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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

七章 学校 王家編

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母様の遺言

※ 前話は初投稿時、リーフェル姫には兄が三人の設定でしたが、兄二人、弟一人の設定に変更しました。
 カーディアス・バルドフェルド。

 前王の長男として生まれ、様々な分野において豊かな才能を持つ次期王に相応しい男だった。
 だが彼は王より冒険者に憧れていた。
 強気で勘が鋭く、体を動かすのが好きなのでいつか絶対に冒険へ出ると息巻いていた。当然王族の長男として許される筈がないだろうが、彼の憧れを応援してくれる者もいた。
 それがカーディアスの弟であるアリオスだった。
 アリオスは穏やかで優しい性格で、本を読んでいるのが好きな男であり、まるで正反対な兄弟だが二人の仲は大変良好だったそうだ。
 そして王の継承者として選ばれたのは……次男のアリオスだった。
 器があってもやる気がない長男は王に向かないと前王は判断したのだ。幸いアリオスにも王の器は十分にあり、周囲の者達も認めてくれた。カーディアスは元から興味が無かったので、体を鍛えながら弟を影で支えていた。
 アリオスの人柄の良さも相俟って、エリュシオンは安定した政策が続いた。そしてとある貴族と結婚し、ついに第一子が誕生したのである。数年後に二人目が誕生したところで、跡継ぎの心配が無いと判断したカーディアスは憧れだった冒険へと出る事に決めた。
 周囲に反対されたが、アリオスがそれを許可し背中を押してくれたのだ。

『私の代わりに世界を見てきてほしい』

 背中を押してくれた弟の為、カーディアスは決意した。

『十年だ。十年後俺は帰ってきて、生涯お前を支えよう』

 そう約束し、カーディアスは遂に冒険の旅に出た。
 楽しい事ばかりではなく苦難の連続であったが、彼は憧れだった冒険者を楽しんでいた。世界中を巡り、様々な経験を重ね彼は強く逞しく成長していく。

 あっという間に数年が経ち、金を稼ぐ為にギルドの依頼を受けたとある日、カーディアスはリースの母であるローラと出会った。
 同じ冒険者で、不思議と馬が合った二人はコンビを組む事にした。互いの背中を守り、一緒に旅する事で惹かれ合う二人が恋人になるのは必然だったかもしれない。
 何度も体を重ね、結婚すら考えようと思った頃……十年という時間は目前に迫っていた。
 カーディアスは悩んだ。ローラを連れて帰るのは良いが、平民で冒険者たる彼女を良く思わない者が確実に出てくる。何よりローラがそれを嫌がると知っている。

 選択肢は二つ。
 ローラと別れ、城に帰って弟を支えるか。それとも忘れたふりをしてローラと旅を続けるか。
 悩む彼を決断させたのは他ならぬローラであった。彼女は全て教えてもらってもなお、カーディアスの背中を押したのである。

『約束なんでしょ? それを守れないカーディなんか、あたしの好きなカーディじゃないよ』

 彼女の言葉により城に戻ると決めたカーディアスは、ローラと別れエリュシオンへ帰った。
 そして城に帰った彼を待っていたのは……衰弱しベッドに臥せった弟の姿であった。
 アリオスは一年前に病気となり、カーディアスが帰った頃には余命いくばくも無かったのである。治療もすでに手遅れで、衰弱した弟は必死に笑いながらおかえりと言ってくれた。
 その数日後……アリオスは崩御した。
 アリオスの子供もまだ若く、跡を継ぐには早すぎる。国全体が悲しみに包まれる中、カーディアスは弟が守っていたエリュシオンという国を見て再び決意する。

『俺が……いや、私が王となり国を守る!』

 三人いたアリオスの子供を自分の養子にし、カーディアスはエリュシオンの王様となった。ちなみにその子供の一人がリーフェル姫である。
 当然反対意見もあったが、元から王の器があった彼がやる気を出せばめきめきと頭角を現した。冒険によって培われた経験と勘によって政策は順調に進み、次第に反対派は沈黙した。とある高名な貴族とも結婚して長男も産まれ、公務に忙殺される毎日を過ごし……気づけば十年近く時が過ぎていた。

 そんなある日、一通の手紙が彼の元に届いた。汚れてる上によれよれの紙だが、閉じる為の封印に自らの印が押されているので手元まで来たようである。そして自分以外にこの印を持っているのは一人しか知らない。ローラとの別れ時に未練がましく渡した指輪に違いないと。
 届いた手紙には一枚の便箋が入っていた。その便箋には震えた字でただ一言だけ書かれていた。

『私の娘をお願い』

 カーディアスは手紙の差出し場所を突き止め、部下を送って調査させた。
 報告によるとローラは病気によってすでに他界しており、そして子供であるフェアリースの存在を知った。
 十年前に別れた時点で、彼女はすでにカーディアスの子を身篭っていたのだ。調べたところ他の男の影も無く、生まれた時期的に見て自分の子供なのは間違いないと思う。
 ローラはカーディアスに平民の子供が居れば邪魔になると思い、カーディアスに知らせず一人で育てていたのだ。
 それを知らずのうのうとエリュシオンへ帰り、十年近く放置していた自分が許せなかった。カーディアスはすぐに手紙を送りつけてリースを引き取る事にした。
 そして実際に対面し、リースにローラの面影を見た瞬間気づいてしまったのである。
 今まで放置していた娘に一体どんな顔をすればいいのか……と。


 独白を終え、カーディアスは立ち上がり窓の傍まで歩いて溜息を吐いた。

「今更父親面などするつもりはないが、お前を放っておくなど出来る筈が無かった」
「父様……」
「だが私は今回の件でお前を巻き込んでしまった。お前をくだらぬ王族の宿命に巻き込まないようにする為に、興味が無いと冷静に冷たく対応していたのだが……このざまだ。私はな、親より王として生きるのを選択した最低な父親なのだ」

 我が子であるリースを守りたいのだが、王として国を守らなければならない。そして彼は国を選んだ。王として間違っていないのだが、責任感の強い彼は自分が許せないのだ。更にローラへの罪悪感がリースを避ける原因なのだろう。

「ローラも私と同じように冒険者を心の底から楽しんでいた。だが、私のせいで奪ってしまったあげく、その後の責任すら取れぬままローラは逝ってしまった。だから……私はお前に合わせる顔がないのだ」

 子供を身篭れば冒険者を続けられる筈も無い。収入も碌に無いまま町に住んで、赤ん坊を一人で育て上げるのがどれほど大変なのか。身も心も強い女性だったんだな。

「さあフェアリースよ。母親とお前を放置し、くだらない事に巻き込んだこの愚父に何か言う事は無いか? 何なら殴ってもかまわんぞ。全て受け止めよう」

 自虐的に笑いながら、カーディアスはリースを手招いた。それに呼応し立ち上がったリースはゆっくりとカーディアスの前に立ち大きく息を吸った。

「勝手に決め付けないでください!」

 彼女の叫びと共に放たれたビンタだが、力が込められていないそれはペチと情けない音を立てるだけだった。

「何でそんな自分だけで決め付けるんですか! 私と母様の気持ちを知らないで言わないでください!」
「わかっておる。恨むなら幾らでも恨むがいい」
「違います! そもそも父様は間違っています! 母様は父様を……恨んでいませんよ」
「だが私はお前達を……」
「母様が亡くなる間際に言ったんです。父様を恨むな……って」
「なっ!?」

 恨んでいないとリースが口にした途端、カーディアスの目が開かれ呆然としていた。王という立場に立つ者がここまで動揺するなんて、余程ローラとリースの件が心に突き刺さっていたのだろう。

「母様は私に父様の素晴らしさを何度も語り、自分の事のように自慢気に話してくれたのです。当時はすでに父様は亡くなったと思いこんでいてよくわかりませんでしたが、今ならはっきりとわかります。母様は父様を誇りに思っていたのですね。王として生きる父様を……」
「ローラ……お前は……」
「だから私も王として生きる父様を恨んでませんし、恨む事が出来ません。ですが一つ聞きたいのです。私は……父様の娘として産まれてきて良かったのですか?」
「当たり前だ! ローラの死を知った瞬間、忘れ形見であるお前が居なければ私は絶望していたぞ!」
「良かった。私は父様の娘で良かったってわかれば十分です」
「フェアリース……私を許してくれるのか?」
「許すもなにも怒っていません。それに父様、私の事はリースと呼んでください」

 リースが笑いかけると、固くなっていたカーディアスの表情が崩れ笑みが零れた。重くのしかかっていたローラへの呪縛が解け、彼の表情は晴れ渡っていた。

「ふふ……そうだな。リースよ、ローラの言葉を聞かせてくれてありがとう」
「はい!」

 互いの誤解も解け、とても良い雰囲気なのだが一つ物足りない。一時期父親として見られていたので、今のリースならあれを求めている筈だとわかったのだ。

「失礼ですが陛下、一言よろしいでしょうか? 親ならば、子を褒めるなら頭を撫でてやるのがよろしいかと」
「む、確かにそうだな。ありがとう、リース」
「あ……」

 少し乱暴で髪が乱れているが、本当の父親に頭を撫でられてリースは心の底から喜んでいた。
 ようやくリースと父親の溝は埋まった。まだギクシャクするだろうが、少なくともこれ以上悪くなる事はあるまい。
 緊張した空気が完全に消えてセニアが新たにお茶を用意していると、カーディアスの従者が主へと話しかけていた。

「陛下。そろそろ城に戻らないと政務に支障を来たすかと」
「そうか……戻らねばならんか」

 カーディアスはちらとリースに視線を向ければ、残念そうな顔をしている娘と目が合った。その捨てられた子犬の様な視線に、目を閉じて考える素振りをしてから従者に問いかけていた。

「なあジンよ、私の頬は今どうなっている?」
「リーフェル様に叩かれた痕がはっきりと残っております」
「このような顔では、王として家臣の前へ出れぬであろうな」
「左様でございます。ですが幸いここは療養所。温泉にでも浸かり、一日経てば腫れも多少は引くでしょう」
「うむ、そうしようか。苦労をかけるな」
「問題ありません。では城に戻ります」
「頼んだ」

 ジンと呼ばれた従者は音も無く退室し、残されたカーディアスはソファーに座ってリースを隣に招いた。

「リース、良ければもっとローラの話を聞かせてくれないか? 他にも学校で何をしているのか聞かせておくれ」
「は、はい!」

 親子が仲良くソファーに座る光景にリーフェル姫達も安堵の表情を浮かべ、エミリアとレウスも満足気に頷いていていた。何とか丸く収まったし、今後リースが俺を父親代わりに見る事はないだろう。

「そうそう、父さん知ってた? リースに好きな相手が出来たのよ」
「姉様!? それは今言うべき事ですか!?」
「ほう? それはそこの二人のどちらー……」

 すでに俺達は部屋から逃げー……もとい、退室していた。ここからは家族だけで話すべきだと思うし、厨房を借りて何かお菓子でも作ろうかと思ったのだ。
 決して、面倒になりそうだから逃げたわけじゃない。

「兄貴、部屋を出る間際に、リース姉の父ちゃんが凄く睨んできたけど?」
「気のせいだ。さて、厨房へ行って何か作ろうか。美味しい物を食べれば話も弾むだろう」
「その通りですね」

 俺達は厨房へ向かい、調理場の一部を借りてお菓子を作る許可をもらった。料理人からここにある材料を見せてもらったが、種類が豊富なのでリースの好物であるチーズケーキが作れそうだ。
 とはいえオーブンモドキが無いので、エミリアに材料をそろえて貰う間にオーブンモドキを作る事にした。動力は魔法陣だから、熱の魔法陣を描ける俺がいれば作れるわけだ。熱に強い材質で、密閉する容器を作って魔法陣を描けばオーブンモドキの完成である。簡単に作った物なので、一回の使い捨てだな。
 エミリアに用意してもらった材料を調理し、オーブンモドキに入れて数十分……チーズケーキは完成した。簡易的なオーブンのせいで苦労したが、味は問題なかった。
 そんな一連の流れを、ここの料理人は熱心に見つめながらメモを取っていた。オーブンモドキが無いと意味が無いと思うが、いずれガルガン商会で量産されますよと宣伝しておいた。

 およそ二時間くらい席を外していたが、応接室でリース達は楽しげに談笑していた。
 二人のわだかまりもほぼ消えており、リースの言葉に喜び、声を出して笑うカーディアスは完全に父親の顔であった。

「強くなったなリース。私と初めて会った時は何も言えない子だったのに」
「姉様を始め、皆さんの御蔭です。特にシリウスさんにはー……あ、シリウスさん、どちらに行かれていたのですか?」
「こいつをちょっとな」

 俺達が帰ってきたのに気づいたリースだが、持っているケーキを見て目を輝かせていた。リーフェル姫達も嬉しそうに口元が緩んでいて、一人何も知らないカーディアスはチーズケーキを見て疑問符を浮かべていた。

「ふむ、君はシリウスと言ったな。それは一体何だ?」
「私が作ったお菓子ですよ。もう少しで昼御飯の時間ですが、作りたてを皆さんでいただきませんか?」
「もちろんよ。お父さんも食べてみなさい、絶対美味しいから。セニア」
「はい。私が切り分けますので、シリウス様もソファーにどうぞ」
「お願いします」

 セニアが買って出てくれたので、彼女に分配を任せる事にした。ワンホールのケーキをセニアに渡して俺は先ほどと同じ位置に座ったが、カーディアスの視線が凄まじかった。おそらくリースの師匠をしている俺を観察しているのだろうが、現王様だけあって迫力が凄く、こちらからすれば睨んでいるとしか思えない。
 てめえ、俺の娘に何手を出しているんだ? ……と、ヤクザみたいな声が聞こえてもなんら不思議じゃない気がする。
 その視線を受け流しつつセニアを見れば、さすが姫の専用従者だけあって目視だけで人数分を平等に切り分けていた。軽く毒見も済ませ、切ったケーキを各人の前へ次々と並べていく中……。

「……おい。私のだけ小さくないか?」

 カーディアスのだけ明らかに大きさが違っていた。
 俺のが通常サイズで十の大きさとしたら、カーディアスのは六の大きさである。変わりにリースとリーフェル姫の大きさがそれぞれ十二の大きさであった。
 彼が訴えるのも当然の話であるが、問われたセニアは淡々としていた。

「いいえ、平等ですよ?」
「どこが平等なのだ? どう見ても私の分が小さいだろう」
「平等ですよ」
「だがこれは……」
「平等です」
「いや、だから……」
「平等です」
「……うむ」

 負けちゃったよ、おい。
 考えてみれば、セニアもまたリースを妹のように可愛がっていて、そのリースを囮に使われて彼女が怒らない筈がないのだ。従者としてリーフェル姫の様にビンタを食らわせるわけにもいかないので、何でもいいから仕返ししたかったのだろう。ビンタに比べれば可愛いものだが……。

「むっ!? これはまた濃厚で素晴らしい味だ! もっと無いのか?」
「あるわけないじゃない。チーズケーキって美味しいわね、リース」
「はい! 皆と一緒に食べると更に美味しいです!」
「なあ娘達よ、私にちょっとだけ分けてくれないか?」
「「嫌っ!」」
「ぬおお―――っ!」

 効果は抜群だった。
 悶えながら悔しがる父親に楽しそうに笑う娘達。リースはこういう日常にずっと憧れていたのかもしれないな。

「そうだリース。ちょっと聞きたい事があるのだけど」
「何ですか姉様?」
「シリウス君がね、リースが私の所へ来る時に何回かチーズケーキを持たせたと聞いたんだけど……お姉ちゃん、初めて食べるのはどうしてかなぁ?」
「…………えへ」
「その誤魔化し笑いがとても可愛いわ。だけどね、お姉ちゃんは心を鬼にしなければいけないの」
「姉様……許して」
「……だーめ」

 ……うん、姉妹のスキンシップもまた日常だな。
 その後リースがどうなったかはあえて語るまい。一つ言えるとしたら、俺達男性陣はそっと退室したとだけ言っておこう。


 それから昼食を食べてもう一度温泉に入っていると、カーディアスが風呂に乱入してくるという事件が発生した。
 彼は王様であるが、元冒険者なだけあって引き締まった良い筋肉をしていた。その筋肉を褒めていたら、何故かレウスが対抗して筋肉を見せびらかし始めたのである。

「俺も負けてないぞ! どうだ兄貴!」
「ほほう、この若さでこれ程とは。中々素晴らしい筋肉だな!」

 カーディアスはレウスの言葉遣いを全く気にしていないようだ。お互いに筋肉を見せ合い、褒め合いながら大声で笑う二人はリースより親子っぽく見えた。似た者同士ってやつかね。
 一頻り騒ぎ落ち着いたところで、カーディアスは俺の隣に座るなり徐に話しかけてきたのである。

「君の事は娘達から聞いた。どうやら娘が色々と世話になったようだな」
「私は自分がやりたい事をやっただけですよ」
「うむ、己の欲望に忠実だったというわけか。それにしてもこの極限まで絞られた筋肉に、城からリースを攫える程の実力。リーフェが君をスカウトするのも頷ける。どうだ、リーフェではなく私の元で働いてみないか?」
「お言葉は嬉しいのですが、お断りします」
「そう言うと思ったよ」

 駄目で元々だったのか、断っても悲観した様子は見られなかった。カーディアスは息を吐きつつ背中を壁に預け、天上を眺めながら呟き始めた。

「……ところで君はリースをどう思っているのだ?」
「とても可愛らしく、何事にも一生懸命で優しい子ですね。ただ……王族としては致命的に向いてませんね」

 俺はにっこりと笑いカーディアスを見た。そのストレートな言葉に一瞬呆気にとられていたが、彼は大声で笑いながら俺の背中を叩いてきた。

「はっはっは! 確かにお前の言う通りだ。確かにあの子は王族どころか貴族すら似合わん。あの魔窟に入ってしまったら、あっという間に食われてしまうだろうな」
「リース姉は美味そうに御飯食べてる姿が一番だぜ」
「そうだな。あいつはローラと一緒で平民として生きるのが一番だ。一度城へ戻し王族教育を施そうとも考えたが、やはり今の学校に通わせるのが一番かもしれんな」
「それがよろしいかと。リースは友達も多いですし、毎日楽しそうに学校へ通ってますので」
「うむ、これからもリースの事をよろしく頼む。ただ……」

 そして俺の肩に手を置くなり力を込めてきたのである。あの……肩からミシミシと音が聞こえて凄く痛いのですが

「私はリースと付き合うのを許したわけじゃないからな」

 付き合ってません……とは言えない程、有無を言わさない迫力があった。娘を思う父親の力には勝てそうにない。


 俺達は夕方まで療養所にいたが、流石に二日も学校寮を空けるとまずいので一旦帰ることにした。
 次の日リースを除いた俺達は学校へ登校したが、マグナ先生にアリバイ工作を頼んでおいたので、二日におけるサボりは軽く叱られる程度で済んだ。


 その後の顛末を、自分なりにまとめつつ話しておこうと思う。

 まずリースだが、彼女は結局今まで通り秘匿される事になった。婚前儀式で表に出てしまったが、確認した貴族は全員捕まってしまった上に、彼女は囮用で雇った偽者だったと公表した。他にも城側で色々と手を回しているので、ほとぼりが冷めれば学校にまた登校出来るだろう。
 それまでリースは療養所で姉と共に暮らし、俺達もたまに訪れているので楽しそうに過ごしている。

 続いて儀式に参加した五十余りの貴族達だ。
 八割、九割は貴族の称号を失ったり、酷い者はエリュシオンから追い出されたり、人知れず存在が消されている者もいたそうだ。最初は少しの悪でも徐々に感覚が麻痺し、更に集団となれば歯止めが利かなくなるものだ。そう言った人物が大量に粛清されて反発もあったが、王の手腕によって集められた不正の証拠を提示すれば黙るしかなかった。
 そしてリースの結婚相手であったクーラだが、不正の塊だった父親は処刑されて悲しげな表情をしていたが、しばらくして何かから開放されたように晴れ晴れとした表情をしていたそうだ。
 そして罪の軽かった彼自身はエリュシオンから離れた領地に飛ばされる事になり、数人の従者と……病弱な娘を一人連れてエリュシオンを去った。これから先は大変だろうが、幸せそうに病弱な娘と寄り添っていたと報告があったので大丈夫だろう。

 そして最後に俺達の事。
 儀式の騒ぎは全て王の指示だと言われ、リースを攫ったのも王の私兵という事になっていた。変装していたので俺達だという証拠は影も形も無いので、これからも問題なく町を歩けるわけだ。
 王と知り合いになったが、あの風呂を最後に俺達は会っていない。王は政治に巻き込みたく無く、俺達も巻き込まれたくないので当然であろう。せいぜいリースを通してリーフェル姫と会ってケーキを差し入れするくらいだ。
 リースが学校に登校出来るようになれば、以前と同様になるだろう。

 変わった点と言えば、遂にエミリアとレウスがダイア荘に住むようになった点だな。
 俺がダイア荘に住むのを許可すると、エミリアはすぐさま部屋に荷物を運び込み、僅か一時間足らずで引越しを終えていた。前もって準備をしていたのは知っていたが、ここまで張り切るとは思わなかった。
 前より部屋が狭いのに、エミリアの部屋には二つベッドが並べられた。そこはリースの場所らしく、彼女もまた学校に戻ってくればここに住むと決めたそうだ。
 レウスもルームメイトに必死に止められつつも引越しを終え、俺一人だけだったダイア荘は急に賑やかになったのである。



 それから数日後……エリュシオンにて豊穣祭が始まった。

 町全体が活気に溢れ、いたる所に並ぶ屋台に祭りを楽しむ人々。これから数日に渡り、エリュシオン全体が祭りで盛り上がり続けるのだ。

「普段から人が多いけど、今日はとんでもない数だな兄貴」
「迷子になるなよ」
「大丈夫です。私達がシリウス様を見失う筈がありません」

 俺達は人の波を掻き分けながら祭ムード一色の街中を歩いていく。途中様々な露天を覗いて冷やかしたり、串肉を買ったりしては祭を楽しんでいた。

「串肉もいいが、祭ならたこ焼きとか欲しいものだ」
「たこやきって何だ兄貴! 美味いのか!?」
「ああ、美味いぞ。今度作ってやるから、まずその両手の串肉を振り回すのを止めなさい」
「わかった!」

 ボリューム満点の串肉を食べる事に専念するレウスを横に、俺達は待ち合わせ場所に着いた。ここでリースと合流する予定なのだが、まだ彼女は到着していないようだ。

「シリウス様、どうぞ口を開けてください」
「あむ……ふむ、ちょっと薄味だが悪くないな。どこで買ってきたんだ?」
「はい、あそこでクラスメイト達が出店を開いていたのです。私が教えた味付けをしっかり活かしているようでなによりですね」

 エミリアから食べ物を食べさせてもらったりして待つこと数分、串肉を食べ終わったレウスが人混みの中で見知った人物を見つけたようだ。

「兄貴、あそこにいるのリーフェ姉じゃないか?」

 レウスが指した方を見ると、赤髪から青く染めた髪をポニーテールにし、華やかなワンピースタイプの服を着たリーフェル姫がメルトと腕を組んでいた。ちなみに髪を染める道具は俺が作ったのをプレゼントした。
 セニアとメルトもいつもよりワンランク落とした服を着て髪を染めており、少々目立っているが上手く街中に溶け込んでいた。

「どうして離れるの? もっとくっつかないと迷子になるわよ」
「で、ですが、私は……」
「腕を組まれた程度で動揺しすぎです」
「そうよ。私達は許婚なんだから、どーんと構えてなさい」

 聞いた話だと、彼等は貴族で許婚同士のカップルと従者という設定で祭に参加すると言っていた。その設定を忠実に再現する為、メルトを困らせながらも仲良く俺達の前を通り過ぎた。

「話しかけないのか兄貴?」
「今はそっとしておこう。あの三人は放っておくのが一番だよ」

 変装した幸せカップルを見送り、奥に見えた店先にふと視線を向けるとリースの姿があった。だが彼女は一人ではなく、その隣には大柄な男が並んでいたのだ。

「父様、今度はあれを食べませんか?」
「串肉か。店主よ、焼けている物を全部頼む」

 隣に居たのは髪を黒く染め、平民が着そうな服で変装したカーディアスだ。
 おそらく娘と祭りを楽しみたくて、城から抜け出して来たのではないかと思われる。今頃大臣や部下が涙目で頑張っているだろう。
 二人は注文した串肉をあっという間に平らげ、次に焼きあがった分を両手に持って再び食べ始める。仲良く食べる姿が実に微笑ましいのだが……二人は十本目に突入しても勢いが全く衰える事無く食べ続けている。
 この健啖家ぶり、二人は間違いなく親子だと確信出来る光景だ。

「あ、シリウスさーん!」

 ぼんやりと眺めていると、リースは俺達の存在に気づき手を振ってこちらに走ってきた。
 その背後から串肉に噛り付きながら歩いてくるカーディアスの目が鋭いが、娘のはしゃぎ振りに何も言えない様である。

「父様に色んな物を買ってもらいました!」

 父親との溝も埋まり、何も憂いが無くなった彼女の笑顔は一段と輝いて見えた。

以上で七章の終わりになります。

カーディアスの息子や娘の年齢が曖昧ですが、この世界では現代社会と違い近くにいないとはっきりした年齢を計るのが難しいので、多少の誤差は生じます。なので、致命的な差がなければスルーしてもらいたいです(苦笑

バトルが無く、リースがメインのほのぼのタッチな章でしたが、色々書きたいことを書いてたらこうなりました。
次は少しバトル展開でいく予定です。

あと申し訳ありませんが、八章から更新頻度が四日になります。ご了承ください。
+注意+
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