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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

七章 学校 王家編

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私の王子様(裏)

これは前話の主人公側の視点です。
「了解っすよ旦那。早速城の人とコンタクトをとってみるっす」
「ああ、頼む。朝一で作りに来るから、材料との準備も並行でな」
「お任せっすよ。それでは明日また来てくださいっす」

 リースの婚前儀式の前日、俺達はガルガン商会で城に侵入する準備をしていた。
 具体的に説明するなら、ガルガン商会から儀式のお祝い品と称してウエディングケーキを送り込み、その中に紛れて城に侵入する方法だ。
 なので明日の早朝に中身が空洞のケーキを作り、夕方になりケーキに潜んで会場に侵入する。そしてリースの本音を聞き、返答次第で彼女を攫う流れだ。
 城側がケーキを受け入れてくれるかどうかだが、そこはガルガン商会という有名な看板が上手く作用してくれるだろう。駄目なら別の手段を考えるまでだ。

「リース……変に悩んでなければいいけど」
「凄く悩んでると思うよ。リース姉って変なところで意固地だから」
「とにかく明日会ってからだな」

 正直に言えばこれは政略結婚であり、このエリュシオン国として大切な事だから邪魔するのはお門違いだ。こんなのはどこだってあるし、俺がやろうとしている事は国一つを敵に回す行為だと理解している。
 だが僅か二年とはいえ俺はリースの性格をよく知っている。内気だが一生懸命で、他人を思いやる優しい子だが、自分の意見が中々言えない上に自己犠牲の精神が強い。今回の件だって、リーフェル姫の身代わりに承諾した可能性が高いのだ。
 だから明日彼女に会って真意を問う。それで王族として本気で生きると決めたならば、俺は何もせず去ろう。寂しいが、弟子の旅立ちを見送るのもまた師匠の役目であろう。

「じゃあ兄貴、俺達は寮に戻るね」
「おやすみなさいませ、シリウス様」

 明日は忙しいので、今日はもう姉弟を休ませることにした。
 学生寮前で別れ、一人ダイア荘に戻った俺は準備をしようと道具を漁っていると、外から人の足音が聞こえてきたのである。すでに子供なら眠っている時間帯だが、その足音は真っ直ぐこちらに向かってきているのだ。
 『サーチ』で調べてみると知っている反応だったので、台所でお湯を沸かしつつ来訪者を待った。ほどなくして玄関のドアがノックされる。

「夜分遅く申し訳ありません。シリウス様はいらっしゃいますか?」

 来訪者はリーフェル姫の従者であるセニアだった。何故ここにとは思ったが、彼女一人で来たという事はリース絡みの話だろう。多少の警戒をしつつ彼女をダイア荘に招き入れ、お茶を出して理由を聞く事にした。

「粗茶ですが」
「これはご丁寧に。まずは突然の来訪に対応していただき、ありがとうございます。本日来訪した理由ですがリース様の事です」
「まあ当然でしょう。わかる範囲で説明お願いできますか?」

 セニアが現状を語る。リースは儀式を承諾しており今は城の一室で閉じこもっている事や、儀式を止めようとしたリーフェル姫は王の命令によって城から少し離れた所にある療養所に送られてしまったらしい。

「元からリーフェル様はこの婚前儀式に反対ですが、今回の件は何か違和感を感じると申しておりました。なのでリーフェル様は大人しく療養所に送られ、一つの処置を取る事に決めたのです」
「その処置とはもしや?」
「はい、賢き貴方様なら理解しているでしょう。これは国の姫としてでなく、リース様の家族として貴方に依頼するそうです」

 セニアはそこで一度言葉を切り、深々と頭を垂れて告げた。

「明日の儀式にて、リース様を攫ってください」

 リーフェル姫も儀式に違和感を感じていたのか。それでも一国の姫として国の方針に堂々と逆らえないので、無力化された振りをして手をうったわけだ。そしてその手が……俺なわけだな。こんな子供にとは思うが、リーフェル姫は俺を子供と見ていなかった。頼るに値すると見なし、加えてこちらの性格を知った上での依頼だろう。

「本来なら此度の件に関係の無いシリウス様に、国へ逆らえと依頼するのは無茶な話であると承知してます。卑怯な考えですが、今回の件で黙っていないであろうシリウス様なら断らないという打算もありました上での依頼です。お受けしていただけますか?」

 卑怯……か、いいだろう。
 リーフェル姫が俺を利用すると言うなら、存分に利用されてやろうじゃないか。どうせ依頼されなくても、彼女へ会いに城へ行く予定だったんだ。何も無い状態より、リーフェル姫という後ろ盾がある方が安心できる。

「その依頼……お受けしましょう」
「ありがとうございます。私も派手に動けないので、貴方がいてくださり本当に感謝しております」

 セニアは申し訳無さそうに深々と頭を下げた。
 とは言うが、リースを攫うのはあくまで最終手段であり、結局は彼女の真意が全てであると思っている。なので現場の判断で臨機応変に動いていいか聞いてみた。

「リース様が救われるのは、リーフェル様も含め私の意志でもあります。あれほどリース様に信頼されるシリウス様なら良き方向へ導いてくれると信じておりますので、判断は貴方にお任せします」
「ではそのように。セニアさんもリースの事が心配なのですね」
「はい。リース様は私にとっても妹のようなものですから。主を差し置いてこんな事を言うのは、従者としては失格でしょうね」

 そう言って彼女が見せた表情は慈愛に満ちていて、本気でリースを心配しているようだった。

「シリウス様ばかりに頼るわけにはいきませんので、私に手伝える事はありませんか? 何でも申し付けてください」
「でしたら城へ潜入できるルートはありませんか?」

 前世の技術を持つ俺だけなら潜入するのは容易い。だが姉弟はそうはいかず、ケーキの内部を空洞にして忍び込むという方法をとろうとしたが、城の関係者ならもっと良い案があるかもしれない。

「私の伝を使い、儀式中の給仕として潜入させるのはどうでしょうか? あの二人は従者として確かな技術を持っているようですし、見た目を誤魔化せば紛れ込む事も可能かと」
「なら明日はエミリアとレウスを変装させますので、その方法で潜入させてもらえますか? 私もガルガン商会の丁稚として城に入りますので」
「畏まりました。それともう一つお願いがあるのですが、リース様を攫う状況になったのならば、リース様をリーフェル様の元へ連れて行ってくださいませんか?」
「リーフェル様は療養所でしたね。場所はどちらになりますか?」
「城から北西にある湖の向こう側になります。目立つ建物がありますので、近づけばすぐにわかるでしょう。城の内部に馬と馬車を用意しますので、それを使ってお逃げください」

 実は深夜に何度かエリュシオン各地を飛び周って周辺の地図を作っていたのである。セニアの言うとおり、湖の傍に中規模の建物があったのを思い出した。
 馬や馬車なんかで逃げればすぐに追っ手が来そうだが、そこは複数の馬車や馬を走らせて囮にするそうだ。当然と言えば当然だろうが、一国の姫を攫うのだから大事になってきたな。

「場所は把握しました。それより俺達には馬や馬車は必要ありません。森の中を突っ切って行く方が追っ手を振り切りやすいので」
「ですが結構な距離がありますよ? リース様の足では厳しいかと」
「彼女も鍛えてますし大丈夫ですよ。それに私達は訓練として森の中を常日頃走り回ってますから、逃げるだけなら簡単ですよ」

 ダイア荘の周りも森に囲まれているからな。悪路を走破する訓練と称して森をひたすら走っているし、上級冒険者でもなければ追いつけないと自信を持って言える。
 最悪リースを抱えて飛べばいい。その場合、姉弟には可哀想だが徒歩で追いかけてもらうとしよう。

「……わかりました。ならばせめて囮を使ってのかく乱は実行しようと思います」
「お願いします。それで儀式は何時頃でしょうか?」
「夜からになります。なので私は夕方に迎えに来ますが、どちらに向かえばいいでしょうか?」
「ガルガン商会で頼みます。商会に話を通しておくので、一番怪しまれずエミリア達を拾えるでしょう」
「わかりました。他に何か聞きたい事はありますか?」
「相手貴族の情報や、儀式の流れについて詳しくお願いします」

 それから更に情報をもらい、用件を終えた彼女は主であるリーフェル姫の元へ戻ると言った。ダイア荘の玄関を出て、夜道へ足を踏み出そうとした彼女は振り返り俺に告げた。

「最後に……リース様に会えたら、リーフェル様の伝言をお伝え願えますか? もっとわがままを言いなさい……と」
「彼女にぴったりの伝言ですね。わかりました、確実にお伝えします」

 全くですと笑いながら呟き、彼女は暗闇の中へ消えていった。普通なら安全な場所までエスコートすべきだろうが、彼女は相当な腕利きなので盗賊に襲われても逆に返り討ちにしてしまうだろう。そもそもこの周辺にそういう奴らはいない。
 それに俺はやる事がある。先ほど得た情報を元に計画の修正と、色々と下調べをしなければならないからだ。
 ダイア荘の自室に戻った俺は、ベッドの下に作った地下室への扉を開けた。ここには俺が作った公にしにくい物や、ちょっとした財産等を隠しているのである。入り口は完全に偽装している上に、特殊な鍵と独自の魔法陣を施しているのでエミリアですら入る事が出来ない作りにしてある。手作りの暗器だってあるし、弟子ですら見られたくない物が満載だからな。
 地下室に仕舞ってある紺色の隠密服を取り出し手早く着替えた。夜に隠れるなら黒色の服だと思うだろうが、黒だと像が浮いて見えるので紺色や柿色系統が適しているのだ。不具合が無いのを確認し、外に出た俺は夜の空を飛んだ。

 向かう先はリースの結婚相手の貴族、クーラ・エバリティの家だ。
 クーラという男がどのような奴なのか? そして彼の親とエバリティ家も納得いくまで調べ上げるつもりである。前世でこういう情報収集は頻繁に行っていたし、なにより情報伝達が発展していない世界での噂話を信用するのは早計だろう。
 セニアに聞いていた屋敷の少し手前で下に降り、夜の闇に紛れて屋敷を囲む塀の前へ忍び寄る。貴族の家なので当然見張りはいるが、『サーチ』を使えば見張りの穴なんてすぐに見つかる。『ストリング』と『ブースト』を使って塀を飛び越え、ものの数秒で屋敷へと侵入した。

 事務室で取引の資料を盗み見たり、屋敷内部を調べる内にエバリティ家の本性が見えてきた。聞いた話ではエリュシオンに多大な貢献をして王に認められているそうだが、それは事実のようだ。
 事実だが……その分、裏の顔が酷いものだった。不正横領は当然として、邪魔な者の排除に裏世界の者を多用し、成り上がる為に何にでも手に染め、それらを上手く隠してきたのがよくわかった。表は善人の仮面を付けているわけだが、裏ではとんでもない悪党だったわけだな。今は良いだろうが、一つのミスが公になれば一瞬にして全てが破綻するだろう。
 善だけで国は動かないから多少の悪は飲み込むだろうが、この貴族は黒く染まり過ぎだろう。優秀な一国の王がこれに気づいてないとは思えないし、婚前儀式に感じていた違和感の正体がはっきりした。
 とりあえず証拠となる資料を幾つか見繕っていると、隣の部屋から大きな声が聞こえたので向かってみる。部屋を覗き込めば若くハンサムな男が、貫禄溢れる髭を生やした爺さんに怒られている状況だった。

「何度でも言う。お前は私の言う事を聞いていれば良いのだ。その御蔭でここまで来れたのだろう?」
「その通りです。ですが私は……」
「我がエバリティ家が遂に王族へ成り上がるチャンスなのだ。あんな病弱な娘なぞ捨てておけ!」
「…………わかりました」

 セニアから聞いてた特長から見るに、若くハンサムな男がクーラという人物らしいな。自分の意見を全く言い返せてないし、聞いてた通り親の言いなりのようだ。
 歯を噛み締めながら葛藤を胸にしまうクーラが部屋を出たので、俺は静かに尾行してみた。そしてとある部屋に入り、中を覗き込んで彼の事情を知った。

 さて、エバリティ家に潜入してわかった事だが、クーラ本人は白……とまではいかず、不正等を命令されてやった事はあるので灰色だ。ただ、彼はまだやり直せる範囲だろう。
 問題はクーラの親であり、こいつは完全に黒だ。俺が手を下すのもいいが、国に貢献した実績もあるので下手に手を出せばエリュシオン全体に影響を出すかもしれない。今度リーフェル姫に会ったら、ここで拾った資料を忘れて帰るとしよう。

 そうこうしている内に時刻は深夜を回り、俺はダイア荘に帰ってきた。多少の疲れはあるが、今から婚前儀式に出す巨大ケーキのスポンジ部分を作らないといけないのだ。まだガルガン商会にオーブンモドキが無いから、ここじゃないと作れないからな。途中で少し仮眠を取るとしても、今日は碌に休めそうにない。


 そして婚前儀式当日。
 朝からガルガン商会へお邪魔し、巨大なウエディングケーキを夕方前に完成させた。
 続いて姉弟の変装だ。体に無害な黒い塗料で綺麗な銀髪を黒髪にし、尻尾は服の中に入れ、狼耳をカチューシャで隠して変装は終了だ。少し耳が窮屈だろうが二人には我慢してもらおう。
 夕方になってセニアを乗せた馬車がガルガン商会へやってきた。セニアが巨大なウエディングケーキを見て驚いていたが、唾を飲んでいたのを俺は見逃さなかった。ちなみに姉弟とザックは食べれなくて本気で悔しがっていた。こんな大きいのを食べたら胸焼けするぞお前ら。
 俺達はケーキを支える補助として馬車に乗り込み、目的地である城へと向かう。警備の検問はセニアが何とかしてくれるだろう。

「シリウス様、いよいよですね」
「ああ、色々我慢をさせて悪いが頼んだぞ」
「リース姉の為さ。このくらいへっちゃらだよ」

 ガルガン商会の制服に身を包んだ俺は、用意しておいた衣装を確認する。目の部分だけをくり貫いた顔全体を覆う白の仮面に、教皇が着るような体型を悟らせない白の全身ローブである。これらを付ければ俺だとわからないだろう。
 婚前儀式の行われる会場を目指し、後は本番を待つだけであった。


 そして婚前儀式は始まった。
 エミリアとレウスがメイドや執事として会場を動き回る中、俺は天井の梁に潜んで会場を見渡していた。正面から堂々と入れた二人と違い俺はウエディングケーキの中に潜んで会場に入り、人が集る前にケーキの中から抜け出してここにいるわけだ。
 会場に集った人数は五十人くらいだろう。様々な重鎮や貴族が表面上は仲良く談笑し、主役が登場するのを待っていた。

「今回の主役である、クーラ様とフェアリース様の入場です」

 司会の男の声で、ウエディングドレスに身を包んだリースと、昨日見たクーラが会場に入ってきた。
 リースは目を見開いて動揺しており、会場の空気に完全に呑まれているようだ。目線が定まっていないし、少し切っ掛けを与えれば今にも感情が爆発しそうであるが、彼女は使命を果たそうと必死に堪えていた。

「今宵は我が一族と王族が結ばれる儀式を行う為に、多くの人が集り……」

 淡々と進められていく儀式だが、途中でリースの表情が明るくなった。視線の先に目を向ければ手を振るエミリアの姿があり、呆然と前方しか見てなかったのに嬉々として会場を見回し始めた。どうやら俺達の存在に気づいた様子だが、すぐに表情は曇り俯いてしまった。ころころと表情が変わって忙しいと思うが、それだけ情緒不安定な証拠だろう。

「会場の皆様、こちらをご覧ください」

 俺が作ったケーキを来賓に紹介しているが、ケーキの中身が空洞だと知れば連中はどんな反応するんだろうな。
 リースも流石にこの状況では大好物のケーキを見ても嬉しそうじゃなかった。未だ耐え続けているが、強情もここまでくれば立派なものだ。
 しかし、これ以上進めば本当に結婚が約束されてしまう。君は本当にそれでいいのか?

 このまま無理矢理踏み込んで彼女を攫うべきだろうか?
 それはリーフェル姫の依頼として間違った方法じゃないのだが、俺は彼女に精神的に成長してほしいのだ。このまま成り行きで助けられるんじゃなく、自分の意思をはっきりと出してほしい。嫌ならばはっきりと否定してほしいのだ。そうすれば俺は……。
 その時リースは涙を流して俯いたので、俺は反射的に聴力を強化した。

「…………嫌ぁ……」

 ……ようやく本音を言ってくれたなリース。
 確かに君は王族の一端として、そして姉さんの為にこの儀式を受けたのだろう。だがな、それは君の独りよがりに過ぎない。たとえ君が身代わりになっても姉さんは絶対に喜ばないし、むしろ罪悪感でいっぱいになるだろう。姉妹揃って益にならない結果になるならば、例え追われる事になろうが俺は儀式をぶち壊す。
 それに俺の予想が正しければこの儀式はきっと……。

「作戦開始だ」

 今は彼女を優先しよう。『コール』で指示を飛ばし、二人は打ち合わせ通り会場の隅に『水霧アクアミスト』を描いた魔法陣の布を置いた。それに『ストリング』を伸ばして発動させ、会場は水の霧に包まれた。

「わかった」

 リースに一言伝え、俺は用意した衣装に着替えて行動を開始する。どさくさに紛れて姉弟は予備の魔法陣を設置し、全部で四つも設置された会場はもはや白一色である。
 ついでにケーキを壊しておくのも忘れずに命令しておく。エミリアが一瞬躊躇しつつも『風玉エアショット』を放ち、数時間かけて作ったケーキは爆発したように飛び散って崩れた。もったいないが、ケーキが空洞だと知られれば、ガルガン商会に疑いがかかるからな。
 その頃リースはクーラに掴まれて問い詰められていた。一度感情が溢れだした彼女はクーラを完全に拒絶しており、怯えながら掴まれた手を振り回していたので急いで向かった。

「何故です! 私はエリュシオンを豊かにしたいだけで……」
「見苦しいな。振られたのを自覚しろ」

 背後から忍び寄り、俺は二人の間に入った。リースは複雑な表情をしていたが、まずはこの男からだな。

「攫う? これは王の命令によって行われている儀式です! それを滅茶苦茶にしてただで済むと思っているのですか!」
「減点だ。男なら王よりまず花嫁を心配しろ」

 貴族としては正しいだろうが、花嫁は俺の弟子だぞ? リースを攫うなら自分を倒してからにしろ……くらい言ってほしいものだ。

「それと個人的に調べてみたが、お前は見事なくらい親の傀儡だな。他に愛している者がいるくせに、お前はこんな所で何をやっている?」
「う、うるさい! 私がどんな思いであの子を諦めたか知らないくせに、上から語るな!」

 昨日、父親に命令されたクーラが向かった部屋に居たのは、ベッドに寝ていた一人の女の子だった。
 顔色は白いがクーラに会えて嬉しいらしく、朗らかに笑って彼を出迎えていた。そして父親からリースと結婚しろと命令されたという話をしたが、彼女は首を振ってクーラの手を握った。

『クーラ様、私にかまわず結婚なさってください。王族の方と結婚なさるなら、きっとクーラ様は安泰ですよ。ベッドから碌に起き上がれない私の事などお忘れください』
『君を忘れるなんて出来るものか! 父上に命令されようがこれは絶対変えられない。私は君を愛しているんだ!』
『クーラ様……私はその気持ちで十分です。ですから王族の御方と結婚されてください。それが貴方の幸せであり、私の幸せですから』

 彼女の出生等はわからないが、お互いに愛し合っているのだろう。なのに彼女はクーラの幸せの為に身を引くと言っていた。とても良い子だというのに、お前はいつまで人形でいるつもりだ?

「ほら、ちゃんと自分の意見が言えるじゃないか。それを親に堂々と言って来い。お前は一人の人間であり、親の人形じゃないんだからな」
「私は人形ー……がふっ!」

 クーラを気絶させ、俺はリースと向き合った。声質は変えていないから、彼女はすぐに俺だとわかったようである。

「フェアリース姫、君を攫いに来た」
「シリー……むぐっ」

 おいおい、名前を呼んだら変装した意味がないだろうが。慌てて彼女の口を塞ぐが、喜んでいるのは何故だ?
 しばらくして口を開放すると、彼女は喜びから一転し、神妙な顔つきで首を振っていた。

「……攫いに来たのは凄く嬉しいです。ですが、私はここに残って儀式を続けなければいけないんです」
「もう君が儀式を続ける必要はない。俺達とここから逃げよう」
「私が儀式をしなければ姉様が代わりになるだけなんです。だから私が我慢すれば全部……」

 我慢……ね。嫌な事だとはっきり認めたのに、君はそれでも姉さんの為に自分を犠牲にするのか。普段は優しくて素直な子なのに、大切な人になればここまで面倒になるんだな。手のかかる子ほど可愛いというが、全く以ってその通りである。

「困ったな。君を攫うのは俺の意思もあるけど、君の姉さんからの依頼でもあるんだ。昨日の夜遅く、とある兎の獣人さんが俺の所にやってきて依頼したのさ。リースを婚前儀式から攫ってほしいってね」
「姉様……セニア……」
「それと君の姉さんから伝言がある。もっとわがままを言いなさい……だそうだ」
「わがまま……言っていいのでしょうか?」

 そう、君はもっとわがままを言っていいんだ。
 儀式は嫌だとはっきりと言い、御飯が美味しければ遠慮なくお代わりすればいい。人の顔色を窺い過ぎるリースの前に俺は手を差し伸べた。

「早く帰ってきなさい。あのウエディングケーキサイズは無理だけど、今度大きいケーキを焼いてやるから、お姉さんと一緒に食べよう」

 流石に半日掛かりで作ったあれはもう勘弁してほしい。今度普段より大きなケーキを焼いて、彼女の家族全員に振舞うのも悪くないかもしれないな。美味しい物は心を豊かにするし、父親と仲良くなる切っ掛けになるかもしれない。
 覚悟を決めた彼女はいつもの笑顔を取り戻し、差し出していた俺の手を握った。

「私を……攫ってください」


というわけで、主人公側の話でした。
もうちょっと短く書いて、一歩下がって三歩進むような話にしようとしたのですが、これでは二歩下がって三歩進むようなボリュームになるので一端止めて裏の話として投稿する事にしました。勢いで書いたらこんなボリュームに……後先考えないとこうなるのですね。
前話からの続きではなく少し戻って主人公からの視点を入れたのは、主人公が王族に喧嘩を売っても良い理由、政治的判断に平然と介入する理由を書きたかったのです。

『攫ってください』と、内容が中途半端に終わって嫌な方もいそうですが、ここからは前の話をなぞるだけなのでこの辺で切る事にしました。
この話で主人公が弟子を見守り、そして無駄に贔屓して心配しているのが理解していただければ十分です。

二つ前の話といい、どうにも調子が良くない状況が続いて、ご迷惑おかけします。
次の話は書き始めているので、また三日後か四日後に。
+注意+
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