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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

八章 学校 革命編

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パーティーは賑やかに

 革命と言う名の暴挙が終息し二日経った。
 学校内で起こった戦闘の傷痕は残っているが、生徒達の意識は落ち着き始めていた。
 当然であるが、革命騒ぎのせいで学校は授業どころではなく休みになっている。しかし特に用がなければ学校の敷地から出ない事を厳守させられていた。
 何故なら今回の事件によって、全生徒から事情を聞くべきだと城が決定したからである。
 これは生徒が危険な思想を持っていないか調べる意図もあり、今頃教室では城から来た兵士や学者によって生徒が呼び出され個人面談を受けている頃だろう。
 ちなみに呼び出しがあるまでは寮で待機していなければならないのだが、俺達が住んでいるダイア荘は山奥で用がある人以外は滅多に近寄らない場所だ。
 そのせいか順番がくるのが遅く、時間に余裕がある俺は弟子達の願いを叶えていた。

「兄貴! もっともっと!」
「シリウス様! 次は私がキャッチしてみせますから見ててくださいね」
「わかったわかった。ほら、取ってこーい」

 つまり……わかりやすく言えば遊んでいた。
 俺が投げるフリスビーを、姉弟が楽しそうに追いかけるほのぼのとした日常――……じゃないな。姉弟が走った後は凄まじい土埃が舞うので、見る人によっては格闘技に見える程の熱気を感じさせるかもしれない。
 あれだけの騒ぎになって僅か二日だと言うのに、俺達はすでにいつもの日常を過ごしている。
 被害に遭った他の生徒達には悪いが、俺達には騒ぎによる被害がほとんど無かったし、むしろ様々な苦難を乗り越え良い経験になったと思う。若干レウスが落ち込んだが、今はもう調子を取り戻して元気にフリスビーを追いかけていた。
 ちなみに弟子達への褒美として一つだけ願いを叶えてやると言ったら、レウスが遊んで欲しいと言って来たのでフリスビーをしているわけだ。

「本当に楽しそうですね。見てるこっちが羨ましくなるくらいです」
「あいつら本当にフリスビーが好きだからな。だけど俺が投げないと嫌がるんだよ」

 こうして何度もフリスビーで遊んでいるが、投げるのは全て俺だ。この姉弟はずっとキャッチする事を続けているのに飽きたりしないのだろうか?

「リースは混ざらないのか?」
「二人から取るのが難しそうですし、見ているだけで十分ですよ」
「取りました!」
「ちょっと姉ちゃん! それ反則!」

 弟の背中を踏み台にするとは、えげつないなエミリアよ。
 何にしろキャッチに成功したエミリアは全力ダッシュで俺の前へ戻り、フリスビーを渡してから頭を向けてくるので撫でてやった。

「よしよし、ナイスキャッチだぞ」
「うふふ……やりましたぁ」
「次は俺が取るから! 兄貴、早く投げて!」
「……原因はそれですね」
「原因って、俺が投げないと嫌がる理由ってやつか?」
「それだけ自然という事なんですね。シリウスさんは理由がわからなくても構いませんよ。今から私も入りますので、お手柔らかにお願いします」
「おい、どうしたリース?」

 リースが急にやる気をだしたと思えば腕まくりをし姉弟の横に並んでいた。

「どうやら気づいたようねリース。でもそう簡単に取れると思わないでね」
「次こそ絶対俺だ!」
「私も負けないから! でも……一回くらいは勝たせてほしいな」

 よくわからなかったが、リースも参戦し勝負は更に白熱していった。
 結果……何回投げたか数えてないが、全体的に見てエミリアが六割、レウスが四割、そしてリースが明らかに手加減されて数回だけキャッチ出来たのであった。


 午前はそんな風に遊び続け、午後からは料理の時間である。これはリースの要望で、俺の作ったお菓子を沢山食べたいそうだ。今日は完全に訓練をオフにしているので、久々に凝った料理でも作ってみたいものだ。

「ケーキにプリン、そしてクレープ。色々あるが何か希望はあるか?」
「その……シリウスさんの作ったケーキを全種類食べてみたいです」
「それいいなリース姉!」

 全種類って……そこまで種類があるわけじゃないが胸焼けするぞお前ら? いや、リースならペロリと平らげてしまいそうだ。

「全部は大変だから三種類で勘弁してくれ。ショートにチーズとフルーツケーキでどうだ?」
「構いません! ふふ……夢みたいです」
「兄貴兄貴! 前言っていたタコヤキってやつも食べたいな」
「ああそれか。まだ専用の鉄板もないし、お好み焼きでもいいか?」
「よくわからないけど、兄貴の作る物なら何でも美味いからそれでいい」

 たこ焼きの丸い形を作るための鉄板をガルガン商会に頼んでいるが、まだ出来ていないそうだ。特殊な形なので依頼した当初は不思議がられたが、新しい料理ですと言えばあっさり納得された。
 今からケーキを作るから、お好み焼きは今日の晩御飯に回すとしよう。

「よし、それじゃあ生地を作るとするか」
「手伝いますね」
「生地を混ぜるのは任せてくれよ」
「シリウス様、準備が整いました」

 早速取り掛かろうと調理器具を準備をしようと思ったら、すでにエミリアが準備を済ませるどころか材料も並べていた。俺達の会話を聞きながら必要な物を知り、前もって用意を済ます。従者としての腕がますます磨きがかかっているな。

「流石だなエミリア」
「ありがとうございます。ですが、そのオコノミヤキの材料がわからないのです。何が必要なのでしょうか?」
「ああ、それは晩御飯に回すから今はいいよ。とにかく今日はケーキパーティーだな」
「ケーキパーティー……素晴らしいです!」

 ご機嫌な弟子達と共にケーキ作りは始まった。
 生地は何度も作るのを手伝ったエミリア達に任せるとして、俺は生クリームや配分が難しい部分を担当する。量と種類が多いから、少し糖分を控えめに作るとしようか。
 協力して作った生地をオーブンもどきに入れ、生クリームや冷やす物を冷蔵庫モドキに入れてようやく一段落だ。後は生地が焼けるのを待って仕上げるだけである。

「オーブンを大きめに作っておいて正解だったな。一個一個焼いていたら夜になったかもしれん」
「シリウス様、アプが予想以上に残っていますね。どうしますか?」
「そうだな、一つ食べるか」
「わかりました。レウス、お皿を」
「おう!」
「ケーキの前菜ね」

 エミリアが余ったフルーツを切りテーブルに載せた。こういう時は俺が一番に食べないと弟子達が手を伸ばさないので、一切れ取ろうとするとエミリアが先に取り俺の口元に差し出してきた。

「シリウス様、どうぞお口を開けてください」
「いや、一人で食べられるんだが」
「それでは私の褒美ではありません」

 少し頬を膨らましつつ、エミリアは拗ねるように言ってきた。そうだった、エミリアは今朝一番に自分の要望を伝えてくれたのだが、内容が奉仕をさせてほしいとの事だ。
 普通に考えれば逆だと思うが、細かい事を任せてくれないから不満があるそうだ。
 俺からすればお茶を用意したり掃除や料理の手伝いもしてくれるから十分奉仕していると思うんだが、彼女はそれだけでは物足りないらしい。その一つがこれなわけか。

「どうぞ、あーんしてください」
「豊穣祭の時といい、お前は本当にこれが好きなんだな」
「当然です。あ、本日は背中も流させていただきますので」
「もう好きにしてくれ。ただし、裸で来るなよ」
「……はい」

 何で残念そうなんだ! もう少し恥じらいを持ってほしいと、父親のような心境でアプを食べさせてもらうと、リースもアプを持って俺に差し出していた。

「ど、どうぞシリウスさん!」
「お前もかリース」
「あ、嫌なら別に……」
「嫌とは言っていない。ほら、食べさせてくれ」
「は、はい!」

 顔を赤くしながらリースは俺に食べさせると、自分の手と俺の顔を見てから頷き、優しく微笑んだ。

「……うん、エミリアの気持ちがわかる気がする。恥ずかしいけど、何だか嬉しいな」
「リースなら理解してくれると思ったわ。今度……いえ! 今日一緒にシリウス様の背中を流しましょう」
「え!? ……うん、やってみようかな?」
「ちょっと待て!」

 そもそも三人も入るには風呂場が狭い……じゃなくて、人数が増えるのは予想外だ。
 まだ精通は来ていないが、可愛く魅力的になってきた二人に触れられて鼓動が早くなるのも事実。というか、二人の好意から推測するに俺が襲っても普通に受け入れられそうだな。特にエミリアは嬉々として服を脱ぎ、リースも何だかんだ言って受け入れそうである。
 性欲のコントロールもある程度出来るし別に襲うつもりはないが、思春期の体には辛いのでもう少し抑え目で来てほしいものである。

「頼むから二人同時は止めろ。もう少し慎みを持ちなさい」
「仕方ありません。今日は私で、明日はリースでお願いします」
「が、頑張ります!」

 これ以上渋ると、自分の魅力が足りないのですか……と訴え始めそうなので許可する事にした。
 今更言うのもなんだが、まさかここまで好かれるとは思わなかったな。俺としては前世と同じように接して育てたつもりだが、あの時の俺は完全におっさんで、今は同年代の男だから仕方ないのかもしれない。
 別に教え子を娶るのを嫌なわけじゃないし、この世界にそういうルールは無い。
 ただ、少しばかり時期が……な。
 俺は定住しておらず、金はあっても収入が安定しているわけじゃない。どちらもやろうと思えばやれないこともないが、俺は学校を卒業したら世界を旅して教育者になる目標がある。リースはまだわからないが、それに付き合うエミリアの好意にはいつかはっきりと応えてやらねばなるまい。師匠としてではなく、一人の男としてだ。
 卒業して旅先で安住の地を見つけてからが理想なんだが……曖昧な関係だと可哀想だし、せめて婚約者にしておくべきだろうか?
 悩んでいる俺の前に再びアプが差し出されたが、今度は何故かレウスであった。

「兄貴、口を開けてくれ」
「何でお前も?」
「何でって、俺も兄貴が好きだし、食べてほしいと思ったんだ」

 俺とレウスは断じてそういう関係ではないし、お互いにノーマルだ。おそらくレウスは、こういう行為は男女問わず好きな者同士がやる事だと思っているのだろう。
 天然なのに恋愛だとかそういう方面に知識が薄いレウスは危険極まりない。そろそろ性欲を含めそっち方面の情操教育をするべき時が来たのかもしれない。
 ちなみに断ると凄く悲しそうにしていたので食べてやった。



 それからケーキの生地が焼きあがり、生クリームとフルーツで飾り付けをしていると鈴の音がキッチンに響き渡った。

「私が行ってきます」

 俺が何か言う前に、エミリアは率先して玄関へ向かった。今しがた響き渡った鈴の音は呼び鈴の代わりだ。玄関に紐を垂らしてあり、それを引っ張れば鈴が鳴る簡単な仕組みである。こんな物が無くても人が来れば気配でわかるが、こういう装置は必要だろう。
 そしてショートケーキの分が終わったところでドアが開き、エミリアがお客を連れて俺達の前に現れた。

「こんにちはシリウス君。突然お邪魔するわね」
「姉様!? どうしてここに?」
「どうしてって、私が来ちゃ駄目なのかしら?」
「そういうわけじゃないですけど、来るなら前もって言ってほしかったです。そうしたら色々歓迎の準備をしたのですが」

 現れたのは髪色を変えて変装したリーフェル姫だった。後ろにセニアとメルトも続き、突然の登場にリースは驚きつつも嬉しそうである。

「貴方の顔が見れれば歓迎なんていらないわよ。それにしても……目の前に凄く幸せな光景が広がっているわね」

 姉妹だけあってテーブルに並べられたケーキに目を奪われているようだ。予想外のお客様であるが、これはまたタイミングよくやってきたものだ。
 流石に三人も増えると手狭だが、詰めれば何とかテーブルに座れそうである。エミリアとレウスが追加の椅子を持ってこようとするが、セニアが首を振って断ろうとしていた。

「突然の来訪ですし、私達は従者ですから立ったままで構いませんよ」
「それはいけません。ダイア荘では従者でも何でも座って食事を取るのが当たり前なんです。なにより療養所で私達を歓迎してくれたお礼がまだですから」
「立ったまま食べるケーキなんて兄貴に失礼だよ。ほらメルトさんも座って」
「う、うむ。すまん……な」

 姉弟の迫力に押され、二人は渋々と座る。主人であるリーフェル姫と同じ席に着くのを気にしているようだが、ダイア荘は従者だろうが何だろうが平等に食事を取るルールだ。
 リーフェル姫も気にしておらず、リースと楽しそうに会話を続けているし問題は無いだろう。

「初めて貴方の住んでいる場所に来たけど、良い感じじゃない」
「学校寮も良かったんですけど、ダイア荘はもっと良いですよ。シリウスさんが過ごしやすいように色々作っているんです」
「城や療養所に比べたら狭いですが、私なりに拘ってみたのです」
「確かに見たこと無い物が結構あるわね。それにしても靴を脱いでこのスリッパと言う物を履くなんて変わった習慣ね」
「私も最初は驚きましたが、慣れると楽ですよ」
「城でもやってみようかしら?」
「リーフェル様、流石に城では……」
「もちろん冗談よ。あら、これはもしかして?」
「オーブンですよ。シリウスさんの作るケーキは全てここから始まっているのです!」

 リースがリーフェル姫を相手している間にようやく三つのケーキが完成した。全てのケーキを一定の大きさで切り、好きなのを自由に取れとばかりにテーブルに並べた。その間にエミリアとセニアが紅茶の用意をし、個人の皿を一つずつ渡して準備完了だ。

「うーん……ケーキが三種類も並んでいるなんて夢のよう。本当にタイミングよく来れたものねぇ。自分を褒めたいくらいだわ」
「申し訳ないですが、一応これはリース達の褒美ですので、彼女達を優先でよろしいでしょうか?」
「こちらは気にしなくて結構よ。私達はちょっとした用事で顔を見せに来ただけだし、ケーキを頂けるだけで十分だから」
「ありがとうございます。ほら、遠慮なく取りなさいお前達」
「はい! それではいただきます」

 俺の号令で、リースを筆頭に弟子達が思い思いにケーキを取り食べ始めた。
 一つずつ皿に乗せて食べるエミリアに、ショートを二つ確保しているレウス。そして全種類を乗せて更に好物であるチーズを二つも確保しているリースと、食に対する個性がよく現れていた。
 俺は一つ食べれば十分なので、リーフェル姫の前には全種類を一つずつ乗せた皿を差し出しておいた。

「まだまだありますから、お代わりはご自由に。セニアさんとメルトさんもどうぞ」
「そうそう、わかっているわねシリウス君! 三種類も楽しめるなんて贅沢ねぇ」
「お言葉に甘えまして、私もいただきましょう」
「すまないな。では私はこのフルーツをいただこう」

 従者達も食べ始めたので俺もそろそろ食べようかと思ったら、ケーキを刺したフォークが俺の前へ差し出された。犯人はエミリアだが、もはや問答するのも面倒なので何も言わず食べてやった。

「うふふ……もう一つ如何ですか?」
「いただこうか。だけど俺だけじゃなくエミリアもちゃんと食べなさい」
「私は二つも食べたので十分です。こうしてシリウス様のお世話をさせていただければ幸せですから」

 心から幸せそうにエミリアは俺に食べさせてくれる。下手したら紅茶まで飲ませてきそうなので、それだけは阻止しようとカップは握ったままにしておいた。
 そんな熱々カップルのような俺達を、リーフェル姫は不思議なものを見るような表情で眺めていた。

「エミリアはわかるけど、シリウス君も結構慣れているわね。全然恥ずかしがってないし、いつもこんな感じなのレウス?」
「そうだよ。姉ちゃんは隙さえあればやろうとするし、兄貴は結構やられているからとっくの昔に慣れているよ」

 レウスの言う通り、エミリアの前は母さんがよくやってきたので慣れた。一人で食べられるようになっても、母さんは数日に一回は今のように食べさせてきたのだ。なので恥ずかしいという感覚がすでに麻痺している。

「生半可な誘惑じゃあ靡きそうにないわね。それに比べ家の妹は……」
「ケーキの甘さとフルーツの酸っぱさがたまりませんね姉様!」
「……この有様。ケーキに夢中なのもわかるけど、もっとしっかりしなさいリース! シリウス君に娶ってもらって、私の義弟になればいつか部下になってくれるかもしれないんだから!」
「え? え? 姉様はフルーツケーキが駄目でしたか?」
「違ーうっ! 私的にはありだけど、そうじゃないの! ケーキから離れなさい!」

 まあ、食べ物になるとちょっと残念な子になっちゃうけど、リースはとても魅力的ですよ。それにしてもリースを推してくる理由はそういうわけだったんだな。最も優先するのがリースの幸せだとわかっているから怒る気も嫌う気もないけど、せめて本人の前で言わないでほしいものである。
 そのままやり取りを続け、ようやく意味を理解したリースが顔を真っ赤にしたところで、リーフェル姫は取り澄ました笑みでこちらを見た。

「ごめんなさい。ちょっとはしゃぎすぎちゃったわね」
「構いませんよ。それよりリーフェル姫は何故こちらに? 王女がこんな所に来るなんて、何かあったのでしょうか?」
「用があるのは私じゃなくてメルトなの。貴方達の所へ行くと聞いて、私はついてきただけなのよね」
「私は止めたのだが、姫様がついて行くと聞かなくてな」
「何だかんだ言いながら連れていってくれる貴方が好きよ。ほら、頭撫で撫でしてあげるわ」
「このような所でお止めください! それで私がここへ来た理由だが……」

 リーフェル姫に絡まれながらも、メルトはここへ来た理由を話し始めた。
 結論から言うと、現在生徒達に行っている個人面談の為らしい。
 授業の再開を早めるために城からの人員を増やす事が決定したそうだが、ダイア荘は距離があるので呼びに行くのが面倒らしく、俺達の担当になった人が溜息を吐いていたところにメルトが通りがかったそうだ。
 リースの様子を見たり、リーフェル姫用にケーキを貰えないかと思ったメルトは、その人からダイア荘に住む俺達だけの担当を引き受けたらしい。そして引き受けたのをリーフェル姫に報告したら……無理矢理ついてきたってわけだな。
 メルトは持っていた資料を取り出し、テーブルの上に広げた。

「という訳で、個人面談をさせてもらおうと思う。もちろんケーキを食べ終わってからで構わない」
「ちょっと見るわよメルト。ふむふむ…………何だか面倒な質問が多いわね。変な事を起こさないか調べる為だろうけど、これはちょっと時間がかかりそうね」
「そのせいでまだ全生徒の半分ほどしか終わってないそうです。すまないが、個人面談できる部屋はないか?」
「空き部屋が一つありますけど倉庫ですからね。レウス、部屋を使っても――……」
「はい、シリウス君達は全員問題無し……と。何なら私のサインも入れておこうかしら?」

 レウスの部屋で面談しようと考えてる間に、リーフェル姫が資料に結果を書き込んでいた。書類作業に慣れているのか鼻歌交じりに書き進め、あっという間に書類上では俺達の面談は終わったことになった。

「また勝手に。それより姫様のサインが入っていたら面倒になるので絶対に止めてください」
「姉様、問題無いのはわかりますけど、それでよろしいのでしょうか?」
「だって貴方達があんなバカな真似をするわけないでしょ? まあ仮に変な事をしでかしたら、それを見切れなかった私達が悪いって話よ」
「その通りですリーフェル様! シリウス様はあのような愚かな事を絶対にしません。もしやるとしても、シリウス様なら誰にも気づかれず知らない内に思想を変えていかれるでしょう」
「ほらね。 シリウス君に一番近いエミリアがそう言うんだから大丈夫よ」
「……後半に問題発言があった気がします」

 こうして数時間はかかる作業が、王女の独断で僅か数分で終わった。
 それからリースが姉に押され俺にケーキを食べさせてきたり、ダイア荘の暮らしを語ったりと和やかな雰囲気のままケーキパーティーは続いた。
 ケーキも残り少なくなり、余った分はリーフェル姫に包んであげようかと思っていると再びダイア荘に鈴の音が響いた。気配からして只者じゃない雰囲気を感じるが……。

「誰だ? まさか陛下……じゃないよな?」
「父さんは忙しいから無理だと思うわ」
「ふむ…………ああ、知っている人だな。エミリア頼む」
「わかりました」

 『サーチ』で調べれば危険は無さそうな人物なのでエミリアを迎えに行かせた。危険ではない人物なのだが……ここに来てる時点で問題ありそうな人物でもある。

「えっと……こちらです」
「失礼します。おや? リーフェではありませんか。こんな所で会うとは奇遇ですね」
「あらおじさま。お久しぶりです」

 現れたのは学校長であるロードヴェルだった。
 何だかんだで彼がここへ来るのは初めてだが、今は革命騒ぎの後始末で忙しい筈なのに……何故ここへ来ているんだろうか?

「……知り合いなんですね」
「父さんを子供の頃から知っているエルフだから自然と私もね。今でも父さんとは相談し合ったり、一緒にお酒を飲む時もあるみたい」
「伊達に長生きしていませんよ」

 新たな椅子が用意され、更にテーブルが狭くなったがロードヴェルも輪に加わった。学校の最高責任者に、次期女王候補が平民の寮に集まる光景。かなり凄い状況じゃないかこれ?

「それでおじさまは何をしにこちらへ? まだ仕事は溜まっているでしょうに」
「ええ、まだまだたっぷり溜まっています。ここへ来たのは息抜きですよ」

 息抜きと言うが、半分逃げて来たのではないかと睨んでいる。
 革命騒ぎの主犯達とそれに賛同し手を貸した者達の処分や、何も知らず子供が巻き込まれ文句を言ってきた貴族の親の対応などと、学校長のやる事は本気で多い。
 獣人に偏見を持つ生徒達の劇薬として利用しようと、革命を事前に阻止しようとせずわざと起こさせた責任問題だってある。差別や偏見を根本から変えるには必要だったと思うし、わざと起こさせた気持ちはわからなくもない。だがそれでも責任を取らなければならないのが上の定めだ。
 これだけの騒ぎを見過ごしたなら校長の席から降ろされるかと思うが、そこは長く勤めているだけあって現状維持のままだった。一見ただのケーキ中毒者であるが、様々な方面で活躍しているのは伊達ではなさそうだ。

「主犯と加担した貴族には称号剥奪の手続きに、貴族の生徒の家へ出向き親に説明……いい加減に疲れましたよ」

 半分愚痴に近いが、結果を淡々と語りつつも学校長の視線は残ったケーキに釘付けだった。そういえばケーキの差し入れを禁止していたが、まさかたった二日でケーキ分が切れたのか? 忙しいから消耗が激しいのかもしれない。

「……食べますか?」
「よろしいのですか?」
「忙しそうですし、ここまで来てただで帰すのも失礼かと思いまして」

 逃げるならもっと隠れやすそうな場所に行くかもしれないし、ここへ来たのは無意識に甘味を求めてだろう。
 俺は今回の主旨を説明し、その余ったケーキだから食べても構わないと伝えると、学校長は満面の笑みを浮かべ喜んでいた。四百年生きていても見た目は爽やかな青年だから、何も知らない女性が見たら惚れるんじゃないのかこれ?

「いやぁ……嬉しいですね。それではお言葉に甘えていただきます」
「余った分はリーフェル姫のお土産として持たせるつもりでしたので」
「おじさま! 王女としてそれを食べるのは禁止します!」
「王女の権限すら出してくるとはそれだけ本気って事ですね。そうですか……貴方も敵となりますか」
「そもそも、おじさまは研究に夢中になり過ぎるのが駄目なんです。先日の革命だって、研究に没頭しなかったらもっとスマートに解決出来た筈ですよ」
「うっ!? いやぁ……はは、耳が痛いですね」
「というわけで、私の明日の楽しみを奪うのを禁止します」
「リーフェ! せめて一つくらいは……」

 低レベルな争いは続いたが、学校長は何とか一つは食べる事に成功して満足気に帰り、リーフェル姫もその後すぐに帰った。リーフェル姫とメルトの御蔭で面倒な個人面談もあっさり終わったし、後は授業が再開されればほとんど元通りだろう。ようやく革命騒ぎが終わった実感が出てきた。
 レウスとリースの要望は叶えたし、後は今日一日の約束であるエミリアの要望だけだ。

 静かになったダイア荘のソファーに座り、騒ぎの終わりを実感して安堵の息が漏れた。









「だから裸で来るなって言っただろうが! タオルくらい巻きなさい!」
「シリウス様に成長した私を見てもらいたいんです!」
「俺も見てくれよ兄貴!」
「あうぅ……裸は無理だよう……」
「お前らいい加減にしろ!」


 …………騒ぎはまだ終わらないようだ。

将来と、弟子達をどう思っているのか少しばかり語るシリウスでした。
次は幕間となりますが、物語の流れ的にはこの話で八章の終わりとなります。


おまけ
ダイア荘のルール

・建物内は土足厳禁。
・おやつは特に定める場合を除き、一日二回まで。
・好き嫌いせず食べる。
・身分は関係なく、皆平等に座って食事をする。
・報告・連絡・相談を守る。
・シリウスが風呂に入っている時に許可なく入ってこない。※エミリア限定。
・寝床に潜り込まない。※エミリア限定。
・剣の素振りは外で。※レウス限定。
・つまみ食いは程々に。※リース限定。
+注意+
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