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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

八章 学校 革命編

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全ては弟子の為

「すいません、ちょっとよろしいですか?」

 立ち上がると同時に周囲の視線が俺に集る。教壇前に座っている男は心底面倒臭そうな顔で俺を見ていた。

「何だ貴様? 大人しく座っていろと言った筈だ」
「実はお腹が痛くて。トイレに行ってもよろしいですか?」
「ふざけた事をぬかすな。そんな事を許される状況だとわかっているのか? これだから子供は……」
「そんな事を言わずにお願いします! 本当に不味いんです!」

 腹を押さえたまま切羽詰った表情をし、助けを求めるように貴族に向かって歩いた。そんな俺の動きに、貴族は驚きながら近くの傭兵に怒鳴りつけた。

「な、何だお前!? おい、奴を取り押さえろ!」
「餓鬼は大人しく座ってろと言っただろうが!」

 横から傭兵が止めようと手を伸ばしてくるが、俺はよろめいた振りをして回避する。その隙を突いて更に教卓へ近づき、再び伸ばされた傭兵の手を前のめりになって避けた。
 前のめりになってバランスを崩した俺は、足をひっかけて思いっきり転んだ。その勢いは二、三度前転する程で、俺が止まったのは人質にされて縛られている先生と生徒の前であった。

「何をやっているんだこいつは。さっさと席に戻せ!」
「ちっ、偉そうに命令しやがって」

 人質を見張っていた傭兵が舌打ちしながら俺を足で小突いてきた。上半身を起こすと教室中の視線が俺に注目しているのがわかる。そんな中、近づいてきた傭兵の足を掴み……。

「ああ、大丈夫ですよ。この位置なら……ね!」

 思いっきり引っ張ってやった。急に背後へと倒された傭兵は、動揺しつつも肘や腕を支えに後頭部を床に打つのは回避していたが、続けざまに俺が放った肘鉄を回避するのは不可能であった。
 自身の体重を存分に乗せた肘鉄が傭兵の腹にめり込み、傭兵は泡を吹きながら白目を向いて動かなくなった。まず一人だな。

「て、てめえ!」

 近くに立っていた傭兵が剣を振り降ろしてきたが懐へ飛び込むように避け、傭兵の顎を下から突き上げる掌底で打ち抜いた。脳を急激に揺らされ、傭兵は何か唸りながら崩れ落ちた。

「き、貴様!? 人質がどうなってもー……」
「人質? どこにいるんだ?」

 先ほどまで人質だった二人は、今や見張りの傭兵が倒れ俺の足元で確保されてる時点で人質ではない。そして教室内に散っていた残り三人の傭兵だが……。

「シリウス様、終わりました」
「こっちも終わったよ兄貴」

 俺に気を取られている隙に、姉弟がすでに無力化に成功していた。
 あっさりと覆った状況に、クラスメイトどころか教卓前の貴族もついていけず呆然としていた。

「で……形勢逆転なわけだけど、ぼーっとしている状況か?」
「こんな……こんな事してただで済むと……」
「それはこっちの台詞だ。下らない事で関係のない人達を大勢巻き込んでいるお前らに言われたくない」

 ようやく戦局が不利と気づき一歩後ずさって逃げようとする動きを見せていたが、当然逃がすつもりは無い。一息で相手の懐に飛び込み、腕を掴んで一本背負いで床に叩き付けた。そこまでする必要は無いが、クラス全体の怒りを代弁するように派手に見せてやった。

「よし、これで全員倒したな。さっさと縛りあげるぞ」
「もうやってるぜ兄貴。でもタオルじゃ不安だよな。誰かロープとか持ってないか?」
「あ……私持ってるよ! 昼から使う予定だったから」

 クラスメイトがロープを提供してくれたので、傭兵と貴族を縛り終え、人質を解放する頃にはクラス全員が現状を受け入れて頭を抱えていた。まあいきなり賊が入ってくるなり革命だとか言われたのだ。頭の一つや二つ抱えたくもなる。
 こんな状況こそ大人である先生に指示をしてほしいのだが、彼は拘束から解放されても動く様子がなかった。

「う……あ……」
「兄貴、先生が何か動かないんだけど?」
「意識は……あるな。体全体が痙攣しているし、何か毒でも盛られたか?」
「シリウス様、あちらの傭兵からこれが見つかりました」

 傭兵達を縛る前に身体検査をしていたらしく、エミリアから渡されたのは針が数本入った小さな容器だった。よく見れば先端に何か塗られていて、縛る際にこいつを刺していたのだろう。
 先生を『スキャン』で調べてみるが、心臓はちゃんと動いているし命に別状はなさそうだが。

「これがあるなら解毒剤も持っている筈だ」
「わかりました。おそらくこの容器ですね」
「待ってエミリア。治療なら私に任せて」

 荒事が苦手なリースは先ほどまで大人しくしていたが、ここぞとばかりに手を挙げてエミリアから容器を受け取った。動けない先生に薬を飲ませ、回復魔法をかけるために集中している。
 先生はリースに任せるとして、現状をどうにかしないとな。
 まず全員を落ち着かせる為に声をかけようと思ったら、先にエミリアが前に出てクラス全員へと声をかけていた。

「皆落ち着いて。ここで騒いでも何も意味がないわ」
「だけど、私達これから一体どうしたらいいか……」
「こういう時こそ慌てちゃ駄目よ。まずは現状を知る事から始めましょう」
「姉ちゃんの言う通りだ皆! こいつらを尋問して情報を得ようぜ」

 レウスもエミリアをフォローするように隣に立ち、屈託の無い笑みをクラスメイト達に向けていた。このような状況だというのにレウスの笑みはいつもと変わらず、あまりの自然っぷりにクラスの舎弟達も含め全員落ち着きを取り戻していった。

「二人の言う通り、僕達は全員無事だ。まずは落ち着こう」
「そうね。こんな事をしでかしたこいつらから色々聞きましょう!」

 パニックを起こして騒ぎになれば面倒だったが、ここまで落ち着けば大丈夫だろう。姉弟の手際に感心していると、こちらに振り向いた姉弟が、これでいい? と言わんばかりに笑みを浮かべていた。言われなくてもやる事を理解しているようで何よりだ。俺は笑みを浮かべて満足気に頷いた。

 縛り上げた貴族と傭兵達を纏めて教卓前に並べ、尋問しようとしたその時である。
 学校全体が僅かに揺れ、更に妙な魔力を感じたので反射的に窓へ向かって視線を向けていた。少し遅れてエミリアと他に魔力感知が鋭い子も同じように反応しているが、窓から見える外に異常は見当たらない。
 俺の勘だが、一瞬だけ大気中の魔力が薄くなった気がする。理由はわからないが、何かが起こったのは確かだ。『サーチ』で調べようと思ったら、外を眺めていた一人の女子が騒ぎ出したのである。

「ちょっと皆! 外見て、外!」

 この教室は訓練場側に面していて、少し距離はあるが窓から広い訓練場が見渡せる。女子の声に訓練場を眺めてみれば、クラス全員が呆然としていた。

「あれ……ゴーレムよね?」
「冗談じゃないぞ、何であんなに居るんだよ」
「見て、他のクラスの子達もいるわ!」

 訓練場には大人二人分の身長を持つ岩のゴーレムが無数に立っていて、その間に抵抗に失敗したと思われる生徒達が一列に歩かされていた。方角からして闘技場に向かっていると思われる。
 にしても生徒達が妙に大人しい。ゴーレムだけでなく傭兵やゴーレムを作った魔法士の貴族が数人いるが、数的には生徒達の方が上だ。抵抗の一つや二つあっておかしくないと思うのだが、視力を強化して眺めている内にある物が目に付いた。

「……隷属の首輪か」
「っ!? シリウス様……もしや」
「ああ、あの連行されている生徒全員に隷属の首輪を填められているな。よくもまあこんな大量に用意したもんだ」

 あそこに見える生徒は軽く見積もっても百人はいる。学校の生徒数は大体六百人だから、捕まった人数は結構な数になる。
 あの首輪を填められたら何もしなくても徐々に魔力を奪われていくので、体全体が重くなって非常にだるくなる。それなりに高価な物をこれだけ用意するとは、この革命モドキの本気度を表す証拠だろう。
 そんな首輪を過去に一年近く填められていた姉弟は、悲痛な面持ちで生徒達を見ていた。

「酷い……」
「……許せねえ」

 だが二人はもう虐げられる存在ではないし、大人相手でも抗える強さを得ている。その証拠に二人は悲しんでいるだけでなく、拳を握って怒りを表していた。
 流石にこのまま突撃はしないと思うが、姉弟の頭を撫でて落ち着かせているとクラスの一人が緊張した面持ちで口を開いた。

「な、なあ。これはもう只事じゃないよ。城や町の警備隊に知らせるのが先じゃないか?」
「だよな。あんな沢山のゴーレムや、傭兵達の相手なんて俺達の手じゃ負えないし」
「全員で一塊になって外に出よう! 外に助けを求めるんだ」

 確かに外へ助けを求めるのが正しいだろう。何人かで固まったり、分散して行けば学校から抜け出すのは容易い筈だ。しかし、ここまで計画的に行った奴等がそんな事を許すだろうか?
 クラスメイト達が外へ脱出しようと団結していると、縛られていた貴族の男が大きな声で笑い出したのである。

「はははは! 馬鹿な餓鬼共め。そんな簡単に脱出出来ると思っているのか?」
「何を言っていやがる! 俺達全員で逃げ出せば一人くらいー……」
「そのような対策してないと思ったか。外の塀を見てみるがいい!」

 貴族に言われ学校を囲んでいる塀に視線を向けると、何かぼんやりとした光の壁が上空に向かって伸びているのが見えた。

「何だよあれ? 学校の塀にあんな仕掛けあったのかよ」
「見たか、あれは外敵侵入防止用の結界だ。裏を返せば、学校にいる奴等を閉じ込める結界でもある。お前達が逃げる事は不可能だ」
「見て! あそこに居るの先輩よ!」

 女子の声に視線を向ければ、一人の生徒が塀目掛けて『火槍フレイムランス』を放っていた。だが、塀には傷一つ付いてすらなかった。それから何度も魔法を放つが変わらず、背後から迫ってきたゴーレムと傭兵達に囲まれてしまった。そのまま『火槍フレイムランス』でゴーレムを倒しつつ粘っていたようだが、数で押し切られて負け、首輪を填められゴーレムに運ばれていった。

「あの結界『火槍フレイムランス』でもびくともしないのかよ。だけど、全員で力を合わせれば結界くらい」
「……止めておけ」

 ようやく喋れる程まで回復した先生が生徒を止めた。リースに肩を支えられつつ椅子に座り、全員の視線が注目したのを確認して語りだす。

「あれは学校長が作った結界だ。まだ試作段階だが私達でも壊すのに苦労する上、壊れてもすぐに再生すると聞いている。お前達には無理かもしれん」
「そんな頑丈なのに試作なんですか?」
「防御に関しては完成しているんだ。問題は次回までの使用期間で、半年近く大気中の魔力を溜めないと使えない欠陥がある」

 先ほど感じた妙な魔力は結界が発動する予兆だったのだろう。結界の外まで届く『サーチ』を使ってみたが、予想通り結界が弾いていた。物理だけでなく魔力的なものまで防ぐ仕様だな。

「それで、一度発動するとどれくらい持つんですか?」
「……一日だ。おまけに一度発動すると、学校長でも止める事が出来ない」

 先生の言葉に全員が俯いていた。
 いくら広い学校とはいえ、ゴーレムを使った人海戦術を使われては隠れ続けるのも難しいだろう。クラス全員諦め顔で押し黙る中、貴族と傭兵達は声を揃えて笑い続けていた。

「状況がわかったか。わかったならさっさと私達を解放するがいい! 今なら優しく首輪を付けてやらんでもないぞ?」
「そこの獣人の餓鬼! てめえ絶対許せねえぞ!」
「さっさと解放しやがれ!」

 急に元気になり出す捕縛者達を他所に、俺はこれまで得た情報を整理していた。

 こいつらの目的は獣人を排斥し、人族だけの国を作るつもりだ。
 その為には反対する王を排除し、新たな政策を打ち出さなければならない。なのに城を狙わず学校を占拠した。その理由は生徒を戦力として利用するつもりだと考えていたが、隷属の首輪を填めているのを見て確信した。
 おそらく生徒を肉の壁にするつもりなのだ。首輪を填めると魔力が奪われ、魔法の発動が難しくなるから戦力として考えるには難しい。
 結界が消えるまで出来るだけ生徒に首輪を填め、その後首輪によって逆らえない生徒を前面に押し出しながら城に攻める。貴族の息子も含まれていれば手を出しにくいし、下手に殺してしまえば城の評判は地に落ちるだろう。抵抗が強く攻め入るのが無理なら、生徒に暴れろと命令して逃げればいいし、どちらにしろ城へのダメージは甚大だ。
 常識は逸脱しているが効果的な戦略だろう。前世で勝つ為に何でもした事がある身としては悪くない作戦だと思う。

 が……反吐が出る。

 更に巻き込んでいるのが大人ではなく子供だ。
 革命だとか妙に美化してほざいているが、こんなのはテロやクーデターに過ぎず、俺には獣人が嫌だという我侭にしか見えない。
 やる事は一つ……だな。
 方向性が決まったならまずは情報だ。縛られている貴族に近づき、胸倉を掴んで乱暴に持ち上げた。

「おいお前。この革命だとか言う騒ぎに貴族や傭兵は何人関わっている?」
「な、何だ貴様? 急に偉そうにー……ぶぺっ!」

 反抗する態度を見せたので、ちょっと強めのビンタを一発食らわしてやる。真っ赤な腫れ痕が出来た貴族は、驚いた顔でこちらを見るだけで何も喋ろうとしない。

「もう一度聞く。この騒ぎにどれだけ貴族や傭兵が関わっている?」

 傭兵が持っていたナイフを突きつけ、魔力を含ませた威圧をぶつけられた貴族は、脂汗を大量にかきながら呼吸を荒くしていた。

「ひ、ひぃ……お、お前は一体!?」
「知らなければ知らないって言え。お前はもう用済みだ」
「わ、わかった! 言うから止めてくれ! だから放してくれぇ!」

 怯えきった貴族に情報を吐かせたが、予想通りこいつは大した情報は持っていなかった。この程度の脅しでペラペラ喋ってる時点で期待はしてなかったけどな。
 わかったのはグレゴリが筆頭で、参加している貴族の数が三十くらい。そして傭兵は複数の集団を雇っていて何人いるかわからないそうだ。

「傭兵の中に一人強いリーダーがいる。そいつが傭兵達を纏めているので私はよく知らないんだ!」
「……ご苦労。ゆっくり休んでいてくれ」

 放っておいてもうるさそうなので、頚動脈を絞めて気絶させておいた。
 残った傭兵に話を聞いても、その実力派のリーダーとは違う集団なのでよくわからないそうだ。話してみてわかったが、こいつは実力はあっても頭が悪い脳筋タイプだ。大した情報を得られなかったので、貴族と同じように気絶させておく。
 一連の流れにクラスメイトが若干引いていたが、状況が状況なので放置しておこう。
 手早く尋問を終え、俺の背後に弟子達が並んで言葉を待っていた。

「お前達……わかっているな?」
「当然です。こんなの許せるわけありません」
「あの首輪を持ち出した奴、全員ぶっ飛ばしてやる!」
「私も頑張ります!」

 俺の行動から何をするか理解した弟子達は賛同し、傭兵達から奪った武器を手に取った。手入れの行き届いていない剣とナイフ、そして数本の投げナイフだけだが、装備をダイア荘に置いている俺達には貴重な武器だ。
 その行動にクラスメイト達は不思議そうな顔で眺めているが、マークと数人の男子が代表して聞いてきた。

「シリウス君、君達はもしかして……」
「そうだ。逃げられないなら戦うまでだ。それにやり方次第で何とかなるだろう」
「何とかなるだって!? 頑丈なゴーレムが大量に作られている上に、貴族の魔法士どころか傭兵もいるんだぞ。戦闘経験の少ない俺達が敵うわけないだろう!」
「まともに戦えば負けるだろう。だがあいつらと俺達はそこまで戦力差があるわけじゃない。まずは一番厄介そうなゴーレムだが……」

 あのゴーレムは岩で硬いイメージがあるが、『火槍フレイムランス』でも十分に破壊できるのだ。動きもそれほど速くないし、足を破壊すればほぼ動けなくなる。
 他に気づいた点、弱点を挙げている内に圧倒的な戦力差ではないと気づき始めたのか、クラスメイト達の目に活力が戻ってきた。

「一緒に戦うなら止めはしない。だが戦えない、戦いたくない者は残っていてくれ。下手すれば死ぬか、相手を殺す事だって十分ありえるからな」
「僕は当然戦うよ。ホルティア家の名にかけて臆してる場合じゃないからね。僕の『火槍フレイムランス』をあいつらに見せてやろう」
「私もよ! あんなアホな奴等に好き勝手させてたまるもんですか!」
「首輪を付けられるくらいなら……やってやる!」

 どうしても戦闘に向かない人はいるので、そういう人達は教室で満足に動けない先生と一緒に篭城させる事にした。その後の指示は先生に任せるとしよう。
 さて、できればもっと人数がほしいが……『サーチ』の反応からみるに向こうから来てくれたようだ。
 視線を廊下に向けると無数の足音が聞こえて生徒達が慌てて戦闘態勢をとっていたが、敵じゃないと説明したところで扉が開かれ、入ってきたのはレウスの舎弟である数十人の生徒だった。

「大丈夫ですか兄貴!」
「おお! お前らか。そっちこそ無事で何よりだ」
「何人か怪我したり、まだ合流できてない奴がいますけど無事です」
「よし、今から奴等と戦うんだ。手を貸してくれ」
「「「わかりました!」」」

 教室が手狭になってきたが、戦える人数が増えたので生徒達の士気が上がっていく。
 『サーチ』で他の場所を調べてみると、各教室にはまだ残っている生徒達がいた。占拠されて連行待ちの生徒や、賊を退けたがどう動くべきか迷っている生徒達だろう。中には数十のグループになって闘技場に向かう血気盛んな奴等もいるようだが、攻めるには人数が足りないだろう。首輪を填める為に殺される可能性は低いだろうし、先走った連中は放っておくか。
 残った生徒達の位置を把握したところで、俺は弟子達を集めてこれからの流れを説明しておいた。

「いいか、これから各教室を回って人数を集めるんだ。敵は大人の貴族に傭兵達で、お前達はともかく他の生徒達には厳しい相手だ。質で負けているなら数で勝らないと勝負にならないのはわかるな」
「はい。後は正面からではなく策を弄するですね」
「その通りだ。幾つか注意点があるから生徒全員に伝えておくんだぞ」
「伝えておくって、兄貴がしないのか?」
「実績のあるお前達の方が信用されやすいだろう?」

 ここに居る連中は俺の話は聞いてくれると思うが、これから集める他の生徒にとって俺は最強だとか妙な噂が流れている曖昧な存在だ。それに比べ姉弟なら人気もあり、強さも実績があるから話を聞いてくれるだろう。

「シリウス様を差し置いて私達がよろしいのでしょうか?」
「これもまた訓練だ。それに俺は今から別行動するつもりだからな」
「「「えっ!?」」」

 突然の告白に弟子達が驚いたまま固まる。三人には悪いが、実は学校の結界が作動していた時点で決めていたのだ。

「俺はこれから結界を調べてこようと思う。もしかしたら抜け道があるかもしれないしな」
「シリウスさん一人より、皆で調べた方がよくありませんか?」
「人を集めるならなるべく急いだ方がいい。連れて行かれた人達を整理したら、またこっちにゴーレムや傭兵を送ってくるかもしれない。それに……俺がいないとお前達は駄目なのか?」

 俺が居ないと駄目なのか? その言葉に弟子達は目を見開いた。
 そうだ、いつまでも俺に負んぶに抱っこじゃ困る。それに今回は殺しが大好きな殺人鬼と違い、捕らえて利用しようとしている連中だ。迷宮の時に比べたら安全な方だろう。

「お前達はもう大人に負けないくらいに強くなっている。これはお前達の試練でもあるし、俺に頼ってばかりじゃ駄目だとわかる筈だろう?」
「……はい! 私はシリウス様に頼るんじゃなくて、シリウス様に頼ってもらいたいんです」
「俺は兄貴の隣に並びたいんだ! やるよ俺!」

 考えてみれば、俺の役に立ちたいと常日頃言っている姉弟だ。俺が煽るまでもなくわかっていたかもしれない。

「エミリア、レウス……出来るな?」
「「はい!」」
「リースも二人のフォローを頼む」
「任せてください!」

 隣に居るリースも覚悟を決めた顔で拳を握っていた。以前ならオロオロと慌てていただろうが、父親と仲直りしてからリースの心は本当に強くなったものだな。

 その後、『サーチ』で判明した闘技場の情報を伝え、ゴーレムや傭兵の対処方を考え付く限りアドバイスしておいた。今回は個人じゃなくて生徒達を引き連れた集団戦だ。集団でぶつかるさいの守るべき鉄則や、有利に戦う方法を叩き込んでおく。

「あの結界は俺にとって未知だ。どれだけ時間がかかるかわからないが、ある程度で見切りをつけてお前達と合流する予定だ」
「シリウス様はやりたい事をなさってください。私達だけでも大丈夫だと見せてあげます」
「その調子だ。だけど無理はするなよ? 危ないと思ったら撤退するのも勇気だからな」
「任せとけ兄貴!」

 最後に弟子達の頭を撫で、教室から出ようとするとマークが俺を呼び止めてきた。
 彼は近くに居たので俺達の会話を聞いていた筈だが、見ようによっては俺は逃げているように見えるだろう。だがマークは爽やかな笑みを浮かべて俺に握手を求めてきた。

「二人は僕もフォローするから安心したまえ。君は遠慮なく行動するといい」
「いいのか? 貴族として他人の従者のフォローするなんて、プライドとかあるだろう?」
「彼等が普通の従者なら……ね。残念ながら二人は僕より強いし、戦闘経験だって上だろう。それに従者じゃなくて同じクラスメイトだ。同じならプライドなんか関係ない」
「そうか、悪いけど頼むよマーク。無茶はするなよ」
「それはこちらの台詞さ。僕はあの二人の強さを知っているけど、君の強さも知っているつもりだよ。心配はしていないが、気をつけて行って来るといい」
「ああ、ありがとうな」

 握手に応え、男前なマークに背中を押されて俺は教室を飛び出した。
 少しだけ罪悪感に囚われながら。

 まず向かう先はダイア荘だ。エミリアはともかく、レウスはあんな傭兵の剣じゃ本気で戦えないからな。校舎から飛び出してすぐ敵と遭遇したが、ゴーレムは『マグナム』で触媒である魔法陣を撃ち抜き、傭兵や魔法士は体術で気絶させてから走った。
 そして学生寮へと続く道へ出るが、学生寮とダイア荘は学校から少し離れているので結界の外側にある。その為、学生寮は目の前に見えるのに結界によって進む事が出来なかった。
 だが……。

「上はどう見ても空いているよな」

 そこから『エアステップ』を発動させ、光の壁が途切れている上空まで一気に飛び上がった。予想通り上空では結界は切れていて、大した苦労も無く乗り越える事に成功した。
 結界だとか言いながら、飛んでくる魔物相手には全く意味がない。まあこれは試作だと言っていたし、今度学校長に会ったら欠陥を紙に纏めて報告くらいしてやろうと思う。

 報告で思ったが、この状況を学校長はどうするつもりだろうか?
 偽の情報に釣られて学校を離れ、更に自分で作った結界を利用される始末。この不祥事、間違いなく校長職を辞さなければなるまい。
 だが……四百年も生きるエルフで学校長をやっている人物がこうも簡単にやられるだろうか?
 最近はケーキを食べている姿しか見ないが、ああ見えて自己研磨を忘れない努力の塊の様なエルフだ。様々な経験を重ねているし、この状況を予想してなかったとは思えないのである。
 結界を利用されたのではなく、利用させて敵を閉じ込めたのではないかと思うのだ。二日前に物騒な事を呟いていたし、この騒ぎは彼の思惑通りで、全員ロードヴェルの掌に踊らされているのかもしれない。

 とまあ、色々考えたがあくまで俺の予想に過ぎない。もしかして普通に騙されているかもしれないし、もしそうだったら帰って来た時に殴ってやろうと思う。

 ダイア荘に着いた俺は急いで戦闘服をローブの下に着込み、レウスの剣とエミリアのナイフを持って再び空を飛んで結界内部に戻った。
 外に出たのなら城や街に救援を要請するべきだろうが、俺は一切しなかった。
 そして、弟子達とすぐに合流するつもりもない。

 何故なら……俺はこの状況を弟子達の経験の為に利用すると決めたのだ。

 少し前にあった迷宮の件がわかりやすい例だ。
 あの時はギリギリ間に合ったが、毎回同じ様に助けられるとは限らない。俺の体は一つしかないし、どうしても目が届かず守りきれない場合もあるだろう。
 だからこそ自分達だけで何とかする経験を積ませたいのだ。
 あいつらも厳しいだろうが俺も他の仕事があるし、弟子達を信じてやらないとな。
 他の生徒達には悪いが、弟子達と一緒に苦労をしてもらおう。可愛い子には旅をさせろと言うし、この経験が様々な糧になるさ。本当なら俺も隣に立って戦いたいのだが、俺がいると手助けしちゃいそうだし、あいつらにも甘えが生じる。今は心を鬼にして見守るつもりだ。
 ……もちろん、危険だったらすぐ飛び込むつもりだけど。


 学校に戻った俺はすぐに弟子達を見つけた。
 今は校舎から出て生徒達が囚われている闘技場へ向かっているようだ。周囲には百を超える生徒達がいて、どうやら各教室に散らばっていた生徒達を纏め上げるのに成功したようだな。
 レウスを筆頭に立ち塞がるゴーレムや傭兵を次々と薙ぎ払っていく。特に姉弟が魔法で派手にゴーレムを倒す度に歓声が上がり、下級生は当然として上級生からも信頼が集っているようだ。中々のリーダーシップ振りに嬉しく思う。

 この状況ならしばらく大丈夫そうだし、俺は俺の仕事をするとしよう。
 ローブを脱ぎ戦闘服になり、新しい変装用の仮面を取り出す。婚前儀式で使った仮面はリースが返してくれずそのままだ。その仮面は今もリースの机に大切に仕舞われているそうだ。
 変装が完了した俺は『サーチ』を発動させ、闘技場以外に潜んでいる傭兵やゴーレムの反応を探した。奴等は固まっているわけじゃなく、敷地内を分散して逃げた生徒を確保しているようだな。
 闘技場で戦う弟子達の背後を取られない為に、そいつらを全て始末するのが俺の仕事だ。目の前で手助けはしないが、影ながら手助けするくらいはいいだろう。強さのバランスを整えてやるのも俺流の教育方針だ。
 反応の結果、闘技場には人の反応が三十。そして外には……四十くらいか。
 俺は近くの反応目掛け走った。


 最初に遭遇した傭兵共は屑だった。
 卒業を間近に迎えた女子生徒を組み伏せ、彼女のローブを引き裂いていたのである。
 こんな悪事に手を貸しているのだから、奴等に手心は不要だろう。周囲を見張っている仲間の両手を『マグナム』で撃ち抜き、組み伏せていた男は『ストリング』で無理矢理引き寄せてから殴り飛ばした。犯されそうだった女子生徒は混乱していたので、当身を食らわせて気絶させた。
 その後、残った傭兵達の頭部を撃ち抜いてから魔法陣で掘った穴に埋め、女子生徒は篭城しているクラスの前に放置しておいた。さっきのは悪い夢だと思って忘れなさい。

 次の標的は魔法士とゴーレムだが、奴等は学校の生徒達と戦闘中だった。
 勝負は拮抗しているように見えるが、生徒達の魔力が尽きかけているので戦局が傾くのも近い。とりあえず遠距離からゴーレムを『インパクト』で粉砕し、魔法士の腕と足も片方ずつ砕いておいた。
 後の処置は生徒に任せ、次なる目標を探して移動する。

 それから生徒に現場を見られないよう考慮しつつ、俺の作業は続いた。
 時にレウスの剣を使って斬り殺し、時にナイフで首を掻っ切って隠密に始末する。弟子達に気づかれそうな位置に居る敵は、建物の屋上を陣取って『マグナム』で狙撃した。
 頭を撃ち抜き一人、また一人と確実に始末していく。

 何だか今の俺、前世と同じ仕事をしているよな。
 こうやって隠密に人を始末していくのがメインだったし、生まれ変わっても同じ事をやってるてのも不思議なもんだ。
 人を殺すのが好きなわけじゃないが、前世は仕事だと割り切りながらやっていた。
 だけど今は弟子達の為、そして俺自身の為に手を汚す。
 あいつらが大きく育つその時まで、俺は幾らでも手を汚そう。

「俺も頑張るから、お前達も頑張れよ」

 生徒を引き連れ、先頭を進む弟子達の背中を遠くから見送った。

 そして次なる標的目掛け、必殺となる指を向けた。

「残り……十二」


色々考えましたが上手く纏まらず、少し強引に戦闘へ突入します。

ちなみにですが、弟子達は主人公がいなくてもやってみせると無駄に張り切っているので、結界は空を飛べば越えられると気づいていません。
リース辺りは気づきそうですが、主人公の事だから理由があると思い口にしないでしょう。
+注意+
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