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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

七章 学校 王家編

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リーフェル姫と呼ばれる姉様

「私の姉様を……リーフェル姫を……診てほしいんです」

 リースは祈るように俺へ懇願していた。

「診てほしい……とは、君の姉であるリーフェル姫は何かの病気という事か?」
「それがよくわからないんです。三日前から急に体調が悪くなり始めて、日を追う事に段々症状が重くなっていくばかりでして……」
「治療に関しては?」
「私の回復魔法は効果がありました。ですが症状が軽くなるだけで、止めた途端に再び苦しみ始めて……」
「そして再び魔法を使い、切れたらまた苦しむ姿を見てしまうわけ……か」

 彼女が疲れた様子だったのは、回復魔法を使い続けた反動か。これだけ必死なのだ、彼女も限界まで魔法を使い続けたのだろう。だが一向に改善が見られないので、王族の問題に巻き込むのを覚悟で俺に相談しにきたわけか。

「私は母様が亡くなった後に、使いの人から自分が王族だと聞かされて不安でいっぱいでした。暮らしていた場所から城へ連れてこられ、私は一体どうなるんだろうと思っていた時に……姉様が私を救ってくれたんです」

 リースはその時の状況を語り続ける。連れてこられてから父親である王様に会っても素っ気無い態度だったらしく、リースは今にも泣き出しそうだったらしい。そんな時にリーフェル姫が彼女を宥め、ここでの暮らしを色々と助けてくれたそうだ。
 元平民で何も知らないリースを王族の政策に巻き込むのは拙いと思い、身分を隠し学校へ行くようにしたのも姉の提案だとか。

「姉様の御蔭で私は学校へ行けるようになり、エミリアと……そしてシリウスさんとレウスに出会えた。そんな恩人が苦しんでいるのに私は何も出来ないんです。お願いします! どうか……どうか姉様を助けてください」

 リースは無力な自分が悔しく顔を手で覆ってしまい体を震わせていた。そんなリースをエミリアは抱き寄せ、背中を撫でて落ち着かせている。

「そんな御方なら早く会いたいわ。私達の事を紹介してね」
「俺も!」
「エミリア、レウス……うん、私の友達だって紹介するね」
「当然俺も挨拶しなきゃな。リースを鍛えている師匠です……ってな。信じてくれるかわからないけど」

 俺はリースより年下で見た目はただの子供だからな。師匠だって言われてもただの戯言にしか捉えてくれないだろう。それが想像出来たのかリースは少しだけ笑ってくれた。

「リース、俺は君の姉さんの状況を知らない。だから今は情報をくれないか? 悔しがるのは後で出来るだろう?」
「そう……ですね。そんな場合じゃないですよね。何から話しましょうか?」
「まずは病気らしき症状はどのようなものなのか。そしてそれが出た詳しい日と時間だ。あとは過去に大きな病気を患った事があるかどうかだな」

 本当なら助けてやると答えてやりたいが、病気となればどう転ぶかわからない。詳しくは本人と会ってから調べるとして、移動中の時間を無駄にしない為にも目的地に着くまで情報を集めておくべきだろう。


 それから数分して着いたのは、貴族達が住む地域から少し外れた所だった。
 数十人は楽に住めるような豪邸に、手入れの行き届いた広い庭。他の貴族の家も豪華であったが、ここは一つランクが違っていた。

「私の家族は普段は城に住んでいるのですが、姉様は病気になられたという事で今はここで療養しているのです」
「それが世間に知られてないという事は、今のところ緘口令が敷かれているのかな?」
「その通りです。今は婚約の話が出回っているので、縁起の悪い事は伏せているそうです」

 リースの説明を受けながら俺達は馬車を降りると、屋敷から数人の男女がこちらへと向かってくるのが見えた。そのほとんどがメイド服と執事が着る燕尾服を着ており、この屋敷の使用人だというのがわかる。

「おかえりなさいませリース様。そちらの方々は一体?」

 使用人の代表であると思われる、メイド服を着た妙齢の女性がリースに頭を下げて俺達を見ていた。彼女は兎の獣人であり、頭には兎耳にお尻には丸い尻尾が付いていた。
 見目麗しい女性であるが、その鋭い目つきからただの従者とは思えず、間違いなく戦闘経験がある空気を纏っていた。おそらく俺がリースに危害を加えれば、彼女は躊躇なく俺の命を奪おうとするだろう。
 彼女はリースとやってきた俺達を警戒しているので、リースは急いで俺達を紹介した。

「ただいまセニア。こちらにいる人達は私の友達で……」
「フェアリース様! どこへ行っておられたのですか!」

 だがそれを一人の男が遮った。
 長身で青を基調とした軽鎧を装備した人族の青年で、煌びやかな装飾がされた剣を帯剣していた。イメージするなら王に仕える近衛騎士って感じである。
 爽やかな青年に見えるが、こちらを見る目は非常に厳しい。いや……視線の動きから見ているのはエミリアとレウスか?

「それにこの様な獣人を二人も連れてきて一体何事ですか! 姫様がこんな状況だと言うのに!」
「黙りなさいメルト」
「何だと!?」
「貴方が喋るとリース様が喋れません。上司である私どころか、リーフェル様の妹であられるリース様の言葉を遮るとは何事ですか!」
「くっ……」

 セニアと呼ばれた兎の獣人の方が上司らしく、メルトと呼ばれた男は悔しげに後ろへ下がった。険悪となった空気が霧散したところで、セニアはリースに続きをどうぞと手を向ける。

「えっと……こちらは私の友達のエミリアとレウスです。そしてこちらは二人の主人であるシリウスさんです」
「初めまして、シリウスと言います」
「エミリアと申します」
「レウスです」

 俺達は母さん直伝の御辞儀で挨拶すると、セニアを含めた他のメイド達が驚いていた。礼儀正しさを見せ付ける事により、少しだけ警戒が解けたので効果はあったようだ。流石は母さんの技である。

「これはご丁寧に。私はリーフェル様の専属従者であるセニアと申します。リース様のご友人であるならば、我々一同、貴方方を歓迎させていただきます」

 母さんと同レベルな御辞儀を見せたセニアが挨拶すると、後ろに控えていたメイドや執事が数人頭を下げた。全員ではないので彼等にも派閥があるっぽいが、今は置いておくとしよう。

「ごめんなさいセニア。もう少しゆっくり紹介したいところだけど、急いで姉様に三人を会わせたいの」
「ですがリース様、リーフェル様はご病気で……」
「何を言っておられるのですか!」

 再びメルトと呼ばれた男が遮った。殺気を隠そうともせずこちらを睨み付けており、今にも剣を抜きそうな勢いだった。

「このような平民を病気を患っている姫様に会わせるとは何を考えているのですか! たとえ病気でなかろうと、姫様の近衛騎士である私が許しません!」
「そんな事を言わないで! もしかしたら姉様が治るかもしれないのよ。お願い!」
「なりません!」

 この男は定型的な頭の固いタイプのようだ。だが男の言う事も一理ある。リースの紹介とはいえ、怪しい平民をいきなり国の姫に会わせろっていうのも無理な話かもしれない。それでもリースは止まらず、セニアに縋り付くように彼女の手を取った。

「お願いセニア。シリウスさんに任せてくれれば、きっと……ううん、絶対姉様を何とかしてくれるから」
「リース様……」

 メルトが騒ぐ中、セニアは目を閉じて熟考していた。しばらく経ち、ゆっくりと目を開いた彼女は表情を崩して屋敷への道を空けた。

「どうぞ皆様。リーフェル様は奥の部屋でお休みになられてますわ」
「貴様っ! 近衛の私の意見を無視する気か!」
「この屋敷では私の命令が優先です。それに近衛なら貴方も付いて来ればよいのです。彼等が敵対行動を取ったならば、遠慮なく近衛として動きなさい」
「そうだな。怪しい動きをしたら遠慮なく斬り捨ててくれる」
「セニア……」
「申し訳ありません。メルトの言い分も尤もですから、彼を連れて行くのをお許しください」
「ううん、ありがとうセニア!」

 リースが抱きつくと、セニアは慈愛に満ちた表情を浮かべていた。その表情はエリナを彷彿させ、エミリアとレウスは懐かしそうに目を細めていた。
 リースが獣人に偏見を持たず、エミリアとすぐに友達になれたのはこのセニアの御蔭なんだろう。

「シリウスさん、行きましょう」
「ああ」
「こちらです」

 セニアを先頭に、リース、俺達、そして近衛のメルトが屋敷へと入った。
 屋敷内も豪勢で、高級そうな置物やソファーが備え付けられていた。俺達は周囲を見ながら奥へと案内されていたが、途中で何度もエミリアとレウスは後ろを振り返りメルトを気にしていた。メルトがさっきから殺気を出しっ放しなので仕方あるまいが、武器すら持っていない俺達に一体何を警戒しているのやら。

「メルト、殺気を抑えなさい。子供相手に何をムキになっているのです?」
「余計な事をしないように牽制しているだけだ」
「どちらにしろ抑えなさい。そろそろリーフェル様の寝室ですし、そのような殺気を主人にぶつけるのが近衛の仕事なのかしら?」
「……仕方あるまい」

 メルトの殺気が治まったところで、豪華な扉前へ辿り着いた。おそらくこの扉の向こうにリースの姉であるリーフェル姫が居るはずだ。
 セニアはノックをし、扉の奥へ聞こえる声で問いかけた。

「リーフェル様、リース様がお戻りになられました。そしてお友達を連れて面会を求めておられますが、よろしいでしょうか?」
「リースのお友達!? ついに招待したのね。早く入ってもらいなさい」
「どうぞ皆様」

 セニアが扉を開けて俺達に入るように促すと、まずリースが飛び込んだので俺達はそれに続いた。
 リーフェル姫の部屋は本が大量に並んでおり、ちょっとした図書館に見えなくもなかった。その部屋の隅にある大きな天蓋付きのベッドに、赤い髪を腰まで伸ばしたストレートロングの女性がベッドに上半身を起こした状態でこちらに顔を向けていた。

「姉様、ただいま戻りました」
「お帰り、リース。急に出て行ったと思ったら、例のお友達を呼びに行っていたのね」

 姫と呼ばれるだけあって、リーフェル姫は本当に美しかった。病気のせいか少しやつれてはいるが、赤色に輝く瞳は力強く本当に病人なのか怪しむほどである。

「はい姉様。ですが、体調は大丈夫ですか? 少しだけ魔力が回復したので、また回復魔法をかけましょうか?」
「無理をしては駄目よ。貴方さっき倒れそうになったじゃない」
「姉様に比べたらこの程度何でもありません」
「でも治ってもまた痛くなるだけよ。それより後ろの子達を紹介してくれる? 貴方が自慢気に語る子達に挨拶しないとね」
「自慢気……一体何を言ったのリース?」
「ふ、普通の事だよ!? 姉様も変な事を言わないでください!」

 慌てふためくリースだが、ようやく彼女はいつもの様子に戻ったようだった。つまりリーフェル姫はリースにとって心から信頼できる相手であり、同じ姿を見せてくれる俺達も同様に信頼してくれているわけだ。

「とにかく紹介するね。この子はエミリア。私が学校で一番最初に友達になった子よ」
「初めまして、私の名前はエミリアと申します。いつもリースにはお世話になっています」
「聞いたとおり礼儀正しい子ねぇ。うん、セニアに似てるって言われても仕方ないかもしれないわ」
「ね、姉様!?」
「エミリアは知ってるかしら? この子はここに来てからセニアに甘やかされてきたから、獣人に対して凄く甘いのよ。だから貴方と友達になった時、セニアみたいな女の子と友達になったって凄く喜んでいたわ」
「姉様……止めてください」

 一国の姫であるが、妙に饒舌で明け透けな感じであった。妹に対してのみかもしれないが、俺としては嫌いではない。リースは顔を真っ赤にし、リーフェル姫に向かって手を振り続けていた。

「真っ赤になって可愛いわね。そうそう、知っているだろうけど私の名前はリーフェルよ。ところで……エミリアの銀髪とても綺麗ね。触らせてもらってもいいかしら?」
「私の髪で良ければ」
「姫様! 病気だと言うのに獣人に触るとは何事ですか!」
「あれは気にしないでね。私もそれなりに気を使ってるけど、貴方の髪に負けてる気がする。是非確かめさせて!」

 部屋の隅で食って掛かるメルトだが、リーフェル姫は目すら合わさず一蹴しエミリアの髪に触れた。

「凄い……こんなにサラサラで引っ掛かりが全く無いわ。どうしたらこんな綺麗になるの?」
「シリウス様……私のご主人様の御蔭です。効率的な体の手入れ法、なにより栄養バランスを考えられた食事を毎日与えてくださり、私達は髪どころか健康そのものなのです」
「なるほど。リースが最近綺麗になっているのもそのせいね。色々教えてもらわないと」

 リーフェル姫の暴走は留まる事を知らず、セニアを近くに呼んで幾つか質問を繰り返していた。その光景に呆れ気味のリースであったが、まだ全員の紹介が済んでいないので無理矢理入り込んで止めていた。

「姉様その辺で一度お止めください。それよりこちらの子はレウスです。エミリアの弟なの」
「初めまして、リース姉の弟分であるレウスと言います」
「うーん……聞いてた様子より固いわね。リースの弟分なら私の弟なわけだし、今は敬語は必要ないわ。普通に話してくれないかしら?」
「姫様! 敬語は平民にとって当然の義務です!」
「私が良いと言っているのだからいいのよメルト。職務に忠実なのはいいけど、主の機微を読むのも貴方の仕事よ」
「くっ……わかりました」

 渋々と下がるメルト。職務に忠実過ぎるのも困ったものである。それ以前にリーフェル姫と相性が悪い気もするが、残念ながら俺は同情する気は皆無である。この男の獣人に対する冷たい目が俺には合いそうにない。

「じゃあリーフェ姉……でいいのかな? 俺はレウスっていうんだ、よろしくお願いします」
「まだちょっと固いけど……まあいいか。よろしくレウス。殺人鬼からリースを守ってくれたと聞いたから、一度礼を言いたいと思っていたのよ」
「俺は礼を言われる事をしていない。だって俺はやられて、姉ちゃんとリース姉を最後まで守りきれなかったんだ」
「だけど貴方がいなければリースはここに居なかったのよ? 私がお礼を言うのは間違いじゃないし、受け取るのも一つの礼儀よ」
「そうなのか? じゃあ受け取ります」
「素直な子ね」

 リーフェル姫に頭を撫でられ、レウスは照れ臭そうに頬を掻いていた。良かったなレウス。一国の姫に頭を撫でられるなんて滅多に無い出来事だぞ。

「それでこちらの子が?」
「はい姉様。私の師匠であり、今も様々な事を教えていただいているシリウスさんです」
「よろしくお願いしますリーフェル様」
「そう……貴方がリース憧れのシリウスさんね。年下とは聞いていたけど、貴方の年齢を聞いてもいいかしら?」

 足から頭にかけて、俺を目踏みするように視線を向けながら年齢を聞かれる。確か公式では彼女は十七歳と聞いているが、とても年齢通りの眼力とは思えない。天才と言われているようだし、彼女を甘く見てたら痛い目に遭いそうだ。

「今年で十二歳になります。やはり、私なんかがリースを指導するのはおかしいでしょうか?」
「そうね。だけどリースは貴方と会ってから目に見えて強くなったわ。元から凄かったけど、今のリースの回復魔法は国で一番と言われてもおかしくないくらいにね。それに貴方から感じられる雰囲気がとても子供とは思えない。そう……まるでお父様みたいな雰囲気ね」

 学校長に続き俺の中身を初対面で捉えるとは……やはり只者ではない。流石は次期女王候補と言われるだけはある。

「私のような子供が王様と同じと? ご冗談を」
「うん、まあその辺りは別にどうでもいいわ。大切なのは貴方の御蔭でリースはとても強くなった一点よ。リーフェル姫としてではなく、リースの姉として礼を言わせて」
「確かに受け取りました。ですが、リースが成長したのは本人の努力の賜物であり、私は少し手伝っただけです。それに私がやりたくてやっていただけですから」
「本当に十一歳? リースが大きい背中と言って懐いた理由がわかる気がするわね」
「姉様!」
「ああごめんね、それは内緒だったっけ。とにかく学校に入学させて私の傍に居れなくなったから、リースの事が心配だったのよ。そんな状況で貴方達が友達になってくれて本当に安心したわ」
「無礼を承知で聞きますが、リースの存在が隠されているのは何故ですか?」

 世間には王の娘は一人、つまりリーフェル姫だけだ。だけど、本人もリーフェル姫も認めるもう一人の娘がここにいる。なのに何故隠されているのか?
 成り行きとはいえこうして一国の姫に関わってしまったのだ。彼女なら多少踏み込んでも理解してくれそうだし、俺は少し彼女達を知るべきだと思った。

「調子に乗るなよ平民! それ以上口を開くなら斬り捨てるぞ!」
「…………」

 王族の秘密に関わるのだから、背後に控えているメルトは当然として、リーフェル姫の隣に控えているセニアからも殺気を感じた。レウスは俺の背後を守り、エミリアは少し前へ出て警戒する中、リースは一人困った表情でオロオロしていた。
 ピンと張った糸のような緊張感がしばらく続き、その均衡を崩したのはリーフェル姫であった。

「セニア、メルト。控えなさい」
「わかりました」
「ですが!」
「リースがここまで心を許している子達よ。いずれ話してしまうかもしれないし、知る権利はあると思うわ」
「姉様……はい。私は皆に隠し事をしたくありません」
「だそうよ? まあそこまで変な理由じゃないし、他言しないと誓うなら説明してもいいわ」
「他言はしないと誓います。俺はリースを知りたいだけですから」

 正直に言えば王族と関わりを持ちたくないのだが、リースの家族なら話は別だ。卒業後、彼女には俺達に付いて来てもらいたかったが、王族関係ならそれも難しいだろう。
 ならばせめて俺達がいなくなった後でも、彼女が安全に暮らしていける訓練メニューを考えなければなるまい。彼女はどう見ても王族関係に向いた性格じゃないからな、もう少し攻撃、威嚇用の魔法を教えるべきかもしれないな。

「リースが公表されていないのは庶子というのが大きいけど、一番の問題は余計な連中の干渉ね。娘が増えるとね、どうしてもその子を娶って王族に食い込もうとする連中が多いのよ。私はそういう奴らは追い払えるけど、リースはどう見ても騙されそうだしね。まあ数年前までは平民だし、こんな純粋で優しい子だから仕方ないかもしれないかな」
「わかる気がします。リースは美味しい御飯になると他が見えなくなりますから」
「姉様、エミリア……事実だけどはっきり言われると傷つきます」

 せっかく姉に友達を紹介したというのに、リースの精神は徐々に削られるばかりであった。純粋で騙され易い彼女だが、それも一つの魅力というわけだな。

「だから私が父さんに言って隠すようにしたのよ。それで大きくなったらどうするか本人に選ばせようってね」

 王族の次女として生きるか、何か新しい道を見つけて平民として生きるか……彼女の自由ってわけだ。

「兄貴、兄貴。リース姉を説得出来れば一緒に旅が出来るんじゃないの?」
「どうだろうなぁ」

 ここには信頼する姉がいるからな。一緒に来てくださいと言っても、すぐに決められるわけあるまい。
 もう一つ、大事な事を聞いておくとしようか。

「彼女に王位継承権はありますか?」
「積極的ねシリウス君。一応あるけど最下位だし、上には兄や私で何人もいるから実質無いに等しいわね。それこそ、城に極大魔法を撃ち込まれて一族全員がやられない限り無理ね」
「リーフェル様、不謹慎ですからおやめください」
「わかったぞ貴様! フェアリース様を強引に娶り、王族に成り上がる気だな!」

 メルトは俺を指差しながら糾弾し始めた。マイナス方面な事ばかり言ってくるが、何も知らない人からすればそう見えてもしょうがないかもしれない。

「と言う意見があるけど、どうなのかしら?」
「リースはともかく、王族に関しては全く興味がありませんね。むしろ継承権が無いに等しいと言われて安心したくらいです」

 俺の返答にリースは顔を真っ赤にして慌てていた。聞きようによっては、リースを娶ってもいいみたいに聞こえるしな。
 リースも王族に興味がなさそうだったし、彼女は今の自然体が一番似合っているのさ。

「ふふ……リースの事を理解していてなによりよ。他に何かあるかしら?」
「いえ、特にありませんね」
「そう。それじゃあもう少し話に付き合ってくれるかしら? 貴方達から見たリースを知りたいのよ」
「喜んで……と言いたいところですが、まずはリースの用件を済ませてからですね」
「用件? どういう事かしらリース」
「そうです姉様! 病気ですよ!」

 自分の恥部を晒され悶えていたせいで忘れていたようである。この辺がリースの困った部分と愛らしい部分だな。
 顔色は確かに悪いが言葉ははっきりしているし、笑う姿からそこまで深刻な状況じゃなかったようだ。だから急いで診るより信頼を得るべきだと思って動いていたが、連れてきた本人が用件を忘れるなよと思う。

「大丈夫よリース。確かに体はだるいけど、明日には新しい薬が届く手筈になっているわ。それを飲めばきっと治るわよ」
「そんな保証はありません。私の回復魔法は国で一番に近いと言われましたよね? その私の魔法で全く治る気配がないのに、どうしてそんな事が言えるのですか?」
「魔力と相性が悪い病気なのかもしれないじゃない。それに貴方が慌てなくてもいいのよ? 薬が効かなかったら、遠方の医者を呼ぶつもりだから」
「だったら……シリウスさんに診てもらってみませんか?」
「シリウス君に?」
「はい。シリウスさんは人の体に詳しくて、私の回復魔法が凄くなったのもシリウスさんから人体の構造を教わったからです。ですから、姉様の不調の原因がわかるかと思い連れてきたんです」
「そう……私に触れるのかしら?」
「そうですよ。シリウスさん、お願いできますか?」
「お待ちなさい」

 リースが俺を前に押し出そうとした瞬間、リーフェル姫の表情が変わった。
 優しい姉の顔と違い、鋭い視線でこちらを射抜く今の彼女は王の娘、リーフェル・バルドフェルドだった。

「リース、貴方は私の妹とはいえ、私の立場は理解しているのかしら? いくら急いでいても私の許可無く勝手な行動はしてはいけないの」
「それは……でも姉様が心配で!」
「ええ、貴方の優しさは痛いほどわかるわ。ですが、私は一国の姫です。いくら妹の頼みでも見過ごしては駄目な部分があるの。そしてシリウス君」
「何でしょうか?」
「私に触れるという事は、嫁入り前の一国の姫に触るという事よ? 貴方にその覚悟があるのかしら?」

 レウスの頭を撫でたのはリーフェル姫からなので問題無いらしい。なので許可無くこちらから触れるのは問題あるようだが……俺には関係ない。

「関係ありません。私はリースに頼まれ、姉である貴方を救いたいだけです。むしろ治療にあたってこちらから条件があります」
「へぇ……許可無く触れると宣言した上に条件ねぇ。聞くだけ聞いてみましょうか?」
「私は他人に知られたくない特殊な魔法を使います。それを他言しないと誓ってほしいのです」
「貴様ぁ! 姫様にそのような態度を取るとは何事だ! いい加減にしろ!」
「黙りなさいメルト。彼とは私が話しているのです。それで……それが守れなかったらどうなるのかしら?」
「もし聞いてくださらないなら、リースを攫ってエリュシオンから去ります」
「ええっ!?」

 完全な逃避行ってやつだな。姉弟は確実について来るだろうし、弟子達がいるなら俺をここに縛る理由は無い。遠慮なくリースを攫って逃げてやるさ。
 リースは呆けた顔をしていて、その姉は殺気を込めた目でこちらを見ていた。

「……私がそれを許すと思う? 追っ手を差し向けてすぐに捕まえるわよ」
「ならばアドロード大陸へ渡りましょうか? 流石にエリュシオンでも隣の大陸まで干渉は難しいでしょう。私達は野営も苦ではないので、別大陸の山奥で家を建ててほとぼりが冷めるのを待つのも手ですね」
「出来ると思って?」
「可能です。それだけの実力は持っていますから」

 俺の生まれた家まで逃げ、ライオルの家へ通ったように一人ずつ抱えて空を飛べば済む話だ。船を使わないから港で網を張っても引っかからないし、鍛えているから逃げ切れる自信は十分にある。
 当の本人は顔を真っ赤にして困り顔だが、満更でもなさそうにこちらを見てくるので放っておこう。

「リースを連れて行くのは何故かしら?」
「私の弟子である事と、彼女はここで貴方の庇護を受けるより私達と共に居た方が強くなると思っているからです」
「そう…………合格ね!」

 リーフェル姫は一転してスッキリした表情を見せ、セニアの方を見ながらはしゃぎ始めた。

「聞いてたセニア? 私の眼力から目を背けるどころか、攫って逃げるって言い切ったわよ!」
「そうですね。まるで物語に出てくる王子様みたいでした」
「いいわねぇ、もう少し年上だったら私も惚れちゃったかもしれないわね。そう思わないリース?」
「えっ!? あの……姉様、怒っていたのでは?」
「リース、君の姉さんは怒っていたわけじゃなくて、俺達を試してただけさ」

 大切な妹を預けている男だから、姉としては試したくもなるわけだ。それにしても学校長といい、この世界では殺気を当てるのが常識なのか? 胆力鍛えてないと話にならないぞ。
 顔を真っ赤にしているリースを眺めながらセニアと笑い合い、満足した様子のリーフェル姫は俺に向かって手を差し出した。

「でも、私の許可無く本当に触ったら追い出していたわね。さて、満足したところで私に触れる許可を出しましょうか。手でいいのかしら? あ、子供だからって胸は絶対駄目よ」
「……手で構いません」

 残念ながらリーフェル姫は平らに近くてー……いや、止めておこう。勘のいい彼女なら気づかれそうである。
 握り締めたリーフェル姫の手はすべすべで気持ち良く、体調不良のせいか少し体温が高い感じがした。俺は手を通して『スキャン』を行い、リーフェル姫の異常を調べていく。

「……何も起きないけど、一体何をしているのかしら?」
「シリウス様のオリジナル魔法で、体の異常を調べているのですよ。私もレウスも何度も受けていますので、これによって異常が起こる事はありません」
「体の異常を調べる魔法……ね。これは確かに他言は出来ないわね」
「姉様、それはどうしてですか? これが出来ればもっと沢山の人が助けられると思うのですが」
「確かに助けられるけど、この魔法を解析しようと様々な人に狙われるでしょうね。だから広められるのを防いでいるのよ。セニア、メルト、聞いての通り彼の魔法については他言無用よ。姫として絶対命令を出します」
「心得ました」
「……はっ!」

 セニアは優雅に頭を下げ、メルトは苦虫を噛み潰したような表情で頭を下げていた。
 この男は俺がリーフェル姫と手を繋いでから剣を手にかけたまま離そうとしない。今にも襲い掛かってきそうだが、レウスとセニアが警戒してくれなければすでに襲われていただろうな。
 リースの姉という事で、念入りに『スキャン』をした結果……原因が判明した。
 病気だとかそんな問題じゃない。もっと単純で物理的な原因だったのである。

 俺は手を放し、全員に聞こえる声で結果を発表した。

「リーフェル姫。貴方の体に異物が混ざっています」


本当なら異物を取り出し、お姫様を元気にさせるところまで書く予定だったのですが、色々書いている内に長くなりここで一旦切りました。
+注意+
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