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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

二十一章 サンドール

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王女と剣姫



 自らを神眼と名乗った白髪の男……ジラードは、見た目は二十歳くらいの男だ。
 服装は全身を覆い隠すような白いローブでもフードをかぶっていないので、前髪の一部を伸ばして左目を完全に隠している顔がよく見える。
 そんな明らかに普通とはかけ離れた雰囲気を放っている男は、穏やかな笑みを浮かべながらゆっくりと俺たちに近づいてきた。
 敵意は感じられず、争いとは無縁そうな男だが……俺は警戒を強めながら返事をしていた。

「迎えに来た……か。色々と聞きたいところだが、何故俺たちを城に招く?」
「私の主であるサンジェル様が、闘武祭で活躍したシリウス様とレウス様とお会いしたいからです。サンジェル様は種族問わず、優れた人材を評価していますので」
「……一つ質問がある。俺たちがこの町へ来ている事が何故わかった? 俺たちを見つけた早さからして、事前に知っていなければ不可能だと思うが?」
「皆さんはここへ来るまで、サンドールを守護する防壁を幾つも通ってきましたよね? その門番が貴方たちの事を知っていて、その情報が私の下へ届いていたのですよ」

 そして俺たちがこの城下町に来るであろう時間帯に合わせて城を出て、人々の会話から目立つホクトの行方を辿って俺たちを見つけたそうだ。
 理屈は通っていなくもないが、それでも俺たちへの接触が早過ぎる。
 町に入る門を通ると同時に俺たちの事に気付き、更にここへ俺たちがいると確信して近づいてきたような……そんな気がするのだ。
 偶然とか運が良かった可能性もあるが、仮にも神眼という二つ名を貰っている男だ。俺の『サーチ』みたいに、相手の居場所を感知する特殊な魔法や能力を持っているのかもしれない。
 そんな俺の警戒を余所に、ジラードの説明は続いていた。

「情報は重要ですからね。可能な限り情報を集めて先を予想し、状況に合わせて最も適した行動を取っているだけなんですよ」
「噂通り、相当な切れ者のようだな」
「そんな大層なものではなく、生き残る為に必死だっただけですよ。私は考える事しか出来ないので」
「妙に動きが鈍いように見えたが、何かの病気なのか?」
「幼い頃、凶暴な魔物に襲われましてね。命は助かったのですが、そのせいで体が上手く動かなくなったんですよ」

 歩き方がぎこちなかったのは、魔物から負った怪我の後遺症のせいらしい。
 怪我人を見たら放っておけないリースだが、リーフェル姫から城の連中は怪しいと聞いていたので自重しているようだ。

「ですがその御蔭でサンジェル様に拾われ、気付けば英雄なんて呼ばれるようになったので、自分が不幸だと思った事はありませんね」
「体が上手く動かせない……か。苦労してきたんだな」
「後遺症を覆す程の努力をジラードさんは重ねて来たのですね。私も見習いたいものです」
「……っと、すいません。話が逸れてしまいましたね」
「気にしなくてもいい。とにかくそのサンジェル様の命令で、俺たちを迎えに来たんだな?」
「その通りです。突然の話で申し訳ないとは思いますが、どうか我が城へ来ていただけませんか? 歓迎しますよ」
「……断ったら?」
「それならば仕方がないと思って諦めます。皆さんに強引な手段を取れば、こちらの被害が大きくなるだけですから」

 断れば実力行使に出る可能性も考えてはいたが、周辺に敵の反応は感じられない。何よりジラードが仕方がないとばかりに首を横に振っているので、争うつもりは皆無と思っていいだろう。
 城で色々揉めていると聞いていたし、無駄な消耗は避けるべきだと言われているのかもしれない。
 だが……返事に少し迷うな。
 彼がリーフェル姫が送ってきた迎えとは思えないので、ここは断るべきだろうが……俺はどうもジラードの存在と、得体の知れない能力が気になり始めていた。
 そしてそのサンジェルとやらが俺たちを呼ぶのは、単純に勧誘の可能性が高い。
 どちらにしろリーフェル姫の為にサンドールの城へ向かうわけだし、ここは相手の正体を見極める為について行くのも手かもしれない。
 俺はジラードに断りを入れ、一旦距離を取ってから皆と相談してみる。

「……どうする?」
「シリウス様の望むままに」
「俺も姉ちゃんと同じだ」
「そうね、城へ行くのは同じだし、ここはあえて誘われるのも手かもしれないわ」
「まずは相手を知るべき……だよね?」
「オン!」
「本が買いたい!」
「決まりだな。というわけで、俺たちを城に連れて行ってくれないか?」
「本当ですか!?」

 皆の意見を聞いてみたところ、反対意見はないようだ。一人だけ何か違うが、今は突っ込む場面ではないのでスルーさせてもらう。
 俺たちが肯定的なのを察したジラードは嬉しそうにしていたが、途中で何かを思い出したのか申し訳なさそうに告げてきた。

「あー……その、先に伝えておきますが、現在の城では色々揉めておりまして、サンジェル様を認めていない者が多いんです。そういう連中が早とちりして、皆さんへ不快な干渉をしてくる可能性もあるのを予めご了承ください」
「王族と関わる以上、その辺りは理解しているさ。けどそっちもある程度は庇ってくれるんだろう? 一方的に喧嘩を売られて、俺たちが悪いと騒ぎ出したら、こっちも考えがあるという事を理解しておいてほしい」
「心得ています。百狼を連れた貴方たちを敵に回す気は微塵もありませんから」

 警戒しているホクトの視線に冷や汗を流しているジラードの様子から、実力の差もしっかりと理解しているようである。

「何より、貴方たちの絆の強さも私は聞いております。皆様を守るのはサンジェル様だけでなく国を守るという事ですから、私も出来る限り皆様をお守りします」
「一つ質問をしてもよろしいですか? 私たちを招く危険性を理解していながら、何故このような事をするのでしょうか?」
「サンジェル様は、実際に会ってもいない相手を恐れて交渉すらしない臆病者ではありませんからね。とはいえいきなり主に会わせるのも危険ですし、私が直接見極めようと思っていたのですが……どうやら杞憂だったようです」
「そんな簡単に決めていいのかよ?」
「はい、皆様は粗暴な冒険者たちと違うのがよくわかりましたから。それでは、私に付いて来てください」

 俺の身内に手を出せば、相手が王族だろうと遠慮せずに戦うと知っているのだろう。
 情報を重視しているだけあって、ジラードは俺たちの事を色々調べているようだな。

「そうそう、城にはシリウス殿の主でもあるリーフェル様もいらっしゃいますよ。城へ到着次第、すぐに呼んできますよ」
「リーフェル姫が? それは嬉しい話だな。旅の報告をさせてもらうとしよう」

 公式だと俺はリーフェル姫の近衛という立場で、世界を巡って己を鍛える旅に出ている事になっているからな。
 上手く話を合わせながら、俺たちはジラードと共にー……。

「本……」
「すまないが、城へ行く前に少し寄り道してもいいか?」
「……わかりました。本を売っている店はこちらです」

 町の本屋に寄ってから、サンドールの城へと向かうのだった。





 正に虎穴に入らずんば……という心持ちでサンドールの城へとやってきたわけだが、ジラードがいる事によって城へはあっさりと入る事が出来た。
 城の門を守っていた兵士たちがジラードの姿を見るなり敬礼をし、どう見ても怪しい存在である俺たちとホクトを連れているのに、平然と門を開けたのである。それだけジラードが信頼されている証拠だろう。

「大きい城! でもアス爺が住むには小さいかな?」
「人と竜を比べるのはちょっとね。カレンはこんな城に住んでみたいと思った事があるのかしら?」
「うーん……カレンは普通の家でいいかな?」
「ふふ、そうだね。狭くても、皆と一緒に楽しく過ごせる家で十分だよね」
「本が沢山ある図書館と、蜂蜜を沢山置ける倉庫があればいい!」
「それはもう普通の家ではないと思います」

 相変わらずマイペースな子である。
 そんなカレンと女性陣による微笑ましい会話に、俺だけでなくジラードもまた苦笑していた。

「……子供は無邪気ですね。あ、事前に話を通して場所は空けておきましたので、皆さんの馬車はあちらの小屋に停めてください」
「わかった。じゃあ手早く済ませるから、少し待っていてくれ」

 指示された小屋へエミリアとホクトと向かい、手早く盗難防止の処置を済ませていく。
 周囲には城で管理している馬車と、雇われた小間使いの人たちも見られたのでさり気なく観察してみたが……。

「特に妙な様子は見当たらない……か」
「シリウス様。こちらは終わりました」
「オン!」
「わかった。戻るとしよう」

 ホクトに驚きつつも、作業をしている人たちの様子から、城で異変が起こっているような緊張感は見当たらなかった。裏の方ではわからないが、表面上は平和という事でもある。
 それでも周囲を警戒しながら皆の下へ戻れば、何か納得するようにジラードは頷いていた。

「普通の馬車に見えますが、どうやら色々と改造されているようですね」
「ただの盗難防止だよ。俺たちの家みたいなものだから、盗まれたら困る物とか積んであるからな」
「冒険者としては当然の行動ですね。ですがこの城で盗みを働くような卑しい者はいませんので、無用な心配と思いますよ」

 失礼だとは思う言葉にも、ジラードは特に気分を害した様子は見せなかった。
 それが本性かどうかはわからないが、城へと案内しようと前を歩くジラードに俺は重大な質問をしていた。

「ホクトはどうすればいいんだ? 個人的には一緒に城内へ連れて行きたいんだが」
「さすがにそれは難しいですね。あちらの馬小屋……では馬が怯えそうですし、庭の方で自由に過ごさせておくのはどうでしょうか?」
「大丈夫なのか? 何も知らない者が見たら大騒ぎになりそうな気もするが」
「これ程の狼を繋ぎ止めるものがあるとは思えませんし、私の方から周りに伝えておきますから大丈夫ですよ」
「いや、やはり下手な刺激は避けるべきだと思う。ホクト、すまないがお前は馬車の傍で隠れるように控えていろ。何かあればお前の判断で動け」
「オン!」

 予想はしていたが、やはりホクトは無理だったか。
 特に気分も害せず任せろとばかりに吠えるホクトに見送られながら、俺たちは城へと入ったのだが……。

「妙な予感がして来てみれば……貴様は一体何をしていのだ、ジラード!」

 正面入口からホールに入ると同時に騒がしい足音が聞こえ、鎧に身を包んだ男が怒声と共に俺たちの前へ現れたのだ。
 手入れの行き届いた髭を生やし、無数に刻まれた顔の皺から五十歳は軽く過ぎていると思われる男である。
 鍛え抜かれた体はレウスより一回りも大きく、そして重たそうな鎧を身に着けながらも、平然と歩いている様子から相当な実力者だろう。
 鷹のように鋭い視線と迫力から、正に武人という言葉を体現しているような男だ。
 そんな男が怒りを露わにしながら駆け寄ってきてジラードを問い詰めているのだが、当の本人は動じる事もなく笑みを向けたままだった。

「これはフォルト将軍。そんなに慌ててどうかしたのですか?」
「とぼけるな! そこにいる連中は一体何だ!」
「こちらの方々ですか? 彼等はサンジェル様が招かれたお客様ですよ」
「そのような話、俺は聞いておらん! 例えサンジェル様の命だろうと、大陸間会合レジェンディアが行われるこの大事な時期に、我々への連絡を怠るとは何事だ!」
「何分急ぎでしたので、申し訳ありません」

 言い争いから推測するに、どうやらフォルト将軍と呼ばれた男は城の警備を担当しているのだが、俺たちが招かれる事について全く聞いていなかったようだ。
 正直に言わせてもらうなら、俺もフォルトの言い分が正しいと思う。各国の重鎮が集まっている城に余所者を平然と招く方が変だからな。
 そのまましばらく二人は問答を続けていたが、何を言っても無駄と察したのだろう。フォルトは鋭い目を俺たちへ向けてきた。

「ええい……貴様に聞くだけ無駄か。それで、お前たちは一体何者なのだ?」

 嘘は許さない……と、射抜くように放たれた視線が怖いのか、カレンは俺の背中に隠れてしまった。
 俺はカレンを安心させるように頭を撫でてから、その鋭い視線を正面から受け止めれば、フォルトがほんの僅かな驚きを見せたのである。

「……ふむ、中々やるようだな。考えてみれば、わざわざ貴様が迎えに行く人物だ。その胆力と佇まいといい、只者ではなさそうだな?」
「やはり貴方にもわかりますか。そこにいる二人は、去年の闘武祭で優勝と準優勝を勝ち取ったお二人ですよ」
「何だと!? そうか……ならば納得だな」

 闘武祭の話を聞いて頷いてはいたが、彼は俺たちの佇まいで実力者だと理解していたようである。
 しかし俺たちの正体が判明しようと、フォルトは厳しい視線を向けたまま城の外へ向かって指を指していた。

「だが王の許可なく城へ入れる事は許せん。すまないが、確認を取るので一度外へ……」
「待つんだ、フォルト。その人たちなら大丈夫だ」
「むっ!?」
「あ……」

 突如会話に割り込む声が聞こえたかと思えば、フォルトは即座に声の主へ向かって片膝を突きながら頭を垂れていた。
 リースもまた即座に反応して振り向く中、俺も若干遅れて振り返れば、そこにはメルトを連れたリーフェル姫の姿があった。
 だが……フォルトへ声を掛けたのはリーフェル姫ではなく、その隣に立つ金髪の女性のようだ。

「彼はリーフェルの近衛だ。他の近衛は城に招いているのだから、彼も城へ入れても問題はない筈だろう?」
「で、ですが……彼以外は違うのでは? この重要な時期に関係者以外の者を城へ招くのは、あまりよろしくはないかと」
「彼等は安全であると私が保障します。責任は私が取りますので、他の近衛と同じくお願い出来ませんか?」
「……わかりました。私の方から後で王に報告しておきます」

 気品と威厳に溢れた金髪の女性とリーフェル姫の言葉に、フォルトは渋々といった様子で頷いていた。
 城で長年仕えているようなフォルトが臣下の礼を取っている様子から、彼女がサンドールの次期後継者の一人であるジュリア王女で間違いなさそうだな。
 断言出来るのは、ジュリア王女は思わず見惚れてしまう程の美女だ……と、絶賛していた情報屋の青年から聞いた通りだからだ。
 口調に加え、王族の男性が着るような服装ではあるが、女性としての魅力が全く色褪せていないのである。
 フィアに負けず劣らずの容姿に、頭の左右で結わえている金髪が靡く度に光が散っているように見えるその姿は、同じ女性である妻たちも思わず唸る程の美貌だった。
 本来なら俺も唸っている場面かもしれないが、俺はリーフェル姫への弁解に必死なのでそれどころではなかった。

『何で貴方たちがもうここにいるのよ! 私が迎えを送る予定だった筈でしょ!』
『向こうの接触が早かったんですよ。どちらにしろ城へ行くのは変わらないと思いますが?』

 口にはせず視線だけでそんなやり取りを続けていると、サンドール出身の三人がジュリアを中心に騒がしくなっている事に気付いた。
 どうやらジュリアが何か不味い事を口にしたらしく、二人が猛烈な抗議をしているらしい。

「お考え直しください! 無暗やたらと挑むのは悪い癖ですぞ!」
「私もフォルト将軍と同意見です。それに、まずは彼等を招待したサンジェル様との謁見が先な筈ですが?」
「ちょっと試すだけさ。それにフォルトだって、闘武祭の優勝者には興味あるだろう? ちなみに兄さんは急な用事が入って忙しそうにしてたから、少しだけなら平気だと思うよ」

 何が起こっているのかわからず首を傾げている俺を余所に、ジュリアは不敵な笑みを浮かべながらこちらへ近づいて来たのである。

「君たちの事はリーフェルから色々と聞いている。良ければ、今から私と手合せを願えないだろうか?」




 ジラードが主であるサンジェルに確認を取ってくると言って別れた後、俺たちは城の者たちが使っている訓練場へとやってきていた。
 そんな訓練場にある地面に描かれた大きな円の中心で、ジュリアは訓練用の木剣を片手に笑みを浮かべながら立っている。ちなみに……フォルトは王に許可を取ってくると言っていたが、王女が心配なのか一緒についてきていたりする。

「ここならば邪魔は入らないだろう。さあ、存分に戦おうじゃないか!」
「お待ちください、姫様! 存分に戦うのではなく、今は簡単なルールを決めるべきかと」
「そうだな。お互いに立てなくなるまでー……」
「ゴホン……相手の肩や腹に一撃を当てるか、地面に描いた円から出たら負けにしましょう」

 厳しそうな男であるが、ジュリアに振り回されてばかりな苦労人のようだな。どこぞの次期王女と幼馴染の近衛を思い出させる光景だ。
 だが今はそれよりジュリアの剣だ。
 先程まで準備運動とばかりに振るっていたジュリアの剣は、剣姫と呼ばれるに相応しい太刀筋である。
 失礼ながら王女という立場に対人程度しか経験していないと思っていたが、そんな事は微塵も感じさせない見事な動きである。数年前に起こった魔物の氾濫で活躍したというのが、誇張でもなく真実だと断言出来る程に。
 そして様々な経験を重ねてきたのだろう。洗練された剣は隙がほとんど見当たらず、正直に言って正面から当たりたくない相手だ。
 しかし、そんなジュリアの前に立っているのは俺ではなく……。

「へぇ……結構しっかりした木剣だな。これなら多少本気で振るっても大丈夫そうだ」
「私が作らせた特注品だ。それならば、かの剛破一刀流であろうと耐えられるだろう」

 ジュリアが剣姫だと呼ばれている事を知り、興味を持っていたレウスだった。
 ちなみにレウスが挑んでいる理由は、兄貴に挑むなら俺を倒してみろ……という、いつも通りの流れである。
 ジュリアもまたレウスの大剣を見て剛破一刀流だと察し、どうせ戦うつもりだったからと言って承諾したわけだ。

 そんな二人を俺たちは少し離れた場所で見守っていたのだが、現在ジラードは主に事情を説明する為に席を外し、フォルトはジュリアを心配してこちらへの意識が薄くなっているので、俺は今の内にリーフェル姫と情報を共有していた。

「そう……あの男がね。貴方たちの事を知っていた筈の私より先に動くなんて、やはり油断出来ない相手ね」
「この後に彼の主であるサンジェル様と接触するわけですが、今のところ敵対しているわけではないので、敵対しない限りは無難にやり過ごす予定です」
「ええ、こっちもセニアを使って色々調べている途中よ。波風はなるべく抑える方向でお願いするわ」

 そんな風にこれからについて話し合っている内に、レウスとジュリアによる模擬戦が始まっていた。
 互いに凄まじい勢いで木剣を打ち合う光景を眺めながら、俺は先程から気になっていた質問をしていた。

「ところで……あの二人は放っておいて大丈夫なのでしょうか? 相手はこの国の王女ですし、怪我とかさせたら不味いのでは?」
「彼女が望んで戦っている事だし、やり過ぎなければ平気よ。それにジュリアの場合は下手に手加減する方が失礼だと感じるから」
「姉ー……リーフェル様は、あの御方とはどういう関係なのですか?」
「サンドールに訪れてから出来た親友……みたいなものかしら? 立場も年齢も近いから何度も話す事があったからね」

 そんな様々な共通点があって、二人は他国同士による表面上の付き合いではなく本当の親友となったそうだ。お互いに名前を呼び捨てているのがその証拠だろう。
 上機嫌に説明してくれるリーフェル姫によると、ジュリア王女は真っ直ぐ過ぎる面もあるが、とても誠実な女性らしい。

「何ていうか、王女と言うより剣士や騎士に近い考え方をする事が多いけど、見ての通り王族の気品溢れる立派な女性よ。ただ……ちょっと女である事を気にし過ぎている面があるというか……」
「女性の面を……ですか?」
「いえ、今のは忘れてちょうだい。とにかく、見ての通りジュリアは強い相手がいたら挑まずにいられないのよ。私たちが初めてサンドールの城へ来た時も、今のレウスみたいにメルトに勝負を挑んでいたわ」

 メルトから感じた強者の空気を感じて勝負を挑まれたらしい。
 ちなみに戦いの結果は……。

「……完敗だった。剛剣殿のような人知を超えた力はなくとも、鮮やかな剣技の前に俺は手も足も出なかった」
「それでもメルトはしばらく耐えていたじゃない。ジュリアも自分の近衛にしたいくらいだって言っていたわよ」
「俺は……リーフェル様以外の近衛になるつもりはありません」
「ふふ、よろしい」

 実際に戦う姿を見ていないのでわからないが、ライオルの爺さんに鍛えられたメルトでさえ敵わなかったようだ。
 ほんの少しだけ惚気を見せられながらも、メルトは戦っているレウスに視線を向けながら呟いていた。

「あの御方は本当に強い。俺の後で戦った、アービトレイと呼ばれる国から来たジークという青年も強かったが、ジュリア王女にあっさりと敗れていた」
「獣王だけじゃなく彼も来ていたんだな。そしてメルトさんと同じく勝負を挑まれたと」
「どうやら貴方たちの知り合いみたいね。そうそう、知り合いで思い出したんだけど、リースの手紙に書かれていたあの子……そう、レウスと友達になったアルベルト君ともジュリアは戦っていたわよ」
「アルベルトもですか? 彼がサンドールにいると?」
「ええ。詳しくはわからないけど、サンドールが、今回の大陸間会合レジェンディアに呼ぶべきだと宣言したらしくてね」

 アルベルト……旅の途中で立ち寄ったパラードの町に住む青年で、俺の弟子になった一人でもある。
 彼の親友であるレウスが知れば喜ぶだろうし、俺も久しぶりに会えるので嬉しいのだが……それ以上に疑問の方が強かった。
 獣国アービトレイの王子であるジークはわかるが、アルベルトがサンドールへ招かれる理由がわからないのである。
 正直に言って、アルベルトの故郷の規模では大陸間会合レジェンディアに呼ばれるとは到底思えないのだ。
 俺たちが離れてから一年経っているし、ディーネ湖を挟んで存在するパラードとロマニオ……二つの町が合併して国にでもなったのか?
 いや……例えそうだとしても、たった一年で大国に認められるような国に成長するとは思えないが。

「貴方が考えている事は何となくわかるわ。どうやら彼が呼ばれたのは国とかじゃなくて、もっと他の理由がー……あら?」
「シリウス様! レウスが……」

 リーフェル姫は何か事情を知っているようだが、レウスの方で動きが見られたので、俺たちは一旦レウスとジュリアの戦いへ意識を向けた。
 最初はお互いの力量を図るように剣を打ち合っていたのだが、レウスの実力を確認すると同時にジュリアの剣の速度が増し、遂にレウスが押され始めたのである。

「見て見て! レウスお兄ちゃんより剣が沢山見えるよ!」
「ジュリア様の動き……何か凄いね。金髪が靡いて綺麗なのもあるけど、こう……言葉に出来ない美しさを感じるよ」
「あれだけ見事な剣を振るう剣士なんて滅多にいないわよ。一撃必殺のレウスにはちょっと厳しい相手かしら?」

 俺との模擬戦によって素早い相手には慣れているレウスだが、それ以上にジュリアの剣が凄まじいのである。
 暴風のように荒々しく振るわれたかと思いきや、流れるような動きで的確に急所を狙ってきたりと、緩急を入り混ぜた不規則な動きによってレウスは完全に翻弄されているようだ。

「どうした! 剛破一刀流とは受けるだけの剣なのか? 違うだろう!」
「くっ……」

 そんなジュリアを相手に、レウスは攻めるどころか攻撃を捌くだけで精一杯のようだ。
 木剣だけでなく小手で防いだりして直撃だけは避けているようだが、次第に追い込まれ始め、レウスは一歩……また一歩と後退していく。

「レウスにしては防戦一方ですね。あれはやはり?」
「ああ、機を伺っているようだな。教えた事をしっかりと生かしているようだが……」

 逆転の一撃を狙ってはいるのだが、相手の剣を見極めるのが難しいのだろう。
 そして反撃の出来ないレウスを円の端まで追い込んだジュリアは、勝負を決める為の一撃を振りかぶっていた。多少強引な攻めだが、判定負けではなく自分の手で倒したいがゆえの行動だろう。
 もちろん油断は一切しておらず、相手を確実に仕留めようと放たれたジュリアの剣は……。

「ここまで私の剣を正面から防いだのはお前が初めてだ! だがこれでー……」
「ふっ!」

 下から掬い上げるように振るわれたレウスの木剣とぶつかり、甲高い音と同時にジュリアの木剣は上空を舞っていたのである。

「……な!?」
「姫様の剣を防いだだと!?」

 凄まじい剣の速度に加え、フェイントまで交えていたあの一撃を防ぐのは容易ではあるまい。
 それでもレウスが防げたのは、これまで俺と模擬戦を繰り返して体に叩き込んできた経験ゆえだ。
 ひたすら耐えながら相手の動き、癖、呼吸を読み、そして俺との模擬戦で培った経験によって必殺の一撃が来るのを予測し、ジュリアが手元から僅かに気が逸れる瞬間を狙って剣を弾いたのである。
 そして剣を弾かれて動揺しているジュリアへ、レウスは間髪入れず木剣を振り下ろしていた。

「これで決まり……だな?」

 だが、振り下ろされた木剣はジュリアの肩に当たる直前で止まっていた。
 試合前に決めたルールでは一撃でも当てれば勝ちなのだが、やはりと言うべきなのかレウスは寸止めをしたようだ。

「……どういうつもりだ? 何故剣を止めた?」
「何って……もう決まったようなものだし、当てる必要はないだろ?」

 誰の目から見ても今の一撃は確実に決まっていたので、レウスの言葉通り当てる必要はない。
 これが殺し合いや、憎い相手ならば別だが、レウスにとって女性とは守るべき対象なので無闇に傷つけたくないからだ。これはレウスの姉たちによる躾と、俺の行動を見て育ってきたせいだと思われる。
 要するにレウスの優しさなのだが、リーフェル姫から聞いたジュリアの性格からして……。

「ふざけるな! ルールを決めたのならば、それに沿って全力で戦うのが剣士だろう! やり直しを要求する! さあ、今度こそ私を叩くがいい!」
「模擬戦だからいいじゃないか。それに何で意味もなく女を叩かないといけないんだよ!」
「女は関係ない! どうやら私の本気が伝わっていなかったようだな。こうなれば意地でも叩かせてくれる!」

 予想通り、お気に召さなかったようだ。
 あまりの剣幕にレウスも素を出しながら逃げ出しているが、ジュリアは全く気にせずレウスを追いかけている。
 要するに……彼女はきちんと負ける形にしないと納得が出来ないのだろう。
 近くに落ちた木剣を拾い直したジュリアが再びレウスへと迫る光景に、リーフェル姫は頭を抱えながら溜息を吐いていた。

「あー……やっぱり怒らせちゃったか。二人共、良くも悪くも真っ直ぐだから当然だったかも」
「だ、大丈夫なのかな? 相手は王女様だし、レウスが後で酷い目に遭わされたりしないよね?」
「大丈夫よ。ジュリアは権力で相手を押さえる事はしないから、ああして自分で追いかけているのよ」

 これまでジュリアは王女だろうと権力を行使せず、己の実力だけで相手を屈服させてきたらしい。
 心配のあまりにこちらも素が出ているリースだが、全く心配はしていないリーフェル姫の笑みに少しだけ安堵している。
 一方、弟が追い駆け回されている状況でもエミリアは冷静に観察を続けていた。

「先程ジュリア様が女は関係ないと口にしていましたが、もしかしてリーフェル様が仰ってた意味があれなのでしょうか?」
「そう。普段は気にしないんだけど、戦う事に関しては女扱いをされるのが嫌なのよ。ジュリアは王女だけど、己が剣士である事を誇りにしているから」

 前に戦ったアルベルトとジークも、相手が女性だからと遠慮した動きを見せたそうだが、ジュリアの剣技の前にそれは甘い考えだと強引に理解させられたそうだ。

「剣を握ったばかりの頃、女だからって手加減されたり、ジュリアを疎ましく思っている連中から馬鹿にされたらしくてね。そういう連中を正面から見返してやろうと、必死に強くなってきたのよ」

 手加減されたのは王女なのもあるだろうが、あれ程の激情を見せる点からして、相当煮え湯を飲まされてきたのだろう。
 元からの才能もあるだろうが、その負けず嫌いによってここまで己を高めてきたわけか。ある意味凄まじい執念だな。

「ちょ……俺出てるって! 円を出たから負けだって!」
「その通りです、姫様! 剣を納めてください!」
「断る! 貴様が叩くまで私は止まらんぞ!」
「だからそれは嫌なんだって!」

 意地でも己を叩かせて負けを認めたいのだろう、レウスが円の外に出てもジュリアは止まらず、フォルトの声も聞こえていないようだ。
 負けず嫌いの上に、模擬戦でもキッチリしないと許せない女性か。
 そんなジュリアからレウスは一本を取ってしまったのだ。
 これが後に降りかかるレウスの受難……いや、女難の始まりなのかもしれない。

「自分が負ける為に相手へ斬りかかるって、変な状況よね」
「真面目……って言うべきなのかな?」
「ねえねえ、レウスお兄ちゃんとあのお姉ちゃんは追いかけっこで遊んでいるの? カレンも混ざっていい?」
「止めておきなさい。カレンには厳しい追いかけっこだから」

 眩い程の美貌と気品により、どこか近寄り難い雰囲気があったジュリアだが、今は年頃の女性が遊んでいるようにしか見えなくもない。カレンが混ざりたいと言い出したのはそのせいだろう。
 それから自分を叩けと叫ぶジュリアと、頑なに拒むレウスと、必死に姫を止めようと走るフォルトの追いかけっこはしばらく続いた。

「さあ、私を斬って勝利を掴むがいい!」
「さっきから何かおかしいんだよ! 兄貴! 見てないで助けてくれよ!」
「兄に助けを求めるとは、私に勝った者とは思えん行動だな!」
「そっちこそ、負けた奴の行動じゃねえだろ!」
「……何だろうな」

 大変な状況というのはわかるのだが、こう……じゃれ合いと言うべきなのか、見ている側からすれば妙に微笑ましい光景なのである。
 例え、壁際に追い込まれたレウスが、ジュリアの剣を白刃取りで何とか耐えてはいるとしてもだ。
 とはいえレウスも本気で助けを求めているので、いい加減俺も止めに入ろうとしたところで……。

「いい加減にしろ、ジュリア!」
「っ!?」

 フォルトとは違う喝を入れるような怒声が訓練場に響き渡り、ジュリアの動きがようやく止まったのである。
 それで冷静になったのだろう、レウスからゆっくりと離れたジュリアは深々と頭を下げていた。

「……すまない。つい我を忘れて迷惑を掛けてしまったようだ」
「まあ……別にいいよ。俺も色々勉強になったしさ」
「そ、そうか? そう言ってもらえると助かる。ところで……ここまでしておいて何だが、また私と勝負をしてくれないか? 次こそはレウス殿に勝ってみせる」
「兄貴に聞いてみないとわからないけど、時間があれば俺からもお願いするよ。ジュリア……えっと、ジュリア様と戦えば俺も強くなれそうですから」
「ははは、そんなに畏まらなくてもいい。名前は仕方がないが、それ以外は普通に接してくれ」

 酷い目には遭ったが、あの凄まじい剣技は認めているのだろう。
 レウスとジュリアが互いを認めるように握手を交わしていると、ジュリアを止めた声の主が二人に近づいていた。
 見た目は二十歳を過ぎたくらいの男で、ジュリアと同じ金髪に王族が着るような服装……そして隣に先程席を外したジラードを連れている点からして、彼が噂のサンドールの第一王子……サンジェルなのだろう。
 だが……彼がジュリアへ詰め寄る表情は非常に不機嫌そうだ。
 自分が招いた客人を、妹が先を越していたのだからわからなくもないが。

「握手なんかしている場合か! ジュリアよ、彼等は俺が招いた客人だぞ。俺を無視して勝手に相手をするんじゃない!」
「兄上は忙しそうでしたし、フォルトが怪しんでいましたから私が試しただけですよ」
「減らず口を。まあいい、それでお前から見て彼等はどうだ?」
「……彼等は信頼に足る者たちだと思います。レウス殿から感じた真っ直ぐな剣は、正道でなければ振るえませんから」
「そうか。気に食わんが、お前がそう言うなら騒がしい連中も黙るか」

 ジュリアの人を見る目は城でも有名らしく、彼女が認めたと知れば警戒する者も減るそうだ。
 結果的に面倒が減った事で少しは気が紛れたのだろう、サンジェルは妹から離れて俺たち前にやってきた。

「ジュリアに先を越されてしまったが、俺がサンジェルだ。お前が闘武祭の優勝者であるシリウスだな?」
「はい、シリウスと申します。そしてこちらが俺の妻であるー……」

 そのまま皆の紹介を簡単に済ませたが、サンジェルもやはり男なのか俺の妻たちに視線が釘付けである。
 寄越せとか言い出したら全力で抵抗しようと考えてはいたが、彼の目からそこまでの欲望は感じられなかった。情報屋の青年から傲慢だとは聞いていはいたが、そこまで酷いわけではなさそうだ。
 ある程度眺めたら満足したサンジェルだが、何故か隣に立つジラードへ呆れた視線を向けたのである。

「冒険者でもこんな綺麗どころを揃えているんだ。お前も少しは見習ったらどうだ?」
「私のような者が女性を幸せに出来るとは思えませんので」
「やれやれ、英雄も人によって違うものだな。少しは天王剣の奴を見習え」
「彼の場合は極端過ぎるので、見習いたくはないですね。それより皆様を……」
「ああ、そうだったな。とにかくよく来てくれた。少し城はゴタゴタとしているが、歓迎しよう」
「ありがとうございます。ところで……私たちを招いたのは話が聞きたいとの事ですが、一体何を知りたいのでしょうか?」
「何、ちょっと闘武祭の話を聞いてみたかっただけだよ。ついでに、俺の下に仕えてみる気はないかと聞いてみたくてな」

 ジラードが知っているのならば、俺が誰に仕えているかは理解している筈なのに、自然と勧誘してきたな。
 天然なのか、策略あっての行動なのかはわからないが、この強引さがジラードたちのような英雄を仕えさせた秘訣なのかもしれない。
 まあ一国の王子だろうと、まだよくわからない相手に仕える気は微塵もないので断らせてもらうとしよう。

「申し訳ありませんが、私はリーフェル様に仕えていますので」
「その通りですわ。私の目の前で勧誘とは……随分と大胆な事をするのですね」
「ははは、すまんな。素晴らしい人材を見ると、つい勧誘したくなる性分でな……」

 さすがに黙ってはいられなかったのだろう、リーフェル姫が笑みを浮かべながらドスを利かせているが、サンジェルもまた涼しい顔で受け流している。
 笑いながらも視線による火花を散らす二人に皆が距離を取り始めているので、中心にいる俺が止める他なさそうだ。

「あー……口を挟むようで申し訳ありませんが、一旦場所を変えませんか?」
「シ、シリウス様の言う通りですよ、サンジェル様! それにそろそろ食事の支度が整うと思いますし……」
「……そうね。ここだと落ち着けないもの」
「ああ。そろそろ昼食の時間だし、場所を変えてゆっくりと語り合うとしよう。城の者に皆を満足させる食事を用意させておいたから、期待してー……」

 何とか場は収まり、サンジェルが俺たちを案内しようと歩き出したその時……突如一人の男が慌てた様子でサンジェルの下へ駆け寄ってきたのである。 

「サ、サンジェル様! こちらにいらしたのですね?」
「騒がしいぞ。一体何の用だ?」
「その……アシュレイ様が……」
「またか!? くそ、相変わらず面倒事ばかり起こす奴だ!」

 あの男……どこかで見た事があるかと思ったら、さっき馬車を停めた時に近くで作業をしていた男だな。
 そんな男が緊張しながら説明を続けていると、体の手入れを済ませたレウスとジュリアが戻ってきて会話に加わってきた。

「兄上、アシュレイが何かしたのですか?」
「また勝手な行動をして、周囲の者を困らせているそうだ。止めに行かねばならんようだが、お前たちも一緒に来た方が良さそうだ」
「俺たちもですか? えっと……アシュレイ様とはまだ会った事がないんだけー……ですが」
「家の愚弟が、お前たちの馬車の前で騒いでいると知ってもか?」
「私たちの馬車に……ですか?」
「まさか……」

 俺たちの馬車は、内装はとにかく外見は普通の馬車にしか見えないから興味を惹くとは思えない。
 つまり騒ぐとすれば、馬車の周辺で待機を命じていたホクトに関係するって事だ。

 嫌な予感を覚えつつ、そのまま全員で馬車の下へ向かってみれば……。

「くっ! 最高級の肉でも見向きもしないとは、やはり百狼となれば簡単にいく筈もないか。けど俺は諦めないぜ!」
「クゥーン……」

 肉の塊を持った金髪の青年に絡まれ、困り果てているホクトの姿があった。
 絡まれると言っても、青年は一定の距離を保って眺めているだけなのだが……ああも目を輝かせて周囲をうろつかれてはかなり鬱陶しいだろう。

「あの馬鹿が。王族でありながら、まるで子供のように騒ぎおって……」
「おお……何と立派な魔物なのだ! 是非とも背中に乗って戦場を駆け抜けてみたい!」
「……ここにもいたか」

 二人の反応からして、どうやらあの金髪の青年がサンドール国の第二王子……アシュレイらしい。
 あのホクトを恐れずに近づこうとする度胸には驚かされるが、今はそれ以上に気になる事があった。

「只者じゃないのはわかってはいたけど……まさかね」
「なあ、兄貴。あの男って……」
「それ以上は口にするなよ。どうりで色々詳しいかと思えば、やはりそういう事か」

 服装も髪型も全く違うが、あの独特の気配は間違いあるまい。
 ホクトの周囲で子供のようにはしゃいでいるアシュレイは、昨夜出会った情報屋の青年だった。




 おまけ ○○の為なら手段は問わず


「ここがサンドールで本を取り扱っている一番大きな店ですよ」
「わぁ……本が一杯ある!」

 ジラードに案内されて城へ向かう前に、俺たちはカレンの要望で町にある本屋へとやってきた。
 そして初めて見るであろう本の数に、目を輝かせながら店内に突撃しようとするカレンに俺は一言告げる。

「あまり時間がないから、一冊にしておくんだぞ。欲しいのがあっても、後でまた買いに来ればいいんだからな」
「うん!」
「シリウス様、私たちもよろしいでしょうか?」
「興味を惹くのがあれば別に構わないぞ。まあ今は大量に買っても仕方がないから、一人一冊ずつな」
「わかりました」
「うーん……大きい町になるとやっぱり品揃えが違うね」
「見るだけで時間が掛かりそうね。とりあえず、ざっと見て回りましょうか」
「本か。最近読んでないな」
「…………」

 すでに集中して本を吟味し始めているカレンを確認してから、俺も良さそうな本を探すのだった。

「これは……料理の歴史が書かれた本だね。エミリアの方は何かいいのがあった?」
「こ、これは!? シリウス様と私たちの為に是非とも買っておかなければ……」
「何をそんなに真剣にー……って、これ!?」
「これに書かれた技があれば、シリウス様に後れを取る事は……」
「私にも後で見せてちょうだい」
「はい。三人で共有しましょう」

 何だか女性陣の方が騒がしいが、良い本と巡り合えたらしい。
 俺も面白そうな本を一冊見つけたので、一番時間の掛かりそうなカレンの様子を見に行ったが、予想に反してカレンの方はすでに吟味が済んでいた。

「これが欲しい!」
「へぇ……中々興味深いタイトルじゃないか。だがカレンよ、俺は一人一冊だと言った筈だが……それはどう見ても一冊には見えないぞ?」
「フィアお姉ちゃんとレウスお兄ちゃんは買わないって言ったから、カレンが代わりに買うの」
「なるほど……そうきたか。ちょっと屁理屈かもしれないが、そういう考え方が出来るのも成長した証か。だがカレンよ、一つ致命的な欠点があるぞ。それなら四冊もあったら駄目じゃないか」
「もう一冊はホクトの分だよ!」

 外で待っているホクトに視線を向けてみるが、違うとばかりに首を横に振っている。

「……そうか、ホクトの分なのか。でも、ホクトが本を読んでいる姿は見た事がないぞ?」
「カレンが読んであげるから大丈夫! ホクトも喜んで聞いてくれるー……」
「……返してきなさい」
「えーっ!?」


「あの…………まだでしょうか?」

 結局、買う数を二冊にしたり、四冊の中から吟味したりするのに時間が掛かり、俺たちは一時間近くジラードを待たせてしまうのだった。








 お待たせして申し訳ありませんでした。
 大分状況が落ち着いてきたので、ようやく更新となります。

 久々なのでちょっと感覚がずれているせいもあり、レウスとジュリアのやり取りで妙に詰まっていました。
 ジュリアの性格が完全に固まっていないのもありますが、案の段階では異様に展開が早かったりしたので、修正が苦労しました。

 ちなみに補足ですが……ジュリアの髪型はツーサイドアップってやつです。
 そして追い詰められても『くっ、殺せ……』なキャラではなく、力尽きるまで剣を振るい続けるキャラです。ちょっと剛剣の爺さん寄りですね。

 次回の更新は未定となります。
 ですが書籍の方は目途がついたので、次はもう少し早く出来るかな……と。
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