第86話
そういえば……龍王も最初のうちはリッチさんの事を冥王と呼んでたな。
俺がリッチさんと呼び続けているうちに、龍王だけでなく古龍の長老達までもリッチさんと呼ぶようになったけど。
んー、まぁリッチさんはリッチさんなので問題ないだろう。
冥王と呼ばれる謂れは、リッチさんの住むアンデッドダンジョンが冥府に続いている噂があるからと言われた。
最奥にあるダンジョンコアとも話したことがあるのは俺だけらしい。
知らんかったわ。
……まぁ、最近は俺とリッチさんがアンデッドダンジョンのレベルを上げすぎたので、ホントに冥府まで続いていそうなレベルにまで進化してるのは内緒にしといた方が良さそうだ。
モーガンは始祖魔王国の魔王で魔族最強だったのは数千年前から変わらない事実なんだけど、千年前に急に世界統一戦争を始めた決定的な理由は……
よく分からないんだと。
まだ魔王会議が発足する前に友人の魔王によるお酒の席での愚痴がきっかけといえばきっかけ。
魔王大陸に人族のちょっかいが酷くなってきていた。
魔族が誘拐されて奴隷にさせられているケースも増えているので、明確な法律を作って誘拐犯には厳罰を与えたい……という事があった。
それで人族の国に直接文句を言いに言ったら、モーガンを殺しにきたんだと。
アホやな。
全力で龍の逆鱗を蹴っ飛ばしに行くなんてな。
売られた喧嘩を全力全開の最安値で買った結果が世界統一戦争にまで発展した。
おかげで魔族の誘拐は無くなったし、世界中の魔族の奴隷も解放されたから結果は最良。
しかも魔族の奴隷を持つだけで国が滅ぼされるという伝説が残ったので、魔族を所有するリスクがデカ過ぎて誰も所有しなくなった。
それに加えて魔族の奴隷が高値で売れなくなったという、売る側のリスクもデカくなり取引そのものが消滅したようだ。
モーガンの理想が達成されたのが統一戦争後の世界らしい。
魔力を使いすぎて吸血鬼の始祖特有の黄泉縛りという呪いのせいで強制的な眠りにつき、起きた後もダラダラ過ごしていたら、調子こいた勇者もどきが喧嘩を売ってきたから、ムカついて蒸発させたのが全部セットになったのが伝説として伝わってるようだな。
俺は伝説の本当の話を当事者から聞いて楽しかった。
グレタは声もでないほど驚いていたけど。
それにしても千年前に魔族から世界統一されるほど奴隷制度を全否定されて権力者が軒並み叩き潰されているし、ハイエルフによって何度も滅ぼされているのに、いまだに奴隷問題が噴出してる人間社会っていったいどうなってるの?
……って疑問がわくよ。
モーガンから教えてもらったけど、人族以外の種族とは世界統一戦争では『会話』で済ませていて、むしろ戦争時には色々と協力してもらっているんだと。
基本的に人族以外の種族はほぼ被害者側だから戦争する意味ないしね。
モーガンはハイエルフの協力は断った。
ハイエルフに手伝ってもらうと全ての手柄と伝説がハイエルフのものになって、魔族にとって理想的な結果は得られないだろうという判断から丁重にお断りした。
結果を見ると『高値で売れなくなった』という理由が一番大きいような気がする。
買う側を取り締まるのは人間の欲望にキリがないので難しいけど、誘拐して売る側の犯罪者集団のリスクをもっともっと大きくすれば数が減るんじゃないかと思った。
アニーと今度相談してみよう。
犯罪者集団からの密告を受けられる制度を作り犯罪者集団側にスパイが常にいるという状況を作れれば、犯罪者集団側のリスクだけが増大して誘拐の旨味が激減。
旨味を得るため奴隷の金額だけが跳ね上がっていけば、買えるクライアントも減っていくんじゃないのだろうか。
ユーとミーが関わった……
トルベッケトラース通商衛星国の龍の森に近い国境の町コンセプシオンの元領主『ジルベール・フォン・ホルヴァート』男爵から始まる一連の騒動で、俺が倉庫から見つけ出した資料はアニーに全て渡した。
資料からジルベールが関わった全ての犯罪者集団は全滅している。
ここでさらに犯罪者集団を潰すための仕組みが出来れば……
しかも犯罪者集団自身が自分達のリスク回避で『どこどこの誰かが奴隷が欲しいという依頼がありました』と密告するシステムを作成出来れば完璧のような気がする。
どちらも信用出来なくなり取引するリスクが増大するからな。
これも今度アニーと相談してみよう。
まぁ、それらはさておいて……
モーガンの話は面白い。
吸血鬼の始祖特有の呪い『黄泉縛り』について教えてくれた。
「簡単に申しますと黄泉縛りという呪いは始祖の魔力制限ですね。」
「魔力制限ですの?」
「魔族の吸血鬼には色々な制限があります。日光に焼かれるってのがメジャーな弱点ですね。吸血鬼には色々なランクがありますが、一番下の吸血鬼は日光の下で活動するには『漆黒の衣』というアイテムが必要になります。もしくは日光を遮る為の結界魔法やアイテムが必要になりますね。」
「じゃあ、日光の下で結界もなく活動できる吸血鬼はモーガンだけ?」
「いえ。上位吸血鬼は生まれながらにして日光を無効化できますね。日光の無効化は子供に受け継がれないですし、生まれた瞬間に決定してしまうので、ほとんどの吸血鬼の親子関係は希薄です。上級吸血鬼といってもそれなりな特権しかないのに兵役の義務などが生まれるので、そこまでは歓迎されていませんね。」
「なるほどね。特権と義務がセットになってるから、もろ手を上げて歓迎にはならないんだね。」
「上級吸血鬼はそれなりに大きな力を得ますので、それなりの特権とそれなりの義務が発生します。」
「全部それなりなんだね。」
「上級吸血鬼はどれほど鍛えても魔族の中ではそれなりの力しか得られませんので。
しかし貴族クラスで下位貴族の『男爵』『子爵』はエルフクラスの力を得られますし、『伯爵』『侯爵』『公爵』の上位貴族クラスともなりますと小国の軍隊を凌駕する力を得る事が出来ますので、かなりの権力を与えますが義務も大きいです。」
「生まれながらにしてわかるんですか?」
「はい。吸血鬼は生まれながらにして称号を得ますので。称号を多少越える力を持つことは鍛え方によって、もしくは特殊なアイテムや武器や防具を装備すれば使うことは出来ますが……今度は寿命が持ちません。」
「生命力を使って力を得るのか……」
「吸血鬼が力に取り付かれた末路は死しかありません。私の場合は限界を越える魔法を連発し過ぎますと『黄泉縛り』という呪いが発生して強制的な眠りにつきます。」
「呪いなんですの?」
「呪いですね。回避不可能の呪いです。多少は遅らす事は出来ますが、その後の眠りの時間が伸びましたのでペナルティーが増加するようです。」
「世界統一戦争後の眠りが3百年と長かったのは眠りを遅らせたから?」
「はい。エルフの薬師にお願いして眠りを薬で遅らせて世界統一を果たしたのです。」
「なるほどなぁ、もしかして黄泉縛りという呪いやペナルティーがあるのは、吸血鬼の始祖は『不死』だからかな?」
「多分そうだと思います。死なない変わりの呪いなんだと思いますね。答えが合っているのかはわかりませんが。」
モーガンと龍王に椅子とコーヒーを用意してグレタと4人で座って話す雑談は物凄く楽しい。
「そういえば前に龍王が言ってたけど、今の勇者っていないの?」
「勇者『もどき』は何人かいるみたいなんだけど、本物の勇者の情報が上がってこないね。魔王は知ってる?」
「うちの情報網にも全く引っ掛かってこないから、今は生まれていないと思う。」
「勇者と魔王って争う運命だったりするの?」
「グレタ婦人、魔族の大陸に一切やって来ない勇者の方が多いですよ。どうも私の魔王の力は衰えていないのですが、勇者の力は年々衰えていってます。復活もしなくなりましたし。」
作者からのお願いです。
少しでもこの作品を面白いと思っていただけたら↓の好評価とブックマークの登録をお願いいたします。
皆様の応援が作者の励みになります。
是非ともよろしくお願いいたします。




