第96話
マリベルの転移魔法で飛んだ先は龍の森の俺のお気に入りの場所と似ている。
ただ、こちらの風神の森の方が池や砂浜の部分が広いので空が見易い。
満天の星や満月の時は最高な場所だろう。
池というよりは湖みたいな広さがあるので、天気が良い冬の日中では遠くの山の稜線まで湖に映って見える。
パシーが住む汽水湖の森では夕日が汽水湖に沈む絶景の場所をパシーに教えてもらったので時々見に行くが……あの場所は夕焼けから夜にかけての最高な場所だと思う。
逆に朝日はアニーの住む霊峰山の森の山頂から見る朝日が、今のところ俺がこの世界で見た最高の絶景。
寒い冬の早朝、地平線に見える遠い海から昇る太陽はたまらない。
うっすらと色付いていく世界を眺めているだけで心身共に洗われた気持ちになる。
龍の森の岩山山頂から見る朝日も甲乙つけがたい。
こっちの場合は煌めく世界樹の美しさも加わるからな。
龍の森の鬱蒼たる木々の隙間から見える星空や月夜は俺のお気に入りの場所ならではで……これはこれで最高な場所だと考えてる。
深夜では空しか見えない分、星や月の美しさが際立つ感じがするからな。
「コンコン次郎、ここで休憩する?」
「良いな。椅子とテーブルを出して休憩するか。」
俺は自分専用のビーチチェアとグレタ専用のビーチチェアを、アイテムボックスから取り出して2脚の間に縦長のテーブルを置いた。
腰の下の位置にはスラリンが速攻で飛び出てきて待機している。
グレタは自分の収納袋からブランケットを取り出してお腹の上にのせた。
マリベルの結界が効いていて真冬の森の中でも暖かな気温に包まれてはいるけど、お腹を冷やさないという気分の問題かな。
マリベルも自分専用のビーチチェアをアイテムボックスから取り出して、俺とグレタの間のテーブルに頭がくるように反対側を足にしてビーチチェアを設置。
マリベルはビーチチェアの両脇にテーブルを出して紅茶とクッキーやビスケットなどのお菓子を数種類並べている。
まったりしながら雑談。
マリベルは1万年以上もの間、このジャスビレンドの世界で暮らしているので、色々な面白い伝説的な話をしてくれるので時間が過ぎるのが早く感じるほど。
晩御飯は夕焼けを見ながらマリベルが転送魔法で呼び寄せたシェフが作るバーベキューを食べる。
肉や魚は少なめで野菜中心のバーベキュー……バーベキューってよりも高級鉄板焼き店の旨さでワイルドさは無い。
つけダレや下仕込みの味付けに工夫があり、普段食べている野菜とは一味も二味も違って凄く美味しい。
メイドが給仕してくれるのでビーチチェアに座って半分寝てるような状態のままフリーダムスタイルでの食事。
肉まみれのTHEバーベキューも美味しいけど、こういった手間暇かけたバーベキューも美味しい。
シェフにつけダレなどのレシピを教えてもらったので今度作り置きしてアイテムボックスに保存だな。
最後に出されたオニオンスープの甘さと温かさが身体に浸透していくようだ。
おつまみを作り終えるとシェフとメイドは転送魔法で宮殿に帰った。
また3人でのまったり雑談タイム。
今度はお酒バージョン。
《日本ではお酒は二十歳になってから》
グレタはワインで乾杯して一杯をゆっくりと味わって飲んだあとにウーロン茶に切り替えて飲んでいる。
俺とマリベルはスパークリングワイン。
つまみは枝豆をニンニクで炒めたものにフライドしたニンニクチップを振り掛けたもの。
これがけっこうクセになる味で止められなくなる。
もう1つのつまみはシェフが生ハムの原木とナイフを置いていったので自分で食べたくなったら切り落としている。
グレタはフルーツの盛り合わせを食べている。
「グレタ、お酒を飲んでも魔法でアルコールを飛ばせば良いだけだから、俺と一緒の時なら好きなだけ飲んでも良いんだよ?」
「大丈夫。この中に貴方との子供がいると思ったら……不思議と飲みたくならないのよ。」
自分のお腹をさすって幸せそうな笑顔で言われると何も言えなくなる。
「グレタ、良い笑顔じゃの。母親としての自覚が芽生えてきたんじゃ。」
俺と一緒にグレタの笑顔を見たマリベルが優しく声をかけてくれる。
マリベルは何十人も出産していると言ってた。
「急には無理だからの。そうやって少しずつ母親になっていくものよ。」
「俺はまだまだ父親にはなれそうもないけど。」
「男の場合は全く別物だわ。父親になった事はないから聞いた話なんだが……男は我が子を抱いた瞬間にやっと父親になるんだと言ってたな。体内に我が子を宿す母親とは一緒には出来んぞ。」
「なるほど。」
「男はただ黙って待つしかない。」
「わかった。待ってる。」
そんな親としての話をしていたと思ったら……
「アニーが料理をする気になったのは大好きな彼に世界で一番美味しい『手料理』を食べさせたいからと殊勝な事を言っておった。だけどあやつは意外と飽きっぽくてな。何度となくケツを叩いていたんだか……あやつが真剣に料理に向き合ったのは男の寿命を悟った時からじゃ。」
「えっ、もしかして間に合わなかったのですか?」
「気付いた時には手遅れでな。結局その男には間に合わなんだの。人間の寿命は短い。長久の時を持つハイエルフには頭ではわかってはいても、理解するのはなかなか難しいんじゃ。」
「それでアニーは料理にのめり込んだわけだ。」
「そうだ。全身全霊で料理と向き合い……料理を極めるに至ったんじゃ。」
などとアニーが料理を極めるに至るまでの裏話を教えてもらったり……
「その時、始祖魔王のモーガンは『ハイエルフ様達の手を借りずに我々の手で成し遂げない事には魔王国と魔族の恐ろしさをヤツラは永遠に理解しないのです。』とほざきおった。」
「モーガンも言ってたね。ハイエルフの手を借りたら我々は人間どもに真に恐れられないから全力で断ったって。」
「なかなかコヤツめ骨があると妾は感じての。せめての手助けじゃと杖をわたしたんじゃ。」
「見せてもらいました。世界樹の枝から作ったと……」
「片手剣ほどの長さがあるが……拾った枝なんじゃ。しかしながら渡して直ぐにモーガンの手に馴染んでいるアレは……初めからモーガンに渡されるべき存在だったのかもしれん。」
「その話は前から聞いてたから知ってる。だけど、人間の勇者の伝記では『風王マリベルから伝説の剣を貰い魔王を倒した』とか書いてあるのに……実際は真逆で魔王モーガンの方が伝説の杖を貰ってんだって。」
「ですね。私も頭が真っ白になりましたよ。子供の頃から信じてた伝記が空想小説だったなんてって。」
などと伝説の空想話で盛り上がったりしてる。
話の合間に空を見上げると満天の星。
今は時間の関係か月は見えないが空には沢山の星が煌めいている。
冬の晴れた日の星空は格別だな。
ビーチチェアの背もたれを倒し完全に横になった。
グレタとマリベルも会話を続けながら背もたれを倒して星空を眺めてる。
冬の澄んだ空気と満天の星を肴にするため、飲んでいるお酒をブランデーに切り替えた。
マリベルの結界の中なので澄んだ空気はそのままで少し暖かい気温になっている。
草食魔獣が時々水を飲みに湖に現れるが、チラリと俺たちを見て確認するだけで水を飲み終えると森に帰っていく。
ここは俺とグレタとマリベルのお気に入りの場所になった。
まったりと大自然を楽しみ、星空や月夜を楽しむには最適な場所だろう。
満足するとマリベルの宮殿に帰り用意してくれた客室で就寝。
次の日はマリベルも一緒になってアーリンドル王国のエッシェンバッハ辺境伯領の温泉に行く事にした。
マリベルの筆頭執事と第一秘書とメイド3名も引き連れた……総勢8名の団体。
グレタとマリベルが冬場にもってこいのトロトロの湯ざわりを楽しめる温泉の話で朝食時に盛り上がっていたので出掛けることになった。
執事と秘書とメイド達はじゃんけん大会で勝ち残った勝者達。
トロトロの温泉は女性に大人気。
美人の湯として有名らしいし。
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