第84話
「龍の森では他の原始の森には存在しない『恐竜』と呼ばれる龍属の亜種が数多くいると聞いたのですけど、アーリンドル王国側にはあまり出てこないようなのですが、何か秘密がありますのでしょうか?」
バレリオの結婚話が途切れたタイミングでイングリッドからの質問があった。
「確かに恐竜は龍の森にしか存在してないね。秘密っていうには微妙なんだけど……恐竜は龍の森が持つ『魔素の濃さ』の中でしか生きていけない……って訳ではなくて、恐竜が長生きするのに龍の森の魔素の濃さが『都合が良い』って龍王に聞いた事があるな。だから一時期龍の森から離れることがあっても直に戻るらしいよ。だけど、他の古代の森なら普通に暮らしていけるみたいなんだけど。」
「長生きの為に戻るんですか?」
「龍の森の魔素の濃さがないと恐竜の強大な力が維持出来なくて、ほんの少しずつだけど落ちてくるみたい。自分自身の力が落ちてきていると実感できると『龍の森に帰りたい』って本能に訴えてくるという話。とはいえ数百年という時間経過が必要らしいけど。」
「そうなんですか。」
「アーリンドル王国側にあまりやって来ないのは、龍の森の西側は1年中気温が低くなっているのが原因だと思う。恐竜には少し寒いから行きたくないみたいだし。逆にトルベッケトラース通商衛星国側は1年中温暖な気候だから、ちょいちょい恐竜が居座っている事が多く問題が多かったみたいだけど。」
「恐竜は寒いのが嫌なんですか?」
「龍王が言うには……恐竜は龍の森の雪が降る積もる岩山でも普通に生活出来るから苦手ってだけで暮らせない訳ではないって教えてもらったな。『なんかなぁ……ちょっと寒くてイヤだなぁ。』ってだけ。」
イングリッドが耐えきれずに笑ってしまう。
その隙にレナートも問い掛けてきた。
「ホープラー様が龍の森の王という事は恐竜は配下になるのですか?」
「部下って感じはないなぁ。完全なる弱肉強食の世界が恐竜社会だから『強いものに従う』ってが恐竜社会の唯一のルールって感じなのかも。俺が恐竜を食べないから食物連鎖の枠の中から外れている事に理解してくれたみたいで、俺を見ても死んだフリはしなくなったな。」
「恐竜が死んだフリしていたんですか?」
「してたよ。俺がまだ5才の時に。尻尾まで含めると体長10メートル以上ある肉食恐竜がバタンと倒れて死んだフリ。」
「……凄いですね。エグ過ぎますね。」
「それがハイエルフって種族だし。俺の場合は龍の森の王だから仕方がないんだよね。1年以上経過してから漸く慣れてきたけど。」
ここにきてエイスを撫でるのに夢中になってたダニエルが漸く復帰してきた。
「ダニエルにプレゼント。はいこれブランデー。少し甘めなブランデーだから紅茶との相性が良いんだよね。」
「ありがとうございます!」
膝の上で寛いでいたエイス。
ダニエルが急に立ち上がって俺に近付いてきたのでぶっ飛ぶ。
近くにいたメイドさんが慌ててキャッチ。
メイドさんもモフモフスキーだったようで、抱き抱えたエイスに頬擦りして嬉しそうな表情をしている。
ダニエルはエイスに謝っているが、エイス自身目を白黒させて驚いていてよくわかっていない模様。
執事が紅茶を持ってきたのでダニエルがブランデーを数滴垂らして匂いや味を確認している。
キラーンと目が光ったな。
ダニエルの好みの味だったようだ。
「ホープラー様、このブランデーはどこで手に入れられましたか?」
「お隣のラハティカンナス獣人公国だね。ラハティカンナス獣人公国は少し甘めのブランデーが主流みたいで、何本か入手して味わったけど……全体的に『紅茶に合いそうだな』って感じていたんだよ。」
「なるほどなるほど。どうやら蒸留所を探すべきですね。今まで私は紅茶に一辺倒となっていて、ブランデーと紅茶の相性の良さを研究してこなかったですね。情報ありがとうございます。」
「ホワイトリカーがあれば紅茶のリキュールとかも楽しめるんだけどね。」
「ホワイトリカー……どこかで聞いたような気がしますけど、どんなお酒なんですか?」
「酒としては『無味無臭』だからホワイトリカーだけなら味わいもクソもないよ。だけどフルーツをホワイトリカーで漬け込むと果実酒が出来るし、紅茶の茶葉を漬け込めば『紅茶のリキュール』になってる。」
「ああ、果実酒の元のお酒ですか。……紅茶の茶葉も漬け込めるのですか。……なるほど研究する必要がありますね。」
「グレタが前から言ってたけど、ホントに凄く紅茶に拘ってますね。」
「なぜかよく分からないんですけど、紅茶の味ってだけで気になって注目しちゃいますね。」
などの紅茶談義に花を咲かせた。
夜は俺は客室にグレタは自分の部屋で就寝。
さすがにグレタの実家で同室で一緒に寝るのは俺が断った。
なので深夜遅くまでグレタはイングリッドとお酒を飲みながらガールズトークをしていたみたい。
翌朝は俺が毎朝、龍の森を散歩するのが日課だと言ってたからか、俺が客室を出るとバレリオとレナートが待っていた。
一緒に龍の森の散歩をしてみたかったらしい。
グレタは今日は不参加と言われたので、俺はエイス達とバレリオとレナートを連れて龍の森の北側へと転移魔法で移動する。
龍の森の岩山側は雪がちらついているけど大草原に近い北側は真冬でも暖かくなってくる。
北に向かって歩いているとだんだんと暖かくなってきて、バレリオとレナートはコートを脱いで自分の収納袋に入れた。
北側は草食の魔獣が多く肉食の魔獣は少ないので、初心者用の冬のおすすめお散歩コース。
到着して最初にボールやフライングディスクや枝を投げて、エイス達と遊び回ったので周囲の魔獣達は少し移動して離れた。
バレリオとレナートもボールやフライングディスクや枝を投げてみたけど、全力で投げても目の前にいるエイス達がタタッと少しだけ走ってキャッチしてしまうので、バレリオとレナートの方が諦めてギブアップした。
本来の大きさに戻っているエイス・フーロー・ライチの運動神経には全く敵わないと嘆いている。
それからは真冬の早朝の散歩とは思えないほど暖かな森を皆でのんびり散歩する。
草原手前の森とはいえ起伏が激しい部分もあるので、バレリオとレナートにはかなりキツイ移動となった。
彼らは途中からエイスとフーローの背中に跨がり移動することになった。
バレリオ達は馬の背よりも高いモフモフの背中に乗り移動するのが、嬉しそうでニコニコと笑顔を浮かべている。
俺の両肩に跨がるように乗るライチ。
枝が時々頭に引っ掛かり……我慢できずにライチは小さくなり左肩に移動した。
俺から降りるという選択肢はないようだ。
俺とライチがとある方向の上空を見つめると、エイスとフーローがバレリオ達を守るように俺の後ろに移動。
上空からワイバーンがバッサバッサと翼をはためかせて、森の木々の隙間から木の小枝をへし折りながら降りてきた。
「グワー、グゥワー」
「ん? どうしたんだ?」
「ピィヤー」
さすがにワイバーンの言ってる事はわからんなと悩む前にライチが思念を送ってきて、ワイバーンが足で掴んで運んできた魔獣がいることに俺はやっと気付いた。
瀕死のオリックス魔獣だな。
回復魔法をかけると即座に全快。
大草原と龍の森の北側の境目付近に多く住むアンテロープ系の魔獣で直線の角が特徴的な魔獣。
オリックス魔獣の記憶を覗くと、ここから程近い場所にいる群れの1頭。
肉食魔獣から逃げようと走りまくっている途中に仲間とはぐれ大草原に行ってしまった。
群れに戻ろうとして探していると子育てで荒ぶっているスレイプニルの群れに不用意に近付いてしまい何頭かに蹴られて瀕死の状態になった。
岩山に帰る途中に通りかかったワイバーンが、瀕死のオリックス魔獣を見つけて、近くに俺がいることに気付き連れてきてくれたみたい。
ここからなら群れに帰れるだろう。
オリックス魔獣の頭をポンポンと撫でると『ブモー』とひと鳴きして帰って行った。
ワイバーンも頭をポンポンと撫でると『グワー』と鳴いて飛び立って行った。
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