常識ブレイカー
エリナさんが無事に完治した次の日。
俺は朝から庭に座って精神集中をしていた。
エリナさんは大事を取って今日は休ませ、ノエルとディーは家事で忙しいので周りには誰もいない。今からやろうとしてるのは少し特殊なので丁度良かった。
先日理解したが、世界の常識に疑問を向けるべきだったのだ。知らない内に前世とこちらの常識を一緒に考えている俺がいた。
魔法が存在せず、科学が発展した世界。
魔法が存在し、科学が発展していない世界。
差異が生じるのは当然なのだ。そんな当たり前に気付くのに三年かかっている。魔法が使えると浮かれて、気付かぬ内にこちらの常識に流されていたようだ。俺とした事が迂闊であった。
この世界で火を点ける方法は三種類ある。
一つ、火属性魔法を使う。
二つ、魔道具を使う。
三つ、火石を使う。
例外として魔物が放つ火を使うのがあるが、基本は上記の三つが主流で常識である。摩擦熱による火種作りは知られておらず、冒険者だったディーも初めて見た様子だった。
つまり世間に浸透していない。摩擦熱なんて手を擦ればどこだって出来るのに関わらずにだ。おそらく火を点けるのはこれ以外に無い、という常識が強く根付いているせいだろう。前世の現代科学を知ってるからこその視点だろうが、俺が目をつけたのは火に関してではない。
凝り固まった常識のせいで見えなくなった魔法がある……ということだ。
隣に置いた『中級魔法教本』を開く。
昨日買ってきてくれた本なのだが、これを読んで幾つか気付いた点があった。
一つ一つ実験していくとしよう。
まず詠唱。
初級では短縮するのが定石と書かれているが、中級には詠唱の究極が無詠唱であると書かれていた。最後の魔法名だけで発動させるのが無詠唱であり、そこに至るまで弛まぬ努力と才能が必要らしい。
昨日ゴブリンに使った『インパクト』であるが、詠唱に苛々して途中で切って魔法を放った。
『インパクト』の詠唱キーワードは、己にある魔力を活性させ、凝縮し飛ばす……という点だ。
初級本に書いてあった通りなら発動しない筈なのだが、魔法は発動した。詠唱短縮という話で済みそうだが、あの時の詠唱は『飛ばす』という重要な部分を抜いたのに発動した。
そこに穴があると俺は睨んだ。
あの時は魔力の玉をぶつけるより、榴弾を込めたグレネードランチャーを撃ち込むイメージが混ざった。魔法だと言うのに、前世で慣れ親しんだ武器が無意識に介入してしまった。
結果、普段より遥かに強い衝撃を放ちゴブリンを無力化した。それまで使っていた『インパクト』はせいぜい的を揺らす程度だったのに、ゴブリンの体を浮かしたあの威力はおかしい。
大事なのは詠唱ではなく……イメージ?
初めて『ライト』を使った際、イメージで光球は動いた。
世間で『インパクト』は無属性で弱いというイメージしかなく、実際に弱かった。
俺はノエルに見本を見せてもらってから使い始めたので、それが脳内に焼きついていたのでは? もしも見本を見ずに使っていたらと思うが、とにかく試してみよう。
実験なので詠唱は無し。
今回イメージするのは砲門から直接火薬と玉を入れて棒で詰めて装填する旧式の大砲だ。前世の戦争にて、敵船にこれでもかと撃ち込んだあの大砲をイメージ。
目を閉じて集中し、体に流れる魔力を手に集め球体状にして待機。手を的の方角へ向け、魔力玉を砲身で包み込むイメージ。そして脳内に浮かんだトリガーを引いた。
瞬間、魔力の喪失感と共にパンッと木が砕ける音が響いた。目を開いてみれば、吊るしていた的が粉々に砕けて転がっていた。予想以上の威力に驚いたが、俺の仮説は正解だった。
イメージで魔法は変えられる。
しかも詠唱どころか魔法名すら口にしていないし、魔力の消耗も『インパクト』と大差ない。正に革命。だがやりたい事はまだまだある。
次にイメージするのは自動式拳銃、ハンドガンだ。
近距離と中距離における安定した飛び道具で真っ先に思い浮かぶのが、片手に納まり精密射撃しやすい拳銃である。長年使用し、分解したりで慣れ親しんでいるのでイメージしやすいからだ。
愛用はマグナムであったが、今回は威力を考慮して有り触れたハンドガンをイメージ。重要な点は真っ直ぐ飛ばす為に弾丸を尖らせ、弾を回転させる銃身の溝であるライフリングだ。今度は目を閉じず目標である木を見据え、手は人差し指と親指を立てた拳銃の形にしておく。
魔力を集中、弾丸作成、装填、ライフリング良し、トリガー!
ビシッと鈍い音が響き、狙った木が小さく揺れて親指ほどの穴を開けていた。そのまま徐々に遠くの的を狙い続け、射程距離も威力も共に本物と大差ない事が判明した。おまけに発射音が無く、反動がほとんど無い。弾道も本物以上に安定しているし魔力の消耗も少ない。あまりの使い勝手の良さに裏があるんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。
そのまま調子に乗って様々な銃を試したが、半分は不発で何も起こらなかった。不発だったのは使用頻度が少なかった銃で、その分イメージが弱いから発動しなかったのだろう。ここに現物があると、それこそパーツの一つ一つがわかるくらいのイメージが必要なんだな。
仮説を立てつつ撃ち続け、二十を超えた頃に魔力が底をついたので止めた。
体を襲う気怠さの中、次なる実験は瞑想である。これは魔法ではなく魔力を素早く回復させる行動の一つだ。
魔力は時間経過によって自然と回復する。人は無意識に大気中の魔力を吸収し、それを自らに合う質に変換しているからだ。それを意識的に行うことにより自然回復力を早めるのが瞑想だ。
やり方はリラックスして魔力を全身で捉えて取り込むだけ。魔力を捉えられる様になるのが初級の壁らしく、そのせいで中級レベルの本に載る訳だ。瞑想と聞くと座禅を思い出すが、リラックスできれば良いらしいので大の字に寝転がった。
目を閉じて魔力を捉える……捉える……どうやるんだ?
前世に存在しない物質? だから、手探りで掴んでいくしかないんだよな。そもそも魔力は目に見えないけど、魔法発動時には確かに感じる事ができる不思議エネルギーだ。つまりこのエネルギーと似た感覚を大気から感じればいいのか? 意識を外に向け魔力を探してみる。
……魔力。
………魔力。
…………魔力。
……………魔力。
…………………。
……………………っ!
「っ!?」
思わず跳ね起きた。
半分寝落ちしてたが、あの感覚は間違いなく魔力だった。
忘れないうちにもう一度と再び目を瞑るが、今度は不思議なくらい簡単に察知できた。スイッチが切り替わったとか、自身の封印が解き放たれたみたいな爽快感を感じる。
わかる。大気中に溢れ、今もなお霧の様に体を撫でるこれが魔力なんだ。
これが魔力を捉えるという事なのか? 正解を教えてくれる人もいないし次へ行こう。
続いて魔力を取り込むと書いてあったが、それこそわからん。深呼吸すれば良いわけじゃあるまいし、また壁にぶつかってしまった。うんうん唸りながら色々試してみるが成果無し。
うーむ、取り込む……そういう感覚器がこの世界の人にはあるのだろうか? だったら俺もある筈なんだが……魔力を取り込む、溢れる魔力を自分の色に変換……変換?
感知できるようになって気付いたが、この大気中の魔力は俺自身から発する魔力と似てないか?赤色の中に赤、森の中に木がある感じ。そして今の俺は魔力が枯渇していて空白に近い状態だ。取り込むではなく、周りと同調するというのはどうだ?
再び寝転がり、あるがまま何も考えない明鏡止水の心へ。
「シリウス様!? どうしたんですか!」
至ろうとしたらノエルに叫ばれた。そりゃあ庭のど真ん中で倒れていれば驚くよな。こちらへ駆けてくるノエルに手を振って大丈夫だとアピールしたが、勢いは止まらず俺の顔を覗き込んできた。
「ご無事ですか! やはり昨日の事件で何か後遺症があったのでは!」
「落ち着け。瞑想してただけだから、ほらこれ」
放っておくと際限のないノエルに、瞑想が書かれたページを叩きつけてやった。不思議そうな顔でそのページを読み始めたノエルだが、読了後は気まずそうに笑っていた。
「あの〜シリウス様? これって中級ですよね。出来る……のですか?」
「いや、捉えるのは出来たんだけど取り込むってのがよくわからなくて。今は手詰まり状態だ」
「いえいえ! それでも十分凄すぎます。本来、何年も教師に習ってようやく出来る事ですから。それを独学でここまで出来るなんて」
「独学って、ノエルに教えてもらったじゃないか」
「滅相もない! 私なんて初級の駆け出しレベルですよ。見せただけでとても教えたとは言えません」
「見せてくれたからここまで来れたのさ。そういうノエルは誰かに教えてもらってたの?」
「故郷に元魔法教師の方がいらっしゃいましてその方に教わりました。こう見えて村の中で一番筋が良かったらしく、学校に行くことも進められましたね」
「学校? 魔法を教える学校があるんだ」
「ありますよ。ですが入校にはお金が沢山必要なんです。私の村は貧しくて、家もそうでしたから学校は諦めました。ですから基礎だけ学び、出稼ぎの為に故郷を出たんです」
おそらく故郷を懐かしんでいるのだろう、ノエルは目を細めて遠くを見ていた。
「ごめん。ちょっと無神経だった」
「ちょっと懐かしくなっただけですから気にしないでください。それに私は今幸せなんですよ。アリア様、エリナさん、ディーさん、そしてシリウス様。皆さんに会えて本当に良かったと思います」
年頃の少女らしい心からの笑顔に少し満たされた。
何だかんだでこの子にはお世話になってるし、幸せになってほしいと心から思う。
「それよりお姉ちゃんの心配なんて百年早いですよ。いくら色々知ってるからって、まだ子供なんですから」
確かにその通りだが、普段からドジ全開の君が言っても説得力ありません。俺からすれば手のかかる妹みたいなもんだし、その笑顔のお礼に実験に付き合わせてあげよう。
「肝に銘じるよ。ところでノエルは手が空いてるのかな?」
「空いてますよ。仕事が一段落したのでシリウス様の様子を見に来たのです」
「それじゃあ実験も兼ねて面白い物を見せてあげるよ。魔力が回復した……ら?」
次なる案を試すため、必要な魔力量を考えていて気付いた。
俺の魔力が回復している?
枯渇してまだ数分ぐらいしか経ってないし、さっきの瞑想だって結局やってないに等しい。普段なら数時間もあれば回復するが、一瞬だと思ったあの寝落ちが実は結構寝ちゃってたとか?
「どうかしたんですか?」
「あ、いや……魔力が回復したからちょっと集中をね」
「は〜本当に回復が早いですねぇ。私でも早くて半日かかるのに」
今は置いておこう、また魔力を枯渇させて試せばいいことだ。
今度は『ストリング』の改良だ。ロープとして非常に役立ちそうなのだが、現状のでは実用度が低すぎる。束ねればそれなりになりそうだが、どうせなら安全で強力な物に仕上げてやろう。
イメージするのはケブラー糸と呼ばれる、アラミド繊維の中でも最強ランクの糸だ。防弾チョッキにも使われ、太さが一ミリにも満たないのに引っ張り強度が六十キロもある優れた科学素材。これを幾重も束ね、強靭な一本のロープを作るのだ。
別に鎖でもワイヤーでも良かったが、魔力って柔らかいイメージなのでロープにする事にした。
「ちょっと『ストリング』使うから、それを引っ張ってくれないかな?」
「そんなのすぐに切れちゃいますよ?」
「大丈夫。ちょっと特殊なやつだから簡単には切れないさ」
半信半疑の顔をしているノエルを置いて『ストリング』を発動。目に見えないが、感知してみると太いロープの形をした魔力が手の平から生えてきた。
「はいこれ」
「はぁ……あれ? 今詠唱が無かったような?」
詠唱どころか魔法名すら言ってない。不思議そうなノエルをスルーして、手の平から伸びているそれの先端を握らせた。
「気にしない気にしない、それより早く引っ張って。全力でも構わないからさ」
「ですから切れる……何か違いますね。では行きますよ!」
手に感じたロープの感触に何か気付いたのか、先ほどまでとは一転して真面目な顔で引っ張りはじめた。俺も力を込めて引っ張るが、魔力のロープはビクともしなかった。
うむ、成功だ。魔力のせいなのか、軋みも撓みも無い不思議ロープだが強度はバッチリっぽい。だが、一つだけ失敗した。
「うおおっ!」
「わわ! シリウス様!」
力負けして引きずられてしまいました。
そりゃあ鍛えてますけど、まだ三歳だから仕方ないよね。
それから木に引っ掛けて攀じ登ったり、ブランコの鎖代わりとして使った結果、十分に実用に耐えられると断定した。太さを変えれば様々な用途に使えるし、万能道具ならぬ万能魔法であろう。
魔力糸を幾重にも束ねるせいか、少し消耗が多い気がする。それでも枯渇するほどではなかったので、今回はこの辺りにして戻るとしようか。
「そろそろ昼御飯かな?」
「ですね。私お腹空いちゃいました」
ノエルに手を握られ家に戻る俺達。
途中、世間話からこんな質問をされた。
「シリウス様は将来何をされたいですか?」
「将来?」
「こんなすごい魔法を作れるシリウス様を私は誇らしく思えます。そんなシリウス様が大きくなったら何をしたいのか気になっちゃって」
「そうだね、どうしようかな」
「あはは、幾らなんでも気が早かったですね。忘れてください」
新たな生を受けて三年、俺は一体どうしたいのだろうと何度か考えてはきた。
前世の俺は血生臭い人生だったが、作戦をやり遂げた後だったので満足して逝けたと思う。だから未練もほとんどなかったのだが、ノエルから学校の話を聞いて思い出したことがある。
俺には五人の弟子がいた。
名前は思い出せないが、俺自身が拾って教育した五人の少年少女達。親も妻もいなかった俺には、あいつらがある意味家族みたいなものだったな。師匠として、親代わりとして、全員の未来を見守れなかったのが唯一の心残りかもしれない。強くなるだけではなく、今度はしっかりと見守ってあげたい。
うん、目指す先は見えたな。
昼食後、居間に集まった全員に俺は話しかけた。
「学校に行ってみようと思うんだ」
俺の一言に三人は顔を見合わせながら戸惑っていた。
特にノエルが酷く、やっちまったと青い顔である。
「もしかして私が言ったせいですか。シリウス様の将来が私の言葉で……」
「君のせいじゃないよ。僕自身が思って決めたことなんだ」
「落ち着きなさいノエル。それでシリウス様はどうして学校へ?」
「まだ決まったわけじゃないけど、僕は教育者になりたいんだ」
この世界の死は軽い。
統一されていない国が多く、様々な種族と宗教が入り乱れ対立する話が多い。紛争も多発し、魔物が跳梁跋扈している安全の少ない世界なのだ。
だけどそれらは本で知った知識に過ぎない。
だから俺は世界を旅し、様々な物を実際に見て感じ、教育者として生きる術を教えたい。
大雑把に並べるとだ。
学校に通い世間を学び、旅して世界を知り、教育者……という流れだな。
「夢で見た人は子供に色んな事を教えてたんだ。苦労はしてたけど、すごく遣り甲斐を感じていて僕もやりたくなったんだ。その為にまず見聞を広めるために学校へ行くべきかなと」
「確かに、それならば学校に行くのは必要ですね。ですが、シリウス様は属性が……」
問題は俺が属性を持ってないという点だろう。
知られれば無能と呼ばれ、蔑むような目で見られるのが安易に想像できる。顔を顰めている従者達だが、ノエルだけは真剣な顔で頷いていた。
「……大丈夫だと思います」
「どうしたのノエル? 貴方なら孤立する苦悩がわかるでしょうに」
孤立……種族違いによる差別の事か。今は朗らかに笑っているが、昔は辛い目にあったんだろうか。
「実は先ほどシリウス様の魔法を見せていただきました。たった一つですが、私なんか足元に及ばない技術です。それに他にもありますよね?」
積極的なノエルがこちらに聞いてきたので、とりあえず頷いた。実験を繰り返せば幾らでも出来そうだが、銃の魔法は怖がられそうなので黙っておく。
「中級魔法もすでに半分は理解されてますし、正直五年後にはどれほどの成長をされるか想像もつきません。絡まれたら逆に返り討ちにしちゃいそうです」
それ正解。俺はやられたらやりかえすぞ。
「何度も言ってますけど、シリウス様は必ず大物になると思っています。だから私もやれる事をやりたいです」
「……そうですね、貴方の言うとおりです。私達従者は主の為に尽くすのみです。それに、シリウス様が口になさる初めての我侭ですし、叶えて差し上げたい」
「ですね! 頑張っていきましょう」
「俺も、だ」
俺の為に奮起する三人には申し訳ない気持ちが確かにある。けどまあ、今はこの人達に甘えていよう。
教育者なんて軽く言ったつもりなんだけど、物凄い持ち上げられてちょっと恥ずかしい。その信頼に応えられるよう成長していくけどさ。
「皆ありがとう。だけど五年はあるから無理しないでいこう」
「お気遣いありがとうございます。まずは入学金ですね。私の調合薬を売りながら足しにしていきましょう」
「売却は俺が」
「私は学校について調べておきます。シリウス様の才能がここで終るのは勿体ないです!」
鼻息荒くノエルは言ったが、一瞬寂しげに『私は諦めちゃったけど』と呟いたのが聞こえた。ああそうか、ノエルが乗り気なのは過去の自分と重なってしまったのか。自分が行けなかったのが心残りだったんだろう。
「これから忙しくなりそうですね。その前に、ディーあれをシリウス様に」
「わかりました」
ディーが居間を出て行き、しばらくして戻ってきたその手には一本の剣が握られていた。その剣を俺に手渡し、抜けと目で訴えるので刃を抜いた。
「これは?」
「俺が冒険者の頃に手に入れた剣です。これならゴブリン相手でも折れませんのでお受け取りください」
五十センチの刃渡りには薄い紋様が入っており、柄は無骨で飾りなんか一切無いショートソード。三歳児の俺が使うにはちょっと大きいが、実用重視な外見は気に入った。
だけどこの剣の刀身は鉄じゃないな。頑丈でしっかりしている割に軽い。剣は専門外だが、これはそこらで売ってるような物じゃないな。
「何かすごく良さそうな武器なんだけど、貰っていいの?」
「構いません。もう冒険者ではありませんし、俺には短いので予備として持っていた剣ですから。それはとある遺跡の奥で見つけたのですが、剣として使うには軽いので誰にも見向きされず俺が引き取ったんです。武器屋に見せたことはありますが、材質は不明でした。お守りとして持っていたのですが、今のシリウス様なら丁度良い武器だと思います」
おお、ディーがここまで饒舌なのは初めてだな。
彼の言うとおり、武器として使うより護身用として見栄え重視で考えると丁度良いな。
よくわからない剣だが呪われているわけでもないし、ありがたくいただいておこう。
「これをどうぞ。剣を吊るすベルトです」
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「格好いいですよシリウス様。これで立派な冒険者です」
俺のお礼にディーは僅かに口元を綻ばせて喜んだ。ベルトサイズも調整済みでこれを装備すれば冒険者……なわけねーだろ。三歳には無理がある。
「シリウス様、武器をお持ちになられましたが決して無理はなさらないでください」
「うん、わかってる。昨日のは必要に駆られてだからね。でも、強くなったらまたゴブリンと戦うつもりだ」
「戦いはなるべく避けて欲しいのですが、経験は必要ですね。ですが、今度は必ずディーを連れてお願いします」
心配で堪らないのだろうが、エリナさんは呑み込んで背中を押してくれる。本当に出来た人だと思う。ディーを連れてほしいのはせめてもの情けか。
ゴブリンなんて銃魔法を使えば一瞬だが、直接倒して前世の技量を取り戻したい。返り血を浴びまくり、二匹同時にしか倒せなかった無様な戦いはごめんだ。
血を浴びず三匹を倒す程度、前世ならそれこそ鼻歌交じりでやれただろうし。
魔法を使うのはいい。だが魔法に頼りきりでは成長しないし、特に俺の銃魔法は強力すぎる。やろうと思えば長遠距離からのスナイプも可能だと思うが、知られれば危険因子として追われる可能性もある。必要な時以外はなるべく隠す方向でいこう。
普段は体術と他の魔法で切り抜けていかないとな。
こうして理解ある人達に囲まれ、成長を自重する必要はなくなった。
魔法という未知なる力も得て、俺はどこまで高みに上がれるのか楽しみになってきた。
さて、ここからが本当の修行だ。
これで一章の終りです。