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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

三章 従者

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ピクニックに行こう(行楽編)

「はっ!」

 振り下ろされた武器を回避し、エミリアのナイフが相手の喉に突き刺さる。突き刺さったナイフは瞬時に抜いて投擲され、背後から迫っていた相手の喉に吸い込まれた。その隙に横から迫る相手が居たが。

「『風斬エアスラッシュ』」

 エミリアは風の刃を放ち、一陣の風が吹くと同時に相手の首が斬り飛ばされた。自分に迫る相手が居ないのを確認し、迅速に刺さったナイフを回収する。


「でやぁ!」

 レウスが振り下ろした剣は防御する為に構えた棒を容易く切り裂き、相手を頭から真っ二つにした。その一撃に戦慄を覚え立ち止まった一匹を横薙ぎで切り裂き、残り一匹は顔面に膝蹴りを食らって沈んだ。

「くらえっ!」

 二匹同時に攻めてくれば『散破』を放つ。五つの斬撃が二匹をズタズタに切り裂き、声を上げる間もなく沈黙する。


 そして俺は……近くの岩に座って二人を眺めていた。
 サボってるわけではなく、これは二人の訓練だからだ。一応何かあれば援護するつもりだが、これなら問題なさそうだな。




 銀月の誓いから一年が経っていた。
 俺と誓いを結ぼうが結ぶまいが二人との付き合い方は変わることはなく、変わったと言えば今まで以上に訓練を張り切りだしたといったところだ。
 真剣に取り組んだ訓練によってエミリアとレウスはすくすくと育ち、子供とはいえ立派な戦士へと成長した。
 彼らの実力は見ての通りで、正直ゴブリンくらいではもはや相手にならない。まあ、今日は集団戦を意識しての戦いなので弱くても問題なく、少なくとも三十は居たのだが、枯れ枝を払うようにバッサバッサ薙ぎ払われていて逆に可哀想に見えてきた。


 簡単だが二人の状態を説明しよう。

 エミリアの属性は風属性で、普段はナイフを主武器とし、風魔法で遠距離の相手を切り裂く戦法だ。もちろん無詠唱を習得させてある。
 女性の為かゴブリンが多く寄ってくるが、彼女は背後をとられないよう巧みに動き回り、ナイフで弱点を突きながら確実に数を減らしていく。接近されたら伝授した合気道で投げ飛ばし、離れれば風魔法でゴブリンを切り刻む。素早く鮮やかに倒していくその姿は師匠から見ても華麗だと思う。

 レウスの属性は火属性だが、あまり魔法を使うことはなく純粋な剣技でゴブリンを屠っていく。
 流派はライオルの剛破一刀流で、頃合を見て二人を会わせたら気に入られ、半年前から俺と一緒に出向いて稽古する日々を送っている。現在の腕はただの鉄剣でゴブリンを真っ二つにした点で察してほしい。しかし、ライオル曰くその程度では初心者レベルだそうだ。どこまで深いんだか、剛破一刀流って。

 ぼんやりと考えている間に最後のゴブリンがレウスに斬られて倒れた。多少返り血が付いているが怪我は一つもなく、誰が見ても完全勝利である。
 戦っている間は非常に凛々しく頼もしいのだが……。

「シリウス様ー!」
「兄貴ー!」

 尻尾を振りながら、満面の笑みでこちらに走ってくる姿は愛玩動物にしか見えない。

「どうでしたか! 怪我も返り血も浴びず倒せました。レウスはちょっと付いてるけど」
「姉ちゃんは魔法を使いすぎなんだよ。いつも兄貴が魔法に頼りすぎるなって言ってるのに、俺なんか魔法使わないで全部倒したんだよ。凄いでしょ!」

 目の前で喧嘩し始めているが、ようは褒めてほしいらしく二人の頭を撫でてやる。

「「えへへ」」

 撫でられて喜ぶ顔はそっくりだが、一年前は似ていた二人の外見はかなりの差が現れ始めていた。

 エミリアは背が伸びただけではなく外見が大人っぽくなり、肩までだった銀髪は腰まで伸び女性としての魅力が溢れ始めた。最も成長したのは何故か胸である。多少ながらも膨らみ始めており、大きくなりたいと願っていた本人の意地に体は応えてくれたらしい。理由については察知しているが、あえて聞かないようにしている。好意も含めて受け止めてやる気はあるんだが……八歳にしては速すぎませんかね?
 話がずれたが、とにかく可愛くなったわけだ。将来は確実に美人になるだろう。

 レウスは体全体が大きくなり、精神が大分安定してきた。自分のことを僕から俺と呼ぶようになったし、感情に任せた行動が減っている。そして銀月の誓いから俺の事を兄貴と呼ぶようになった。主を様呼ばわりしないのはおかしいと指摘されたのだが、彼にとって兄貴とは最上級の呼び名らしく、公の場を除いてそう呼ぶのを許可している。困ったことに敬語が不慣れであり、指摘してもすぐに素が出てしまうのでもう少し大人になってからという事で放置している。

 俺はぶっちゃけ背が伸びたくらいだ。平均的な伸びだが、異常に背が成長し続けるレウスにそろそろ抜かれそうで、半年後には絶対抜かれていると思う。まあいい、俺は外見より内面を進化させてきているのだ。新たな魔法も増え、準備は必要だが属性魔法も使えるようになり、弟子達も問題なく育って順風満帆だ。

「今日はこれで最後ですか?」
「そうだな、ちょっと早いけど今日の訓練はここまでにしておこう。帰って御飯だな」
「ディー兄、今日は何を作ってるかな」

 ゴブリンの角を切り取って、冒険者ギルドと呼ばれる施設に持って行けば多少のお金が手に入るが、単価が低い上に年齢制限でギルドに登録できないので倒したゴブリンは放置だ。後は野生の魔物が処理してくれるだろう。
 レウスが無邪気に先頭を歩き、俺は見守りながら追い、背後には寄り添うようにエミリアが続く。これが最近の俺達の立ち位置であり、フォーメーションでもある。

 家を追い出され、学校へ向かうまであと一年。
 俺達は順調に成長しているが、やり残した事がないか考え続ける日々が続いている。



 剣の手入れと返り血が付いた服を洗うレウスを庭に残し、俺達は家へと入った。

「お帰りなさいませ、シリウス様」
「ただいまエリナ。ああ、いいから座ってて」

 挨拶しつつソファーから立ち上がろうとするエリナだが、俺はすぐにそれを抑えた。

「申し訳ありません。それより本日も無事でなによりです」
「二人が優秀だからね。今日の調子はどうだい?」
「そうですね、少しだるさはありますが問題ありません」

 半年前からエリナの体調が崩れ気味なのだ。以前なら俺達が帰ってくるのを察知し玄関で迎えてくれてたのだが、最近は座っている時間が増え玄関まで歩くのも辛そうな表情をする時がある。なので玄関の出迎えを禁止し、従者の仕事も最低限しかしないと半日に渡って説得し約束させた。

「シリウス様、本日の昼からのご予定は?」
「レウスを連れてライオルの所に行くつもり。エミリアはフリーだけど、教育かな?」
「はい、お借りしますわ。エミリア、昼食後にね」
「わかりました。ではシリウス様、私は着替えてきます」

 冒険者の服からメイド服へ着替える為に部屋へ戻るエミリアの後姿を、エリナは穏やかな目で見送っていた。

「あの子の成長も早いものですね。メイド服をつい先日補正したばかりなのに、もう小さくなっているようです」
「だなぁ。本当、魅力的に成長していると思うよ。というか補正ばかりで大変だろう?」
「いいえ、嬉しい手間です。やる度に成長していると実感できますから。それに座りながら出来る作業ですから、私の楽しみの一つなんですよ」

 当然貴方も含まれてますよと、目で訴えてきてるので笑って返した。


 エリナお手製のメイド服に身を包み、エミリアは俺に向かって綺麗なお辞儀をした。

「お帰りなさいませシリウス様。荷物をお預かりします」

 身に着けていた武器ベルトを外してもらう。それくらい自分でやれるのだが、これも従者としての教育らしいのでやらせている。
 エミリアはレウスに比べたら戦いが得意ではない。彼女は俺の従者であろうとするので、戦闘訓練の合間にエリナの従者教育を受けているからだ。激化する訓練に、精神的に疲労する従者教育という二足の草鞋を履いているのに、彼女は弱音も文句も吐かずやり続けている。その熱意と想いは本当に凄いものだ。

「……どうですか?」
「問題ありませんよ。成長しましたね」
「ああ、スムーズに武器を外してたし、お辞儀も完璧だ」
「わぁ、ありがとうございます」

 褒められると素が出てしまうが、これは若いからしょうがあるまい。

「ノエルより才能がありそうね。って、それはちょっと言い過ぎかしら」

 エリナの言葉に、背後からカラーンと音を立てて木のトレイが転がった。振り返れば食事の準備をしていたノエルの姿があり、信じられないと言わんばかりに目を見開いて固まっていた。
 沈黙が居間を支配する。俺は転がるトレイを見て、食器置いた後で良かったなと思っていたが。

「だ、大丈夫だよお姉ちゃん。私はシリウス様だけで、他の人には凄く駄目になっちゃうから。どんな人でも相手できるお姉ちゃんには負けるから」
「あ、あはは……うん、そうだよね。お姉ちゃんである私は負けてないよね。努力してるもん私!」

 悲しいな、十近く年下の子に慰められている。

「このお調子者が無ければ優秀なのですが……」

 エリナの呟きは俺以外に届くことはなかった。



 昼食を食べ終わり、場所はライオル家。
 レウスをライオルに預け、俺は少し離れた小高い丘で魔法の練習をしていた。

「ぬおおおおっ!」
「こんちくしょーっ!」

 遠くから二人の戦う声が響く中、俺は遥か先にある的目掛け銃魔法で狙撃している。
 前世で特定の相手を暗殺する為に何度も狙撃したことはある。その時の距離は最大で二千メートルであったが、今狙っている的は軽く見ても倍の四千はある。イメージする銃は当然スナイパーライフルで、膝立ち姿勢で狙っているが……ど真ん中とまではいかないが命中はしている。普通に考えたら当たる筈がないのだが、ここは魔法がある世界だ。

「はっはっは! どうした小僧!」
「ちょ! それ無理無理!」

 魔法によって放たれる銃は威力と飛距離が格段に上がり、遠くを覗く為の照準器は手製の魔道具を使って代用している。そう、簡単な魔道具なら俺も作れるようになったのだ。
 中が空洞である筒状の木に水の魔法陣を描き、透明な水をレンズの様にして二つ作り望遠鏡と同じ仕組みにしているのだ。この世界に望遠鏡は無いのでこれは俺独自の物であるが、学校に行ったら魔法陣の様々な技術を教えてくれるらしく楽しみにしている。
 数発撃ち続け、ついにど真ん中を撃ちぬいた。次はもうちょい奥を狙ってみよう。

「ここまで耐えたか! 次はこれじゃあ!」
「あ、兄貴助けて――っ!」

 本来、発射された弾丸は空気抵抗を受けて減速し曲がったりするのだが、魔力による弾丸はほとんど風の抵抗を受けず減速しづらく曲がりにくい。魔法って万能だと本気で思う。よし、命中。

「はっはっはっはっは!」
「ぎゃあぁぁぁ―――っ!」

 レウスがやられたようだし、ここら辺で切り上げるか。


「あ……あにきぃ……」
「おお、お主か。こやつ、ついにわしの三割まで耐えおったわい」

 二人の元へ来てみればボロボロで倒れているレウスと高笑いする爺さんの姿があった。涙目で俺に手を伸ばすレウスの頭を撫で、落ちていた木剣を拾い爺さんと対峙する。

「よしよし、よく頑張ったなレウス。俺が今からこの大人気無い爺さんにお灸を据えてやるからな」
「兄貴……」
「むう、大人気無いとは失礼じゃな。わしは鍛える為にも心を鬼にしてじゃな」
「やかましい。鬼とか言いながらおもいっきり笑ってただろうが!」
「だって、楽しいのじゃから仕方なかろう!」
「開き直るな!」

 初手から『ブースト』全開で爺さんに突撃した。
 結果……普段使わない攻撃を用いて圧勝してやった。それでも爺さんは笑って満足してたが。





 そして次の日、俺は朝食に並んだ全員を見回して言った。

「ピクニックに行こう」

 従者達はお互いを見合いながら沈黙してたが、ノエルが代表して手を挙げた。

「質問よろしいですか?」
「ああ、言ってみな」
「ぴくにっくって何ですか?」

 あら、そこですか。見れば全員そう思っているらしく説明を求めていた。失敗したな、前世と似通った言葉多いから通じるかと思ってたよ。

「全員で弁当を持って出かけて、のんびりしようって事だ。つまり遊びに行こう」
「「「賛成!」」」

 家の子供組(一人、猫耳大人が混じっているが)は諸手を挙げて賛同している。ディーはすでに弁当の献立を考えているようだが、エリナだけは残念そうに首を振っていた。

「申し訳ありません。私は体力が持ちそうにありませんから留守番しています。皆で楽しんでらっしゃい」
「そんなぁ、エリナさんだけ置いていくなんて嫌ですよ」
「エリナさんが居ないと楽しくないよ」
「貴方達……私も行きたいけれど、体力が無くなれば足手纏いになりますから」
「大丈夫だ、これを用意しておいた」

 取り出したのは木を組んで作った背負い式の椅子だ。エリナがこれに座り、俺かディーが背負えば歩かせる必要は無い。

「このような物まで。ここまでされて断ることはできませんね」
「じゃあ満場一致で、ピクニックに行くとしよう」
「やった、ぴくにっくだ!」
「こら、はしゃぎ過ぎよ。でも、私も楽しみです」

 毎日訓練ばかりで純粋に遊ぶのは初めてだから、二人は予想以上に喜んでいた。子供らしい無邪気なその笑顔が心に突き刺さって痛い……今度からもうちょっと遊び増やすよ。

「では各自で準備だ。ディーとノエルは弁当の用意にエミリアとレウスは皆が座る敷物の用意。そしてエリナは待機だ。では解散!」
「「「「わかりました!」」」」

 各々が準備の為に持ち場へと散っていき、残った俺は椅子の最終調整を行っていた。そんな中、もう一人残っていたエリナは俺に問いかけてくる。

「シリウス様、どうして突然この様な催しを? 私達はあと一年しかないのですよ」
「こんな時だからこそさ。全員で楽しい思い出を作っておきたいじゃないか」

 彼女が言うとおり俺達は時間が残されていないし、遊んでいる暇はほとんどない。だが、俺はともかく一年後の従者達はどうなるかはっきりしていないのだ。だったら楽しい思い出を一つや二つくらい残しておきたい。そう思ってピクニックなわけだ。

「難しい話は置いといてさ、今日は楽しく過ごそう」
「……そうですね。お手数おかけしますが、移動に関してはお願いします」
「ああ、任せておけ」

 何度か実際にエリナを乗せて調整し、問題無しと確認できたところで準備は終り、俺達は早速出発した。



 目指す場所は家から裏手の山へ入り、三十分程歩いた距離だ。空を飛んでる時に見つけたのだが、そこには原っぱが広がっていて魔物も見当たらず、のんびりするのは丁度いい場所だった。
 勘の鋭いレウスを先頭に、エリナを背負った俺が続き、ノエル、エミリア、そして殿にディーだ。この辺りで危険な魔物と言えばゴブリンくらいだが、先日群れを片付けたばかりなので出くわす可能性は低いだろう。それでも念の為に武器を携帯し、男三人で警戒しながら目的地へ向かう。

「シリウス様、重くありませんか?」
「大丈夫、走ったって問題ないくらいだ。それよりエリナこそ体調に変化はないか?」
「こちらも問題ありません。不思議ですね、上下に動かされているのに体の負担がほとんど感じないのです」
「そういう歩法だからね。これも訓練ってやつさ」
「訓練なら俺もやる!」
「お前は先頭で道を開く役割だろうが。ほれ、お前が頑張れば頑張るほどエリナさんの負担が減るんだ。頑張って剣で切り開け」
「そうだった! よーし、俺に任せて!」

 この子、実はかなり天然だ。剣を振りながら邪魔な枝や藪を切り裂く後姿を見て、将来に不安を覚えるのだった。



「うわぁ……」
「ほえ〜……凄いですね」

 鬱蒼としていた木々が途切れ、俺達の目前には一面に咲き誇る花畑が広がっていた。森をスプーンでくり貫いたように起伏ある場所だが、『サーチ』で調べても魔物の気配は感じられないので安心した。感動に震えている従者達を引き連れ、花畑の中央に一本だけある樹の根元に敷物を広げた。

「花畑も凄いですけど、この樹は何で一本だけここにあるんでしょうか?」
「ここの主でしょう。御覧なさい、他の樹より一回り大きいですよ」
「本当ですね。とりあえず根元をお借りしますとお願いしておきましょうか」
「俺もやる」

 ノエルとレウスが樹に向かって拝むように手を合わせていた。おそらくこの樹がこの周辺の養分を独り占めし、他の木々が育たなくなったのだろう。そして樹が少なくなった分、地に光が差し込み少ない養分でも花が咲き乱れた……そんなところかな。

「うーん、到着したのはいいですけど、まだちょっとお昼には早いですね」
「じゃあ少し遊ぶか。実はちょっとした道具を持ってきた」
「「遊ぶ!」」

 耳と尻尾を立て、二人は俺に期待の眼差しを向けてきた。散歩行く? という言葉を覚えた犬みたいだ。
 取り出したのは全体的に軽くて薄い端が曲がった円盤状の物体、フリスビーだ。プラスチックが存在しないので、軽くて丈夫な木を削って作った。

「何それ? 剣で叩けばいいの?」
「魔法で撃ち抜くのでしょうか?」
「こらこら、壊すのを前程に考えるな。これはフリスビーという玩具でな、こうやって投げる物だ」

 軽く投げてみる。手製なのでバランスが悪く少し蛇行するが、概ね本物に近い動きをしてくれた。あ、いかん、つい誰もいない方向へ投げてしまった。

「はあっ!」

 しかしノエルが空中でキャッチし俺に渡してくれた。さっきまで後ろで荷物の準備してたのに、いつの間に?

「何ででしょう? 思わず反応しちゃいました」

 不思議そうな顔をして元の位置へ。猫は動く物に反応するが、猫耳だけあってその本能が混じっていたようだ。
 二人を見ればキラキラした目でフリスビーに注目している。後はただ投げ合うだけだが、ちょっと悪戯してみるか。

「ほーら、取ってこーいっ!」
「待ってー!」
「わーっ!」

 少し強めに投げると、二人は嬉々として追いかけはじめた。流石にこの速度でキャッチは無理かと思いきや、二人は鍛えた足を生かして追いつくのに成功し、キャッチしたのはエミリアであった。

「おお、よく取ったな。よーし、それを投げ返し――」
「シリウス様ー!」

 投げ返してくれ……と言い終わる前に、二人は走って戻ってくるなりフリスビーを俺に渡してきた。

「兄貴、早く投げて! 今度は俺が取るから!」
「私も負けないから! シリウス様、もっと投げてください!」

 非常に騒がしいので、今度はもっと強めに投げてやった。この速度なら訓練されたベテラン犬でも難しいが、あいにく二人は俺が散々鍛えてやった弟子だ。相当のダッシュと反応を見せ、レウスは空中キャッチに成功した。そしてあっという間に二人揃って戻ってくる。

「兄貴! もっともっと!」
「今度は私だよ! シリウス様、お願いします!」

 あれー……おかしいな。フリスビーってお互いに投げ合って遊ぶ物じゃなかったっけ? 冗談で取って来いとやっただけなのに、それを全力で楽しんでるお前らは犬か! いや……犬だったな。

「お、おおお……」

 そして気付いたら隣に立っているノエルの目がなんかヤバイ。あれは獲物に飛びかかる寸前の猫の目なので、試しにとすぐ近くに軽く投げたら飛びついた。
 ふむ、本能には勝てなかったか。

「ちょっとシリウス様、一体何を――って、ああまた! はあっ!」

 獣人族って面白いわ。俺ら人族より身体能力高いし、優しい人が沢山だというのに何で差別化されてるのかね。

「ノエル姉ばかりずるい! 今度は俺!」
「お姉ちゃんは軽めでいいけど、私達はもっと強くお願いします」
「なにおう! そこまで言うなら私もハメを外しちゃうからね。お姉ちゃんの実力を見せてやる」

 騒がしさが更に増し、俺はひたすらフリスビーを投げるのであった。楽しいから別にいいけど。

「あのさ、思ったんだが俺が投げる必要ないだろ。お前らが順番に投げればいいんじゃないのか?」
「「「嫌っ!」」」
「何故に?」


 最終的に前世のベテラン犬でも不可能な領域まで突入していた。というか教えた『ブースト』を使ってまでやっているせいだが、本気で遊びすぎじゃね?

「貴方達、そろそろ御飯にしましょうか」
「「「はーい!」」」

 エリナの呼び声に集まる獣人達は、遠足に来た幼稚園児と保母さんを連想させた。一人ほくそ笑みながらディーが並べた弁当を中心に俺達は車座になって座る。いただきますと合唱すると、エミリアからサンドイッチと飲み物が手渡された。まずは主である俺が食べないと従者達が食べられないからな、ちょいと面倒と思いつつも先に一口いただく。

「うん、美味い。ちょっと濃い目だけど、これくらいも悪くないな」
「本当ですか!」

 エミリアが尻尾をブンブン振り回して喜んでいらっしゃる。ふむ、ディーが作ったにしては不恰好な出来栄えだし、もしやこれは。

「これを作ったのはエミリアかい?」
「はい、私が作りました!」
「そうか、初めてにしては上手くできていると思うよ。だから俺ばかり見ていないで、お前も食べなさい」
「わかりました。はぁ……よかった」
「頑張ってたもんねエミちゃん」
「よかったな」

 調理を見守っていた二人に褒められ、彼女は満足気にカツサンドに噛りついた。ひたすら貪り食うレウスが喉を詰らすアクシデントはあったが、食事は和やかに進んでいった。


 昼食後、すぐさまフリスビー再開かと思いきや、花畑は実に静かな時間が流れていた。騒ぎの元凶である三人が木陰で川の字になって昼寝していたからである。そりゃあ散々はしゃいで満腹になれば眠たくもなるもんだ。ディーが近くに座って警護してるから、魔物が近づいても問題ないだろう。そして彼女等に倣い俺も寝転がってエリナに膝枕してもらっていた。

「ふふ……」
「楽しそうだね」

 慈愛に満ちた顔で頭を撫でてくれる。俺がこの世界で目覚めた時からずっと見せてくれる顔だが、年を重ねて皺が増えようと変わらないな。

「ええ、とても楽しいですよ。シリウス様が大きくなられ、家族も増えて私はとても幸せです」
「幸せ……か。そうだな、今日のような楽しい思い出をもっと作っていきたいな」

 ポカポカした陽気にエリナの優しさに包まれ俺も眠くなってきた。

「貴方なら幾らでも出来ますとも。私は大丈夫ですから、どうぞお休みください」
「ああ……そうさせてもらうよ」

 何度も聞かせてくれた子守唄を鼻歌で歌ってくれる。その心地良いリズムに意識はゆっくりと沈んでいった。



「……ー様……シリウス様!」

 呼び声に意識が覚醒すると、こちらを覗き込んでいるエミリアとレウスが映った。

「ん……俺はどれくらい寝ていた?」
「一時間くらいですね」
「そうか、それで二人はどうしたんだ?」

 エリナに礼を言いつつ起き上がり、凝った体を解しつつ二人の様子を見る。わざわざ起こすので何事かと思ったが、それほど慌てた様子ではない。

「私達は先ほど起きて散歩していたのですが、途中で不思議な物を見つけたんです。それを見たレウスが何か怪しいと言ってまして」
「うん、何か知らないけど変な感じがするんだ」
「ですからお姉ちゃんとディーさんに見張ってもらい、シリウス様に相談しにきたんです」

 ほう、ターゲットを見張る人を残し、ちゃんと報連相が出来ているようで結構だ。
 ちなみに報連相とは、報告、連絡、相談からそれぞれの頭漢字から取った略称だ。企業や様々な活動を効率よく進める為の必須事項であり、前世の弟子がこれを知らなくて溜息つきながら説明したもんだ。

 二人に引っ張られその地点まで案内されると……確かに不思議な物がそこにあった。

「……宝石か?」

 地面から大人の拳二つ分程の、金色に輝く宝石が地面から飛び出していたのである。宝石なので思わず手を伸ばしてしまいそうだが、あまりの怪しさに躊躇しているらしい。

「綺麗ですねぇ。でもレウ君が触るなって言うんですよ」
「こういう時のレウスの勘は鋭いからな。しかし、これがあれば……」
「取ってみますか?」
「怪しさ抜群だが、挑戦してみよう。俺がやるから皆は下がっていてくれ」

 念の為に荷物を片付けさせ、全員が安全な位置まで離れたところで『ストリング』を宝石に巻きつけて軽く引っ張ってみるが、宝石は動かず何も変化がない。

「動かないな。置かれた物じゃなくて何かにくっ付いているのか?」

 更に力を込めた瞬間、宝石を中心に周囲の土が隆起し砂煙と共に巨大な物体が姿を現した。

「あれは……ジュエルタートルです」

 それは五メートルはあろう巨大な亀だった。甲羅の天辺に先ほどまで見ていた宝石が光っており、全身が岩に包まれ非常に硬そうである。更に甲羅から六本の触手が伸びており、こちらを威嚇するように蠢いていた。

「知っているんですかディーさん?」
「ああ、非常に硬い魔物だが、大金を得られる魔物として有名だ」
「本当! じゃあ倒そう!」
「だが、非常に獰猛でとにかく硬い。上級以上の魔法使いや、上級冒険者でなければ返り討ちされるだろう」

 ディーの説明に、俺も本に載っていた情報を思い出す。

 ジュエルタートル。
 身体中が岩と同化しており、全身が鋼鉄以上の硬さを持つ亀の魔物。
 それゆえ非常に鈍重で簡単に逃げられるが、戦うとなるならばそれなりの覚悟を持って戦わねばならない。とにかく硬く、生半可な攻撃では効果が無く、下手に接近すれば甲羅から伸びる触手に捕まり絞め殺される。
 しかし背中に生えた宝石は高値で取引され、発見の希少さから遭遇すれば一攫千金も夢ではない。だが実力が足りず返り討ちにあい命を落とす冒険者が後を絶たない。

「逃げるならすぐに離れるべきです」

 一番戦闘経験が多いディーから見て、俺達が敵う相手では無いと思っているようだ。俺は周辺に目を向けながらシミュレーションし決断した。

「いや、何とかなるな。二人とも、戦闘準備だ」
「「はい!」」

 俺の号令にエミリアは横に並び、レウスは前に出て剣を上段に構えた。
 歩く度に地面を陥没させながらジュエルタートルが迫ってくる。ゆっくりとはいえ、その巨体から醸し出す迫力にエリナとノエルは声を震わしていた。

「し、シリウス様!? ほ、本当に戦うんですか?」
「おやめください! 無理して戦わずとも逃げれば十分ではありませんか!」
「大丈夫だ、俺達は勝てる。ディー、二人を頼む」
「……わかりました。勝利を祈っております」
「ディーさん!?」

 まさか経験者であるディーが賛同するとは思わなかったのだろう。ノエルはショックを受けていたが、ディーは撫でるように頭を叩きながら口元を吊り上げていた。

「シリウス様は俺よりずっと強い。そして御自身をわかっていらっしゃる。そんな御方が勝てると言われたのだから問題ない」
「そう……ですね。いつだってあの御方は余裕でしたもんね。うん、頑張ってくださいシリウス様! エミちゃん! レウ君!」
「シリウス様……」

 本当なら三人は家に帰させたかったが、おそらく言ったところで聞いてはくれまい。とにかく被害を受けない位置まで下がらせるよう頼み、俺達はジュエルタートルと対峙する。


「戦闘開始だ!」


プチ感想
犬はフリスビーが楽しいのではなく飼い主と遊ぶのが楽しいわけで、二人の場合は人でもあるのでフリスビーも楽しいから、二倍で楽しい。そら全力でやりたくもなるわけですな。
本当ならこの話で戦いが終る予定でした。
余分な話が多いせいだが、書いている内に浮かぶのでしょうがない。
とにかく、読んでいただきありがとうございます。
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