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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

七章 学校 王家編

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連れ去られたお姫様

※この話は一度改変されています。
「私の中に異物? 体がだるい以外に何も感じないけど?」
「非常に小さく体に違和感を与えない大きさですから。場所は……この辺りですね」

 俺が指したのはリーフェル姫の二の腕から手首の中間部分だ。『スキャン』で調べたところ、この辺りに異物の反応どころか魔力の反応もあるのだ。

「最近この辺りに怪我を負いましたか?」
「あるわね。少し前に落馬して、下にあった石で傷が出来たのよ」

 落馬って……中々アグレッシブな姫様である。だが深い傷と言った割には傷痕が一切見当たらない。
 その当時を思い出しているのか、セニアは苦笑しつつリーフェル姫の傷痕があった部分を見ていた。

「あの時は本当に焦りました。リーフェル様の血が飛び散り、慌てて近くの魔法士を呼びましたね」
「私も聞いた時は焦りました。何度だって言いますけど、もう少し気をつけてください姉様」
「あ〜うん、ごめんね。だけどリースの魔法で傷痕を消してもらったから助かったわ。姫様である私に傷が付いていたら色々体裁悪いしね」
「流石リースね。もうシリウス様と同じレベルだわ」

 エミリアの言う通りリーフェル姫の肌は綺麗で、傷が出来たと説明されてもわからない程だ。

「ここまで見事に傷を消せるとは、腕を上げたなリース。教えた事が生かされている証拠だな」
「そんな……シリウスさんの御蔭ですよ」
「俺の傷もリース姉の御蔭でほとんど無いからな」

 言い方が悪いが、レウスが回復魔法の練習でよく実験体になってくれたのである。俺との模擬戦で生傷の多いレウスを彼女が癒す事によって練習にもなるし、会って間もない頃のレウスと仲良くなる切っ掛けでもあった。呼び捨てには時間がかかったが、わずか数日でレウスがリースに懐いたのはそれが理由であろう。

「とにかく、ここに傷が出来たんですね。それは体調が悪くなり始めた前日ではありませんか?」
「そうよ。もちろんこれが原因だと思って様々な魔法士や薬師を呼んで調べてみたわ。けど、腕に関しては全員異常無しと言うのよ。腕より私の魔力が乱れていると言うから、今は別のアプローチを考えている途中ね」
「私の調べではリーフェル姫はこの腕以外に異常は見当たりませんでした。恐らく体調不良の原因は俺が言った異物に間違いないかと」

 その異物は魔力反応が異常に高いのだ。異物からリーフェル姫とは違う魔力が漏れており、それが毒となって体中を蝕んでいると推測している。回復魔法が通じたのは、その異物の魔力を回復魔法によって塗り替えてしまうから楽になるのだろう。だが、原因である異物は消えてないので再び魔力を発し体を蝕む。これが何度も苦しむ状況だと思われる。
 わかった範囲を説明するが、子供で医者でもない俺の言い分にこちらを怪しんでいるメルトは黙っていなかった。

「騙されないでください姫様! 体内の異物を感知する魔法なんて聞いたことありません。そいつは嘘を言っているのです」
「こんな事で嘘を言ってもしょうがないでしょう? シリウス君、メルトの言い分もあるから聞くけど、貴方の言う異物が私の腕に入っている証拠はあるの?」

 彼女は俺の魔法を信じてくれているようだが、近衛のメルトは立場的に簡単に信じるわけにはいかない。だから彼女は証拠を見せてほしいと言うが。

「残念ながら証拠を見せろと言われたらありませんね」
「聞きましたか姫様? おそらく怪我をした話はフェアリース様に聞き、そこに何かあると適当に言っているだけです」
「なので、その異物を取り出して実物を見せるしかありません」
「取り出す? どうするつもりだ」
「手術……腕を切開して直接取り出します」

 この世界において手術という概念は無いに等しい。大半の怪我や病気は回復魔法で治るし、戦い以外で人を切りつけるなんて思いもしないからだ。
 そんな万能に見える回復魔法にも限度や例外もあり、今回の件がその見本であろう。
 俺の見解ではおそらく治療の際、傷が塞がる途中でこの異物が紛れ込んだと睨んでいる。怪我をしたらまず回復魔法から……という常識ゆえに、急ぎの治療の際は周囲の衛生状態が甘いのだ。
 今回は乗馬中に落馬したと言っていたし、石や土やらが剥き出しの地面で転べば異物が入り込む可能性が十分ある。
 ただ、これが石とかならいいのだが、魔力反応が高いので俺の想像が正しければ……。

「正体を現したなこの平民め! 姫様の腕を切り刻むだと? 近衛として姫に害をなす者は排除させてもらう!」
「待ちなさい! シリウス君、もちろんそんな事を言うほどの理由はあるのでしょうね?」
「もちろんです。この異物からはリーフェル姫とは違う魔力反応を感じるのです。時間経過による治癒の可能性は低く、放置し続ければそれだけ貴方に害をなし続けるでしょう」
「シリウスさん、それじゃあ姉様は?」
「死に至る程ではないが、これが体内にあり続ける限り苦しむ。現に今だって相当きつい筈だ」
「そうね……正直に言えば体中が悲鳴を挙げている感じだわ。その御蔭で夜も満足に寝られないから、昨日はスリープフライの粉を使用したくらいね」

 スリープフライの粉とは要するに睡眠薬のようなものだ。それを頼らないと寝れない状況なのに、彼女は笑って俺達と会話をしている。リースを心配させない為だろうが、なんと我慢強い姫様だろう。

「私はすぐに取り出すのをお勧めします。それでも信じられないなら、私から条件を付けましょう」
「……聞きましょうか」
「もし私が処置を行い何も見つからなければ、私の首を差し出しましょう」
「何ですって!?」

 姉弟を除いた全員が息を呑んでいるが、こちらとしてはあると確実にわかっている事を処置するだけである。首を差し出す状況になるなんて万に一つも無い。

「それなら私の首も差し出しましょう」
「俺も」

 打ち合わせしたわけでもないのに、姉弟は前に出ながら名乗り出た。一気に畳み掛けたいので援護はありがたいが……進んで首を差し出す二人が心配になる。と思ったらだ……。

「わ……私もです!」
「リース!? 貴方まで何を?」
「姉様、私はエミリアとレウス程ではありませんがシリウスさんを見てきました。いつだって自信を持って、私達を思いやりながら鍛えてくれた御方がここまで言うのです。だから私も……」
「リース……」
「お願いします。シリウスさんを……信じてください!」

 リースまで名乗り出てしまった。打算も何もない純粋なる想いで、彼女は祈るようにリーフェル姫に問いかける。
 妹の想いに、リーフェル姫は大きく溜息を吐いていた。

「はぁ……ちょっと見なさいよセニア。私が少し見ない間に妹が凄く成長してるわ。何だか寂しいわねぇ」
「そうですね。ですが、リース様は大きく成長されました。これも彼等と出会えた影響でしょう」
「私は姉様を助けたいだけで、成長したなんて……」
「それは違うわ。以前の貴方なら私が渋った時点で諦めていたわよ。これも恋をした影響なのかしら?」
「こ、恋っ!? ち、ちち違いますよ! シリウスさんにはすでにエミリアがいるんです!」
「あら、恋とは奪い取るものよ。戦う前から諦めるなんて私の妹として許せないわ」

 姉妹で盛り上がるのは結構だが、一人蚊帳の外にいるメルトが凄い睨んでいるし、そろそろ話を進めたいのだが。

「それでどうですかリーフェル姫? 私に任せていただけるのでしょうか?」
「四人、それも妹の首まで出されては私も嫌とは言えないわね。これを断ったら私の器も知れるし、貴方に任せるわ」
「姫様!? そのような危険な真似をする必要はありません! 貴方を診た魔法士は腕に異常が無いと言っていたではありませんか!」
「そうは言うけど、腕で無ければ私の魔力が乱れて原因不明……としか言ってないじゃない。そんな中でシリウス君だけは確実に答えてくれたのよ? リースも信じているし、姉である私も信じてあげないとね」
「おのれ! フェアリース様も加えて姫様も惑わすとは。すぐに私が正気にー……うっ!?」

 メルトが剣を抜いた瞬間、セニアが背後に回りこんで針を首に刺した。メルトは崩れ落ちるように倒れ、部屋の隅に引っ張られて放置された。鬱陶しいとは思っていたが、近衛にしては扱いが酷くないか?

「スリープフライの粉が塗られた針です。しばらく目を覚まさないでしょう」
「ナイスよセニア。さて、それじゃあよろしくお願いするわねシリウス君」
「……あの人、あのままでいいんですか?」
「今回が初めてじゃないから大丈夫よ。近衛としては優秀なんだけど、忠誠心が高すぎて他人に厳し過ぎるのが難点なのよね」
「忠誠心が高すぎるという点では同情します」
「ああ……なるほど。仲間がいて嬉しいわ」

 リーフェル姫は姉弟に目を向けると理解してくれた。やはり王族から見ても姉弟の忠誠は異常な程高いようだ。

 煩いのがいなくなり、本人の許可も得たのでようやく治療に移れる事になった。
 大き目の桶とピンセットのような道具、そして料理を運ぶシルバートレイを用意させてから再びリーフェル姫の腕に触り、異物の再確認をしているとセニアが近づいて小さなハンカチを渡していた。

「リーフェル様、ハンカチです」
「ありがとう、口に入れてくれる?」
「姉様、どうしてハンカチを?」
「だってここを切るんでしょ? 凄く痛そうだし、歯を保護しないと後が怖いわ」
「必要ありません。今から痛覚を消しますので、痛みを感じる事は無いでしょう」
「何を言ってー……あれ?」

 説明しつつ魔力を使った麻酔処置を済ませたので、しばらくこの腕の感覚は無い筈だ。俺が何度か指で突いているとリーフェル姫は驚いた顔で感覚の無い腕を動かしていた。

「何かしらこれは? 動くのに感覚が全く無いわね」
「私の魔力によって痛覚と触覚を麻痺させているのです。これなら切られても痛みは無い筈です」
「こんな魔法をどこから? いえ、今は治療が先ね。覚悟は決めたからお願いするわ」

 目隠しや目を背けた方が良いとは言ったが、自分の事なので最後まで見届けると言い放ったのだ。桶を腕の下に配置し、トレイをエミリアに持たせて俺は作業に入った。

 やる事を単純に言えば、切って、取り出し、治すの三手順である。
 とはいえ人間の体である以上、切ればそれだけ血が吹き出るのだから慎重かつ迅速に終わらせなければなるまい。
 俺は『ストリング』で彼女の二の腕を縛って一旦血の流れを塞き止め、消毒したミスリルナイフで躊躇無く腕を切り裂いた。飛び出た血が下にある桶に落ちる中、傷口を広げてピンセットを突っ込む。その光景を全員は固唾を呑んで見守っていた。

「ね、姉様、大丈夫ですか?」
「貴方こそ顔色悪いわよ。それにしても……こんな傷をつけられているのに全く何も感じないわ。これ元に戻るのかしら?」
「大丈夫ですよリーフェル様。シリウス様はその様な事を絶対にしません」
「信用しているのね」
「はい。私の全てを捧げる程に」
「あらら、これは手強そうね」

 いくら痛覚が無かろうが、こんな状況でも変わらず意見を言える彼女は凄いものだ。
 傷口に突っ込んだピンセットで血管を傷つけないように動かし、ようやく『スキャン』で捉えた異物を掴んだ。それをゆっくりと引き抜き、エミリアの持ったトレイに乗せて終了である。

「リース、後は任せるよ」
「わかりました!」

 異物が取れたならすぐに治療であるが、後の処置は彼女に任せて大丈夫だろう。縛っていた『ストリング』を消した俺は血で塗れた両手をセニアから差し出されたタオルで拭き、取り出した異物も綺麗に拭き取った。
 血が拭われたそれは小指の先ほどもない小さな石であり、血によって赤みがかっているが本体の色は淡い緑色であった。
 この緑色の石……やはり予想通りの物だったようだ。

「リーフェ姉の中にこんな物が入ってたのか」
「シリウス様、これは一体?」
「これは魔石だ。俺が買った物より遥かに純度が高い物だな」

 サイズは小さいが、リーフェル姫の体調を崩すには十分すぎる魔力を持つ魔石だ。この魔石から魔力が溢れ出し、リーフェル姫を苦しめていたわけだ。
 こんな貴重な魔石が落馬した地面に都合良く落ちている筈があるまい。間違いなく陰謀の匂いがする。どう説明しようか考えている内にリースの治療は終わり、腕の血を拭き取れば傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

「姉様、治療が終わりましたが……お加減はどうですか?」
「ええ……少しだるいけど、あれだけ煩わしかった苦痛が消えたわ」

 セニアの手によってお湯で絞ったタオルで血や汗を拭き取られる中、リーフェル姫は自らの調子を確認して満足げに頷いていた。
 失った体力はすぐに戻らないが、少なくとも体を蝕み続ける異物は無くなったのだから当然だろう。

「血をかなり失ったのでまだ油断は出来ませんが、数日安静にしていれば体力は回復するでしょう。栄養のある食事を摂って、十分に休んでください」
「色々言いたい事があるけど、まずは感謝しないとね。ありがとうシリウス君」
「リーフェル様を助けていただき、ありがとうございました」

 一国の姫と従者に礼を言われて悪い気はしない。振り返れば、エミリアとレウスが当然と言わんばかりに頷いており、リースは感極まった顔で俺の手を握ってきた。

「シリウスさん、姉様を助けてくださってありがとうございます。貴方に出会えて……本当に良かった」
「そのまま押し倒しちゃいなさい。今がチャンスよ!」
「何を言うんですか姉様! シリウスさんはあくまで師匠として尊敬しているだけです!」
「だったら何で背中が広いとか言うのよ?」
「それは頼りがいのある背中だと思って……って、何を言わせるんですか!」
「貴方が勝手に言ったんじゃない」

 部屋が騒がしくなったせいでメルトが目を覚まし更に騒がしくなったが、リーフェル姫の病気に関しては心配はなくなった。魔石を埋め込んだ犯人等の問題はまだ残っているが、それは彼女の問題だから俺の関与すべき問題じゃない。
 まあ彼女の勘の良さは非常に優れているし、すぐに犯人へ行き着くであろう。


 それから全員でお茶をいただき、俺達はダイア荘へ帰ることにした。リースは残りたがっていたが犯人探しやらでキナ臭い事があるし、姉に学校寮へ戻れと言われ渋々馬車に乗っていた。先ほどまで機嫌が悪そうに頬を膨らましていたが、エミリアと話している内に落ち着いて今では笑って会話している。

「兄貴、今日の晩御飯どうするんだ?」
「そうだなぁ……リース、この馬車でガルガン商会まで行ってもらえるかな?」
「かまいませんが。ダイア荘まで戻らないのですか?」
「こんな王族が使うような馬車で学校まで帰ったら騒ぎになるだろう? 売り出し中のガルガン商会なら違和感薄れるし、俺達はそこから歩いて帰ろう」

 この馬車で俺達を迎えに来てる時点で無意味かもしれないが、歩いて帰ってくれば誤魔化しが効くだろう。それにガルガン商会で買う物もあるしな。

「後は肉を買いたいんだ。この間美味しい肉をローストビーフにしたけど、リースだけ食べれなかっただろう?」
「そうですね。あのお肉はとても美味しかったですし、リースだけ食べてないなんて勿体無いです」
「わあ……良いんですか?」
「良いも何も、俺もまた食べられるんだから問題ないよ」
「もう一品はシチューかな? 野菜をたっぷり入れてじっくり煮込むとしよう」
「「「賛成っ!」」」

 それから豪華な馬車をガルガン商会へ突撃させザックを驚かせ、俺達はダイア荘に帰って晩御飯を食べた。
 姉の所の御飯も美味しかったが、ここでの御飯が一番美味しいとリースは本当に嬉しそうに食べていた。彼女はやっぱり王族より平民が似合っていると思う。

 色々と面倒な事はあったがリーフェル姫も無事だったし、王族の闇にこれ以上関わる事も無く俺達の日常は戻ってきた。



 ……と、思っていたが、話はまだ終わらなかったのである。

 その二日後、俺は再びリーフェル姫の元へやってきていた。
 今度はリースではなくリーフェル姫が直々に俺を呼んだらしく、ソファーに座った俺の対面にはにこにこと笑うリーフェル姫がいた。ちなみに今回はエミリアとレウスは拒否され、今頃ダイア荘で悔しげに自主練習しているだろう。

「いらっしゃいシリウス君。わざわざ呼びつけてごめんなさいね」
「いえ、それよりお元気そうでなによりです」

 俺が手術した頃と違い、彼女はしっかりと生気を取り戻していた。青白かった顔も赤みを取り戻し、室内用のドレスを着て髪をしっかりと整えられている姿はどこからどう見ても立派な姫様であった。

「リース、悪いけど少し席を外してもらえるかしら? そんな顔をしなくても大丈夫よ。別にシリウス君に危害を加えるわけじゃないから」
「本当でしょうか? シリウスさんだけ呼ぶなんて怪しいですよ」
「ちょっと難しい話をするだけで、貴方から取ったりしないわよ。ほら、セニアとメルトと一緒にお菓子でも摘まんでらっしゃい」
「扱いが子供過ぎます! もう……姉様がそこまで言うなら出て行きますけど、シリウスさん、変な事を言われても頷かないでくださいね」
「大丈夫ですよリース様。ささ、以前エミリアから教わったお菓子を作ったので、是非試食をお願いしますわ」
「……しょうがないですね」
「正直で結構です。ほら、メルトも行きますよ」
「わかった」

 唾を飲み込んでいたリースを連れて従者と近衛はいなくなり、部屋には俺と姫の二人だけになった。
 そうだ、何かおかしいと思ったらメルトの反応だ。俺とリーフェル姫が二人きりになるというのに、彼は何も言う事無くリースと一緒に下がったのだ。視線は相変わらず鋭いが、敵意は完全に消えていた。

「あれだけ私達を敵視していたのに、メルトさんが何も言いませんね」
「この間はメルトがごめんね。でも彼をあまり責めないでほしいの。私が体調を崩したのは毒らしき物を盛られたと思っていてね、そんな中で色んな魔法士や薬師が来たものだからずっとピリピリしてたのよ。だからきつい言い方になってたんだけど、流石に私を治したのが効いたみたい。何も言わないけど、貴方の事を認めている筈よ」

 忠誠心も高く、職務に忠実過ぎるゆえ……か。おまけに彼女と同じ年代みたいだし、メルトを語る彼女の目が部下を見る目とは少し違う気がする。近衛になる前から知り合い……幼馴染とかそんな感じだろうか? いつかもっと仲良くなったら聞いてみたいものだ。
 でもこれって暗殺のチャンスじゃないか? いや、するつもりはないけどさ、どうも前世の影響で暗殺のチャンスがあると自然と思ってしまう癖がある。
 どうでもいい事に悩んでいる俺を他所に、リーフェル姫は少し真面目な顔で俺に説明を始めた。

「貴方には報告したいことが幾つかあるの。まず私に魔石を埋め込んだ犯人がわかったわ」

 彼女が話したのは事件の真相だ。
 リーフェル姫に魔石を埋め込んだのは落馬した際に治療してくれた男の魔法士で、第三継承権を持つディラフ王子の専属魔法士だそうだ。
 ただ、彼は魔石を埋め込めばどのような影響になるか知らず、尊敬する上司から治療の促進に役立つと言われて渡され、相手が姫と言う事もあって惜しみなく使ったらしい。
 本人は何も知らず、良い事をしたと思い込んでいるので怪しまれなかったそうだ。
 そしてその魔石を彼に渡したのが……ディラフに仕えるとある貴族だった。その者と判明したのは、今回埋め込まれた魔石は貴重な上に魔力を発する特徴ゆえ、非常に高価となったので金の動きを追ったら行き着いたとか。

「その魔法士は私を治療後に病気にかかって面会謝絶になっていてね、調べてみたらその貴族の手によって処分されていたわ。私の体調が悪くなる前に処分されていて、自首されるのを恐れたんでしょう。つまり真犯人はその貴族で、ディラフ兄さんの継承権を上げる為だったようね」
「それなら何故一位の貴方を? まだ上はいるんですから、一つ上からやるべきかと思いますが」
「継承権を上げるのは建前で、本当は女性が上に立つのを良しとしない考えを持っていてね。エリュシオンのトップが女王なんてありえないと暴走した結果なのよ。ちなみに証拠を突きつけたら面白いくらい動揺してたから、密かに家捜しすれば証拠が山のように出てきたわね」

 現在はその証拠を集めて王に報告したところだそうだ。近い内に捕縛され、貴族は始末されるかエリュシオンを追い出される決断が下されるに違いないそうだ。
 そうして報告を終えた彼女は終始ドヤ顔であったが、俺としては非常に困った事になった。そもそも……。

「……どうして私に報告するのですか? 私は関わりたくなかったから、知りたくなかったんですけど」
「貴方の御蔭で真相に辿り着いたんだから知る権利があるわよ。だけど呼んだのはそれが理由じゃないわ」

 王族の秘密を共有させて俺の外堀を埋め始めているのがわかった。すでにこちらは彼女の狙いが理解出来ていて。内心で溜息を吐きつつ言葉を待っていると、こちらに手を差し出しながら彼女は言い放った。

「シリウス君。貴方を呼んだのは勧誘の為よ。学校を卒業したら私の元に来ない?」

 やはり誘いだったか。他の人にはわからなかったオリジナル魔法で魔石を見抜き、リースを鍛え上げた能力を目の前で知ったのだ。彼女の性格からしていつか来るとは思ってはいたが、まさか一度会っただけで決断するとは。器が大きいというのか、恐れ知らずというのか。

「自分で言うのも何ですが、私は子供とは思えない程に怪しいですよ? そんな平民を迎え入れて大丈夫ですか?」
「確かに貴方の能力は子供とは思えない程優れているけど、人となりはリースと従者二人を見ればわかるわ。あれだけ懐いている姿を見れば、貴方が悪人でなく優しい人物なのがよくわかるもの」
「……それは弟子にだけです。敵に関しては私は遠慮がありませんので」
「それこそ私が欲しい人材よ。優しさだけでは守るものも守れないし、力というのはどうしても必要になるわ。それを理解している貴方だからこそ私は来てほしいの」

 リーフェル姫は俺を子供として見ていない。一人の男として有能だからこそ言っているのだろう。彼女は嫌いではないが、王族の下に付くつもりは今のところ無い。それ以前に俺は世界を旅して色々なものを知りたいのだ。

「私のような平民にとって非常に光栄な話ですが、卒業したら旅に出るつもりなのです。それにエミリアとレウスもいますので」
「もちろんエミリアとレウスも一緒よ。何ならリースもあげちゃっていいわ」
「妹をおまけみたいに渡さないでください」
「平民だろうと貴方なら良いと思っているの。あの子も満更でもなさそうだし、シリウス君ならきっと幸せにしてくれると思っているわ」
「それもまた魅力的ですが……申し訳ありません、お断りさせていただきます」

 俺の頑なな姿勢に、リーフェル姫は諦めるように溜息を吐いた。まさか妹まで出してくるとは予想外であったが、せめて本人に確認してから言ってほしいものだ。

「はぁ……君の様な人材を見つけながらみすみす逃すなんて勿体無い。今回は諦めるけど、世界を旅したらもう一度考えてくれないかしら?」
「何年後かわかりませんよ?」
「それでもいいわ。私はいずれこの国の女王となって、エリュシオンをもっと大きくしていくつもりよ。貴方の方から雇用してくれと言う位に立派にしてみせるわ」

 諦めるどころか逆に闘志を燃やしていた。短い付き合いだが清濁併せ呑む柔軟さもあるし、上に立つ資質を十分兼ね備えている彼女だ。言葉通りエリュシオンを更に発展させる事くらいやり遂げそうだ。
 前世は裏方作業が多かった仕事だ。組織の一端で相棒の部下という肩書きだったし、誰かの下に付くのが嫌なわけではないのだ。将来によっては、彼女の下に付くのを考えてもいいかもしれないな。
 だけどそれはまだまだ先の話だ。今はリースの姉として仲良くなっておくとしよう。俺は持ってきていた保存用の木箱を取り出した。

「前回は急ぎだったので手ぶらでしたが、今回はお見舞いを持ってきました」
「何かしら? 結構期待しちゃうわね」
「二日経てば胃も回復しているでしょうし、ケーキを焼いてきました」

 甘さを多少抑えたショートケーキワンホールを、学校で教わった冷却の魔法陣を描いた木箱に保存しておいたのである。過去にリースが何度か持って行った事があるので、彼女は食べるのが初めてではないのだが、ケーキの姿を確認するなりリーフェル姫の目が輝き始めた。

「こんなに大きいケーキ……夢見たいね」
「セニアさんとメルトさんにも切り分けましょう。ショートケーキが好きと言われましたが、チーズケーキはどうでしたか?」
「チーズケーキ? 食べた事が無いわね」 
「あれ? 一、二回程リースに持って行かせた事がある筈ですが……もしかして途中で食べてしまったのか?」

 彼女の食いしん坊は妙なところで旺盛なのだ。特にチーズケーキは彼女のお気に入り……十分にありえる。それを知ったリーフェル姫から得体の知れない魔力が溢れ始めていた。

「そう……あの子にはお話が必要そうね」

 食べ物の恨みは怖い。特に女性の甘い物に関しては尚更だ。リースの自業自得でもあるので、俺はフォローする気は一切無かった。


 そんなリース滅亡へのカウントダウンが進む中……それは唐突に訪れた。


「リーフェル様! 大変でございます!」

 俺がショートケーキを切り分けていると、セニアが飛び込むように部屋に戻ってきたのである。主人の私室をノックも返事も無く入ってくるとは従者としてどうかと思うが、それをする余裕も無いって事はそれだけ火急の用事なのだろう。その証拠にセニアの表情は見た事もない程に焦っていた。
 先ほどまで蕩けそうな表情でケーキを眺めていたリーフェル姫だが、一瞬にして真面目な顔になりセニアを咎めていた。

「ノックもなく無礼よセニア。いえ……それだけ酷い状況なのかしら?」
「申し訳ありません。実は……」

 セニアは謝罪もそこそこにリーフェル姫の耳元に口を寄せて内容を伝えていた。蚊帳の外である俺はケーキの切り分けを再開したのだが……つい気になって聴力を強化して聞き耳を立ててしまった。そしてとある単語を聞いてしまい、俺は瞬時に『サーチ』を発動していた。

「何ですって!」
「事実でございます。王の印も確かでして、使いであるのは間違いないかと」

 リーフェル姫も叫ぶ程に驚いているが、俺は『サーチ』の反応を見て聞き間違えではないと理解した。苦々しい顔でリーフェル姫は思考していたが、途中で俺に気づき表情を和らげた。

「ごめんねシリウス君。来てばかりだけど、急ぎの用事が入ったから今日はここまででいいかしら?」
「リースが連れ去られたのですね?」

 すでにこの屋敷に彼女の反応は無かった。俺の言い返した言葉にリーフェル姫は驚くが、すぐに真面目な表情に変わり俺を見据えていた。

「これは王族に関する話よ。貴方が聞いていい事ではないわ」
「連れ去られたのはわかっています。そして貴方がそう仰るという事は、連れ去ったのは貴方より上の人でお兄さんの誰か……または王様でしょうか?」

 王だとか連れ去られたと言った単語から『サーチ』で彼女の追い続けているが、反応は城に向かって移動している。リーフェル姫も何も言わないし、どうやら王族関係は間違いないようだ。

「これ以上深入りしたら本当に戻れないわよ? 第一継承権とはいえ、庇うのにも限度があるわ」
「関係ありません。彼女は俺の弟子ですから、知る権利はあります」
「平民で所詮は口約束の間柄でしょう? 貴方は王族を敵に回す気かしら?」
「必要とあらば。リースが心から納得しない限り、俺は何を敵に回そうと動くつもりです」
「それは……あの子を愛しているから?」
「少し違うかもしれません。師匠として、男として、大切で守りたいと思った人を守りたいだけです。それが出来なければ、自分はただの屑だと思っていますので」

 前世の記憶がある御蔭で、俺は効率良く鍛え続けこの年でこれだけの強さを得た。だからその分理想は高く持とうと思っているので、自分の決めた事はどんな事だろうとやり遂げるつもりだ。
 少し卑怯な言い方であるが、リーフェル姫の表情が崩れ苦笑していた。

「そこは愛してるからって言ってほしかったわ。だけど、リースが大切だって事は十分にわかった」
「それは姫様もでしょう?」
「当然よ。男ばっかりの家族の中、ようやく現れた妹よ? おまけに素直で可愛いし、私が女王になったら私専用の主治医にしてずっと傍に置こうと思っていたんだから。まあそれも、貴方と会うまでの話だけどね」

 少しおどけながら舌を出す一国の姫であった。この人はリースの事になると本性が現れるな。

「だからシリウス君、貴方が手伝える事は無いかもしれないけど、状況だけは説明してあげる」
「……ありがとうございます。少しでもいいので、情報をください」
「リーフェル様、よろしいのですか?」
「かまわないわ。このまま何も話さなければ彼も帰らないだろうし、私が同じ立場だったら胸倉掴んででも聞き出してるでしょうね」
「同感です。私もリース様を追って突撃してしまうかもしれません」
「でしょ? さてシリウス君、今回リースを連れて行ったのは私のお父様……このエリュシオンの王様であるカーディアスよ。正確に言うなら、王様の印が押された勅命によって呼ばれたと言えばいいかしら」
「王様なら彼女の命に危険は無さそうですが、リースは何故連れ去られたのです? そして彼女は望んでですか?」

 彼女が望んで行ったか……俺にとってそれが一番大事な部分だ。もしリースが心から望み、それが彼女の幸せであるなら俺は介入するつもりがないからだ。だがリーフェル姫の表情からしてそれは無さそうである。

「リースが望んで行ったなんて絶対ありえないわ。だって彼女が連れて行かれた理由は……」

 余程言いたくないのだろう。リーフェル姫は頭を抱えつつ一度言葉を切り、意を決して続きを放った。

「……とある貴族と結婚の為よ」




「結婚ってどういう事だよ兄貴!」

 その後、事情を聞いた俺はダイア荘に戻って姉弟にリースの事を報告した。
 二人は結婚の話を聞いて驚いていたが、レウスは我慢できず机を叩きながら憤慨していた。エミリアの表情も厳しいが、冷静にレウスを宥めていた。

「落ち着きなさいレウス。まだシリウス様の話が終わってないわ」
「う……ごめん兄貴」
「お前の気持ちもわかるから気にするな。聞いての通りだが、リースはとある貴族との結婚の為に王様に呼び出され今は城に居るそうだ。ある意味軟禁だな」

 最後に確認した場所は城の上階の一室だと思われる。牢屋がそんな所にあるわけないし、彼女の安全は確保されていると思っていいだろう。
 もう一度リースの位置を探っていると、エミリアが手を挙げて疑問をぶつけてきた。

「シリウス様、どうしてリースが結婚の相手に? それに王族だとしても、結婚にしては若すぎると思います」
「結婚と言うが、正確には婚前儀式と言うものらしい。許嫁や将来を約束した者同士で、身内を呼んで行う儀式みたいなものだから年齢は関係ないそうだ」

 かなり本格的な儀式らしく、ほぼ結婚式と同じ流れを汲んでおり、行えば結婚が確定したと周囲に認知される。前世で言えば婚姻届に印鑑を押したようなものだろう。それで、大きくなったら改めて結婚式をするのか? 大々的に広める異世界の常識とはいえ、面倒な話だと思う。

「そしてリースが選ばれた理由だが、リーフェル姫の代わりだそうだ」

 相手はエリュシオン有数の貴族であり、王も認める優秀な者だそうだ。王族関係と契りを結び、更なる結束を見せる為に儀式を行う算段らしい。元はリーフェル姫がその儀式の相手だったそうだが、彼女は魔石を埋め込まれて病気になってしまいこの話は消える予定だった、しかし何故か隠していた筈のリースが王の命令によって表に出され連れて行かれた。
 あれだけ言い聞かせていたのに、リースを矢面に出すのはどういう事だ! ……と、リーフェル姫は怒りを滲ませながら外出する準備を整え、今は城へ乗り込んで王様に問いただしている頃だろう。

『私が絶対に阻止するから、シリウス君はリースの帰りを待っていてあげて』

 色々話してしまったが、王族で家族の問題なのだから俺を関わらせたくないそうだ。リースの真意も問いただしたいから、今は我慢して待っていてほしいと……頭まで下げられたら俺も引くしかなかった。
 以上の説明を終えると、姉弟は納得がいかない顔をしていたが握りこぶしを解いて多少は落ち着いていた。

「リーフェル様が直々に言えば大丈夫だと思いますけど……」
「……止められなかったらどうするんだ兄貴?」

 姉弟の心配は俺もある。
 俺の勘では今回の儀式は色々とキナ臭いのだ。儀式は明日の夜という急な話だし、一度白紙になっていたものを隠していた庶子まで出して行おうとする。何か大きな事が仕組まれている気がするので、儀式が中止される可能性は低いと思う。
 だが……それ以上にリースだ。王様から直々に呼び出された上に、ましてや姉の身代わりみたいなもの。断れば次は姉がそうなると言われれば無条件で了承するに違いない。

「……準備が必要だな」

 俺がやる事はリースを助けるのではなく、彼女の本音を知る事だ。
 今日の夜は準備があるから、城に潜入して問い質すのが難しい。そもそも当日まで頑なになって本音を隠す可能性が十分ある。だからそれを行うには精神が一番脆くなりそうな本番当日になりそうだが……仕方あるまい。
 もし彼女が儀式を拒絶したその時は……。

「兄貴……じゃあ!」
「流石シリウス様です!」
「ああ、儀式が行われれば潜入するぞ。一応、お前達に聞いておこう。王族に喧嘩を売る覚悟はあるか?」
「いくらでも売ります! たとえ王様と喧嘩しようと、私はリースの味方です!」
「リース姉は兄貴の隣が一番なんだ!」

 何とも力強い言葉だ。俺は満足気に頷くと夜の帳が下りた外へ出た。目指す先はガルガン商会だ。明日に備えて色々準備をしなければなるまい。

「明日は……暴れるぞ?」

 向かう途中に掛けた言葉に、姉弟は満面の笑みを浮かべて頷いた。


 知っている人は知っていますが、これを投稿した数時間前に一度投稿していますが、あまりの駄目駄目感に一度取り下げる事にしました。

 そのときのタイトルは『貴族への無礼』で、リーフェルが魔石事件の真相を語った後に、メルトの手引きによってグレゴリが私室に現れ、隷属の首輪を使ってリースを人質にし、シリウスがリースを開放すると同時に隷属の首輪によって捕まる内容でした。

 感想を見ればわかるでしょうが、元世界一のエージェントにしては情けない、行動がお粗末過ぎると不評満載でした。作者も駄目だ、確かにそうだと悩みつつ、思い切って消し去り修正することにしたのです。
 色々思惑があったのですが、説明が足りず、作者の初心者ぶりが思いっきり露出してしまったと思います。そもそも原点をちょいと忘れてました。
 いずれ使うネタもあるので、どうしてその様な内容にしたかいずれ覚えていたら言い訳しようと思っています。

 そして修正……もとい作り直した今回の話は、この騒動の後で書く予定だった別案です。

 次の投稿は三日後……もしかしたら四日かかるかもしれません。
 色々報告のある活動報告を挙げているので、確認してくれると嬉しいです。
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