第18話
・・・ユー視点・・・
お兄さんは変な人。
耳が長いハイエルフ。
お兄さんは凄い……でも変な人。
今も膝にスラリンを乗せてぽよんぽよんと撫でながら……
「うー、うー、うー、うー」
と器用に全て違う音程で唸ってる。
歌の練習にしては音痴だ。
僕の朝は枕スライムの『スラゴン』のエサやりから。
エサというか魔力をスラゴンに流す。
流しかたはお兄さんから教えてもらってやってる。
最初はスライム池に両手を入れて掌から、魔法じゃなくて魔力だけを流すと言われて難しかったが、お兄さんが僕の手に魔力だけを流してくれたのがわかりやすかった。
お兄さんはこれは魔法の勉強に良いな、リッチさんと相談してみようかなと笑ってる。
魔力が流せるようになっても強かったり弱かったりしてけっこう難しかったが、何日か練習したら出来るようになった。
出来るようになるとスライムが1匹近寄ってくるようになった。
僕が毎朝ミーとスライム池で魔力を流しにくると、池の奥からスーっと寄ってきて僕の手を包み込んでくる。
隣で一緒にしゃがんでるミーにも違うスライムが同じようにミーの手を包み込んでいた。
「お! ユーとミーにもスライムのペットができたな。そのスライムを池から取り出して。」
後ろで見ていたお兄さんがスライムを取り出すようにと言ったので、僕もミーも自分の手を包み込んでいるスライムを掴んで池から取り上げた。
スライムは掌の上で丸くなるとプルプルし始めた。
可愛い。
隣のミーも掌の上でプルプルしてるスライムを見て、次にお互いに目を合わせてから後ろにいるお兄さんを見上げる。
「可愛いだろ?」
「「うん!」」
「わるいスライムじゃない……って元ネタ知らんわな。」
また、よく分からない事を言って頭を掻いてる。
たまにお兄さんはよく分からない事を言う時がある。
「まぁ、いいや。そのスライムは君達のスライム。自分のペットだからちゃんと育てないとな。」
「「うん!」」
「自分のペットだから名前をつけてあげないとな。ユーとミーはなんて名前にする?」
「うー、うー、うー」
「うー、うー、スラゴンにする!」
「ん? どうしてその名前?」
「ドラゴンの森のスライムだから!」
「なるほどな、その発想はなかったな。ミーはどんな名前にするか決まった?」
「決まった! スラミー!」
「どうしてその名前にしたの?」
「ミーのスライムだから!」
「そりゃわかりやすいわ。」
お兄さんは変な人。
とても優しい。
殴られた事も蹴られた事も怒った事もない。
いつも優しく抱き締めてくれる。
いつも優しく叱ってくれる。
いつも頭を撫ででくれる。
だから大好き。
僕とミーはお兄さんに拾ってもらえるまで……みんなキライだった。
5年前に全てが変わった。
5年前の思い出……
僕は奴隷。
獣人の子供の奴隷。
ゴシュジンサマにそう言われて育った。
いつも隣には妹のミーがいる。
お前らは売り物と言われて蹴られる。
売り物と言われてもよく分からない。
蹴られても泣かない。
泣くとご飯が少なくなる。
ミーが蹴られると泣いてしまって「うるさい!」とご飯を減らされるのでミーを抱き締めてミーの分も僕が蹴られる。
パパとママも僕とミーを抱き締めて守ってくれた。
パパとママはゴシュジンサマにやられた。
魔物に襲われた時にゴシュジンサマに連れ出されて魔物と戦い大怪我をして退治したが、ゴシュジンサマにやられた。
パパとママの分も僕がミーを守らないと。
なぜかその日は馬車に乗せられて道を進んでた。
僕もミーもいつもの大きな手錠は外されてる。
ゴシュジンサマが小さい声で言った。
「お前ら声出すなよ。」
「「……」」
「ここの森のハイエルフの女は子供に手錠してるのを見るだけで、マジ切れするからな。いいな、逃げたら飯抜きだからな。」
「「……」」
「森に逃げられたら厄介だから、もっとスピード上げろ!」
上の人にゴシュジンサマが怒鳴ってる。
僕はミーと目を合わせてお互い頷く。
森に逃げたら助かるかも。
パパとママに言われてた事。
「ユー、ミー、逃げるチャンスがあるなら森に逃げなさい。森の近くならゴシュジンサマの命令は無効になる。森に行って大声をあげたら助かるからね。ハイエルフ様は必ず救ってくださる。必ず覚えておきなさい。」
馬車が大きく跳ねてゴシュジンサマが馬車の天井に頭をぶつけ、僕とミーの服を掴んでいた両手が離れた。
パパとママからもらったチャンス。
ミーの手を掴むと馬車から飛び出した。
近くにある森を目指して必死に走る。
ミーも必死になって隣で走ってる。
「おい! コラ! 逃げるな! 止まれ!」
「おい、森の近くだぞ。命令は効果ない。
」
「ちっ、クソが。」
「急げ!」
「おいおい、こっちは龍の森の方、大丈夫だ。」
「所詮バカなガキよ。」
「「「アッハッハ」」」
「それ、食らえ!」
「「「アッハッハ」」」
後ろから追いかけてくるゴシュジンサマが大声で怒鳴って追いかけてきたが、途中からゆっくり歩き出して魔法を使ってきた。
草原の草が長くて僕達2人を隠してくれてるので必死に走る僕達には当たらない。
もう少し、森に入れる。
けど森に入ったら僕達は丸見え。
暫く走るとゴシュジンサマが笑いながら魔法の火の玉を投げてくる。
僕の背中の後ろで爆発した。
さっきから首の後ろがチリチリする。
痛い。
僕の頭の上で火の玉がパシュンと破裂してミーと手が離れてしまう。
離れた手を掴みなおしたところで2人共に木の根っ子に引っ掛かって転んた。
木の上を見上げると、少し離れたところに大きな鳥がいたので、ミーと二人で大声を出そうとしたが小さな声しか出なかった。
「た、たす……」
僕達の後ろにお兄さんがいた。
転んだ時には立ってた。
ゴシュジンサマが後ろで怒鳴ってる。
怖い……でももう疲れた。
僕もミーも疲れて膝を抱えて座り込んでいた。
もうダメだ、逃げられない。
パパママごめんなさい。
後ろのお兄さんがフンと鼻を鳴らすと、ゴシュジンサマの隣にある木の枝が伸びてきてグルグル巻きに。
まわりにいた怖い人達も木の枝にグルグルになってる。
怖い。
なんか疲れた。
お腹すいた。
首の後ろのチリチリがひどくなってきた。
なんかシュワーってなって消えた。
チリチリの痛みもなくなった。
怖さと痛みはなくなった。
でもお腹がすいてクラクラする。
お兄さんに話しかけられたがボーっとしてよくわかんない。
お粥を食べた。
お兄さんがどっかから出して食べていいよって。
ミーと一緒にフーフーする。
熱い……でも美味しい。
心も身体もポカポカする。
お粥と一緒にジュースもくれた。
オレンジジュース。
甘くて酸っぱくて美味しい。
初めて水とスープ以外の物を飲んだ。
夢中で飲んだら無くなった。
空のグラスとお兄さんを交互に見つめる。
ヤバい。
怒られるかも。
お兄さんはニコニコしながらジュースをグラスに注いでくれる。
お兄さんは好きなだけ飲んで良い、でもまずはお粥が先だって。
全部お粥を食べたらまた新しいお粥をどっかから出してくれた。
腹一杯になるまで食べて飲んでいいよって。
お腹一杯になったのでミーとお兄さんにお礼を言うと自己紹介する。
お兄さんも名前を教えてくれた。
ハイエルフのホープラーさん。
パパとママの事を聞かれたので答えた。
パパとママの言うとおりだった。
ハイエルフ様が助けてくれた。
もう大丈夫、パパママのおかげ。
僕もミーも嬉しくて涙がでてくる。
ホープラーさんのまわりの空気が暖かいから。
泣いて笑ってる、泣いても怒られない。
涙が止まらない。
泣きながらホープラーさんを見上げると後ろにいるゴシュジンサマを睨んでる。
頭の上に黒いモヤモヤがでてる。
ちょっと怖い。
ホープラーさんはプリンをくれた。
初めてみた食べ物。
食べたら甘くて冷たくて美味しい。
上の汁は黒くて苦いけどプリンと一緒に食べるともっと美味しくなる。
ミーと美味しいねと頷きあう。
お粥で身体がポカポカする。
お腹が一杯。
ジュースも美味しかった。
ミーと2人でうとうとするとお兄さんがまたどっかからクッションを出してくれた。
ふわふわのクッション。
パパママありがとう……もう大丈夫。
パパママの言うとおりハイエルフ様が救ってくれた。
ミーと一緒に2人とも救ってくれた。
ふわふわのクッションの上で丸くなる。
そのまま寝ちゃった。
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