第71話
ラーフィーとミクリーから結婚祝いとして10日ほどグレタの休みをもらった。
ミクリーの腹心の部下をジャリストンに派遣してくれたので領地経営は心配いらない大丈夫だとラーフィーも保証してくれた。
新婚旅行にでもどうだ? と言われたが……
グレタは今は行きたいところは無くて、龍の森でのんびりと生活してみたいなと言われた。
ユーとミーはその間はアニーと霊峰山の森で遊んだり、パシーと汽水湖の森で遊んだり、ラハティカンナス獣人公国で龍の森クラブメンバーとオークダンジョンに潜ったりして過ごす。
アニーとパシーとユーとミーの協力を得て夫婦水入らずの時間を貰った。
それが今日。
水入らずとはいえエイス・フーロー・ライチとスラリン、グレタのスライムのマリスもいるけど。
朝の散歩もグレタと一緒。
今日は龍の森の西側でアーリンドル王国側の森を歩く。
こちら側はロックライガーを始めとする魔獣が数多くいる。
なぜか年がら年中涼しい場所で恐竜があまりいないから。
小さな池が点在していて苔も多く湿度も高い。
少し歩きにくい。
冬のこの時期は歩いていると霜でバリバリうるさい。
霧も多く発生していて朝の時間は魔獣達は起き出していないので物凄く静かな場所。
恐竜達が少なく生えてる木々も巨大だからワイバーンも多く、いくつもの群れとなって生活しているけど、この時間は霧も濃いのでまだ飛び回っていない。
グレタと手を繋ぎ会話しながらの散歩。
エイス達は俺とグレタに撫でて欲しくて時々纏わりついてくる。
「ホープラーの言ってた通り霧が凄いわね。」
「この時期は特にね。太陽が昇って気温が上がるとなかなか霧が晴れないんだよね。もう少しすると風が吹いてきて霧も晴れるんだけど。」
「霧が身体に纏わりつくような感覚なんて初めてよ。」
「そっちは岩があるから気を付けて。」
「ぜんぜん見えないけど。うわ! こんなに大きい岩が見えないなんて。」
岩に当たらないように繋いだ手を引っ張ったと同時にエイスがグレタと岩の間に入ってくる。
「エイス、ありがとう!」
エイスはグレタが撫でると満足そうに顔をグレタに擦り付けている。
飛んでいたライチが空中で『ピィヤー』と鳴くと岩の上にいたワイバーンが『グワァー』と答えてる。
ただワイバーンが休憩してただけみたい。
まったく動かないから寝てると思ってたので少し驚く。
声を聞くとまだまだ子供のワイバーンだな。
歩いていると霧は晴れた。
今日は天気は良くなりそうだ。
上空をワイバーンが飛び交い始め魔獣達も巣から出てきた。
空にはスフィンクス達も飛び始め空中でも戦いが始まる。
ハイエナ魔獣なども巣から出てきて肉食魔獣達が食い荒らした腐りかけの肉を骨ごとバリバリ食べて森の掃除中。
アリ魔獣は別の獲物を探し回っている。
昆虫魔獣は種類はそれほどいないけど数多くいる。
彼らが死体処理しないとゾンビまみれになるしね。
アリ魔獣は15センチぐらいの大きさなのでエサと認識されていないが、アリ塚が大きくなりすぎると魔獣や恐竜達に破壊されて中の幼虫を食べられて、増えすぎないように調整されてる感じ。
ハイエナ魔獣も同じような感じ。
沢山いるけど『マズイ』らしい。
攻撃力や防御力は低くく足も遅くて簡単に捕獲出来るけど、美味しくないから見逃されてるだけみたい。
けど……腹減ってたまらない時用の非常食の位置付けになっている悲しい魔獣。
地球のハイエナと違いハイエナ魔獣は自ら狩りはしない。
ハイエナ魔獣は骨ごと噛み砕く顎の力と、腐っている肉を美味しくいただける頑丈な内臓ぐらいしか特筆する力しか持ってないので龍の森の恐竜や魔獣を狩れない。
身を守る術は……
『自らの肉体を不味くした』
特殊に進化させただけしかない。
ハチ魔獣はもっと特殊だ。
古龍にハチミツを定期納入する事で龍の森での最低限の安全を確保してる。
ハチミツ酒が大好きな古龍がいるから成り立っている特殊な事例。
俺もハチミツとハチミツ酒は定期的にお裾分けとして貰ってる。
両方とも年に10キロ程。
巣を狙う熊魔獣から守って貰ってるだけみたいで、成虫を狙うトンボ魔獣からは守って貰えないみたい。
そんな事をグレタと散歩で歩きながら雑談してる。
散歩の途中で迷子になってる熊魔獣の子供がいて、探査魔法で探って群れに届けたりというハプニングを終えると龍の森の住処に帰還。
朝食を食べながらグレタと雑談の続き。
「ねぇホープラー。龍の森の外縁部の死体処理はハイエナ魔獣と昆虫魔獣が担当してると言ってたけど、この住処に近い中央部の死体処理はどうなっているの?」
「龍の森の住処近くの死体処理は……中央部では腐肉を漁ることしかできない最底辺の恐竜が処理してる。彼等はネズミ程の大きさなんだけど数が少なく身体も小さいので誰からも狙われない。俺と同じように龍の森の食物連鎖の枠外にいるんだ。数が少な過ぎて処理が追い付いていないけどね。」
「処理出来ないのはどうなっているの?」
「龍の森の植物が分解して森に吸収されてるようだよ。でも最近は俺とリッチさんがちょいちょい拾って、リッチさんのダンジョンに吸収させていて、リッチさんのアンデッドダンジョンのレベルアップに利用してるよ。」
「なるほどねぇ。」
等々、龍の森の説明をしながら朝食を食べ終わった後のコーヒー時間を満喫中。
エイス達は住処から飛び出て追いかけっこの真っ最中で走り回って飛び回っている。
グレタも全く知らなかった龍の森の生態を興味津々で質問してきて、それに俺が知っている知識や龍の森の住処が暮らしていくうちに知った事実を教えてる。
「それにしても真冬の朝とは思えないほど暖かいわね。さっきまでいた龍の森西部と同じ森とは信じられないわ。」
「この龍の森の中央部は年間を通じて温度や湿度の変化がほとんどないから、季節感が全く感じないんだよね。」
「同じ森でもここまで違うってのも驚きよね。沢山の古龍が暮らし複数の世界樹が存在する巨大な龍の森だから納得しちゃうけど。」
「そういえば1万年以上前のはるか昔は、世界樹も1本だけで岩山に住んで暮らしてたと龍王が言ってたな。アーリンドル王国の場所にあった大国が龍の森の恵みだけで満足出来なくなって、森に手を出して滅ぼされた事が何度もあって広がったみたいだし。」
「今のアーリンドル王国の繁栄と隆盛を見れば恵みだけで凄いんですけどねぇ。」
「龍王も人の欲望の果てはないみたい、理解できないって言ってたな。経済が潤い国が巨大化すると欲望も巨大化するんじゃないかと。」
「じゃあ、森が広がったから世界樹も増えたのかな?」
「あれは龍王が広がった記念に世界樹の下に落ちてた枝を地面に適当に刺してたら育ったんだって。とはいえ、広がってないのに刺しても育たないらしいから、広がったから増えたってのは間違いないみたいだね。」
「じゃあ、世界樹の数だけ国が滅んでるって事?」
「そうみたいだよ。だからさっきまで歩いてた龍の森は元々国があった場所。俺も龍王に同じ質問して教えてもらったし。100年ぐらいは人も記憶して森の恵みに敬意を示すけど、200年以上経過するといくつも世代が変わり記憶が薄れてしまい、また森に過度の要求をして森の全てを奪おうとしてくる……その繰り返しだったって。」
「なんか人として耳が痛くなってくるわね。ホントに申し訳ないって頭が下がるわ。」
「今のアーリンドル王国になって今のグレタのように森への敬意を忘れない人達が増えて、森の恵みだけで豊かな生活を送れるんだと理解した『善き隣人』がやっと出来たと古龍達も喜んでたぐらいだし。」
「貴族だけでなく普通の一般的な家庭でも、私達アーリンドル王国の繁栄は森の恵みが継続的にいただけるからだと、子供の頃から育てられているからね。」
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