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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十二章 銀狼族

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閑話 爺巡り

「ふむ……ここか?」

 鬱蒼と生い茂る森に突如現れる、圧倒的な力によって出来た道。
 わしはそこを通って彼奴シリウスが住んでいた屋敷へとやってきた。貴族としては小さい屋敷だが、落ち着いた雰囲気のある良い場所じゃな。

「おや? このような場所にお客さんとは珍しい」

 わしはすでに気配でわかっておったが、外で剪定作業をしている爺さんがわしに気づいて声を掛けてきおった。
 彼奴の話じゃと、わしとほとんど変わらない年齢の爺さんが屋敷を管理しておる執事のような男と言っておったが、もしかしてこの男かのう?
 当然じゃがわしを見て怪しんでいるので、まずは説明せねばな。

「盗賊……にしては雰囲気が違いますね。道に迷いましたか?」
「失礼じゃがお主はー……えーと……名前を忘れたわい。とにかくここにエリナという女性の墓があると聞いたのじゃが、合っておるかのう?」
「色々と抜けているようですが、まずはお互いに自己紹介からいきませんか?」
「そうじゃな。お主の名前はシリウスから聞いておったのじゃが、忘れてしまったわい。許せ」

 わしを見て怪しんでおったが、シリウスの名を出すと笑みを浮かべて会釈をしてきおった。ふむ、聞いておった男で間違いないようじゃな。

「シリウス様の知り合いなら……貴方様の迫力も納得できますね。初めまして、私の名前はバリオと申します」
「そうじゃそうじゃ、その名前じゃったな。ちなみにわしはイッキトウセンじゃ。トウセンとでも呼んでくれ」
「トウセン様……ですね。それで貴方はこちらへ何をしに来られたのでしょうか?」
「うむ。実はエリナという者の墓参りに来たのじゃ」
「とりあえず中に入りませんか? お茶でよければ出しましょう」
「おお! ではお願いするかのう。大した道ではなかったが、喉が渇いてのう」

 警戒が無いように見えるが、背中越しでもわしに気を配っているのがわかるわい。身に纏う雰囲気と迫力は中々じゃな。じゃが……圧倒的に筋肉が足りんのう。鍛えていたのならそれなりに強い戦士になれたじゃろうに、勿体ないわい。
 それより茶をもらえるなら是非いただくとしよう。


「……なるほど。シリウス様や後輩達から話を聞いてエリナの墓参りを……と。彼女の為にわざわざありがとうございます」

 用意された茶と菓子を食べながら、わしはここへ来た理由を詳しく説明した。隠す理由なんて微塵もないからのう。
 それにしても、この男が作るクッキーとお茶は中々美味いのう。シリウスとその従者程ではないが、熟練された技を感じるわい。
 墓参りに来てくれた事に対して礼を言ってきおるが、わしが勝手に来ただけじゃからお主が礼を言う事じゃないと思うがな。

「そのエリナがいなければわしは彼奴と会えなかったじゃろうしな。墓前に直接礼くらい言いたくなるわい」
「……貴方はとても真っ直ぐな御方のようですね。わかりました、私が案内しましょう。すぐに向かわれますか?」
「そうじゃな。わしはいつでも行けるから、お主がよければ頼めるか?」
「お任せください。すぐに準備を済ませましょう」

 まだ昼を過ぎたばかりじゃから、順調に行けば夜までに町へ行けそうじゃしな。
 そして色々と道具を持って準備を終えたバリオの案内で、わし等はエリナの墓へと向かうのじゃった。


 屋敷の裏手から山に入ると、当然ながら木々や雑草が生い茂っていたが、人が通れるような道があったのじゃ。獣道にしか見えぬが、邪魔そうな木が切られてたりと明らかに人の手が入った跡が見えた。

「ふむ……歩きやすいのう」
「シリウス様が住んでいた頃に整備したそうです。とはいえ、知っている者でないとわかりにくい道ですね」
「ふっふっふ、彼奴らしいこまめな仕事じゃな」

 そのまま山道をしばらく歩くと、突如森が開けて花が咲き乱れる広場へとやってきたのじゃ。ふむ……ここもまた良き場所じゃな。
 花畑に足を踏み入れ、その中央に存在感を放つ大きな木の根元にそれはあったのじゃ。

「これがエリナの墓です。ですが少しお待ちいただけませんか? 簡単にですが掃除をしておきたいので」
「手伝おう……と言いたいところじゃが、わしだと石を傷つけそうじゃからな。大人しく待っておるわい」

 掃除が終わるまで、わしはそこら辺に寝転がって待つことにした。
 風が頬を撫でる実にのんびりとした空気の中、わしは剛破一刀流を教えた小僧が過去に話していた内容を思い出しておった。確か小僧はこの花畑で岩のように堅い大きな亀と戦ったと言っておったな。
 何でもシリウスが亀をひっくり返し、そこに出た弱点を小僧が突いて勝ったと聞いたが……わしなら岩程度真っ二つじゃし、正面から斬るじゃろうな。
 当時の小僧はまだ子供じゃから仕方ないとして、あれから何年も経った今なら岩程度の堅さなぞ真っ二つに出来て当然じゃろう。というか、出来なければわしが小僧を真っ二つにしてやるつもりじゃ。

 ぼんやりと小僧の成長を考えておるとバリオの掃除が終わり、わしは持っていた荷物からワインを取り出してバリオに許可を求めた。

「彼奴からエリナはワインを飲むと聞いておったが、これを墓にかけても大丈夫かのう?」
「大丈夫ですが……それはどこで入手したのでしょうか?」
「ふむ? 近くの町で一番高いワインをくれといったらこれをくれたのじゃ。ほれ、たらふく飲むがよい」
「そ、そのワインは金貨十枚の高級ー……ああっ!?」

 ワインを墓に振りかけたのじゃが、バリオが妙に騒がしいのう。たかがワイン一本でケチ臭い事を言うわけじゃなかろうな?
 そして中身を一滴残らず掛け終わった後に振り向けば、バリオは呆然とこちらを眺めておった。

「何じゃその顔は? ああ、足りないなら予備で買ったもう一本をー……」
「も、もう結構です! それは貴方様が飲まれた方が喜ばれるかと……」
「うーむ……実は来る前に一本飲んだが、わしには上品過ぎて合わんかったわい。もういらんから、お主にくれてやろう」
「なっ!?」

 バリオに放り投げるようにしてワインを渡し、わしは改めて墓の前に立って頭を垂れた。


 お主とは一度も会った事は無いが……シリウスの異常な強さを知ろうが、愛情を注ぎ、育てて見守り続けたお主の強さをわしは認めておる。
 そしてお主がいたからこそ、わしを蘇らせてくれたシリウスと出会えたのじゃ。
 だからわしから伝えるべき言葉は一つじゃな。

「……感謝する」

 わしなりに最大の感謝を込めた礼を終え、わしは立ち上がって墓に背を向けた。


「……もうよろしいのですか?」
「うむ。わしの様な他人が長々と邪魔する必要もあるまい。感謝の一言で十分じゃろう」
「わかりました。では戻りましょう」

 わしの様な爺に長々と拝まれても迷惑じゃろうしな。
 少しだけ笑みを浮かべて歩き出したバリオを追い、わしはエリナの墓を後にした。



「ほう……今はお主があの屋敷の所有者なのじゃな?」
「その通りです。ガルガン商会が安く売ってくれたのですよ」

 わしとバリオは雑談しながら歩いておったが、話の内容はあの屋敷の所有権についてじゃった。
 元々屋敷の所有権はシリウスの父親ー……いや、本人曰くアホな貴族だったそうじゃが、そのアホ貴族の財政が切迫しているらしく、ガルガン商会にあの屋敷を売ったそうじゃ。
 そしてバリオは長年仕えてきたそのアホ貴族の執事を辞め、余生を静かに送る為にあの屋敷をガルガン商会から買い取ったそうじゃ。

「町から離れておりますが、のんびり暮らすには良い場所です。それに……私には彼女の墓を見守る役目もありますからね」

 ふむ……頼まれてやっておるわけではなさそうじゃな。体つきからあまり強そうではないので、何かに襲われる可能性もあるじゃろうが、己が望んでやっておるなら何も言うまい。
 わしが一人納得したところで屋敷が見える所まで戻ってきたが、何か不穏な気配を感じたわしはバリオの肩を掴んで足を止めた。

「……止まるのじゃ。屋敷に人の気配を感じるわい」
「ここは何もありませんから冒険者でも滅多に訪れません。可能性としては盗賊でしょうが……数はわかりますか?」
「十を超えておるな」
「ならば盗賊の可能性が高そうですね。食料を持って行くだけなら良いのですが、綺麗にした屋敷を荒らされるのは困りますね」

 荒事ならわしの出番じゃな。背中にある相棒……大剣の感触を確かめ、わしはバリオの前に出て振り返った。

「どれ、案内してくれた礼じゃ。ちょっと行ってぶっ飛ばしてくるかのう」
「……は? あの、トウセン様が戦う必要はありませんよ。このまま屋敷を迂回して町で警備隊を呼べば済みますので」
「面倒じゃ。小腹も空いてきおったし、適当に相手して強引に帰ってもらうわい。なに、屋敷は荒らさんように戦うから安心せい」
「トウセン様!?」

 呼び止めるバリオを無視し、わしは木々の間から抜けて屋敷の玄関前に集まっている気配へと向かった。

 玄関前にいたのは妙に見た目が良さそうな武器や防具を身につけた怪しい集団じゃった。装備の質からして上級冒険者に見えなくもない集団じゃが、盗賊を散々始末してきたわしの勘からこいつ等は間違いなく盗賊じゃと思っておる。
 そんな集団の中に一人だけ雰囲気が違う男が混ざっておった。その男は妙に太っていて盗賊をするにしては迫力が全く足りんし、わしの嫌いな貴族みたいじゃった。

「バルドミール様?」
「おお! どこへ行っておったのだバリオ」

 わしの後から付いてきたバリオがその太った男を見て驚いていた。ふむ……どうやらバリオの知り合いらしい。

「所用で森へ。それよりここへ何用でしょうか?」
「うむ、実はお前に頼みがあるのだ。この屋敷をこの者達に貸してほしいのだ」

 バルミートだとか肉のような名前の貴族は周囲に散っている男達を指して言うが、バリオは首を横へ振ってはっきりと言い返しておった。

「お断りします。私はもう貴方の従者ではありませんので」
「なっ!? お、お前は我が家を支えてきた従者ではないか。辞めたとはいえ、元主が頼んでいるのだから聞くべきだろう!」
「私の主は貴方のお父上ですので。それより、この者達は一体?」
「最近売り出し中の盗賊団で、私の新たな仕事仲間だ。この屋敷を根城にして活躍する予定なのだよ」
「……貴方はそこまで堕ちましたか」

 バリオは絶句しておったが、わしはもう面倒になってきたわい。
 要するにこの人里から離れた屋敷を根城にして、周辺の街道から盗賊行為をするつもりじゃろう?

「貴族としての誇りはもはや存在しないのですね」
「誇りより私には金が必要なのだ! それよりこの者達の装備を見るがいい。これほど見事な装備を持つ実力者ならば、警備隊や冒険者共に負けることはまずありえんだろう?」
「確かに立派な装備ですが……盗賊ですよ? 今からでも遅くありませんのでどうか考え直してください」
「煩い! 私にはもう他に手がないのだ。女はほとんど逃げ、息子は家を出てしまった。残されたのは金目の物を欲しがる煩い女に、大量に在庫となった魔道具と我が家だけ。お前までいなくなって、私に一体どうしろと言うのだ!」
「私はそうならないように忠告をしてきましたが、貴方はほとんど聞かなかったでしょう? 全て自業自得です」

 バリオは肉貴族の元従者だったそうだが、もはや遠慮の欠片も見当たらんので完全に見限っておるな。
 だと言うのに、肉貴族はしつこくバリオへと詰め寄っていた。

「自業自得だろうが、金を稼げれば問題ない! このミスリル製の武器を持つこの者達ならば、そこいらの冒険者や魔物なぞ相手にすらならん。略奪し放題だ!」

 何か見た目が良さそうな武器じゃと思ったら……ミスリルじゃと? こんな筋肉が足りなさそうな連中がミスリルなんて高級装備を持っているのに疑問は覚えないのかのう。
 わしと同じ考えなのか、肉貴族の言葉にバリオは溜息を吐いておったわい。

「たとえミスリル装備があろうと本人が強いとは限りません。お聞きしますが、貴方はその者達があのシリウス様のような強者に勝てると本気で思っているのですか?」
「ふん、もうあの化物はここにいないのだ。そもそもあんな化物が滅多にいるものか!」
「化物? 絶縁していますが、シリウス様は貴方の息子ですよ?」
「息子ではない! あんな化物……もはや見たくもないわ!」

 シリウスの名前を出した途端、この肉貴族は顔を青くして震えだしおったわい。
 色々と気にはなるが……とりあえず確認したい事が出来たので、わしはバリオの肩を叩いてこちらに振り向かせた。

「ちょっと聞きたいのじゃが、こいつがシリウスの親なのか?」
「ええ、そうです。絶縁した話は知っていますか?」
「ある程度は聞いておる。つまり、エリナを苦しめたのはこいつで合っておるのじゃな?」
「おい、何だこの爺は! お前の知り合いか?」

 わしが割り込んだので肉貴族が若干苛ついた表情で睨んできたが、わしが睨み返してやると怯えて口を閉じていた。

「で、どうなんじゃ?」
「その通りです。優しかった彼女が唯一憎んだ御方かと」
「うむ、ならば遠慮はいらんな」

 そもそも、わしはこういう貴族が大嫌いじゃから遠慮なんか一切するつもりは無かったのじゃがな。
 わしが前に出ると肉貴族が怯えて後退り、周囲にいた盗賊達が一斉に武器を抜いて構えてきおったわ。

「何をしているバリオ。早くこの爺を下がらせろ! 我が家に尽くしてきたお前が私に逆らうのか!?」
「先程も言いましたが、私はバルドミール様の屋敷を出た時にはっきりと伝えた筈です。私はもう、貴方に仕える者では無い……と」
「ぐぐ……お前だけは生かしておくつもりだったが、仕方がない。おい、やってしまえ!」

 肉の命令で、十人程いる盗賊達はわしに向かって武器を振り回してきおったが……隙だらけじゃな。見た目が良い武器を持っているだけで、肉貴族が自慢する程の強さは感じられんわい。
 思わず溜息を吐いておると、後ろに立っているバリオが拳を構えて戦闘体勢をとっておった。

「戦闘はあまり得意ではありませんが、私も手伝いましょう。一人、二人ならば何とか……」
「手助けなぞ必要ない。そこで黙って見ておればすぐに終わるわい!」

 わしは地を蹴って前へ飛び出し、一番近くにいた盗賊の目前で相棒を振るった。
 いつもなら胴体を真っ二つにするのじゃが、今回はちょっと場所を考え、剣で斬るのではなく剣の腹で相手を打ったのじゃ。
 相棒から盗賊の骨が砕ける感触を感じた後、森の遥か上空を飛んでいく盗賊の姿が辛うじて確認できたわい。

「「「…………」」」
「ふむ……中々飛んだのう」

 ここで盗賊を斬ってしまうと屋敷の周りが汚れてしまうからのう。じゃから遠くへ飛ばすように剣で盗賊を吹っ飛ばす方法をとったのじゃ。骨を砕いた上に森の奥地目掛けて吹っ飛ばしておるから、生きている可能性はまずあるまい。
 バリオを含め周囲の者達全てが呆然とする中、わしは会心の手応えに満足感を得ておった。真っ二つに斬るのが一番じゃが、おもっきりぶち当てるのも悪くないのう。
 たしか彼奴の話では、こういうのをほーむらんとか言うらしい。

「はっはっは! ほれ、かかってこんかい! かかってこんなら……わしから行くぞ! 次もほーむらんじゃ!」

 この言葉を叫びながら打つと気持ちが良いのう。
 わしは次々と盗賊をふっ飛ばしていたが、中には武器を振るって抵抗する者も当然おった。じゃが見た目が良い武器は相棒の一撃に耐えられずへし折れ、わしに吹っ飛ばされる事に変わりはなかったがな。
 盗賊を全て飛ばし終え、わしは残った肉貴族の前に立った。

「盗賊はもう終わりか? もう数回くらい打ちたかったのう」
「な……ば、馬鹿な!? 奴等はミスリル製の武器を持つー……」
「これがミスリルじゃと?」

 盗賊を吹っ飛ばした際に落ちた武器を拾い、わしは腰を抜かしている肉貴族の前に立って剣の先端部分と柄を握って力を込めた。すると剣は鈍い音を立ててへし折れ、わしはその折れた剣を肉貴族の前に放った。
 つまり奴等は見た目だけのはったり盗賊というわけじゃな。

「こんなの見た目だけの偽物じゃ。本物ならわしの力でも折れんわい」
「う……あ……嘘……だ。私の最後のチャンスが……あんな偽物共に……」

 あんな偽物に騙される程に追い詰められておるようじゃなぁ。惨めで情けないが……わしには関係ないわい。

「どれ、次はお主の番じゃな。腕と足……どっちから斬ってほしい?」
「た、たかが冒険者風情が貴族に手を出してただで済むと思っているのか!?」
「えっ? すまんすまん、耳が遠くてよく聞こえんわい。何せわしは爺じゃからな。それでー……腕からじゃったか?」
「ひ……ひいいぃぃ――っ!?」

 肉貴族はここまで乗ってきたと思われる馬車へ乗り込み、御者台の男に叫ぶように命令して馬車を走らせて逃げおったわ。
 追うのが面倒なので、馬車が走り去るのを見届けたわしはバリオへと振り向いた。

「もう大丈夫そうじゃし、わしは去るとしよう。短い間じゃったが世話になったわい」
「私こそ助かりましたが……よろしいのですか? 相手は一応貴族ですし、放っておくと指名手配の可能性も……」
「自慢ではないが、わしはあちこちで貴族に喧嘩を売りまくっておるわい。これくらい慣れたものじゃ」
「よく今まで無事でしたね……」

 わしが潰す貴族はあくまでアホな奴だけだし、行く先々で盗賊を退治しておるから評判は悪くないのじゃよ。たとえ嵌めようとする奴がおっても、剣で全て解決してきたわい。

「お主が気にする必要はない。それに……」
「……それに?」
「わし……逃がすなんて一言も言っておらんよ」








 次の日……わしは宿のベッドで目覚めた。
 昨日、あれからバリオの屋敷からとある町にやってきたわしは、鍛錬をした後にこの宿へと泊まったのじゃ。

「ふぬぁ……よく寝たわい」

 ベッドから起きて体を解し、朝食を食べようと宿の食堂にやってきたわしはウエイトレスを呼んで注文をした。

「このメニューに載っている料理を全部くれ」
「えっ?」

 食事をこうやって頼む度に驚かれるが……そんなに変な事かのう?

 そして次々と運ばれてくる料理を食べておると、わしと同じように宿へ泊まっていた冒険者から幾つか噂話が聞こえてきた。
 その中でも一番目立つ噂は、とある貴族の屋敷が半壊したという噂じゃ。
 何でも屋敷が真っ二つになっておったり、とてつもない衝撃波によって屋敷の一部が粉々になっておったそうじゃ。屋敷の持ち主である貴族は衝撃に巻き込まれたそうじゃが、何とか助かったらしいそうじゃ。犯人は……わからぬままらしい。

「ちっ……悪運が強いのう」
「ん? 何か言いましたかお客さん?」
「いやいや、何でもないわい。ほれ、次の料理はまだかのう?」
「おっと、そうでした。はい、次の料理お待たせしました!」

 ちなみに昨日のわしは肉貴族の屋敷の近くで鍛錬をしていただけじゃ。
 ちょっと加減を間違えて衝撃や斬撃を放ったら、それが屋敷に向かって飛んでいっただけで……決して狙ったわけではないのじゃ!

「さてと……エリュシオンまでもう少しじゃな」

 憂さを晴らしたら肉貴族はどうでもよくなったので、わしは食事を終えてからエリュシオンを目指して旅立った。



 ※※※



 数日後……わしはエリュシオンへと到着した。

 わしがここまで来た理由は、相棒である大剣『紅蓮』を製作者の偏屈爺に見てもらうためじゃ。
 武器としては相変わらず頼もしい頑丈さを持っておるが、最近なんか違和感を感じるのじゃ。どちらにしろ一度は見せてみたいと思ったので、わしはわざわざ偏屈爺の所までやってきたわけじゃな。

 外見特徴を元に情報を集め、わしは偏屈爺の店を突き止めたのじゃが……撃滅だとか金剛だとか付いて長ったらしいのう。名前を付けるのが壊滅的に下手糞なのは変わっておらんようじゃ。
 しかし、最後に馬鹿を付ければピッタリの店になりそうじゃな。

「どこかで感じた気配だと思えば……てめえか馬鹿野郎!」

 わしが看板を眺めておると、店から背の小さい短足の偏屈爺が出てきおったわい。名前のセンスどころか見た目も全く変わっておらんな。

「相変わらず煩い奴じゃな。ほれ、わしの剣を見せにきてやったぞ」
「てめえこそ相変わらずだな! 見てくださいの間違いじゃねえか馬鹿野郎が!」
「やかましい! お前の作った剣がおかしいから言っておるんじゃ!」
「ああ!? てめえに合わせて作ったんだからおかしいわけねえだろ馬鹿野郎! 何もなかったらわしのハンマーでボコボコにするぞ馬鹿野郎!」
「上等じゃ! やれるものならな!」

 煩い奴じゃが、剣に関しては信頼できる偏屈爺じゃ。わしの違和感を伝えると、疑問に思いつつも店内に招き入れて剣を調べ始めたのじゃ。
 そのままハンマーで軽く叩いたり剣を直接振るっておるが、偏屈爺は首を傾げるだけじゃった。

「うーむ……流石はわしの最高傑作だな。刃がちょっと欠けている箇所があるが、全体は全く歪んでおらん。これの一体何がおかしいんだ馬鹿野郎!」
「剣が軽いんじゃ」
「軽いのはてめえの力が強くなっただけだ馬鹿野郎! どうなってんだてめえの体は!」
「うむ、目標を見つけてな。力だけでなく技も色々学んだから、重心がもっと手前に欲しい。すぐに直せ」
「すぐに直せるか! 少なくとも数ヶ月はかかるってんだよ馬鹿野郎」
「むう……仕方あるまい」

 武器に関して妥協はいかんからのう。
 相棒が生まれ変わる間に背負う代わりの剣を探していると、わしは大事な事を思い出したのじゃ。

「そうじゃ!? おい爺! 以前ここにシリウスという人族と銀狼族の姉弟が来なかったかのう?」
「ああん? おう、来たぞ馬鹿野郎。色々世話になった男と生意気そうな子供に、可愛らしい孫のような子がな」
「うむ、ちゃんと来たようじゃな。それで、エミリアに良い武器を渡したんじゃろうな?」

 シリウスはすでに立派な武器を持っておったし、エミリアの武器は良い物を渡せと手紙に書いた筈じゃ。小僧は……どうでもよいわい。

「馬鹿野郎! わしが作った最高のナイフを銀貨五枚で売ってやったわ!」
「何じゃと!」

 わしは思わず机に拳を叩きつけていた。その一撃で机が壊れたが、それどころじゃないわい。

「何でお主が金を貰っておるんじゃ! 小遣いだとか言ってお主が銀貨をやるべきじゃろうが!」
「馬鹿野郎! 言った事があるけど断られたんだよ! 素直で可愛らしい女の子だったよ!」
「エミリアだから当たり前じゃろうが! わしの孫なんじゃ!」
「てめえの孫じゃねえよ馬鹿野郎!」

 それからわしと偏屈爺は拳を交えた話し合いを続け、エミリアはわし達の孫という事で落ち着いたのじゃ。
 わしの勘が何か妙な気配を捉えた気がしたが……気にすまい。




『代わりの剣だぁ? こいつでも背負ってろ馬鹿野郎!』

 ……と言われ、わしは偏屈爺から剣に似せた鉄塊のような武器を渡されたのじゃ。重さは相棒と変わらないので背負う感覚は悪くないが、刃は無いのでただの鈍器に近い物じゃな。

 そんな物を背負っていると妙に視線を集めてしまうが、わしは気にせず町中を歩いてとある店を探しておった。

「確か、がるなんちゃら商会とか言っておったのう」

 以前出会ったディーとノエルから、その商会はお勧めじゃと言っておったのじゃ。
 あの様々な料理を生み出した彼奴が手を貸した商会じゃと聞いておるので、わしを驚かせるような物があると思ってやってきたわけじゃ。
 しばらく探しておるとガルガン商会と書かれた看板と、他の建物と妙に違う雰囲気を持つ店を見つけたのじゃ。

「ふむ……ここのようじゃな」

 店には多くの客が入っており、旅の必需品と書かれた商品を買っておる光景が見える。じゃがわしは隣の建物の方が気になった。
 看板を確認すればこっちは食事や茶をする店のようじゃな。ちょうど小腹が空いてきたのでこっちへ先に行くとするかのう。


「いらっしゃいませ。ガルガン喫茶へようこそ。お一人様ですか?」

 ケーキ発祥の地……とか書いてある店に入ると、メイド服を着たウエイトレスに店内へと案内されたのじゃ。
 時間が良かったのか混雑しておらず、わしは待たされる事もなくテーブルへと座る事ができた。そしてメニュー表を渡されて一通り読んだわしは、とりあえずいつもの注文をする事にした。

「このメニューに載っている料理とケーキと言うやつを全部じゃ。順番なぞ気にせず、出来る物から用意してほしいのじゃよ」
「畏まりました」
「……おお」

 思わず感嘆の声が漏れたわい。
 今まで様々な店でこうやって注文をしてきたが、どこも必ず聞き返してきたり、無理だと言って止めさせようとしてきたからのう。
 それに比べ、この店は聞き返す事無く一発で注文を通しおった。彼奴が手を貸しただけはあるようじゃな。
 じゃが……少し慣れすぎじゃないかのう? まるでこういう注文が頻繁にあるような……そんな感じじゃ。
 疑問を浮かべておる間に、ウエイトレスがケーキを運んでわしのテーブルに並べ始めたのじゃ。

「まずは当店自慢のケーキセットになります。その他の料理はもうしばらくお待ちください」

 ディーに作ってもらったケーキと同じ物じゃが……ちと小さいのう。彼奴やディーが作ったのは大きくて丸い物じゃったが、この店で注文したのは小さく切った一部分だけじゃ。
 わしはフォークを刺して一口で食べたが、やはり物足りんわい。味は悪くないのじゃがなぁ。

「ふーむ……足りん。すまんが、これをもっと持ってきてくれるかのう?」

 近くを歩いておったウエイトレスに再び注文をし、わしが熱い紅茶を飲んでおると……。


「全く……ケーキはもっと上品に食べるものですよ」


 近くからそんな言葉が聞こえてきたのじゃが……妙にその声は癪に障った。
 睨むように視線を向けると、隣のテーブルにどこにでもいそうな青年と、それなりの実力を感じさせる男が椅子に座っておった。
 今の声は見知らぬ青年の方じゃが……忘れたくても忘れられん声で丸分かりじゃ。
 あれは魔法を極めし者(マジックマスター)だとか呼ばれておる、エルフの変態魔法使いに違いあるまい。姿が違うが、奴ならばありえる事じゃ。大方魔法や道具で変装しておるのじゃろう。

「貴様……そこで何をしておる?」
「見て分かりませんか? ケーキをいただいているのですよ。貴方と違って優雅に……ね?」
「優雅じゃと? 魔法をアホみたいに放つしか脳のない貴様に優雅という言葉が存在したのかのう?」
「これは失礼。剣しか脳のない貴方に優雅という言葉を使った私のミスでした。謝罪しましょう」

 わし等は笑っておるが、お互いに殺気を放ちながら睨み合っておるので、気づけば周囲の客とウエイトレス達はわし等から離れておったわい。

「謝罪程度で済むと思っておるのか? 貴様の魔法のせいでわしは酷い目に遭ったんじゃぞ! いきなり山を落とすアホがおるか!」

 わしは忘れんぞ。
 あれは数年前……ギルドの依頼でとある盗賊団を潰す為にわしが参加した時じゃ。
 わしが突撃したら、この男が山の様な岩を上から落としてきおったのじゃ。わしは岩の一部を斬って避けたが、下手すれば普通に殺されるところじゃったわ!

「それは貴方が作戦を聞かず勝手に突撃したからでしょう? こちらとしては、貴方が私の魔法を斬ったせいで盗賊を一網打尽に出来なかったのですから、貴方が謝るべきかと」
「たかが盗賊に山を落とす方がおかしいのじゃ! 魔法の実験は盗賊じゃなくて他所でやらんかい!」
「盗賊を笑いながら斬っている、盗賊殺しの貴方に言われたくありませんね」
「何じゃと!」
「いいでしょう……決着をつけますか?」

 わし等の殺気にテーブルに置かれたカップが微妙に振動し始めておるが、わしは相棒の代わりである鉄塊を手に取った。
 こいつ相手にこの武器では不安じゃが、この距離なら十分にやれるじゃろう。

「ちょ、ちょっとマグナさん! ケーキ食べてないで、あれ止めてほしいっすよ!」
「無理です。下手に介入すれば私の方が殺されます」

 騒がしくなる外野を意識外へと追いやり、わしはこの鉄塊を奴に叩き込もうと一歩踏み出した瞬間ー……一人の女性がわし等の間に割り込んできたのじゃ。

「はいはーい、その辺で止めましょうね。ここは外じゃなくて店内だから、暴れたら二度と来られないわよ」

 いつもならば気にせず突撃するところじゃが、その割り込んできた女性は思わずわしの足を止めさせる迫力と威厳を持っておったのじゃ。
 何だか気が削がれてしまったわしが鉄塊から手を離せば、奴の方も同じく構えを解いて椅子に座りなおしておった。

「うん、よろしい! 喧嘩なら町の外でやりなさい。おじさまもですけど、貴方も大人気ないわよ」
「恥ずかしい姿を見せてしまいました」
「……嬢ちゃんの言う通りじゃな。止めてくれて感謝するわい」
「ひ、姫様ー……じゃない、このような状況に割り込むのは止めてください!」
「この程度で怯えていたら私の仕事なんてやっていられないわよ。あ、注文いい? ケーキセット三つね」
「り、了解っす……」

 ほほう……堂々とした気の強そうな嬢ちゃんじゃな。
 常人なら逃げ出す殺気の中に割り込んだどころか、その後も気にせず椅子に座って注文しておる。

「おじ様も喧嘩していないでケーキを食べましょうよ。せっかくの休憩なのですから」
「その通りですね。ではマグナ、早くそのワンホールのケーキを持ってきなさい。貴方一人で食べるなんて決して許しませんよ」

 よくわからんが、この嬢ちゃんはあのアホエルフと知り合いのようじゃな。わし等の殺気を恐れぬ胆力……只者ではなさそうじゃ。
 嬢ちゃんが幸せそうにケーキを食べ始めたのを皮切りに、周囲も落ち着きを取り戻しておった。わしが椅子に座ると料理が運ばれてきたので、とりあえず食事に専念する事にした。


 ディー程ではないが珍しくも美味い食事を堪能しておると、わしの対面に先程の嬢ちゃんが座ってきたのじゃ。近くにはその嬢ちゃんの従者っぽい兎の獣人と、筋肉が足りない青年が控えておった。

「ふむ……何の用じゃ? さっきの騒ぎはあれが悪いんじゃぞ?」
「騒ぎは別に気にしていません。実は貴方に聞きたい事がありまして」
「食べながらでもいいなら答えてやろう」
「ありがとうございます。あちらのケーキを貪っている御方から聞いたのですが、貴方はかの有名なライオル様でよろしいでしょうか?」

 名前の部分は周囲に聞こえないような声じゃったが、わしは素直に頷く事にした。あのエルフから聞いたのならば隠してもしょうがないと思ったからじゃ。

「合っておるが、わしは現在その名前ではなくイッキトウセンと名乗っておる。トウセンとでも呼んでほしいのじゃ」
「ではトウセン様と。私の名前はリーフェルと言いまして、このエリュシオンの王族の一人です。実は折り入って貴方にお願いしたい事があるのです」
「……わしは王族と貴族は好かん。あまり聞きたくないのう」

 わしが面倒臭そうな顔をしておると、リーフェルと名乗った嬢ちゃんは懐から取り出したベルを鳴らしたのじゃ。すると厨房から大きな肉の丸焼きや、切られていないケーキが丸ごと運ばれてわしの前に並べられたのじゃ。

「遠慮せず召し上がってください。話を聞いてもらうだけでも結構ですから」
「……いいじゃろう。聞くだけ聞いてみようではないか」
「ありがとうございます。話と言っても簡単で、我が城の者達に剣を教えていただきたいのです。もちろん報酬は弾みます」
「やはりそれか。面倒じゃな……」
「では模擬戦をしていただくだけで結構ですよ。我が城の兵士達にトウセン様の強さを直接経験させてやってほしいのです。経験は大切ですから」
「ほう……よくわかっておるのう。じゃがわしが相手をすれば壊れる可能性もあるぞ?」
「それは承知済みですし、トウセン様の相手は望んだ者のみです。実はこの隣にいるメルトもそれを望んでおります」
「私はこの御方を守る為に強くなりたいのです。トウセン様、よろしくお願いできませんか?」

 この男……筋肉は足りんが目の強さは中々じゃな。目的の為にわしすら越えていこうとするあの小僧と似ておるわい。

「我が城の者達に世界一の強さを一度教えてもらいたいのです。煩い貴族がいればすぐに黙らせますので、如何でしょうか?」
「もう世界一ではないんじゃがなぁ……」

 わしはシリウスに負けた時点で世界一では無くなったのじゃ。そして彼奴がそう名乗らん以上、世界一は空席のままじゃが……説明するのも面倒じゃし放っておくか。
 それに考えてみれば相棒の調整が済むまで時間があるし……暇潰しがてらに城にでも行ってみようかのう。

「まあ……よかろう。責任は持たんぞ?」
「ありがとうございます。では早速ですが、今後の予定について説明をしてもー……」
「その爺は剣以外の知能が低いですから、説明するだけ無駄です。報酬も食事えさを与えていれば十分でしょう」
「何じゃと!? お主こそ魔法があれば幸せなんじゃろうが! あの魔法を調べる時に見せる表情は情けないにも程があるわい!」
「貴方こそ剣を振る時のだらしない顔は見物ですよ。是非とも城の兵士に見せて幻滅させてきなさい」
「……やるか?」
「やりましょうか」
「はいはい、ここでは駄目よ」

 わしとエルフは立ち上がると再び嬢ちゃんが止めに入ったが、先程と違ってわし等はすでにやる気満々じゃ。
 今度は止められないと相棒を握ったその時……嬢ちゃんから聞き捨てならない言葉が飛び出したのじゃ。

「私の妹の友達にエミリアって子がいるんだけど……トウセンさんの事を少しだけ話していたわよね、セニア?」
「そうですね。強く心優しいお爺さんと仰っておられました。まさか町中で喧嘩をなさるような御方とは……」
「あと、先日届いた手紙にシリウス君が考えた新しいケーキのレシピもあったわね。残念ですわおじ様」
「「…………」」

 わしとエルフは無言で握手をしていた。
 手を握り潰す事も考えたが、わしは心優しいお爺さんじゃ。今日は許してやろう。



 こうしてわしは相棒を預けている間、エリュシオンの兵達と戯れる事になったのじゃ。

 そして相棒が戻ってくればすぐにシリウスとエミリアを追いかけるつもりじゃ。
 小僧は……適当に期待しておくか。

 待っておるんじゃぞ!

 その後……数日に亘って城から叫び声が響き渡る日が続いたそうな。






 おまけ


 『銀狼族の改革』の頃、親達は……。



「……ようやく、エミリアは乗り越えたようですね」
「そうねぇ。シリウスも受け止めてくれたようだし、結果オーライかしら? ふふ……あんなに嬉しそうにしちゃって。羨ましいくらい」
「エミリアには私の全てを託しましたから、あの子ならばシリウス様を支え続けてくれるでしょう」
「ええ、良い返事だったわ。流石はエリナが育てた子ね」
「恐縮です」

「あの……」
「あら? 貴方達はエミリアとレウスの……」
「初めまして、ローナと申します。この度は貴方様の御子息が私達のー……」
「ああーいらないいらない。敬語は必要ないわ。ここでは皆平等よ。子を見守るだけの場所なんだから。ちなみに私はアリアって呼んでね」
「私はエリナとお呼びください。紅茶はいかがですか?」
「紅茶!? はぁ……では遠慮なく」
「ところで、そっちで崩れ落ちている人は大丈夫かしら?」
「心配ありません。娘がシリウス君に取られたのを納得できないだけですから。ほら、あんなに幸せそうにしているんだからいいじゃない! いつまで悔しがっているのよ」
「ありゃ……家の子がごめんなさいね」
「いえ……娘と息子を救ってくれたどころか、幸せにしてくれた心優しい子です。わかっているのですが、やはり……」
「その内復活すると思うので、放っておいてください。それより私達からアリアさんにお伝えしたい事があるのです」
「何かしら?」
「あのような素晴らしい子を産んでくださり、ありがとうございます。シリウス君がいたからこそ、私達は安心して消える事ができそうです。そしてエリナさん」
「何でしょう?」
「私の子達に愛を注いでくださり、ありがとうございます。それどころかエミリアに新しい目標まで授けてくれました」
「……それは違います。私は自分の自己満足の為に、貴方の子を利用したに過ぎません」
「いいえ、たとえそうだとしてもあの子達の幸せそうな顔を見れば間違いでは無いと思っております」
「うんうん! つまりお互いに良かったというわけね」
「そう……ですね。それより一緒に子供達を眺められますか?」
「いえ……私達はもう十分です。このまま消えるつもりです」
「そう……満足したのね?」
「はい。あの子達もすでに大人ですし、シリウス君に任せておけば大丈夫そうですから」
「そうですか。気をつけてと言うのも変ですが……お別れですね」
「あはは、確かに何て言えばいいかわかりませんね。ほら、貴方もいつまでもいじけていないで何か言わないと」
「ああ……そうだな。言いたい事は全て妻が言ってしまいましたが、私も感謝しております。シリウス君は素晴らしい子です」
「ふふん……私の子だから当然よ。それじゃあね」

「「はい!」」



「逝ってしまわれましたね」
「そうねぇ。ところでエリナは逝かないの?」
「ご冗談を。私はまだシリウス様を見守らなければなりませんから」
「私も同じよ。それにあの子は色々とやってくれるから、見ていて飽きないわ」
「その通りですが、少々危険な事に飛び込み過ぎだと思います」
「あら、冒険をしているんだから当然じゃない。それに教育者になるって言っているんだから、いつか定住はするでしょう?」
「だと良いのですが。定住したなら、すぐに子供が生まれそうですね」
「そうね。お嫁さん候補が二人もいるんだから、きっとすぐよ」
「孫……ですね」
「そうね。可愛いでしょうね」
「はい。可愛いに決まっております」
「楽しみね」
「楽しみです」



 親達の会話はあくまで想像みたいなもので、彼女達が復活してシリウス達の前に現れる……なんて事は一切考えておりません。





 次回の更新は六日後になります。
 ちょっとした報告もあるので、今日中に活動報告も挙げます。
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