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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

二十一章 サンドール

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姉からの愛と忠告と……

 お待たせしました。
 今回は書いている内に小ネタが浮かんだり、中々区切るところが見つからず、気付けばいつもより1、5倍のボリュームになっています。




「セニア!」

 血の繋がりはなくとも、彼女にとってもう一人の姉のような存在であるセニアの登場に、リースは満面の笑みを浮かべながら抱き付いていた。
 そしてセニアもまた己の胸に飛び込んできたリースを受け止め、愛おしそうに抱きしめながら頭を撫でていた。

「ああ……わかります。この抱き心地、少し見ない間にこんなにも成長なされたのですね」
「もう、一年以上も経っているんだから当然でしょ?」
「それもそうですね。今のリース様を見れば、リーフェル様もお喜びになられるでしょう」

 二人はそのまましばらく抱き合い続けていたが、俺たちがいる事を思い出したセニアは名残惜しそうにリースから離れ、俺たちへ向き直ると同時に見事なお辞儀をしてきた。

「申し訳ありません、喜びのあまり少々取り乱してしまいました。皆様、お久しぶりでございます」
「こちらこそ。セニアさんもお元気そうで」
「久しぶり、セニアさん!」
「オン!」

 続いて俺たちへの挨拶が済んだところで、セニアは初対面となるフィアとカレンへ視線を向けた。

「ところで見慣れない方がいらっしゃいますが、もしかしてあの御方が?」
「そう、エルフの人が手紙に書いたシェミフィアーさんよ。それでこっちが最近仲間に加わった子で……」

 続いてカレンを紹介しようとしたのだが、初対面の相手に少し警戒をしているのか、カレンはフィアの背中から顔を半分だけ出した状態で様子を窺っていた。
 微笑ましい姿だが、挨拶はきちんとするべきだと言おうとする前に、セニアが膝を突いてカレンと目線を合わせながら微笑みかけていた。

「ふふ、とても可愛らしいお嬢様ですね。幼い頃のリーフェル様を思い出します」
「ちょっと理由があって預かる事になった子なんだけど、今は立派な旅の仲間なの。ほら、この人は安心だから……ね?」
「……うん」

 緊張しながらもリースに促されて前に出てきたカレンは、セニアの前に立って御辞儀をしていた。

「は、初めまして。私はカレンと言います。大好きなのは蜂蜜です!」

 動きは少々ぎこちないが、相手が気持ちよく受け取れそうなしっかりとした挨拶である。好物を主張している点はあえて聞くまい。
 俺の隣で教育したエミリアが満足そうに頷く中、次は自分の番ですねと呟きながらセニアは立ち上がっていた。

「私は主であるリーフェル様の従者、セニアと申します。シェミフィアー様。カレン様。以後お見知りおきを」
「ええ、よろしくね。それより私は貴方の主じゃないから、様付けなんていらないわよ?」
「いえ、リース様のご友人方に失礼な態度はとれませんので」
「カレン様? カレンって偉かったの?」
「違うから」

 微妙な勘違いを始めるカレンを正していると、周囲を見渡していたセニアが声を潜めながら話しかけてきた。

「申し訳ありません。呼び止めてしまった私が言うのもなんですが、ここは目立つので一旦場所を変えませんか?」
「そうですね、どこか落ち着いて話せる場所を探しましょうか」
「なら宿を借りましょう。元からそのつもりで来たんだし」
「ですが馬車を預けて大丈夫そうな宿はあるのでしょうか? 私たちはまだこの辺りの治安がよくわかりませんし」
「私にお任せください。安全性が高いだけでなく、多少なら融通がきく宿を知っていますので」

 それから自信満々に答えるセニアの案内によってやって来たのは、集落の中で比較的大きい建物の一つだった。
 しかしお世辞にも外観はあまり綺麗とは思えず、他の客も見られないのでとても繁盛しているように思えない。
 本当にここで大丈夫なのかと首を傾げる俺たちを余所にセニアは迷う事なく宿へと入り、そして受付に話を通して部屋の確保と馬車を預ける手続きを済ませ、更にホクトを宿に入れてもいい許可まで取ってくれたのである。

「見事な手際ね」
「姉様の従者だから当然よ」
「私もまだまだですね。少しでも見習わなければ……」
「…………」

 自分の事のように喜ぶリースの言う通り、王族として多忙のリーフェル姫を補佐する従者としてセニアは様々な事に精通している。
 だが今のは彼女の能力だけでなく、すでに何度かここへ訪れて、この辺りの勝手を知っているからこその動きでもあった。
 あれだけ大切にしているリースを嵌めるつもりはないだろうが、再会した時から浮かんでいた疑問が更に深まっていた。

 セニアの提案により、今回の宿では俺たち全員が寝られる大部屋を一つ借りる事となった。
 普段は男女別の部屋を借りるのだが、まだよく知らない場所で別々に部屋を借りるのも不安だし、セニアも何か事情があるようだ。
 建物の外観からして野宿よりはマシな部屋だと思っていたのだが、部屋の内装はかなり綺麗なものだった。

「中々良い部屋だな」
「見て見て! 前に泊まった宿よりベッドが柔らかいよ! ホクト程じゃないけど」
「いや、ホクトさんと比べたら駄目だろ。それにホクトさんの上で普通に寝られるのって兄貴とカレンだけだし」
「オン!」
「ベッドだけじゃなく他の家具も立派なものね。外観はあれなのに内装はしっかりしているなんて不思議な宿だわ」
「多少狭いですが調理室もありました。早速使わせていただきましょう」

 ベッドの感触を確かめるように座ったり紅茶を淹れたりと、各々が自由に過ごしている間、セニアは部屋の入口や窓へ近づいて周囲を警戒していた。耳を小刻みに動かしている点から、あまり他人に聞かれたくない事を話すのだろう。
 なので部屋の隅で座っているホクトに目で合図をしながら俺も『サーチ』を発動させてみたが、現時点で部屋の周辺で聞き耳を立てている奴はいなさそうである。

「オン!」
「……周囲に怪しい奴はいないようだな」
「ありがとうございます。シリウス様とホクト様がそう仰られるならば安心ですね」
「何か不味い話でもするのか? 俺としてはセニアさんがこんな所にいる方が気になるんだけどさ」
大陸間会合レジェンディアで訪れているなら、姉様たちはサンドールの城にいる筈だし、そもそもセニアが姉様の傍にいないのは珍しいよね?」
「それは……」
「お前たち、ちょっと落ち着きなさい。彼女が困っているぞ」

 リーフェル姫の従者を解雇されたという可能性も僅かに浮かんだが、先程の紹介からしてそれはなさそうだ。
 主を陰から支えているセニアの行動からして、スラムのような場所を訪れる理由はある程度想像が付くが、まずは彼女から話を聞きたいところである。

「何か答え辛い理由があるのかもしれない。あまり俺たちから質問をしない方がよさそうだ」
「……お察しの通りです。私はある理由でここへ訪れているのですが、今は詳しく語れないのです」
「そうね、王族の従者なら特命とかあるだろうし、私たちが知ったら不味い情報とかあるわよね」
「申し訳ありません。皆様にはあまり隠し事をしたくないのですが」
「セニアが謝る必要なんてないよ。だってそれは姉様の為なんでしょ?」
「お姉さんは悪い人じゃないよ」

 俺たち……特にリースへ隠し事をするのが辛いのか、激しく落ち込んでいるセニアをリースとカレンが慰めていた。
 そんな二人の純粋な励ましにより、セニアは即座に立ち直っていた。

「ありがとうございます。お二人の心遣いは何よりの薬ですね」
「でもこれなら聞いても大丈夫だよね? 姉様や父様は元気なの?」
「はい、少し多忙な日々ですが元気ですよ。毎日のように、早くリース様に会いたいと仰っておられます」
「じゃあ、会う事は出来る……よね?」
「もちろんです。ですが、すぐに会うのは難しいかと」

 リースがカーディアス王の娘という点は隠している事なので、俺たちを城へ招いて会うのはあまりよろしくあるまい。
 会うなら町の中で秘密裏になるだろうが、ここは勝手の違う余所の国なのですぐに再会とはいかないだろう。

「私は今からやらなければいけない事がありますので、リーフェル様の下へ戻るのが遅くなりそうなのです。それからリーフェル様に報告を済ませて、政務やら諸々の準備を済ませてからと考えて……おそらくリーフェル様と会えるのは明日の夜以降になるでしょう」
「えっと……何でそんなに残念そうなの? 明日の夜でも十分早いと思うんだけど?」
「ああ。王族となれば忙しいから、普通に考えてその日の内に来るのは厳しい筈だからな」
「それだけリースと会いたいって事なのかしら?」
「そうか? リーフェ姉とカーディアスさんなら当然だと思うけどな」
「オン!」
「ホクトもレウスお兄ちゃんと同じなの?」

 大陸間会合レジェンディアの詳しい内容はわからないが、大陸中の重鎮が集まるとなれば色々と忙しいだろうし、城から下手に動く事は出来ないだろう。
 それでも情報が伝わったその日の内に会いに来ると口にしてしまうのだから、ある意味恐ろしい程の愛情である。この場合、政務を無視して会いに来ないだけでもマシと考えるべきかもしれない。
 そんな家族の愛情にリースが複雑な表情をする中、エミリアが紅茶とクッキーを運んできたので、俺たちはそれを口にしながら話を続けた。

「とにかく、リーフェ姉たちに会えるのは明日以降ってわけだな。俺たちは城に入れないから、町の宿で待っていればいいのか?」
「いえ、この宿で落ち合う予定です。私がこの宿を借りるように提案したのはその為なのです」

 セニアの説明によると、この宿は一見寂れた建物にしか見えないが、裏に精通した者が知る合言葉を使えば、何をしても秘密を守る部屋……つまり現在俺たちがいる部屋を貸してくれるわけだ。
 この部屋はサンドールに住む裏の連中や王族が密かに談合したり、貴族が周囲に知られると不味い女を連れ込んで色々したりと、様々な事に使われているらしい。それゆえに合言葉を知る者は僅からしいのだが、セニアがそれを知っている点も気になる。

「部屋に立派な家具類が揃っているわけね」
「さっきセニアさんが宿の人に金貨を何枚も渡していたけど、あれは口止め料ってやつなんだな?」
「その通りでございます。この国を訪れてから色々調べてみましたが、一番秘匿性の高い場所がこの宿でした。リーフェル様と秘密裏に会うならばここが一番でしょう」
「秘密にするのはわかるけどさ、リース姉と会うのにそこまで隠れる必要があるのか?」
「それは私も思ったけど、姉様が必要だって思ったからそうするんだよね?」
「はい。こちらで勝手に決めて申し訳ありませんが、これも必要な処置なのです。そしてもう一つお願いしたい事があるのですが、リーフェル様が来られるまでは、なるべくこの集落から離れないでほしいのです」
「つまり、俺たちはサンドールの町に……すぐそこの防壁を通らない方がいいという事でしょうか?」
「町の中は危険なのかしら?」
「いいえ、冒険者が集まっているので荒くれ者は多少見られますが、危険という程ではありません」

 俺たちが町に入ると不味い理由……か。
 事前に得ていた情報から様々な憶測が浮かぶが、あのリーフェル姫がここまでするって事はリースに何か危害が及ぶ可能性があるのだろう。
 ここは忠告に従って、素直に頷いておいた方が良いかもしれないな。

「……わかりました。そちらから何か反応があるまで、俺たちはこの辺で休んでいますよ」
「いいの? シリウスは町に入るのを結構楽しみにしていたじゃない?」
「ここへ来たのは宿の確保だけじゃなく、サンドール内の情報を集める為でもあったんだ。だからリーフェル様が来るまで情報集めでもしているさ」

 結局は情報不足が問題だからな。
 俺が口にした行動に関してセニアは何も言ってこないので、とにかく町へ入らなければ問題はないようだ。
 そして情報収集によって本当に不味い国だと判明すれば……すぐに国を離れる事も頭に入れておくべきかもしれない。

 その頃、子供には少し難しい話が続いたせいか、途中からカレンは話よりクッキーに夢中だった。
 蜂蜜を使ったクッキーを口一杯に頬張る姿を見たリースは、微笑みながらハンカチを取り出してカレンの口元を拭っていた。

「カレン、クッキーが頬に付いているよ。ちょっとだけ動かないでね」
「ん……ありがとう、リースお姉ちゃん!」
「ふふ、すでに母親となる自覚が芽生えているのですね。リース様の成長、セニアは嬉しゅうございます」
「な、何を言っているの!? 私はカレンのお世話をしているだけだよ!」
「それは残念です。私の予想では、すでにシリウス様とのお子様を授かっているのではないかと予想していたのですが……少し気が早かったようですね」
「早過ぎだって! 奥さんにはなれたけどー……あ」

 セニアはこんな性格だっただろうか?
 いや、それだけリースに再会出来た事が嬉しくて、気持ちが舞い上がっているのかもしれない。
 話の流れ……というか、本人の自爆によってリースが俺の妻になった事を報告すれば、セニアは満面の笑みを浮かべながらリースを抱きしめていた。

「遂にリース様の夢が叶ったのですね。おめでとうございます!」
「うん……ありがとう、セニア。それで姉様には……その……」
「承知しています。これはリース様から直接お伝えするべき事でしょう」

 大丈夫だとは思ってはいたが、セニアから祝福してもらえて安心した。
 問題はリースの家族だが、リーフェル姫は間違いなく祝福してくれるだろうとセニアが断言してくれたので、少しだけ気持ちが楽になった。
 だが一番の強敵は父親であるカーディアスだろう。
 最初は娘に冷たい態度ばかりとっていたが、今では立派な親馬鹿になっているからな。事実を知ると同時に真剣を振るってくる可能性もあるので、十分に警戒しなければ。

 俺たちに伝える事は以上なのだろう。
 用事を済ませる為に、セニアは一言断りを入れてから部屋を出ようとしたのだが、そんな彼女をレウスが呼び止めていた。

「なあ、セニアさん。さっきリース姉の夢が叶ったとか言っていたけどさ、リース姉の夢って何なんだ?」
「素敵な旦那様の奥様になる事ですね。リース様と出会って間もない頃に教えてくださった事です」
「ちょ、ちょっと!? いいから! そんな昔の話はいいから、セニアは早く行ってちょうだい!」
「そんなに恥ずかしがらなくても、とても素晴らしい夢だと思いますよ。母様のような素敵な奥さんになりたいと、目を輝かせながら語ったあの頃のリース様の可愛さといったらー……」

 話の途中だが、セニアはリースに押されて無理矢理部屋から追い出されていた。
 そして残されたリースが恥ずかしそうに頬を染める姿に愛おしさを感じた俺は、慰めるように彼女の頭を撫でるのだった。





 それから部屋で宿が用意してくれた夕食を済ませた俺たちは、集落にある酒場へとやってきていた。
 大勢で行くと絡まれる可能性も高いので、酒場に連れてきたのはレウスとフィアだけである。ちなみに間違いなく目立つであろうフィアを連れてきたのは、彼女が酒を飲みたいと頼んできたからだ。
 部屋に女性と子供だけ残すのも気になるかもしれないが、ホクトを残してきたので万が一はあるまい。
 というわけで、俺は気兼ねなく情報収集に励んでいたのだが……。

「不穏な噂? そんなの特に聞かねえし、あったら来るわけねえだろ?」
「次にサンドールを治める王子は、素晴らしい御方だって町の連中が言っていたな。まあ、前の氾濫で戦った英雄たちを見出したのがその王子だから当然かもな」
「英雄と呼ばれる連中は全部で三人だって聞いたぜ。何か神の眼とか天王剣とか御大層な二つ名を持っているそうだが、最後の一人だけは知られてないんだ」

 客である冒険者や商人の会話に加わったり、お酒を奢ったりしながらサンドールについて色々と聞いてみたが、あまり良い情報は得られなかった。
 一つわかったのは、やはりセニアの説明通りサンドールは平和そのもので、俺たちが入っても問題はなさそう……という点である。
 そんな風に幾つか情報を集めた後、俺は酒場のカウンターで店主や他の客から話を聞いているフィアとレウスの下へと戻った。

「どうだった、兄貴?」
「何か収穫はあったかしら?」
「いや、目ぼしい情報はなかったな。そっちは……聞くまでもなさそうだな」
「ええ、私たちもこれといった情報はなかったわね。マスター、この人のお酒と追加のつまみを貰える? このドライフルーツはお酒に合うから、シリウスも試してみて」
「この干し肉も結構美味いぜ。兄貴も食べてみろよ」

 ドライフルーツをつまみにしてワインを楽しんでいるエルフと、大剣を背負った銀狼族が干し肉を次々と平らげる姿が珍しいのか、俺たちは徐々に注目を集め始めていた。
 多少ではあるが情報は聞けたし、あまり長居しない方がよさそうと思い始めたその時、明らかに俺たちを狙って近づいてくる気配を捉えたのである。
 さっきまでフィアに粉をかける奴は何人かいたが、殺気を込めたレウスが睨みつければすぐに逃げていた。
 しかし自分の奥さんをレウスに任せっきりなのもどうかと思うので、今度は俺が追い払おうと考えながら身構えていると……。

「なあ、サンドールの情報を集めている奴がいるって聞いたんだが、兄さんの事だろ?」

 のんびりとした動きで現れた金髪の青年は、フィアを素通りして俺の隣へとやってきたのである。
 そしてこちらの許可なく隣の椅子に座るなり、人懐こそうな笑みを浮かべながら店主に酒を注文していた。

「マスター、いつものより高いやつをくれよ。今日は良い事がありそうだからな」
「……あいよ」
「誰だお前? 兄貴に何の用だ」

 それにしても、フィアより俺に興味を持って近づいてくる男も珍しいものだ。
 年齢は俺より少し上で、青年の見た目は周囲の連中……冒険者や商人とも取れるような恰好だが、俺はその姿に違和感を覚えていた。

「待て、レウス。俺に話しかけてきたって事は、あんたは情報屋と思っていいのか?」
「その通りさ! サンドールは俺の庭みたいなものだから、何だって聞いてくれよ」

 その自信満々の言葉と妙な馴れ馴れしさも加わって実に怪しい青年だが、こういう相手から思わぬ情報を得られる時もある。
 どちらにしろこのまま宿へ戻るのも勿体ないので、俺は青年から話を聞いてみる事に決めた。
 現時点で一番気になっているのはサンドールの情勢だが、まずは試しとして例の連中から聞いてみるとしようか。

「なら以前あった魔物の氾濫で、英雄と呼ばれるようになった人たちについて何か知っていないか? 剛剣を越えた剣士や、神の目を持つ者とかそんな話しか聞かなくてな」
「なるほど、あの連中か。全部で三人なのはもう知っているよな?」
「ああ。『神眼』と『天王剣』という二つ名は聞くが、最後の一人については全く情報がないのは何故なんだ?」
「まあそれは当然だろうな。だってそいつだけは城の連中が必死になって隠しているからなんだよ。でも俺はそこら辺の連中とは一味違うぜ? 最後の一人は『竜奏士』って呼ばれている奴なんだ」

 ほとんど駄目元で聞いたのだが、青年は予想以上に有能だった。
 今のが偽情報や作り話という可能性もあるが、目線の動きや淀みなく語り続けている様子からして嘘を突いているようには思えない。
 もちろん内容を全て信じるつもりはないが、興味深い話なので更に詳しく聞いてみるとしよう。

「マスター。彼にさっきのと同じ酒をもう一杯頼む」
「お、悪いね。それで次は何を聞きたいんだ?」
「英雄たちの二つ名を付けられた由来とかわかるか? 特に神眼というのを詳しく頼む」
「あら、神眼だけでいいの?」
「他は何となく予想が付くからだ。天王剣は剣に優れた者だろうし、竜奏士は……おそらく竜を操れるとかそんなところだろう」
「そうさ、兄さんの言う通り、竜を自在に操れるからそう呼ばれるようになったらしい。けどその姿を見た奴は限られた連中だけで、実は男か女かさえもわかっていないんだ。天王剣の方は有名だからもう知ってるだろ?」
「剛剣の再来とか、力ならば完全に剛剣を上回っている剣士だと聞いたが、それはお前の方でも変わらないようだな」
「あの爺ちゃんの力を越えるって絶対嘘だろ」

 隣でレウスが密かに呟いていたが、俺もそう思う。
 爺さんを越えるとなると、もはやただの化物としか思えないので誇張されている可能性が高い。

「っと、話が逸れちまったが神眼だったよな? 神眼ってのはとにかく賢い男で、周囲からも頼りにされている奴なんだ。実際、前の氾濫では神眼が指揮を執った御蔭で被害がほとんどなかったらしい」

 飛び抜けた力や魔力があるわけではないが、知力に優れた天才軍師のような存在らしい。
 詳しい説明によると、まるで神が見下ろしているかのように戦況を把握し、先を予想しているかのように適切な判断を下す……という理由からその二つ名が付いたそうだ。

「とまあ、現時点で俺が知ってんのはこれくらいだな」
「へぇ……知識だけで英雄になれるなんて凄いわね。でも竜奏士も含めたその情報が本当という証拠はあるの?」
「信じるかどうかは兄さんたちの自由だし、それが正しいかどうかを判断するのも冒険者ってやつじゃないのか?」
「中々上手い事を言うわね」
「情報屋だけあって口は回るようだな」

 今までのはサービスみたいなものだったのか、青年は何も要求してこなかったので、俺は更に話を聞こうと懐から金貨を取り出して渡した。
 さっきの情報によるチップも兼ねた金貨なのだが、何故か青年は必要ないとばかりに返却してきたのである。

「金はいらねえ。その代わり兄さんにちょっと頼みたい事があるんだよ」
「それが狙いか。内容次第だな」
「そう警戒しなくても、無茶な事じゃないから大丈夫だって。実は……兄さんが連れていたあのでかい狼を触らせてほしいんだよ」

 これはまた意外な要求だな。
 つまりこの青年は俺がホクトの主と知ったからこそ接触してきたわけか。

「質問だが、俺が狼の主だと何故わかった?」
「あんな立派な狼と美人なエルフさんを連れていれば目立って当然だろ? 近くで観察している奴が現れても不思議じゃないと思うぜ」
「なら、狼を触りたい理由は何だ?」
「何を言っているんだよ。あんなにも珍しくて立派な狼、近くで見たり触ってみたいに決まっているだろうが。男のロマンだろ!」

 まるでカレンのように好奇心が旺盛な青年である。
 少年のように目を輝かせる青年に気が抜けそうになる中、会話に割り込んできたレウスが鋭い目つきで質問していた。

「あんたはエルフを狙っているわけじゃないんだよな?」
「ん? そりゃあ、そこのエルフさんは美人だとは思うけど、俺は近くで見るだけで十分だ。俺はもう奥さんにする相手を決めているからさ」
「女としては負けた気分だけど、一途なのは良い事ね」
「そんなわけで俺の目的は狼を触る事だ。だから狼の主である兄さんに頼んでいるんだが……駄目か?」

 一般の人が知らない情報を詳しく知っているかと思えば、珍しい存在があれば子供のようにはしゃぎ回る。
 情報屋にしては口が軽そうな青年ではあるが、少なくとも悪い奴ではあるまい。まあどれだけ誤魔化そうが、くだらない事を考えていれば人の機微に敏感なホクトが即座に叩きのめすだろう。

「いいだろう。ただしホクトが本気で嫌がったら諦めてくれ。俺はあいつの主だが、なるべく強制はしたくないんだ」
「ああ、それで構わないぜ。強引に触って嫌われたくないしな」
「でもホクトさんは今ここにいないぜ? 兄貴、俺が呼んでこようか?」
「そこまでしなくていいって。目立つ兄さんたちならどこへ行ってもすぐにわかりそうだし、また会いに来るからその時にでも頼むよ」

 はっきりと断言した様子からして、再会出来る自信があるのだろう。
 更に出会って間もないというのに、青年は俺たちが約束を守ると確信しているようだ。
 これは相手を見極められる鋭い観察眼を持つ男なのか、それともただ欲望に忠実なだけなのか……どちらにしろ青年はただの情報屋ではあるまい。
 色々と詳しい点からして、サンドール全体に深く関わる城の者か、その関係者が知り合いにいるのだろう。

「それで、他には何を聞きたいんだ? もしあの狼の背中に乗せてくれる約束をしてくれるなら、俺の性癖も教えてもいいぜ?」
「そんな情報はいらん」

 とはいえ有力な情報を得られる事に変わりはないし、どこか憎めない男でもあるのでもうしばらく付き合ってみるとしよう。
 改めて青年からサンドールの情勢について聞いてみるのだった。





 それからしばらく話を聞き、青年と別れた俺たちは酒場を出て宿へと向かっていた。

「こんな場所だけど、美味しいお酒を揃えている店だったわね」
「目的も果たせたし、中々有意義な時間だったな。だが……」
「そうね。かなりキナ臭い事になっているようね」
「あの人が隠れて会おうとする理由が何となくわかってきたな」

 青年から聞いた情報が正しいかは、リーフェル姫から話を聞けばおのずと判明するだろう。
 色々と警戒がする必要があると思いながら宿へと戻ってきたのだが、部屋の扉前に近づいたところで俺は違和感を覚えていた。

「あれ……この匂いは?」
「シリウス、誰かいるみたいよ」
「まさか……」

 咄嗟に『サーチ』を発動させてみれば、部屋内から感じる人の気配が出掛ける前より増えていたのである。セニアが戻ってきた可能性もあるが、増えているのは二人分で、何より彼女の魔力ではないので違うようだ。
 すると扉の前で立ち止っている俺たちの気配に気付いたのか、エミリアが扉を開けて俺たちを迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、シリウス様」
「ただいま。それよりエミリア、もしかして部屋には……」
「はい。お察しの通りです」

 苦笑するエミリアの様子から確信を得たので、意を決して部屋へと入ってみれば……。

「ああ……もう何て可愛いのかしら。まさかリース以外に天使がいるなんて思わなかったわ」
「私は天使じゃないよ……」
「天使って何?」
「リースやカレンみたいに可愛い子の事よ。んー……ホクトの感触も相変わらずだし、正に至福だわ」
「クゥーン……」

 リースと一緒に伏せているホクトの背中に乗り、更に己の膝の上にカレンを乗せてご満悦な表情を浮かべているリーフェル姫がいた。
 久しぶりに見るリーフェル姫は姿を隠す為の地味な全身ローブ姿であったが、よく見れば以前より美しさを増しており、女性としての魅力が更に磨かれていた。
 もちろん次期女王として相応しい威厳と覇気も鍛えられているだろうが、今の表情からはそれを一切感じられないので割愛する。

 それにしても、予定では会いに来るのは明日以降になると聞いていたのに、フットワークの軽さは相変わらずー……いや、寧ろ増している気がするな。
 そして余程カレンが気に入ったのだろう。カレンを愛でるのに夢中で俺たちが戻ってきた事にようやく気付いたリーフェル姫は、カレンを背中から抱きしめたまま顔をこちらへ向けてきた。

「あら、ようやく帰って来たのね。元気そうで何よりだわ?」
「……お久しぶりです」
「おう! リーフェ姉も元気そうで何よりだぜ」
「当然よ。だって今の私は、二人の天使とホクトに囲まれているんだから」

 リースの髪が若干乱れているのは、俺たちが戻って来るまでに散々可愛がられたせいだろう。疲れた表情をしているリースの様子からして、一年を超える離れ離れの反動は凄まじかったようだ。
 気になるのは、何故かカレンが借りてきた猫のように大人しい事だな。

「シリウス様。あちらを……」
「そういうわけか」

 近くのテーブルに置かれた、蜂蜜の匂いが残る空の容器で全てを察した。
 まあ基本は餌付けだろうが、リースが家族だと説明し、リーフェル姫も接し方が上手かった御蔭だろう。

「帰ったら、あれを用意してくれたセニアに感謝しないとね。はぁ……癒されるわぁ」
「リーフェル様。全員揃いましたので、そろそろ本題に……」
「もうちょっとだけ! ほら、メルトはまだ挨拶が済んでいないんだから、まずはそっちが先でしょ?」
「確かにそうですね。元気だったか、お前たち?」

 リーフェル姫に振り回されているのは相変わらずのようだが、久しぶりに再会したメルトは大きく変わっていた。
 鍛え抜いた筋肉で体全体が一回り大きくなっているのもあるが、一番変わっているのは体ではなく精神面だろう。
 以前は常にリーフェル姫の周囲に気を配り続け、張り詰めた糸のような感じがよく見られたが、今は自然体のままリーフェル姫に意識を向ける余裕が見られるのである。
 俺たちが旅立ってから何があったのか知らないが、メルトは死線を何度も潜り抜けた達人のみが辿り着ける境地へ近づきつつあるようだ。どうやってそこまで鍛えたのか、後で詳しく聞いてみたいところだ。

「こちらこそ、お久しぶりです。それより……相当鍛えたようですね。以前とは明らかに違うのがわかります」
「君にそう言われると嬉しいものだ。そしてレウスも本当に大きくなったものだな。すでに私より大きくなっているじゃないか」
「へへ、メルトの兄ちゃんも凄く強くなってるのがわかるぜ。ところでセニアさんはどうしたんだ? 二人が来たって事は、用事は終わってる筈だろ?」
「彼女は今サンドール城にいる。姫様がここにいる事がばれないように、部屋に籠っているところだ」
「要するにアリバイ作りか。彼女の事だから、変装くらいしていそうだな」
「ちなみに私たちは、私に似た娼婦を見つけたメルトが密かにここで発散しに来た……という設定で来たのよ」
「わざわざ説明する必要あります!?」

 残念ながらこのやりとりだけでなく、二人の関係もあまり変わっていないようである。
 リーフェル姫は好意を隠していないので、後はメルト次第だが……まだまだ時間が必要そうだな。まあ幼馴染だろうと、相手が国の王女となれば簡単にいく筈もない。

「予定では明日以降になると聞いていたのですが、まさかその日の内に来るとは思っていませんでした」
「セニアの用事が予想以上に早く終わった御蔭ね。あとリースがそろそろ来るんじゃないかと思って、私の方もちょうど準備が終わったところだったのよ」

 妹を想う姉の直感は恐ろしい程に冴え渡っているようだ。そしてセニアもまた主とリースの為に張り切ったのだろう。
 そこまで口にしたところで、カレンの頭に顎を乗せていたリーフェル姫は満足そうに息を吐いていた。

「ふぅ……堪能したわ。じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」

 堪能したと言うが、すでに三種の神器と化した二人と一体から離れないのは潔いと言うべきなのだろうか?
 心の中でそんなツッコミを入れていると、リーフェル姫が真剣な表情となって鋭い視線を俺へ向けてきた。

「リースから聞いたわ。シリウス……貴方は私たちのリースを妻に娶るつもりなのね?」
「はい。俺にとってリースは愛すべき女性で、彼女と苦楽を共にしながら添い遂げたいのです。リーフェル様……いえ、リーフェルさん。どうか彼女との結婚をー……」
「待ちなさい。その言葉は父さんと一緒の時に聞かせてもらうわ。リースに王位継承権はなくても、公式では他人だとしても、皆が揃った時にしっかりと聞かせてほしいの」
「わかりました。その時に改めて伝えさせていただきます」
「姉様……」
「もう、そんな不安な顔をしないの。貴方を送り出した時から、いつかはこうなるって気はしていたんだから。けど私個人としては……よくやったわ!」

 そこでリーフェル姫は表情を崩したかと思えば、リースの肩を抱き寄せながら祝福してくれたのである。彼女の場合はかつて俺を勧誘した事があるから、それを含めて嬉しいのかもしれない。
 まだ完全に挨拶が終わったわけではないが、自然と視線が合った俺とリースは静かに笑みを浮かべるのだった。

「でもまさか他の子と一緒にとは思わなかったわね。リースはそれでいいの?」
「うん。だって皆と一緒の方が楽しいし、それに……エミリアとフィアさんと一緒ならシリウスさんを支えていけるって思ったから」
「そう……貴方が自分で決めた事ならそれでいいわ。それと……シリウス。リースの想いを裏切るような真似をしたら絶対に許さないわよ。貴方がどんなに遠くへ逃げたとしても、必ず探し出してお仕置きしてあげるから」
「肝に銘じておきます」

 彼女の場合、リースを悲しませて逃げたりしたら指名手配くらい軽くやりそうだからな。
 そもそも純粋なリースの想いを踏み躙るなんて考えたくもないし、それだけ家族を大切にする人たちと深く縁が結べた事を嬉しく思う。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。でも、ありがとう。姉様」
「リースが幸せなら十分よ。だから早く貴方たちの子供を見せてちょうだいね」
「うぅ……そ、その話はもう終わり! それよりフィアさんの挨拶がまだでしょ?」

 会話の流れを変えようと、リースがリーフェル姫の肩を掴んで揺さぶったところで、出番を待っていたフィアがリーフェル姫の前に立って深々と頭を下げていた。

「初めまして、リーフェル様。私はシェミフィアー・アラミスと申します」
「もう知っているとは思うけど、リーフェル・バルドフェルドよ。貴方の事はリースからの手紙によく書かれていたわ。とても頼りになるエルフのお姉さんってね」

 俺の妻であるフィアは、同じく妻となったリースとの繋がりによってリーフェル姫とは親族になる筈だ。
 なので相手が王族なのもあるだろうが、最初が肝心という事でフィアは普段以上に真剣な挨拶を見せていた。
 その挨拶を笑顔で受け取っていたリーフェル姫だが、エルフのお姉さんと口にすると同時に彼女の雰囲気が変わったのである。

「けど……リースの姉として頼りになるのは私の方よ?」

 姉という立場を譲れないのか、リーフェル姫は妙な負けん気を見せていた。

「それなら私も負けていませんよ? 私とリースは協力して魔法を放てる、ちょっとしたパートナーみたいなものですから」

 そしてフィアもまたリーフェル姫の言葉に引っ掛かりを覚えたのか、負けじと言い返し始めたのである。
 考えてみれば、精霊が見える同士もあってフィアはリースの事を相棒のように、そして妹のように可愛がっているからな。

「私はリースの可愛いところを沢山知っているわよ」
「それは私もです。普段は奥手なリースですが、シリウスとベッドの上にいる時は結構積極的なのを知っていますか?」
「フィアさん!?」
「……後で詳しく教えてちょうだい。とにかく私とリースは、親は違えど本物の姉妹と同じくらいの絆があるの。友では決して到達できないものよ」
「そうですね、確かに私とリースは血の繋がりはありませんが、夫が同じリースとは義理の姉妹になりますよね?」
「あらあら……」
「うふふ……」

 不穏な雰囲気だが、二人は王族や長い時を生きているエルフなので、こういうやりとりを逆に楽しんでいると思われる。
 つまりお互いに本気ではないというわけだが、徐々に白熱していく様子に不安を感じたのか、リーフェル姫の傍にいる二人と一体は逃げ出そうとするが…。

「……動けない!」
「クゥーン……」
「あの……姉様? カレンは離してあげた方が……」

 しかし、カレンはガッチリと抱きしめられたままなので逃げ出せなかった。
 そして、彼女たちを背中から落とすわけにもいかないホクトも動けず、更にカレンを見捨てる事が出来ないリースもその場から離れられないようだ。
 結果……全員逃げられなかった。

 そんな二人の睨み合いはしばらく続いたが、やがて互いを称えるように笑みを浮かべながら握手を交わしていた。

「貴方……やるわね。シリウスの妻になるだけはあるわ」
「こちらこそ。私は世界を旅して色々な人を見てきましたが、リーフェル様のような強い女性は初めてですね。ところでリーフェル様はお酒は嗜まれますか?」
「ええ、お酒は好きよ。今はちょっと難しいけど、その内一緒に飲みながらリースの事についてじっくりと語り合いましょうか」
「望むところです」

 どちらが優れた姉なのかという闘争は次回へと持ち越されたようだ。
 けどまああの二人はどこか似ている部分があるから、一緒に酒を飲んだらあっさりと意気投合しそうである。
 その証拠にお互いの好きなワインを語り合い始めているのたが、窓から外を見張っていたメルトがリーフェル姫に耳打ちしていた。

「姫様。そろそろ時間を気にした方が……」
「そうね。まだ話したい事は沢山あるけど、ここへ来た意味がなくなるもの」

 こうしてお互いの紹介と、挨拶代わりのやり取りが終わったところでようやく核心の話へと移っていた。
 まず気になるのは、何故俺たちはサンドールの町へ入らない方がいいのかという点だな。
 実は情報屋の話からある程度は推測しているが、やはり城にいる人から詳しく聞いておかないとな。

「シリウスはさっきまで情報を集めていたのよね? サンドールで何が起こっているのか聞けたかしら?」
「サンドールの英雄たちについて幾つか知りましたが、他にも城でちょっと面倒な事が起こっている話も聞きました」

 あの青年の話によると、最近になってサンドールの王は体調を崩し始めており、次の王位継承で揉めているらしい。
 問題なのが継承権を持つ子が三人もいる……という事を伝えれば、リーフェル姫は複雑な表情で頷いていた。

「そう……情報制限している筈なのに、やはり漏れるものなのね。ちなみにその話は本当でね、町へ入れば貴方たちが巻き込まれそうだからよ」
「城の問題なのに、冒険者である私たちが巻き込まれるのでしょうか?」
「この国で王位を継承するには、王に相応しい実績に加え、自身を支える優れた人材を集める必要があるみたいなの。そして城の上層部には、目的の為なら手段を問わない連中もいるみたいでね」
「セニアの情報によると、城にはシリウスとレウス……お前たちの名と顔を知っている者もいるようだ。闘武祭で活躍したから当然とも言えるが」

 メルトの話によると、俺たちが闘武祭で活躍した話はエリュシオンにまで届いているらしい。
 つまり町に入って俺とレウスを知っている者に見つかれば、城へ通報されて勧誘される可能性が高いそうだ。
 勧誘を断わって諦めるならいいが、自分が認める主の為にと相手の弱味を握ったり、人質を使ってまで取り込もうと企む連中がいるわけか。
 国を存続させる為に黒い事は必要だと思うが、物事には限度があるものだ。しかし能力を優先するサンドールでは、他人を蹴落とす為にそういった話が結構多いらしい。

「貴方たちが強いのは十分知っているわ。国を一つ相手にしても、何とかなりそうと思うくらいにね。けど、関係のないもめ事に自ら飛び込む必要はないでしょ?」
「確かに巻き込まれるのは困りますが……」
「見聞を広めたいのはわかるけど、今じゃなくてもいいと思うのよ。後継者問題が落ち着いてからゆっくりと見物すればいいじゃない」

 やんわりとした言い方であるが、どうしても俺たちがサンドールの町へ入るのを避けたいらしい。
 自分が目を付けた相手が勧誘されるのが面白くない……という感じではなく、純粋に俺たちを心配しているようだ。
 メルトも同じ気持ちなのだろう、主を援護するように俺たちを見渡しながら口を開いた。

「先程のリース様の話によると、次の目的地は別の大陸ではなくエリュシオンへ一度戻る予定だと聞いた。ならばお前たちは先に戻っているというのはどうだろうか?」
「そうね。一緒に戻れないのは残念だけど、もう数日もすれば大陸間会合レジェンディアは終わるから、私たちもすぐに戻れるわ。だから貴方たちはこのまま町へ入らず、すぐにこの国から離れなさい」

 将来、俺の義姉になるであろうリーフェル姫の警告に、俺は……。




 おまけ



 前回のあらすじ(偽)

 己にとって家族と同等の存在であるセニアと再会し、リースは両手を広げてセニアへと抱き付いていた。

「セニア!」
「リース様!」

 するとリースは素早くセニアの背後に回り込み、両手を彼女の腹へ回すと同時に……。

「決まったーっ! リース姉のバックドロップだぜ!」

 セニアの体を持ち上げて、見事なバックドロップを決めていた。

「……成長なされましたね」



「いや、何か間違っている気がするんだが……」


 前回のあらすじ(偽)……もとい、成長のプロレス技……完






 新しい章に入って二話目だというのに、未だに町へ入っていないという罠。
 そして説明ばかりで申し訳ありません。
 物語の伏線だったり、新しい人物の話が色々と出てきますが、今は大雑把に覚えていただけたらいいかと。
 本来ならもっと分散させて説明するべきだとは思うのですが、思うがままに書いていたらこんな事に。
 そして章の結末へ向かうルートが上手く書けず、今回の話は何度も書き直しています。

 今回、初対面となるフィアとリーフェルの関係についてちょっと迷いました。
 最初は酒飲み仲間になるという事で、一言、二言であっさりと仲良くなる展開でしたが、リースを中心にライバル的な関係に変える事に。理由は本編で語りましたが、リースは完全にアイドルポジションですね。ちなみにホクトとカレンはマスコットで、いずれその座を巡って争う……かもしれない。
 ちなみにリーフェルは結構本気ですが、フィアは半々で彼女とのやり取りを楽しんでいるような感じです。精神面は年期の差があるフィアの方が上だったり。


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