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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

八章 学校 革命編

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頂の一歩手前

 ――― レウス ―――


 グラントのおっちゃんが作った剣である『銀牙ぎんが』は普通の剣より幅広く、とにかく重く頑丈に作られていた。
 じっちゃんの剣技はとにかく力がいるから、普通の剣では間違いなく折れるからだ。今や全力が出せるのはこの剣のみであり、俺の大切な相棒だ。

「どらっしゃぁぁ――っ!」

 その相棒が手にある今、俺は抑えていた力を解放してドミニクに叩きつけてやった。
 相手は巨大ゴーレムが倒される光景に動揺しつつも剣で受け止めていたが、最初の一撃と違いドミニクは完全に力負けしていて大きく吹っ飛ばされていた。
 だけど感覚から当たりが浅い。おそらく本気で攻撃を受け止めず自ら後ろに飛んで威力を殺したんだ。

「おいおい、剣を変えただけでこれかよ。わかっちゃいたがここまでとはな」
「今のはお前の剣ごと斬るつもりだったんだけどな」
「おお怖い。だけどいいのか? あんまり時間かけてると、今からやってくる傭兵に仲間がやられちまうぜ?」
「……それって来ればの話だよな?」

 俺の勘だけど、おそらく闘技場の外から傭兵は来ないと思う。
 だって相棒から血の匂いが僅かにするからだ。普通なら気づかないけど、毎日振り続けた俺だからわかる。その相棒を持っていたのは兄貴で、そして兄貴は俺達とは別行動をとっていた。
 つまり兄貴は別行動中に外の傭兵達を倒していたんじゃないかと思ったんだ。違ってたらやばいけど、兄貴ならそれくらい軽くやりそうだしな。

「いくら周辺にいないからって、未だに一人も来てないってのはおかしいだろ? すでに倒されたんじゃないか?」
「ちっ……確かにありえるな。さっきのゴーレムを倒したのも、お前の仲間か?」
「仲間じゃなくて俺の兄貴だ。さっきも言った、俺に全てを教えてくれた人だよ」

 それに兄貴が本気になったら、もう戦闘は終わってるよ。下手したら俺達が闘技場に行く前に全て終わらせる事も出来たのに、それをしなかったのは全て俺達に経験を積ませる為。
 楽はさせてくれないけど、俺達をしっかりと見守ってくれる。兄貴の弟子でいられるのが本当に誇らしい。

「だけど俺との戦いには手を出さない人だ。遠慮なくかかってこいよ!」

 兄貴が援護するのはやばい状況になった時だけで、それ以外は俺達で何とかしろと言っているんだろうな。それにいつまでも兄貴に頼ってばかりじゃ駄目だ。相棒が手にある今こそ決着をつけてやる。
 剣を振り上げ剛破一刀流・剛天の構えをとると、ドミニクは苦笑しつつ俺に質問してきた。

「薄々感じてはいたが、やはりお前は剛破一刀流か」
「そうだけど、知ってるのか?」
「知らない奴の方が少ないだろうが。剛破一刀流はあの最強である剛剣ライオルの流派だからな。しかし……剛剣には弟子なんて一人もいなかった筈だが、お前は関係者なのか?」
「こいつはライオルのじっちゃんに教わっただけだ。それに俺の師匠は兄貴だって言ってるだろ」
「教わっただけって、お前は本当に何者なんだよ?」
「俺はただの銀狼族の男だよ。それにわかる必要なんてないさ、だってお前は俺に倒されるんだし」
「ちっ、剣を持ってから調子に乗りやがって。仕方ねえ、俺も覚悟を決めるしかないな」

 覚悟を決めると言って降参するかと思ったら、ドミニクは懐にあった袋から赤い丸薬を取り出し飲み込んだのである。回復薬……にしては何かおかしいな?

「回復薬飲むほどダメージ受けたか?」
「へっ、こいつはそんな生易しいもんじゃねえ。こいつは『命削丸薬ライフブースト』って劇薬だよ!」

 命削丸薬ライフブースト
 もしかして……エリナさんが飲んだあれかな? 効果は飲んだ人の力を限界まで引き上げるそうだけど、その後酷い後遺症があるって兄貴が言っていたな。
 エリナさんの時は兄貴が調整して効果を薄めた物を使ったそうだけど、それでも歩く事さえ出来なかったエリナさんを一日だけ元気にさせた薬なのだ。
 その代わりエリナさんは……。

「あまり詳しくないけどさ、それ使うと後が怖いって聞いたぞ」
「その通りだ。こいつを使うとよぉ、一ヶ月くらいまともに体動かせないんだよなぁ!」

 丸薬が入った袋を投げ捨てた瞬間、ドミニクの目が血走ったかと思ったら筋肉が急に膨れ上がっていた。両手で振っていた大剣を片手で振り回し、荒い息を吐きながら涎も垂れていた。

「その代わり痛みも無くなってぇ、すげぇ力出るんだよぉ!」

 ドミニクがしゃがみこんだかと思ったら、地面がへこむほどの踏み込みで俺に迫り剣を振ってきた。さっきまでなら俺は十分対応できたんだけど……。

「速っ!?」

 咄嗟に剣を振るって防ぐが、俺は完全に力負けして後ろに吹っ飛ばされた。体勢を立て直して着地するが、手が痺れるほどの一撃に剣を放しそうになった。

「さっきまでの威勢はどうしたんだよぉ? 俺がここまでやったんだから、もっと耐えて見せろよぉ!」
「言われなくても!」

 守ったら負ける! だから攻められる前に飛び込むが、俺の攻撃は全て相手の剣によって防がれる。くそ! 薬によって全ての能力が上がっているぞ。魔力が残り少ないけど……やるしかない。

「『ブースト!』」
「はははっ! そうこなくっちゃなぁ!」

 全身に魔力を流した身体強化で再びドミニクとぶつかった。それから何度も剣をぶつけ合うけど、『ブースト』状態の俺でも力はドミニクの方が上のようだ。
 なのに俺が耐えられるのは、兄貴やじっちゃんと戦ってきた御蔭だ。 
 型に囚われない変幻自在の攻撃をする兄貴に、一撃全てが必殺になるじっちゃん。そんな二人とは比べようもないくらいに低い技術だからこそ俺は何とか捌けている。
 だけど、このまま戦いが長引けば確実に俺は負ける。エリナさんの時は調整して一日だったけど、命削丸薬ライフブースト本来の効果は半日なんだ。兄貴のと違って俺の『ブースト』はそこまで長続きしない。
 薬によって疲れすら感じないのか、ドミニクの勢いは全く衰えを見せず俺は防戦一方になっていた。

「ほらほらぁ! そんな防御ばかりじゃ剛破一刀流が泣くぞぉ!」
「関係、ないだろっ!」
「関係あるんだよぉ! 剛破一刀流ってのは防御を気にせず相手をぶった斬る一撃必殺の剣技だろうがぁ!」

 確かにじっちゃんの剣技ってそんな感じだけど、俺は兄貴の技術も教えてもらっているからちょっと違う。
 それに……その戦い方はすでに過去の話だ。
 今のじっちゃんは兄貴に負けてから己を見直していた。相手を一撃で倒すのは変わらないが、多少のダメージを覚悟で剣を振るっていた剣技が、確実に回避するか受け流してから振るうようになったんだ。

「俺はこう見えてもあの剛剣に憧れていたんだよぉ! 魔物の大群を剣一本で薙ぎ払うあの最強になぁ! 剣を教わったならあの化物染みた強さを知っているだろうがぁ!」
「当然、だろっ! だけど、俺はいつかじっちゃんを、倒すんだ!」

 俺は必死に攻撃を防いでいるのに、ドミニクはペラペラと楽しそうに喋りながら剣を振り続けてくる。一瞬でも気を抜けば『ブースト』が切れてしまいそうだ。

「最強を倒すだとぉ!? 馬鹿言ってんじゃねえよぉ! いくら努力しようがぁ、どれだけ力をつけようが最強の背中すら見えねぇんだよぉ!」
「それでも、俺は!」
「夢見てんじゃねえよぉ! 最強を目指した俺も気づいたらこのザマだぁ! 天才にはどう足掻いても勝てないんだよぉ!」
「天才が、何だってんだ!」
「そうは言うがよぉ! これだけてめえを追い詰める力があっても最強には勝てねぇんだぞぉ! そんな俺に勝てないお前があんな化物にどうやって勝つつもりだよぉ!」
「ぐあぁっ!?」

 最後の攻撃を受け流しきれず、俺は思いっきり吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた。背中を強打した痛みで『ブースト』が切れたけど、ドミニクは追撃せず笑いながら俺を見下していた。

「どうだぁ? これが現実だぁ。いい加減認めて楽になっちまえよぉ。最強にはどう足掻こうが勝てないってなぁ」
「……最強、最強ってしつこいな。何も知らないお前が決め付けるなよ」

 大丈夫だ、迷宮の時に比べればこんなの掠り傷だ。口の中で血の味がするけど……まだ動ける。剣を支えに立ち上がり、気持ちだけは負けない為にドミニクを睨みつけた。

「それに俺は最強じゃなくていい。その手前……二番で十分なんだ」
「言い返していながら結局そこかよぉ。まあ剛剣を倒すなんざ無理に決まっているだろうなぁ」
「違う! 最強は兄貴だ! 俺は、俺はライオルのじっちゃんを倒して……二番になるんだ!」

 俺は兄貴のすぐ後ろで十分なんだ。すぐ後ろに立って、兄貴を支えていければそれでいい! その為に俺は強くなって、いつかライオルのじっちゃんを倒すんだ。こんな奴に負けるわけにはいかない。
 残った魔力で再び『ブースト』を発動し、俺は地面を踏み砕く勢いで走った。

「何をわけわかんねーこと言ってんだぁ!」
「それに……諦めて腐った奴に言われたくねえよっ!」

 こいつは確かに強いけど、もしライオルじっちゃんだったら俺は剣ごと体を斬られて終わってた筈だ。それが出来ないこいつはじっちゃんより……凄く弱い。だから俺は勝てる。そのありったけの想いを剣に込め、俺は剣を振り上げた。

「剛破一刀流・剛天っ!」

 始まりにして全てである剛破一刀流の基礎、剛天を全力でドミニクの剣に叩き付けた。鋼がぶつかり合う巨大な音が響き渡り……俺の剣がドミニクを押し返した。
 剣が跳ね上げられ、二、三歩下がるドミニクへ追撃しようと駆け出そうとした瞬間、横から突然傭兵が乱入してきた。どうやら別の生徒に吹っ飛ばされた傭兵のようだが、足元に転がってきたので思わずジャンプして傭兵を避けてしまった。
 不覚にも体勢を立て直しつつあるドミニクの前で……だ。

「はっはぁ! それじゃあ避けられねぇよなぁ!」

 横斬りで迫るドミニクの剣を空中で回避するのは不可能だった。だからじっちゃんには無駄に飛ぶなと何度も言われていたのに、兄貴にだって……兄貴?
 兄貴には……あれがあった! 
 俺は咄嗟に『ブースト』を維持する魔力を足に集中させ、『エアステップ』で空中に足場を作って踏み込みドミニクの頭上を飛び越えた。兄貴みたいに連続で出来ないけど、一回だけなら俺でも出来る。
 ドミニクは頭上を飛び越える俺に剣を振ったが、すでに横薙ぎで届く範囲に俺は居なかった。唖然と見上げるドミニクと目が合うと同時に、空中で剣を振るいドミニクの右腕を斬り飛ばした。

「んなぁっ!?」
「もう一撃だぁっ!」

 ドミニクの腕が落ちるより早く着地した俺は、動揺する奴の横腹に剣の腹を叩き込んだ。『ブースト』は切れてたけど、全力の一撃は骨を数本砕きながらドミニクをぶっ飛ばした。
 地面を何回も跳ねながら転がり続けるドミニクは、闘技場の壁に激突してようやく止まった。その後しばらく眺めても奴が動く様子はなかった。

「やった……のかな?」

 体のあちこちに傷はあるし体力と魔力が限界に近いけど、俺はあいつに勝ったんだよな?
 一人で……勝てたんだよな?

『ああ。よくやったな、レウス』
「……兄貴」

 ちゃんと見ててくれたんだな。
 あまりの嬉しさに、思わず涙が出てきて剣を落としそうになった。
 だけどまだ戦いは終わっていない。兄貴が巨大ゴーレムを倒してくれて楽になったけど、闘技場内の敵はまだまだいる。
 疲れてるけど、まだ剣は振れる。敵を一体でも多く倒して、早く戦いを終わらせてやる。
 早く終わらせて、兄貴に直接褒めてもらうんだ!

「行くぞぉ! どっからでもかかってこいっ!」





 ――― エミリア ―――


 巨大ゴーレムが全て倒されたその時、私の頭の中にシリウス様の声が響きました。

『頼んだぞエミリア。お前が皆を支えるんだ』

 ああ……素晴らしい気分です。
 私達をいつも見守ってくださり、今もこうして危なければ援護してくださる私のご主人様。
 そのような御方に頼むと言われ、私の心は最高に滾っています。
 ですが浮ついた気分で戦うのは駄目ですね。油断すれば迷宮の時みたいに私は何も出来ないまま終わってしまいます。もうあのような屈辱は二度と御免です。……シリウス様に抱かれて眠るのは何度でもかまいませんが。
 リースを見れば私と同じようにシリウス様の言葉を受けたのか、目に見えてやる気に満ち溢れています。私達にはシリウス様の言葉が一番の励みなりますね。もちろん、シリウス様本人がいらっしゃるのが一番ですが。

「戦闘中に笑いおって! ふざけているのか!」

 いけません、この男……グレゴリを忘れていました。
 先ほどから何度か魔法を撃ち合っていますが、流石は元先生と言いましょうか。彼は炎と土の二重ダブルで、ゴーレムを作りながら私に向かって『火槍フレイムランス』を放つという、異なる魔法属性を同時に使ってきます。今はただの犯罪者に過ぎませんが、それ相応の実力を持っていますので油断は禁物でしょう。
 ですが……すでに私はこの人のパターンを見切りました。
 彼が主に使う『火槍フレイムランス』は確かに強力ですが、飛ぶ速度が遅い上に何か硬いものにぶつかると爆発する特性を持っています。つまり、『風玉エアショット』を当ててやれば爆発するので十分迎撃できるのです。
 シリウス様なら発動して炎が集った瞬間に撃ち抜いてしまいますけど、私はまだ飛んでくるのを撃ち落すのが限界ですね。
 現に今も余所見する私に怒り『火槍フレイムランス』を放ってきましたが、焦らず撃ち落します。その間に他の生徒さんに襲い掛かっているゴーレムにも『風玉エアショット』を放ち援護しておきます。

「ならばこれならどうだ! 炎の槍よ『火槍フレイムランス!』 土の化身よ我を守る力となれ『ロック・ゴーレム!』」

 グレゴリの周りに『火槍フレイムランス』が数本浮かび、足元から生まれた三体の岩のゴーレムが同時に私へと襲い掛かります。そのように数を増やしたところで結果は変わりませんよ。私は落ち着いて集中し魔法を放ちます。

「『風散弾エアショットガン!』『風衝撃エアインパクト!』 ついでにこれもです!」

 『風玉エアショット』を細かく無数に分散させて飛ばす『風散弾エアショットガン』一発で『火槍フレイムランス』は全て撃ち落され、自分の頭サイズの風の玉が触れた瞬間に収束された風を一気に叩きつける『風衝撃エアインパクト』によって一体のゴーレムは砕けました。
 どちらもシリウス様の魔法を私なりにアレンジしたもので、お披露目した時はシリウス様に凄いと褒められたものです。
 その合間に傭兵から奪った投げナイフを投げましたが、グレゴリの腕を掠めるだけでした。うーん、ナイフ投げはまだまだ練習が必要ですね。

「おのれぇ! 潰せゴーレム!」

 相手に多少ダメージは与えましたが、まだ二体のゴーレムが残っています。『風衝撃エアインパクト』は消耗が大きいので、魔法陣を探して『風玉エアショット』で撃ち抜くべきでしょうが、私は一人ではありません。

「水よお願い!『水柱アクアピラー!』」

 背後のリースが発動した魔法は、対象の足元から水を上空へむかって噴出させ、相手を遥か上空まで持ち上げる魔法です。本来なら岩のゴーレムを持ち上げる威力はありませんが、リースの場合は水の精霊によって水圧が遥かに強力で、更に二本同時に放てる器用な事もできます。
 上空に持ち上げられたゴーレムは、自身の重さによって落下の衝撃に耐え切れずバラバラに砕け散ります。たまに魔法陣が残る場合がありますが、今回は二体とも砕けたようですね。

「張り切ってるねエミリア。やっぱりシリウスさんが見てるから?」
「当然よ。私の成長を見せて、後でいっぱい撫でてもらうんだから。レウスには負けられないわ」
「ふふ、私だって負けないわよ」

 グレゴリの相手に生徒たちの援護、そして足元に確保しているゴーリアを敵に奪われないようにとやる事は沢山あります。ですが、リースが一緒ならば問題ありません。一緒に住んで訓練して、私達の連携はバッチリですからね。
 武器を飛ばされた生徒へ襲い掛かる傭兵に『風玉エアショット』を撃ち込み、再び現れたゴーレムをリースの『水刃アクアカッター』が切り裂く。互いの背中を守りながら、私とリースはグレゴリの相手と周囲の生徒達へ援護を続けます。
 戦況は完全にこちらへ傾いていて、傭兵も魔法士も数えるほどしか残っていませんね。これ以上私の援護は必要なさそうで、制圧も時間の問題だと思います。

 ですが、レウスの方は押されているようです。雰囲気の変わった相手の猛攻を何とか捌いているようですが、いつやられてもおかしくないです。援護をするべきでしょうが自ら望んだ事ですし、手を出せば逆に怒りそうね。だから手を出さないけど……絶対に生き残るのよ。私達は生きてシリウス様を支え続けるって決めたんだから。
 後ろ髪引かれながらもレウスからグレゴリに視線を向ければ、彼は息を荒くして顔を青白くしていました。魔力枯渇の前兆ですね、私は何度も味わってますからすぐにわかりますよ。

「はぁ……はぁ……馬鹿な。何故私の方が先に魔力が切れる?」
「効率の違いですね。戦い方がなっていないのですよ」

 正直に言えば私の魔力総量はそこまで高くありません。大人のグレゴリや、精霊に好かれたリースよりかなり下だと思います。ですが何度も魔力を枯渇させて成長しましたし、シリウス様のアドバイスによって徹底的に無駄を無くしているのです。
 わかりやすく言えば中級の『火槍フレイムランス』の消費が二十だとしたら、初級の『風玉エアショット』は五です。私は訓練によってそれを二に抑えていますし、グレゴリは他にもゴーレムを何度も生み出していますから消耗速度が全く違います。必然的に相手の方が先に枯渇するわけですね。
 私達はシリウス様の訓練によって様々な経験を積んでいますから、貴族で胡坐をかいていた貴方より戦い方がわかっているつもりです。ここは迎撃できない程の『フレイム』を連発するか、もっと他の魔法を使うべきでしたね。

「無能に従う亜人にここまで追い詰められるとは。なんたる屈辱か」
「無能、無能といい加減にしてください! シリウス様は無能ではありません!」

 本当に我慢の限界です。一体どれほどシリウス様を貶すつもりでしょうか。私達を救い強くしてくださったあの御方に比べたら、貴方なんて小石ほどの価値もありません。

「シリウスさんを無能と言いますけど、貴方は愚か者ですね。シリウスさんや獣人の方を嫌う暇があるなら、己を鍛えた方がよろしくありませんか?」
「ふん、貴様か。私が目にかけてやったというのに、他のクラスに移動しおって」
「私の家しか見てない上に、苛めを黙認する人の元で誰が学びたいと思うのですか?」

 私も怒っていますがリースも相当怒っているようですね。普段なら言わない皮肉を言うくらいですから。

「……ですが、ほんの少しですけど私は貴方に感謝しているのですよ。貴方が私をクラスに引き入れてくれた御蔭で私はシリウスさんに出会い、弟子になれたのですから」
「シリウス様と出会うなら、私に会った時点でいつか会えたと思うけど?」
「それだと私は弟子にならなかったと思うの。あの辛い時期があったから私は弟子になりたいと思って、そしてシリウスさんに……恋する気持ちが芽生えたのだから」

 少し顔を赤くしてるけど、満足気に語るリースがとても可愛く見えました。
 でもこんな可愛いリースを見ても、シリウス様は全く動じません。今度はリースと一緒にシリウス様を誘惑してみましょうか?

「いい加減にしろ! これは亜人や無能を排除する革命なのだぞ! そんな会話は他所でやれ!」
「このようなものを革命と言いません。何もしていない獣人でさえ差別するなんて、一体貴方は何様ですか!」
「黙れ! 亜人と無能が居なければ……父は死なずにすんだのだ!」
「悲しみはわかりますが、恨むならその犯人を恨むべきです。このような騒ぎまで起こして排斥するなんてやり過ぎです!」
「子供に何がわかる! 誰が何と言おうと、私は革命をやり遂げるのだ!」

 どっちが子供なのだろうと思ってしまいました。私も気が立っているようで、かなり直球で言い返してしまいます。いけないいけない、冷静にならないと。
 その時背後から大きな音が聞こえ、振り返ればレウスと戦っていた傭兵が壁に寄りかかるように倒れていました。
 肝心のレウスはかなり疲れているようでしたが、剣を再び振り上げて残りのゴーレムに斬りかかっていました。ああもう、怪我しているのに何をやっているのよ。

「もう、いくら動けるからって無茶し過ぎよ。ごめんエミリア、ちょっと治療しに行ってくるね」
「お願い、私はこの人を相手にしてるから」

 三体目のゴーレムを倒しているレウスの元へリースが走っていくのを見送ると、グレゴリは傭兵を見ながら忌々しそうに歯を噛んでいました。

「くそ……偉そうな事を言っておきながら亜人にやられるとはな」
「人族だから優れてるわけではありませんし、その逆もです。私達獣人は人族と見た目が少し違うだけで同じなのですよ」
「亜人と一緒にするな! まだだ、まだ私には手がある!」

 グレゴリが叫ぶと私達目掛けて複数の中級魔法が飛んできました。全属性が同時なので、迎撃を諦めた私はゴーリアを掴んで後方へ飛んで回避しました。おかしいですね、グレゴリに詠唱する素振りはありませんでした。

「見るがよい! わしに賛同する者がこれだけいるのだ!」

 貴賓席の通路から現れたのは、私達を嫌っていた生徒達でした。人数は十人ぐらいですが、隷属の首輪をしていない様子から普通にグレゴリに従っているようです。中にはシリウス様とレウスが戦ったアルストロも交ざっています。
 おそらく戦力として温存していたのでしょうが……生徒が戦力とはそれだけ追い詰められた証拠でしょうか? ですが少し不味い状況ですね。戦況はこちらに傾いていますが、私達の方は疲労が溜まり始めているので十人増えただけでも厳しい状況です。

「やれお前達! 同時に放てばいくらあの亜人とて防ぎきれまい」
「おい、お前の主人はどこへ行った! さっさと私の前へ出せ!」
「やはりあの亜人か。平民のくせに堂々としやがって」
「亜人なんてのはな、俺達貴族の奴隷でもやっていればいいんだよ!」

 目を見ればわかりますが、他の生徒達は大した理由も無く獣人が嫌いなだけな気がします。グレゴリみたいに深い憎しみがあるわけでもなく、ただ嫌いだから追い出す。洗脳されたかどうか知りませんが、いい加減にしてほしいものですね。本気で説教する人はいないのでしょうか?
 などと思っているうちにそれぞれが詠唱が終了し、空中に現れる中級魔法の数々に私は息を呑みます。四つ五つなら対処出来ますが、グレゴリの分も含めて十以上の魔法を同時に対処するのは無理そうです。
 シリウス様に――……いえ、頼っては駄目! 私はシリウス様に守られるんじゃなくて、あの御方を支えたいのだから。これくらいの障害で諦めるわけにはいきません。
 まず私に全て引き付け、周囲への被害を減らさないと。その後『風散弾エアショットガン』で可能な限り撃ち落して回避するしかありません。少し厳しいですが……やってみせます。シリウス様に鍛えられた成果を今こそ発揮するべきです。

 魔力を集中しようとしたその時……私の目の前に大きなゴーレムが突如出現しました。
 そのゴーレムは私を守るように立ち塞がっているのですが、味方にまだゴーレムを呼ぶ余力がある人がいたでしょうか? それにしてもこのゴーレムの作りは非常に精密です。先ほどまで戦っていたゴーレムと全く違いますし、おまけに……。

「構うな、ゴーレムごとあの亜人をやってしまえ!」

 グレゴリが叫ぶと、無数の魔法が目の前のゴーレムに全て放たれました。爆発音や土が砕ける様々な音が響き、鳴り止んでからゴーレムを見上げましたが、ゴーレムは多少欠けた部分があるだけで体は健在でした。周囲を見れば全く同じゴーレムが十以上も出現していて、他の生徒達を守りながら闘技場内を歩き回っています。
 このゴーレム、精密に作られた体も凄いですが、手には巨大な盾を持ち鉄を含んだ鎧のような物を装備しています。大きさと繋ぎ目からゴーレムを作ったと同時に作られたに違いありません。このような精密なゴーレムを生み出す技術に、同時に数多く出現させる魔力の膨大さから相当な土属性の魔法士であると思います。

「大丈夫ですかエミリア君」
「え? マグナ……先生?」
「ええ、その通りです。私が来たからにはもう安全ですよ。あの程度の攻撃では、私のゴーレムを崩すのは不可能ですから」
「マグナ! 貴様が何故ここに!?」

 振り返ると私達の担任であるマグナ先生が、全身灰色のゴーレムの肩に乗って現れたのです。あの灰色のゴーレムは全身が鉄なのでしょうか? マグナ先生は土魔法の達人と聞いていましたが、まさかこれほどとは思いませんでした。

「君達を倒しに来たに決まっていますよ。それに私だけではありませんよ」
「その通りです。私もいますよグレゴリ先生」
「あ……な、お前……は」

 その声の主は観客席の隅に座っていました。
 声を聞いただけだと言うのに、グレゴリと生徒達は思わず一歩後ろに下がっていますね。

 この学校の校長にして魔法を極めし者(マジックマスター)……ロードヴェル。

 不敵な笑みを浮かべたロードヴェルさんは立ち上がり、グレゴリ達に鋭い視線を向けました。

「さて……覚悟はできているでしょうか?」

おまけ……というか比較話
レウスとライオルの差。

命削丸薬を飲んだ直後のドミニク。
「その代わり痛みも無くなってぇ、すげぇ力出るんだよぉ!」
「上等じゃ小僧!」
数秒後……ドミニクは真っ二つになります。
+注意+
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