表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代金は万馬券  作者: 大福


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/15

第6話 前夜


 夜。


---


 木村たちはアジトへ戻っていた。


 静かな空気が流れる。


 誰も今日のことは話さない。


 山崎が冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


「まさか、この歳になってこんなことやるとはな。」


 藤井が笑う。


「学生の頃、お前が競馬で一攫千金なんて言ってたの思い出したわ。」


「あの頃は馬券すら買えなかったけどな。」


 三人が笑う。


 木村も小さく笑った。


「笑ってられるのも今日までだ。」


 笑顔が消える。


「明日からは別行動。」


「互いを探すな。」


「互いに話しかけるな。」


「換金が終わったら、そのまま解散。」


「二度と会わない。」


 しばらく誰も口を開かなかった。


 山崎が缶ビールを置く。


「それにしても、お前、よくこんな計画考えたな。」


 木村は首を横に振る。


「いや。」


「この計画は直ぐに出来たよ。」


「怖いのは計画じゃない。」


「こんな仕組みが何年も続いてたことだ。」


「俺は、それに気付いただけ。」


 藤井が苦笑する。


「全部終わったらさ。」


「家族で何処かへ移住でもするか。」


 山崎が笑う。


「俺は、その頃にはどっかで酒でも飲んでるかな。」


「いつか皆が忘れた頃にな。」


 木村は静かに言った。


「その位の時間は気を抜くな。」


 木村は立ち上がった。


「もう行け。」


 藤井も腰を上げる。


「じゃあな。」


 山崎は空になった缶を見つめたあと、ゆっくり立ち上がった。


「またな、とは言わねぇぞ。」


「ああ。」


「けど、死ぬなよ。」


 木村は答えなかった。


 藤井が先に部屋を出る。


 山崎はしばらく部屋に残り、藤井が十分離れた頃に部屋を出た。


 一人残った木村は、三人分の空き缶を袋へ入れた。


 吸い殻を回収し、テーブルや缶に残る指紋を丁寧に拭き取る。


 最後に部屋を見回し、照明を消した。


 そして山崎が出てから十分ほど時間を空けて部屋を出た。


---


 双葉会本部。


 狭山は、机に広げられた日本地図を見下ろしていた。


 全国の競馬場と場外馬券売場に印が付けられている。


「明日は全国だ。」


 黒田が地図を見る。


「奴らがどこで換金するかは分かりません。」


「ああ。」


「だが、どこかには必ず現れる。」


「そこを押さえればいい。」


「必ず見つけます。」


 黒田は一礼し、部屋を出た。


 別室では組員たちが電話と地図を前に動いていた。


「札幌は何人出せる。」


「現地二人、応援三人です。」


「仙台は今夜中に向かわせろ。」


「東京は競馬場だけじゃない。場外も押さえろ。」


「大阪、名古屋、福岡には顔の割れてない奴を入れろ。」


 黒田は全員を見渡す。


「全員聞け!」


「明日は全国の払戻所に目を配れ!」


「怪しい奴がいたら、すぐ報告しろ!」


「勝手に動くな!」


「絶対に見失うな!」


『オウ!』


---


 議員会館。


 設楽は手帳を閉じた。


「明日の予定です。」


「午前九時、商工会との意見交換会。」


「十一時、企業訪問。」


「午後一時、街頭演説。」


「夜は後援会との懇親会です。」


 大河原は頷く。


「献金の見込みは。」


「前回と同じく、各名義の口座より順次振り込み予定となっております。」


「不足は。」


「ありません。」


「そうか。」


 大河原は静かに立ち上がる。


「政治は理想だけでは勝てん。」


「組織を維持するにも、人を動かすにも金が要る。」


「勝ち続ける者だけが政治を動かせる。」


 設楽は一礼した。


「失礼いたします。」


 部屋を出る。


 一人になった大河原はパソコンを開いた。


 画面には天皇賞(秋)の払戻結果。


 数字を一瞥する。


「予定どおりか。」


 静かに画面を閉じた。


---


 警視庁。


 大迫は駆の供述調書を読み返していた。


 監禁中、犯人たちは競馬について何度か話していた。


 駆が分かっているのは、それだけだった。


 何のレースなのか。


 何を狙っていたのか。


 そこまでは分かっていない。


 だが、大迫には引っ掛かっていた。


 誘拐事件の直後に行われた天皇賞(秋)。


 十三番人気が絡んだ異常な高額配当。


 偶然にしては出来すぎている。


 上司との会話が脳裏に蘇る。


「この事件は終わりだ。」


「大河原議員の御子息は無事に保護された。」


「犯人の捜査は続ける。それで十分だ。」


「十分ではありません。」


 大迫は供述調書を机へ置いた。


「駆は、犯人たちが競馬の話をしていたと証言しています。」


「だから何だ。」


「事件の直後に異常な高額配当が出ています。」


 上司は払戻結果を一瞥した。


「偶然だろ。」


「そうかもしれません。」


「ですが、偶然で済ませるには出来すぎています。」


「八百長でも疑ってるのか。」


「可能性は否定できません。」


「もし政治家や暴力団まで関係していたら、誘拐事件だけでは済まない。」


「だから触るなと言ってるんだ。」


「競馬関係者、政治家、監督官庁まで巻き込めば、全員の首が飛ぶ。」


 大迫は上司を見た。


「国が粛清すると。」


 上司はしばらく黙っていた。


「……JRAまで絡むような話なら、あり得る。」


「余計なことはするな。」


「この事件は終わった。」


 回想が途切れる。


 大迫は払戻結果を見つめた。


 犯人たちは競馬の話をしていた。


 そして異常な万馬券が出た。


 証拠はない。


 だが、明日から払戻が始まる。


 何かが動くとすれば、そこしかない。


 大迫は資料を封筒へ入れ、上着を手に取った。


「終わってない。」


---


 同じ夜。


 木村は煙草の火を消す。


 山崎は缶ビールを飲み干す。


 藤井は静かに歩き出す。


 黒田は車へ乗り込む。


 大河原は議員会館の灯りを消す。


 大迫は事件ファイルを閉じた。


 それぞれが、それぞれの明日に向かって動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ