第89話
30分以上も俺とフランクリン、そして途中からはモーガンまでが参加して悪魔獣を弄くり回している。
3人で研究者の眼になって話し合いながら悪魔獣を弄くり、何も出来ない悪魔獣は既にグッタリとしてされるがままになっている。
パレードは中止になり俺が巨大な悪魔獣を完全拘束して弄くり回す現状に安心して、周囲の一般人の領都民達は各々(おのおの)の仕事や生活に戻っていった。
グレタの知り合い達はグレタを中心にして会話を始めている。
しばらくすると待ちくたびれて痺れを切らした領主の『ルドヴィーク・フォン・エッシェンバッハ』辺境伯が騎乗して駆け付けてきたのだけど、現場の状況を自分自身の目で見て絶句している。
グレタがルドヴィークに直接説明しているけど、理解が追い付いていないようで口を開けたままポカンと眺めている。
まぁ、異常事態の連絡を受けて駆け付けてきたら、ハイエルフと魔王と侯爵クラスの吸血鬼が魔獣らしき生物を拘束したまま調べて話し合っていると、突然聞かされたんだから……予想を遥かに越える状況なんだろう。
「フランクリン、どう? わかった?」
「我々が戦争時に開発した魔獣薬とは全くの別物ですね。我々が作った魔獣薬は人間を魔獣へと変化させる複合魔法を発揮するために仕込みが必要なんです。」
「仕込み? 面倒な魔法だなぁ。」
「はい。下準備として人間の体内に魔獣へと変化させる基礎となる魔法を仕込んだ魔石の粉末を入れたドリンクを飲ませて、人間の体内に馴染ませておく必要があるんです。」
「んー、内通者が必要なのか?」
「いえ。うちにはサキュバスもインキュバスも多数所属していますので、性的な魅力を利用して魔石粉末入りのドリンクを飲ませるという下仕込みは容易い事です。そして予め用意しておいた魔方陣へと人間の大軍を誘導して魔獣へと変化させます。」
「ん? ……あぁ、なるほどね。数が多い人間の本軍との決戦時に内側から崩壊させるのに使うんだな。」
「その通りですね。凶悪なレベルの魔獣が戦場に複数現れて戦線を崩壊させるのが目的ですので。後は追加の魔獣を周囲から放ち私の魔法で追撃。最後に魔族本軍が止めを指すのがパターンとなっていました。」
「我々の研究チームが開発した魔獣薬というのがこの『魔獣へと変化させるため仕込みの魔法を含んだ魔石の粉末入りのドリンク』なんです。」
「それじゃあ、こいつが飲んだ薬はよく分からないと?」
「はい。この薬が単独で悪魔獣へと変化したのなら、我々が開発した薬物とは完全に別物ですね。周囲のパニックを引き起こすという目的の方向性は似ていますけど……どっちにしてもハイエルフであるホープラー様には全く通用しないですし、この悪魔獣のステータスを計算しましたが、悪魔獣としては最下層クラスなのでそこまでの強さはありません。そこそこの騎士団なら簡単に退治可能でしょう。」
「確かに見かけだけでこの悪魔獣にそこまでの強さはないかな。それなりの冒険者チームならどうにでもなりそうなんだけど。でもそうなると……この薬の目的はなんだ?」
「なかなか難しいですな。研究者の私には理解の範囲を越えてます。」
「パニックを起こす事のみが目的なのではありませんか?」
「いや、モーガンの言っているのは理解出来るんだけど……一度や二度なら有効だろうけど……かえって警戒心を必要以上に抱かせる結果となって、冒険者の出入国すら難しくなりそう。」
「確かに。為政者としては敵国認定せざるを得ませんね。となると……」
「研究者の意見としては……今回は実験的なモノなのではありませんか?」
「「実験?」」
「はい、現場で最終的な実験なのかもです。」
「なるほどね。実験というなら理解はできるけど……冒険者1人を使い捨てで使って生まれる効果が釣り合ってないような気がするんだけど?」
「新たな疑問が生まれてしまいましたね。」
「我々が開発した魔獣薬でこの程度の効果しか見込まれなかったら、私はモーガン王から見放されてましたね。」
「君たち魔族が使っていた魔獣薬の怖さは『味方の誰が仕掛けられているのかわからない』っていう恐怖も込みだからこそってのがあるけどな。味方が味方でなくなるし、大軍を揃えて敵との決戦中にやられたら内部から崩壊して必ず負ける事になる。」
「我らの強みがそこにありましたね。人間達は単独の国では魔族と対抗できないと知ってからは、複数の国が参加して決戦を挑んで来ましたのでモーガン王からの依頼で『人間の国同士の連携をブッ壊す方法』として開発したのが魔獣薬ですので目論見は大成功となりました。」
「魔獣薬を使うようになって人間の国が連携できなくなってからは決戦を挑まれることは皆無となり、魔獣薬の開発は終了したのです。」
「となると……この薬は魔族のフランクリンが開発した魔獣薬とは全く繋がらない別物の薬なんだな。効果もかなり低いし。」
等々、悪魔獣を押さえつけたままモーガンとフランクリンの三人で話し合っていると悪魔獣に変化が訪れる。
巨大に変化していた悪魔獣の体躯が縮み始めたのだ。
周囲に驚きが走る。
「これは……もしかしたら人間に戻ろうとしているのか?」
「ホープラー様の予想が当たりそうですね。ステータスも悪魔獣から人間に戻りました。」
「薬を飲んでから40分経過してないぐらいか……なるほど、目的はこれか。」
「ホープラー様、どういう事ですか?」
「研究者のフランクリンにはわかりにくいけど、薬を飲んで暴れて冒険者チームや騎士団に退治されるまでに一般市民に被害を追わせて終了。多分なんだけど、退治し終えたら人間に戻る薬なのかも。狙いは一般人のみなんだよ。モーガンにはわかると思うが。」
「なるほど。経済活動と地域の安全性に被害を与えるのが目的なんですね。小さな村のレベルでは壊滅的な被害を与えられますし。」
「あぁ、そういう事ですか。私にも理解出来ました。」
「これは厄介な薬を作り出したな。薬を発見するのは難しいし商人や旅行者に薬を持たせたら……水際対策が出来ない。」
「国交断絶でも難しいですね。薬のみをばらまかれたらどうにも出来ないですし。」
厄介極まりないな。
悪魔獣は既に素っ裸の冒険者に戻り力も魔力も使い果たしたようで意識を失い倒れている。
俺達三人がそんな結論となりつつある時にルドヴィークが漸く俺のところにやって来て話しかけてきたので、俺達は自己紹介を済ませてからルドヴィークに結論を伝えた。
「むーん、確かにホープラー様のおっしゃる通り、これは厄介極まりない薬ですな。解決方法がない。」
「いや、解決方法は一つあることはあるよ。諸悪の根元である人間至上主義者を壊滅させて大元を断つ事。ただ、これは即効性がなく時間がかかるから被害を抑えることは難しい。人間至上主義者達は何処にでもいるし。アーリンドル王国の友好国トルベッケトラース通商衛星国にもいるので、そちら経由だと入国制限すら出来ないので水際対策も不可能だ。」
「あそこの国は良くも悪くも『寄り合い所帯』の国家ですからね。」
「ホープラー様、問題はまだありますね。例えば大陸間を渡る船のように限られた空間内でこの薬を飲料水に混ぜられたら……恐ろしい事になりますね。」
「確かに。でもその場合は薬の濃度の関係もあるから今は一概にどうこう議論できないと思う。だけどまだ世の中に出回る前だから早めに動いてこちら側の情報共有する必要があるな。」
「ですね。」
俺はアニーをはじめとするハイエルフに情報を回した。
俺の記憶の映像とステータスの変化などの情報を送ると、世界中のハイエルフから返事がきたが、まだどこの大陸にも同じような事件は起きていないとのこと。
周囲の友好国家への情報共有と人間至上主義者の貴族を探って欲しいと依頼。
人間至上主義者達は亜人をターゲットにしているので、警戒レベルを上げて対処すると返事をもらった。
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