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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

六章 学校 最強編

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閑話 私達の宝物

甘み成分が多少多めです。
 ――― ノエル ―――


 シリウス様と別れてから二年が経ちました。

 今頃、あの御方は何をしているでしょうか?

 もしかしたら学校で暴れて、貴族全員を平伏させちゃってるかもしれませんね。

 エミちゃんは相変わらずシリウス様にベッタリだろうし、レウ君も元気に騒いでいることでしょう。

 以前届いた手紙には、新しい弟子とエミちゃんの友達が出来たと書いてありました。

 学校でも安定した生活を送れているようですし、私も一安心です。

 そして私達は……。


「お姉ちゃん!」

 突如ドアを開けられて、妹の一人であるノキアちゃんによって現実に戻されました。
 全く……せっかく昼下がりの自室で、シリウス様を憂う知的で優雅な奥さんに浸っていたのに、ノキアちゃんのせいで台無しです。

「なにが知的で優雅な奥さんよ! 赤ちゃんいるからって怠け過ぎ!」
「えーっ? でもディーさんが休んでろって言ったんだからいいじゃない」

 大きく膨れたお腹をノキアちゃんに見せ付けたら、呆れ顔で首を振られてしまいました。何よ、赤ちゃん抱えたお母さんって大変なんだから、そんな露骨に溜息吐かなくてもいいじゃない。

「はぁ……赤ちゃん生まれても、お姉ちゃんがサボらないように見張らないとなぁ」
「大丈夫ですよー。赤ちゃん生まれたらお姉ちゃんはバリバリ働くから。育児に仕事に、そしてディーさんをずっと支えてあげるんだからね」
「こんなお調子者のお姉ちゃんを、ディーさんが貰ってくれた事こそ奇跡ね」

 むう、そうは言うけどノキアちゃんがディーさんに憧れている事をお姉ちゃんはちゃーんと知っているんだからね。そろそろお年頃だし、近くに居て頼りになる男性だから仕方ないかもしれないけど、妹だからってあの人は絶対渡さないんだから。

「何よお姉ちゃん。いきなり怖い顔をして」
「……何でもありませーん。それより何かあったの?」 
「そうだった。さっきガッドさんが来たから、お姉ちゃんを呼びに来たの」
「本当? 今度は早く来たのね」
「何でも大切な物を預かったからって言っていたわ。ほら、お姉ちゃんのご主人様であるシリウス様の手紙がー……」
「それを早く言いなさい!」
「あ、お姉ちゃんそんなに慌てたら体調が悪くー……って、こらーっ!」

 後ろからノキアちゃんが叫んでいますが、私は無視して外へ向かいます。普段はツンツンして酷い事を言うのに、いざとなると優しいんだから大好きなのよ。

 とにかく赤ちゃんに負担を与えないようにゆっくりと外へ出ると、私の夫であるディーさんがガルガン商会のマークが入った馬車に乗っているガッドさんと話をしていました。

「……来たか。お腹は大丈夫か?」
「大丈夫よあなた。負担を与えないようにと言っても、少しは体を動かさないと駄目ですから」
「ノエルちゃんの言う通りだ。お前は心配し過ぎなんだよ」
「お前にはわからない事だ」
「けっ! そりゃそうだ。女すらいない俺にはわからねえよな」

 今にも喧嘩しそうな雰囲気ですが、二人はいつもこんな感じなんですよね。喧嘩するほど仲が良いというか、男って不思議ですね。

「喧嘩より手紙ですよ手紙! シリウス様から手紙が届いたって本当なの?」
「そうだぜ。ほら、これがノエルちゃんの分だ」

 渡された手紙を早速開けば、中から三枚の紙が出てきました。このしっかりした文字はシリウス様で、可愛く丸っぽい字はエミちゃんで、ちょっと汚いけどびっしり書き込まれたのがレウ君ね。
 相変わらず手紙一つでも個性が出ていて面白いです。後でじっくりと読ませてもらおう。

「そんでディーにはこいつだ。お前には手紙だけじゃなく荷物も預かっているぜ」

 ガッドさんは手紙だけではなく、馬車の奥から一抱えある木箱を持ってきました。
 これは……もしや!?

「……ああ、手紙を軽く読んだが、俺に新しい料理のレシピを教えてくださるそうだ。これはその材料らしい」
「流石シリウス様です。今度は一体どんな料理を開発されたのでしょうね」
「俺も気になるな。ディー、作れるなら俺も食わせてくれよ」
「いいぞ。その木箱を中に運んでくれるか?」
「お安い御用だ。仕込み時間で客は居ないんだろ? 正面からでいいか?」
「そうだ」

 ガッドさんは木箱を抱え、一年前に開店した私達の店内へ入ります。

 エリナ食堂。

 私とディーさんの大切な人の名前を頂き、シリウス様の資金援助により完成した私達の大切なお店。
 今は仕込み時間かつ休憩時間だからお客様は居ないけど、時間になれば人でいっぱいになるちょっとした有名店になっています。ディーさんの料理を食べようと、隣町からわざわざやって来た貴族だっているんだから。
 ここまで来るのはとても大変だったけど、今では私達もシリウス様と同じように順調に生活できています。


 食堂内のテーブルに木箱は置かれ、ガッドさんが抉じ開けていると私の家族が集まってきました。この店で雇っている四人の妹と弟達は物珍しそうに中身が開けられるのを待っています。

「……っと、開いたぜ。ほらディー、確認頼む」
「ああ」

 ディーさんは手紙を片手に木箱の中身を外に出していきます。
 中身は……何か緑色の粉末が入った容器でした。それだけではなく微妙に赤い粉末、白くて細長い小さな実……等と、とても食べ物に見えない物ばかりでした。

「ディー義兄にいさん。これは一体何ですか?」

 ノキアちゃんが質問する中、他の弟や妹が容器を持ち上げたりして不思議そうにしています。ディーさんは手紙を置き、白くて細長い物が入った物を取り出して手の平に載せていました。

「これはコメと言うらしい。説明によると炊く事により、パンに代わる食料になる」
「パンに代わる程って……凄い物じゃない。それで、この緑色や黄色い粉末は何なの?」
「これらは組み合わせて使うスパイスだそうだ。配合率も書いてあるから、とにかく作ってみない事にはな」
「へぇ、一体どんな組み合わせ……って、何だこりゃ!?」

 横からシリウス様の手紙を覗き込んだガッドさんですが、何かとんでもないものを見つけたように驚いていました。

「何だこの奇怪な文字は? お前読めるのか?」
「当然だ。これはシリウス様が考案したニホンゴという文字だ」
「これなら他の料理人に見つかってもレシピがばれないし、わかるのはニホンゴを教えていただいた私達だけなわけですね」
「はぁ〜……あの年でそこまで考えているとは、本当に旦那は凄いな」

 あの御方は我々が想像もつかない知識を沢山知っていますから、凄いのは当然です。従者として誇らしいです。

「ふむ……肉の種類によって配合が変わるようだ。確か鳥肉が余っていたから、このかるだもんとたーめりっくというスパイスが少し多めで……」

 スパイスが入った容器を見比べつつ、料理人の目になっているディーさん。ああ……相変わらず格好良いですねぇ。優しいところもですが、この料理人の顔をしたあなたが私は大好きです。
 だからノキアちゃん、そんな乙女な目で見ても絶対あげないからね。

「よし……わかった。アラド、準備だ」
「わかりました」

 アラドは私の三つ年下の弟です。料理人のディーさんに憧れ、今では彼の一番弟子となって日夜修行を積んでいます。厨房に入るディーさんとアラドを見送り、私は届いた手紙を読みながら待つ事にしたんですが。

「こんな沢山のスパイスで一体何が出来るんだろ? 味が滅茶苦茶になっちゃうじゃない」

 これは一大事です。ノキアちゃんがシリウス様を信じてません。手紙を読んでる場合ではありませんね、すぐにシリウス様の素晴らしさを伝えなければ。

「ノキアちゃん! シリウス様がそんな物を送るわけないでしょ。あの御方は凄い人なんだから、きっと最高に美味しい物が出来るわ」
「シリウス様が凄いのは何度も聞いたよ? だけどなぁ……その人って本当に年下なの?」
「ええそうよ。十一歳になられたわ」
「……本当かなぁ」

 会った事が無いから仕方がないかもしれませんが、やはり信じてくれませんね。こうなったらディーさんの料理が頼みです。私は期待しつつ、手紙を読みながら待ち続けました。

 しばらくすると、厨房から何とも香ばしい匂いがしてきました。
 こう……空腹を誘うといいますか、思わず唾を飲み込んでいました。私の妹と弟達も同じ様子で、匂いに釣られて厨房を覗き込んでいるくらいです。

「……出来たぞ」
「出来たよ皆!」

 そしてついに料理が完成しました。
 ディーさんが緑色のスープが入った大きな鍋を持ち、アラドが白い粒々がいっぱい詰った鍋を持っています。何で二種類あるのでしょうか? 二つがテーブルに並べられると、私達は集まったのを確認してディーさんは料理の説明を始めました。

「この白いコメに、こっちの緑色のスープをかけて食べるそうだ。カレーライスと言う料理らしい」
「合わせて食べる物だったんですね。それより、こっちの白いのが妙に水っぽいけど?」

 少しべちゃっとしていて、見た事がない料理です。本当に美味しいのかと疑問が浮かんできますが、シリウス様の料理は見た目が変でも美味しい物が沢山ありました。今回もきっと素晴らしい物なんでしょう。

「本来ならコメはもっとふわっとしているそうだが、どうも水の量と火加減が上手くいかなかったようだ」
「だけど味は保証するよ。こんな料理を作ったなんて、シリウス様って本当に凄い人だよ!」

 味見をしたと思われるアラドの目が輝いています。ふふふ、そうでしょう、そうでしょう! 目前にいなくとも屈服させるこの威光。これこそシリウス様の実力です!

「旦那が凄いのはわかってるから早く食べようぜ? この匂いで空腹も限界だ」
「早く配ってよ」
「アラド兄~、早く~」
「わっ! すぐに配るから待って待って!」

 皆の目は鋭く、今にもアラドへ襲い掛かりそうな勢いです。いけませんね、シリウス様の料理は静かに待ち厳かにいただくものですよ。昔ならアラドに群がる皆と同じ行動をしたでしょうが、今の私は違うのです。皿を用意して静かに……静かに……。

「アラド! 私にも早く頂戴!」
「待ってくれよ姉貴!」

 ……私の中の野生は抑えきれなかったようです。アラドに詰め寄る私を、ディーさんは肩を叩いて皿を差し出してくれました。

「ノエルはこっちだ。この料理は少し辛いから、お前用に少し抑えた物を作っておいた」
「あなた……」
「沢山食べるといい」

 ああ、やっぱりあなたは最高です! 愛してます! 貴方と結婚して良かった!

「ちょっとお姉ちゃん!? いきなり見つめ合って何をしているの!」
「おっといけない。それではいただきますね」
「ああ」

 各人にスプーンが配られ、私達はかれーらいすを口にしました。
 皆スプーンを咥えたまま固まり、しばらくすると慌てて水を飲み始めました。ですが、その顔は非常に満足気でした。

「これは辛いな! だが……美味い!」
「凄く濃厚で癖になりそうな味ね。おかわり無いの?」
「ごめん、かれーはともかくコメが足りなくて一食分しかないんだ。パンに付けて食べてみたらどう?」
「良い着眼だアラド。これをパンに入れて揚げる、カレーパンというレシピもあったぞ」
「それも美味そうだな。だけどこれじゃあ足りないから、パンを持って来てくれよ」

 皆に遅れて食べ終り、私は大変満足しました。ディーさんが言った通り、辛味が抑えられていてとても食べやすかったです。欲を言えばもう少し食べたかったところですが。

「ノエル、俺の分も食べるか? お前と一緒の物だから食べても問題ないぞ」
「でも、あなたの分が」
「お前は赤ちゃんを抱えているからな。沢山栄養を摂らないと駄目だし、俺に出来るのはこれくらいだしな」

 ディーさんの言う通り、私の様な獣人は一般的に妊娠したら沢山食べるようになります。
 これは強い子を産もうとする本能だとか言われているそうですが、詳しくは判明していません。何はともあれ、私は最近食べる量が増えて大変です。
 食べても食べても栄養がお腹の赤ちゃんに奪われていくようで、よくお腹が鳴ってしまいます。その度にディーさんは栄養ある料理を用意してくれ、更にはこうして料理も分けてくれます。

「これくらいなんて、そんな事ありませんよ。私、あなたに凄く助けられてるから」
「俺もだ。お前の御蔭で俺は頑張れる」
「あなた……」
「ノエル……」
「お姉ちゃん!」

 いけないいけない、またディーさんに惚れ直してしまいました。ノキアちゃんの声で目が覚めましたが、もう少し浸らせてくれても良かったのに。

「ガッド、この材料だが……」
「ああ任せておけ。次の仕入れ時には大量に持って来てやる。だからまた食べさせろよ」
「勿論だ」

 すでに量産化の段階に入っており、ガッドさんと契約内容を確認しています。元から安値で取引してますが、予想以上に安いのでディーさんが驚いています。

「……安すぎないか? お前の取り分が少なすぎるだろう」
「こいつは旦那の命令でな。旦那の御蔭で得た利益をお前らに回してくれだとよ」

 ガッドさんの説明では、シリウス様の作られた例の保存食や玩具の情報代として、売上げの二割がシリウス様の報酬になったとか。
 期間は一年だそうですが二割を一割に変え、残りの一割は私達の仕入れ代へ回してほしいと言われたそうです。その器の大きさに、私とディーさんは遠くにいるであろう御方を思い頭を下げていました。

「まあ、俺が言うのもなんだけどよ、ここを開店して一年だけどまだまだ大変だろ? だから素直に受け取っておけばいいと思うぜ? その方が、旦那も喜ぶってもんだ」
「シリウス様……ありがとうございます」

 こんな遠く離れた地でも私達を助けてくれるなんて……本当に感謝します。私たちには勿体無いくらい素晴らしい御方です。

「……凄い人なのねシリウスさんって」
「でしょ! ノキアちゃんもやっとわかったのね」
「それは……ちょっと、やっぱり会ってみないとわからないじゃない」

 全く、素直に凄いって言えばいいのに。次に送る手紙にはどうすればいいか相談してみようかな? シリウス様の凄さを理解してくれませんって。うーん……何だかどうでもいいって言われそうな気がする。
 そうそう、手紙で思い出しました。かれーの美味しさに忘れてましたが、今回の手紙には重要な事が書かれていたのでした。

「あなた、シリウス様がついに考えてくださったわ!」
「本当か!」

 先ほど待ってる間に読んだ手紙をディーさんに渡しました。
 私達がシリウス様に頼んでいた事、それは私達の子供の名前です。
 妊娠してから送った手紙に赤ちゃんの名前を考えてほしいと送ったのですが、それは親の権利だからと断られました。ですが何度も繰り返しお願いし、ようやく折れてくれて今回の手紙に書いてくださいました。

 男の子ならディラン。
 女の子ならノワール。

 私達の名前を含ませた、素晴らしい名前だと思います。
 私がお腹を撫でていると、ディーさんも触れてきて優しく語りかけてくれました。

「ディランにノワール……か。良い名だ。早く顔が見たいな」
「私も頑張って生むわ。これからも頑張ってね、あなた」
「任せろ」

 ふふ……生まれてくるのは男の子かな? それとも女の子かな?

 どちらでも良いから早く産まれてきてね、私達の宝物。

 そしてパパとママと一緒に、あの御方にお仕えしましょうね。


というわけで、短いですがノエルとディーの話でした。
何となくほのぼのとしたものを書きたくなり書いてみましたが、ノエル視点だと少しだけ早く書ける不思議な現象が起こります(笑
+注意+
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