第72話
お互いにスライムにもたれ掛かりコーヒーを飲みながらの雑談は続く。
「学校で習うの?」
「学校に行くもっと前からよ。空を飛ぶワイバーンや古龍を見てあれは何かと質問すると、どこの誰からでもアーリンドル王国の常識として森の恵みを教わるの。」
「ある意味で洗脳だね。」
「確かにね。でも常識として正しく学ばなくてはいけないものだから。」
「龍の森側の俺としてはむちゃくちゃありがたい洗脳だよ。」
「龍の森の木材や小型ワイバーン便の使用及び整備だけでも国が繁栄するほどの恵みがあるだけでなく、旧ダーリングアストリー帝国と旧デバッケルフラート教国という異常な隣国と接していた我が国は、背中側に頼もしい味方が存在するありがたさもいただいていたからね。霊峰山の森とは国が接していないけどアニーさんとアーリンドル王国の付き合いも長い……そんな知識は学校で教わるけど。」
「アニーはアーリンドル王国よりも大陸北部のリンタネンキュトラ共和国にかなり肩入れしてるからね。千年近い付き合いだって言ってたな。アニーの曾孫が国の建国に関わっていたから、どうしても気になってしまうと言ってた。」
「私も聞きました。子孫があそこにいるからって。」
「元々砂漠と痩せた草原しかない場所に国を作ったって。過酷な環境だからこそ人々は協力して暮らしてる素晴らしい国よっていつも自慢してるね。俺も何回か遊びに行ったことあるよ。アニーが砂漠に空の魔石を埋めて置いておくと火の魔力で満タンになると教えた事で、やっと国として外貨を稼ぐ事ができて経済発展するようになったらしいし。」
「ハイエルフって凄い知識を持ってるんだね。」
「あれはアニーだけの知識。俺や他のハイエルフは知らない知識だよ。ハイエルフは生まれた時からハイエルフとしての知識と『生まれ持った知識』があるんだ。俺も様々な調味料とかの知識を持っているけどアニーやパシーは知らないみたいだし。」
「そうなんだ。ホープラーの料理は見たことなくてホントに美味しいから病みつきになると困るのよね。ホープラーといないと食べられないから。塩辛い物は苦手だけどね。」
「確かに俺の料理や食材は塩辛い物が多いな。塩漬けしてある保存食が基本となってる食材が多いから仕方ない部分もあるけど。」
「甘いのは好きね。『ツクダニ』だったっけ?」
「『佃煮』ね。あれも保存食だね。グレタの好きな『沢庵』も保存食だよ。」
「沢庵ね。あれは美味しいわ。ポリポリとした食感とほどよい甘さが最高よね。」
「上級者には『いぶりがっこ』ってのがある。大根をローストしてから沢庵漬けしたもの。」
アイテムボックスからスライスしてあるいぶりがっこを取り出してグレタに渡した。
「クセが強いわね。でも、これはこれで美味しい。」
「確かにクセが強い。俺はそこまで好きじゃないんだよね。」
「そうなんだ。こんなに美味しいのに。」
「美味しいのはわかるんだけど、いぶりがっこと普通の沢庵出されたら、普通の沢庵を食べて時々いぶりがっこに手を伸ばすってぐらいかな。」
「それは私だったらかなり迷うシチュエーションね。交互に食べるのは確実なんだけど、果たしてどっちを先に食べるのが正解なのか……悩むわね。」
「正解って。」
「難問よ。」
エイス達が暇をもて余しているみたいなので、朝行った龍の森の西側に皆で転移して
からまた散歩に出かける。
朝の霧が消え少し乾燥した冬の風が木々の隙間を優しく吹いてくる。
足元の苔はまだ少し霜が所々に残り、足で踏むとガシュガシュと音をたてて砕ける。
肉食の恐竜や魔獣達は朝ののんびりした時間を過ごしているようで、日の当たる場所に寝転んでゴロゴロしている。
草食の恐竜や魔獣達は今が食事の時間なのか草や葉を食んでる。
隣で手を繋いで歩くグレタが笑ってる。
「ホープラーが言ってたように全部の恐竜や魔獣達が、本当にチラッとこっちを見て何か確認してから元の体勢に戻るわね。ハイエルフだって確認してるのかしら?」
「わかんない。でも最初の頃はビビってフリーズしたり死んだフリとかしてたし目も合わせてくれなかったよ。」
「へー、龍の森の王だって確認し終わったのかな?」
「どうだろうね。会話したことないからよくわからないけど……恐竜の種類によって変わるよ。龍の森の住処近くの中央部に住むウォルザオリアーという小型の肉食恐竜は、最初から集団で甘えてきてめちゃくちゃ懐いていたよ。なんかワンコみたいで可愛かった……ね。」
朝の散歩と違いアーリンドル王国により近い龍の森の西側を散歩。
俺が話してる途中でアーリンドル王国側を見ていたのでグレタが心配してくる。
「何かあった?」
「森の空気が……変わった。ライチ!」
「ピィヤー」
「グレタ、急ごう。」
「キャッ」
グレタをお姫様抱っこするとライチに先行させて、エイスとフーローと共に駆け出す。
笛の音が聞こえるとお姫様抱っこされて俺に抱きつくグレタが教えてくれた。
「この笛の音はアーリンドル王国警備隊の警戒ホイッスルね。何か事件かもしれない。」
「わかった。エイス、フーローも先行して!」
俺の両隣を走っていたエイスとフーローにも先行させた。
ライチだと殺傷力が強すぎて敵を押さえ込んで無力化させるのは難しいし。
俺もグレタがいなければもっと早く走れるが、これ以上はグレタの身体が持たなくなるだろう。
とはいっても場所はそこまで離れていないのですぐに到着するけど。
現場に到着してグレタを降ろす。
現場は警備隊の隊員や騎士団の隊員達が入り乱れて騒然としている。
騒然とした輪の中にエイスとフーローが前足で1人づつの4人を押さえつけている。
4人はハーフプレートメイルを装備してるが、紋章が鎧兜には無くて鎧の上から装備しているマントの襟裏に入っている。
どこかの別の国の正規軍ではなく、貴族の私軍って感じで隠してるのか?
4人全員が気絶してるようで意識がないからまだ尋問できない。
ボロボロの衣服を纏った獣人が1人座り込んでいて、なぜか頭の上にライチが小さくなって乗っている。
状況がよく分からないな。
「ホープラー様とジャリストン子爵、お久しぶりです。」
挨拶してきたのはアーリンドル王国森聖騎士団軍団長のエルフだった。
名前は『テオドール・ヘーグマン』通称テオ。
500年以上アーリンドル王国に仕える古参の重鎮。
以前から何度も模擬戦してる仲なので俺だけでなくユーやミーとも仲が良い。
グレタは師匠の師匠に当たる人で子供の頃から可愛がって貰ってる人。
「ヘーグマン卿、お久しぶりでございます。」
「やぁ、テオ。どしたの?」
「私もよくわからないのですが……森の近くの草原で警備隊と森聖騎士団と合同訓練中に警戒ホイッスルが聞こえたので、訓練を中止してここに向かって走って来たらこんな感じになってまして。」
ここに警備隊の隊長が割り込んできた。
「ホープラー様、申し訳ありません。隊で草原をパトロール中に道の方から、そこの獣人がその4人に追い掛けられていまして、ホイッスルを鳴らして停止するように命令したところ、4人が突如として腰の剣を抜きました。それで獣人と4人の間に身体を入れて保護しようとした隊員に斬りかかって盾を構えた瞬間に、そこの鳥が突然現れて『ビィヤー』と鳴いたら……こうなってました。」
ライチ達のあまりの早業で最後はよく分からない状態になってたようだ。
ライチが鳴いて威圧を出して皆の動きを停止させてからエイスとフーローが制圧したみたいだ。
座り込んでいる獣人は中年のおじさんの元奴隷かな。
森に入った事で奴隷紋は消滅してるからわからないけど、見たところ細かな傷があったので治癒魔法で治す。
ユーとミーのように空腹がヤバそうだったので、卓袱台を出してハーブティーとホットドッグを出すと、あっという間に食べて飲み干した。
おかわりをあげると、今度はゆっくりと食べ始めた。
「隊員達で怪我人はいない?」
「はい。交戦前でしたので大丈夫です。」
「それなら安心だね。テオ、どうする?」
「ここは龍の森の中になりますので全ての権限はホープラー様が持つことになります。」
「そうか。違法奴隷っぽいけど4人の鎧兜とマントの襟の裏の紋章が気になるな。テオは見たことない?」
「別の大陸のようですね。見たことない紋章ですからわかりませんね。」
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