第66話
「知っている貴族なの?」
「私は知らないのですが師匠はご存知みたいです。」
「覇王の娘だと知っているのに絡んでくるのか……バカだな。」
「ホープラー、私が対処した方が良いのかな?」
「いや、グレタが出ると国際問題に発展しかねない……あ、そうか。俺が一緒に出た方が問題すら揉み消せるわ。」
グレタを連れて騒いでいる正門に向かう。
「もしかしたらハイエルフとして会うの?」
「口の聞き方一つで国ごと叩き潰せる存在のハイエルフと、対処によっては国際問題に発展しかねないアーリンドル王国グレタ子爵を、接待中だとわかったらどう対処するのか見たいねって事。」
「でも……バカって予想出来ないからねぇ。」
「確かにね。さて面白い事になるのかムカつく事になるのか……」
などと話して歩いているうちに到着した。
豪華な馬車が停車していて豪華絢爛な服を着ている人が怒鳴っている。
執事服を着た人が後ろから手を回して抑えてなければ、辟易してるジョルとヨハンに殴り掛かっていきそうなほど前のめりで怒鳴っている。
他の従者も抑えに回っている。
努めて冷静な声でジョルに話しかける。
「ジョル、いったいどうしたんだ。」
「ホープラー様、申し訳ございません。」
「貴様、私が話してるさいち……モゴモゴ。」
貴族が俺に怒鳴ろうとした瞬間、馬車の上の御者席にいた若い男が飛び込んできて貴族の口を抑えた。
流石にハイエルフ相手に不味いと思ったんだろう。
御者ながら素晴らしい速さの動きだったので護衛も兼ねているんだろうね。
従者も加わり数人がかりで動けなくしてる。
俺が問い掛けると口の聞けなくなった貴族に変わり執事が応える。
「貴様? もしかしたら俺に向かって言っているんか?」
「申し訳ございません。ハイエルフ様ではなくてジョルジーヌ様への問い掛けでございますれば……」
「あっそ。なら良いが。」
貴族を無視してジョルに話しかける。
「ジョル、私を置いてきぼりにして、どうなっているんだ?」
「実は……」
この貴族の名前は……
『ワレンチン・フォン・インファンテ』
辺境伯爵家の長男だが今回の戦争において……最前線に立ち続け部下を取り纏め撤退戦の戦線を維持して敵に多大な損害を与えたのは父親である当主と弟達が、私兵と援軍と連携して行ったものであって、ワレンチンは父親と弟達に全てを押し付けて首都に逃走。
避難させなければいけない住民よりもかなり先行しての逃走。
首都にいて仕事をしていた父親が当主として領地に戻るのと入れ違いになっていた。
もちろん当主や周囲の全ての反対を押しきり首都に逃走している。
その後も真っ先にこの大陸に渡り広大な屋敷をもらって遊んでいた。
既に親兄弟は全て死亡したと勝手に届け出を提出して、自身は新たな辺境伯として就任したと吹聴している。
無論、届け出が受理されるはずもなく……
むしろ当主が撤退戦を完遂させてこの大陸に最終便で渡ってきた直後に最初にしたことが『嫡子の廃嫡届の提出と新たな嫡子の選定』だった。
理由はもちろん……
『貴族家嫡子に相応しくない目に余る行動』
政府も受理して正式な手続きに則って廃嫡処理をしてる真っ最中で、ワレンチン本人には自宅に待機命令が下されている。
これに焦ったワレンチンは悪友と共謀してジョルの運営するクラブを接収して、今回の撤退戦において輝かしい戦績のジョル達のクラブの全ての功績すら奪い取る為に『正規の命令書』を発行したのだ。
悪友は軍の作戦参謀補佐官をしていて、撤退戦を終えてまだ混乱中の軍の命令書を勝手に発行したみたいなんだと。
「あっそ。じゃ、龍の森の王として調停者として命ずる『そのクソ命令書を破棄せよ』」
「は。」
ワレンチンの目の前で執事が命令書を破いた。
「な!」
「今や辺境伯爵家の嫡子ですらない庶子が何か文句でも?」
「ムグッ、モガモガ……」
「もちろん、問題も何もございません。」
「じゃあ、もう用はないな。はよ帰れ。」
「ははっ。」
また御者がワレンチンの口を物理的に塞いで執事が返事した。
口を塞いだまま馬車に押し込めてそそくさと帰っていく。
御者が口を塞いだまま馬車にワレンチンごと乗り込み、執事が御者席に乗って馬車を操縦して走り去った。
流石にハイエルフと揉める愚は犯さないように執事と御者が動いて、これ以上は危険と判断して早急に撤退していった。
あの2人はお目付け役かもな。
バカの暴走を止められてないけどね。
「ホープラー、ごめんなさい。表に出るつもりはなかったでしょうに。」
「ま、早かれ遅かれいずれこうなっていたと思うよ。本来ハイエルフなら国賓クラスだし。」
「「「ゴメンな、ホープラー」」」
「クラブの皆も謝らないで良いよ。悪いのは頭の悪い元貴族って事で。」
「『元』貴族?」
「自分が辺境伯家の当主として考えてみてごらん? 廃嫡を検討してるバカ息子がハイエルフを客として招くことが出来る人と揉めて帰ってきたと。俺だったらバカ息子をブン殴って自宅に監禁してから速攻で土下座しに行くよ。」
「そりゃそうだ。」
「執事と御者はまともだったからね。バカ息子は拘束したまま現当主に謝罪と説明しに行くよ。」
などとクラブハウスの出入口である正門前でそのまま会話を続けている。
すぐに客がまたやってくると踏んでるからね。
ハイエルフを見て人だかりが出来てる中に貴族が騎乗する馬がやって来た。
なかなか早い動きだな。
バカ息子とは違い質実剛健と華美にならないギリギリのラインで豪華な服装をした貴族が馬を走らせてきたようだ。
正門前で下馬して執事に馬を任せて俺の前に野次馬を割り込んできたので、野次馬達が関係を恐れて割れて引いていく。
バカ息子は典型的なぽっちゃり貴族だったけど当主は武人だな。
身長は俺より少し低い180センチ後半ぐらいかな。
体型はゴツイというより厳つい。
俺もハイエルフにあるまじきムキムキ体型だけど、更に一回りデカくて厳ついな。
「ジョルジーヌ師匠、バカ息子がくだらない事をしでかして申し訳ございません。それとハイエルフ様にまでご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません。」
知り合いだとはメンバーから聞いていたが、まさかジョルの弟子とは予想外だったわ。
周囲のメンバーもヨハン以外は知らなかったようだ。
「クリス、それよりも自己紹介をして欲しい。ホープラー様もびっくりされてるし。」
「これは申し訳ございません。私は『クリスティアーン・フォン・インファンテ』辺境伯家現当主にございます。クリスとお呼びください。」
「やぁ、クリス。初めまして。龍の森の王で調停者。名前はホープラーだよ。よろしくね。」
古代の森の中でも最強の恐ろしさを誇る龍の森の王と聞いて、クリスは敬礼として片膝をつき右の拳を左胸に当てて項垂れた。
周囲の野次馬も更に引いていく。
野次馬を整理していた警備隊の隊長が隊員を本部に走らせて連絡させたようだ。
複数の世界樹がそびえ立つ龍の森は古龍の長老達が住んでいて、更に上の存在の龍王が暮らしてる森。
龍の総本山だな。
その龍の森の王とは龍王の更に上になる。
2頭の馬の手綱を引いていた執事が真っ青な顔で土下座してしまい手綱を離してしまう。
自由になった2頭は俺に甘えにきて顔を俺の体に擦り付けてくる。
……ハイエルフって馬の魔獣にはとことん嫌われて恐れられてるが、馬そのものにはめちゃくちゃ甘えられるんだよね。
顔をポンポンとしてあげると更に甘えられる。
ある程度甘えたら満足して少し離れたところにある芝生を噛り始める。
「俺はクリスやインファンテ辺境伯家とは揉めてないからな。だから、そこまで畏まらなくてもいい。執事の人もね。君とも揉めてないんだから土下座する必要もない。俺にとっては終わった問題だ。」
「「はっ、有り難き幸せ。」」
やっと普通に戻ってくれたので、クラブハウスに戻って蔦の転移門から異空間に行って会話する。
「クリスとジョルは弟子と師匠の関係だと今初めて知ったけど、どうやったら辺境伯家当主と冒険者が繋がるんだ?」
「私の家庭教師をしていただいたのです。」
「先代も先々代も私が教えたのよ。そもそも私がラハティカンナス獣人国に訪れたのは、今から300年ぐらい前にインファンテ辺境伯家からの依頼を受けて訪れたのが最初なのよ。」
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