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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

六章 学校 最強編

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迷宮開放

六章開始です。
 学校に入学して二年が経過し、俺はもうすぐ十一歳になる。

 二年前にリースが弟子になってからも学校生活は順風満帆であった。
 身長は伸び、顔つきも大分子供っぽさが抜けてきて迫力が増してきた……気がする。
 学校では新たな知識を得て、俺の魔法陣技術も益々冴えを増していく。少し頑張れば、中級レベルでも描けそうだ。
 訓練も過酷さを増していき、学校も相まって忙しくも楽しい毎日を過ごしていた。

 そして俺の弟子達は……。



「おはようございます、シリウス様」

 早朝、ダイア荘の自室でエミリアに起こされる。
 朝は自分で起きていたのだが、彼女はそれ以上に早く起きて俺を起こしにくるようになったのだ。まだ朝日が見えるか否かの時間帯で、学生寮からここへ数分かかると考えると相当な早起きをしている事になる。勿論止めたが彼女は頑なで、一度も欠かす事無く起こしにきてくれる。メイド服もしっかり装備済みでだ。
 二年前、姉弟を拒絶して学生寮に住ませたのは、俺達以外の知り合いが出来れば良いという理由だが、今ではリースという友達も出来てクラスメイトとも仲が良い。未だにこちらへ住もうと画策しているし、朝早くからエミリアも大変なので、そろそろこちらへの引越しを許そうかと検討中だ。

「おはようエミリア。今日の予定は何かあったかな?」
「放課後にガルガン商会へ向かう予定がありますね」

 二年経ち、彼女は更に女性らしさが増して美しくなった。
 雰囲気も大人びてきて、時折彼女の仕草にどきっとさせられる。俺の体が女性を意識し始め、彼女が魅力的になったせいだろう。胸も順調に成長しているらしく、先日リースと測りあった際に喜びの声が隣部屋にいる俺まで聞こえた。
 そんな彼女も今では秘書的な行動もしてくれる。俺が堕落しそうだが、彼女がやりたいと懇願するので好きにやらせていた。益々従者ぶりが板に付いてきたものだ。
 エミリアは俺が完全に起きたのを確認すると、着替えを用意してから退室した。

「さて、今日も元気よく行きますか」

 眠気を振り払い、着替えを終えてから台所へ向かうと、すでにエミリアが朝食の準備に入っていた。その隣に並んで一緒に朝食の支度に入る。

「リースはどうだ? 昨日は足腰立たないくらい走らせたけど、今朝は大丈夫だったか?」
「シリウス様の治療の御蔭で問題なく歩いてました。そろそろ来るかとー……きました」

 エミリアが耳を立てて扉へ視線を向けると、ゆっくりと扉が開いてリースが姿を現した。

「おはようございますシリウスさん。あ、今日は間に合ったのね。私も準備するわ」

 リースもまたエミリアに負けず大人びており、流れるような青髪を一括りにして台所に並ぶ。狭い台所なので、流石に三人も並べば手狭になる。

「ここは私達に任せて、シリウス様はどうぞ休んでいてください」
「そうですよ。外の井戸で顔を洗ってきてください」

 背中を押され、俺は一人台所から追い出された。最近こんなパターンが多く、二人揃えば俺の作業を全て奪ってしまう始末だ。彼女らの好意は嬉しいのだが、趣味でもあるんだからもう少しやらせてくれと思う。
 休日の父親な気分で井戸へ向かうと、大きな狼が二足歩行で水を被っていた。こちらの姿に気付くと、犬歯を覗かせる獰猛な笑みで挨拶してくる。

「あ、おはよう兄貴!」
「レウスか。何で変身しているんだ?」
「たまには変身して慣れておかないとね」

 そう言うとすぐに体は縮み、二年前より少し精悍な顔つきになったレウスになった。背丈は完全に俺を抜いており、少しだけ子供っぽさが抜けてきたが、言動や天然ぶりは大して変化していない。その分剣の腕は更に増しており、そろそろライオルの実力の半分は引き出せそうな気がする。

「今日はどこまで走ってきたんだ?」
「あの山を一回りかな? やっぱり変身していると体が軽くて楽なんだよね」

 レウスが指差した山は直線距離でも三キロはあり、それを一回りしてくるとなると少なくとも十キロは走っている証拠だ。それを早朝の短時間で行うのだから、変身した状態のレウスは本当に強い。昔は楽に勝てたが、今戦ったら多少は苦戦するかもしれない。

「あまり過信するなよ。そういうのが油断に繋がるからな」
「変身しても未だ兄貴に勝てないんだから、油断しようがないよ」

 顔を洗いながらレウスに釘を刺していると、朝食が出来たとエミリアが呼んでくるのだった。

 その後朝食を終え、少し休んだら朝の訓練の開始だ。
 今日はエミリアとリースは魔法の練習、俺とレウスは模擬戦の日だ。日にち毎に弟子が入れ替わり、それぞれに合った訓練を施すのが今の主流である。

「どうしたレウス? 速度が下がってきているぞ」
「はぁ……はぁ……くっそ――っ!」

 先ほどから数十分に渡りレウスは木剣を振り続けているが、全て受け流されて一発たりとも俺に当たっていない。まだまだ体全体を使った動きが足りず、疲労によって隙が見え始めてきた。

「ほら、足元お留守だぞ」
「うわっ!? って、こんにゃろ!」

 袈裟斬りを避けつつ足を払えば、レウスの体が空中に投げ出されるが、彼はその体勢のまま強引に木剣を振ってきた。その機転の早さは認めるが、苦し紛れ過ぎて攻撃が弱すぎる。難なくその一撃を受け止めると、レウスは悔しそうな顔のまま地面へと激突した。

「ほい、終わりだな」
「はぁ……今日も駄目だったか」

 地面に転がったレウスを引き起こし、今回の失敗点を挙げていく。彼の場合は感覚で教えるのが一番だが、自分で考えて学ばないと駄目なのであえて詳しく説明している。
 ふむ、少し早く終ってしまったな。リースの様子を確認してみるか。

「お疲れ様ですシリウス様、どうぞタオルを。それとレウスもね」
「あんがと姉ちゃん」
「ありがとう。ところでリースはどうしてる?」
「あちらで練習しています」

 渡されたタオルで汗を拭きながらエミリアの視線の先を見ると、目を瞑って集中しているリースの姿があった。彼女はレウスと違って魔法専門なので、体力は必要最低限で魔法の練習比率が多い。最低限とは言うが、それでも毎日数キロはマラソンさせている。スタミナは大事だからな。
 訓練当初、彼女は全く走れず自分に悔しくて泣いている現場が多々あった。だがエミリアとレウスの激励と、本人のやる気と根性によって今では立派に成長していた。

 近寄って様子を見に行けば、彼女は目を開いて微笑んでくれた。彼女の周辺に違和感を感じるので、水の精霊が集まっているのだろう。

「調子はどうだリース?」
「順調です。見ててください。水よ、お願い……『水霧アクアミスト』」

 彼女が魔法を発動させると霧がダイア荘全体を包み込み、視界が著しく制限された。先ほどまで見えていた家は全く見えなくなり、それどころか目の前に立つリースの姿でさえ霞んで見えるので、相当な濃霧だと予想される。

「な、何だこれ!? 兄貴! 姉ちゃん! どこ行ったんだ?」
「落ち着きなさいレウス。下手に動いちゃ駄目よ」

 背後からそんなやり取りが聞こえる中、俺はこの霧を観察し続けていた。俺の『サーチ』は有効のようだし、あくまで視界を阻害するだけの魔法か。とはいえ、使い道を誤らなければ非常に役に立つだろう。まだまだ改善点が必要だが。

「……失敗ですね。霧が濃すぎて皆さんの方が危険になります」
「リースは俺達が見えるのか?」
「え? あ、はい。発動者である私には皆さんがはっきり見えますよ」
「だったら俺達にもそうなるようイメージしてみるんだ。それを精霊に伝えればきっと応えてくれる筈だ」
「はい!」

 俺の指摘にリースはイメージと呟きながら目を閉じる。普通の人に言えばそんなのは無理だと鼻で笑われそうだが、彼女はイメージの大切さを二年間で十分判っている。その姿を見守っていると、背後から服を引っ張られる感覚があったので振り返ると、笑みを浮かべたエミリアが立っていた。

「シリウス様、見つけました」
「この霧の中でよくわかったな。俺の立っていた位置を覚えていたか?」
「いいえ、シリウス様の匂いですよ」

 彼女は俺の匂いならたとえ山の向こうからでも辿って見せると自負している。そんなエミリアの特技は置いといてだ、この霧は匂いも阻害しない上に風の魔法で簡単に吹き飛ばせそうだ。過信しないように後で言っておこう。

「イメージ……お願い!」

 リースが大きく声を出すと、突如俺達の視界から白い世界が消えた。座り込んでいるレウスの姿がはっきり見え、本当に濃霧の中にいるのかさえ判らない程だ。

「いいぞリース。君の顔がはっきり見える」
「私も見えるわ」
「やった! ありがとう精霊さん」

 彼女は精霊がいるであろう場所を見据え、お礼を言いつつ魔法を消した。
 やはり精霊を使った魔法、精霊魔法は強力だ。これ程の濃霧を発生させるとなると、並みの魔法士では確実に魔力が枯渇しているだろうが、彼女は額に汗を滲ませる程度だ。これでもまだ修行途中なのだから、将来どれ程強くなるか想像もつくまい。有力者が囲いたくなるのもわかる気がする。

「どうでしたかシリウスさん?」
「ああ、中々良かったよ。ただ、この魔法は色々欠点があるから気をつけるんだ。例えば……」

 先ほど挙げた問題点を説明して過信しないように言い聞かせると、彼女は納得してしっかりと頷いてくれた。

「リースもようやくイメージのコツを掴んできたね。指摘してすぐに実用出来るなら、もう少しだと思う」
「本当ですか!」
「ああ、今まで頑張ったから当然だろう。イメージで思ったんだが、この霧に回復作用を含めれば範囲回復とかできないのかな?」
「なるほど! とても良い考えですね」
「ただ、凄く消耗しそうだが」
「いいえ、出来るようになればもっと沢山の人が癒せます。流石シリウスさんです」

 二年前なら、霧は霧なので無理ですよ……と言っていただろうが、成長したものだ。今では先ほど述べたように積極的に挑戦し、魔法の常識を覆していく日々を送っている。
 このように彼女の常識を壊すのに二年近くかかったが、ここからが本当の勉強だろう。

 以上が、二年間における弟子の成果である。
 順調に成長を続ける弟子達に負けないよう、俺も更に高みを目指さなければなるまい。

 その後、体の手入れを済ませ俺達は学校へと向かった。



「おはようエミリア、リース」
「おはようございます、兄貴!」
「ねえねえリース、昨日の課題でわからないところがあるんだけど、教えてくれない?」
「はよございます、兄貴!」
「エミリア聞いたわよ! この間メイア様の勧誘を振ったって本当!?」
「今日もご機嫌麗しゅう、兄貴!」

 教室に入れば姉弟とリースの周りには人が集まる。朝の恒例行事であるのだが、何故か俺の周りには誰も集まらない。レウスの一番舎弟でルームメイトであるロウの情報によると……。

『親分に声をかけるには兄貴と姉御に話を通さないと駄目だと、そういう噂が広まっているそうです。それと兄貴の様な強者を命令出来る御方ですから、皆恐れているとも言います』

 そういえば二年前のアルストロの入替戦トレードにおいて、俺はレウスに命令しまくっていた。あれを見た舎弟達が、俺とレウスには絶対的な上下関係があると実際に見て理解したのだろう。それが二年の内に迂曲し、俺は雲の上の存在になっていたわけだ。
 でも大丈夫だ、俺にもちゃんと話しかけてくれる人はいる。 

「おはようシリウス君。相変わらず従者達が人気者だね」

 今日もイケメンを振りまきながら登場したマークである。さらさらの赤髪を靡かせつつ、俺の前に立ちながら優雅に挨拶をしてくる。

「おはようマーク。あいつらが人気なのは良い事だよ」
「君も相変わらずだな。普通なら嫉妬しそうなものだがね」
「確かに俺はあいつらの主人だけど、人気は個人で勝ち取ったものだ。それに嫉妬するなんて貴族じゃなくても情けないだろ」
「違いない。そうそう、昨日頂いたケーキだが……とても美味しかったよ」

 実はこのマーク、昨日で十三歳の誕生日だった。平民はパーティーに参加出来ないので、俺はせめてと思いケーキを作ってプレゼントしたのだ。
 マークは窓の外へ視線を向け、幸せを噛み締めるように目を細めていた。

「衝撃だった。今まで食べていたケーキは一体何だったのかと考えさせられる味だったよ。君は本当に凄い。以前エミリアを誘った僕が言うのもなんだが、君さえよければ僕の家に仕えてみないかい? 勿論それ相応の地位を約束するよ」
「ありがたい話だけど断らせてもらうよ」
「そうか。わかっていたが、実に残念だ。だが僕の従者枠はいつでも空けておくから、気が変わったらいつでも言ってほしい」
「すまない」
「気にするな。ところでだ、あのケーキをまた作ってくれないかい? 僕もそうだが、弟と妹にも是非食べさせてやりたいのだ」

 ケーキ中毒者がまた一人増えた。このまま芋づる式で更に増えそうな気がする。

 そのままマークとケーキ談義をしていると、ケーキ中毒者の中でも一際飛びぬけた中毒者であるマグナ先生が教室に入ってきた。夢中に会話している内に、午前の授業が始まる時間帯になってたようだ。

「おはようございます。本日は皆さんにお知らせしたい事があるので、午前の授業を少し削って説明の時間にさせていただきます」

 今日の午前は実技だった筈だが、何か重要な話があるらしい。温和なマグナ先生が真面目な顔をしているので、教室は緊張した空気が漂っていた。

「皆さんがエリュシオン学園に入学し、はや二年経ちました。来週から午前はここで授業になり、午後からは各人の希望した専門分野の特別教室で学ぶ事になります。その辺りはご理解されているでしょう」

 俺と弟子が希望した専門分野は以下の通りである。
 俺は魔法技師科、レウスは剣術科、エミリアは風の魔法科、そしてリースは水の魔法科だ。
 しかしこれは先週にも話した内容だから、わざわざ午前の時間を削ってまで説明する話ではない。何か他にもあるようだが。

「ここからが本題ですが、専門分野の授業が始まると同時に……迷宮が開放されます」

 迷宮の開放と聞くと、クラスメイト達はテンション高く盛り上がり始めた。隣を見合いながら、パーティーを組もうとアイコンタクトを交わしあっている。

「迷宮について知っている方はいるでしょうが、危険確認も含めて説明しましょう。まず迷宮とはこの学校の北西にある洞窟の事を指します」


 闘技場の時もだが、迷宮があると知った時は改めて凄い学校だと思ったものだ。

 学校の迷宮は地下十階まである迷路のような洞窟であり魔物は存在しないが、中には罠が満載なのだ。
 矢が飛んできたり、火柱が噴出したりと、油断すれば大怪我になりかねない様々な罠が大量に仕掛けられている。過去の偉人によって作られた魔法陣を使った罠で、一度引っ掛かれば消えるが、しばらくすれば復活して再び迷宮に現れるそうだ。何とも不思議な現象だが、おそらく迷宮自体が一つの魔法陣ではないかと俺は睨んでいる。
 過去の偉人……あの幸せそうにケーキを食べていた学校長が関わっている気がする。

 何故学校にこのような施設があるかと言うと、緊張感のある実施訓練場所としてだ。
 外の世界にある様々な迷宮は、過去の人々が隠した宝が眠っている事が多いが、それ相応に危険も付き纏う。迷宮探索には体力、気力、知識が必要不可欠であり、失敗すれば速攻で死に繋がるシビアなものだ。
 貴族だろうが平民だろうが自分のミスが他人を危険に晒し、また罠を警戒する慎重さを身を以って知る……それらを体験させる為に作られたのがこの迷宮らしい。

 実は卒業するだけなら潜らなくてもいい迷宮であるが、地下十階までクリアすれば当然メリットはある。施設の優先使用権、関係者以外禁止の本を閲覧できたりと他にも様々な特典がある。

 挑戦は一パーティー四人までで、迷宮を開放してから一番でクリアした新人パーティーには、生徒達憧れの栄誉あるマントが学校から授与されるそうだ。
 それを狙い、特に貴族は積極的に参加する。マントを貰えれば家名の箔にもなるし、何より目立つ。開放から数日間は貴族だらけになるのも毎年の恒例らしい。

 ちなみに迷宮に入るには事前に申請し、それが通れば午前か午後の授業を免除して挑戦する流れだそうだ。


「――以上が迷宮の説明になります。質問があれば随時受け付けますので、私の元へ来てください。それでは遅くなりましたが、外に出て実技を始めましょう」

 マグナ先生の言葉に、クラスメイト達は立ち上がって訓練場へ向かう。クラスメイトが姉弟やリースを誘いにくるかと思いきや、周囲は大人しいものだった。後になって判明したが、俺がいない間に姉弟とリースは俺以外と組むつもりはないとはっきり断言していたとか。迷宮に行くかどうかはまだ一度も話していないが、俺が行かないと言ったらどうするつもりだったのやら。
 訓練場に向かう途中、迷宮の話があちらこちらで盛り上がっていた。当然ながら俺達の話題も迷宮関係である。

「兄貴、迷宮挑戦するのか?」
「当然行くさ。これも訓練になるだろうし」
「どんな感じなんだろうな。一パーティーで四人までだから、俺達はもう決まってるな」
「そうね。私達なら問題ないわ」
「私も足を引っ張らないように頑張ります」

 俺達も挑戦するつもりだが、開放されてすぐに行くのは止めておくべきだろう。初日の迷宮は貴族で埋め尽くされるらしいので、貴族をぶっ飛ばした事のある俺達に絡んでくるアホがいるかもしれないからだ。
 いつから挑戦するか考えていると、会話を聞いていたクラスメイトが俺達に話しかけてきた。

「ねえねえ貴方達も挑戦するんでしょ? 一番クリアのマント……狙ってみたら?」
「だよね。レウス君とエミリアがいるなら絶対行けるよ!」
「それについてはシリウス様に聞いてみないと……どうされますか?」
「面倒だからパス」

 正直マントなんかもらっても貴族の反感を買いそうだし、俺のメリットがほとんどない。後からのんびりとやってきて、迷宮の空気を味わえればそれでいい。

「勿体無いなぁ」
「仕方ないよ。アイオーン組の連中とか凄い煩そうだし」
「そうだよね。で、あたし達はどうする?」
「勿論挑戦だよ。でもまずはメンバー探さないとね」

 姦しい二人は他のメンバーを探しつつ教室から出て行く。俺達も教室を出ようとしたところで、マグナ先生が俺を手招きしていた。何だかんだで色々世話になっているマグナ先生の元へ歩み寄る。

「何か用でしょうか?」
「シリウス君は迷宮に参加されるのですか?」
「ええ、そのつもりですが不味いですか?」
「いえいえ、そういう話ではありません。参加するなら学校長からこれを渡しておけと言われましてね」

 渡されたのは学校の校章が描かれた一枚のメダルだった。

「迷宮前の入り口には門番が待機しているのですが、これを見せれば素通りですよ」
「使い方はわかりましたが、何でこんな物を?」
「シリウス君は冒険者を雇わないと確信していますからね。特に貴方達は全体的に幼いですから、門番が心配して通さないという手間を省く為ですよ」

 迷宮は一パーティー生徒四人での挑戦だが、実は二名までなら追加で冒険者ギルドに登録した冒険者を雇う事ができるそうだ。用意するのは手間だが、安全な上に現役の腕前を目の前で見られるし、冒険者付きでクリアしても問題は無い。これは、優れた冒険者を選んだ観察眼もクリアの対象に含まれるからだ。当然運もあるが、それはそれで……という曖昧な部分もある。

「なるほど、わざわざありがとうございます。初日は無理ですが、いずれ挑戦させていただきます」
「ええ、シリウス君ならあっさりクリアしてマントを授与されると思っていますよ」
「それは無いでしょう。私が入る前に貴族達が先にクリアしてしまいますよ」
「それがですね、学校長が今回は難易度を上げるどころか一際意地悪に仕上げたとー……おっと、これ以上は禁句でした。忘れてください」

 洩らしたの絶対わざとだこの人。
 内容から迷宮の調整は学校長がやっているのがわかるが、意地悪に仕上げたのは俺がいるからってわけじゃないよな? そんな職権乱用するならケーキの差し入れ止めるぞ? とりあえずマグナ先生に追及してみた。

「それは私にはわかりませんね(にっこり)」
「マグナ先生、今度アプで作ったフルーツケーキの試食を……」
「その通りです。全て学校長の独断です(きっぱり!)」

 ケーキの前では権力も無意味であった。
 一ヶ月に数回程ケーキの差し入れ(しないと煩い)をしているのだが、学校長には一回休みと心に決めた。
 それを知った学校長は大層嘆いたそうだが、知った事ではない。それでも迷宮の難易度は変えなかったようなので、学校長の意地は通したようだ。





 放課後になり俺達はガルガン商会、エリュシオン支店へと顔を出した。
 他の店に比べて一際大きい土地と建物で、いつ来ても人の足が途絶える事のない繁盛ぶりを見せてくれる。
 勝手知ったる俺達は裏口から堂々と入る。もちろん見張りはいるが俺達は顔パスなので、軽く会釈されたので返しておいた。

 裏口から事務所に入ると、中央にある机を前に数人が帳簿やら仕入れ表と睨み合っていたが、俺達の姿に気付いた一人が立ち上がって小走りにやってきた。

「来てくれたっすか旦那! ささ、こんな所じゃなくて奥の方へどうぞっす!」

 迎えてくれたのは、俺達をエリュシオンへと連れて来てくれたザックだった。当時はエリュシオンへの配達要員だったのだが、一年前にこの支店の店長に就任したのである。


 一年前……あの時は中々の騒ぎになった。
 滅多に人が訪れないダイア荘に、ザックとその上司であるガッドがいきなりやってきて土下座をしてきたのだ。

『お久しぶりです。ですが挨拶前にまずは謝らせてください』

 何事かと思い話を聞いてみれば、安全な旅を約束すると言いながら盗賊に襲われたり、問題だった商会の不正証拠を発見してくれたのに、一年も何も言わず放置していた点に謝りたいそうだ。
 ではこの一年間何をしていたのか? どうやら周りの商会と手を組んで問題の商会に不正証拠を武器に戦い続け、数日前に跡形もなく潰す事に成功したらしい。そこでようやく自由に動けるようになったので謝りに来たというわけだ。

『俺達はただ盗賊を追い払って尋問しただけですよ。それに問題は解決したんですから、堅苦しい話は止めましょう』
『旦那……ああ、そうだな。だがしっかり謝罪しないとディーの奴に殴られちまうんだよな』

 そこでようやく顔を上げて、頭をかきながら豪快に笑ってくれた。そしてディーを無事に送り届けた話や、俺の渡したリバーシや新たな携帯食である乾燥麺の話になった。

『本当に俺らの商会であれを売り出していいんですかい? 正直革命と言えるような物もあるし、売り上げがとんでもない額になりそうな気がするぜ?』
『俺は商人じゃないし、自分だけで使うのも勿体無いでしょう? それに難しく考える必要はありません。これは俺が情報を売るからお金が欲しい、それだけの話です』

 俺が売る情報とは、遊び道具のリバーシと乾燥麺に携帯用のスープの元である。

『わかりました。ですがこれだけの儲けの種を金額にしろと言われても、正直判断がつかないんですよ』
『それなら毎月の売上げの一部を俺に、というのはどうですか? 期限については無理の無い範囲で任せます』
『ふむ……悪くない。では状況によって変わりますが、売り上げの大体二割を旦那の取り分で、期限は一年でどうですかね?』
『期限は良いが、取り分について一言あります。俺達は一割でいいので、残り一割はディーの方へ回してほしい』

 先日届いた手紙には、ディーは無事に食堂を開店したと書いてあった。特殊な食材や調味料の納入はガルガン商会に頼っているようなので、売上げの一割はその補填に回してほしい。

『……良いんですか? たった一割でもそうとうな金額になりますよ?』
『俺は今それほどお金を必要としていないし、学校に入っているから苦労していないんです。それに比べてディー達は大変だろうし、主人として少しでも何かしてやりたい』
『器の大きい御方で。わかりました、ではそのように契約しましょう。誓約書は改めてこいつに持って来させるんでよろしくお願いします』

 ザックを前面に押し出して改めて挨拶させる。それにしてもザックが妙に笑っているが、どうしたと言うのか?

『今度からこいつ、ザックをガルガン商会、エリュシオン支店の店長に就任させたんで、何か必要な物があればこいつに言ってやってください』
『オイラ一生懸命やりますんで、これからもよろしくお願いしまっす旦那!』

 ああ、だからにやけてたのか。
 それから彼らと契約を結び、そろそろ送ろうと思っていたディー達への手紙と荷物を渡して解散となった。


 そんな事もあって、俺とザックの付き合いはそろそろ一年になる。
 時折呼ばれては売上げ金を貰って世間話したり、俺の知識で助言したりと、ザックとは中々良い関係を築けている。今日もおそらくお金を渡す為に呼んだのだろう。
 広いわけではないが少し豪勢な社長室に招かれ、俺達はくつろぎながらザックの話を聞いていた。

「これが今月の売上げ分っす。発売してから一年経ちますけど、未だ売れ行きが落ちる気配が微塵もしないっす。いやぁ、笑いが止まらないっすね」
「兄貴が考えた物だから当たり前だぜ!」

 渡された袋にザックが教えてくれた金額が入っているかしっかりと数えておく。
 そこまで金に拘っていないし、信頼できる相手だから騙しているとは思わないが、これも商人とのやり取りで重要な事なので、きちんと数えておくのが礼儀だ。

「確かこの売上げ分で最後だったよな? 長い間ありがとう」
「いえいえ、そういう契約ですし、俺達は十分に稼がせてもらいましたよ。また何かあったらよろしくっす」

 商売の話を終え、その後は世間話となった。ザックは年上でも気さくなので話して疲れないし、商人という事で市場に詳しいので貴重な情報源となっている。

「ああ、ついに旦那も迷宮に入れる年になったんすね。ならあのマントは貰ったも同然っすね」
「別にマントはいらないが、やはり商人でも有名なのか?」
「正確に言えば貴族にっすね。学校のローブと同じ素材で作られている上に、有名な魔法技師が直々に描く特殊な魔法陣で実用性も優れるだけあって、持っているだけで有名になれるんすよ。貴族同士の話では、大人になっても使っている者がいるらしいっすよ」
「へえ、貴族が群がって手に入れたくなるのはそういうわけか」
「シリウス様、上級生の話によりますと迷宮はそうとう難しいそうですよ」
「私も聞きました。開放して半年経ってもクリア者が出ない時もあったらしいです」
「ロウの話だと、平民があっさりクリアした時もあるらしいよ兄貴」

 何だか弟子達の意見が食い違っているが、おそらく原因は学校長の調整ミスだろう。
 半年かかったのは難易度を上げすぎた為で、あっさりクリアしたのはクリア者が出ないので、難易度を下げた時にちょうど挑戦したのだと思う。そんなムラが多い迷宮であるが、今回は難易度高めの意地悪仕上げと来ている。果たして何が待ち受けているのやら。




 その後ザックから夕食に誘われ、俺達は『春風の止まり木』へと向かうことにした。
 久しぶりに食べるジャオラスネークにテンションが上がるレウスと、それを宥めるエミリアとリースは種族は違えど仲の良い家族に見えた。
 そんなほっこりする光景を眺めながら少し後ろを歩く俺だが、ふいにザックが小さな声で俺に囁いてきた。

「旦那……ちょっと気になる事があるんで報告させていただきます」

 前を歩く三人に不審がられない距離を保ちつつ、俺とザックは誰にも聞かれない小さな声で会話を続けた。

「聞こう」
「最近、妙な話が出回っているんですよ。入手源がわからないお金で魔道具が大量に買われたり、怪しい連中がよく見られるそうっす。そんな奴らがよく語る言葉が……革命だと」

 商人なだけあってザックは裏の世界にも詳しい。そんなザックには気になる点があれば、裏だろうが何だろうが教えてほしいと俺は頼んでいるのだ。
 勿論最初は渋られたが、独自で調べた裏の話を一つ二つ話したら認めてくれた。それ以来、こうして弟子達に内緒で話し合う事が多々ある。
 今回に至っては相当怪しい話らしく、ザックの顔は終始呆れ顔だった。

「ですが、王様の手腕で市場も裏もバランスは取れてますし、革命を起こす理由が見当たらないんすよ。何を掲げて革命するかわかりませんが、賛同する者も少ないでしょうし、そもそも王様の住む城を乗っ取るなんて事が不可能っす。それこそエリュシオンの住民の半分が味方にならないと無理っすね」
「わからないぞ。王様の側近や、息子が何か企んでる可能性だってあるんだ」
「なるほど。考えればキリが無いっすね。ですがオイラが伝えたいのは革命の事じゃなくて、その怪しい行動を行っているのが貴族という点なんすよ」
「貴族か。どうもアホな連中が多いからな。下らない理由で革命だとか言いそうだ」
「オイラも同感っす。その貴族と旦那は勝負した事があるそうですから、目を付けられてる可能性があるって言ってましたよね? 何かあったら巻き込まれないように気をつけてくださいって事っす」
「忠告ありがとう。何かあったら頼らせてもらうよ」
「ういっす。我がガルガン商会は旦那ならいつでも匿いますから、夜中だろうと遠慮なく飛び込んで来てくださいっす」
「そんな状況にならないように気をつけるさ」

 頼もしそうに胸を叩くザックを眺めていると、俺達との距離に気付いた弟子達が引き返してきた。

「兄貴ーっ! のんびり歩いていないで早く行こう!」
「こらレウス。もうちょっと落ち着きなさい。ささ、シリウス様、私が補助をしますので行きましょう」
「ジャオラスネーク美味しいですよね。早く食べたいです」

 右手を引っ張るレウスに、左手を遠慮がちに引っ張るリース、そして背中をエミリアに押されつつ強制的に前へ進ませられる。

「大人気っすね、旦那」
「はは、全くだ」

 この二年間で一番の変化は、俺達三人家族が四人家族になった事だな。
 特にリースは前なら自分から俺に触れる事なんかしなかったのに、今ではこんな風に手を引っ張ってくれる程度に心を許してくれてるようだ。

 食欲に支配されている弟子三人に苦笑しながら、俺は『春風の止まり木』へと強引に歩かされるのだった。


何だか非常に難産な話になりました。
説明が苦手ってのもありますが、とにかく予想以上に時間が掛かってしまいました。
申し訳ありませんが、次の更新も三日目になるかと。
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