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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

八章 学校 革命編

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マジックマスター

 ――― エミリア ―――




 魔法を極めし者(マジックマスター)、ロードヴェル。

 エリュシオン学校の校長にして、水、風、土の得意属性を持つ三重トリプル
 その知名度はライオルのお爺ちゃんと同等で、魔法に関しては右に出る者はいないと聞きます。
 そんな御方をシリウス様はケーキに執着し過ぎだろうと溜息を吐かれていましたが、私からすれば仕方がないと思います。だってシリウス様が作るケーキはとても美味しいですし、一度食せば幸せな気分になりますから。
 話が逸れましたが、魔法に関してはシリウス様とはレベルが違うそうで、実際何度かケーキを差し入れして魔法陣に関して教えを受けているようです。 
 私からすればシリウス様の使う魔法こそ素晴らしいと思うのですが、あれは無属性で特化した魔法なので別物だそうです。
 全属性を使った本物の魔法を使いこなすのがロードヴェルで、一度でもいいから戦う姿を見てみたいとも仰ってました。

 そして今、私達の前で魔法を極めし者(マジックマスター)の実力が披露されるのでした。




 ――― ロードヴェル ―――




「さて……覚悟はできているでしょうか?」

 観客席は高い位置にあるので試合場に直接飛び降りるには少々危険ですが、私には関係ありません。土に魔力で干渉し形を変える初級魔法『土工クラフト』で階段を作って下りればよいのです。工学にも使える魔法ですが、シリウス君はよく穴を掘るのに使うようですね。
 魔法名を唱え、私はゆっくりと階段を下り試合場へ立ちましたが、妙に周りの視線を集めているようです。まさかこの程度の魔法が珍しいのでしょうか? 無詠唱で立ち止まること無く階段を作りましたが、所詮は初級魔法ですし頑張れば誰でも出来ますよ。
 周囲を見ればマグナ先生のゴーレムによって他の傭兵とゴーレムはほぼ倒され、私は戦場だった試合場をのんびりと歩きエミリア君の隣に並びました。

「お疲れ様でしたエミリア君。後は私にお任せください」
「ですがお一人では。私もお手伝いします」

 手伝いを申し出てくれましたが、気持ちだけいただいておきましょう。今回は私一人でやらなければいけませんからね。

「大丈夫です。あの程度でしたら私一人で十分ですよ」
「……わかりました。勉強させていただきます」

 こちらの意図を理解し、エミリア君は優雅な一礼と共に後ろへ下がりました。
 素直に下がった様子から、どうやら私の技術を盗む気のようですね。ふふ……いいですねぇ、その姿勢は嫌いではありませんよ。彼女の向上心に満足しながら、私はグレゴリとそれに連なる生徒達の前へ立ちました。

「何故ここにいる!? 貴様は隣町へ向かった筈だろう!」
「あのような情報に踊らされると本当に思っているのですか? 貴方を炙り出すために私は向かう振りをしただけです」

 貴方は妙に隠れるのが上手いですから、今回流れてきた情報もわざとらしさを感じましたので利用させていただきましたよ。
 ですがここまで戦力を整え、ゴーリア氏の財力までは予想していませんでした。首輪を填められた生徒達には酷でしょうが、これも良き経験となるでしょう。首輪の酷さを身をもって体験できるのですから。

「結界の起動魔法陣を使ってくれとばかりに置いてあった時点で怪しむべきでしたね。見事に嵌った貴方達を閉じ込める事に成功しました」
「な、ならば貴様はどうやって入ってきたのだ! 私は貴様が町を出る姿を確認したのだぞ」
「そこはほら、私が製作者ですから」

 本当はマグナ先生の魔法で地下通路を作って入ってきました。
 もちろん通路は埋めておいたので、それに気づかない限り脱出不可能でしょう。作っておいてなんですが、我ながら欠点の多い結界ですね。次の改良は剥き出しの空より地下への対応を急ぐべきですね。あの高さまで飛ぶような魔物なんてこの周囲にはいないでしょうから。

「とにかく貴方達をようやく追い詰めましたよ。大人しく投降するなら城からの裁きで済みますが、どうでしょうか?」

 どちらにしろグレゴリに関しては死刑は免れないでしょうね。
 それにこの件は王のカーディに報告し、万が一に備えて兵士に結界の外を監視してもらってますし、今回の事件に関わったであろう貴族を捕らえるように指示しています。捕らえようともすでにここでやられている者が大半ですが。
 予想はしてましたがグレゴリは投降する様子もなく、不敵に笑いながら私を指差してきました。詰んでるとは気づかず愚かなことです。まあ、説明する理由もないので好きにさせておきましょう。

「投降だと? 貴様を倒して逃げればいいだけの話だ」
「逃げられればの話ですよね?」
「逃げられるとも。我が同士よ、魔法を極めし者(マジックマスター)を倒す時が来たのだ」
「わかりました!」
「倒せば……俺達名声得られるよな?」

 グレゴリの甘言に生徒達もすっかり騙されてますね。もはや事態は獣人をどうこうという話ではないのに、すっかりその気になっています。少々痛い目に遭わないと、自分のしでかした事すら理解できないようですね。

「貴方達、そこの男に従って先があると本当に思っているのですか?」
「グレゴリさんは憎き獣人に父親を殺されたんだ! そんな獣人を許しておけるか!」
「そうだ! 獣人なんかエリュシオンに必要ない!」
「では聞きますが、彼の父親がどのように殺されたか知っているのですか?」
「知っているさ。金に目が眩んだ亜人と無能に殺されたんだろう?」

 生徒達の言う通り、グレゴリの父親は自分の屋敷で殺されていました。忍び込んだ獣人と無属性者の手によってナイフで滅多刺しにされており、金貨が辺りに散らばっていたそうです。
 ……が、それは改変された情報であり、真実は違います。

「その通りですが、幾つか違う点があります。獣人と無属性者に殺されたのは本当ですが、グレゴリの父親は彼等を奴隷にして酷い扱いをしていたのですよ」
「「「っ!?」」」

 あまりの酷い扱いに、奴隷達は自分が死んでも構わないくらいに憎んでいたそうです。
 そして我慢の限界を超え、死と引き換えに彼の父親を討った。後になって知りましたが、奴隷の半分は警備によって斬られたり魔法で殺されていましたが、残りは隷属の首輪の効果で満足気な表情のまま亡くなっていたそうです。

「自身の所有する奴隷に殺されたなんて貴族として恥以外の何物もありません。奴隷の存在は隠されていたそうですし、真実も隠されたようですね」
「違う! 奴らは我が父を金目当てで殺したのだ!」
「財産を奪うなら警備の厳重な名家ではなくもっと小さな場所を狙いますよ。とにかく貴方の父親が殺されたのは自業自得です。獣人や無属性者を憎むのは筋違いですよ」
「ぐっ……ぬ……老いぼれに私の何がわかるというのだ!」
「復讐でこれほどの人々を巻き込む貴方の気持ちなんてわかるわけありませんし、わかりたくもありません。グレゴリ、貴方のミスは父親を反面教師に出来なかったことです。過去にも言った筈でしょう?」
「黙れ黙れ! 長々と学校長の椅子に座っている老いぼれが! いつまでその席にしがみ付いているつもりだ!」
「別にしがみ付いているわけではありませんよ。席を辞すタイミングが掴めぬだけです」

 おや? 図星をつかれて無理矢理話を変えてきましたが、まあいいでしょう。彼に従う生徒も半信半疑になっていますし、自分がどれだけ不安定な位置にいて、革命の理由も一方的な私恨であると少しは理解出来たでしょうか?
 それと確かに私は百年近く学校長をやっていますし、貴方の事は子供の頃から知っています。見た目はとにかく老いぼれと呼ばれてもおかしくありませんが、私も辞められぬ理由があるのですよ。

「ならば私の手で引退させてやろう! おい、お前達!」
「で、ですが……」
「……なあ?」
「ここまできた時点でお前達も同罪なのだ。今更引くなどと言う愚かな選択など存在せぬ!」
「くっ……やるしかないのか」
「俺はやる! こいつを倒して、あの無能を殺してやる!」
「そうだ! 奴等を殺せば我々は犯罪者ではなく英雄なのだ! 私に続け!」

 アルストロ君は血気盛んのようですね。この騒ぎに加担した時点で親には完全に見限られるでしょうし、唆されてシリウス君への復讐しか頭にないようですね。他に戸惑う生徒がいましたが、グレゴリの先導により覚悟を決めたようです。
 各人が魔法の詠唱を始め、空中に中級を含め様々な属性魔法が発動しています。その数は二十ほどでしょうか? 特にグレゴリは一人で五本の『火槍フレイムランス』を発動させているようですが……。

「そうそう、私が学校長の席を辞さぬ理由ですが……」
「くたばれ老いぼれ!」
「その程度の強さで上に立とうとする貴方達のような方が多いからですよ。『マルチエレメンタル』」

 数々の魔法が私に放たれ爆風が起こりますが、煙が晴れても健在な私の姿を見たグレゴリ達が驚いています。何が起こったのか理解出来ていないようですし、次はもっとわかりやすく見せましょうか。

「あ……れ? 当たった……よな?」
「あ、ああ。当たった筈だ」
「どうされましたか? まさか一度で魔力が枯渇したとでも?」
「怯むな! 連続で畳み掛けるのだ!」

 彼等は再び詠唱を始めますが、私の場合は無詠唱なので急ぐ必要はありません。それこそやろうと思えば、相手の詠唱中に魔法を放ち全滅させる事も可能です。
 ですが今回は彼等を反省させ、このような愚かな行為をしでかした連中の結末を他の生徒達に見せ付けねばなりません。つまりやる事は圧倒的な力で完封し、彼等の自信を粉々に砕く事です。他にも上に立つ者として魔法の極みを見せておきたいのもあります。道が遠すぎて諦める者もいるでしょうが、魔法とは信じればどこまでも強くなるのだと知ってもらいたいのです。
 先ほどは直撃寸前で魔法を発動させましたが、今度は彼等が詠唱が終わる頃を見計らい発動させます。

「炎の槍よ!『火槍フレイムランス』」
「岩槍にて貫け!『土槍アースランス』」
「水で撃ち抜かん!『水弾アクアバレット』」
「風よ斬り裂け!『風斬エアスラッシュ』」

「『マルチエレメンタル』」

 『火槍フレイムランス』には『火槍フレイムランス』を、『風斬エアスラッシュ』には『風斬エアスラッシュ』を同じ数だけ生み出して相手の魔法を相殺しました。
 威力も調整し、完全に相殺された魔法を闘技場内部にいた全ての人達が呆然と見つめています。

「もう終わりですか? 革命を起こすと言うわりには諦め早いですね」
「な!? おのれ、炎の槍よ――……」
「遅いですよ『マルチエレメンタル』」

 他の生徒より早く正気を取り戻したグレゴリですが、彼が詠唱を終える前に再び魔法を発動させます。
 今度は先ほどより多めに発動させ、空中で待機させておきました。その現実にグレゴリを除いた生徒は完全に戦意を喪失し、中にはへたり込んでいる者もいました。

 『マルチエレメンタル』。
 それは数十年の研究により生み出した私のオリジナル魔法の一つです。
 『火槍フレイムランス』を一つの魔法名で数本同時に出す技術もありますが、これは同じ魔法だけでなく異なる属性魔法ですら一つの魔法名で発動させる事ができるのです。しかし使いたい魔法を熟知しているのは当然として、詠唱が必要ならばそれぞれの言葉を上手く組み合わせなければいけないので、無詠唱が出来るようになった魔法同士でしか使いづらいですね。
 現在私は三十の魔法を同時に発動させる事ができますが、この魔法は私のような三重トリプルだからこそ出来るのかもしれません。

「呆けていないで詠唱はまだですか? 待ちくたびれてしまいます」
「ど、どこまで馬鹿に!」
「そうですか、来ないならこちらから行きますよ。その場から動かないことをお勧めします」

 立てていた指を相手に向かって振り下ろすと、二十に及ぶ魔法がグレゴリ達へ一斉に襲い掛かりました。
 炎の槍が爆発し、水の弾丸が土を貫き、風の刃が地を抉り、土の槍がぶつかり砕ける様子を観客席の生徒達は固唾を呑んで見守っています。
 舞い上がった土埃を『ウインド』で吹き飛ばすと、そこはグレゴリ達が立っている位置を除き、荒れ果てた試合場が広がっていました。殺すわけにはいけないので、彼等に当たらぬようにしっかり配慮しています。少々やり過ぎて試合場が荒れましたが、後で『土工クラフト』で直せば問題ないでしょう。

「投降しますか?」
「あ……こんな……ここまでとは……」
「いい加減面倒ですので、返事は手早くお願いします」

 私は再び『マルチエレメンタル』を発動させ、今度は三十に及ぶ魔法を待機させました。そして遂に耐え切れなくなった一人の生徒が私に向かって駆け出し、膝を折って頭を下げたのです。

「投降します! この様な事は二度としないので許してください!」
「お……俺もだ! こんな相手勝てるわけないだろ!」
「無能を倒すまで……死ぬわけには」

 次々と投降する生徒達ですが、グレゴリだけは未だに投降しませんね。いずれ降るでしょうが、彼は置いておいて仕上げといきましょう。
 発動させた魔法を消した頃には周囲の戦闘は終わっていたので、闘技場全体に声を届かせる風の魔法を発動させました。

「皆さん! グレゴリこそ獣人嫌いの行き着いた見本でもあります。行き過ぎた排斥行為は、このような暴挙でさえ正しいと認識させてしまうのです。皆さんの首に填められた首輪が何よりの証拠でしょう」

 少し仰々しいですが、この様な状況ならそれくらいが丁度よいものです。何せ奴隷でもないのに隷属の首輪を填めたのですから、貴方には皆の反面教師だけでなく憎まれ役もやっていただきましょう。

「そしてその暴挙の結果がこの様です。嫌いな相手を好きになれとは言いませんが、人族も獣人も世界に生きる一人です。理由も無く嫌うのは止めておきなさい」
「が、学校長! 俺は本当は獣人が嫌いじゃないんです。俺達はそこのグレゴリさ――……グレゴリに騙されていたんです!」
「私もだ! この男にやれと命令されたんです」
「そうですか。ですが、他人はどうあれ決断し行動したのは貴方達です。貴族ならば自分が取った行動に責任を持ちなさい」

 グレゴリの取り巻きだった生徒達が惨めにも懇願してきますが、流石にこれは許す事ができませんね。貴方達は私の学校の生徒ですが、ここまであからさまな犯罪に手を染めた時点で庇う理由もありません。
 貴族なら責任を取れと言いましたが、処罰が下った後に彼等が貴族としていられるかどうかわかりませんけどね。

「大人しく城の処罰を受けなさい。たとえ親に泣きつこうとも、私を含めこれほどの目撃者が居るのですから、今更言い逃れしたところで無意味です」

 がっくりと肩を落とした取り巻きを含め、闘技場に居る生徒達はこれで良いでしょう。次は諸悪の根源であるグレゴリですね。抵抗する意思はなさそうですが目がまだ諦めていないようですね。

「何か言いたい事はありますか?」
「おのれ、貴様さえ現われなければ上手くいっていたものの……」
「それはどうでしょうか?」

 予想ですが、たとえ私が現れなくても貴方達は終わっていた気がします。鮮血のドラゴンを一人で叩きのめした彼ならこの程度の相手は造作無いでしょうが……肝心である彼の姿が見当たりませんね?

「エミリア君、貴方の主人であるシリウス君はどちらに?」
「あ、はい。シリウス様は別行動をとっておられまして、私達を陰ながら見守っていてくださっています」

 別行動をとって見守っている? ふむ、そうなると彼はどこかでここを見ているのでしょうか? なのに彼が表立って動かなかったのは、私がやろうとした事を理解したからでしょう。
 私がグレゴリ達の暴走を見過ごしたのは、彼等を確実に捕らえるだけじゃなくグレゴリを反面教師にし生徒達に現実を思い知らせるためでしたから。首輪は予想外でしたが、今回の事件を切っ掛けに獣人嫌いの連中も考え直してくれるでしょう。

 それが終わったのなら早く生徒達を首輪から解放してあげねばなりませんね。首輪の鍵を彼等が持っていれば良いのですが。

「グレゴリ、首輪の鍵はどこですか? 隠しても為になりませんよ」
「……首輪の権限は全てゴーリアだ。私は知らん」
「学校長、彼は今麻痺で動けなくしてあちらに――……」

 エミリア君がゴーリアが居る方を指した瞬間、突如白い霧が闘技場を覆い始めました。
 魔力の反応もありましたし、これは『水霧アクアミスト』のようですね。分析している間に霧は濃くなり、目の前にいるエミリア君ですら姿が見えにくくなっています。
 周囲を覆いつくす霧に生徒達が動揺する声が聞こえますが、聞き逃せない声が私の耳に飛び込んできました。

「旦那ぁ、ゴーリアは確保したぞぉ! ずらかるぜぇ!」
「でかしたぞ!」

 霧から妙に興奮した男とグレゴリの声が響き渡ります。この霧は奴等の仕業ですか。風魔法で吹き飛ばせばよいでしょうが、まずは霧を生み出す魔法陣を探さなければ。

「水よお願い! エミリア、あそこよ!」
「ええ見えたわ! 『風玉エアショット』 そして『風舞ウインドストーム』」

 私が行動する前にエミリア君とリース君がすでに動いていました。
 水が得意なリース君が核を探し当て、エミリア君が『風玉エアショット』にて核を砕き『風舞ウインドストーム』で霧を吹き飛ばしています。将来がとても楽しみな二人です。

「グレゴリとゴーリアはどこだ!?」
「いないぞ! 探すんだ」
「おい! 傭兵の奴も居なくなっているぞ!」

 霧が晴れた頃にはすでに彼等は試合場から姿を消しており、影も形も見当たりませんでした。生徒達が闘技場を探し回りますが、すでに外へ逃げているでしょうね。

「全く、隠れるだけでなく逃げ足も速いですね」
「学校長! 奴等に逃げられたのに、落ち着いている場合ではありません!」
「そうですよ! 生徒達の命を握っているんですよ!」
「君達も落ち着きなさい。奴等は逃げられませんし、すぐに場所も判明します。安心しなさい」

 慌てたエミリア君とリース君が詰め寄ってきますが、焦る必要はありませんよ。結界がある以上学校から逃げる事は出来ませんし、他にも対策してありますから。

「マグナ。手筈は整っていますね?」
「はい。配置完了しています」

 ここへ来る前からすでに私とマグナのゴーレムを結界に沿って無数に配置しています。私達のゴーレムをグレゴリ程度の魔法では倒す事も難しいでしょうし、戦っていれば場所もわかります。後は追いかけてじっくりと料理すればよいのです。

「それに……ゴーレムに会う前に終わっていそうですしね」




 ――― グレゴリ ―――




 ……何故だ?
 何故私はこんな無様な姿で逃げださなければならないのだ。
 私の計画では生徒達を人質に城へ突撃し、生徒を肉の壁にして王族を皆殺しにする予定だった。その為にわざわざ金の亡者であるゴーリアと手を組んだというのに……何故こうなったのだ!?
 息を切らしながら結界まで走る私の後ろには、今回の革命で雇った傭兵崩れが後ろを警戒しながら付いてきていた。

「おい旦那ぁ! 追っては来ないようだぞぉ?」

 斬られた腕を止血し、残った腕でゴーリアを担いでいる傭兵崩れが怪訝な表情でこちらを見ていた。
 亜人の生徒に負けた時は情けないと思ったが、あの状態から逃げられたのは間違いなくこの男の手腕だ。亜人に負ける程度の実力だが、生き残ることに関しては奴より上だったようだな。

「しかしよく生きていたものだな」
「へっ! 薬で痛みが感じねえしよぉ、気絶しようがすぐに目を覚ましたからなぁ」

 こいつは状況的に勝てぬと判断し、気を失った振りをしていたようだ。そして隙を見て『水霧アクアミスト』の魔法陣が描かれた魔石を放ったらしい。

「たくよぉ、高かったあれまで使う羽目になるとなぁ。手は斬られるし、本当に最悪だぜぇ」
「ふん、最悪なのはこちらだ。だが、まだ手は残っている」

 状況は最悪だが、こちらには首輪の権限を持つゴーリアがいるのだ。
 無理矢理外せば装備者を殺す機能を持つので、優れた魔法技師でも鍵も無く外すには数時間掛かる。それが二百近くあるのだから、一日二日で終わる筈がない。
 その間にゴーリアは回復するだろうし、後はこいつを説得して数人ばかり殺させて見せしめにすればよいのだ。そこまでやれば奴等も我々に従うしかないと理解するだろう。
 そもそも初めからそうしておけば良かったのだ。ゴーリアが生徒を無駄にしまいと見栄を張り、油断して麻痺を食らった時点で計画が狂ったのだ。このような状況で生徒一人の命を考えてる時点で小物過ぎる! 楽園を理解できぬ者など消耗品の如く切り捨ててしまえばいい。

「でよぉ、結界あるけど逃げられるんだろうなぁ?」
「私を誰だと思っている! 黙って付いて来ればいいのだ!」

 結界は強固だが、結界を越えようとするのではなく、土魔法で穴を掘って潜ってしまえばいいのだ。おそらく老いぼれもその手で乗り込んできたに違いあるまい。
 たとえ敵がいようとこの傭兵崩れが相手しているうちに私とゴーリアだけ逃げればよいのだ。
 ロードヴェルよ、結界を完成させてなかった自分を恨むんだな。

「止まれ旦那ぁ!」

 傭兵崩れが立ち止まり大声を張り上げるがどうしたというのだ! 今は少しでも早く逃げなければならないと言うのに。

「止まれっつってんだよ旦那ぁ! 殺されるぞぉ!」

 その言葉は無視できず、私は渋々足を止めた。文句の一つでも言ってやろうと思ったが、傭兵崩れは苦い表情を浮かべてゴーリアを足元に放り投げてから剣を握っていた。

「おい貴様、その男は貴族だぞ。もっと丁寧に扱え」
「ち! これだから貴族ってのは鈍くて嫌になるぜぇ。目の前に迫っている殺気に気づかないのかよぉ?」
「殺気? そんなのは――……っ!?」

 突如何かが体を駆け巡り、走り回って興奮しているのに寒気を感じ始めた。
 何だというのだこれは!? 傭兵崩れが殺気と言っていたが、これほどのレベルはロードヴェルに睨まれた時と同じ……いや、それ以上か?

「おいおい、化物獣人に化物エルフと来て次はなんだぁ? この学校は一体なんだってんだよぉ?」

 知らん! 私はこんな殺気を知らぬ!
 ロードヴェルの殺気が喉元にナイフを突き付けられているようなものだとしたら、今感じているのは数十本のナイフがすでに浅く刺さっているようなものだ。体全体がピリピリ痺れ、立っているだけなのに汗と震えが止まらん。
 その殺気に息を荒くしていると、建物の影から妙な男が現れた。
 いや、背丈と体格から少年に近いかもしれん。格好も奇抜で、顔に白い仮面を付け、全身を隙間無く覆う黒い服を着ているのだ。
 妙な少年であったが、私を震えさせる殺気は間違いなく目の前の存在から放たれていた。
 そいつはまるで散歩にでも行くようなゆっくりとした歩きで私の前へ立ち、そして……。

「どこへ行くつもりだ?」

 そう、少年の声で告げてきた。
ちなみに最後の仮面の男が現れた時に仕事○のテーマ(ラッパのやつ)を流すと、雰囲気が大層壊れます。

今回、人の切り替えが今までで一番多いですが、エミリアの視点部分は前話で入れ忘れていたせいです。ロードヴェルのおさらいも兼ねて修正せず、あえてこちらに持ってきてみました。
+注意+
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