第82話
「そろそろ堅苦しい話はやめて、午後のティータイムを満喫しましょう!」
イングリッドは殺伐としている空気を変えるために、シェフに頼んで紅茶とケーキセットを運ばせる。
それを待つ間にレナートに懇願されてレナートのロングソードも、バレリオの持つロングソードと同じ加工をして強化。
それを見ていたイングリッドも自分が持つショートソードをメイドに運ばせて俺に加工を依頼。
これは逸品なので加工が要らないと説明するが、何か腑に落ちない表情のイングリッドを納得させるため、再生の魔法付与で切れ味を自然治癒するショートソードにした。
するとめちゃくちゃ喜んだイングリッドがショートソードを頬擦りするのを執事が止める。
うん。面白い家族だわ。
殺伐としていた空気が霧散した。
メイドが運んできた紅茶は絶品だった。
ダニエルが子供の頃からの無類の紅茶好きで、長年取引のある紅茶の名産地の領主と知り合いも多く、ダニエルだからと特別に分けてもらっている茶葉を使った紅茶を、今日は特別に出してくれた。
香りと味が豊潤で口に含んだ時のハナに抜ける紅茶の香りが最高。
かなりの高級品だろう。
ダニエルに聞いたら『値段のない品』らしい。
産地の最高級品の茶葉で王家に献上している以外は知り合いにしか渡していないので流通していない以上、値段が今までつけられたことのない紅茶。
ダニエル曰く……
値段が付くことは今後もないだろうとの事。
なるほどね。
納得の味と香り。
一緒に出されたケーキはシフォンケーキ。
数種類のドライフルーツを入れたシフォンケーキでシェフの自慢のケーキ。
紅茶の味を一切邪魔する事なくケーキとしての存在感も消えていない。
ストレートティーとの相性抜群なシフォンケーキだ。
紅茶を一口飲んだ瞬間から騒がしかった家族の会話が消えた。
皆が目を閉じて味と香りを集中して楽しんでいる。
皆が紅茶とケーキを満足してから会話が始まる。
レナートが騎士団新人として昨年になって漸く正式配属されたが、見習い期間中からの昇格なのにも関わらず、騎士団の違う部隊に配属されてしまい……元の部隊に戻るまで2ヶ月以上もかかった。
調べたら第8連隊所属となるはずの辞令が第3連隊となっていた。
単純な数字の書き間違えのミス。
こうなると厄介極まりない。
もうそのまま第3連隊に所属しろよ面倒くさいとぬかすバカ上司の横槍まで入って、しっちゃかめっちゃか。
誰の間違いで誰の確認不足。
最終決裁は誰など……
話が拗れた結果……
最終的にはラーフィーの裁定まで行ってしまう状態となり、やたらめったら時間が掛かるお役所仕事となった。
面倒くさがり期限までに書類を作成しないバカ上司が、自分の責任逃れの為に会議の場で『そのまま第3連隊に所属しろよ』などとぬかして会議が紛糾する始末。
そんな話をレナートが上手に話してくれて盛り上がる雑談。
バカ上司はラーフィーまで話が行った事でミクリーに呼び出され1ヶ月の職務停止処分を受けている。
アホやな。
グレタの弟のレナートはテオのお気に入りでもあるのに。
案の定テオがいる会議の場での発言の為にテオが叱る前にテオの三色がブチ切れる案件になったらしい。
三色がブチ切れて怖かったとレナートは震え出す。
三色がブチ切れるのはテオが切れると厄介極まりない事案に発展するから、と理由もあるにはあるんだけど……ただ単にテオを舐めた発言に切れただけのような気がする。
三色がブチ切れる事でテオは冷静になり止める側に回ることでテオの悪評を三色が引き受けている形。
当事者ではないから……面白い話だった。
当事者のレナートには災難な2ヶ月だったみたいだけど。
レナート以外は爆笑していたから、今となっては笑い話なんだろう。
ここでイングリッドからグレタの私室がそのまま手付かずで残されているので、俺を案内しなさいとグレタに命令が下された。
恥ずかしくて顔を赤らめるグレタに連れられて、手を繋いだままグレタの部屋に向かう。
部屋に入った感想は『本の多い部屋』だね。
かなり大きな本棚が壁一面に広がっている。
本棚の一番上は梯子がないと取れないほど大きな本棚。
武術や魔法の本も多いけど恋愛小説や推理小説などの本もたくさんある。
部屋は黄色系統の色が多用されていて明るい雰囲気を醸し出している。
ちなみにグレタは社交界デビューはしていない。
学生時代から騎士団に直行したので生前からの婚約は幼少時に破棄されている。
社交界デビューもしていないので、ドレスは必要最小限のドレスしか持っていないし、ハイヒールよりもジャングルブーツの方が履き慣れているお嬢様。
貴族としてのマナーは無論叩き込まれているが、学校で学んだ最低限のレベルでしかない。
バレリオとレナートは世継ぎになる可能性を考えて、社交界デビューは一応済ませているし、2人の婚約者もエッシェンバッハ辺境伯が間に立ち既に顔合わせまで済んでいる。
バレリオとレナートの武人としての評判を考えてエッシェンバッハ辺境伯家は囲い込みをしたのだろう。
テオとの関係、俺との関係も考えると囲い込んでおいて正解だったと胸を撫で下ろしているだろう。
グレタの部屋で雑談しているとエイス達から早く帰ってきてコールの念話が入る。
今夜はグレタの実家に泊まる予定だし、明日は多分エッシェンバッハ辺境伯家にお世話になるだろう。
放置するのも可哀想なのでダニエルにペットを連れてきても良いかと許可を得る事にした。
魔獣だけど俺のテイム済みで子供の大きさまで小さくなる事が出来るので迷惑は掛けないと説明したら、そんな魔獣は見た事ないので逆に見たいというイングリッドからの要請もありダニエルの許可を得た。
2頭と1羽を転送魔法で館の内庭まで引き寄せる。
大きなまま引き寄せたので、馬よりも巨大な魔獣で放たれるプレッシャーに声も出なくなるカラマンリス家の人々。
目の前で子供の頃まで小さくさせると、ダニエルは狂喜乱舞して喜んでいる。
グレタのモフモフスキーはダニエルのDNAからだったみたい。
イングリッドとバレリオとレナートも嬉しそうにエイス達を撫でているけど、ダニエルのハシャギっぷりはグレタにとても似ている。
目が糸目になって満面の笑みを浮かべてモフモフを撫でるダニエルは、イングリッドが少しだけ引くレベルではあるが、メイドさん達や執事は目を輝かせているので……
モフモフスキーはまだまだいるね。
エイス達もグレタの関係者だと即座に理解したみたいで素直に甘えている。
ダニエルはエイス達に甘えられてトロトロの笑顔で撫で回している。
俺とグレタも同じ属性を持つモフモフスキーなので気持ちはよく分かる。
3人で同じようにエイス達を撫で回しているし。
ダニエルはエイス達と遊びたいが為に館の庭で遊ぶ事を提案して、他のメンバーも了承した事で全員で庭に移動する。
カラマンリス家は男爵なのでそれなりの庭の広さしかないが、エイス達は小さいままなので遊び回れるぐらいのスペースはある。
俺、グレタ、イングリッド、バレリオ、レナートは庭の東屋で引き続きティータイムと雑談を楽しむ。
ダニエルは執事とメイドと共にエイス達と遊んでいる。
「ダニエルがあそこまで魔獣の子供が好きだとは思わなかったわ。」
「魔獣の子供ってよりモフモフしてる生き物が好きなんだと思うよ。私もホープラーも大好きだし。」
「そうだな。挙動が完全にモフモフスキーの典型的な挙動。俺とグレタも一緒だな。」
「確かにモフモフしていて可愛いとは思うけど、夢中になる程ではないかな。バレリオ兄さんはどう?」
「俺もレナートと一緒だよ。可愛いとは思うけど、夢中になる程ではないよ。」
などとモフモフスキー特性の話で盛り上がる。
ダニエルはモフモフと戯れるのに必死で会話に参加してないけど。
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