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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十章 新たなる旅立ち

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そして旅に……出られない

十章開始です。
 卒業し、ダイア荘を出た俺達は久しぶりに『止まり木』に泊まっていた。
 女将であるローナさんに旅に出ると伝えると、惜しまれつつも祝福され、サービスとして高い部屋を格安で使わせてくれた。この街へ来たばかりの時は三人部屋を取ったが、流石に今はリースもいるし俺達も大きくなったので別部屋にしてある。
 今日はここで泊まり、明日の朝にガルガン商会で頼んだ物を受け取ってから旅に出る予定だ。その時にはリーフェル姫やマークなど、俺達の知り合いが見送りに来るらしい。

 現在は夕方前で、そろそろ暗くなり始める時間帯だ。エミリアとリースは自分の部屋ではなく、俺とレウスの部屋に来てのんびりと過ごしていた。
 晩御飯までこのままゆっくりしていてもいいのだが、若干時間があるので、明日に備えて一度ガルガン商会へ顔を出すことにした。
 ローナさんに鍵を預けて宿を出た俺達は、一人だけ妙にわくわくしているレウスを先頭にガルガン商会を目指して歩く。

「俺はまだ見たことがないから楽しみだな。それって兄貴が設計したんだろ?」
「そういえばレウスは見てなかったわね。楽しみにしていなさい」
「見た目は普通なのに、貴族が乗っている物より凄い機能が付いていたわ。まるで小さな家みたいよ」

 卒業まで残り一年となったある日、俺は旅に出るために必要な物が何か考えていたが、真っ先に浮かんだのが荷物の運搬方法である。足腰を鍛えるために歩くのも良いが、人の手で荷物を持つには限度があるので、必要最低限の物しか持てなくなる。
 そこで馬車の出番だ。珍しい物や光景を求めての旅なので、のんびりかつ快適な旅にするなら馬車は必須だろう。時間はあったので、ガルガン商会の協力を得て俺達専用の馬車を作っていたのだ。
 数日前に様子を見に行った時は、レウスは鍛冶師のグラントの元へ愛剣である『銀牙』を預けに行っていたので見ていなかった。

「俺は案を出しただけで、実際に作ったわけじゃないぞ。だけど新技術も含めて、色々と凝って作った馬車だ。機能性だけは保証するぞ」
「そっか。楽しみだな、兄貴の作った馬車」
「あの馬車がシリウス様と私達の家になるのよ。ふふ……馬車で寝る時はシリウス様と一緒に寝られます」
「えっ!? そっか……あの広さだと全員で寝るにはくっつかないと難しいもんね」
「その通りです。合法的にシリウス様と触れ合えます」

 少し鼻息を荒くしているエミリアだが、野宿する場合は寝袋があるから、雨でも降ってない限り外で寝るつもりだぞ俺は。そもそも見張りをしないといけないから、お前の望んだ可能性は低いぞ。
 いや……エミリアなら可能性があるならば良し、と言ってへこたれないだろうな。

 レウスとは違う意味ではしゃぐ二人を連れ、ガルガン商会に着いた。
 明日はここで馬車を受け取り、知り合い達に見送られながら旅に出る筈だったのだが……。

「申し訳ないっす旦那! 実は馬車の準備がまだ整ってないっす!」

 いきなり躓いていた。
 ガルガン商会に顔を出して社長室に入った瞬間、ザックは土下座せんばかりの勢いで謝罪してきたのだ。というか、思っている間に土下座をした。

「いや、謝るよりまず説明を頼む。一応ここの社長なんだから、軽々しく土下座するのはちょっとな」
「了解っす。とりあえずソファーにどうぞっす」

 ザックに勧められ俺達はソファーに座った。向かい側にザックも座り、再び頭を下げた。

「改めて、本当に申し訳ないっす旦那。馬車の準備が整ってないんで、明日までに用意できそうにないんすよ」
「どうしてだ? 馬車はもう完成しているし、必要な物は積み込んだろ?」
「それはバッチリっす。リストにあった物は積み込みましたし、内蔵されている機能の点検も完璧っす。十年くらいなら余裕で保つっすよ」
「だったら何が原因なんだ?」
「実は馬車を引く馬がいないんすよ」

 どうやら馬車を引く為の馬が届かなくなったらしい。良い馬を育てている有名な所から買い付けたらしいが、今朝になって急に届かないと連絡がきたそうだ。

「旦那達に見合う立派な馬を用意しようと思っていたんすけど、結果はこのざまっす。商売人としてお得意様を待たすなんて本当に失格っすよ」
「他の馬を用意すればいいのでは?」
「それが今は馬が品薄なんすよ。ちょっと待てば落ち着くと思うんすけど、すぐに用意するのは無理そうっす。業者に話を聞いてみれば、最低でも三日以上は待ってくれと言われたっす」

 ザックは現状を語り終えて溜息を吐いているが、気に病む必要はないと言っておいた。
 別に明日出れなくても問題は無いし、せいぜい格好が悪くなる程度だ。別の馬が届くまで最低三日はかかるようだし、その間はどうするか悩んでいると、レウスが立ち上がって力強く拳を握り締めていた。

「じゃあ俺が馬車を引っ張ればいいんじゃないか? 訓練にもなるし」
「却下」
「そうよレウス。貴方が這いつくばって引くのは見苦しいし、シリウス様に鞭で叩かれるのよ?」
「兄貴に叩かれるなら問題ないよ」
「そうね。私もシリウス様なら構わないわ」
「話がずれているし、そういう問題じゃない」

 這いつくばるや鞭はともかく、もしレウスに馬車を引かせてみろ。目立つどころか、その光景を見た人達から冷たい視線を向けられるだろうが。
 放っておくとどこまでも暴走する姉弟を止め、俺は再びこれからの予定を考えた。

「最低でも三日は足止めか。それまで何をしていようか」
「ギルドで何か依頼を受けませんか?」
「だったら旦那、馬について色々動いていたら、こういう依頼がギルドに入ったと聞いたっす」

 ザックが言う依頼とは、西の村での魔物退治だそうだ。
 その村では馬を放牧して育てているらしく、ザックが俺達の馬を買おうとしたのもその村らしい。調べた結果、数日前に育てていた馬が魔物に襲われたらしく、それが理由で届かないのだと突き止めたそうだ。
 そしてその魔物退治がギルドに依頼されていると聞いたらしい。

「村まで歩いて半日もかかりませんし、依頼の報酬として生き残った馬を分けてもらうってのはどうすか?」
「そうだな、ただ待つくらいならこっちから動くか」
「最悪分けてもらわなくても、帰ってくる頃には馬を用意できてるかもしれないっす。こちらを気にせず、遠慮なく行ってくれて結構っすよ」

 もし俺が馬をつれて帰ってきても、用意した馬は別の人に買ってもらえるから気にしなくてもいいという事だ。

「決まりだな。すまないが、数日分の食料を用意してほしいんだが」
「ういっす、すぐに用意させるっす」
「それと明日見送りにくる人達がいるから、状況の説明をよろしく」
「旦那の知り合いと言うとあの人達っすか。よくわからないっすけど、妙に頭を下げたくなる人達ばかりで困るんすよね。特に学校の教師二人組と、格好いい男と兎獣人をいつも連れた綺麗な女性はケーキに厳しいので、料理人が涙目っす。あの人達って何者なんすかね?」

 ……すまん、その人達にここを紹介したのは俺だ。すでに体験済みと思うが、ケーキに関しては厳しいので、俺がいなくなっても頑張ってほしい。

 その後、荷物を受け取った俺達は、ザックに教えてもらった依頼を受けようと冒険者ギルドにやってきた。
 依頼の受付所には担当が何人もいるが、俺達はいつも登録時に担当してくれた女性に話をしていた。彼女なら俺達の実力を把握してくれているし、面倒な説明が少ないからだ。

「いらっしゃいませ。あら、シリウス君じゃない。今日は何の用かしら?」
「依頼を受けに来ました。噂で聞いたんですけど、とある村で馬が魔物に襲われたと聞きまして」
「ああ、それは今日来たばかりの依頼ね。それより依頼なんか受けて大丈夫なの? 明日から旅に出るんでしょ?」

 エミリア達が知らない内にギルドのクラスを上げていたので、俺も同じクラスにする為に何度もここへ通った。エミリア達と同じ八級になる頃にはこの受付の人と仲良くなっていて、今ではちょっとした世間話をする仲である。

「実は馬が必要で、その村から取り寄せようと思ったところに、何か事件が起こったと噂で聞いたんだ。依頼解決のついでに調達出来ればと思ってさ」
「なるほどね。じゃあ依頼書を持ってくるからカードを見せてくれるかしら?」

 依頼を受ける手順は、壁に貼られた依頼書を持って受付に渡し、参加する全員のカードを確認してから、受付が依頼書にサインを書き込む流れだ。
 あとはカードの返却と共に渡された依頼書に、依頼した者から達成のサインを貰って、ギルドに戻って報告すれば報酬が貰える流れである。

「依頼書を持ってくるという事は、まだ貼り付けていなかったんですね。いいんですか、俺達が受けて?」
「本当はあまりよろしくないけど、これはまだ調査レベルで初心者用の依頼ね」
「調査? 聞いた話だと、魔物を討伐すると聞きましたが」
「それなんだけどね、魔物が出て馬が襲われたのは事実だけど、その魔物がどんな存在かはっきりしていないのよね。過去に似たような事例があって、その時は上級冒険者を送ったそうだけど、犯人がゴブリンだとわかって依頼者と冒険者が相当揉めたそうなの」
「相手が不明だから、調査だけで魔物の討伐はまだ入っていないんですね。そして報酬も少ないと」
「そういうこと。ただのゴブリン程度ならいいんだけど、白くて大きな魔物を見たというあやふやな情報があるの。馬がかなり消えてしまったらしいし、それだけの量を食べる大型の魔物の可能性が高いわ。私の勘だと、調査でも初心者には厳しいかもしれないわね」

 持ってきた依頼書を見ると、ゴート村の魔物調査、報酬は銀貨が二枚と書かれている。調査なら良くて銀貨一枚だろうが、距離があるので一枚上乗せされているようだ。

「でもシリウス君達なら問題なさそうだし、何かあっても対処できるでしょ? ほら、調査でゴブリン全滅させたり、採取で大型魔物を狩ってきちゃうくらいだし」

 振り返ると、弟子達はそっと視線を逸らしていた。一年も前の話だというのに、未だに言われるという事はそれだけ衝撃だったのだろう。なんと言いますか、俺の弟子がすいません。

「受付はね、冒険者に合った依頼を勧めるのも仕事なのよ。シリウス君達が来なければすぐに貼り付ける予定の依頼書だったし、気にせず受けちゃっていいわよ」
「それなら遠慮なく。他にこの依頼について情報はありませんか?」
「うーん、よくわかってないから調査依頼なのよね。多くの馬が襲われたのと、白くて大きな魔物を見た。そしてそれを見たのはゴート村の近くにある山の奥だそうよ」
「わかりました。それでは明日にでも早速向かってきます」
「頑張ってね。あ、そうそう、依頼とは関係ないんだけど、そのゴート村の山奥にはね……」

 依頼書を受け取り、ギルドを後にした俺達は『止まり木』に戻った。
 徒歩半日の距離とはいえ、村に着いたら山の奥へ足を踏み入れなければならないので、準備はしっかりとしておくとしよう。ザックの用意してもらった食料や持っていく道具を確認していると、晩御飯の時間になったので全員で食堂へ向かった。

「旅に出ようとしたのにいきなりこれかぁ。ノエル姉、そろそろ指折り数えて待っているんじゃないかな?」
「馬を手に入れたらすぐに向かわないといけませんね」

 宿の名物であるジャオラスネークのステーキを食べながら、レウスとエミリアはノエル達と会えるのを楽しみにしているようだ。だが、その前に行く場所があるのを忘れちゃいけないな。

「いや、ノエル達の前に行く所がある。皆で母さんの墓参りに行こう」
「あ……そうですね。エリナさんに報告しなければいけませんね」
「エリナさんに大きくなった俺達を見せてあげないとね」

 墓参りと聞いて、二人は優しげな笑みで頷いていた。俺の成長もだが、新しい弟子が増えた事もしっかりと報告しないとな。
 母さんを話でしか聞いていないリースは、四回目のお代わりである皿を積み上げながら俺に聞いてきた。

「確かエリナさん……でしたよね? 私もよろしいのでしょうか?」
「よろしいも何も一緒に来てほしい。母さんにちゃんとリースを紹介しないとな」
「はい、シリウスさんの弟子だって、エリナさんに報告させていただきます」
「私の親友だとちゃんと伝えてね」
「もちろんよ」

 仲良く食べ物を分け合う二人を見ていると、リースと一緒に旅が出来るようになって本当によかったと思う。弟子としてだけでなく、一人の男としてしっかり守ってやらないとな。それ以前に、何かあったら王女と王に殺されそうだ。
 食事を食べ終えて、俺達は自分の部屋に戻ってきたのだが、エミリアとリースは自分の部屋に戻ろうとしなかった。まあ予想はしていたし、寝る直前に帰らせれば問題ないか。それぞれが思い思いに過ごしていると、『銀牙』を手入れしているレウスが、何かに気付いて顔を上げた。

「なあ兄貴。ノエル姉達と再会したら、その後はどうするんだ?」
「レウス、そんな先の事を話してもしょうがありませんよ」

 編み物をしていたエミリアが呆れ顔でレウスに突っ込んでいるが、実はちゃんと考えてある。特に姉弟には重要な事だ。

「ちゃんと先は考えてあるぞ。ノエル達の所にしばらく滞在したら、次はアドロード大陸へ向かう予定だ」
「隣の大陸ですか?」
「そうだ。アドロード大陸で、とある人物に会いに行こうかと思ってな。会えない可能性が高いが、様子ぐらいは見ておきたいんだ」

 エルフのフィアは、仕来りによりあと一年近く故郷の森から出られない。おまけに許可なく故郷の森に足を踏み入れれば、確実に追い出されると言っていた。
 だったら、彼女の方から森の手前まで来てもらえばいい。フィアの魔力は覚えているし、近くまで行って『コール』で呼んでみようかと思ったのである。

「シリウス様……その会いに行かれる方とは、もしかしてエルフでしょうか?」
「そうだけど、何だ? どうしてそんな警戒した顔をしている?」
「エリナさんが、そのエルフの女性を相手にしたら、決して油断するべきではないと言っていました。何故かわかりませんが、私も頷けるので警戒しているだけです」
「……そうか」

 フィアは別れ際に、自分を愛人候補にしてほしいと言って、俺にキスをして去って行った。それについてはエミリアどころか母さんにすら言っていないのに……これが女の勘と言うやつか?
 おかしいな? 俺はただフィアの顔を見たいだけなのに、本当に愛人と逢引している気がしてきたぞ?
 話を急いで変えた方が良さそうだ。そもそもフィアの件はついでに過ぎない。

「おほん、まあそのエルフについてはしばらく先だから気にしなくてもいい。俺がアドロード大陸へ行く本当の理由は、銀狼族の集落を探す為だ」
「私達と同じ種族ですか? 集落なら、確か大陸のあちこちに存在すると聞いていますが、一体何の用が?」
「探すのはどこでもいいんだ。最終的にお前達が住んでいた集落を探すのが目的なんだから」
「でも兄貴。もし俺達の集落が残っていても、誰も生き残りなんて……」
「だからだよ」

 魔物の群れによって滅ぼされた姉弟の集落は、数年経った今では跡形もなくなっているかもしれない。
 犠牲になった姉弟の家族や仲間は、魔物に食べられて骨すら残っていないだろう。
 それでも……。

「お前達の家族や仲間の墓を……作ってやらなきゃな」
「シリウス様……」
「兄貴……」
「もし嫌だと言うなら、無理にとは言わない。辛い現実を突きつけられるだけだからー……っと!?」

 姉弟にとって、故郷の出来事は心に深く刻まれた悪夢だ。だから無理に行かせて心の傷を抉るなら止めようと思っていたが、姉弟は俺の言葉を聞くなり、飛びつくようにして両腕に抱きついてきたのだ。

「ありがとう……ありがとうございます。そのような機会を与えてくださって……本当にありがとうございます」
「やっぱり兄貴は最高だよ。俺は一生ついていくからな!」

 銀狼族は仲間意識が強い。本に載っていた過去の話では、攫われたたった一人の子供の為に、一つの国に喧嘩を売った集落もあったとか。そのせいで数が少なかったりするという、何とも難儀な種族だと思った。
 そんな種族が亡くなった者の墓を作らないとは思えない。姉弟もそれに漏れず、墓すら作れず逃げ出してしまったのを、知らず悔いていたのかもしれない。
 聖女のような微笑を浮かべるリースに見守られながら、二人が落ち着くまで俺は好きにさせてやるのだった。


 そして就寝の時間になり、トイレから戻ってきた俺は部屋の明かりを消す前にレウスへ声をかけたのだが……。

「そろそろ消すぞ」
「はい、一緒に寝ましょうシリウス様」
「なにっ!?」

 さっきまでレウスが寝ていたベッドから、エミリアが突如姿を現したのである。俺が部屋を抜けていた僅かな間に入れ替わったというのか?

「情けをくださいとは言いません。ですが、少しでもお傍にいさせてください」

 頬を染めて俺に近づいてくるエミリアだが、この症状は学校長と戦った夜に似ている。どうやらエミリアは、俺に惚れ直すような感情が湧き上がると、興奮して歯止めがきかなくなるらしい。
 仕方あるまい、俺は彼女をベッドに招き入れた。





「はーい……シリウスさん!? もしかして夜這いー……って、エミリア!?」

 ノックをしてエミリアとリースの部屋を訪れたのだが、リースは驚いて何度も部屋と俺を見比べていた。状況はどうみても夜這いにしか見えないが、寝ているエミリアを抱きかかえて入ってくれば、何かがおかしいと気付くだろう。

「ちょっとお邪魔するよリース」
「は、はい。ところでそのエミリアは?」
「ああ、俺の部屋に忍び込んでいた。撫でて寝かしつけてやったけど、やっぱり自分の部屋に戻してやらないとな」
「それじゃあ、エミリアのベッドには……」

 リースがエミリアのベッドの毛布を除けると、そこには口を封じられてロープで縛られたレウスがいた。予想はしていたが、ついにここまでされるようになったか。恐ろしいのはその状態でも普通に寝ているレウスかもしれない。

「これでよしと。それじゃあ、おやすみリース」
「は、はい……おやすみなさい」

 エミリアとレウスを交換し、俺は自分の部屋へと戻ったのだった。
 次の朝、目覚めたエミリアは幸せそうに、そしてレウスは首を傾げつつ朝食を食べていた。

「甘美な夜でした。これで私はまだまだ戦えます」
「何だろうな? 姉ちゃんが俺を縛ってるような夢を見たんだけど、何かしらないか兄貴?」
「それは夢じゃなくて現実だ」


 『止まり木』で朝食を食べ、店が開き始める時間帯にのんびりと出発した。ゴート村まで徒歩半日の距離だが、俺達の移動速度は他の人達より若干速い。なので夕方前にはゴート村へと到着していた。
 馬の飼育が主産業であるゴート村は、柵で区切られた広い牧草地が広がっていて、少ないながらも馬がのんびりと歩いている姿が見えた。

「ここがゴート村ですか。一見すると、のどかで平和そうに見えますね」
「いや、これだけの土地が広がっていながら、馬の数が極端に少ない。相当な数が襲われたのは確かなようだな」

 真っ直ぐに依頼主である村長の元へ向かい、ギルドの依頼で来たと言えば、渋い顔をされつつも状況を説明してくれた。渋い顔をされるのは、俺達が全体的に若く見えるからだろうな。
 と言っても、受付の人から聞いた情報と違いはないようだ。数日前に襲われてから、今のところ再び襲われていないのが唯一の救いらしい。

「馬が襲われないように建物の中に入れてるのですが、そろそろ外に出しておもいっきり走らせてやらないと良い馬にならないのです。なにとぞ、早期の解決をお願いします」

 村長から話を聞いた俺達は、次に例の白い魔物を見たという村人に話を聞いてみた。

「あの時はさ、牧草地に凄い量の血が地面に流れてたんだ。それが山まで伸びていてさ、犯人を見つけてやろうと血の跡を追ったんだ。だけど山の奥で血が突然途絶えてて、諦めて帰ろうかと思ったら……見たんだよ」
「例の白い魔物ですか?」
「そうさ! 体の一部分しか見えなかったけど、凄い迫力を感じて動けなかったんだ。完全に姿が見えなくなってようやく体が動けるようになってから、その後は逃げるように帰ってきたんだ。あの化物が馬を襲ったに違いないよ」
「ありがとうございます。こちらの方でも新たに調べて見ますので、吉報をお待ちください」

 白い魔物の様子を聞き終わった頃には、すでに夕方を過ぎていた。俺達は村にある唯一の宿を取って晩飯を食べ終わり、荷物を降ろして必要な物だけを準備してから村長宅へ向かった。
 こんな時間にやってきた俺達に驚いていたが、今から山へ入ると伝えたので更に驚いていた。

「例の魔物がいるのに、山に入るなんて無茶だ! 夜の山を舐めるんじゃない!」
「大丈夫ですよ。こう見えてランクは八級ですし、夜の山なら何度も経験していますので」
「だ、だが、君達が山に行っている間に魔物が来たらどうする?」
「それでしたらこれを使ってください。魔力を流せば広範囲に合図する魔道具でして、発動したら俺達はすぐに帰ってきます」

 村長に渡したのは、俺が作った照明弾だ。小さな棒状のケースには二つの魔石を埋め込んであり、まず『インパクト』を描いた魔石で片方の魔石を上空へ打ち出し、もう一つの魔石には『ライト』が描かれているので、それが上空で発動して合図する物だ。たとえ光が見えなくても魔力が放出されるので、俺だけには使ったというのがわかる仕様だ。
 魔石を使っているので高そうに見えるが、本当に欠けた部分しか使っていないのでそこまで高級な物では無い。
 渋々とだが村長は俺達の外出を許可し、俺達は夜の山へと足を踏み入れた。

 すでに外は完全に暗くなっていて、俺の『ライト』で道を照らしながら道なき道を進む。夜の山道は危険が多いが、俺達はこういう状況を想定に何度も訓練をしているので、さしたる苦労もなく進み続けた。

「兄貴、本当に村は大丈夫なのかな?」
「一応俺の方でも調べたが、周辺に大型の魔物や群れの反応は感じなかったから大丈夫だろう。何かあったらすぐに戻る準備だけはしておいてくれ」
「わかりました。それにしても不思議な森ですね。満たされていると言いますか、何か澄んでいる気がします」

 エミリアの表現も間違いでは無いと思う。
 だが、初めて見る森なのに、何故か俺は懐かしい感覚を覚えていた。

「魔力が満ち溢れているからじゃないか? 下手したらここは、村より倍近く魔力の濃度が違うぞ。リースはどうだ?」
「精霊達がいつもより元気ですので、その通りと思います」
「兄貴、水の匂いがしてきたよ。そろそろじゃないか?」

 俺達が夜の山へ入ったのは、例の白い魔物を探すためじゃなく、ここでしか見れない現象を見るためだった。
 昨日、受付の人が最後に教えてくれたのは、この周辺の山には月光を浴びて光り輝く花、月光花が大量に群生しているそうだ。山の奥にはその月光花が咲き乱れる水場があるそうで、そこで見られる光景は神秘的で忘れられないものになるとの事だ。

「さて、どんなものか楽しみだな」
「その土地の不思議な現象を見るのも、旅の楽しみと母様が言っていました。ふふ、神秘的な現象ってどんな光景なんでしょう?」

 藪を掻き分け、目的地である小さな泉に辿り着いた。
 そこに広がる光景を見た俺達は、知らず声が漏れていた。

「へぇ……」
「わあぁ……」
「綺麗……」

 月明かりを受けて無数に咲き乱れる月光花が、ぼんやりと光を放ち俺達を迎えてくれた。
 月光花の光が泉の水面を反射しており、青い光が周囲を照らす世界へ本当に足を踏み入れてしまっていいのか躊躇するくらいだ。
 意を決して足を踏み入れると、まるで光の絨毯を歩いているようで、俺達は別世界へと迷い込んでしまったような気がした。
 俺達は静かに座って周囲を眺め、青の世界に酔いしれた。





 そんな幻想的な世界の中……それは眠っていたのである。

ちなみにシリウスはエミリアのアタックを避けていますが、気持ちに応えないのは理由があります。その辺はいずれ判明します。

別に狙ってやってるわけでないのですが、ノエル達に会うまでもうしばらくお待ちください。


おまけ
レウスと入れ替わる前の、エミリアとリースの会話。

「ねえエミリア。シリウスさんの言っていた会いたい人って、エルフで女性なんだ?」
「そうみたいです。シリウス様曰く、とても綺麗で美人と聞きました」
「そう……会ったらどうするの?」
「もちろん試します。これはエリナさんが残してくれた遺言の一つなので、私がしっかりと見極めます。シリウス様に相応しいかどうかをです!」
「……何だろう? エミリアの背後に、見たことのない女性が見えた気がする」


おまけその二

青色に光る月光花の世界の中。
そこでシリウス達が見たものとは!?

……馬肉を焼いているライオルだった。
肉焼き機をくるくる回しながら肉を焼き続け、タイミングを見計らって……。
「上手に焼けましたのじゃぁ!」
「犯人確保だレウス!」
+注意+
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