挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

二十章 経験

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

167/179

世界を知る一歩

二十章……開始です。


 俺たちが有翼人の集落を出発して数日が経過した。
 あれから俺たちは以前立ち寄った町へは向かわず、そのまま目的地であるサンドールを目指している。

 出発直後は寂しそうにしていたカレンだが、好奇心の塊みたいな子だけあって、二日も経てば元の元気を取り戻して自然と笑ってくれるようになった。
 今では集落にいる時に教える必要のなかった知識を知り、それを実践しては好奇心を満たす新鮮な毎日を送っている。

 そんなカレンの朝は、レウスと一緒に剣の素振りをする事から始まる。
 相変わらず寝起きは悪いが、それも少しだけ改善されたカレンは、眠気を堪えながら俺から借りた剣をレウスの隣で振っていた。

「腕だけで振るんじゃなくて、体全体を使って振るのが大事なんだ。こんな風に……な!」
「えい!」
「そしてこの一撃で倒してやるってみたいに気合いを込めるんだ。えい、じゃなくてやーって、伸ばすような声を出すのもいいかもしれないぞ」
「にゃーっ!」

 声に気合いを入れ過ぎたせいか、どこぞの猫耳人妻を思い出させる掛け声になっていた。
 しかしどれだけ力を込めて振ろうとカレンの素振りは弱々しく、経験のある者からすればただの遊びにしか見えないものだ。
 カレンがまだ幼いのもあるが、そもそも有翼人という種族は体重が軽いので、剣のような武器で戦うのが向いていない。
 強くさせるなら素振りより魔法の練習をさせるべきだろうが、向いていないからと止めさせるのは間違っていると思う。
 何事も経験であり、素振りをする事によって体や精神を鍛える事も出来るので、決して無駄とは言えないだろう。
 向いていないと思えばいずれカレンから理解するだろうし、それでも剣を振り続けたいと言うのなら、一緒にその先を考えてやればいい。
 場合によっては短所にもなりそうだが、カレンの好奇心を抑えるような事はなるべく避けたいのだ。今は何でも挑戦して様々な事を経験してほしい。

 ある意味目覚ましのような声が周囲に響く中、俺たちも朝の適度な訓練を済ませて朝食の準備に入っていた。
 そしてリースとフィアに手伝ってもらいながら朝食を作っている頃、カレンは少し離れた場所にある川でエミリアと一緒に洗濯をしていた。

「その布ならもっと力を入れて擦っても大丈夫ですよ。手だけじゃなく、布同士で擦り合わせるのがコツです」
「んしょ……これでいい?」
「まだ袖の方に汚れが残っていますよ。全部落とすまでは駄目です」
「ここもなの? エミリアお姉ちゃん、厳しい」
「厳しくて結構です。これが終われば蜂蜜を少しだけ用意してあげますから、最後まで頑張りましょうね」
「うん!」

 俺たちの洗濯物は基本的にエミリアが洗ってくれるのだが、カレンには自分の分はなるべく自分で洗濯をさせるようにしている。
 フレンダから預かった大切な娘だとしても、世話を焼き過ぎてだらしなくなっても困るし、これもまた旅に必要な経験だからな。
 洗濯をやってもらっている俺がそんな事を言う資格はないかもしれないが、俺の場合は任せないとエミリアが怒るのである。
 エミリアは従者だからと尤もらしい事を言うが、あれはもっと別の理由があるに違いあるまい。予想はある程度ついてはいるが、本人が望んでやっているので何も言わない事にしている。
 それにしても……。

「……良いものだな」
「うん、何だか親子みたいで微笑ましいよね」
「母さんがエミリアに洗濯を教えていた時を思い出すよ。仕事の厳しさを教えながらも、好きな物で釣って張り切らせていたものだ」
「でも私はあんな風に出来ないかも。見ていられなくて、途中で手を貸しちゃいそう」
「そうだな。リースの場合は凄く甘やかしそうだ」
「私もそう思うわ。そして甘やかし過ぎて、子供が逆にしっかりするかもしれないわね」
「ちょっと酷くない?」

 頬を膨らませるリースをフィアと一緒に宥めていると、カレンが大きな声をあげていた。
 どうやら擦り過ぎて、寝巻として家から持ってきた服が破れてしまったらしい。

「うぅ……お気に入りだったのに」
「大分使い込んだ服でしたから、仕方がなかったかもしれません。ですがこれならまだ修繕が可能ですので、後で縫い方を教えてあげますね」
「うん!」

 移動中でも乾かせるようにと、馬車から伸ばした棒に洗濯物を干して作業は終わった。
 それから皆で完成した朝食を食べていたが、野菜炒めを食べていたカレンが苦々しい表情を浮かべていた。

「この野菜、苦い」
「でも食べられないわけじゃないだろう? 体にはいい野菜だからちゃんと食べなさい」
「うん……うぅ……」
「その調子よ。あと少しだから頑張るのよ」
「…………」
「ん?」
「あれ?」

 残った野菜を睨んでいたカレンは、途中でそっとリースとレウスの皿に野菜を移していた。
 確かにあの二人なら喜んで食べるので、考えとしては悪くはない。すでに俺たちの性格をある程度把握しているようだ。
 その思惑通り、ハラペコ姉弟は仕方がなさそうに野菜へ手を伸ばしているが……そうはさせんぞ。

「っ!? だ、駄目だよカレン。ちゃんと自分で食べないとね!」
「そ、そうだぜ! 苦くても食べられないと駄目だよな、うん!」

 俺が放つ無言の圧力によって野菜はカレンの皿へと戻り、再び野菜と相対する事になった。
 これも必要な事だと心を鬼にしながら見守っていると、カレンが懐から見慣れた容器を取り出していた。

「待て、さすがにそれは合わないと思うぞ」
「カレンの蜂蜜が!」

 炒め野菜に蜂蜜とか、いつの間に懐へ確保していたりと突っ込みどころが満載である。
 すぐさま蜂蜜を回収し、三度みたび野菜と睨めっこをするカレンに俺は助言する事にした。

「野菜が苦いのはわかるけど、しばらく我慢して噛み続けてごらん。そうすると不思議な事が起こるぞ?」
「本当? うぅ……ん……あれ? 甘くなった?」

 この野菜は苦味成分が多く含まれているが、しばらく噛み続けていると奥底に含まれる甘味が染み出て甘くなる野菜なのだ。
 けど甘味が出るまで噛み続けなければならないので、普通ならその前に飲み込んでしまうわけだ。
 そんな不思議な野菜に好奇心が刺激されたのか、先程までの苦手意識が薄れたカレンは次々と口の中へと放り込んで味の変化を楽しみ始めた。
 これならもう大丈夫だろうと静かに頷いていると、俺の隣にやってきた姉弟がこっそりと耳打ちをしてきた。

「なあ兄貴。あの野菜って湯通しすれば苦いのが消えるのに、何で今回は焼いたんだ?」
「私も同じ意見です。何だかシリウス様らしくない料理な気がします」
「こんな野菜もある事を教えたかったのもあるが、食べ物の傾向を調べてみたかったのさ」

 拒絶反応を起こすというのなら別だが、苦手という理由で栄養を摂取出来ないというのは不味いだろう。
 そのついでにカレンの好みを調べて嫌いな食べ物が見つかれば、徐々に矯正しようと思っているのだ。

「そういえば、シリウス様に拾われて間もない頃、薬草を絞った苦いジュースを何度か飲まされていましたね」
「兄貴の用意した料理ってどれも美味いけど、あれだけは不味かったなぁ……」
「そんなに美味しくなかったかな? 色んな味が混ざっていて、私は嫌いじゃなかったよ」
「リース姉は特殊過ぎるんだよ」

 食事に関しては、一切好き嫌いをせずに食べるリースが理想だろう。もちろん大食いは除くが。

「まあ色々と言ったが、最終的に慣れだな。無心になれば苦手なものだって平然と食べられるようになるものだ」

 前世で超絶に不味い携行食レーションを食べ続けていた経験もあって、どんなに不味くても毒さえなければ食べられるようになったからな。
 紛争地帯にいた頃は本当に酷い状況で、煮沸消毒をした革靴を食べる事に抵抗を覚えるどころか逆に美味いと感じたくらいだったし。

「とにかく皆には苦手なものに悩まされずに食事を楽しんでもらいたいんだよ。腹が膨れていれば、大抵の事は解決出来るものだからな」
「うん、お腹が空いていると嫌な事ばかり浮かんじゃうしね」

 食事は生きる上で、そして成長する上で必要な事なので疎かにしたくないのだ。
 これは俺の教育方針として必ず貫くべき事だと決めている。
 その御蔭もあって立派に成長した姉弟とリースを眺めながら満足気に頷いていると、新たな弟子でもあるカレンが綺麗になった皿を掲げていた。

「ご馳走様!」
「ふふ、きちんと全部食べたわね。偉いわよ」
「にへー」

 俺たちが密かに話し合っている内に食べ終わったカレンは、フィアに頭を撫でてもらってご満悦のようだった。





 それから野営の後片付けを済ませ、旅を再開した俺たちは馬車に揺られながら街道を進んでいた。
 盗賊や魔物の襲撃も特になく、快晴でのんびりとした空気の中、俺とカレンは御者台に座って魔法の訓練を行っていた。

「さて、今日は『ライト』を使ってみようか」
「『ライト』なら、もうカレンは使えるよ?」
「いや、今回使うのは難しい方だ」

 まずはお手本とばかりに『ライト』を発動させてから魔力を操作すれば、掌サイズの光の玉は五つに分散し、俺の周囲を自在に飛び回っていた。
 そんな惑星の公転のように飛び交う光の玉を、カレンは口を開けたまま眺めていた。

「これは今まで教えてきた知識の応用編だな。魔力を自在に操り、深いイメージが出来るようになったカレンになら出来る筈だ」
「何で五個も作るの? 一個あれば明るいのに」
「魔力操作の練習でもあるんだよ。これが出来るようになれば普通の『ライト』が簡単に発動できるようになる。そして何も考えなくても『ライト』を発動し続ける事が出来るようになれば、夜でも本が読めるぞ?」
「頑張るっ!」

 本を読むのが大好きなカレンだが、夜の間は読まないように言い聞かせてある。
 魔道具の明かりが用意されている宿は別だが、野営の焚き火では光量が乏しく目を悪くするからだ。
 しかし『ライト』を周辺に発動させておけばそれも解決するわけだ。最近は本を読む機会が減ったが、俺は今までそうやってきたからな。
 まずは光の玉を二つ同時に生み出すところから始めようとしたのだが……。

「これでもっと本が読める!」
「いや、それは難しいと思うぞ?」

 馬車に置いてある本を持ってくるなり、文字を読みながら発動させようとしたのである。やる気に満ち溢れたカレンは初っ端から全力であった。
 しかし、まだ無意識に魔法が発動出来ない今のカレンでは当然上手く行く筈もなく、『ライト』は本を広げると同時に消えていた。

「……カレン。魔法が消えているぞ?」
「…………」
「魔法が消えているんだが、聞いているのか、カレン?」
「…………」
「もう読んでいるだけよね、これ」

 駄目だ、完全に本の世界に没頭している。
 見ての通り一点への集中力が凄まじい子なので、魔法を無意識に維持する事が体に染みついていなければ出来る筈もないか。
 何度呼び掛けても反応がないので、俺は蜂蜜を用意してカレンへと近づけた。
 その匂いに気付いて現実に戻ってきたカレンは、そこでようやく魔法が消えている事に気付いた。

「……あれ?」
「あれ……じゃない」

 先に夜でも本が読めると伝えたのは失敗だったかもしれない。
 内心で溜息を吐きながら、訓練を再開しようと蜂蜜を片付けたところで……。

「って、また読むんじゃない!」
「このページだけ読みたい!」

 前途多難である。
 まあ弟子を育てるのが簡単な筈もないし、これはこれで姉弟やリースとは違った成長を見られるので面白いものだ。

「先は長そうね」
「でも我儘を言ってくれるのは、それだけ信頼されている証だよね」
「それに焦る必要はありませんし、私たちはシリウス様を支えていくだけです」

 妻たちに微笑ましく見守られながら、俺はカレンの教育方針を練り直すのだった。





 走って体を鍛え、本だけでなく実際に体験をして様々な事を学び、時に蜂蜜を盗み食いするカレンを叱る。
 そんな騒がしくも充実した旅が数日続いたある日、俺たちはとある村に到着した。
 目立った特産品もなく、これといった特徴が見られない小さな村であるが、街道の近くにあるので冒険者や商人たちが立ち寄る事が多く、宿を経営している大きな建物があるようだ。
 その宿で部屋の確保を済ませた頃には夕方になっていたので、俺たちは宿内にある食堂で夕食を食べていた。

「うにぃ……このお肉、ちょっと硬いね」
「そう? この歯応えが美味しいと思うんだけど」
「肉なんかに負けちゃ駄目だぞ、カレン。歯を鍛えると思って頑張るんだ」
「歯ではなく顎ですよ」
「とにかく二人のように食べなくていいから、カレンのペースで食べなさい」

 少し歯応えのある肉に苦戦するカレンへ、ハラペコ姉弟は精神論で答えている。
 子供には少し硬いかもしれないが味は悪くないので、無理をせずゆっくりと噛みながら食べればいいのだ。少なくとも顎は鍛えられるだろうしな。
 おそらくこれは調理の腕ではなく、こういう種類の肉なのだろう。興味が湧いたので、後で宿の人に色々と聞いてみるとしよう。
 しかし……銀狼族特有の頑丈な歯を持つレウスならわかるのだが、人族の筈であるリースも軽く噛み切れるのは何故だろう? 相変わらずそういう点では謎が多いリースである。
 一生懸命に肉へ齧りつくカレンを眺めながら食事を進めていると、隣でワインを飲んでいたフィアが周囲を見渡しながら呟いた。

「静かな村と思っていたけど、結構人がいるのね」
「みたいだな。休憩するにはちょうどいい場所だから、冒険者の御蔭で稼がせてもらっているようだ」

 宿だけでなく物資の補充で金を落としてくれるので、冒険者や商人は歓迎されているらしい。
 食堂内にある別のテーブルに視線を向けてみれば、数組のパーティーが食事をしたり酒を飲んでいるが……。

「こちらを見てるのはバレバレだな。まあ、絡んでこないだけマシか」
「それよりシリウスもワインを飲まない? 中々悪くない味よ」
「じゃあ、少し貰おうかな」
「カレンも飲みたい!」
「貴方はもう少し大きくなってからね」

 周囲からの視線を頻繁に感じるのは、間違いなくうちの女性陣が目当てだろう。
 ちなみに、エルフだけでなく有翼人も悪人に狙われ易いという事で、人の目がある場所ではカレンの翼はローブの下に隠すようにしているので、調べられなければ有翼人とわからないだろう。まともな自衛が出来るまでは隠していくつもりである。

 それから食事が終わり、食後の紅茶やワインを楽しんでいると、三人の男女が俺たちに近づいてきたのである。

「おお……まさかエルフに会えるなんて思わなかったな。噂通りの美人だ!」
「ちょっと! いきなり失礼でしょ。ごめんなさい、こいつったら綺麗な女性に弱いから」
「突然申し訳ありません。皆さんは冒険者の方々でしょうか? 実は俺たちも冒険者でして……」

 フィアを見て鼻の下を伸ばしている大柄の男に、その男の腹を肘鉄で殴って窘める短髪の女性と、穏やかな笑みを浮かべる青年によるパーティーだった。
 三人は俺たちとあまり変わらない年齢のようなので、話しかけ易いと踏んで来たらしい。
 一応警戒しながらお互いに自己紹介を済ませたところ、この三人は純粋な興味で近づいてきたと判断しても良さそうだ。
 彼等と会話をすればカレンにとって良い経験になると思っていたのだが、当の本人はフィアの背中に隠れてしまっていた。奴隷にされて酷い目に遭ったせいか、見知らぬ人族が相手になるとまだ怖いようだ。

「ご、ごめんなさい。怖がらせちゃったのかな?」
「人見知りする子だから気にしないで。ほら、怖くないから出てらっしゃい」
「うん……」
「カレン。旅に出会いは付きものだって知っているだろう? 挨拶は大切だ」

 一人きりならまだしも、俺たちがいるのだから勇気を出してほしい。
 世界を旅する以上、人と関わるのは避けられない事なので、今は少しでも経験を重ねて克服してもらいたいものだ。
 そんな思いを込めた俺の言葉に父親が残した本の内容を思い出したのか、カレンは女性の冒険者の前に出てゆっくりと頭を下げた。

「……カレンです」
「あは、よろしくねカレンちゃん」

 短髪の女性は子供が好きなのだろう、満面の笑みを浮かべながらカレンと握手を交わし、他の二人もまたカレンに対して優しく接してくれた。
 最初に関われたのが人の良さそうなパーティーで良かった。これで少しは苦手意識も薄れてくれると思う。

 そんな風にお互いに近況を語っている内に、俺たちの関係についての話になった。

「は?」
「彼女たち三人とも……」
「彼の妻なのですか?」
「ええ、そうよ」
「えへへ、妻になったのは最近だけどね」
「そして私はシリウス様の妻でもあり、従者でもあります」

 三人は貴族でもない俺が三人も妻を娶っている事に驚いていた。
 エミリアが淹れてくれた紅茶を飲む俺に三人の視線が突き刺さる中、大柄の男だけは羨ましさと妬みが込められている。こう……血の涙を流せるなら滂沱の如く流していそうだ。

「くそぅ、こんな美人たちが奥さんなんて羨まし過ぎるぜ。それなのに、こんなにも鍛えている俺に誰も惚れねえのは何故だ!」
「だからそういう言い方はやめろって何度も言ってるだろ」
「そうよ。いい加減、力が格好良いって考えを改めなさい」
「お、力なら俺も自信があるぜ。ちょっと勝負してみないか?」
「へえ、俺の筋肉を見て挑んでくるとはいい度胸じゃねえか! 面白い!」

 大柄の男はお調子者でもあるのか、レウスの話に乗って腕相撲を始めていた。
 テーブルの上にある物を除けて、二人は互いの力をぶつけ合っていたが……。

「う……おお! や、やるじゃねえか! なあ、お前はそんな力を持っていながら、あんなにも綺麗な女性たちを取られて悔しくないのか?」
「だって俺の兄貴と姉ちゃんたちだからな。それに俺には、将来迎えに行かないといけない女がー……」
「くっそーっ! お前には絶対負けたくねぇぇーっ!」
「よっしゃ! そろそろ本気で行くぜ!」
「い、嫌だ! こいつに負けたら俺は……俺は……ああぁぁーっ!?」

 やはり力ではレウスの方が上のようで、激しい物音と共に大柄の男は敗北して床に崩れ落ちていた。
 怪我はしていないようだが心を傷付けてしまったようなので、ここは一言謝っておくべきだろう。

「すまない、こんなつもりじゃなかったんだが」
「気にしなくて結構ですよ。あいつが何も考えずに勝負を受けたのが原因ですし、いつもの事ですから」

 大柄の男の暴走は彼等にとっては日常茶飯事らしく、青年は呆れた様子で眺めるだけだった。
 そして大柄の男はレウスの伸ばした手によって起こされ、そのまま二人は健闘を称え合うかのように握手を交わしー……。

「へへ……かかったな!」
「お、今度は握力の勝負ってわけだな。負けねえぞ!」
「毎日重い剣を振っている、俺の握る力にー……いだだだっ!?」

 向こうは向こうで楽しんでいるようだし、放っておいても大丈夫そうだ。
 一方、カレンは冒険者の女性に少しだけ心を許し始めたのか、フィアの隣に座って会話をしていた。

「そっか、その年でお母さんから離れられるなんて凄いわねぇ」
「そうなの?」
「だってカレンちゃんの年齢だったら、普通はお母さんから離れたくないと思うもの」
「でもカレンにはお父さんやお姉ちゃんたち、それにレウスお兄ちゃんとホクトがいるから平気だよ」
「本当に良い子ね。私もいつかこんな子供が欲しいわ」

 俺たち以外の人を恐れ、他人と碌に会話が出来ない……なんて事も心配はしていたが、これなら大丈夫そうだな。
 その調子で世界を知り、見聞を広めていくんだぞ。

 俺たちはカレンに眠気が訪れるまで語り合うのだった。


 おまけ その1 

 カレンの日記


 今日は、お父さんが魔法を教えてくれた。
 もうカレンが使える魔法だったけど、ちょっと難しくなったから何度も失敗しました。
 けど、これで本が読めるようになるから頑張るの。
 あとエミリアお姉ちゃんからはお洗濯と、服の縫い方も教えてくれました。
 厳しくて、時々お父さんの服に鼻を近づけているけど、カレンの知らない事を沢山教えてくれるお姉ちゃんです。
 途中で針が指に刺さっちゃって痛かったけど、リースお姉ちゃんがすぐに治してくれたから平気です。
 朝御飯で出された野菜は凄く苦かったけど、全部食べたらフィアお姉ちゃんが褒めてくれた。
 苦いのに甘くて、凄く不思議な野菜だったです。
 レウスお兄ちゃんは、ホクトにボコボコにされていました。

 そして次の日の朝も、レウスお兄ちゃんはお父さんにボコボコにされていました。


「……なあ、カレン。俺はボコボコにされているだけなのか?」
「違うの?」
「別に違わないけどさ……ほら、俺は剣の振り方を教えているじゃないか」
「あ、そうか。えーと……レウスお兄ちゃんは剣の振り方を教えてくれて、その後でホクトにボコボコにー……」
「ボコボコから離れてくれよ!」







 おまけ その2

 カレンの料理教室


「今日はお父さんから教えてもらった、野菜炒めを作るね」
「ちゃんと猫さんの手で切るんだぞ」
「任せて! えーと、まずは野菜を小さく切って、焼いている途中で蜂蜜を入れてー……」
「いや、野菜炒めに蜂蜜はないと思うぞ? こういう場合は塩コショウで味付けをだな……」
「それも美味しそう。でもカレンは蜂蜜」
「何でだ! それに何故そんな高い位置からドバドバとかけているんだ!」

 カレンの料理教室……改め、何でも蜂蜜入れる料理教室……完





 おまけ その3

 ホクトとお絵かき


 旅に出て新しい事に挑戦してみようという事で、その日、カレンは紙と書く物を手にホクトの前にやってきていた。

「今日はお絵かきをするから、ホクトを描いてあげるね。だから動いちゃ駄目だよ」
「オン!」
「……うーん、何か違うなぁ」
「絵には躍動感が必要だから、動いている姿を描いてみるのもいいぞ」
「そっか、じゃあ、ホクト走ってみて」
「オン!」
「……あ、そこで止まって! 空を飛んでいるのが一番格好いいから」
「クゥーン……」
「いや、空中で止まるのはさすがに無理だからな」






 お待たせして申し訳ありません、久々の更新となります。
 次は本来の目的地であるサンドールに到着させるかどうか悩みましたが、やはりカレンの勉強が必要かと思い小話を挟む事にしました。
 一応、これから二十章にしていますが、おそらくもう一つ、二つ程度の話で終わると思います。


 オーバーラップ様のHPにて、本作品の5巻の表紙と口絵が公開されております。
 興味がある御方は是非ご確認くださいませ。
 活動報告にてその点についても少し語っておりますので、お暇であればどうぞ。


 次回の更新は……二週間後となります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ