第68話
「数百を越える船が何度も移動出来たのは同盟国の協力があったからなのは間違いないですね。大公閣下の3国同盟への参加、デバッケルフラート教国への宣戦布告には驚愕しましたが、今から考えるとラハティカンナス獣人公国が生き残るのに、ギリギリ間に合うタイミングだったようですね。」
「被害を最小限に抑えるには確かにギリギリだったね。」
「軍の方針も一気に変わりましたから。私も思いきって一般市民の移動を完遂するまでの敵2ヶ国の遅延に神経を注げました。それからはいかに敵に損害を与えるかを、同盟国から来た応援軍と協議して計画を練る事が出来ましたし。」
「広大な無人の土地がある。すでに移動可能という環境があったからな。ハイエルフの会議でも無人の土地をどうするか、何も計画してなかったのも良いタイミングだった。後から聞いたけど、デバッケルフラート教国を滅ぼす事だけ先に決まって、アーリンドル王国が家畜とアーリンドル大河の北側を占領、全ての奴隷をリンタネンキュトラ共和国が市民として受け入れる。それ以外は何も決まってなかったらしいよ。」
「それでしたらトルベッケトラース通商衛星国に旨味がないような……」
「あ、これから話すことは他言無用で……
トルベッケトラース通商衛星国は4国同盟と共闘して、今後ラハティカンナス獣人公国を攻めた2ヶ国の主要な港を2つずつ占領する計画がある。主要な港は既に攻撃済みで占領してから2ヶ国と4国同盟との休戦協定の話し合いに移行する。既に下準備中で2ヶ国の戦力低下しているうちに休戦まで行く予定。傷を癒す暇は与えないと決まっている。」
「もしかしたらラハティカンナス獣人公国が2ヶ国に新たに宣戦布告した理由も?」
「そう。港を確保してから2ヶ国から奴隷状態の獣人を解放させる為の動き。『世界に向けて獣人解放を訴える』。これはハイエルフの奴隷解放の動きと連動しているから、俺達ハイエルフも休戦協定には立ち会って最大限のプレッシャーをかける事まで決定済み。」
「では、我ら獣人の地位向上へと?」
「獣人だからという下らない理由で奴隷寸前の地位にしている世界中の国に対してハイエルフも動いて圧力をかけていくんだよ。」
テレサの目に涙が溜まる。
「人間至上主義者達は世界中いる。しかし今後の活動は地下に潜らざるを得なくなるだろう。ハイエルフの監視から逃れるのは簡単ではない。国の教育まで口出しする事になる。時間は掛かるが獣人が解放される為にはね。」
「ありがとうございます。是非ともよろしくお願いいたします。」
「一緒に頑張ろう。」
お互いが両手で握手している時に大公の宮殿に到着した。
御者席にいた護衛が馬車のドアをあけてくれるが、俺とテレサの話が聞こえていた御者も2人の護衛も涙を流してる。
「皆も聞こえていただろうけど他言無用で。」
3人とも大きく頷いてから腰から頭を下げた。
正門前には大公本人がいて正門内側に使用人たちがずらりと並んで頭を下げている。
「ハイエルフ様ようこそお越し下さいました。私はラハティカンナス獣人公国『ミラン・ブラウンクロイツ』大公、現当主でございます。」
「やあ、龍の森の王で調停者のホープラーだ。よろしくね。」
「ではホープラー様、参りましょう。」
ミランが先立ち大公宮殿の奥へと入っていくので俺は後をついていく。
俺をここまで案内してくれたテレサと御者と護衛達は正門まででお役御免。
後ろには慌ただしく接待準備に入るメイドと執事達。
「夜分に済まないね。」
「何をおっしゃいますやら。この国はハイエルフ様達が私共の国にこの膨大な土地を譲ってくださったからこそ存続できているのでございます。感謝こそすれ迷惑なんて思う輩はこの国では存在すら許したくないと考えております。」
「そんなに畏まらなくて良いよ。俺はまだ18才で年下なんだから、公式の舞台上でならともかく……非公式のこの場ならもう少し柔らかく話して欲しいな。」
「わかりました。ですが、これだけは言わせてください。我が国の此度の火急の危機にこれほどまでの雄大な土地を提供してくださり誠にありがとうございます。」
「いえいえ。どういたしまして。」
「これからは同じ大陸に住む者同士、よろしくお願いいたします。」
「わかった。龍の森の王として感謝の言葉を受け取るよ。」
「有り難き幸せ。」
「今後はよろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
「じゃあ、挨拶は終わりって事で。」
ちょうど大公執務室の隣にある応接室に到着した。
豪華なソファーセットの一人掛けソファーに促されて上座に座る。
魔獣の革製のソファーセットで豪華な部屋にマッチしている。
コーヒーか紅茶かを問われたので紅茶を頼むと、執事が紅茶とミルクのポットを両手で1つずつ同時に高い位置からカップに注いでくれる。
美しい所作だ。
……紅茶頼んだら勝手にミルクティーになってたけど……好きだし、まぁいいや。
「アーリンドル王国『ラーファエル・フェリクス・アーリンドル国王』とは善き隣人の友人でね、ラーフィーからのミランへの伝言として『計画は順調に推移しています。ラハティカンナス獣人公国には出番までに力を蓄えて欲しい』とのこと。まずは国の基盤を整備する事に全力を注いでくれと俺にまでお願いされたよ。」
「ありがとうございます。住民の移動も終わり今は今回の戦争での信賞必罰で貴族の管理する土地の選別中です。」
「以前の大陸とは違い隣国はアーリンドル王国のみ。後は霊峰山の森と接するだけだからね。霊峰山の森と接する土地を治める貴族には調停者のアナスタシアを紹介しても良いよ。」
「それはありがたいです。是非ともアーリンドル王国と龍の森との関係のような『善き隣人』を目指せる家をと『インファンテ辺境伯家』を推していたのですが、跡継ぎで揉めてる最中でございまして……」
「跡継ぎ問題ならさっき解決したよ。無能の嫡子と祖母は家から出されて少し裕福な一般市民になる。」
「え?」
俺とインファンテ辺境伯家とのトラブルと後処理までを説明した。
「そうなんですか。」
「クリスならアニーに紹介できるな。かなり有能な武人に感じたし。肉親に甘いのが弱みだとみたけど、今回の騒動で厳しさも学んだだろうし。」
「わかりました。霊峰山の森との国境はインファンテ辺境伯家に任せます。アーリンドル王国とは長い国境線を有することになりますので……分割して統治させます。無論、人選は慎重に選びますが。」
「ラーフィーが来月ぐらいに船でミランと会談しにやって来る予定は聞いてる?」
「はい。」
「予定通り進めても?」
「はい。できればホープラー様からラーファエル国王に伝えて欲しいのですが、私もラーファエル国王との定期連絡が出来るようにお願いしたいのと、小型ワイバーン便の定期運行する場合こちらに何を準備すればよいのか教えて欲しいのです。」
「俺で知っている事なら……小型ワイバーンって言っても翼を広げた大きさは6メートルはあるから、その大きさの生物が離発着出来るスペースがいる。更にワイバーンの休憩場所として屋根がいるし、ワイバーンが飲食が出来るスペースも必要になるよ。」
「なるほど。何かの建物の上ですか?」
「離発着用のスペースは地面の上。芝生の上が好ましいね。飲食と休憩するスペースとして屋根がいる。屋根の高さは4メートル以上で横幅は10メートル。奥行きも10メートルはないとワイバーンが寛げない。屋根の下はサラサラの砂場にしないと……ちなみにワイバーンのトイレは必要ないよ。彼らは森の中か住処のアーリンドル王国でないと排泄しないから。」
「わかりました。準備します。」
「人や物を運ぶ為の箱は龍の森でしか作れないから、何も準備しなくても良いよ。」
「食事と水の準備は何が必要になりますか?」
「大きなワイン樽が必要になるね。」
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