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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

四章 学校を目指して

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ガルガン商会と旦那

 我が家から一番近い町である、アルメスト。
 町の規模は先日行ったメドリアより一回り小さく、治安はあまり良くないようだ。父親であったバルドミールの意向もあるのか、獣人の数が極端に少ないのが特徴だろうか。
 とはいえディーとノエルが買出しに来ていた町であり、エリナの薬を売っていたのもここだ。俺達の暮らしに必要だった町である。


 俺達は早朝に家を出発し、昼前にアルメストに辿り着いた。
 町に着いて早々ディーはお得意先の人物の元へ向かい移動手段を確保する為に別れ、俺達は町をぶらぶらと散策した後、今は合流先である町の食堂で昼食を食べていた。

「そういえば二人は町って初めてなのかな?」

 食事を摂りつつフードを目深に被ったノエルは、同じフードを被る姉弟に声を掛けた。フードを取らないのはもちろん獣人だとばれない為であるが、三人もいたら逆に目立ってないかこれ?

「初めてじゃないです。奴隷の頃に何度かありました。けど、ずっと馬車でしたから町並みなんて見れなかったですね」
「町に着いたのに俺達はずっと牢屋だったもんな。だから町を歩くのは初めてだよ」

 心が強くなった証拠だろう、辛い時期を話しても姉弟の表情に悲痛さは感じられなかった。

「そっか。じゃああんなにキョロキョロするのも無理ないよね」
「うん、珍しい物がいっぱいあった」
「色んな人がいて、色んな匂いが混ざって不思議でした」
「だよね。私も初めての時は本当に落ち着かなかったなぁ。その時はアリア様に拾われた直後でね、不安でたまらなかったの。でもアリア様が繋いでくれた手が暖かくて、町を出ても放さなかったもんなぁ」
「ノエル姉もそんな時があったんだな」
「当たり前じゃない。というか、貴方達もシリウス様の服を掴んでたのお姉ちゃんは知っているんだからね」

 そうなのだ。今は席に座っているせいで離れているが、町に着いた瞬間から姉弟は俺の袖を掴んで放さなかったのだ。奴隷時代で多少は人間不信もあるのかもしれない。袖が伸びちまうし、早めに慣れてほしいものだ。

「その……人がいっぱいで落ち着かないんです。ですがシリウス様といると落ち着きますから」
「そうだよ、人ってあんなにいっぱいいるんだな。なのに兄貴はいつも通りだし、やっぱすげーぜ!」
「まあもっと多くの人がいる町に行ったし、基本は慣れだ」

 前世で都会におけるスクランブル交差点の人間雪崩を味わえば、この程度の人口密度なんて軽いものだ。

「人はどこでもいるんだ、早く慣れてしまいなさい。それにお前達なら、そこら辺の冒険者相手でも十分勝てる。自信を持っていけ」
「わかりました」
「だよなぁ、兄貴やじいさんみたいなのが沢山いたら怖いもんな。それにしてもこれは……」

 注文した肉と野菜の炒め物に箸を伸ばしながらレウスは首を傾げていた。食べるのを止めてはいないが、あまり美味しくなさそうなのは確かだ。

「兄貴とディー兄が作った物と全然違うな」
「そうね。雑と言いますか、火が均一に通ってないね」
「あはは……駄目だよ二人とも。シリウス様とディーさんが凄いだけで、これが駄目なわけじゃないからね」

 火が均一で無い上に、湯通しされてないからだろうな。野菜の味を塩と胡椒で誤魔化し、肉の旨みだけで強引に作った物だ。雑だが、これはこれで味があるので悪くはないがな。

「お待たせしました」

 食事を食べ終えた頃、ディーは一人の男を連れて現れた。
 茶色の短髪に左目に黒い眼帯を付けていて、少し太り気味だが恰幅が良さそうな男である。

「シリウス様、こちらは俺の元冒険者仲間であるガッドです」
「初めまして、私はこの町のガルガン商会で長をやっているガッドと申します」
「こちらこそ初めまして。私の名前はシリウスと申します」

 差し出された手を取り握手すると、ガッドの利き手には小指が無かった。そして手から感じる武器を握り続けた痕からして、彼もディーと同じく怪我から冒険者を引退した者なのだろう。

「ディーから聞きましたが、貴方が私達の薬を買い取ったり欲しい物を融通してくれたそうですね。改めて御礼を言わせてください」
「そんな滅相も無い! 良質な薬や素材を長期に得られて、我々こそ御礼を言いたいくらいですよ。実際に会ってわかりましたが、ディーが言われた通り素晴らしい御方ですな」
「だろう? お前が絶賛したヤキソバはシリウス様から教わったものだ」
「あれをか!? あの濃すぎて使いづらかったタレをあの様に調理する発想力、これは末永くお付き合い願いたいものですな」

 握手が急に強くなり、腕を上下に振られる。このガッドって人はディーとは正反対な感じだが、用心深くあまり喋らないディーと親しげにしてる時点で信頼はできそうだ。

「失礼ですがディーとはどのような関係で?」
「敬語なんかいりません、ディーと同じように接してください。関係は先ほどこいつが言った通り、元冒険者仲間ですよ。俺達はとあるパーティーの一員だったんですがね、ある日俺が凶暴な魔物に襲われてこいつに助けられたんですよ。ですがそのせいで片目と小指をやっちまいまして、引退を機に前々から興味があった商人になったわけです」
「初めて買出しに来た時はびっくりしたぞ。まさかお前がこの町にいるとは思わなかった」
「そりゃ俺もだ。お前こそ従者になって買出しに来た時はたまげたぜ。恩人って事で多少の不利益覚悟で商売してたが、気付いたら利益が増えるばかりだ。お前とこちらの旦那には足を向けられないな」

 気付いたら旦那呼ばわりされ、目上に対する扱いになっていた。俺、貴族じゃなくなった上にこの人とは初対面なんだがなぁ。

「とまあこいつとは腐れ縁かつ恩人なんですよ。さて、そろそろ商売の話と行きましょうか。確か馬車の確保だっけ?」
「そうだ。俺とノエルは東へ、シリウス様と従者二人は西の方へ行く馬車を今日中に用意してもらいたい」
「今日中か……理由は聞くつもりはねえが、ずいぶんと急だな」

 ガッド氏は渋い顔で唸っているが、やはりすぐは無理があったか? 出来れば今日中に町を出ておきたいのだが。
 俺達はバルドミールの追及を避ける為に、夜逃げ(夜じゃねえけど)してるようなものだ。今日明日で来るとは思わないし、実は全く気にされてない可能性もあるが、念の為に奴の領地から早めに離れておきたい。

「今日が無理なら明日でも構わないよガッドさん。俺達も無理を言ってる自覚はありますから」
「いえいえ、やろうと思えばどうとでもなります。ですが、せっかく知り合えたのにすぐお別れってのが寂しくてですね」
「何を言ってるんですかガッドさん。どうせシリウス様から知識を貰おうとか思っているんじゃないんですか?」

 ノエルがここぞとばかりに噛み付いていた。いつもディーと一緒に町へ来ていたし、ガッド氏も獣人を嫌う素振りは無いので、軽口を言い合う程度には仲が良いのだろう。

「ははは、ノエルちゃんには敵わねえな。だけど別れるのが寂しいってのは本当だぜ。ディーも色々教わったようだし、俺も教わりたかったよ」
「教わりたかったって、俺は子供だぞ?」
「ディーをここまで変えた御方だ。旦那を子供と思っちゃ駄目だと、実際に会って益々思ってますよ」
「正しい判断だガッド。ところで馬車の件はどうなんだ?」
「それなんだが、運が良かったなディー。俺は今日から馬車で東へ向かうつもりだったんだ。荷物と一緒だが載せてってやるよ」
「それはよかった。だがシリウス様の方が重要なんだが」
「安心しろ、そちらも丁度良いタイミングだ。とりあえず馬車乗り場に向かおうぜ」

 食堂を出て、ガッドに誘われるまま俺達は町の馬車乗り場へと向かった。

 大小様々な幌馬車が並べられており、その内の一つである、定員八人程の大きさの馬車へとガッドは足を向けた。

「おーい、ザック。準備は出来てるか?」

 ガッドの声に馬車の中から男が顔を出した。ガッドをそのまま一回り若く小さくした男で、眼帯も無く指も健在だが、隣に並んだら年の差兄弟に見えなくもない。

「準備万全だよ兄貴。後は護衛を待って出発するだけなんだけど、見送りかい? やばいな、今回の配達は魔物に襲われそうだな」
「変な事を抜かすなバカ野郎。乗せていってほしい人がいるから、今すぐ樽と鉱石箱を二つ降ろせ」
「はあ? 何だよそれ、売り上げが下がるじゃねえか」
「いいからさっさとやってくれ。お得意様の頼みなんだ、責任は俺が取るからよ」
「仕方ねえな。兄貴も手伝ってくれよ」
「わかったわかった。っと、そうだ。旦那は西と言われましたが、どちらまで向かうとか聞いてよろしいですかい?」

 振り返って俺に問うガッドは申し訳無さそうだった。理由を聞かないとは言ったが、場所がわからなければ先ほどのザックに説明しづらいのだろう。

「目的地はエリュシオンだ」
「なるほど、こいつの行き先もエリュシオンなんでバッチリですな」
「荷物を降ろさせて悪いな」
「いえいえ、今まで稼がせてくれた礼でもありますから。それじゃあ俺はあいつへの説明と荷降ろしを手伝ってきますんで、その辺でしばらく待っててください」

 ガッドが離れ、俺達は馬車置き場から少し離れた場所に腰を落ち着けた。だが、しばらく誰もが一言も発さず往来する馬車を眺め続けているだけだった。それも当然かもしれない。
 ここで俺達は別れるのだから。
 上手い言葉が浮かばず、ぼんやりとしているとディーが懐から袋を取り出して口火を切った。

「シリウス様、今からでも遅くありません。これをお返ししたいのですが」
「それはもうお前達にあげた物だ。俺が受け取ったらディーに対して借金になっちゃうから嫌だね」
「ですがやはり貰い過ぎです。俺達にはこれの半分でも十分すぎますよ」

 ディーの持つ袋には金貨がたんまりと入っていた。
 何故ディーがそんな大金を持っているのか、話は昨日の夜まで遡る。



 昨日の夜、バルドミールが帰った後にパーティーを行ったが、そのパーティーが終った頃に俺は一度全員を集めた。 
 机には今まで貯め続けたお金と宝石を売ったお金が並べられており、ここにあるのは従者達の懐分を除いた我が家の全財産だ。
 財産管理は母さんの役割だったが、今は俺がそれを引き継いで管理している。机に所狭しと並べられた多種多様のお金達を一枚一枚数えていく。
 それから数分掛けて集計し、ようやく我が家の全財産が判明した。

「細かいのを省いて、金貨七十三枚に銀貨が十枚分か。そこから引かれる分を考えてっと」

 金貨四十五枚が学校の入学金に消えるとして、残りの金貨は二十八枚。俺と弟子達の生活費は金貨一枚あればしばらく持ちそうだが。

「シリウス様。計算中に申し訳ありませんが、少々お時間をよろしいでしょうか?」

 悩んでいるとノエルとディーが声を掛けてきたのだ。お金を一旦脇に寄せ二人へと顔を向けた。

「何だい? 妙に真剣な顔をしてどうした?」
「はい、これをお受け取りください」

 ディーから手渡された物は金貨であった。たった一枚であるが、二人からすれば大金の筈だ。そんなぽんと出せる金額じゃない。

「……これは?」
「実は、エリナさんから少ないけどお給金としてお金を貰っていたんです」

 母さんは家の食費に必要な雑費、更に後輩達への給料も考えて家計をやりくりしてたのか。ベテラン主婦も顔負けだな。

「それを貯めて、俺達二人が出し合った分がこの金貨です。受け取ってもらえないでしょうか?」
「ちょっと待てよ、お前達だってこれからの生活があるんだろ?」
「大丈夫です、私達の分はちゃーんと残してありますから問題ありません。それに……私達はシリウス様に色んな事を教わりました。少ないですけど、これくらい出させてください」
「料理や生き方を含め、様々な事を教えてくれました。授業料として受け取ってほしいのです」

 二人は深く頭を下げ、貰ってくれるまで離れない様子だ。
 授業料と言われてもなぁ。エミリアやレウスはとにかく、ノエルは片手間かつ適当に見てただけだし、ディーの料理は俺が食べたいから教えただけにすぎないんだがなぁ。

「気持ちだけで良い……って、だけじゃ駄目なんだな。わかった、ありがたく貰っておくよ」
「「ありがとうございます!」」

 お金を貰って御礼を言われるって、人生でそうある事じゃないよな。本当、律儀で心優しい従者達だよ。
 そうだ、俺もお前らに渡す物があるんだよな。

「じゃあ俺からの給料な。返品不可だぞ」
「……は?」

 金貨二十枚ちょっと詰った袋をディーに渡すと、二人は目を見開いたまま固まった。

「元から母さんと話し合って決めていたんだ。余分になったお金は二人にあげようってさ」
「これは……二十枚もですか?」
「ええええぇぇっ!? そんなの貰いすぎです! あなた、返して返して!」

 慌てふためく二人だが、俺はそんなの知らん風だ。お前達はどれだけ蓄えてあるか知らないが、ディーには目標がある筈だ。

「ディー、店を開くってのは幾ら掛かるか解らないわけじゃないだろ?」
「それは……」

 そう、ディーはノエルの故郷で食堂を開く予定なのだ。少なくとも金貨数枚で何とかなるとは思えない。

「すまんな、俺がバルドミールに返済しなきゃもっと渡せたんだが」
「それこそやめてください。あれは俺達も同じ意見でした」
「そうですよ! とにかくこんなに貰っては私達も困ります。ほら、エミちゃんもレウ君も何か言ってあげて!」

 隣で銅貨をまとめている姉弟に助けを求めるが、二人は笑いながらノエルに返していた。

「私もシリウス様と同じ意見ですし、お姉ちゃんとディーさんの為なら異論なんかありません」
「俺もだよ。ディー兄の料理が色んな人に食べられるってすげーと思う」
「うっ!」

 穢れ無き純粋な笑みにノエルは引き下がった。それでも二人の不満気な顔は治まらないので、ここは方向性を変えてみようと思う。

「納得できないなら交換条件だ。学校を卒業したら俺達はディー達の元へ向かうから、その時に料理をたらふく食べさせてくれよ。もちろん、無料でな」
「そのような事をされなくても無料ですが」
「なーに、若い内は苦労を買ってでもしろと言うじゃないか。お金を持ちすぎたらお金のありがたみがわからなくなるだろ?」
「私達はずっとエリナさんやお二人に支えられてきました。これからは自分で稼いで生活していきたいんです」
「兄貴には俺達が付いてるから大丈夫だよ。俺も頑張って稼ぐから」

 強引に押し通すと二人は涙を浮かべ、頭を下げる……どころか、床に這い蹲っていた。

「ちょっ!? お前ら流石に土下座はやり過ぎだ! いいから顔を上げろ……って、何で全員やってんだよ! え? ……リーダーには平伏するもの? 俺はそんなんじゃねえからさっさと顔を上げろ!」



 ……と、昨日でこの件は終った筈なのだが、こいつはまだ気にしているのか。

「まだその話を続けるのか。一体何が不満だ? 俺達はいらないし、ディーには必要な物。何も問題は無いだろう」
「これ程の大金を貰ったのに、貴方の期待に応えられるのか、そして俺は夢を叶えられるのか……わからなくて……」

 そうか。ディー……お前は不安なんだな。
 元冒険者で年齢もそれなりに重ねているが、守ってもらっていたエリナが死に、これからは自分の手で愛すべきパートナーを守らなければいけない。
 だから不安で堪らないのだ。大金を貰ったのに、成果を出せず失望されるのを恐れているのだろう。

「ディー」
「はい……ぐふっ!?」

 まずは腹パンチからだ。
 手加減はしたが、まさかいきなりやられるとは思わず、全く身構えてなかったディーはモロに食らってよろめいていた。

「な、なに……を?」
「甘えるなディー!」

 胸倉を掴み、近くまで引き寄せて俺はディーを叱咤した。

「お前はもう大人で、ノエルを守る夫だ。そしていずれ生まれる子供の父親にもなるんだ。そんな男がこの程度でうろたえるな!」
「シリウス様……」
「不安になるのはわかる。だがな、それ以上にお前は強く生きる術を知っている。恐れることはない、自信を持って生きていけ」
「……はい」
「ありがとうございますシリウス様。あなた、気付けなくてごめんね」
「ノエル……」
「あなた……」

 はーい、ラブ世界ワールド二名様入りまーす。
 結局こうなったが、これでお金は問題なく受け取ってくれるだろう。今回は俺が叱咤したが、これからはノエルが引き継ぐだろうさ。

「おーい、ディー、旦那ー。ちょいとこいつを紹介ー……うおっ!? 何じゃこりゃ!」

 あー、タイミング悪いですよガッドさんや。しばらくお待ちください。


 ようやく二人が戻り、俺達の前に先ほど見た男が紹介された。

「こいつは俺の弟分のザックだ。エリュシオンへの配達担当ですから、旦那達を運ぶ馬車の御者を勤めます」
「紹介されましたザックと申します。ガッドの兄貴に弟子入りした若輩者ですが、よろしくお願いします」

 並ぶと本当によく似た二人だと思う。ガッドが三十代としたら、ザックは二十歳ぐらいだろうか?

「若輩と言いますが、こいつはエリュシオンへは何度も行っています。護衛としてギルドから二名ほど雇うので、安全な旅は保障しますぜ」
「……ガッド。彼は大丈夫か?」
「心配性だな。いや、それだけ大事な人ってわけか。安心しな、こいつは信頼できるぜ。何たって俺の弟分だからな!」

 自信満々に答えるので、ディーも納得したらしい。二人のやりとりを他所に、ザックは俺の元へやってきて握手を求めてきた。

「ガッドの兄貴に聞きました。エリュシオンまでしばらくかかりますが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、後ろの二人共々よろしくお願いします。旅は初めてなので、色々教えていただけると助かります」
「ははは、オイラがわかる範囲で良ければ幾らでもいいっすよ。それより兄貴が言ってましたが、貴方はディーさんと一緒で我が商会の売り上げに貢献されたと聞きました。オイラも旦那と呼んでいいですかね?」
「はあ……こんな子供で良ければお好きにどうぞ」
「了解っす、旦那。今さっき護衛の者も到着したので、オイラはいつでも出発可能です。準備が出来たら呼んでください」

 見た目だけじゃなくて性格も似ているな。だけど話していて気持ちの良い男だし、移動間でギスギスする事はなさそうだ。馬車へ戻るザックを見送ると、横では姉弟がディーとノエルに別れの挨拶を交わしていた。

「お姉ちゃん、今までありがとう」
「何を言っているの。これで会えないわけじゃないんだから、そんな言い方やめてよね」
「それでもだよ。私はシリウス様を支えるから、お姉ちゃんもディーさんをしっかり支えてね」
「もう、生意気だな」

 そう言いつつもノエルは涙を浮かべ、愛おしそうにエミリアを抱きしめていた。そしてエミリアは腕の中でもぞもぞ動くと、ノエルの肩に軽く噛みついていた。

「あ!? これってもしかして……」
「うん。私はお姉ちゃんが大好きだから」

 銀狼族にとって肩を噛むのは愛情の証だ。噛まれて嬉しいのか、ノエルは力を込めて抱きしめている。

「にゃふふ、もっと強く噛んでくれても良いんだよ?」
「それはシリウス様だけだよ」
「ありゃりゃ、やっぱり愛は偉大だね」

 強く噛めば噛むほど、それだけ愛情が深いってわけだ。思ったんだが、今のエミリアが俺を噛んだら肩が食い千切られるんじゃないかと思った。

「俺も噛む! ノエル姉、肩を貸りるよ」
「う、うーん……嬉しいんだけどレウ君は手加減してね。血が出そうなくらい噛みそうで怖いから」
「ちゃんと手加減するって」

 レウスもノエルの肩を噛み、獣人達は手を取り合って確認するようにやり取りを続けた。

「エミちゃん、レウ君、私の分もシリウス様をお願いね」
「当然です」
「兄貴と姉ちゃんは俺が守る!」
「でも自分もちゃんと守るんだよ。貴方達が怪我したら嫌だからね」
「シリウス様の次に善処します」
「全部俺が守る!」
「……大丈夫かなぁ」

 俺も同意見だよ。もう少し俺に対して柔軟になってほしいんだが、これから徐々に変えていくしかないな。

「エミリア、レウス。さっきは恥ずかしい姿を見せてしまったな」

 二人の目線に合わせるように屈んだディーは、頭を掻きながら話すが、姉弟は首を振って気にしてないと言った。

「俺はお前達の兄代わりとして頑張ってきたが、二人の実力はもう俺より上だろう」
「そうかな?」
「そうだ。そんな弱い兄だが、お前達に頼みたい事がある。兄として、従者の先輩として……シリウス様を頼む」
「「はい!」」

 口下手なディーはそれだけで終わりらしい。姉弟との別れを終え、二人は俺の前へと立ち頭を垂れた。

「……お別れだな」
「はい、少なくとも卒業までの五年は会えませんね」
「長いですね。もしシリウス様が学校へ行くと言わなかったら、私の故郷へお連れしたかったです」
「それも悪くないな。だが住む場所がないだろ?」
「シリウス様なら家くらい軽く建てちゃいますよ」
「それはちょっと無理だろ」

 流石に家を建てろと言われても……待てよ、何とかなるな。ライオルの家とか真似すれば行けそうな気がする。

「卒業したら二人に会いに行くよ。いや、その時には三人かな?」
「ちょっと気が早い気もしますが、頑張ります。それでその子が大きくなったら、シリウス様の従者にしてくださいね?」
「は? 何を言っているんだお前は」
「エリナさんから教わった技術とかしっかり叩き込んでおきますから、楽しみにしていてくださいね。あと女の子だったら、妾にしていただいてもかまいませんから」
「お姉ちゃん! 勝手に決めちゃ駄目だよ!」

 勝手に話を進めるノエルにエミリアが切れた。そうだ、いくら親でもまだ生まれてもいない子の人生を決めつけるな。もっと言ってやれ。

「大丈夫、一番はエミちゃんって決まっているから安心して」
「……だったらいいです」

 引き下がるのはやっ! 言っちゃ何だがお前はそれでいいのかよ。そもそも一番はエルフのフィアが予約を入れて―……じゃない。何で俺が許可してないのに勝手に決めるのかね。この世界の女性はアグレッシブ過ぎだろ。

「いいか、決して強制するなよ! あくまで子供の自主性に任せるんだぞ」
「もちろんです」
「洗脳や誘導するのは大丈夫なわけですね」
「するな!」

 何かもう疲れてきた。このまま話していてもキリが無さそうだし、そろそろ本当に出発しよう。
 そう思い馬車へ向かおうとすると、ノエルは俺の頬に手を当てて、額へとキスしてくれた。

「貴方に幸多き人生を。私達はいつでも貴方の幸せを祈っています」

 額から離れ、ノエルは満面の笑みを俺に向けてくれた。全く……美味しい場面で外さないお前は最高だよ。

「俺もだ。絶対に幸せになるんだぞ……姉さん」
「っ!?」

 さすがにちゃん呼ばわりは勘弁してくれな。後ろですすり泣く従者に背を向け、俺達は馬車へと乗り込んだ。
 ザックに出発を頼もうとしたら、ガッドが俺達の前に現れて大き目の袋を渡してくれた。

「旦那、旅に必要な物を幾つか見繕っておいたので使ってください」
「ありがとう。わざわざ用意してもらって悪いな」
「ディーに言われてた事です。お気になさらず」
「それでもだ。少ないがこれを……」

 懐から金貨を一枚取り出し渡そうとするが、ガッドは首を横に振って受け取りを拒否した。

「必要ありません。あいつの恩人から金なんか受け取れねえよ」
「じゃあこれを差し上げます」

 俺の背負い袋から取り出したのは、木を削って作ったリバーシだ。移動の合間にやろうと思っていたのだが、馬車って揺れるからリバーシは無理だと持って来てから気付いてしまった。娯楽の少ない世界だし、遊び道具として売れば多少の金になるんじゃないかと思うのだが。

「何ですこれは? マスが入った木台に黒と白の……木のコイン?」
「俺が作った遊び道具です。量産して売るなどお好きにしてくださいな。遊び方はディーに聞いてください」
「へぇ……初めてみますな。ありがたく頂いておきますよ。んで、そろそろ出発しますか?」
「ああ、頼む」
「わかりました。おいザック、出してくれ」
「あいよ兄貴。行って来るぜ!」

 馬車は動き出し、ディーとノエルの姿が徐々に遠ざかっていく。
 涙を流しながら大きく手を振り続ける二人の姿が完全に見えなくなるまで、俺達は手を振って別れを告げた。





 学校があるエリュシオンまで、馬車に乗って五日かかるそうだ。
 エリュシオンまでの街道は整備がしっかりされていて、土が固められた道路がほぼ一本道らしい。魔物も街道には滅多に現れないらしく、毎回退屈と戦うのが大変だとザックは笑いながら語っていた。

 現在俺達はローブを脱ぎ、御者台に座ってザックと世間話していた。俺もそうだが、三人とも冒険に適した格好をしており、髪の長いエミリアは邪魔にならないようにポニーテールにしている。
 彼は兄貴分のガッドと同じく獣人を毛嫌いしておらず、狼の耳と尻尾を見た二人を見ても動揺しなかった。むしろ綺麗な銀髪を見て、育ちの良い子だなと褒めてくれたくらいだ。なので俺達はすぐに仲良くなり、その中で一番仲良くなったのが。

「そん時に兄貴が言ったんだよ。俺の弟分に何しやがるんだって! いやー、あん時の兄貴は輝いてたね」
「わかるぜザックの兄ちゃん。俺の兄貴も常に輝いているからな。俺の目標だもん」

 兄貴繋がりなのか、この二人は妙に馬が合っていた。お互いの兄貴の素晴らしい箇所を語り合い、長年の友人みたいに話が弾んでいる。

「しっかしよ、レウスは大丈夫か? かれこれ一時間経つんだが……」
「問題ねえぜ。これも訓練だからな」

 レウスだけ馬車に乗っておらず、馬車の隣を伴走するように自分の足で走っていた。訓練も兼ねているし、自主的にやり始めたので俺は特に止めなかった。本当なら敵が来た際に備えて体力は温存してほしいのだが、これくらいのスピードならいつもの半分だし、俺もいるから問題あるまい。

「ところでこの街道は安全なんですよね? なのに護衛を雇ったのはどうしてですか?」

 エミリアが馬車の後方に乗っている護衛二人に目を向けた。さっきまでの姉弟と一緒でフードを目深にかぶり、暇さえあれば持っている大きな剣と槍の手入れをしている。だが出発してから一度も喋っていないし、正直怪しさ抜群だ。

「最近、この辺りに盗賊が頻繁に出没しているんだよ。だからギルドから彼らのような冒険者を雇ったわけさ」

 なるほどねぇ。だけど俺はさっきから気になる事があるんだよな。ザックの耳元に口を寄せ、彼らに聞こえない声で呟いた。

「実力はどうなんだ? 愛想が悪いのは仕方ないとして、持っている武器が妙に新しいのが気になるんだ」

 冒険者は戦いと隣り合わせだ。戦えば当然刃こぼれや血で武器は汚れるのだが、彼らの武器は妙に新しい上に手入れの仕方が雑だ。使い慣れていない武器を扱っているように見える。

「買い換えたばかりじゃないっすか? ギルドを通して雇ったんだから、信頼できる人な筈っすよ」

 うーん、ギルドをよく知らない俺にはピンとこんな。勘の赴くまま『サーチ』を広範囲に発動すると……反応が多数あった。

「兄貴っ!」

 一拍置いて外を走っていたレウスが叫び、腰に吊っていた剣を抜いて周囲の警戒に入った。ふむ、中々勘が鋭くなってきたな。
 レウスの行動に驚いたザックは、慌てて手綱を引き馬車を止めた。

「な、何事っすか旦那!?」
「敵襲だよ。まだ距離はあるが、周辺に馬車を囲うように数人配置されているようだ。さっき言ってた盗賊じゃないかな?」
「そりゃまずい。おい、あんた達! 盗賊が出たから――なっ!?」

 ザックの声に振り返ると、馬車内の状況はやばい方向に向かっていた。

「お前ら、動くなよ」

 エミリアが冒険者に首を捕まれ人質となってしまっていた。

ノエルとディーはしばらくお休みです。
その内再登場する予定です。
+注意+
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