第67話
「インファンテ辺境伯家歴代の当主や当主の兄弟を家庭教師してるけど、初の落ちこぼれがワレンチンなんだよね。返事だけは立派なんだけど……すぐにサボってヤル気もないから半年で首にしたわよ。」
「つーか、半年も頑張ったんだな。凄い我慢したんだね。」
「言い訳ばかり上手くてね。他の兄弟はヤル気が凄くて根性もあるから、すぐに差が開いてもうどうやっても追い付かなくなるから、更にヤル気をなくすという悪循環になるのよ。」
「父親の私からも散々注意したのですが無理でした。私の母親……ワレンチンからすれば祖母が甘やかし過ぎまして、戦争中に戦地から逃亡などという貴族にあるまじき事を仕出かして、母も自身の教育が間違えていたと自覚してもらえまして、ようやく嫡子廃嫡が決定できたのです。しかし当の本人が全く理解してなかったとは思いもしませんでした。今回の事件で私自身がどうなりますか……インファンテ辺境伯家の管理責任を問われる事になりますし。」
「クリスの母親が甘やかしているのを、他の家で知っている人はいるの?」
「今回の戦争で周知の事実として有名になってしまいました。だからこそ貴族院も許可を出して廃嫡手続きが進行していたのです。」
「なら俺からの要望としてクリスの母親とワレンチンの2人だけに責任を取らせるよ。」
「ホープラー様への無礼の責任を母とワレンチンに取らせるのですか?」
「インファンテ辺境伯家からの追放と首都マエンタウスタからの永久追放だな。」
「首都からの追放ですか……生きていけないかもしれないのですが。」
「まぁ、分かりやすく説明すると『家名は取り上げる。どっかの田舎に住んで働け』って刑だね。」
「インファンテ辺境伯家はまだ領地もないのですが。」
「領地ももちろんダメだ。ただの穀潰しが出来上がるだけだし。」
「そうなると……」
「以前、この新ラハティカンナス獣人国でオークダンジョンを発見したんだけど……ヨハン、あれからどうなっているのかな?」
「冒険者ギルドの主導で道が整備されていまして、今は道中の真ん中辺りに休憩、食事、宿泊できる場所を建設している最中です。昨日マエンタウスタに帰還途中に、この目で見て確認してますので間違いないです。」
「じゃあ、その休憩地点に土地と建物を用意して宿屋兼食堂でもやってもらおうか。」
「わかりました。流石に未経験の2人なので経験者の配下を手配します。」
「配下とはいえ2人の上司にさせて、更に監視要員も付けておいてね。」
「了解しました。」
「それで手打ちにしましょう。」
話が纏まった頃にまた馬車が正門前に来ているとクラブメンバーが走ってきた。
ラハティカンナス獣人国の政府関係者が俺に話があるようだ。
まぁ、ハイエルフの俺と話がしたいだけだろう。
グレタ達はそのままクラブハウスでのんびりしてもらい、俺だけが馬車に乗り込んで移動する。
クリスは執事と2人で騎乗して自らの屋敷に戻って行った。
今後の方向性が決まり俺との話し合いは終わったので、これからインファンテ辺境伯家当主として今後の処理を行う必要がある。
ラハティカンナス獣人国は正式名称は……
『ラハティカンナス獣人公国』
なので国のトップは王ではなく『大公』になる。
政府関係者どころか、トップの大公が直々に会いたいと大臣が来た。
はじめは俺に会いに来るって話だったけど、ジョル達に気をつかわせるのも良くないから俺から会いに行くことにした。
馬車の中では物凄い緊張感が漂っていたので我慢できずに俺から話しかけた。
「やあ、改めて自己紹介からだね。龍の森の王で調停者のホープラーだ。君は?」
「ご挨拶ありがとうございます。私はラハティカンナス獣人公国軍務大臣をしています『テレサ・ワイエルシュトラス』侯爵と言います。ホープラー様、お気軽にテレサとお呼びください。」
名前でわかるとおり女性侯爵。
「珍しいね。女性侯爵もさることながら、軍務大臣だって? テレサってゲリラ戦の専門家じゃん。」
「よくお分かりで。しかし今回の撤退戦争での特別な例外です。国の移動が完了したので明日にでも軍務大臣が変わる辞令がおりて私は軍務大臣の任を解除されると思います。」
「なるほどね。それなら納得。撤退戦でのテレサは手強いだろうし。」
「ありがとうございます。」
「話は変わるけど……何でテレサはアーチャーやらないの?」
「え?」
「エストックを主戦武器にしてるみたいだけど、テレサはそっちはあんまり才能ないよ。もう能力は頭打ちしていてこれ以上の腕は上がらない。アーチャーなら伝説クラスの才能があるからもったいないよ。」
「昔、ジョルジーヌ様にも全く同じ事を言われたのですけど……エストックは無意味でしょうか?」
「接近戦での手段としては意味があるから無意味とまではいかないけど……でも接近戦でもエストックよりもナイフ二刀流の方が才能あるから、そっちを習得した方が超上級者まで成長できるから……やっぱりエストックは無意味かも。」
「そうなんですか。」
「何でエストックを選んだの?」
「ワイエルシュトラス侯爵家での教育方針ですね。ジョルジーヌ様からのアドバイスも昨年亡くなった先代が拒否しましたので。」
「アホだな。」
「先代の言い分としてエストックの逸品と言える伝説クラスの武器をワイエルシュトラス侯爵家が所有しておりましたので。」
「なるほどね。理解は出来るけど……それでも納得までは無理だ。ジョルも怒っただろうに。」
「ホープラー様と同じように先代を『アホ』と言ってました。」
「そりゃそうなるわ。宝石の原石を磨かずに泥付けて満足してるんだもんな。」
「しかし、アーチャーですか……」
「大臣辞めて暇になるからすぐに始めたら? ジョルも喜んで教えてくれるよ?」
「今からですか?」
「テレサならすぐにアーチャーのマスタークラスになれるよ。」
「ええ? 流石に無理だと思いますけど。」
「1年かからないよ。」
「……はい?」
「ゲリラ戦専門家のアーチャーって……特化しすぎてもはや、神の祝福を受けてるようだよ。」
「ゲリラ戦の勉強は何故かすぐに吸収できたんですよね。」
「アーチャーも同じだよ。自分自身で驚くほどすぐに身に付いていくから。」
「わかりました。大臣を辞めたらジョルジーヌ様と相談させていただきます。」
「ジョルも喜ぶだろう。……ゲリラ戦の方も『敵拠点急襲ゲリラ戦』がずば抜けてるから、ジョブ『狩人』のスキルも勉強して専門チームを作った方が良いよ。ラハティカンナス獣人公国は今後、人間至上主義者達からゲリラ戦を仕掛けられるだろうからね。攻める防御が必要になる時に必要不可欠なチームになるよ。」
「なるほど……わかりました。参謀本部と相談します。」
などと話が盛り上がり……最初、馬車に乗った時の物凄い緊張感は霧散した。
はじめは顔が強張っていたテレサも笑顔も見せるようになってきてた。
馬車の中は俺とテレサしかいない。
御者と2名の護衛が御者席で3人並んで馬車の箱の外にいる。
騎乗して同行する護衛は10騎。
前後左右に展開して一緒に移動している。
近衛騎士団だろう。
だけど10頭全てが白馬なのはパレード用の騎士団なのかな。
夜も遅くなりはじめラハティカンナス獣人公国首都マエンタウスタの大通りには、酔っ払った人々が行き来している。
街には魔法のライトが使われた街灯が灯っていて明るく賑やかだ。
馬車の窓にはレースのカーテンが掛かっていて、魔法のライトで明るい馬車の箱の中も外から見えにくくなっている。
俺が外の様子をチラチラみてるので、箱の中のライトを少し暗くしてくれた。
「街の様子が気になりますか?」
「以前この街に来た時よりも人の数は増えてるのに、以前ほど騒々しくないなと感じてね。やはり前の時は冒険者の比率が高かったからかなと考えてたよ。」
「何百万人の大陸間移動でしたし、冒険者グループが先行して新たな土地の安全確保が必要でしたから。」
「いきなり無人の土地があるから船乗って移動してねって言われてもなぁ……納得出来ないよね。」
「その後は一般市民が続々とっていう大移動です。最後は殿軍の移動で完了しました。」
「同盟国のトルベッケトラース通商衛星国が制海権を確保してたから、2ヶ国から挟み撃ちの侵略戦争を仕掛けられてる中でこれ程の民族大移動が出来たんだよね。」
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