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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

九章 学校 卒業編

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卒業

「よーし! 次は重りを背負って走るぞ!」
「「「ええぇぇぇ――っ!?」」」

 レウスの声が訓練場に響き渡れば、次いで生徒達の悲鳴が響き渡る。

「叫ぶ元気があるなら大丈夫だな。兄貴の話だと、本当に駄目な人は反応すらしないって言っていた」

 砂が詰まった背負い袋は軽く見ても三十キロはあるだろう。レウスはそれを背負ったまま一時間近く走っているのだが、まだまだ元気そうである。
 それに比べ、何も背負わずレウスについて走っていただけの生徒達は息も絶え絶えで、今にも死にそうな顔で地面に突っ伏していた。

「あの、レウス先輩。本当に毎朝こんなにも走っているんですか?」
「そうだよ。でもいつもならもっと早く走るし、障害物も多いから楽な方だね。俺としては物足りないな」
「ひ、ひえぇぇ……」

 本来なら山の中で足場も悪く、真っ直ぐ走れないから疲労の度合いが全く違う。なのに生徒達は死にかけているので、彼等はもっと基礎から鍛えなおさなければなるまい。
 レウスが重りを背負わせて継続しようとしているので、俺は間に入って止めさせた。

「今日は彼等の限界を見るだけで、鍛えるのは今度だ。怪我をするといけないから、ここまでにしておきなさい」
「わかったぜ兄貴。でも俺はもう少し走っててもいいかな?」
「ああ、後は俺がやっておくから、お前は満足するまで走って来い」
「おう!」

 再び走り出し、先程以上の速度で訓練場を走り出すレウスを生徒達は呆然と見つめていた。俺はそんな生徒達の前で手を打ち鳴らして注目を集める。

「先に言っておくが、今はレウスのようになろうと思わないでほしい。今回君達を走らせたのは自分の限界を知る為で、俺はその限界を高める方法しか教えない」

 俺の言葉に生徒達は戸惑っているようだった。残念ながら時間が無いので、今からでは基礎を鍛える程度しか出来ないんだよ。

「それが嫌か、今の訓練について行けないと思った者は遠慮なく抜けても構わない。力がほしいかどうかは人それぞれだから」
「すいません、レウス先輩みたいに剣を教えてもらえないんですか?」
「レウスの剣を教えたのは俺じゃない。俺がやったのは、レウスがあの剣を振れる体の作り方を教えただけだ」

 それを聞いた大半の生徒が肩を落としていた。どれだけ素晴らしい剣技を教わろうと、肉体がついていけないと意味が無いだろ。
 特に剛破一刀流は体への負担が大きいからな、鍛えていないと確実に故障するぞ。

「質問があるなら明日までに考えておいてくれ。今日はこれで解散だ」

 疲労困憊の生徒達は、ふらふらと立ち上がってそれぞれの寮へと帰っていった。今回参加したのは三十人くらいだが、明日には半分くらいになってそうだな。
 最初に走らせるのは個人の体力だけでなく、本気で続ける気があるかどうか見る為でもある。遊び半分で来る人を教えるほど余裕はないのだ。

「うおおおぉぉ――っ!」

 今日も盛大に砂埃を舞わせ、レウスは全力で訓練場を走る。その後は重りの入った木剣を使って素振りをする流れだ。そんなレウスに負けじと、数人の生徒が必死に追いかけていく。レウスの友達(舎弟)が多いが、彼等は本気で強くなろうとする者達だ。

「流石は親分。だけど俺だって!」
「ま、負けん! 私はアーカード家の次期当主だ! 平民に負けるわけには!」

 中には迷宮騒ぎでレウスに喧嘩を売ったハルトも混じっている。疲労によって倒れる者もいそうだが、介抱する生徒を数人待機させているし大丈夫だろう。
 その場を後にし、少し離れた位置で集まっている生徒達の元へ向かった。


「……というわけで、教科書通りの魔法を放つ必要はないんです」
「大切なのはイメージだね。他人に見せてもらったのがそれだと思わず、これが出来るんだと信じて思い込むのが大事なんだよ」

 そこではエミリアとリースが魔法について講義していた。レウスの方が剣や体を鍛える訓練なら、こちらは魔法を鍛える訓練なのである。
 三十人は座っている生徒達の前で、二人は実演を交えつつ、俺が教えた魔法の使い方を教えていた。今日は新参の者が混じっていたので、その生徒が挙手をして質問をしていた。

「信じ込むってどうすればいいんですか?」
「シリウス様を信じればよいのです。あの御方が出来ると仰るなら、必ず出来るのですから。事実、私は数日で出来るようになりました」
「うん、それはエミリアとレウスだけで皆には難しいと思うよ。というわけで、自分は無詠唱でも出来ると思い込む練習から行こう。詠唱はせずに初級魔法を発動させてみようか」

 詠唱を禁止して、魔法名だけを唱えて魔法を発動するが上手くいかないようだ。やはり凝り固まった常識を崩すには生半可な気持ちでは無理だろう。リースでもかなり時間をかけて使えるようになったからな。
 おまけに彼等は、すでにある程度魔法を使える者達だから更にハードルが上がる。ただひたすらイメージし、魔法名を唱え続ける。一回使う度に神経をすり減らすが、ここで諦めなければいつかはきっと花は開く。
 流石に始めて数日では無理と思っていたが、一人の女子生徒が兆しを見せた。俺達の一つ下の後輩だが、彼女が『火矢フレイムアロー』を唱えた瞬間、一瞬だが火の玉が出現したのである。

「や、やりましたお姉様!」
「凄いわ、こんなにも早く出来るなんて」
「お姉様が出来ると仰ってくれたからです。全てお姉様の御蔭ですわ!」

 その女子がエミリアに向ける目は、完全に恋する乙女の目だった。あの生徒は、入学して出会ったエミリアに一目惚れし、以来お姉様と呼んでエミリアを慕っている子だ。
 やはり好きな人の言い分なら信じる度合いが強く、より早くコツを掴めるわけだ。エミリアと全く同じ現象だな。ただ、女性同士ってのが反応に困る。

 こっちは常識人のリースがいるし、放っておいても問題あるまい。エミリアがこちらに気付いたが、手を振ってその場を後にした。
 俺だけではなく、弟子達に教えさせているのはそれも経験になるからだ。下に教える事により見えるものもあるし、これも訓練の一環として積極的にやらせた。レウスは教えるというより前へ出て背中を追わせる形だが、それもまた教育の一つなので好きにやらせている。
 もちろん俺も教えていて、ある程度の形になった者に方向性を見つけてあげたりと忙しなく動いている。
 とりあえず、各人の訓練は順調のようだ。今日は学校長に報告する日なので、俺はもう一度弟子達の様子を見てから学校長の元へと向かった。


 俺が学校長と戦いを繰り広げてから半月が経っていた。
 無事に卒業する資格を得て、残り数ヶ月後の卒業まで、旅に出る準備をのんびりとしようと思っていたのだが、俺の強さを知った生徒達が鍛えてほしいとか、無詠唱を教えてほしいと言い出してきたのである。
 正直に言うと、その生徒達を鍛えてみたいのだが、色々と理由があって断り続けている。
 そんなある日、学校長から呼び出しがあったのだ。
 またケーキの催促かと思ったが、今回は学校長室ではなく、先生達が話し合いに使っている会議室に呼ばれたのである。
 大きな長机が置いてある会議室には、学校の先生が全員揃っており、俺は上座に座る学校長と向かい側にある席へと座らされた。全ての先生が揃うなんて珍しいと思いつつ周囲を見回していると、一人の先生が俺を睨みつけて大声を上げた。

「学校長! 本当に生徒である彼にやらせるつもりですか。私は反対です!」
「私達が何の為にいると思っている! いくら学校長でも失礼ですぞ!」

 貴族らしき先生の一人が声を荒げれば、同調した数人の先生と一緒に学校長へと食って掛かっていた。しかし学校長は涼しい顔でその訴えを受け流し、用意してある紅茶を飲んでいた。
 おいおい、一体何事だよ? わけもわからず呼び出したかと思えば、いきなり複数の先生に睨まれるなんて意味がわからないぞ。

「あの、私は何用で呼ばれたのですか?」
「これは失礼。先生方、何も知らない生徒を放って話を進めるなんて情けないですよ。マグナ先生、説明をお願いします」
「わかりました。シリウス君、学校長と戦ってから、他の生徒達から教育してほしいとか言われていませんか?」
「訓練に参加させてほしいとか、無詠唱を教えてほしいとか言われますが、卒業が近いので断っています」

 他の先生に失礼なのもあるが、時間が無いのが一番の理由だ。数ヶ月では基礎程度しか出来ないし、中途半端に鍛えるのが一番危ないと俺は思っている。他の人よりちょっと強くなったせいで、調子に乗ってやられるような者を何度も見てきたからだ。
 先程学校長に噛み付いた先生は、俺の断るという話を聞いて何度も頷いていた。

「正しい判断ですな。生徒達に余計な知恵を植えてもらいたくない」
「余計な知恵とは一体何ですかね? 少なくとも、無詠唱を教えるのは余計とは思えませんよ」
「そ、それは……魔法だけでなく、その得体の知れない訓練というのも怪しいです」
「怪しい……ですか。炎の王子(フレイムプリンス)であるマーク君は彼の訓練を受けて、先日ついに『火槍フレイムランス』を同時に五つも作って的に全て当てていました。そのような功績を持つ彼の訓練が得体が知れないと? そもそも、生徒同士で教え合ってはいけないルールを設けた覚えはありませんが」

 マークは訓練したのではなくアドバイスをしただけなんだが、口を挟む状況では無さそうなので黙っておこう。

「だが、私達には私達の指導方針がある! 彼の訓練とやらを受けて、指導している生徒がおかしくなったらどう責任を取らせるつもりだ!」

 貴族の先生は学校長の返答に焦りながらも言い返しているが、俺はこの先生の話もわからなくもない。自分が指導してきた生徒を、他の先生ならまだしも子供の生徒に変えられたら嫌にもなる。
 このまま傍観者に徹していたいのだが、学校長が俺に視線を向けてきたので無理そうだ。

「よくわかりました。ところでシリウス君。もし君が生徒達に訓練をするとしたら、どのように行う予定なのですか?」
「そうですね、もしやるならば基礎体力の向上と、無詠唱のコツを教えるくらいですね。卒業までの期間を考えると、その辺りが限度かと」
「という訳ですが、これを受けたところで貴方の教育方針に何か影響がありますかね? 私としては利点しか見当たらないのですが」
「む、無詠唱がそんなに簡単に出来るとは思えません。それに私が教える詠唱の意味が……」

 段々と声が小さくなっていく先生を見ながら、学校長はこれ見よがしに溜息を吐いた。ふむ、学校長がやろうとしている事がわかってきたぞ。

「難しいからと言ってやらせなくてどうするのですか? ついでですから貴方達も無詠唱を学びなさい。希望すれば私が教えましょう」
「なっ!? そんなの出来るわけがー……」
「出来ないとは言わせませんよ。私だけではなく目の前にいるシリウス君どころか、その弟子であるエミリア君とレウス君も出来るそうですよ。子供である彼に負けて悔しくないのですか?」

 妙に喧嘩腰だが、学校長は生徒だけでなく先生達の質も向上させようとしているのだ。絶対とは言わないが、教える側の質が悪くては生徒が伸びるはずもない。

「教師だからと慢心する時代は終わったのです。シリウス君、貴方は希望する生徒達を教育してみたいですか?」
「可能であればやってみたいです。頑張れば初級魔法くらいは無詠唱が出来るかと……」
「では是非ともお願いできませんか? 可能な限りで構いませんし、何があろうと責任は問いません。そして私と勝負をしましょう。シリウス君の教える生徒達が無詠唱を出来るようになるか、私が教える先生達が先に出来るかをです」
「「はぁっ!?」」

 勝手に決められた話に反抗する先生が出てくるが、学校長が睨むとすぐに収まった。

「私は貴方達に危機感を持ってほしいのです。このままではいずれ、生徒達に抜かれてしまいますよ」
「それは言い過ぎだ! 我々もそれ相応に苦労してきたし、生徒如きに遅れはとらん! 訂正してもらおう」
「では、そこの生徒であるシリウス君と勝負をしてください。勝てたら訂正しましょう」

 先生達の視線が俺に集まるが、一度見たらすぐに目線を逸らしている先生が大半だった。実力において学校長と他の先生との差は大きいらしく、互角まで持ち込んだ俺に敵わないと理解しているようだ。手っ取り早く黙らせる言葉だろうが、調子に乗った奴が挑んできたら面倒だから勝手に名前を使うなよ。
 中には認めてくれているのか、好意的に笑っている先生も数人いた。

「短い期間ですが、学校に新たなる風を起こしてください」

 とまあ、そんなやりとりがあって俺は希望者を募って教育しているわけだ。個人面談ではなく先生が揃った時点で話したのは、俺の行動を邪魔されないためだろう。
 そして俺が教育して無詠唱ができる生徒が出てくれば、特別だという逃げ口上も潰せるわけである。正に革命を起こしている最中だな。
 何だか利用されてるが、俺としては悪くは思っていない。教育者の真似事が出来るし、小さい頃から鍛えてきたエミリア達と、今から鍛える生徒達との成長速度の差を調べる良い機会だ。僅か数ヶ月で、どれだけ成長させられるか楽しみでもある。

 考えている間に学校長室前へ着いたので、ノックをしてから入室し、いつもの机に座る学校長に訓練の内容を報告した。

「ほほう? すでに一人は無詠唱の兆しが見えていると? 実に順調ですね」
「そして未だに遊び半分でやってくる者がいますが、走ってレウスが追い返しています」
「それでかまいませんよ。あくまでシリウス君は生徒同士に教えるアドバイザーに過ぎません。いずれ差が出てきて、他の生徒が興味を持って広まっていけば良いのですから」

 あくまで俺は火付け役で、その後は生徒達の意思と鍛え直した先生達の頑張りに任せろとのことだ。
 ちなみに学校長が教えている先生達の方は芳しくないらしい。やはり凝り固まった常識を崩すのは難しいみたいだな。

「そろそろ俺達も卒業ですね。最初は弟子達を安全に鍛えるために入学しようと考えていたのですが、色々あったものですね」

 リースの出会いに始まり、迷宮で殺人鬼集団をぶっ潰したり、王族の問題に関わったり、果ては革命騒ぎだ。何とも濃い五年間であった。
 しみじみと過去を振り返っていると、学校長は凄く残念そうに溜息を吐いていた。

「はぁ……シリウス君が卒業するとなると、ケーキが当分食べられないのですね」
「すでにガルガン商会が売り出しているじゃないですか。お菓子を作る専門の人が作った物ですから、私のより美味しい筈です」
「ええ、食べに行きましたが美味しかったですよ。ですが……違うんです。商会のは美味しいのですが、シリウス君のと違って何か足りないんです」

 言われてみれば、ガルガン商会へ試食をしに行った時の弟子達の反応は微妙だった。美味しいのは確からしいが、俺の方が何倍も美味しいと言うのだ。
 お袋の味っすね、とザックが呟くと弟子達が揃って手を打っていたが、俺はいつからお前達の母親になった? お前達と同年代だろうに。

「うーむ、やはり家の料理人になりませんか? どこにも負けない待遇を約束しますよ」
「無理です」

 もう何度も押し問答しているやりとりなので、俺の返事もおざなりである。その度に本気で落ち込む学校長だが、今日だけは笑みを浮かべてしみじみと語りだした。

「それにしても長い時を生きてきましたが、この五年間は本当に濃密でした。私の研究も進み、新しいものが沢山見れました。君には本当に感謝しています」
「こちらこそ、色々と巻き込まれましたが、充実した日々を過ごせました」
「ふふ……若干棘を感じますが仕方ありませんね。お詫びも含めて礼をしなければいけないのですが、何かありますかね?」
「魔法陣の技術を教えてもらいましたし、特には……いえ、一つ聞きたいのですが、私の魔力についてわかった事はありますか?」

 学校長と戦い終わった後、俺は前々から思っていた疑問を学校長に聞いていた。
 それは俺の魔力の回復の早さだ。一日かけて完全回復する魔力を、俺は一瞬にして回復させるのは明らかに異常だ。だから誰にも話さずにいたのだが、卒業間際でいざとなったら逃げる算段がついたので学校長に相談したのだ。
 ある程度予想はついているし、便利だから放っておいたものの、やはり専門の意見を聞いておきたかった。

「魔力の回復の早さでしたね? ええ、シリウス君と戦って判明しましたよ」
「私の魔力が大気中の魔力に近いせいだと思っていましたが、そのせいと思ってよろしいですか?」
「それで合っています。というか、近いどころかほぼ同じですね。なので大気中から取り込めばすぐに回復するというわけです」

 普通の人が魔力を回復させる手順は、大気中から魔力を自然と取り込み、自分に合った魔力に変換して回復させていくのだが、俺の場合は変換する必要がないので、大気中から取り込めばそれだけで回復する。
 俺がよく使う自身の魔力を飛ばして周囲を調べる『サーチ』は、本来相手に気付かれるのを前提で使う魔法だが、俺の魔力は大気中と一緒の魔力だから気付かれる可能性が低いという恩恵もある。
 極端に言えば、世界中に溢れる魔力が無くならない限り、俺は魔法を無限に使えるという事になる。

「やはりそうですか。何度でも即座に回復できる魔力、我ながら反則な特性ですね」
「魔力が枯渇する度に気絶する程の苦しみを味わうのですが、シリウス君は痛みを感じないのですか? 戦っていた時に何度も回復していたようですが、全く苦しんでいる様子が見られなかったのですけど」
「そこはほら、慣れですよ。慣れ」

 師匠の猛攻を食らってた時に比べれば遥かにましだ。気絶したくても気絶できない、そんな悶絶する痛みを何年も味わっていれば、気絶一歩手前の苦しみなんて軽いものだ。

「……どのような苦しみを味わっていたか聞かない方がよさそうですね。話を戻しまして、確かにその回復速度は反則でしょうが、その代わりに君は無属性で産まれてしまいました。強力な各属性魔法を使えないので、ある意味バランスが取れていたのですが、君は無属性で上級魔法に匹敵する魔法を身につけてしまいました。絶対に敵に回してはいけない存在ですね」

 魔法を極めし者(マジックマスター)に化物扱いされてしまった。魔法とケーキの変態に言われたくないと言い返したくなる。

「君が愚かな悪でなくて本当に良かった。もしそうであれば、エリュシオンは君の手によって落ちていたでしょうね」
「そんなわけ……あるな」

 リースと知り合って王様と直接会ってしまったし、やろうと思えばエリュシオンを征服できただろうな。面倒だから絶対にやらないけど。

「報告と話は以上ですね。私は今から他の先生達に無詠唱を教えにいくので失礼しますよ」
「お疲れ様です。仕事が増えて大変でしょうね」
「確かに疲れますが、今の私はとても充実していますよ」

 何を言っても否定される以前と違い、今は少しだけでも受け入れてもらえて前へ進めていると実感できるのだ。この調子で行けば、数年後に卒業する生徒達の質は格段に上がっているだろうな。
 部屋を出て、別れる間際に学校長は俺に一言申して去るのだった。

「今度の報告時にはチーズケーキをお願いします」
「買ってこいよ!」

 この人は五年経っても、ケーキに関しては全くぶれなかったな。



 それから生徒達を教育し続け、最終的には五十人近くの生徒を教育できた。
 全体的に詠唱が短くなり、初級の完全な無詠唱が出来たのが八割、中級が数人と言ったところだ。短い期間にしては上等だろう。エミリアとリースが頑張った御蔭なのでしっかりと労ってやった。
 体力に関しても格段に上がり、教育していない生徒と比べて倍近くの差がついていた。もちろん調子に乗る者も出てきたので、何度かボコボコにして現実を教えてやった。
 具体的にはレウスと俺による模擬戦である。数人同時にかかってこさせたが、あちらの攻撃は掠る事無く終わり、逆に地に沈めてしっかりと上下関係を覚えこませた。甘ったれた部分が多く、期間が短いので厳しく教育し続けた。
 厳しくしていると、とある生徒に身内贔屓だとか言われた事があるが、弟子達は生活面で甘えてきても、訓練に関しては一切甘えた事がないので厳しくする必要がないのだ。むしろ自分から厳しくするので、俺はやり過ぎないか抑える側になる。
 なので生徒達に俺とレウスの模擬戦を見せたら、そういう事を二度と言わなくなった。生徒達の間では剣術において一番と言われるレウスが、ボロボロになって地に伏している姿を見れば当然かもしれない。

 そして卒業日前日。
 俺は訓練場に全員を集め、最後の言葉を送っていた。

「皆今までよく頑張った。俺達は明日卒業するが、今までの訓練が無駄にならないように、しっかりと生かしていくんだぞ」
「「「はいっ!」」」

 生徒達が一糸乱れず整列し、大きな声で返事をする様はどこかの軍隊にしか見えなかった。だらだらしているよりはいいが、俺はこんなのを強要した覚えは無い。
 犯人はエミリアだろうな。教育する度に俺の素晴らしさを語り、何故か従者教育を施している現場も見たことがある。その結果が……この軍隊のような状況なんだろう。教えた覚えは無いのだが、我が弟子ながら恐ろしくも頼もしい子だ。
 一部涙ぐんでいる者もいて、あれだけ厳しくしたのに別れを惜しんでくれているらしい。こういう時こそ教育者明利に尽きると思う。
 感動する場面だが、俺は最後に釘を刺す仕事が残っている。

「そして最後に俺から言っておく。何度も言っているように、調子に乗ってると痛い目に遭う事が多い。お前達は周りの生徒に比べて確かに強くなったが、上には上がいるのを嫌と言うほど理解しているだろう?」

 俺の横にいるレウスが威圧を放っているせいか、何度も……それはもう千切れるんじゃないかと思える程に生徒達は首を縦に振っていた。

「今日から俺の手を離れるお前達だが、伝えた事を守っていればもっと強くなっていけるだろう。その得た力は自分のものだからどう使おうが俺は止めないし、悪い事をするなと言わん」

 その言葉に生徒達のざわめきが大きくなる。命の軽いこの世界では、生きるにはどうしても悪い事をしなければならない時があるからだ。力は正義の為に使えとか言って死なれては意味が無い。
 ただし……。

「ただ……その力をくだらん事に使っていると俺が知ったら……生きていた事を後悔させるからな」
「「「ひっ!? は、はいぃぃ……」」」

 殺すつもりで殺気を放てば、半数近くが腰を抜かしながらも返事を返してくれた。
 訓練当初にこれをやった時は、気絶したり逃げ出そうとしたりと誰一人声を返せずにいたので、本当に成長したものだと思う。
 最後に一人一人呼び出し、簡単なアドバイスをして解散した。エミリア命の女子生徒が、唇を奪おうとして返り討ちにされた以外は問題なく終わった。地面に倒されて関節技を決められているのに、恍惚の表情をしていたのは気のせいだと思いたい。
 これからお前達はどうなるかわからないけど、自分に恥じない生き方をしてほしいと俺は願う。


 そしてダイア荘に帰った俺達は、保存していた食料を全て出してささやかなパーティーを開いていた。
 何故かリーフェル姫も参加していて、今はリースの隣で仲良くローストビーフに舌鼓を打っている。まだ王を引き継いでいないとはいえ、立場的に忙しい筈なのだが……相変わらずフットワークの軽いお姫様である。
 などと呆れていると、ジャオラスネークの蒲焼を齧っているレウスが俺に向かって呟いていた。

「俺達もついに卒業かぁ。兄貴、旅に出たらまずノエル姉とディー兄の所へ行くんだろ?」
「もちろんだ。卒業したらすぐに来てほしいと、ノエルが手紙で催促してるからな。真っ先に行かないと拗ねるぞあいつは」

 何度か手紙のやりとりをしているが、最後には必ず、家に来るのを待ってます……と書いているからな。子供も無事に生まれていて、今は四歳と少しらしいがとにかく可愛くて仕方がないそうだ。しかし子供の性別と名前を書いていないので、どのような子なのかは会ってからのお楽しみらしい。

「文章を読む限りでは、お姉ちゃんはあまり変わっていないように見えますね。子供を生んで母親になったのに、相変わらずお調子者だとディーさんの手紙に書いてあります」
「全くだ。まあ、それがノエルの持ち味だからな。俺としては変わってなくてほっとするよ」

 あの二人は俺にとって大切な人達だからな。ここから少し遠いので会えるのはまだ先だろうが、再会出来るのが楽しみである。リースもエミリアから何度も話を聞いているので、ノエル達と会えるのを楽しみにしているようだ。
 それからしばらく雑談しながらパーティーは続いて料理が少なくなった頃、リーフェル姫が突如溜息を吐いていたので理由を聞いてみた。

「はぁ……明日から本当にリースやシリウス君達がいなくなっちゃうのね。ここは居心地良かったから本当に残念ねぇ……」
「姉様、ここは学校の寮であって、王族の休憩所ではないんですけど」
「でもまあ、それは貴方達がいてこそだけどね。そういえばこのダイア荘はどうなるのかしら? 誰か別の生徒が入居する予定はあるの?」
「空き家になるそうですよ。学校寮には十分な空き部屋がありますし、ここはやはり交通に難がありますから」
「こんなに充実した設備にしたのに、勿体無いわねぇ……」

 すでにダイア荘はエミリア達の手によって綺麗に掃除され、お風呂を沸かしたり、空調の代わりに描いていた魔法陣は消してある。武器を隠していた地下は潰したし、旅に必要な物はすでにガルガン商会に預けてある。
 俺が生まれた家を出たように手荷物を持って出て行けば、このダイア荘は寮としての役目を終えるだろう。
 五年間過ごし、自分の好きなように改造や改築したダイア荘。
 ここを離れると思うと、少しばかり感傷的な気分になるな。

「いつか自分で家を建てて定住した時は、もっと良い設備にしてやろうと思っています。それまでエミリアとレウスに、根無し草のような生活を送らせるのがちょっと気になりますが」
「そのような事を気になさる必要はありません。私とレウスの帰る場所は、シリウス様の隣と決まってますので」
「兄貴は気にせず俺達について来いって言えばいいのさ」
「そうか、お前達のような弟子を持てて俺は嬉しいよ」
「私達もシリウス様の弟子で、そして従者になれて幸せです。もちろんリースもでしょ?」
「えっ!? う、うん。私も……シリウスさんと一緒で嬉しいよ」
「良し! よく言ったわリース!」

 顔を真っ赤にしつつも否定しなかったリースを、リーフェル姫はにやにやと笑いながら見つめていた。
 パーティーは遅くまで続き、こうしてダイア荘で過ごす最後の夜は終わった。



 卒業式当日。

 この世界における卒業式はそこまで仰々しい式ではない。簡単に流れを説明するなら、講堂に集められて五年間で優秀だった者を表彰し、学校長の言葉を貰って終了である。
 百人近く立っている卒業生の後ろに人が集まるスペースがあるのだが、そこは後輩や親族が見学するスペースらしい。後輩達の参加は任意らしく、去年は集まっても五十人くらいだったそうだが、今日に限ってそこは人によって埋め尽くされていた。
 俺達が教育した生徒達を含め、エミリアを慕う後輩に聖女と呼ばれるリースの親衛隊とマークの親衛隊。そしてレウスの友達(舎弟)達と勢ぞろいだ。こんなに集まるのは初めてらしく、学校の先生は皆驚いていた。

 そして、風魔法の担当者が放つ『風響エコー』のアナウンスによって卒業式は始まった。

『それでは卒業式を始めます。まずは表彰者を読み上げますので、呼ばれた生徒は壇上に上がりなさい』

 表彰者は多岐に渡り、各属性から始まって武器部門や魔法陣部門と様々だ。今回は特別にマントを貰えるらしく、呼ばれた生徒は誇らしげに壇上へと上がっていた。というかあのマント、迷宮を初めにクリアした者に渡すマントじゃないか? 殺人鬼の騒ぎで迷宮がしばらく使えなくなったから、用意した分をここで渡しているだけじゃないかと思った。
 次々と名前を呼ばれ壇上に上がる生徒は、俺の知り合いがほぼ含まれていた。
 エミリアは風魔法部門。
 リースは水魔法部門。
 レウスは武器部門。
 そしてマークが火魔法部門で表彰されている。
 ちなみに俺は呼ばれていない。魔法陣部門で呼ばれるかと思ったが、考えてみれば俺は知識を得るだけで何も成果を残していなかった。
 とはいえ元から興味がないし、悔しいとすら思わない。それにマントくらいなら、あれ以上に凄い王族のマントを貰っているしな。
 弟子達が壇上に上がり、マントを授与される姿を俺は誇らしげに見つめていたが……。

『そして特例で増設された無属性部門にて、シリウス・ティーチャー』

 ……何だと?
 呆気に取られている俺を尻目に大きな拍手が巻き起こり、ほぼ強制的に壇上に上がらされた。
 表彰者である弟子達とマークまで拍手をしていて、少し気恥ずかしくなりながらも俺は壇上に立つ学校長の前まで歩いた。

「今回だけの特別部門ですが、シリウス君、おめでとうございます」
「……ありがとうございます」

 特例って……いくらなんでも私情が入りすぎだろ。そう睨んでみるが、学校長は涼しい顔で受け流して小さな声で俺に囁いてきた。

「貴方を表彰せずに卒業させるなんて、学校長としてありえませんよ。これは私からのお礼なんですから」

 満面の笑みで渡されたのは特殊な紋章が刻まれた指輪と、買えば金貨が数十枚もぶっ飛びそうな大きい魔石だった。マントじゃないのは、俺はすでに別のマントを貰っているからだろう。
 うん、完全に俺だけの為に用意された部門だこれ。学校長、本気でやり過ぎです。
 一部の貴族から相当な不評を買ったな。すぐにエリュシオンを出て行くから関係ないけど。

『表彰者の発表が終わりましたので、続いて学校長から挨拶をいただきます。皆様、ご静粛に』

 表彰者を解散させ、一人壇上に立った学校長は最後の挨拶を始めた。

「今回の表彰者で私は特例で無属性部門を作りました。それだけ私は彼の功績を評価したいからです。たとえ無属性だろうと、平民だろうと可能性は誰しも持っているものなのです。今から卒業する者も、将来卒業する者もそれを忘れずにいてください」

 俺が残したものは、僅かであるが確実に学校を変えた筈だ。やる事はやったし、後腐れなく卒業できて良かった。

「私は何度でも言いましょう。魔法と同じく、人の可能性とは無限大であると」

 ここから俺は外の世界へと本格的に足を踏み出す。
 弟子は十分に育ったし、旅の準備もほぼ完了したので問題は無い。
 ああそうだ、ノエル達の元へ行く前に母さんの墓参りに行こう。
 俺達が無事に成長した姿を報告しないとな。

「卒業生の諸君、卒業……おめでとう!」


 こうして俺達は学校を卒業した。

ネコ光一先生の次回作にご期待ください……嘘です冗談です。
まだまだ続きますよ。

これにて九章の終わりです。
長かった学校編もこれで終わりました。
今日中に活動報告をあげたいと思います。


ふと浮かんだ小ネタ
エミリア達よる教育のNG集

「信じ込むって言いますけど、本当に出来るようになるんですか?」
「出来る! 出来ますよ! シリウス様の仰る事は絶対なんです! 熱くなりなさい!」
「もっと真剣に! もっと熱くなるんだよ!」
「「「妙に暑苦しい!?」」」
+注意+
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