「なんか今日、すごい会いたかった」

 花火の音に紛れそうな声だった。

「今日?」

「うん」

 真尋は顔を上げる。

 近い。

 春樹が何か言うより先に、真尋が軽く唇を重ねた。

 一瞬だった。

 でも、その熱だけはやけに残る。

「……っ」

 真尋が照れたように笑う。

「…なんか勢いでやっちゃった」

 その顔を見た瞬間、春樹はたまらなく愛おしくなる。

 気づけば、真尋の肩を引き寄せていた。

 真尋が少し驚いた顔をする。

 でもすぐに、「へへっ」と笑って春樹の胸へ額を預けた。

 花火の音が、夜空へ何度も響いていた。

      ◇

 友達の元へ戻る途中で、真尋がふいに言う。

「次いつ会えるかな」

「んー……また近いうちどっかで?」

「どっかでって~?予約埋まっちゃうぞ」

「そのうち連絡するよ。まだ部活とかの日にちわかんないし」

「まぁそれもそっか」

 真尋はそう言って笑った。

 少しして、「じゃあ私、向こう戻るね」と友達のいる方を指差す。

 真尋は一歩進んでから、なにか言いかけるみたいに振り返った。

 でも結局、「またね」とだけ言って笑う。

 春樹も手を振り返す。

      ◇

  家へ帰ってくると、リビングには由奈しかいなかった。

「母さんたちは?」

「父さんまた腰やったから病院~」

「マジか」

 春樹が冷蔵庫を開けながらそう返すと、由奈が携帯を掲げてくる。

「見てこれ」

「何?」

「携帯!私もやっと買ってもらった!お兄ちゃんより新しいやつ!」

「よかったじゃん」

 由奈は得意げに笑いながら、春樹の顔を見る。

「で、デートどうだった?」

「は?」

 春樹は思わず声を裏返らせた。

 由奈がニヤニヤする。

「教えてよ~。今、母さんたちいないしさ」

「お前な……」

「で、楽しかった?」

 春樹は一瞬だけ言葉に詰まる。

 花火、浴衣姿の真尋、抱きしめた時の体温。

 色々思い出して、なんだか急に落ち着かなくなる。

「……まぁ、楽しかったよ」

 その瞬間。

 パシャッ。

「うわっ!?」

 由奈が携帯を構えて笑っていた。

「撮るなって!」

「いい練習になりました~」

「おい、消せよ!」

 由奈はケラケラ笑いながら逃げていく。

 春樹はため息を吐きながら、自分の携帯を開いた。

 真尋からメールが届いている。

『今日ありがと!めっちゃ楽しかったよ!』

 添付された写真には、浴衣姿の真尋が映っていた。

 友達に撮ってもらったのか、少しぶれている。

 その笑顔を見た瞬間、春樹はまた思わず笑ってしまう。

 その夜、春樹は寝る前まで何度もその写真を見返していた。


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