挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十六章 邂逅

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

134/179

閑話 まずは諦める事から始めましょう

 ――― ベイオルフ ―――




 剣聖。
 それはあの有名な剛剣ライオルと名を連ねる有名な剣士の一人。
 そして……僕が誰よりも尊敬する人で……父親です。

 けど、そんな父は僕と病弱だった母を置いて逝ってしまったので、憎んでもいました。
 ほんの少し前までは……。


 多くの強者が集まる祭、闘武祭で僕はシリウスさんに負けた。
 それはもう完膚なきまでに……圧倒的な実力差で負けた。
 負けたのは悔しかったけど、その御蔭で僕は父の事についてシリウスさんから聞く事が出来た。

 僕が強くなりたかった理由は、父の強さに近づければ僕と母を置いて行った理由がわかるかもしれないと思っていたからだ。
 だから強くなる事だけを考えていたけど……あの日から僕の中で何かが変わった。

 僕は父を知らな過ぎたのです。
 だからもっと知ろうと思い、僕は再び旅に出ました。

 剛剣ライオル……父の最後を看取ったという、その男を探して僕は旅を続けていた。





「悪いけど、知らないねぇ」
「剛剣に憧れて大きな剣を持つ奴は多いからな。本物なんてどこにいるやら」
「おいおい、剛剣はもう死んだって話だろ? 探すだけ無駄さ」

 しかし探すといっても、剛剣ライオルは数十年前に突然姿を消し、世間的には死んだと思われているので情報が少ない。
 幾つもの町を巡り、道行く人や酒場で情報を集めても、剛剣については誰も知らないと答えるばかり。

「ですが、生きているのは間違いない筈です」

 あれほどの強さを持つシリウスさんとレウス君が嘘をつくとは思えませんし、何より剛剣を知っているジキルさんが、レウス君の剣は偽物が教えたようなものではなく本物の剛破一刀流と言っていました。
 相当な高齢と聞きましたが、とにかく剛剣が生きているのは間違いないでしょう。

「それにあれほどの強さを持つ存在が目立たない筈がありません。そうなると……変装しているか、名前を変えているかもしれませんね」

 というわけで少し方向性を変えた僕は、大きな剣を持つ男でかなり年配の人……という人を探すようにしています。
 そしてもう一つの手掛かりをシリウスさんが別れ際に教えてくれました。

『俺と合流したいと考えているかもしれないから、俺たちが通ってきた道を戻ってみれば会えるかもしれないぞ』

 なのでシリウスさんが教えてくれた町を辿りながら情報を集めている内に、僕はアドロード大陸からメリフェスト大陸へとやってきていた。

 メリフェスト大陸……僕にとっては初めての大陸だ。
 この大陸に剛剣が見つかればいいんですが……。





「大きい剣を持った爺さん? そういえば、つい先日に聞いた気がするな」

 メリフェスト大陸にやってきてから数日……港町から少し離れた町の酒場で、遂にそれらしき情報を得る事が出来ました。

「本当ですか!? その人はどちらへ?」
「いや、どこへ行ったかまではわからないな。この周辺を根城にしていた盗賊を全て殲滅させて、金を稼いだ爺さんがいるって聞いたんだ。その爺さんが巨大な剣を持っていたとか……」
「ありがとうございます。早速ギルドへ向かってみます!」

 ようやく得た手がかりを元に、僕は同じ町の冒険者ギルドへと足を運びました。
 冒険者ギルドは盗賊を退治して報酬を受け取る場所でもありますから、ここならもっと情報が得られる筈です。
 早速受付に聞いてみたのですが……。

「確かにそういう人が数日前に来たね。あれは凄かったからよく覚えているよ」
「そうそう。十近くの盗賊団を壊滅させてからリーダーを纏めて連れてきたんだけど、その内半分が拘束されていなかったのが凄かったわね。お爺さんが怖くて逃げられなかったみたい」

 ようやく掴んだ情報に喜んだのも束の間、僕がそのお爺さんと会いたがっているのを見た受付の人は難しい顔をしていました。

「そのお爺さんならアドロード大陸へ向かうって言っていたわ。急いで追いかければ間に合うんじゃない?」

 どうやら入れ違いになったようですね。
 僕はすぐに旅立ち、来た時と同じアドロード大陸への定期便がある港町へと戻りました。




 大型の帆船が港町を出発してアドロード大陸を目指す中、僕は船の手すりに座ってぼんやりと景色を眺めていました。

 もし剛剣と会えたら何から聞こう?
 やっぱり父さんの最後?
 強さ?
 いえ……そもそも僕と会話してくれるのでしょうか?
 どちらにしろ、会ってみないとわからない事ですね。
 そう結論を出したところで、突然船に設置してある鐘が激しく叩かれる音が響いてきたのです。

「敵襲! 敵襲! 海賊だぁぁ――っ!」

 見れば背後から、僕たちが乗っている船より大きな船が接近してくるのが見えました。
 陸から十分離れた地点で攻めてくる点から、襲撃に手慣れている気がしますね。船の速さは向こうの方が上なので逃げるのは無理そうですし、どうやら戦闘は避けられなさそうです。
 武器は常に携帯していますので、僕は近くで迎撃の準備を済ませている船員へと話しかけました。

「僕は冒険者です。戦うのでしたら手を貸しますよ」
「おお! そりゃあ助かるぜ! 兄ちゃんは乗り込んでくる海賊たちを頼んだぞ」
「わかりました。ところで、あの海賊は一体何者でしょう?」
「最近、この辺りで幅を利かせている海賊団だ。こっちも護衛を雇うようにしているんだが……予想以上の数だな」

 船に乗っていた護衛に、僕と同じ考えの冒険者が他にもいましたが、船員の言葉通り想像以上の敵がいそうですね。
 戦力差はかなりあるでしょうが……負けるわけにはいきません。

 それから戦えない人たちが船室に入った後、数名の冒険者が海賊船へ向かって魔法を放っていましたが、海賊船からも魔法が飛んできて迎撃されていました。
 打ち漏らした魔法が互いの船に当たりますが、せいぜい中級程度なので船を沈めるには至りません。向こうは獲物である僕たちの船を沈めるつもりがないからでしょう。
 やはり白兵戦が主になりそうですね。

「ですが、僕にとっては望むところです」

 そして海賊船が横に並ぶと同時に多くのロープが放たれて船同士が結ばれ、頭に目印のような黒い布を巻いた海賊たちがこちらの船に攻め込んできました。
 攻めてきた海賊の数は僕たちの倍近くですが、動きからしてそこまで強い相手ではなさそうです。
 僕は迫ってくる相手だけでなく、手当たり次第に斬り捨て数を減らしていました。

「剣が二本あるからって、ぐはっ!?」
「何だこいつの動き、速いー……ぎゃあっ!?」
「くそ、一人強いのがいるぞ! 奴を呼べ!」

 半数近く片付けたところで更に援軍が来ましたが、一人だけ明らかに違う男が混ざっていました。
 一人の冒険者がその男へ剣で斬りかかっていましたが、男はあっさりと受け止めるどころか、持っていた剣で逆に冒険者を斬り捨てています。
 あの強さ……どうやら敵の隊長格のようですね。
 こちらの戦力をこれ以上減らされるわけにはいかないので、僕はその男を先に仕留めようと駆け出しました。

「これ以上はやらせませんよ!」
「うおっ!? や、やるじゃねえか!」
「貴方こそ僕の剣をよく受け止めましたね。ですが……」

 シリウスさんやレウス君に比べれば遅すぎます。
 男は僕の剣を数回は受け止めていましたが、徐々に速くなっていく剣速に対応できず、打ち合いのすえに僕の剣が男の体を斬り裂きました。

「馬鹿……な。俺が……」
「ふぅ。次は……」
「よーし、さっさと壊せ! 人質を取っちまえばこっちのもんだ!」
「休んでいる暇はなさそうですね!」

 男に少し手間取っている間に、数人の海賊が船室への扉を壊そうとしていました。
 おそらく非戦闘員を人質にとって僕たちの動きを鈍らせるつもりでしょうが、させるわけにはいきません。
 僕は船室の扉に斧を振り下ろそうとしている海賊へ背後から迫ったその時ー……。


「やかましいわぁっ!」


 突然船を揺るがすほどの大声が響いたかと思えば、船室の扉が衝撃波によって吹っ飛びー……いえ、粉々になっていました。
 扉の内側から放たれたと思われるその衝撃波は、斧を振り降ろそうとしていた海賊も巻き込み、遥か上空へ飛ばされて海に落ちていました。
 その光景に敵味方関係なく呆然とする中、船室から僕が見上げる程に大きなお爺さんが、自身の身長はあろう大剣を片手に現れたのです。

「て、てめえの方がうるせえんだよ! この爺がぁ!」
「じゃから、やかましいわい!」

 近くにいた海賊がお爺さんへ剣を振るいましたが、お爺さんの手首がぶれたかと思えば海賊は振り下ろした剣ごと真っ二つになっていました。ついでに船にも大きな切断跡がくっきりと残っています。
 あんなにも大きい大剣を軽々と振るって……もしかしてこのお爺さんが?

「ぬう……人がせっかく気持ち良く寝ておったのに、一体何事じゃ!」

 いえ、何者かは一時置いておきましょう。
 何故なら……このお爺さんは非常に機嫌が悪そうだからです。
 どう見ても寝起きを邪魔されて苛ついているようにしか見えないのに、その威圧感と殺気から神の怒りに触れたような恐ろしさを感じます。下手な事を言えばあっさりと真っ二つにされるでしょう。
 今まで感じた事のない迫力に思わず唾を飲んでいると、お爺さんが僕に顔を向けてきました。

「そこの小僧! 敵じゃなければどうなっておるか説明せい」
「どうなっている……とは?」
「この海賊らしき連中は何じゃ?」
「えーと、彼等は本物の海賊で、現在この船は襲われているんですけど……」
「ふむ……あの頭に布を巻いているのが海賊なんじゃな?」
「その通りかと……」

 このお爺さんには逆らっては駄目だと、僕は本能的に悟っていました。
 そして今の僕がどうやっても……例え僕が何人いようと絶対勝てない相手だとも……。

「くぁ……面倒じゃのう。おい、そこの小僧。腕に覚えがありそうじゃからここを守っておれ」
「は……はあ……」

 僕の返事も聞かず、お爺さんは欠伸をしながら海賊船に向かって歩き出しました。
 当然、そんな堂々と歩くお爺さんを海賊が見逃す筈がありません。殺気と威圧感で呆けていた海賊が次々と正気を取り戻してお爺さんへ襲いかかっていますが……。

「邪魔じゃ! そんなに急かさんでもすぐ行くわい!」

 海賊が六人同時に飛びかかっていますが、再びお爺さんの腕が振るわれたかと思えば……六人の海賊たちは全員真っ二つになりながら海へ落ちて行きました。
 辛うじて見えましたが、おそらく剣を振った回数は……三回ですね。
 まず横へ薙いで迫った海賊の半分を斬り捨て、その切り返しで残りを斬り、最後に大きく振り回すと同時に風圧を発生させて吹っ飛ばしていたようです。
 ……もはや出鱈目としか言えませんね。
 呆気にとられながらも海賊を斬っている内に、お爺さんは海賊船に一人で乗り込んでいました。

「お、おいおい!? あの爺さん何をやってんだよ?」
「放っておけ! 爺さんを心配してる場合か!」

 その行動に周辺で戦っている冒険者たちが呆れています。
 その呆れる気持ちはわからなくもないですが、もしあのお爺さんが僕の想像通りの人なら……むしろこっちの船にいる方が危険な気がします。
 あまりにも力と剣の勢いが強過ぎて、海賊を斬る度にこちらの船も傷ついていますからね。このままだと海賊が全滅する前に船が沈みそうですし。

 お爺さんが海賊の船に乗り込むと同時に敵の援軍も止まったので、僕たちはこちら側にいる海賊たちを倒して一息吐いていました。
 ですが向こうの船にはまだ海賊が残っている筈です。
 他の冒険者に守りを任せ、僕だけお爺さんに続いて海賊船へ飛び移りましたが、そこに広がっていた光景は…………もはや災害でした。

「ぬおおおおぉぉぉぉ――っ!」
「「「ぎゃああああぁぁぁ――っ!?」」」

 五十人近くの海賊に囲まれていたお爺さんが剣を振る度に、海賊は斬り飛ばされ、宙を舞い、吹っ飛ばされては海へ沈んでいます。

「せっかく気持ち良く眠っておったのに、貴様等のせいで目が覚めたじゃろうがああぁぁぁ――っ!」
「し、知らねえー……ぐああぁぁっ!?」
「助けー……がはっ!?」
「わしに斬られて魚の餌になるか、自ら海へ飛び込んで魚のえさになるか選べい!」
「どっち選んでも死ぬだろぉ!?」

 予想通り、お爺さんが剣を振る度に船も壊れていますね。
 放っている言葉も八つ当たりみたいですし、もはやどっちが悪者かわかりません。

「魔法隊、船が壊される前に仕留めろ! 一斉に放てぇ!」
「温いわっ!」
「なっ!? どうなってんだ!?」
「もう一度ー……がっ!?」

 幾つも放たれた魔法を全て斬り払うどころか、驚いている間に接近して更に海賊を薙ぎ払っていました。
 倒されるというより蹂躙されている現状に海賊も本気を出してきたようで、船室から僕がさっき戦った男より強そうな相手が四人も現れたのです。
 その中でお爺さんと同じ大きさの斧を持つあの男……遠くからでも感じる威圧感と殺気からしてあの男が敵の大将みたいですね。

「ブ、ブラック船長! 助けてー……ああぁぁっ!?」
「ちっ……あいつが戻ってこないかと思えばこの様かよ。おい、そこの爺!」
「ぬおおおおぉぉぉぉ――っ!」
「爺! 聞いてんのか!」
「ぬりゃあああぁぁぁ――っ!」
「無視してんじゃねえ! 聞かねえなら構わねえ、全員でやっちまえ!」

 相手が呼び掛けているのに、お爺さんは完全に無視して海賊たちを斬り続けています。
 その様子に痺れを切らしたブラックが指示を出せば、暴れ回っているお爺さんへ周囲に控えていた三人が迫っていました。
 ブラック程ではないでしょうが、あの三人も相当な実力を持っていそうです。
 ですが……。

「俺たちは海賊ブラックの四天王、槍のジオー……」
「じゃから何じゃ!」

 槍を構えた男は槍ごと真っ二つに斬られ……。

「なっ!? おのれ、こうなれば俺の斧でー……」
「喋ってる暇があったら、斬ってこぬか!」

 ブラックとは違う、大きな斧を振り上げた男は振り下ろす前に斬られ……。

「背後ががら空きー……」
「遅いわぁ!」

 背後に回り込んでいた男は、それより速く振り向いたお爺さんによって斬られています。
 自分たちを四天王と名乗る仰々しい連中でしたが、恐ろしい程あっさりと片がつきました。
 その圧倒的な光景に他の海賊たちが怯え始める中、ブラックだけは不敵な笑みを浮かべています。

「へぇ、やるじゃねえか爺さん。一人で乗り込んできただけはあるな」
「ふむ……お主は他の雑魚とは違うようじゃのう」
「当たり前だろ。俺の名前はブラック。巷では剛腕のブラックと呼ばれているんだが……知らねえのか?」
「知らんわい」

 お爺さんはどうでもいいとばかりに返事していますが、剛腕のブラックなら僕も知っています。
 ギルドでも多少有名な上級冒険者の一人で、ある日を境に姿を消してそれっきりでした。ですが、まさかこんな所で海賊をやっているとは思わなかったですね。
 更にあの男が持つ巨大な斧は最も重いと言われる鉱石……グラビライトで作られているらしく、あの大きさを考えるとお爺さんが持つ剣より重いでしょう。
 つまりそれほどに重い斧を軽々と振り回す点から、剛腕という呼び名が付いたそうです。

「知らなければいいさ。そういうあんたはもしかして剛剣ー……」
「わしはイッキトウセンじゃ!」
「へ、まあ名前なんてどうでもいいか。とにかく俺は力なら誰にも負けねえ自信がある。例え爺さん相手でもな。だからよ、いっちょ力比べしねえか?」
「ほう……堂々としておるわ。いいじゃろう、受けてたとうではないか」

 そして同時に構え、お互いに全力で武器を振るっていました。
 噂によるとブラックは剛剣を越える力を持つと言われ、その噂通りブラックの振るう斧はお爺さんに負けない速度で振りおろされていました。
 僕なら迷わず回避を選択する一撃ですが、お爺さんは僅かに遅れて剣を振るい……。

「……は?」
「力だけは上かもしれぬが……」

 ブラックの武器もですが、あのお爺さんが持つ武器もグラビライト製と聞いています。
 ほぼ同じ力、そして同じ材質の武器がぶつかれば激しい衝撃と轟音が響くものですが、武器がぶつかって聞こえたのは遠くの海に何かが落ちる音だけでした。
 お互いの武器を振り切ったお爺さんとブラックを見れば、ブラックの武器だけ刃の部分が綺麗に切断されていたのです。

「じゃが……武器に頼り切った動きじゃのう。剛破一刀流とは力だけでなく、己の気合と意志で振るうものじゃからな」
「ま、待て!? 勝負は俺の負けー……」
「命乞いとは何事じゃあ! ぬおおおぉぉぉ――っ!」

 お爺さんは容赦なく剣を振り下ろし、ブラックを真っ二つにしていました。
 一見酷く見えますが、あれは僕でもありえませんね。向こうから勝負を挑んでおきながら、負ければ命乞い……戦いに対する覚悟も圧倒的に足りなかったようです。

 こうして海賊の頭であるブラックは倒したのですが……別の問題が生まれていました。

「に、逃げろ!」
「退避ーっ! 倒れるぞぉ!」
「ふむ……やり過ぎたわい」
「冷静に言っている場合ですか!?」

 ブラックを斬った余波で、帆船の中心でもあるマストも斬ってしまったからです。
 海賊船ですから別に構わないのですが、倒れる方向が悪く、僕たちが乗っていた船に被害が及びそうです。
 陸から遠い海ですし、僕たちの船まで壊してしまうわけにはいきません。

「少しでも逸らせれば……」

 シリウスさんに負けて以来、二つの剣を自在に回せるように力も鍛えてきました。
 マストが倒れる前に側面から一撃を与えればー……。

「衝破……斬!」

 シリウスさんとレウス君の戦いを見て思いついた一撃に特化した技です。
 二つの剣を重ねてぶつける衝撃を受けた事により、倒れる方向が僅かに逸れたマストは僕たちの船に当たらずに済みました。

「ふぅ……危なかった」
「ほう? 面白い技を使うのう……」

 獲物を狙う猛獣のような視線にはぞっとしましたが、敵の頭を倒した事によって残った海賊たちは完全に戦意を喪失しています。お爺さんの圧倒的な実力に怯えているとも言えますが、とにかく解決ですね。
 もはや幽霊船と呼べそうな海賊船を後にして僕たちの船に戻れば、船員や冒険者たちが勝利を喜び勝ち鬨を挙げていました。
 僕たちに賛辞の声が向けられるのですが、お爺さんだけは適当に手を振りながら船室へ戻ろうとするので、僕は慌てて追いかけます。

「あ、あの! お爺さんはー……」
「む? 話なら後にせい。わしは忙しいからのう」
「そ、そうですか。では後で時間をいただけませんか?」
「ふむ……ならば船が町に着いたら起こしに来い。わしは眠い!」

 い、忙しいって……それですか。
 ですが起こしに来いと言ってくれた点から話を聞いてくれそうですし、船の上なら消えるなんてありえないでしょう。
 船室へ消えるお爺さんを見送り、僕は船長か船員に詳しい状況を説明しようとしたところで、突然船が大きく揺れたのです。

「ど、どうした!?」
「見ろ、連中の船が!」
「何か出てくるぞ!」

 海賊船の周囲から激しい水柱が上がったかと思えば、無数の何かが飛び出してきて船を襲っていたのです。
 それはこちらの船まで伸び、近くの船員に巻き付いて海へ引きずりこもうとしていました。

「ど、どうなってんだこりゃ!?」
「くそ、離れねえ!」
「させませんよ、幻閃!」

 幻流剣げんりゅうけんの基礎……剣が複数に見える速度で振るわれる技で、伸びてきた無数のそれを一気に切断しました。
 そこで巻き付いたものが何かの触手と判明したところで、先程以上に大きな水柱が上がってそれは現れました。

「でけぇ……何だあの化物は?」
「ゲルスキュラだと!?」
「何ですかそれは?」
「今まで多くの船を沈めた、俺たち船乗りにとって悪魔の魔物だ。けどもっと大陸から離れた海じゃねえと現れねえのに……何でこんな場所に?」
「多分……血だ。海に沈んだ海賊たちの血が呼び寄せたのかもしれねえ」

 無数の触手を伸ばして海から海賊船に上がった巨大な軟体生物は、その巨体を海賊船の甲板に晒していました。
 何て大きい……もはや船とほとんど同じ大きさですね。
 流石にこの大きさは手に負えません。船員もそれを理解しているのか、海賊船から離れようと舵とマストを動かしていました。
 どうやら魔物は海賊船に残った死体に夢中のようなので、下手に刺激をしなければ……。

「化物がぁ!」
「俺の魔法で焼いてやる!」

 しかし魔物の巨体を見て冷静さを失ったのか、数人の冒険者が炎の魔法を放っていたのです。
 おそらく中級魔法の『火槍フレイムランス』でしょうが、そんな魔法が通じる筈もなく、逆に気を引いてしまい再び触手が僕たちに襲いかかってきました。

「馬鹿野郎! 何をやってんだ!」
「だ、だって……」
「話は後です! 触手を斬って時間を稼いでください!」

 とにかく今は逃げの一手です。
 触手に掴まって船ごと引きずり込まれないよう、僕たちは伸びてくる触手を切断し続けていました。
 ですが幾ら斬っても触手は伸びてきて、余りの数に押し切られそうになったその時……背後から激しい足音が響いてきました。


「じゃから……やかましいと言っておるじゃろうがぁ!」


 もはや振り返る必要もありません。
 船内から走ってきたお爺さんは僕たちの頭上を飛び越え、海賊船の甲板に陣取っている魔物へと迫っていました。
 無謀だと叫ぶ船員や一部の冒険者から期待の声が挙がる中、お爺さんは剣を振りかぶり……。

「剛破……一刀じゃあああぁぁぁ――っ!」

 咆哮と共に剣が振り降ろされれば、魔物が……船が……そして海までも真っ二つにしていました。

 そして二つに分断された魔物と船は、同じく分断された海に沈み……後には船の残骸と切断された触手が残るだけです。
 僕を含め、その光景を眺めていた全ての人たちが呆然とする中、残骸を足場にして船に戻ってきたお爺さんは呟きました。

「おのれ……完全に目が覚めてしもうたわい」





 それから船は順調に進み、ようやく目的地であるアドロード大陸の港が見えてきました。
 人も船もかなりボロボロですが、人々は喜びの声を挙げています。
 しかし誰が見ても英雄であったお爺さんはあまりの強さに恐れられ、一部の者を除いて近づく者はいませんでした。この船には強さに憧れる者が少ないようですね。
 お爺さんは一人寂しく甲板に立って海を眺めていたので、僕は近づいて声を掛けていました。

「あの……お爺さん。皆さんは怖がっているだけで、嫌いなわけじゃないですから。気にしない方が良いですよ」
「何を言っておるんじゃ小僧? わしはあの魔物が美味いんじゃないかと思っておっただけじゃ。珍しい魔物じゃし、触手くらい拾っておけばよかったわい。惜しい事をしたもんじゃ」
「…………」

 ……うん。
 この人はこうなんだと思って気にしない方が良さそうです。
 とにかく気持ちを切り替えましょう。もう眠いと口にしていませんし、今度こそ目的が達成できそうです。
 まずはお爺さんの弟子と思われるレウス君の話題から入り、話の切っ掛けを作ろうと思っていると、お爺さんは僕に顔を向けてきました。

「小僧。お主の剣じゃが……もしや幻流剣かのう?」
「あ……そうです。僕の父は……剣聖です」
「……そうか、やはりな」
「貴方は剛剣ライオル様ですね?」
「……そうじゃ。しかしわしはもう剛剣ライオルではない。イッキトウセンという、強さを追い求めるただの爺じゃよ」

 ライオルさんは自分はある男に負けたのだと、何故か自慢げに語りながら笑っていました。
 冗談と言いたいところですが……何故か納得も出来ます。戦ったからこそわかるのです。
 きっとライオルさんはシリウスさんに……僕じゃあ勝てないわけですね。
 なのでシリウスさんの名前を出せば興味を示したので、僕は闘武祭であった出来事を全て語りました。

「彼奴め……勝手に喋りおって」
「いえ、僕が教えてほしいと頼んだんです。それで僕にも父の最後を教えてー……」
「ちょっと待つのじゃ、その前に聞きたい事がある」
「何でしょうか?」

 僕の質問を遮ってまで聞いてきたので、相当重要な事なのでしょう。

「彼奴の近くにいた、銀狼族の女の子は元気そうじゃったか?」
「……女の子? 男のレウス君では?」
「あの小僧はどうでもいいわい。エミリアという、可愛い孫のような女の子の様子はどうじゃったと聞いておる」
「……えーと、元気そうでした。シリウスさんの恋人らしく、べったりでしたけど」
「そうか、元気そうなら良いんじゃ。しかし……彼奴の恋人か。彼奴なら問題ないじゃろうが……エミリアと一緒で羨ましいのう!」

 ……何で、エミリア?

 謎は多いですが、こうして僕は剛剣ライオル……改め、イッキトウセンと会う事が出来たのでした。

おまけ

 勘違い、ベイオルフ君


「あの……エミリアという子はまだ若いですし、流石にトウセンさんの年齢ではちょっとー……」
「小僧。まさかわしが少女趣味と思っておるんじゃなかろうな?」
「い、いえいえ! そういうわけでは……」
「本当か? 微塵も思っておらんな? 正直に言わんと……斬るぞ」
「………………ちょっとだけ思いました」
「よし、小僧の実力を見る為に模擬戦をするぞ。どっちかが死ぬまで終わらんからな」
「死ねって事ですか!?」






※好き放題に書いたので……幾つか補足説明。



・剛破一刀流・剛破一刀

 現状、剛破一刀流の奥義に分類される究極の技。
 簡単に説明するなら剛天と同じくただの振り降ろしだが、剣に込めた魔力と気合と意志が異常な剣閃を放ち、数百メートル前方までぶった斬る。
 見た目は、レーザーを振り下ろしている感じ。
 現時点ではそんな感じですが、まだ発展途上なのでこれから更に進化する……かもしれない。




・ライオルが眠い理由

 盗賊をぶっ飛ばして稼いだ金で、港町で飲んで食って騒ぎ、ほとんど徹夜状態で船に乗り込んだから。




・ライオルの起こし方

 下手に近づいて起こせば警戒して剣を振ってくるので、剣が届く範囲に入らない。
 遠くから大きく呼びかけ、棒か何かで突くのが良策である。
 偶に衝撃波を放つ衝破も放ってくるので、巻き込まれたら諦めましょう。
 基本的に自由な爺さんなので、寝たい時に寝させて自然に起きるのを待つのが吉。
 例外として、エミリアが声をかければ安全に起こせるそうな。




・ブラック

 冒険者ギルドで結構有名な上級冒険者だったが、己の力に過信して調子に乗り、冒険者の頃から仲間だった四人と一緒に海賊となる。
 それだけ傲慢な事を出来る力を持っていて、純粋な力だけなら実はライオルより上である。
 しかし技術や気合、意志に覚悟と足りないものだらけだったので、ライオルに破れ斬られる。




・ブラック四天王

 ブラックの冒険者時代からの仲間。
 仰々しい呼び名だが、全員中級冒険者並に強い。


 槍のジオー……。(名前、最後まで語られず)
 凄まじい槍捌きを持つ男だが、ライオルに斬られ……合掌。


 斧を持ってた男。(名前語られず)
 ブラックの弟分。しかし長い口上の間にライオルにー……以下略。


 ライオルに背後から迫ったー……以下略。
 ナイフによる奇襲が得意だったが、やっぱりライオルにー……以下略。


 ベイオルフに斬られた隊長格。
 以下略。




・ゲルスキュラ

 見た目のイメージは、足が無数に生えたクラーケン……イカです。
 数え切れない無数の足と、速い再生能力を持つが、ライオルの剛破一刀で核を斬られて仕留められる。
 一匹だけでは無く、同類がほんのちょっぴり世界のあちこちにいます。






 今回の閑話ですが……好き勝手に作りましたので滅茶苦茶な内容になりました。
 化物斬るだけならいつも通りですが、創作物でよく見られる四天王をまるで消耗品の如く使っていますし。

 そして魔物を斬って英雄みたいですが、実際ライオルが海賊を斬りまくったせいで魔物が現れたので、ライオルが原因でもあったり。
 でも知ったこっちゃない。
 それがライオルイズム。





 これで今年最後の投稿になると思います。
 作者にとって今年は夢だった書籍化が実現したりと、何とも濃い一年でした。
 読んでくださった皆さんの応援があってこそ頑張ってこれたので、本当にお世話になりました。

 それでは、良いお年を。



 次回の更新ですが……新年で色々とありそうなので、来年の1月5日から7日の間になると思います。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ