転生守銭奴女と卑屈貴族男の長女の婚約者事情 05
……それにしても困ったわ。じろじろ見ていた風にとらえられたら気を悪くされるでしょうし、かといって、露骨に目を逸らすのも不快にさせてしまいそう。
悩んだ末に、私は取りあえず笑っておくことにした。
大叔母様が困ったら笑っておけって言っていたもの。……言っていたわよね?
なんとなく自信がなくなってしまったが、馬鹿にするような笑いでなければ、向こうも嫌な思いをすることはないでしょう。おそらく。
男性は、少し驚いたような表情を見せた後、テルセドリッド殿下の影へ、さらに隠れるよう、一歩下がった。……嫌そうな顔ではなかったけれど、怖がらせてしまったかしら。
彼が動いたことで、テルセドリッド殿下もこちらに気が付いたようで、殿下の視線が私の方へと向く。
テルセドリッド殿下の周りの令嬢がいなくなってから話しかけるつもりだったけれど、これを無視してしまっては流石に不敬すぎるだろう。
私はテルセドリッド殿下に「お久しぶりでございます」と声をかけ、挨拶をした。
周りの令嬢たちは、私が会話をぶった切ってしまったことに対する不満がありそうな顔を一瞬したが、私に声をかけたそうにしていたのはまぎれもないテルセドリッド殿下なので、あからさまな態度は見せず、「それではわたくし達は失礼いたしますわ」とそれぞれ去って行った。……別に、少し挨拶したら他の方にも声をかけるつもりだったから、待っていてくれてもよかったのに。とは、思っても言えない。
「久しいな。元気にしていたか?」
「はい、おかげさまで」
テルセドリッド殿下と軽い世間話をする。……普通にいい方よね。なんで父様はこの方をあそこまで毛嫌いしているのかしら? 父様しか知らない面があるとか? まあ、父様が意味もなく人を嫌うとは思えないし、何かあるんでしょう。
そんなことを考えながらテルセドリッド殿下と話していると、ふと気が付く。
先ほど目が合った、テルセドリッド殿下の影に隠れるようにして立っている男性の顔が真っ赤になっていることに。白い肌だからか、頬が赤くなるのがやけに目立つ。
「テ、テルセドリッド殿下、そちらの方……」
私が言い終わる前に「ああ、彼は私の友人で――」と話始めてしまった。
「あ、いえ、その……失礼ながら、そちらの方、体調が悪いのではないでしょうか……? 随分と顔が赤く、熱があるのでは……」
夜会自体はそこまで終盤、というわけでもないけれど、始まったばかり、とも言えない。先程テルセドリッド殿下は令嬢たちに囲まれていたし、人に酔ったのかもしれない。
「なに、そうなのか? だいじょう――」
そう、殿下が男性の方を振り返ったとき。
ぽたり。
そんな音が聞こえるはずがないのに、私の耳に届いたような気がした。
男性が鼻血を出してしまったのである。




