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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

六章 学校 最強編

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エージェントとは

想像すると残酷な表現が多少含まれます。
 迷宮で殺人鬼を倒した次の日の朝、俺は一人で目覚め……なかった。

「おはようございます、シリウス様」

 流石に昨日の出来事の後だ、今日くらいは大人しくしていると思ったが……彼女は通常運転らしい。いや、むしろパワーアップしていると言っていい。

「シリウス様、着替えはこちらに。あと寝癖ついていますから濡れたタオルをどうぞ。朝御飯はもう出来ていますから、こちらで食べたければご用意します」

 俺が起きた頃には朝の家事が全て終っていたのである。時計が無い世界なので、太陽の位置で時間を確認すればいつも通り起床する時間だ。

「エミリア……いつからここへ来た?」
「少し前です。昨日はシリウス様に抱きしめられて、あまりの幸せに今朝までずっと眠っていました。なので睡眠は十分とりましたし、体調も万全です」

 少し前って……家事が全部終っていると考えると一時間くらい前か? まあ、今回は睡眠も十分取れているようだし、これ以上何も言うまい。
 頬を赤らめて幸せそうに悶えているが、彼女の言葉通り血色は良いし、尻尾の艶もあり体を動かしている様子を見ても不調が全く見当たらない。念の為に調べてみようと手招きすると、エミリアは一瞬ぶれるような速度で目前にやってきた。こんな短距離を本気の速度で来るな。

「御呼びですか?」

 ただ呼んだだけなのに彼女はにこにこと嬉しそうに笑い、尻尾を振りながら俺の言葉を待っていた。ベッドに座ったままの俺が手を伸ばせば、彼女は察して頭を下げてくれるので、頭に手を乗せて『スキャン』を発動させた。

「……異常なしだな」
「当然です。今の私なら何でも出来そうですよ」

 鼻歌を口ずさみながら尻尾を振り続ける彼女は幸せの絶頂にあった。
 昨日、彼女が自ら立ち直れなかったら、元気付けてやろうと額にキスくらいはしてやろうと思っていた。あまりにも気障っぽくて止めたが、やらなくて正解だったかもしれない。もしやっていたら……この子は一体どうなってしまうのだろう?

 その後、俺とエミリアは台所へ移動し用意された朝食を食べていた。下手したら豪華な食事を用意しかねない勢いだったが、普通の食事が出てきて安心した。
 病み上がりのエミリアがいるので今日は朝の訓練は無しだ。なのでのんびりと朝食を食べていると、玄関から物音が聞こえダイニングキッチンにリースが飛び込んできたのだ。

「シリウスさん! エミリアが病室にー……って、やっぱりここだったのね」
「「おはようリース」」
「おはよう! じゃなくて、貴方は何を勝手に病室を抜け出しているの! 朝早く行ったらいなくてビックリしたわよ」
「書き置きは残しておいたわ」
「そういう問題じゃないの。はぁ……でも元気そうで良かった」

 リースは頭を抱えていたが、エミリアが無事とわかればいつもの優し気な表情に戻っていた。
 二年間で定位置となった椅子にリースは座り、テーブルに載せた料理を皿に載せて自分の前に置いた。その間にエミリアが用意したスープが彼女の前に並べられ、リースは手を合わせた。彼女もまた俺達を真似て食事前に合掌し、スプーンやフォークだけでなく箸も使うようになっていた。

「今日も美味しそう。いただきます」

 彼女の食べ方は非常に上品だ。スープを食べる時は音を立てない基本から始まり、大きく口を開けて食事をする事は絶対にしない。だが大喰らいであるレウスの食事量と同等の量を、彼女は容易くペロリと平らげる。あくまで上品だが食べる速度は凄まじく、気づけば一塊のステーキ肉が消えている事だって珍しくない。激しく動くレウスはわかるが、同じ量を食べる彼女は太る様子が全く見られないので、あれだけ摂取した栄養はどこへ行っているのだろうか?

「……あの、そんなにじっと見られると気になるんですけど」
「ああ、すまない。リースは本当に美味しそうに食べるなって思ってさ」
「その……美味しいですから」
「ありがとう、作った甲斐があるわ」

 食事を再開すると、再び玄関から物音が聞こえ、台所のドアが開け放たれた。

「兄貴、姉ちゃん、おはー……いてて!」

 ……お前もかレウス。
 身体中に巻かれた包帯そのままでレウスは登場した。胸元を押さえて痛がっているが、何故姉弟揃って大人しく出来ないのだろう?

「こらレウス。大人しく病室で寝てなきゃ駄目じゃない」
「貴方が言っても説得力が無いわよ」
「だって寝ているだけってつまらないし、病室のご飯の量が少ないんだよ」
「わからなくもないんだが、俺としては大人しく寝ていてほしかった」

 レウスも定位置に座り、用意された朝食を食べ始めた。病み上がりだというのに本当に良く食べる子だ。すでに二人前は軽く平らげている。

「美味い! 姉ちゃん、まだお代わりあるかな?」
「沢山作ったからまだあるわよ」
「はぁ……もう言うだけ無駄ね。ねえエミリア、私も頂戴」
「はーい、沢山食べてね」

 前日は殺されかけたというのに、俺達全員はいつも通りであった。
 楽しそうに日常を送る弟子達を眺めながら、俺は満足気にパンを口にした。


 朝食を終えたら訓練の時間だが、今日は予定を変更するつもりなので食べ終わった頃合を見計らい注目を集めた。

「今日一日、お前達は訓練及び非常時以外の戦闘を禁止する。異論は一切認めないからな」
「私達が病み上がりだからでしょうか?」
「その通りだ。昨日強くなると決意しただろうが、体が不調では訓練も逆効果だ。俺も今日は控えめでやるつもりだし、今日は好きにしていなさい」
「だったら兄貴、今朝は何をするの?」
「そうだな……」

 レウスに言われて考える。すでに朝食を食べ終えたので、学校へ向かうまでまだ一時間近くある。
 何をしようか考えていると……台所に置かれたフライパンと卵が目に付いた。

「……何か菓子でも作ろうかな?」
「「「本当っ!」」」

 三人はテーブルを乗り出して俺に詰め寄ってきた。というかレウスよ、痛がるくらいならやるんじゃない。

「あ、ああ。とりあえず簡単な物をな。クレープでも作るか?」
「クレープ! シリウス様、何かお手伝い出来る事はありますか?」
「果物必要でしたよね? 私は果物を切ります」
「俺は何か混ぜるのを、いてぇ!」
「お前は黙って座ってろ」

 訓練がお菓子作りになり、弟子達は出来立てのクレープに舌鼓を打ったのだった。



 全員で学校に登校し、教室に入って椅子に座るなりクラスメイトが群がってきた。ここまではいつもの状況だが、今日は雰囲気が全く違っていた。

「ねえねえ、昨日あった迷宮の事件に巻き込まれたんでしょ? 何があったの?」
「兄貴!? 何ですかその傷は! どこのどいつがやったんすか!」
「一体何が出てきたの! ゴーレムにしては怪我が酷すぎない?」

 昨日の事件はすでに知れ渡っていて、クラスメイトはそれについての一色だった。
 噂が広まっているようだが、鮮血のドラゴンについては広まっていないようだ。迷宮で何か事件があって俺達がそれに巻き込まれた……という点しか伝わっていないようである。
 実は昨日、帰り際に学校長から詳しく話さないように言われたので、弟子達には殺人鬼について話さないように言ってあるが、この状況を学校側はどうするつもりなのか?

「おはようシリウス君。何があったかわからないが、無事でなによりだ」
「おはようマーク。詳しく言えないが、全員無事だったよ」
「詳しく言えないとは、やはり何かあったんだな」
「いずれ発表があると思う。それより……お客さんだな」

 登校してきたマークの相手をしていると教室の扉を開かれ、とある人物が現れた。

「失礼するよ」
「失礼しますわ」

 ハルトとメルルーサである。
 彼等もまた昨日の事件の被害者であると知られており、突然の登場にクラスは水を打ったようになった。二人は静かになった教室を悠々と歩き、エミリアとレウスの前に立った。

「何か用ですか?」
「何のようだ!」
「レウス、君に言いたい事がある」
「エミリア、貴方に言いたい事がありますわ」

 互いに睨み合う一触即発の中、貴族二人は静かに頭を下げた。

「私は君に突き飛ばされてから記憶は無いが、君の御蔭で私は助かったと聞いた。礼を言う」
「エミリア、貴方の魔法の御蔭で私は助かりましたわ。感謝します」
「「はあ……」」

 あれほど偉そうで強気だった態度が身を潜め、貴族らしい気品を出しながら御礼を言ってきたのだ。昨日とは全く違うギャップに、戸惑いを隠せない姉弟は生返事するだけだった。

「確かに礼は伝えたぞ。それでは失礼する」
「出来ればもう少し威力を抑えてほしかったですわ。それでは御機嫌よう」

 伝えるべき事を伝え、貴族二人は教室から去っていった。教室が何とも言えない空気になり、沈黙の中レウスがポツリと呟きながらこちらを見る。

「……何だったんだ兄貴?」
「言葉通りだよ。あの二人はお前達に感謝しに来ただけさ。昨日は喧嘩腰だったが、恩には応えるまともな貴族ってわけだ」
「何だか複雑です」
「だろうな。だがな、俺が言える事は……お前達がやった事は間違ってなかった。それだけだよ」

 二人の頭を軽くポンポンと叩いてやれば、納得したのか笑ってくれた。何はともあれ、お前達の行動が俺は誇らしい。
 貴族二人のせいで静かになった教室だが、徐々に喧騒を取り戻していく頃合にマグナ先生がやってきた。気付けば授業開始の時間になっていたようだ。

「おはようございます。早速ですが皆さんに伝えたい事があるので、お静かにお願いします」

 マグナ先生は教室全体を見渡し、静かになったのを確認して頷いた。途中、俺と目が合ったのは気のせいではあるまい。

「昨日の迷宮で起こった事件は皆さんの耳に入っているでしょう。その詳しい説明が午後から講堂で行われますので、確信のない噂を広めないようにしてください。そしてシリウス君」
「はい、何でしょうか?」
「迷宮での話を学校長が聞きたいそうです。貴方だけ、今から学校長室に向かってください」

 いきなり名指しで呼ばれ少し驚いていると、エミリアとレウスが勢いよく立ち上がり異議を申し立てていた。

「マグナ先生! 何故シリウス様だけなのですか?」
「そうだよ! 事件なら被害者の俺達にも聞くべきだよ」
「異論は尤もですが、君達はシリウス君の従者ですよね? なので主人であるシリウス君が説明するべきなのですよ」

 マグナ先生の言う事も一理あるのか、従者である姉弟はそれ以上何も言えず、俺が教室から出て行くのを寂しそうに見送っていた。


 そして一人でやってきたのは学校長室前だ。
 各先生の職員室と違い、両開きの高級そうな扉は威圧感たっぷりである。扉に臆しても仕方ないので、呼ばれた身だから堂々と扉をノックしてやった。

「シリウス・ティーチャーです」
「入りなさい」

 重厚そうな扉を開くと、前世でも見た社長室にある高級そうな机を前に学校長は座っていた。
 普段の好奇心旺盛で無邪気な青年は微塵も感じられず、そこにいるのは魔法を極めし者(マジックマスター)と呼ばれるロードヴェルだった。

「よく来たね。お茶は用意できないが、そちらのソファーに座るといい」
「……失礼します」

 有無を言わさず勧められたソファーに座るとロードヴェルも対面に座った。俺達はすぐに会話に入らず、無言のまま互いの視線をぶつけ合っていた。
 そんな重苦しい雰囲気がしばらく続き、ようやくロードヴェルは口を開いた。

「……早速ですが本題に入りましょう。私が呼んだのは昨日の結果を教える為と、君に聞きたい事があったからです」
「聞きたい事?」
「それは後で説明しますので、まずは結果から報告しましょう。昨日、貴方が帰ってしばらくして、鮮血のドラゴンの生き残りであるリーダーのゴラオンと、人族ロミオスが迷宮で確保されて連れてこられました。残念ながら残りの二人は息を引き取っており、遺体安置場に送られています」
「尋問した結果が出たという事ですね」
「ええ、その通りです。色々証拠を得ようと彼等を尋問したのですが……」

 ロードヴェルもその尋問に参加していたらしく、内容を詳しく説明してくれた。


 まずロミオスから行われた。
 狭い一室に運び込まれた彼はすでに目覚めていて、手枷を付けられた状態でロードヴェル達の前に座らされていた。
 机を挟み、ロードヴェルと数人の尋問官と共に尋問は始まったそうだ。

『さて、お前の名前はロミオスと言ったな? お前達は何故ここへ来た?』
『当然人殺しですよ。楽しくて仕方がありませんので』
『くっ……平然と答えおって。ならばお前達はここへどうやって来た? それとも、誰かに呼ばれて来たのか?』
『グレゴリと名乗るおじさんに呼ばれたのですよ。筋張っていて、殺し甲斐の無さそうな人でしたが、獣人や沢山の人を殺せると言われ誘われましてね』
『では、迷宮へチェックも無く入れたのは何故ですか?』
『グレゴリに持たされた紹介状ですね。便利な物でして、色んな所で役に立ちましたよ』

 それから幾つかの質問をするが、ロミオスは淀みなく答え続けた。グレゴリの紹介状も回収されており、彼を捕まえる為の証拠も次々と証言されていく。

『やけにペラペラと答えるが、貴様は自分の行為を反省したりしないのか?』
『反省? 私はただ本能的に行動しているだけで、悪い事をしていると思っていませんよ。だから隠す必要なんてありません』

 ロミオスのその言葉に全員は怒りを通り越して呆れ果てていたが、ロードヴェルは鋭い視線を飛ばしながら彼に質問したらしい。

『隠す必要が無い……ですか。では最後に一つ質問します。貴方達は誰にやられたのですか?』
『…………』

 自信満々だったロミオスに変化が起きたのはこの時だったらしい。大量の汗を流しながら妙に落ち着かず、目が泳ぎ始めていたそうだ。
 それから何度聞こうが自分達を倒した相手を吐こうとせず、遂にロミオスの方が切れた。

『いい加減にしなさい! 何故貴方達に説明しなければならないのです!』
『ですが、貴方ほどの実力者を倒した相手です。我々としては知っておかなければならない情報ですから』
『知りませんね。あんな化物……二度と見たくありません』
『これは相当な化物に出くわしたと見える。あるいは……見た目が全く予想できない相手ですか? 例えば……子供とか』
『っ!?』
『学校長、いくら何でも子供はありえませんよ。本当は貴方のゴーレムが暴走してこいつらを倒したとか、そういう話では?』
『あ……ああ……』
『それはそれで問題でしょう。おや、どうしましたロミオスさん? 妙にうろたえていますが、まさか本当に子供にー……』
『私の前で子供の話をするなぁぁぁ――っ!』

 叫びながら立ち上がり、魔法を詠唱し始めたところで……彼は死んだそうだ。



 そして次に尋問が行われたゴラオンだが、彼は連れて来る間も何度も話しかけたそうだが、一向に会話にならなかったらしい。
 何故なら……。

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……』

 虚空を見据え、頭を抱えたまま謝り続けるだけで何も反応しなかったそうだ。

『やはり駄目です。こいつは迷宮で発見してからずっとこうなんですよ。何を聞いても謝るばかりで会話にならないんです』
『困りましたね。聞きたい事が幾つかあったのですが』
『何かショックを与えてみますか? 学校長の魔法で良いのとかありません?』
『学校長!? 貴方が学校長ですか!』

 目の前の人物が学校長と知ると、ゴラオンは目が覚めたように顔を上げてロードヴェルに詰め寄ろうとしたが、全身を縛られているので無様に床に転がった。それでもロードヴェルに話しかけたいのか、這ってでも近づいていった。

『ええ、私が学校長ですが……それが何か?』
『学校長と名乗る者以外に話しかけるなと言われたんですっ! さあ早く質問してください! 早くしないと……早くしないと……あ、ああああぁっ!』
『で、では……』

 妙に慌てておかしいとは思ったが、質問に関しては怯えつつも素直に答えていた。
 この町へ来てから殺した人の数、その後の処置、過去の経歴や己の能力を含め全て洗いざらい吐いた。更に質問したわけでもないのに、好きな食べ物や一日のトイレの回数等も喋り始め、全て出し尽くそうと必死に捲くし立てていた。

『もう結構です。それ以上話さなくても大丈夫ですので』
『聞きたい事はそれで終わりですか!? なら早く……早くあいつを連れて来なさい!』
『あいつとは誰ですか?』
『知らない! 言えないんだよ! 頼みますから、あいつを……早くっ!』
『学校長、危険です、下がって!』
『うるさい! お前もさっさと連れて……ああ……ああああぁぁぁぁっ!』

 そしてゴラオンは死んだ。



「二人とも……死んだのですか?」
「ええ、ですが証拠を取れば彼等を生かす理由はないので、もともと正当防衛と称して始末するつもりだったのです。なのでロミオスは魔法を使えるように手枷だけにしておいたのですが……始末したのは私ではありません」
「では尋問官の人が?」
「違います。ロミオスは叫ぶと同時に突如頭が破裂し、ただの肉塊になりました。ゴラオンも同様で、外部からの攻撃は一切ありませんでした」
「頭が破裂? 何とも惨い処置ですね」

 俺がとぼけていると、ロードヴェルは射殺すような目で睨み、殺気を放ってきた。

「貴方は彼等に……何をしたのですか?」
「何を……とは?」
「私の経験と勘から言わせてもらいましょう。鮮血のドラゴンを全滅させたのはシリウス君……貴方ですね?」

 やはり感づかれたか。殺気に反応して戦闘スイッチが自動的に入り、俺は並列思考マルチタスクを起動させつつロードヴェルの威圧を真正面から受けた。

「何の事でしょうか?」
(ブラフの可能性大。だが万が一の可能性を考え『ブースト』発動準備アイドリング
(『サーチ』で弟子達の位置を確認。教室にて反応有り)

「この部屋の壁は音を吸収する特殊な鉱石を含んでいましてね、多少の物音なら外に聞こえないんですよ」
「……つまり、内緒話や多少の騒ぎなら気付かれないと?」
(『ブースト』の発動準備アイドリング完了。相手の詠唱と同時に発動し、目晦まし後即離脱)
(戦闘と同時に『コール』により弟子へ連絡。学校長室から離脱後、弟子を確保し学校より脱出)

「その上で聞きます。貴方はここへ何をしに来たのですか? もし学校へ危害をもたらす者となれば、私は実力行使に出ねばなりません」
「私は知識と年齢を重ねる為に、そして……弟子を育て守る為にここへいます」
(相手から魔力が高まるのを確認。『インパクト』が通じるか不明なので『マグナム』も考慮しておくべき)
(周囲に外敵無し。最短脱出ルートの選定……完了)

「その言葉に間違いはありませんね?」
「ありません」
(想定……完了)
(想定……完了)

 迷い無く放った言葉を最後に、俺とロードヴェルは無言のまま睨み合った。こちらから目を逸らす事は絶対してはならない。隙を見せるだけでなく、誠意を持って相手をするのがロードヴェルへの正しい対応だからだ。

 時間的に数秒……数分に及ぶ睨み合いは、ロードヴェルの殺気が消えた事により終了した。

「私の殺気にここまで耐えるとは、やはり君が倒したのは間違いなさそうですね」
「……ええ、そうです。私が彼等を倒しました。それにしても殺気を放ってまで試してくるとは、意地が悪い人だ」

 俺は素直に認めることにした。これ以上隠し通そうとしても誤魔化すのも面倒だし、同じ実力者としてこの人なら大丈夫だと判断したからだ。
 並列思考マルチタスクを解除し、戦闘にならなかった事に安堵する。二年も経てば学校にも愛着が湧いてきたし、弟子以外を捨てて街から逃げる事にならなくて本当に良かったよ。

「驚かせて申し訳ありませんが、これを機に貴方の本音を聞いておきたかったのです。その御蔭で、私とシリウス君は敵対する理由は無いというのがよくわかりました」
「それは結構ですが、少し強引過ぎませんか? 下手したら戦闘になっていたかもしれませんよ?」
「仕方がありません。前々から君の強さは怪しんでいましたが、まさか竜族や上級冒険者をあっさり倒す程とは思っていませんでしたからね。今回の事で危険を覚えてもおかしくありません」
「まあ……流石に今回はやり過ぎてしまったので」

 至極もっともである。
 弟子が傷つけられ切れてしまい、後先考えずボコボコにしてしまったからな。

「君は力を持っているが間違った使い方はしないようですし、礼節も重んじている。私個人の意見としては、シリウス君とは良好な関係を築いていたいのですよ」
「それはこちらもです。そこでお願いがあるのですが、私の実力については……」
「ええ、理解してます。それほどの力、貴族に知られれば厄介な状況になるでしょう。シリウス君については私だけの秘密にしておきます」
「心遣い、感謝します」
「いえいえ、今回の事件はこちらの不手際ですから当然です。それに、貴方と仲良くしないとこれからもケーキが貰えませんからね」
「それが本音か!」

 とにかく鮮血のドラゴン達の末路と、俺の実力については問題なく片がついたようで一安心だ。
 他にも報告したい事があるらしいのだが、内容が納得いかないようで、ロードヴェルは非常に苦い顔で話し始めた。

「それで今回の黒幕であるグレゴリですが……残念ながら確保出来ませんでした」
「逃げられたと?」
「その通りです。家に押し入ったらすでに蛻の殻で、幾つかの証拠と共に本人も消えていました。私達に任せておけと言いながらこの体たらく……情けない話です」
「いえ、学校長の対応は間違ってませんよ。それにしても逃げ足の速い奴ですね」
「魔法もですが、逃げる事に関しては飛び抜けていますからね。ただ、昨日の尋問で得た証言と、家から見つかった証拠で彼は指名手配となりました。手配書が今日中に街に配られ、少なくともこのエリュシオンで表立った行動は出来なくなるでしょう」
「彼に付いてきた他の人や生徒はどうなるのですか? そして迷宮に殺人鬼を連れて行ってしまったあの貴族二人は?」

 ハルトとメルルーサは傲慢な態度が見受けられたが、謝罪をしてくる殊勝な面も見られた。何もしていない者もいるのだから、大人の暴走に巻き込まれるのは可哀想だと思う。

「グレゴリが受け持っていた生徒は代わりの先生を指導に当たらせます。そしてハルト君とメルルーサ君は無罪と判断しました。何も知らない二人が、グレゴリに無理矢理押し付けられて連れて行った。つまり、グレゴリに全ての罪を被せるわけですね」
「悪い顔をしてますよ」
「そうですか? とにかく二人はまだ若いですし、他人に唆されて重い罰を与えるのはあんまりかと思いましてね。信頼する従者を失っていますし、今回の件で色んな事を学んだでしょう」

 俺達は全員無事だったが、貴族二人はそれぞれ三人も失ったのだ。家の方でも揉めただろうし、今回の事件は劇薬だったが良い薬となっただろう。

「それにしても助かりました。君の御蔭でゴラオンとロミオスの尋問がスムーズに終えましたからね」
「私はボコボコにしただけなんですけどね。やはり殺したのはやり過ぎでしたか?」
「いいえ、むしろ処分していただいて助かりましたよ。私一人ならとにかく、尋問官が巻き込まれるところでした」

 ロードヴェルは再び悪い顔で笑っていた。
 流石に学校長になれば、多少の悪を呑めねば上に立つ事なんて出来ないわけか。

「彼等は死んでますが、記録上は生きていると報告しています。グレゴリを完全に確保し、処分してから死んだと発表する予定なので」
「本当に悪いですね」
「褒め言葉として受け取っておきましょう。ところでシリウス君、二人に止めを刺したあれは一体なんだったのですか?」

 あれとはゴラオンとロミオスの頭が破裂した事だろう。目の前に居ないのに、遠距離にいる相手の頭を吹っ飛ばす能力なんてとんでもない能力だ。ロードヴェルの台詞も当然かもしれないが。

「秘密です。ですが対象にしばらく触れていないと出来ませんし、殺人鬼の様な相手にしか使う予定がありませんから、聞かないでほしいですね」
「……仕方ありませんね。君の人柄を信じてこれ以上は聞きませんが、あれは危険な力です。言うまでもないでしょうが、気をつけてください」

 思いの外あっさり引き下がってくれたが、あれを説明するとしたらただの『インパクト』だとしか言えない。俺の『インパクト』は時間差で発動出来る他、他人の魔力に呼応して発動させる事も可能だ。今回はそれを対象の頭に仕込み任意のタイミングで発動させただけに過ぎない。
 ではどのように狙って発動させたのか?
 ロミオスについては彼が魔法を使うのをトリガーにして『インパクト』が発動するように設定し、ゴラオンは本人が学校長以外に話し掛けたら、自身の魔力によってスイッチが入るように暗示をかけておいたのだ。意志が強い者には暗示は通じないが、弱った相手なら容易くかかる便利な技だ。前世で教えてもらった一つでもある。
 このように時間差なので証拠も出ないし、暗殺するにはもってこいの技だ。これが前世なら小型爆弾を仕掛けておいたってところだな。

 他に幾つかの結果を話し合い、俺と学校長の面談は終った。
 教室に戻った瞬間、エミリアとレウスが飛ぶように抱きついてきて、マグナ先生に怒られたのはまた別の話だ。



 午後になって講堂に全生徒が集められ、今回の事件が明かされた。

 学校の迷宮に殺人鬼が現れ、犠牲となった者がいる事。
 それを手引きしたのがグレゴリであり、彼は指名手配にされて姿を消した事。

 学校の不祥事を公開するとは剛毅だと思ったが、学校長の巧みな誘導により矛先は全てグレゴリに向けられていた。それにしても誘導が上手いものだ。伊達に四百年以上は生きていないな。

 全ての罪はグレゴリに集約され、学校長は今回の事件で学ぶべき事を壇上で説き続けていた。
 そんな中、近くにいたレウスは俺にそっと耳打ちしてきたのである。

「兄貴、あの生き残った鮮血のドラゴン達ってどうなったのかな?」
「さてな。たぶん、二度と会えないと思うぞ」
「そうなんだ。負けっぱなしって何か嫌だなぁ」
「やり返したい気持ちはわかるが、あんな下種共に勝つ方法を考えるより、俺に勝つ方法を考える方が遥かに有意義だと思うぞ」
「それもそっか。流石兄貴だ!」

 本当なら弟子達自身の手で奴等を倒させて障害を乗り越えていってほしかったが、奴等はあまりにも性格が危険過ぎた。
 勿論弟子達をやられた怒りもあったが、奴等と絡ませては悪影響があり過ぎると判断し、俺は完全に始末する事を決意したのである。
 俺がやらなくても処分されたようだが、今回は俺自身の手で始末しておきたかった。

 俺にとってエージェントとは、表舞台に立たず陰で仕事する者だ。
 綺麗事だけでは生きていけなかったし、今回のように秘密裏に対象を処理するなんて日常茶飯事だった。

 これらについては必要な時が来るまで弟子に話すつもりはない。
 下手に話して真似をしてほしくないからだ。

 暗殺するという事は、見方を変えればあいつらと同じ殺人鬼でもある。
 人殺しで喜ぶかそうでないかの違いだ。

 だが、あいつらを守る為なら俺は汚い仕事でも何でも請け負うつもりである。

 それは転生しようが、変わる事のない俺の基盤。

 師匠として……そして一人のエージェントとしての生き方だ。





 黒幕が消える後味の悪さが残ったが、こうして殺人鬼事件は幕を閉じた。

事件の結果という事で難産な話となりました。
色々加筆してこれくらいの長さですが、本来これを前話に入れようとしていたのですから、我ながら考え無しだなと思います。
これで六章は終わりですが、閑話を一つ二つ挟みたいと思っています。
+注意+
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