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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

一章 誕生

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初めてのお使い(極)

「エリナ!」

 我ながらびっくりする程の声を出して走り出していた。
 急ぎ駆け寄りエリナさんの容態を確認する。
 まず感じたのは体温の異常な高さだ。体全体が熱く、呼吸も荒く、発汗も止まらない。明らかな異常だが、台所で寝かしておくわけにはいかん。何度か呼びかけるが、意識がないのか返事が無い。あまり動かしたくないが、仕方あるまい。
 エリナさんの下に潜り込み、気合を入れて体を持ち上げる。三歳児が成人女性を持ち上げられるとは思わないが、鍛えていた体は応えてくれた。おんぶに足を引きずる不恰好な移動だが、一歩一歩確実に彼女を落とさないよう歩く。正直きついが、幸いエリナさんの部屋はすぐそこだ。
 無事に辿り着き、ベットに移してから台所に戻る。
 前世では医学も勉強していたが、ここは異世界だ。似たような症状に心当たりはあっても、同じ病気とは限らない。
 調べるのは後回しにして水分補給をさせよう。あれだけ汗を流せば脱水症状に陥る。紅茶を入れる為に用意された水を木のコップに注ぎ、アプをナイフで微塵切りにする。微塵切りにしたアプを手で握って絞り、コップの水と混ぜる。傍らの桶に水と布を入れ、用意した物を抱えてエリナさんの元へ。
 戻るとエリナさんが目を覚ましていた。
 しかしその顔色は悪く、上半身を上げることすら出来ないようで、申し訳無さそうに視線をこちらに向けていた。

「シリウス様……申し訳……」
「いいから! ほら、水を飲んで」

 コップを口に添えてゆっくりと傾ける。嚥下は出来るようで、詰まらせないよう慎重に飲ませていく。半分ほど飲ませたところで離し、桶の水を絞った布でエリナさんの汗を拭い、もう一度絞って額へ載せた。

「ああ……だいぶ楽になりました。ありがとうございます」
「気にしないで、それよりどうしたの。これは病気なの?」
「はい、おそらく……魔水病ですね」

 魔水病? どっかで見たような……ああ、アルベルト旅行記だ!
 確か本には、とある村で魔水病による死亡者が多いとか……って、ヤバイ病気じゃないか! あれは医学書じゃないから、病名と結果しか書いてないから詳しくわからんぞ。

「安心してください。明日、ディー達が帰ってくれば大丈夫です」

 俺が慌てているのに気づいたのか、エリナさんは落ち着かせるように語ってくれた。

「魔水病は薬があれば治ります。それが切れていたので二人に買いに行かせたのです」
「そ、そう。治るなら良かった」
「はい。明日まで耐えれば良いのです。これは水属性の人にしかうつらないのですが、シリウス様はわかりません。ですから、二人が帰ってくるまで私に近寄るのを避けてくださいね」
「わかった。だけど水分とか必要だろうから少しでも看病させてほしい」
「仕方ありませんね。よろしく……お願いします……」

 安心したのか、エリナさんはスイッチが切れたように意識を失った。
 おいおい、こんな状態で明日まで持つのか? こちらはちっとも安心出来ないんだが。何か出来る事はないかと、エリナさんの部屋を調べてみる。エリナさんは薬学の知識を持っていて、調合器具とかが部屋にある。もしかしたら体力が回復するような薬とかあるかもしれない。残念ながら無かったが、代わりに本を一冊見つけた。長ったらしいタイトルだが、簡単に訳すと『病気大全』。
 この世界は魔法で治療するのが主体だから、医学知識が進んでいない。そのせいか厚みが無い本であるが、現状にはちょうどいい物だ。早速開き、魔水病の症状を探す。目次が無いから手間取るが、流し読みで手早く見つける事が出来た。


 魔水病。

 体内から自然に魔力を放出し出す奇病。
 その際、体が異常に発熱し、高熱で体が動かせなくなる。
 不思議な事にこの病気は水の属性者しかかからず、感染力が高い。
 治療法としては、水魔草の調合薬で完治する。

 半日以内に対処できねば、魔力の枯渇と高熱で命を失う。
 その速さゆえ、完治できるが恐ろしい病気として世界中に知られている。


 全然大丈夫じゃなかった!
 エリナさんが魔水病に感染したのは昼過ぎとして、ディーとノエルが帰ってくるのは明日の昼過ぎだ。猶予が半日って、二人を待ってたら確実に死ぬじゃないか。
 何が安心してください……だ。俺を安心させる為に言ったんだろうが、ふざけるなよ。自重なんか知らん。俺は俺のやりたい事をやってやるからな。

 決断したなら迅速にだ。
 部屋にある本を片っ端から引っくり返し、薬草関連の本を見つける。治療に必要な『水魔草』を探すためだ。調合方法はさっきの本に書いてあったから、必要なのは材料だけだ。焦る心を落ち着けつつ、水魔草の単語を探してページを捲る。そして目的のページを見つけた。


 水魔草。

 水中の魔力を吸収し育つ、特徴的な形を持つ薬草の一種。
 様々な調合に使われ、水属性者には非常に効能を高める性質を持つ。
 魔力の濃い水辺に自生し、採取は比較的に安易。


 ページには水魔草の絵も載っており、特徴的な形を記憶に叩き込む。
 本を放り、採取する為の準備を行う。武器は台所にあったナイフでいい。料理用のナイフなので強度に難があるが無いよりましだ。動きを阻害する防具はいらない。今回は採取して帰る速度重視の作戦だ。小さな背負い袋を持ち、念の為にエリナさんの周りに新しい水と切ったアプも置いておく。
 準備を整え、玄関から飛び出して空を確認する。すでに日は暮れており、夜に切り替わる時間帯だ。前世より遥かに大きい月だが、幸いながら今日は満月で明るい。
 向かう先は玄関から反対側の森だ。エリナさんに怒られるので深く入った事はないが、この方向から水の流れを聞いた覚えがある。そこを調べてみれば、水魔草があるかもしれない。
 魔物が居る世界で、夜の森に子供一人が突入するなんて正気の沙汰じゃない。だが猶予が無いし、ここでエリナさんを見捨てたら俺は一生後悔する。救える人は救いたい。覚悟を決め、俺は森へと突撃した。

 森は障害物が多く足場が安定しないゆえ、歩きでも予想以上に体力を使う。森で育てられた経験があるので消耗は抑えられるが、体が三歳児ではそれも長続きしない。時折飛び出してくるホラビィを避けながら、体力の消耗を抑えつつ進む。
 程なくして小さな川を見つけ、水魔草を探した。

「……無いか」

 採取は安易らしいが、流れる川では難しいのか? 魔力の濃い水辺と書いてあったから、下流より上流へ向かうべきだな。目印になる木片を地に突き刺し、川に沿って深い森の奥へと急いだ。
 途中、柵らしき物を越えて二十分くらいだろうか。狭かった川が急速に広がったと思えば小さな湖に出た。湖は幾つかに分かれて川になっており、俺が沿ってきたのはその一つだったらしい。
 この広さならばありそうだな。湖は月光が木に遮られていないから、視界も良好で探しやすい。早速……と、考えたところで気配を感じ足が止まった。野生の獣がここまで露骨な気配を出す筈が無いので、木に隠れたまま気配へと視線を移す。

 案の定、それはそこに居た。

 ゴブリン。
 頭に角が生えた、全身緑色の人型魔物だ。
 身長は前世の尺で見ると一メートルくらいで、粗末な布を腰に巻いて武器として棒きれを持っている。力は成人男性並みで、動きはそれほど早くはないし頭も悪い。
 代わりに繁殖力と成長が異常に速く、徒党を組む習性があるので、度々討伐隊を組まれて処理してるとか。
 雑食で人も食べるし、女性の場合は攫って犯して子供を生ませる。
 武器を持ったゴブリンを一人で倒せれば、駆け出し冒険者として呼ばれる。

 以上、アルベルト旅行記より抜粋。

 つまりゴブリンは三歳児が挑むような相手では無いのだ。
 おまけに三人……いや、人間じゃないから三匹も居る。だが、俺はあえて挑む。採取の邪魔だから。あいつら地べたにどっしりと座り込んで、どこかへ移動する気がしないのだ。時間も無いし、どかないのならば排除するしかあるまい。
 ナイフを握り足元にあった石を拾い、山なりに投げてゴブリンの背後に落とした。その音に気を取られて背中を向けた瞬間、俺は奴らに向かって飛び出していた。
 姿勢は低く、素早く懐へ。
 足音にゴブリンは振り返るが、すでに奴らの足元だ。奴らより身長の低い俺は一瞬だが姿を見失う。それは視線を少しでも下げれば見える位置。
 その一瞬の隙に、喉へナイフを差し込んだ。
 噴出す鮮血が俺の体を赤く染めていく中、残り二匹は目を見開いたまま動きを止めていた。戦闘で棒立ちという体たらくに、元教育者としては思わず指導したくなる情けなさだ。
 体を捻った勢いでナイフを抜き、そのまま二匹目のゴブリンの喉を切る……途中でナイフが折れた。だが動きは止めない。遅れてきた反対の手で折れた部分を掌で押し込んでやる。手応えを感じ、前へ進む勢いを一切緩めず飛び、三回ほど前転しつつ距離を取った。
 振り返れば、二匹が倒れてビクビクと震えたまま絶命していた。
 残り一匹。
 だが武器が無いし、刃を掌で押し込んだせいで少し切れて痛い。ゴブリンも動揺から回復したのか、大声を上げて怒っていた。今気付いたが、こいつの武器は棒きれじゃなくて剣だな。刀身が短いのでショートソードの類と思うが、恐らく人間の物を拾って使っているのだろう。
 俺が観察していると、ふいにゴブリンが動きを止めて汚い声で笑い出した。もしかして相手が子供だとバカにしてるのか?その子供に一息で二人もやられたのをわかっているのかね。ああ、そういえば知性低いんだっけな。これが完全な獣なら油断しないものの、中途半端な知性が命取りになるわけだ。ほんじゃまあ、そいつを利用させていただきますよっと。
 今度は姿勢を下げず突撃すると、笑っていたゴブリンは見え見えな縦切りを放ってきた。体を傾けて避け、集中と詠唱。イメージは野球ボールサイズの魔力玉にグレネードランチャー。

「深遠より眠る理よ、我に息づく魔よ……」

 ああもう、めんどくせぇ!

「『インパクト!』」

 至近距離からゴブリンの顔面目掛け魔力玉を発射した。体が一瞬浮かぶほどの衝撃を食らい、ゴブリンは叫び声を上げながら顔を押さえてのた打ち回った。
 その隙に落とした剣を拾い、体重を乗せて喉に突き刺し終了……と。

 こうして、初めての魔物殺しは終った。


 戦闘を終え、周辺に敵が居ないのを確認して一息を吐く。いや、一息じゃ済まなかった。想像以上に疲労したのか、一度乱れた呼吸が収まらなかった。精神は慣れていても、体は三歳児でここまで強行軍だから無理もない。倒れそうになる体を支え呼吸を落ち着かせていく。落ち着いたところで目を閉じ、ゆっくりと三つ数える。
 それはちょっとした暗示であり、戦闘意識から通常意識へ切り替えるスイッチだ。そうして目を開ける頃には冷静さを取り戻している。さあ、目的の物を探すとしよう。
 とはいえ水辺に近寄ればあっさりと見つける事が出来た。一本で十分だが、念の為に五本収穫し鞄へと仕舞いこむ。長居すれば血によって他の魔物を集めそうだ。血だらけの顔を洗い、来た道を急ぎ引き返した。

 疲労で何度か転びかけたが、魔物に出くわすことなく家に帰り着いた。出かけていたのは二時間ぐらいだろう。
 エリナさんの容態を確認すると、荒い呼吸で意識も朦朧としていた。時間が無い、本を広げて部屋にあった器具を使って調合を開始する。

 水魔草を乳鉢に入れ、塊が無くなるまですり潰す。常備してあるクルメシアという胡桃に似た実を入れ、これも塊が無くなるまですり潰す。緑色のペースト状になったら、沸騰したお湯に入れるー……って、お湯がいるじゃないか!
 台所へ行き、竃に薪を放り込んで備え付けられた魔道具に魔力を通す。通常ならこれで火が点くのだが、何も起きない。数回試しても結果は同じで、魔道具を確認すれば描かれた魔法陣が一部欠けていた。
 そういえば今朝に壊れたと話していたのを思い出した。
 なら火石で点けようと隅に置いてある箱を見るが、箱が倒れて石が全部割れているじゃないか。おそらくエリナさんが倒れた拍子だと思うが、石床だったおかげで火事にならなかっただけマシか。しかしこれでは火が……いや、自力で点けるしかあるまい。
 火石の欠片は残っている。台所にあった予備のナイフで薪を尖らせ、その尖端を火石の欠片に当てる。そのまま薪を回転させて摩擦熱で火を点ける原始的なやり方である。この方法はかなり力と技術が必要だが、予想通り欠片が着火材の役割をしてあっさりと火が点いてくれた。
 風を送りながら火力を高め、お湯が沸いたら調合した薬草を投入。薬草を入れると緑色の色素がお湯を濁らすが、しばらくすると上澄みが透明になってきた。この上澄みが魔水病の特効薬らしい。最後に集めた上澄みをコップに入れて完成。

 完成品は無色に淡い光を放つと書いてあるが、説明通りの現象が見られるので上手く出来たようだ。
 薬を冷まし、エリナさんの元へダッシュ。

「エリナさん薬だよ。これを飲んで」
「あ……ああ……」

 意識はあるようだが混乱もしているようで、虚空を見据えて何か呟いていた。
 本格的にまずい、強引にでも飲ませないと。

「申し訳ありません……申し訳ありません……私が……私が……」

 だから何でお前が謝るんだよ!
 くそ! 冷静にならなきゃいけないのに、精神が体に引っ張られているのか感情が剥き出しだ。いい加減、アドレナリンが出まくっていて抑えが効かなくなっているんだこっちは。

「いいから飲め! 飲まなきゃ絶対に許さないからな!」

 俺の怒声にエリナさんの体が震えた。目を覗けばしっかりこちらを捉えているのでコップを口元へ運んだ。数分かけてコップの中身を飲まし終え、最後に一言だけ命令した。

「寝ろ」

 口調が荒っぽいが、エリナさんは静かに目を閉じて寝息を立て始めた。目から涙が零れていたが、もうどうにでもなれだ。
 空になったコップを床に置き、俺はやり遂げたことを実感した。やれる事はやった、後は結果を待つだけ。限界を迎えた俺は、エリナさんのベットに縋りついたまま意識を失った。




 柔らかい感触が頭に触れていた。
 慈しむように撫でられるそれはいつもの……いつもの?

「エリナ!」

 瞬時に覚醒し、顔が跳ね上がった。

「はい、ここに……」

 そこにはいつもの微笑を浮かべたエリナさんが居た。
 汗で髪や服が乱れてはいるが顔色は悪くなく、上半身を起こして俺の頭を撫でていた。外を見れば完全に明るくなっており、おそらく昼前だろう。
 峠は越えたのだ。

「……良かった」

 こうしてエリナさんの顔を見てようやく落ち着いた。
 魔水病も治ったみたいだし、後は体力を回復させればいいだろう。何か食べ物と思い立ち上がるが、変な姿勢で寝てたせいか足に力が入らず、エリナさん目掛け転んでしまった。病み上がりの人に負担掛けさせてどうする。締まらないなぁと恥ずかしい気持ちで起きようとするが出来なかった。
 エリナさんが俺を抱きしめてくれたからだ。

「エリナ?」
「ありがとうございます。貴方にただ……感謝を」

 エリナさんの胸に埋もれてちょっと苦しいが、今は好きにやらせてあげるか。いやちょっと待て、あんだけ走って戦ってるのに着替えもしてないじゃん。

「あの、エリナ? そんなにくっつくと汚れが……」
「構いません。私を救って下さった御方の汚れなんて関係ありません」
「う、うん。だけどね、ちょっと血が付いちゃうと嫌だなー……って」
「血っ!? どこか怪我をなさったのですか!」

 おおう、弾け飛ぶように抱擁を解いた。
 そして全身を舐め回すように目を……て、すぐ見つかりますよね。俺の服、ゴブリンの返り血で真っ赤です。せっかく健康になったのに、エリナさんの顔がまた青白くなったよ。

「落ち着いて、これは僕の血じゃないから」
「で、ですがこの血は一体?」
「えーと……」

 うん……もういいや、正直に話してしまおう。一年後の予定が繰り上がっただけだ。

「これはゴブリンの血だよ。水魔草を採取する時に邪魔だったから倒したんだ」
「ゴブリン!? それに水魔草の採取に、倒した?」
「うん。台所のナイフでこう……ね」

 ゴブリンの喉を突く動きをジェスチャーで再現する。
 予想通りエリナさんは呆気にとられていたが、俺は真面目な顔でエリナさんを見据えた。その真剣さを理解したのか、動揺していたエリナさんは少し落ち着いてくれた。

「シリウス様、貴方は一体?」
「お互いに色々言いたい事があると思うんだ。僕もそうだし、エリナもでしょ?」
「……はい」
「だけど少し落ち着こう。体の手入れとか済ませてからでも遅くない」
「そう……ですね。恥ずかしい真似をしました」

 重く突拍子のない話ばかりになるだろうし、一旦落ち着いて会話するべきだろう。
 着替えをエリナさんに渡して退室し、自室に戻って着替えを済ませた。改めて見ると本当に返り血すごいな。我ながら下手糞な戦闘をしてしまったものだ。
 外に出てから井戸の水で体を拭いてから軽食を作ることにした。パンを一口サイズに切り、卵と牛乳モドキと砂糖を混ぜた物に浸す。後は軽く焦げ目が付くまで焼けば、異世界版フレンチトーストの完成だ。食パンじゃないからトーストって言うのもおかしいが、そこは気にしない。味も問題無し。俺のお気に入り紅茶も用意して、いざ行かんエリナさんの元へ。
 ノックをして返事を待ってから部屋に入る。ベッドから動くなと言っておいたが、流石と言うか身繕いはきちんと済ましている。話す前に食事を済ませるとしますか。

「これは何でしょうか? 初めて見る食べ物ですね」
「フレンチトーストって言うんだ。甘くて美味しいよ」
「ではいただきます」

 本当なら病み上がりという事でお粥にしたかったけど米が無いからな。これなら柔らかくて食べやすいだろう。一口食べたエリナさんは、何度か頷くと満面の笑みで微笑んだ。

「……美味しいです。シリウス様の優しさを感じます」
「そっか。病み上がりなんだから無理はしなくていいからね」
「お世辞ではありません。こんなお世話をしていただいて、私は幸せです」

 幸せそうに食べ続けるその姿に嬉しく感じる。
 あっという間に全部食べ終え、紅茶を入れて一息ついた。

 それでは人生を決めるお話でもしましょうかね。

「エリナ、そろそろ本題に入ろうか」
「……わかりました」
「じゃあ僕のことなんだけどー……」
「お待ちください」

 さくっと言ってしまおうと思ったが止められた。
 勘弁してくれ。いくらおっさんでもこういうのって勇気必要なんですよ。

「先に私からお話させてください。シリウス様の母親についてです」

 おお、ついに俺の母親っすか。
 だけどエリナさんの表情は硬く、それだけ言いづらい内容なんだろう。

「申し訳ありませんが、机の中に絵が入っております。それを……」

 言われた通り机を調べれば、A4サイズの絵が一枚入っていた。
 描かれていたのは一人の女性。
 つまりこの人が。

「ミリアリア・エルドランド。シリウス様の母親です」

 写真とまではいかないが、色も塗ってある非常に出来の良い絵だ。
 流れるような黒髪に、優しげな目を見ていると不思議と落ち着いてくる。この人は間違いなく俺の母親だと本能的に理解した。




「そして、貴方をお生みと同時に……亡くなられました」
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