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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

八章 学校 革命編

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幕間 冒険者を目指して

 エリュシオンへ来て四年と少し。
 俺は少し前に、そしてレウスは昨日でついに十三歳になった。
 この世界では十三歳が大人への一歩と言われ、各種ギルドの登録や仕事を受けられる範囲が広がるのである。
 というわけで、俺達は早速冒険者ギルドに向かっていた。

 そもそも『冒険者ギルド』とは何なのか?

 世界中に存在し、町の発展に貢献するギルドなので魔法師の助力となる『魔法ギルド』や、商人を取り仕切る『商人ギルド』と違い大きな町には必ず存在するギルドである。
 詳しく説明すると長くなりそうなので大雑把に説明すると、魔物の討伐部位を買い取ってくれたり、町からの依頼を受けて解決してお金を貰える場所だ。
 根無し草である冒険者にとって金を稼ぐ為に必要な施設だし、学校を卒業して旅に出るならば登録は必須だろう。
 登録に必要な条件は色々とあるが、俺にとって一番の問題は十三歳からという年齢制限だった。一つ年上であるエミリアは一年前に登録できただろうが、俺と一緒に登録する為にしていなかった。
 とにかく俺とレウスは十三歳になったので、こうして全員で登録しにきたわけである。

「ところで本当にリースも登録するのか? あんまり魔物を倒すのが好きってわけでもないのに」
「確かにその通りですけど、私だって強くなったんですから大丈夫です。それに母様も登録していたので、実はちょっと憧れていまして」
「そう言えば元冒険者だって言っていたな。まあ別に魔物を倒すだけじゃなく、町の依頼でもお金を稼げるんだ。登録しておいて損はないか」

 ザックから聞いた話だと、町の依頼も様々で多岐にわたるそうだ。それこそ魔物退治から店の警護や店番などと何でもあるらしい。冒険者ギルドと言うが、何でも屋って考えてもいいかもしれないな。

「私達もようやく自分の手でお金を稼げるわけですね」
「何か買いたい物があったのか? 必要な物なら相談してくれればお金を出してもいいんだぞ?」

 俺はガルガン商会に新しい商品や知識を売って金をそれなりに稼いでいる。なのでエミリアやレウスの食費や雑貨の代金は俺が出しているし、毎月小遣いをあげたりしている。
 俺を慕って頑張っているんだ。金がある以上は不自由な生活はさせてやるつもりないし、姉弟の養育費をケチるつもりは一切無い。無駄な事に金を使うなら止めるけどな。

「いいえ、自分の手で稼ぐから良いのです。シリウス様に甘えてばかりでは駄目ですから」
「そうだよ。俺達がじゃんじゃん稼いで兄貴を支えるんだ。兄貴が何もしなくても食べていけるくらいにさ」
「俺はヒモになりたくないんだが……」

 流石に弟子に稼がせて好き勝手するつもりないぞ。
 今まで金に対する執着があまり無かったのだが、そんな理由で稼ぎたいとは……泣かせてくれる。我が子に親孝行してもらった親の気分を味わった気がするな。

「私達も稼いでシリウス様の生活を豊かに出来ると思えばやる気なんて幾らでも湧いてきます」
「魔物倒してお金を稼いでさ、帰ったら兄貴の御飯を食べる生活も悪くないね」

 レウスよ、それは従者ではなくただのサラリーマンみたいだぞ? しかも俺が主夫になってないか?
 とにかく俺はヒモになるつもりは無いので、弟子達にほどほどにしろと言い包めるのに時間を要したのだった。

 エリュシオンの中央に鎮座する冒険者ギルド・エリュシオン支部。
 登録が出来ない以上来る理由が無かったので、実はこの建物に入るのは今日が初めてである。
 建物内部は酒場もやっているらしく机や椅子が多数並んでいて、大小様々な人や獣人が座って酒を飲んでたり、仲間内と話し合いをしている光景が見える。
 全体を見れば大人ばかりであり、俺達のような子供が現れれば当然目立つので視線が集中する。訝しい視線ばかりで明らかに歓迎されていない様子だが俺は気にせず内部を堂々と歩き、受付と書かれたカウンター前へと進んだ。
 受付前は人がごった返していたが、端っこの方がちょうど空いたので俺達はそこに並んだ。

「いらっしゃいませ、冒険者ギルド、エリュシオン支部へようこそ」

 受付の人は猫の獣人で女性だった。俺達を見て営業スマイルを浮かべて応対し、用紙をテーブルに出しながら説明を始めた。

「ギルドへの依頼ならば内容と金額をこの用紙に記入してください。素材の買取はこちらではなくあちらの受付になります」
「いえ、俺達は依頼ではなくギルドへ登録しに来たのです」

 営業スマイルが崩れてはいないが、表情の奥に物憂げな感情が見え隠れしていた。受付の人は一度全員を見回し、最後に俺を見て申し訳無さそうに聞いてきた。

「確認させてもらいますがそちらの方は何歳でしょうか? ギルドの登録は十三歳からというのは知っていますよね?」
「知っていますよ。ここの四人は全員十三歳以上ですから問題ありません」
「そうですか、申し訳ありません。どうも貴方は若く見えましたので念の為に……です」

 リースは一年上だから年相応に見えるだろうけど、成長するのが早い獣人のエミリアは俺より少し上の身長で、レウスはすでに俺を頭一つ分抜き去って十分大人に見える姿をしている。
 そんな二人に並ぶ俺は彼女から見れば幼く見えるのだろう。傍から見れば貴族のドラ息子と従者みたいにも見えなくもない。庶子だから、元を付ければ間違いでもないのだが。

「それが受付の仕事ですから気にしていませんよ。それで登録は可能でしょうか?」
「可能です。登録には必要事項をこの用紙に記入してください。最後に銀貨一枚必要ですが大丈夫でしょうか?」
「問題ありません」

 受付の女性から用紙を四枚貰い、名前や年齢などの簡単な個人情報を記入していく。内容に得意武器と適性属性の項目もあったのだが、リースが少し迷う素振りを見せていた。

「あの、私は武器を使った事がないのですが、ここはどうするんでしょうか?」
「魔法が主体なら空欄で結構ですよ」
「私はナイフですけど、シリウス様もナイフですよね?」
「でも姉ちゃん、兄貴は剣も使いこなすぞ? 剣って書くべきじゃないか?」
「いいえ、私と同じナイフです!」
「剣だよ剣!」
「くだらない事で喧嘩するな」

 俺と一緒にしたいからって本人を無視して張り合うなよ。
 全体的にナイフをよく使うが、あくまで自分の戦い方にナイフが適しているだけで拘っているわけではない。どちらを選んでも面倒なので、色々な意味を含め体術にしておいた。
 一悶着ありつつ記入を終えると、受付の人が机の下から属性を判定する魔道具を取り出した。

「次に適性属性を直接調べます。稀にですが適性属性を知らない人がいまして、登録時には一度判定する必要があるのですよ。ではエミリア様からどうぞ」

 記入した用紙を渡し、エミリアは判定道具に触れると水晶が緑色に輝いた。前に見た時より輝きが増しているので、彼女の魔力量が上がっている証拠だろう。
 その輝きの強さに受付の人は一瞬驚いたが、すぐに笑みを浮かべて用紙に風と書き足していた。

「エミリア様は素晴らしい魔力をお持ちのようですね。用紙の通り風属性で間違いありませんので結構です。次は……」

 その後もレウスとリースも同じような展開が続き、周囲の人達も輝きの強さに気づいたのか注目を集め始めていた。そして俺の番であるが……。

「最後にシリウス様ですが……この記入した内容に間違いはありませんか?」
「はい、書いた通りですよ」
「わかりました。あの……個人的な意見ですが、裏の方へ行ってこっそりやった方がよろしいのでは? 事情を説明して奥の部屋を借りても構いませんが?」

 後半は俺にだけしか聞こえない声だったが、おそらく彼女は注目を集めている現状で、俺が無属性だと知られると色々と面倒な事になると言いたいのだろう。不遇な扱いである無属性と知ってもこちらに気を使ってくれているし、流石は荒くれの多い冒険者を相手する受付の人だと思う。

「ありがとうございます。ですがそれはそれで面倒でしょうし、このままでいいですよ」
「そうですか。ではこちらに手を」

 判定道具に手を置くと、水晶は弟子を遥かに上回る輝きを放った。思わず目を細めるほどの輝きだが、無色なのがはっきりとわかるとも言える。そろそろ手を離そうかと思ったその時……光を放っていた水晶が突如鈍い音を立てて割れたのである。
 ……少し魔力を鍛え過ぎただろうか? 俺は魔力の回復が異常に早いから、調子に乗って日に何度も魔力を枯渇させて鍛えてきたからな。
 その光景は事前に注目を集めていたせいか、周囲に居た全員が目撃していた。ありえない光景に誰しもが沈黙する中、姉弟だけが自慢げに胸を張って喜んでいた。

「やっぱ凄いぜ兄貴!」
「シリウス様なら当然です。あまりの素晴らしさに皆言葉も無いようですね」
「あのねエミリア。素晴らしいんじゃなくて、ただ呆然としているだけだと思うよ」

 後ろではしゃぐ姉弟の声で正気を取り戻したのか、受付の人は慌てつつも業務の続きに戻った。

「こ、この判定道具は何年も使っているので寿命だったのかもしれませんね。無属性は確認できましたので結構です、はい」

 強引に道具の不良へと話を持っていこうとしているが気にすまい。下手に聞かれても答えるのが面倒だし、それで通すとしよう。
 用紙の記入が終われば、次はちょっとした実技があるそうだ。ギルドにはベテランの冒険者でもある教官がいるそうなので、その人の出す課題がクリア出来れば登録完了になる流れらしい。
 奥の方で休んでいる教官の準備が整うまで少し時間がかかるので、俺達は受付前で待機していた。その間に周囲の人達も徐々に正気を取り戻し始めたが、俺に向けられるのは訝しい視線ばかりである。それらを全て受け流しのんびりと待っていると、ふいに受付の女性が俺に質問してきたのである。

「あの……個人的な質問ですが、もしかして皆様は学校の生徒でしょうか?」
「その通りですが、何か問題があるのでしょうか?」
「いえいえ、学校の生徒さんならあの魔力量も納得です。問題は一切ありません」

 質問によって俺が学校の生徒だとわかるやいなや、周囲の視線が疑心から納得へと変わり俺達への視線が柔らかくなったのである。話には聞いていたが、学校という名前一つでここまで変わるとは思わなかった。
 ここまで評価される学校を維持してきた、ケーキマスターである学校長に感心しつつ待っていると、がたいのしっかりした中年の人族の男がやってきたのである。皮で作られた軽鎧に小手と装備は普通であるが、その威圧感と長年によって培われた立ち振る舞いから、この人が実技を担当するベテラン教官だと自然と悟った。

「えーと、四人……だな。君達が登録しに来た子達だな?」
「はい。貴方が実技を担当する人ですね。もしかして元冒険者だったりします?」
「その通りだ。私は元冒険者でな。引退を機にここで教官なんぞをやっているのさ。まずはお互いの自己紹介から始めようか。私の名前はリードと言うのだが、ここではリード教官と呼んでほしい」
「わかりました。俺の名前はシリウスと言います。それでこちらの子達が……」

 そのまま弟子達の紹介を終えると、リード教官は俺達を連れて建物の裏手にある訓練場へ向かった。訓練場の作りは学校とほとんど変わりはないが、違うとしたら生徒ではなく若い冒険者が数人ほど訓練をしているといった点か? 
 その一角に土魔法で作られた人型の的がある場所へ俺達を並べ、改めて実技について説明していた。

「冒険者ギルドに登録するという事は外で戦える実力が必要だ。今から君達の実力を見せてもらい、ギルドに登録させるに値するかどうか判断させてもらう」
「実力ってどう見せればいいんだ? リード教官と戦うのか?」
「状況によってはそうするが、まずは用紙に書いた得意武器か適性属性の魔法を見せてもらいたい。何か気になる点があればアドバイスもしよう」
「武器を使わない私は魔法だけでいいのですか?」
「ああそうだ。これは戦えるかどうか調べる為だから魔法だけでも構わない。ただ先輩として言わせてもらうなら、魔力枯渇や接近される事を考えて何か使えた方がいいと思うぞ」
「えーと……合気道は武器なのでしょうか?」
「アイキドウ? よくわからないがあるなら後で見せてほしい。では始めるとしよう。まずは……レウスからだな」
「おう!」

 リード教官が用紙を片手に名前を呼ぶ。その声にレウスが一歩前に出るが、教官の視線はレウスの背中に向けられていた。

「……君の得意武器は剣と書いてあるが、まさかその背中の大剣を振るっているのか?」
「そうだよ。銀牙ぎんがって名前が付いているんだ」
「良ければ持たせてもらってもいいだろうか?」
「いいよ」

 おそらく軽く見積もっても四十キロはあろう大剣を、レウスは片手で持ち上げてリード教官へ渡していた。とはいえ教官も負けておらず大剣を落とす事無く支え、ゆっくりとだが一度だけ振るった。

「これは……重いが見事な剣だな」
「俺の相棒だからな。グラントのじっちゃんに作ってもらったんだ」
「グラントだと!? ううむ……確かに鍛冶師のトップである彼ぐらいしかこれ程の剣を作れないだろうな。君の交友関係も気になるが、何故これほど重い剣を振るう?」
「じっちゃんの剣技は普通の剣だと軽くて扱いづらいんだ。それで、この的を斬ればいいのか?」
「そうだ。誰から師事を受けたか知らないが、君の剣技を見せてもらおう」

 リード教官から剣を返してもらったレウスは、的の前に立ち剛天の構えを取った。呼吸を整え、レウスは思い切り剣を振り下ろすと…………的は粉砕された。それはもう木っ端微塵にである。
 その光景に教官を含め、周囲で訓練していた冒険者達の動きが止まった。

「……間違えた」
「ま、間違えたとは?」
「綺麗に斬るつもりだったんだけど、加減を間違えて粉砕しちゃったな」

 剛破一刀流は全てを叩き斬る力の剣技だが……極めるとなるとそれ相応の技術が必要になる。少しでも力の方向がずれると斬れるどころか衝撃が分散してしまい、今のように対象が粉砕してしまうのだ。人相手に使えば確実に殺す技だろうが、粉砕させるのは未熟な証拠らしいので今の技をライオルが見れば激怒したであろう。
 粉砕した的の欠片が飛び散る中、レウスはリード教官へと向き直り指を一本立てた。

「もう一回だけやらせてもらっていい? 今度は綺麗に真っ二つにするからさ」
「待て待て! もういいから! お前はもう外でも通じる力持っているのはわかったから止めろ! むしろ過剰過ぎる力だ!」
「でもなぁ、失敗したままなのも後味悪いし、じっちゃんなら後ろの壁も斬ってただろうし」
「頼むから止めろ! そんな事をされてはたまらん!」
「今なら壁を斬るまでいかなくても、傷くらいつけられそうな気がするんだよな」
「やめなさいレウス」
「おう!」

 俺の一言でレウスは大人しく下がり剣を仕舞った。何とか引き下がったので、教官も安堵の息を吐きつつ用紙に羽ペンで書き足していた。

「こんな非常識な生徒は初めてだが……とにかく君は合格だ。今の君ならジャオラスネークですら戦えるだろうな」
「ジャオラスネークならこの間斬ったよ」
「…………続いてエミリアだ。武器か魔法を見せてくれ」

 ちなみにジャオラスネークはエリュシオンから少し離れた湖に生息する蛇の魔物だが、生半可な剣を弾く硬い鱗に、狙いを外される特殊な動きから中級冒険者でも討伐が難しいと言われている魔物だ。
 先日、エリュシオンへ初めて来た時に世話になった宿『止まり木』にジャオラスネークの肉を差し入れしようと倒しに行ったのだ。結果はレウスの言葉通りで、俺達が動きを止めた隙を突いてレウスが真っ二つにしたのである。
 そんな中級冒険者でも苦戦する魔物を、冒険者ですらない子供がすでに斬ったと言っているのだ。教官は混乱していたようだが、ベテランの意地なのか取り乱すことなく次のエミリアへと移っていた。意地と言うか、ただ見ない振りをしただけとも言える。

「私の番ですね。隣の的を攻撃すればよろしいでしょうか?」
「ああ。君は風魔法とナイフと書いてあるが、両方見せてくれると助かる」
「わかりました。では……行きます!」

 エミリアは懐から投げナイフを数本取り出し的へと投げると、それらは肘と膝の関節に突き刺さった。おそらくエミリアの中では相手の動きを封じる方向で動いているのだろう。動きを阻害する箇所をピンポイントで狙い、最後に胸元へ『風玉エアショット』を叩き込むと……的が粉砕された。
 過程はとにかく、的の結果はレウスと全く同じであった。

「以上でよろしいですか?」
「…………ご、合格。次はリースだ」

 エミリアの手際の良さにアドバイスする隙間も無いようで、問答することすら止めたらしい。続いてリースの番であるが、少しばかり緊張しているので肩を叩いてリラックスさせた。

「リースの腕なら問題ないさ。いつも通りやれば大丈夫だぞ」
「は、はい!」

 彼女は一度深呼吸し掌を的へと向けた。放ったのは水の玉を飛ばす初級魔法『アクア』であるが、通常はバスケットボールと同等の大きさだ。だが彼女のは普通のサイズではなく、子供の大きさほどはある的を覆い尽くす大きさであった。
 そんな大きな水の玉は的を飲み込み、土の塊は水の圧力によって泥と化す。最後に水の玉が消えると、後には泥の塊となった的の成れの果てが残るだけであった。

「えーと……本来なら『アクア』を消さず溺れさせるのですが、土の塊なのですぐに消しました」
「……攻撃に向かないと言われる水魔法にそのような使い方があるとはな。ところでさっき言ったアイキドウとは一体何なのだ?」
「言葉で説明するより実演しようと思います。手伝ってくれるレウス?」
「わかったよ、パンチでいい?」
「お願いね」

 レウスがリースへ向かって拳を振るうと、リースはその手首を取り自分の方へ引き寄せつつ相手の足を払った。自分より一回り小さい相手にレウスはあっさり投げられて地面に叩きつけられたが、練習で何度も食らっているので受身は完璧である。ダメージはほぼ無く、何事も無く立ち上がって埃を払っていた。
 そんな大した力も無く相手をひっくり返す技に、教官は興味深げに見入っていた。

「これが合気道です。相手の力を利用して投げる、力の無い者でも使える技です」
「素晴らしい技だが、非常に難しそうだな。一体誰から教わったのだ?」
「こちらのシリウスさんから教えてもらった技です」
「君が?」
「そうです。私は無属性なので技を重点に鍛え続け、そして作り出したのが今の合気道です」
「そうか、君は無属性だったな。このような華麗な技を作るとは、一体どれだけの苦労をしてきたんだろうな」

 俺の大嘘にリード教官は哀れみを含んだ視線を向けてくるが、こちらとしては苦労してきた感は全く無いに等しい。
 その後俺が記入した用紙に目を通しているが、どうやら受付の人が色々書き足していたようで、項目を見る度に驚いていた。

「年齢は十三歳。魔道具を壊す魔力量だと!? だと言うのに無属性とは……残酷なものだな」
「質問ですが、あの魔道具はそう簡単に壊れる物なんでしょうか?」
「少なくとも私が生きている間に、道具の劣化以外で壊れたことなど無い。他にあるとしたら魔法を極めし者(マジックマスター)が魔力測定で壊したという話もある。だから君が無属性でなければ、魔法を極めし者(マジックマスター)を継ぐ程の力があったかもしれないのに、本当に惜しいものだ」

 俺も努力を続けているが、前世の俺以上に長生きしているロードヴェルの方が確実に魔力量は多いだろう。おまけに三重トリプルだし、魔法に関してはロードヴェルの方が確実に上だと認めている。
 だが何故だろう? 魔法を極めし者(マジックマスター)を思い浮かべると、革命騒ぎ時に見せた幾多の魔法を華麗に操る姿より、ケーキを美味しそうに食べる光景しか浮かばないのである。

「そして得意武器は……体術? 武器を使わないのか?」
「使わないわけではないのですが、私は状況によって戦い方を変えますので特定の武器を持ちません。しいて挙げるならナイフでしょうか?」
「うーむ……前の三人を見るに君も只者では無さそうだし、申し訳ないが私と模擬戦をしてもらってもいいだろうか?」
「構いませんよ。ルールはどのように?」
「先に致命的な一撃を当てるか、相手にまいったと言わせれば勝ちだ。私は武器を持たず手加減するが、君は本気でかかってくるといい」

 お互いに無手で一定の距離を取って対峙する。
 さて、気づいたら模擬戦する羽目になってしまったがどうするべきか? 体術を見せるから魔法は使えないし、手の内を晒し過ぎるのも何なので一気に決めるとしようか。

 俺は足元を狙う為に低い姿勢で駆け出すが、リード教官はそれを読んで拳を突き出して迎撃してくる。その手を掴み先程のリースの様に一回転させて投げ飛ばしたのだが、彼は一度見ただけだと言うのに対処法を思いついたらしい。力に逆らおうとせずむしろ自分から飛んで一回転し、背中ではなく足で着地したのだ。おまけに俺の手を掴んだままで離すまいと力を込められている。
 流石はベテランと呼ばれる人だと感心したが、俺を逃がさないのは悪手だぞ? というわけで、離さないならむしろ絡み付いてやる事にした。
 掴まれた手を自分の両脚で挟んで固定し、相手の親指を天井に向かせる形で掴んで俺の体に密着させて反らせば綺麗に技が決まった。教官は痛みに悶え、地面に倒れこんでしまうが俺は技を外さず維持を続けた。
 要するにプロレスや格闘技で見られる、腕拉ぎ十字固めである。
 これを確実に決めてしまえば、完全にこちらの方が有利になるので、相手との体格差があろうと外すことは不可能に近いのだ。ただでさえ痛いのに、無理に外そうとすれば筋を痛めるので素人が適当にやるには危険な技だ。

 初めて受けるであろう技を決められ、困惑しつつも痛みに悶えるリード教官に俺は囁いた。

「降参しますか?」
「っ……降参……しよう」

 こうして俺達全員は、冒険者ギルドの登録に成功したのであった。


 それから再び受付に戻り、俺達は冒険者ギルド登録カード……つまりギルドカードが出来上がるのを待っていた。
 ちなみにリード教官は子供の俺にやられたというのに全く気にしていなかった。むしろ面白い技だと褒められ、教えてほしいと頼まれたくらいだ。年を重ねているのもあるだろうが、無属性の俺を心配してくれているし良い人なのは間違いあるまい。こういう人とは仲良くありたいものである。

 ギルドカードは奥の方で作成中だが少し時間がかかるそうなので、その間に受付の女性からギルドの注意事項や流れの説明を受けていた。

「ギルドカードには特殊な魔法陣を描いてまして、初めにその魔法陣に血を一滴垂らしてもらいます。そうすると魔力が同調し、そのギルドカードは世界でただ一つの貴方だけのカードになります。つまり本人確認の証明にもなるのです」

 他にも色々と説明されたが、簡単に纏めると以下になる。
 冒険者ギルドは世界中に存在するらしいので、このギルドカードは冒険者ギルドならどこでも使えるそうだ。
 登録するとランクと呼ばれるものが存在し、依頼や討伐を繰り返して功績が認められるとランクが上がる仕組みだ。初級だとか中級冒険者と言うが、これらは特定のランクの間で言われる大体の目安らしい。細かく説明すると、登録直後は十級から始まって初級冒険者と呼ばれ、六級から中級冒険者となる。最終的には一級が一番上だそうだ。
 このランクを見て、その依頼を受けられるかどうかギルドが判定するそうだ。

「お待たせしました。こちらがカードになりますので、名前が彫られているカードに血を垂らしてください」

 渡されたカードは木製だが、非常にしなやかなので簡単に壊れそうになかった。今はまだ木製だが、ランクが上がればまた違う材質のカードになるそうなのでちょっと楽しみでもある。
 受付の人に言われ俺達はそれぞれのカードに血を垂らすと、カードに描かれた魔法陣が淡く光ったので本人登録が済んだらしい。

「おめでとうございます。これで登録が完了しました。再発行には銀貨数枚かかるので、無くさないように気をつけてくださいね」
「わかりました。ではこちらが登録料である銀貨です」

 懐から四枚の銀貨を取り出し受付の人に渡した。リースは自分で出すと言ったのだが、俺の弟子だし遠慮するなといって強引に納得させた。
 銀貨を貰って机に仕舞った受付の女性だが、唐突に俺達を見て真剣な顔で忠告してきた。

「あと……個人的な忠告ですが、最近新人の方が無理をして帰ってこない話をよく聞きます。貴方達も気をつけてくださいね」

 なるほど、登録すると言った時に見えた物憂げな感情はそれだったか。おそらく彼女は何度も登録したての新人を見送り、帰ってこない報告を聞いたのだろう。
 忠告を終え、今度は普通の笑顔を向けてくれた受付は俺達に新人向けの依頼を選別してくれるのだった。


 お金にはまだ困っていないし、急いでランクを上げる理由も無いので、俺達は依頼を受けずギルドを後にした。これからギルド登録完了の打ち上げをしようと思っているので、ガルガン商会へ食材を買いに向かっていた。
 街中を歩きながら弟子達はギルドカードを嬉しそうに眺めているのだが、姉弟はとにかくリースがここまで喜ぶのも珍しい。母親が冒険者だったから憧れてたってのもあるが、それだけではない気がした。

「嬉しそうだなリース姉」
「嬉しいのは皆一緒だけど、特にリースは母親と同じ冒険者になれたから人一倍違うでしょうね」
「確かに母様と一緒の冒険者になれたのは嬉しいわ。だけど、本当に嬉しいのは私が一人前になれたって思えたことかな?」
「リース姉はもう一人前だろ? ほら、青の聖女とか呼ばれてるじゃん」

 少し前の革命騒ぎで、リースは戦うだけでなく怪我をした人達を治療し続けていた。それこそ百人以上も怪我人が続出する中、彼女は一人で半数以上の人達を治療したのである。それだけの治療を続けられる魔力量に、回復魔法を使った治療の速さ。おまけに優しく語りかけて安心感を与えるその笑顔に、惚れてしまった生徒も少なくない。
 それが学校内に広まり、気づけば『青の聖女』という二つ名が付いたのである。当の本人は恥ずかしくて頑なに否定しているけどな。

「あ、あれは皆が勝手に呼んでるだけだよ。一人前なのは、こうやって誰の手も借りず自分の力で冒険者ギルドに登録できたことなの」
「頑張ったもんねリース。訓練をやり始めた頃は、何度も倒れてシリウス様や私達に背負われたもんね」
「頑張ったよ私! そっか、あれから四年かぁ……早いなぁ」

 リースは感慨深げに目を細めて空を眺めた。

 俺達は未だに聞かず、そしてリースも何も言わないが……彼女は卒業後どうするか決めたのだろうか?
 以前は居場所の無かったエリュシオンに嫌気を差していたようだが、今は父親と和解しているし優れた治療魔法師として名も多少売れ始めているので違うはずだ。姉であるリーフェル姫もいるし、王族の娘として旅に出る必要は無い。
 恋の相手である俺が一緒に行こうと誘えば彼女はついてくるだろう。だがそれは彼女の恋心を利用しているだけで、何かしらのしこりは残るだろう。
 道は彼女自身の手で決めてもらわなければならないが、どちらを選んでも受け止める覚悟は出来ているさ。


 学校の卒業式まであと一年。
 リースの件が保留のままだが、旅に出る準備は着々と進んでいた。


今回は普通の人達から見て、彼等はどれだけ規格から外れていっているか書いてみました。
ギルドのルールや罰則はあまり詳しく書いても忘れるだろうし、状況によって書き足していこうと思います。

もう一つ幕間が続きます。というか、次の話を作りたくてこの説明の話を入れたようなものなので。
リースの二つ名が出ましたが、エミリアとレウスはその内に。
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